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連載臨床医学の現在 ( プライマリ ケアレビュー ) 図 1 DSM- Ⅳ -TR による認知症診断基準の要約 A. 多彩な認知障害の発言. 以下の 2 項目がある. 1) 記憶障害 ( 新しい情報を学習したり, 以前に学習していた情報を想起する能力の障害 ) 2) 次の認知機能の障害が 1 つ以上

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Academic year: 2021

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認知症の診断と治療

横林 賢一

横林 賢一(よこばやしけんいち) 広島大学病院 総合内科・総合診療科  

(〒 734-8551 広島県広島市南区霞 1-2-3 Tel. 082-257-5461 E-mail [email protected]

【要旨】 ・わが国における 65 歳以上の認知症の有病率は約 8%と高く,今後も増加すると推定されている ・プライマリケアセッティングにおいて,通常の病歴聴取と身体診察のみでは 50%以上の認知症患 者が見逃されていると報告されている ・認知症を評価する際には,中核症状・BPSD の評価に加え,ADL・IADL・AADL やサポート状 況等も確認する必要がある ・認知症の診断では,認知症と鑑別すべき病態の除外,治療可能な認知症の診断と,認知症を呈す る頻度の高い疾患(アルツハイマー病,脳血管性認知症,Lewy 小体型認知症)の特徴について知っ ておくことが大切である ・治療の際,薬物療法を開始する前に,患者の「その人らしさ personhood」を維持するケアやリ ハビリテーションの介入を考慮しなければならない ・患者のみならず,家族などの介護者のケア・サポートも並行して行なう必要がある Key Words:中核症状,BPSD,アルツハイマー病,脳血管性認知症,Lewy 小体型認知症, personhood はじめに  認知症は「一度正常に達した認知機能が後天的な脳 の障害によって持続性に低下し,日常生活や社会生活 に支障をきたすようになった状態」をいう1).わが国 における 65 歳以上の高齢者の認知症の有病率は約 8% と高く,今後も増加すると推定されており,認知症を 呈する疾患では,アルツハイマー病が最も多く,次い で脳血管性認知症,Lewy 小体型認知症の頻度が高い と報告されている1).認知症の症状は,中核症状と

BPSD(Behavioral and psychological Symptoms of Dementia:行動・心理症状のこと.周辺症状ともい われる)からなる.中核症状は認知機能障害,すなわ ち,認知症の診断基準(図1)にも挙げられている記 憶障害や失語・失行・失認・遂行機能の障害を意味す る.BPSD には行動異常と心理症状があり,行動異常 として攻撃性,不穏,焦燥性興奮,脱抑制等が,心理 症状としては不安,うつ症状,幻覚,妄想が挙げられ る.認知症を評価する際,中核症状のみに焦点が当て られる傾向にあるが,わが国の全認知症患者における BPSD の合併率は約 80%と高率であり1),BPSD は本 人のみならず周囲の家族を悩ませる大きな要因となっ ているため,必ず評価しておく必要がある. 診断のアプローチ  認知症では,近時記憶障害(新しい情報を 3 ~ 4 分 間保持しておく能力の障害)や見当識障害(人や周囲 の状況,時間,場所など自分自身が置かれている状況 を正しく認識できない状態)が初期よりみられること が多く,「同じことを何度も聞く」「内容だけでなく事 象自体を忘れる」「新しいことを覚えられない」「よく

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行っていた場所に行けなくなる」などの症状を呈する 2)3).一方で,患者自身の病識は欠如していることが多 く,しばしば物忘れを否定したり,失敗を人のせいに したりする.そのため,本人よりも心配に思った家族 の勧めで受診にいたるケースも多い.  認知症が疑われた場合の診断のアプローチ(図2) のポイントは,認知症と鑑別すべき病態の除外,治療 可能な認知症の診断と,認知症を呈する頻度の高い上 記3疾患の特徴について知っておくことである.実際 のアプローチでは,まず本人や家族からの病歴聴取に より,中核症状や BPSD を確認する.次いで Mini-Mental State Examination (MMSE)や改訂版長谷川 式簡易知能評価スケール(HDS-R)を行ない,認知症 の状態を点数で把握する.一般に MMSE23 点以下, HDS-R20 点以下で認知症の疑いとする1).正常範囲の

