英米文学教室 岡
犬 に肉 を与 える と唾液 を分泌す るが
,ベ
ル を鳴 らし繰 り返 し与 える と,ベ
ル音 だけで唾液 を分泌す る反射 が形成 され る。 よ く知 られてい る
Pavlovの
「条件反射J(conditional renex)で
ぁ る。食 欲 をそそ る肉 に対 して
,唾
液 を分 泌 す る こ とは当然 として,本
来何 の素 気 もな いベ ルが,肉
と同 じ反射 を犬 に引 き起 こす ところが面 白い。 唐 突 な出だ しだが,こ
の説 とHemingway文
学 の 結合 の 糸 口 には結構 な る。雨 のイメイジを摘 出す る と,そ
れ は本来 中性 で あ るため,さ
まざ まなイメイジを換起 し, T力ι Gα滋 ん%ヮ 捻 ルslを 例 に とるな ら,草
木 の根 に水分 を与 え,開
花 させ るいわ ば生命 の水 ともい えるが,そ
れ と反対 に条 件 づ けいかんで は,雨
と死 の結合例 が文学 にあ って も,不
思議 で はな い こ とに な る。■n麗
″ι〃ゎ 4″η夕,s(以下nttη
ι〃 と略 す)で は,雨
と死 の結合例 が頻 出す るた め,そ
の終結部 で,「I Went dOwn the hall and then down the stairs and out the door of the hospital and down the dark street in the rain to the cafё."2とな る と,Catherineの
死 を読者が確 実 に想像 す る。事実 Catherineは 死去し
,彼
女 の死後Henryは
雨 の 中 を歩 くとい う具合 だ。す る とPavlovのベ ル と肉の関係 が,こ
の作 で 雨 と死 の それ として成立 す る。 また それ には犬 の唾液 の分泌の ご と く,雨
が読者 に与 える反射 が 当 然期 待 され るはず だ。分泌 され た唾液 の総体 を まめに描写す るの も文学 な ら,その一部 を記 述 す る, また全然叙述せず読者 の想像 に委 ね る もの も文学 で あろう。 この仮定 を押 し進 めて,二
匹 の犬 を想定 す るこ ともで きよ う。二 匹の犬 に異種 の刺戦 を与 えて, 一 匹の犬のみ実験者が観察,そ
れ を記録 す る とす る。す る と読者 はその大 の観 察報 告 を理解 し,同
時 に気 の きいた読者 か ら,未
報 告 の犬 の反射 につ いて も思 い巡 らす こ とにな ろ う。 筆 者 が論 じよう としてい る空 間 の概 念 お よび種類 が ここに出揃 った ことにな る。反射 の部分 的叙 述 また は完全 な欠如 の もとで は,存
在 すべ き反射 の全容 を,仮
に「空間」 と名 づ ける叙述以外 の場 に も想定 せ ざるを得 ず,そ
れ を読者 が想像力 で補足 しなけれ ば十分 な読 み とはいえず,時
には作品 の存立 を危 な くしかね まじき ものだが,そ
れ を ここで 「読者 の空間Jと
定 義 した い。 す る とその種 類 は一部 の反射 の叙述 のみで他 は想像力 の補完 に委 ね られ る「第一 の読者 の空 間」 が ある こ とにな り,反
射 が一切叙 述 され ない「第二 の空 間」、関心 の対象か ら外れ たか に見 え る未報告 の反射 が産 む 「第 二空 間Jも
あ る こ とにな る。 勿 論Pav10vの
実験 の対象 は犬 であ り,い
か に もス トレー トなその生理 的反射 で あ る。繊細,微
妙 な心理 の髪 を幾重 に ももつ人 間 の,時
に は率直 な,時
には屈折 した反応 で はない。 また その素材 は肉だが,わ
れわれ はその種類,鮮
度,料
理 の仕方,そ
の場 の雰囲気,空
腹 の か げん等 さ まざ まな 条件 下 で,多
様 な反応 を示 す もの だ。 しか し人 間 も所詮動物 であ る以上,似
通 った条件下 で は,あ
る刺戟 に対 して,あ
る共通性 を持 つ反応 は示 す。 そ こに「読者の空間」 が依拠 す る根拠が生 じる こ 明 俊 不寸岡村俊明 :充 浴せ る読者 の空間 とになる。例 えば最愛の者の突然の死 は
,人
を悲嘆の どん底 につ き落 とす。死のみ提示 して,そ
の 人の反応が叙述 されていない場合 に も,そ の悲嘆 をわれわれは十分に想像できるものだ。 「読者の空間」はHemingwayに
照準を定 めて論 を進 めて きたが,無
論 どの文学 も程度 の差 こそ あれ存在する。 しか しHeminttvayほ
ど言葉のみでは語れぬ思いの丈 を,い
や言葉 による真情 の表 現 を極力忌避 し,「空間」に存分語 らせた作家 は稀 である。 それほど積極果敢な までに「空間」を利 用 したわけだが,そ
れは「充途せ る読者の空間」と称 して もよい ものである。良麗 ″ι〃か ら次 に具 体例 を挙 げ,詳
細 に検討 したい。1.「
第 一 の読者 の空間」 第 一章 は次 の叙述 で終 結 してい る。At the start of the winter came the permanent rain and Mrith the rain came the cholera.But it、vas checked and in the end only seven thousand died ofit in the army.3
これ は一見平板 だ。 しか し
,(But it was checked"で
成 功裡 に終結 した コレラ掃 討作戦 を読 者 が思い,等位接続詞眠and"の出現 で,当 然期待 され る作戦 の結果 を見 るべ きところに
,7千
人 の死 者 の提 示を認 め
,読
者 は度肝 を抜かれ るこ とになる。 しか も《only seven thousand"の TOnly"の附加 が一 際面白 い。圧巻 は しか し何 とい って も
,そ
れ以上 の何 らの コメ ン トを附与 せず,第
一章 を終 結 させ てい るHemittwayの
手腕 にあ る。 これ ほ どの叙述 には当然 コメ ン トがあ るべ きで,そ
れ が小 説家の腕 の見せ場 ともいえるが,読
者 の期待 に反 して,何
らな さない ところが,Hemingway特
有 の筆 の押 えで あ り,い
わ ばその直後 に位 置 す る「空間」 こそ,読
者 が想像 力 で補足 す る もので,ま
た意味 あ りとす る所以 であ る。 語 り手Henryに
とって所詮 赤 の他人 の死 で あ るか ら,つ
とに喧伝 されてい るHemingway独
特 の この種 の手法が用 い られ た とい う反論 が あ るや も知 れ ぬが,
これ は必ず しも当を得 ていない。 最終章 で は恋人 であ り,新妻 ともい える Catherineが,彼
の子種 を宿 し,陣
痛 の苦悩 に身心 を引 き 裂 かれ る。その さまをHenryは
っぶ さに見 て,神
に祈念 した こ とのない彼 に して も,最
後 は神 に訴 え る術 しかない。 その祈願 もむな し く彼女 は不帰 の客 とな るが,そ
の死 の下 りは参照 に値 しよう。It seems she had one hemorrhage after another.They couldn't stop it l l1/ent into the room and stayed with Catherine until she died She、 vas uncOnscious aH the time,and it did not take her very long to die.4
いか に も平板 だ。 それで いてわれわれの関心 をそそ るの は
,ま
ず《until"の書 き方 だ。実際 的 に も, 心理 的 に も路傍 の人 の死 は,時
間 の推 移 に応 じた漸次的消滅感 を与 える従位接続詞《until"の 存在 こ そ似 つかわ しい といえようが,Henryに
とってCatherineは是 が非 で もこの世 に繋 ぎ とめたい人 で あ り,わ
れわれ読者 に もその推 定 の理 由が十分 に与 え られ てい る。Catherineの
死 の一 瞬 は,万
物 の動 きが止 まる思 いのす る,そ
れ こそ劇 的一瞬 であ ろ う。 それが 「私 は病室 へ行 き,彼
女 が死 ぬ迄 そば に留 まって いたJと
は,白
痴 的無関心 に も似 た素気 な さだ。 しか も彼女 の死 の叙述 は これ き りdo to‐night?'"5と期 待 され る哀切 きわ ま りな い思 いの吐露 で はな く
,彼
の関心 は奇妙 に も死後 に処すべ き雑事 へ向 か って い る。平板 な死 の叙 述 と雑事 への コメ ン トの間 に一行 の ブラ ンクが あ るが,
そ こに こそ
Hemingwayは
Henryの
万感胸 に迫 る思 い を籠 めて い る とい ってよか ろ う。 この充 浴せ る「空間
Jは
この種 の叙述 の専売特許 で はな く,一
見無 味乾 燥 な客 観物ばObiect e correlat e"で も産 み出 され る。既 述 した その死 の直前
,激
しい陣痛がCatherineを 襲 うが,そ
の激痛 を麻酔 ガスで緩和 す る一 節が あ る。医者 に指 図 され る まま