点数であっても,認知症の前駆状態を意味する軽度認 知症 mild cognitive impairment(MCI)という概念 が近年では注目されており,年間当たり MCI の約 10%が認知症に進展する(コンバートする)ため,注 意が必要である1).次に,注意深い病歴聴取・身体診 察や血液検査(血算,血糖,電解質,肝機能,腎機能, 甲状腺機能,ビタミン B12 など2))により認知症と鑑 別すべき病態の除外や,治療可能な認知症の診断を行 なう.CT や MRI などの画像検査は,正常圧水頭症,  また,状態を包括的に評価し介入すべき問題を把握 す る た め に,CGA(comprehensive geriatric assessment: 高齢者総合的機能評価,以下 CGA)を行 う こ と も 重 要 で あ る. 患 者 の ADL(Activities of Daily Living 日常生活動作:着替え,食事,移動・歩行, 排泄,衛生(入浴)),IADL(Instrumental ADL 道 具的日常生活動作:買い物,掃除,金銭管理,炊事, 乗り物を利用した外出),AADL(Advanced ADL 高 度日常生活動作:趣味,仕事,生きがいなど)の評価, そして Geriatric Giants(老年医学の 4 巨人:認知症, うつ,尿失禁,転倒)の評価を行う.さらに,サポー トしてくれる同居家族等の把握,利用しているサービ ス内容も含めた介護度の確認も並行して行う4).高齢 者の初期評価としての CGA を覚えやすくコンパクト にまとめた sCGA につき図 3 に示す(横林賢一,佐 藤健太らが作成). 治療のアプローチ  認知症と診断されたら,認知機能(中核症状)向上 と BPSD の低減を目標にケアや治療を行なう1)4).認 知症の治療では,薬物療法を開始する前に,適切なケ アやリハビリテーションの介入を考慮しなければなら な い. ケ ア の 原 則 は「 患 者 中 心 の ケ ア person-centered care」とされ,「その人らしさ personhood」

図1 DSM- Ⅳ -TR による認知症診断基準の要約 A. 多彩な認知障害の発言.以下の 2 項目がある.  1) 記憶障害(新しい情報を学習したり,以前に学習していた情報を想起する能力の障害)  2) 次の認知機能の障害が 1 つ以上ある:   a. 失語(言語の障害)   b. 失行(運動機能は障害されていないのに,運動行為が障害される)   c. 失認(感覚機能が障害されていないのに,対象を認識または同定できない)   d. 遂行機能(計画を立てる,組織化する,順序立てる,抽象化すること)の障害 B. 上記の認知障害は,その各々が,社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし,また, 病前の機能水準からの著しい低下を示す. C. その欠損はせん妄の経過中にのみ現れるものではない. (引用文献 1) の p2 表 3 を参考に著者作成)