,Henryは
その襲来 の度 毎 に吸引器 を2の
目盛 りに合 わせ ていた。その行為 を数 回繰 り返 したが
,つ
い にI turned the dial to three and then four.I wished the doctor would come back.I was afraid of the numbers above t、vo.6
と
,Henryは
4目
盛 りに上 げ るが,それで も彼女 の激痛 は緩和 され な い。彼 は極度 の不安 に慄 くが,それ を駅I Was afraid ofthe numbers above two"で す ませ て
,そ
れ以上 に筆 も加 えない。 当然期待され る叙述 が な く
,そ
の欠如 の重 み を4目
盛 とい う本来 な ら無味乾燥 な客観物 が支 えてい る。 この種 の客観物 が
,情
緒 の強 さ,そ
の後 に位置 す る「空間」 を充 浴 させ てい るが,こ
れ は「丸 太 の蟻Jを介 しての死 の不可避性 や,領載IVer medal"の 意 図す る名誉 の空疎 さ等 の事物 に よって も,こ の作 に
繁 出 して い る。
これ らの叙述 は読者 にはあ ま りに も平板 であ るが ゆ えに
,そ
の後 に控 える広大 な「空間」 を意 識させ
,そ
して 当然の こ となが ら識別 のキ ッカケ をHemingwayは
与 えて い る。 即 ち ばOnly Seven
thousand", 4目
盛,Catherine他
界 の個所 が それ で あ る。 しか し理 解 の キ ッカ ケが常 に存 して い るか とい うと
,必
ず し もそ うで はないか ら,他
の「空間Jも
想定 せ ざ るを得 ない。2。 「第二 の読者 の空間」
Catherineの
陣痛 の叙述 を引用 しよ う。 《I try as hard as l can.I push doMrn butit gose away rttι γι″ ε。,夕ιιs, Gゲυι″ サθ 夕7,2.''
At t、vo o'clock l went out and had lunch.There Ⅵrere a fe耶〆men in the cafO sitting 、vith coffee and glasses of kirsch or marc on the tables7
一読 して異様 な感 に うたれ るはずだ。無勁pゼ ″ どο″ι
s.G力
ι″ 力 物ι"と Catherineの 苦 悶の叫 びに対 して
,Henryは
麻 酔 の吸 引 を させ た はずで あ り,ま
た彼 女への い とお しさ と不安 の交錯 も経験した はずで あ る。 しか し実際 は余計 なブランク もおかずばat two o'clock l went out"と は
,い
か にも唐突 としか いい ようが ない。 だか らこそその叙述 は
,そ
の背後 に広大 な「空間」 をわれ われ に知覚 させ
,Henryが
な したで あ ろ う行動 や彼 が経験 す る こ もご もの感情 を付度 させ,わ
れ われ の想像力 を もって「空 間」 を充 溢 させ る
,と
い って よい。書 き表 わ され て い る応答 も,駅 I did not say anything"と なれば
,事
実上 無 きに等 しい。 《I remember having a silly idea he might come to the hospital、 vhere I Mras With asabre cut, I suppose, and bandage around his head. Or shot through the shoulder.
ttThis is the picturesque front,''I said ttYes,"she said.《
People can't realize that on He didn't have a sabre cut They blew
l didn't say anything 8
《You have the l1/ar disgust" 《
No Butl hate the war''
((I don't ellJoy it,"I said.He shook ((You do not
■lind it, lFou do not
M「ounded.'9
岡村俊明:充途せ る読者の争間
France is like lf they did,it couldn't an go hiln aH tO bits"
his head and looked Out of the wrindow「 .
see it You must forgive me l knoM/ you are
が この例 に相当す る。
Henryは
この無言の応答の中に,戦
争 とは往時の如 くロマンチ ックな様相 を 持たず,可
酷で非情 な状況 を産 み出す もの と理解 し,そ
れを口に出せば,途
端 に実体がすべ り逃 げ るものを意識 していた,
といえる。 これ も理解のキッカケの直接的提示 とはいいがたいが,コ
ンテ キス トか ら想像 を働 かせ ることがで きる ものだ。 これ も「充浴せ る空間」 と称 してよかろう。 次に論理の流れが途 中で切断 された不完全な叙述が見 られ るが,読
者 は自らの想像力で完全な文 となし,そ
のギャップを味解 しつつ読み進んでゆ くはずだ。引用 して考察 を加 えたい。最後 の会話 文 に注 目す る必要があ ろ う。
Henryの
はI don't enjoy it"に 対 す る Priestの 《You do not mind it You do not see it"は,論
理 の流れ として ご く自然 だが,引
き続 き口に した PriestのよYou
mustforg
e me l know you are wounded"は
,想
像 を凝 らさな い と理 解 困難 だ。竹 内道之助氏 は翻訳 に さい して「 あなた は戦争 をなん とも思 ってお られない。戦争 を正視 してい られ ない。 ごめん な さい、 こんな こ とをい って。 あなたが負傷 され た ことは
,よ
く知 って い るんだ け ど。」10と,「 こん な こ とい って」 と「だ け どJを
書 き加 え,筋
の通 りをよ くしてい る。 この脱 臼 した表現の中 に,本
来 な らば あ るべ くして省 略 した表現 を,読
者 は想像力 で補足 し,ギ
ャ ップ を味解 す るはずだ。 これ も一種 の「空間Jと
い えよう。 これ まで考察 を加 えて きた二種 の「空間」 は,キ
ッカケの有無 を問わず,作
者 が読者 に埋 め るべ く期待 している明 白なそれであ り,ま
た想像力 に よる補完,充
浴 な くして は,作
品の十分 な理解 が 困難 だ と断 じて よい ほ ど重要性 を持 って きたが,次
に取扱 う「空 間Jは
,一
見意識 され ない もの で あ り,ま
た それだ けに微妙,繊
細 な趣 を持 ってい る。3.「
第二 の読者 の空間J この「空間Jが
産 み出 され る主要 な状況 を,ま
ず摘 出 したい。Cathe
neを
愛 して い る Rinaldiは,
結婚 の意 図 まで持 ってお り,11そ れ をHenryに
打 ち明 け,彼 に一層好 印象 を添 え るため
,二
人 の ラブ・ シー ン と もい うべ き場 へ,同
道 す るよ うHenryを
誘 い出す。二人 は病院へ彼 女 を訪 ね る と
,Catherineは
職場 仲間Fergusonと
ともに姿 を見せ る。Henry
は友の逢 引の添物 として訪問 したわ けだが
,そ
こに記述 され てい る会話 は,Henryと
Catherineのそれだけであ る。
Catherineは
,結
婚 の意 図 を親 友 に も洩 ら し,自
分 に熱 を上 げて いるはずの男性を前 に して
,初
対 面 のHenryに
,従軍 看護婦 となった理 由や,婚
約 者 が非惨 な戦死 を とげた頴 末 を,細大 洩 らさず語 る。愛 の告 白の前段 階 だが,当の Rinaldiは
Fergusonと
話 を交 わ してい る。Rinaldi│こ対 す る作者 の叙 述 も,《Rinaldi was talking with the other nurse.They were laughing."レ , 岬隆
looked at Rinaldi talking with the other nurse."い と実 に素気 ない ものだ。 か とい ってRinaldiは
気 にか か る二人 の会話 に一切 侵 入 して もこない。 Rinaldiは Catherineに 無 関心 とな り
,Ferguson
に愛情 を もち始 めたか とい う と
,そ
うで はな い。14翌日Henry二
人 でCatherineに
会 い に出 か け,兵舎 に帰 った時 の彼 を捕 えて,
《So you make progress with VIiss Barkley?'' ttWe are friends."