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図 3 CGA の覚え方:sCGA(start-up CGA)  S : Support(サポート)・・公式サポート(介護保険状況),非公式サポート(家族,友人)  C : Cognition(認知機能)・・MMSE/ 長谷川式,BPSD の評価  G : Geriatric Giants(老年医学の巨人)・・上記認知症+うつ,尿失禁,転倒  A : ADL,IADL,AADL の人の心の表現」と解釈し,本人の意図するところ・ 訴えたいことを把握し,本人の立場で対応すると結果 的に BPSD の軽減につながる.  リハビリテーションは,認知機能や生活能力,生活 の質(QOL)の向上を目的とする.認知症における 遵守すべきリハビリテーションの原則として,①快刺 激であること②他者とのコミュニケーション③役割と 生きがいの賦与④正しい方法を繰り返しサポートする こと,の 4 つがあげられる.  認知機能障害に関する薬物療法としては,特にアル ツハイマー病や Lewy 小体型認知症においてコリンエ ステラーゼ阻害薬(ドネペジル)が有効であり,認知 機能の改善や進行を抑制する効果がある1).BPSD に 対する薬物療法は,薬物を使用する前に,まずその発 現に関連する因子や増悪・改善要因を評価し,各個人 に適合したケアプランを作成・実施した上でも改善無 く,BPSD が高度で患者や周囲に危害が及ぶ危険性が ある場合に薬物療法(リスペリドンなど)を考慮する. 高齢の認知症患者では,薬物による過剰反応や有害事 象が生じやすいため,若年者の用量の 1/2 ~ 1/4 量程 度の少量で開始し(small),数日~数週間の短期間で 薬効を評価し(short),1 日 3 回ではなく 1 日 1 回な ど 服 薬 方 法 は 簡 易 に(simple) す る(3S). 特 に Lewy 小体型認知症ではリスペリドン等による過敏反 応(錐体外路症状や BPSD 等の増悪)を生じやすい ため注意が必要である.  また患者のみならず介護者の支援も重要である1)4) 認知症患者の介護に派生する心身,社会,経済的な介 護負担は,介護の精神面(主観的な負担:心配,不安, フラストレーション,疲労等)と生活全般における次 元(客観的な負担:患者の示す諸症状あるいは介護者 が経験する困難に関連して生じる出来事・活動)とに 二大別される.介護支援は介護者の心理状態を良くし, 家庭医の役割  プライマリケアセッティングにおいて,通常の病 歴聴取と身体診察のみでは 50%以上の認知症患者が 見逃されていると報告されており5),認知症が疑われ る患者に対して家庭医が積極的に診断のアプローチを 行ない,早期にケア・治療介入を行なうことで,より 多くの認知症に苦しむ患者・家族をサポートすること ができる.また,認知症のケア・治療は,患者・家族 を中心に様々な医療・介護資源を活用しながら行なっ ていくものであるため,患者・家族・地域を包括的・ 継続的に診療する家庭医の存在は必須である. 紹介するタイミング  認知症が疑われた際,認知症の病型を確定するため に神経内科・精神科などの認知症専門外来に紹介を考 慮する3)4).急速に進行する認知症,若年発症の認知 症や前頭側頭型認知症・進行性核上性麻痺など特殊な 認知症が疑われる場合は必ず紹介する3)6).経過中, BPSD のコントロールが困難な場合や診断時の病型に 合致しない症状が出現した場合も認知症専門外来に紹 介する6) まとめ  認知症の有病率は高く,患者,特に家族にとって大 変な負担がかかる病態であるにも関わらず,患者が隠 す傾向にある,家族も恥ずかしくて受診しない,医師 が見逃しているなど様々な要因により多くの認知症は 診断に至っていない.医師は通常の診療において,認 知症を疑うサインを見落とさないことが重要である. 評 価 に 際 し て は 中 核 症 状・BPSD や ADL・IADL・ AADL を含む患者の状況,家族・介護サービスなど のサポート体制を把握し,患者の「その人らしさ personhood」を維持するケア・治療を行なう.介護

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引用文献

1) 日本神経学会監修 . 認知症疾患治療ガイドライン 2010.「認知症疾患治療ガイドライン」作成合同委員 会編 , 医学書院 ,2010,382p.

2) Adelman, A. A.; Daly, M. P. Initial evaluation of the patient with suspected dementia. Am Fam Physician.2005,vol.71,no. 9,p.1745-1750.

3) 中川正法 .“認知症 .”ガイドライン外来診療 2010, 泉孝英編 , 日経メディカル開発 ,2010,p.394-403.

4) Cummings ,J. L.; Frank, J. C. et al. Guidelines for managing Alzheimer’s disease. Am Fam Physician. 2002,vol.65,no.11,p.2263-2272.

5) Boustani, M,; Peterson, B. et al. Screening for dementia in primary care: A summary of the evidence for the U.S. Preventive Services Task Force. Ann Intern Med. 2003,vol.138,no.11,p.927-937. 6) Santacruz , K. S,; Swagerty , D. Early diagnosis of d e m e n t i a . A m F a m P h y s i c i a n . 2001,vol.63,no.4,p.703-713.

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