((lrou have that plessant air of a dog in heat,"15
と椰楡 す るRinaldiは
,二
人 の新 た な愛 の進行 について,ま
た結婚相 手 を無二 の親友 か らい とも簡 単 に奪 われた こ とを,親
友 で あ るだ けになお さ ら,ま
たす んな りとい って いるだ けに 自分 の腑 甲斐 無 さが思 いや られ,そ
の言の中で ほぞ をか む思 いを送 り出 させて いる とい え よう。 これ以降 は一種 の許諸 を得 たかの ように,Catherineと Henryは
おお っぴ らに愛 にの め りこんでゆ く。 しか しなぜ例 の会話 に Rinaldiを参加 させ なか ったの か。 もしそれが 困難 な ら,な
ぜRinaldiの 焦燥感 の コメ ン トが見 当 らないのか,
とい う疑 間 は依然残 る。 その会話 の進行 中 に Rinaldiの抱 く さ まざ まな思 い こそ,
ここで取扱 う「第二 の読者 の空間」 の対 象であ る。Henryと
Catherine,RinaldiとFergusonの
会話 は同時進行 を見せ て い る。叙述 されてい るの は前 者の それ で,当 然 だがわれわれの関心 はそ こに向 う。しか し関心の対 象か ら外 れたかに見 える Rinaldi の嫉妬 が,そ
の背後 に充浴 してい る。 だか ら叙述 されないRinaldiの思 や彼 の会話 も,綴
られ て い るHenryの
会話 と同様 に,重
要性 を認定 しなければな らない。 他 の「空 間Jと
これ ははな はだ異 なる。 前者 は与 え られた表現 の キ ッカケ を媒体 としてその直後 に,あ
るい は不 自然 な文 を通 じて まさにその文 に切 断 された論理 の流れ を見,そ
こか ら産 み出 され る「空間」―― いってみれ ば読者が問題点 を注視 していれ ば,彼
らが 自ず と作 り,充
溢 させ る空 間 で あ る。 それ に反 し「第二 の空間」 に関 して は,キ
ッカケが完無 で はな いが少 し間隔 を置 いて存在 し,当
の場面で は作者が別 な もの に関心 を向 けている,読
者 の関心 もそ こに向か ない,そ
れ で いて よ くよ く注意 を払 う と,そ
こに「充 浴せ る空間Jを
認 め ざるを得 ない趣 旨の ものであ る。 II 後 ほ ど解明 したい と思 うが,こ
の「空間」 は「空間」 として放置せ ず,現
代 小 説 が巧緻 を極 めて 埋 めつ くす底 の ものであ る。逆 にそ こにHemittwayの
特質 が認 め られ るた め,「 第二 の空間」 の 考 察 こそHemingway文
学 の根 幹 に切 り込 む こ とにな ろ う。Hemingwayは
なぜ叙述 を渋 ったか,な
ぜ「第二 の空間」 の案 出 に至 ったのか。 この問 いは,寡
黙 に して「空間Jを
最大 限利 用 した作家Hemingwayを
,ま
た「読者 の空 間Jと
Hemingwayと
のかかわ りを考察 す る機会 を与 えた ことになろ う。 累累 と斃れてい るはずの屍骸 やCatherineの死 の叙述 に類 す る素気 ない ともい える簡明 さを捨 て さ り,作
者 が微細 にわた り考 察 を附加 していれ ば,そ
れ は どの種 の結果 を惹起 しただ ろ うか。 この 作 に限 らず,Heminttvayの
大 概 の作 品の最大特質 を挽 ぎ取 るこ とは,ま
ず間違 いな さそ うだ。彼は改You'11 lose it if you talk about it"16と
,言
うべ く貯 え られていて,つ
い に発 せ られ た時 の その岡村俊 明:充途せ る読者の空間 めることだ
,Vと
彼 はつねづね思 っていた。この種 の彼の understatementに 関する陳述 は,い
まや 陳腐の感 さえす るほ ど数多 くの研究がみ られるゆえ,こ
れ以上の言明 は差 し控 えたい。 しか し「第 一の読者の空間」に対 しては,こ
れで事足 りるとはいえ,過
渡的第二,お
よび斬新 な第二,特
に「第 二の空間」には,understatementと
重復す る部分 は無論 あるが,そ
れ単独で説明 し尽せ るものでは ない。では
Henryと
catheneを
中心 に展開す るn兜
″ι〃 の主筋 に直接無関係な ものの排除 と,ぎ
りぎ り押 し進め られた単純明快な文の造型 に
,作
者の意図が存する,と
推察 してはどうか。 これ は説明の一部 になっていよう。 あるいは 力焼 η Cb%″ の外科医の心理が
,そ
の答 えとして推察 されることもあろう。(I don't hear them〔her Scream〕 because they are nOt important,"13と , 外科 医には妊婦が苦悶のため発す る絶叫が聞えない。患者の苦悩 を苦悶 とみては
,医
者 はメスを握 る手 が震えるため,あ くまで冷静 に,目前の手術 と直接無関係 なものは捨象するか らである。それ と同様 にHemingwayも
Rinaldiの それをその時叙述せずにす ませたか もしれない。以上二つの理由を総 合すれば,わ
れわれ は真相に一歩接近 した といえょぅ。しか し今一つ踏み込み不足の感 は否めない。 視点 を拡大 して,n教
効″ の全体的意義 を模索 しな くては真相解明に至 らない,そ
うぃ う事態 に直 面 しているといえよう。Henryと
catherineの 闘いの日々および脱逃 に至 る経緯 とその後の生活が,強
烈な恋愛 と悲劇的 な死の色づけで,克
明 に叙述 されているこの作の主題 は,細
部 を捨象すれば,ま
さに題名 にふ さわ しく領A FareweH tO Arms"と
いえよう。 しか し主人公が完全な意味で脱逃で きたか というと,必
ず しもそう断 じ切れない。脱逃不可能な直接的 コメン トは見 られず,蟻
の比H命やHtrapped"等
の暗 示的文字 を介 して,読
者 はそれ を想像するのみである。戦闘 と脱逃,そ
して束の間の幸福 な生活の後
, Cathe
neに
Henryが
永遠の訣別 を告げた経停に読者の注意が向けられ,そ
れ と背反す る脱逃不可能な状況 は
,拙
稿で定義 している「読者の空間」 を媒体 として,平
行 して語 られているとい えないだろうか。 とにか く,主
題 と相反す る要素の直接的ノー・ コメン トこそ面白 く,ま
た これ こ そHemingwayの
特質であるといえる。 ある批評家 はこれぞtirOny"と 称す る。 tirony"19と は「実 際には表面 とは全 く逆 なことを意味する修辞上の手法 をいう」ならば,表面にあ らわれた《farewell" に重点が置かれ るよ り,む
しろЦfarewell"し た刹那,そ
の不可避性の認識 に至 る状況に視点が向か つているはずだ。 しか しこの作品は脱逃できない状況に,比
重が置かれているのではない。 その状 況 は,注
意深い読者の知 るところとなる「第二の空間」 を介 して描破 されているもの と思 う。 それは情念 を極力押 えているが,幸
辣 さを底 に秘めた どんでん返 しの手法ではな く,主
筋 に読者 の注意 を向けつつ,事
実を事実 とした提示である。 その提示の底 に流れているものは,晩
年 になる につれてます ます明瞭になったあの諦観 を思わせる複眼であろう。 ここに至 って「第二の空間Jと
は単なる一場の会話や一 コマの叙景ではな く,作
品の根幹 と作品 構成の作者の視点 に密 にかかわ っていることが了解 されよう。 これはなにもこの作の専売特許では な く, 1彫
ι ttο″ Я″″L拷
げF紹
%εたM∝
ο物うιγ (以下 説 θ″ 河城炒L様
と略す)や
石助ι 助蒻晩 α″′等にも見 られる手法だ。い くつかの例証の考察は「第二の空間」を一層明快 にして くれ ると思 う。 既 οオ 瓢妙″Lル
をまず取 り上 げたい。 その作の主人公Macomberは
ライオン狩で,突
込んで くるライオンを前 にして,ま
さに脱兎の勢いで逃 げる。ために彼の妻に憶病者 と蔑視 され,勇
敢 に もそれを射止 めた狩猟家wilsOnと
妻 は肉体関係 を持つ。彼 をそれを知 り,地
団太 を踏 むが,水
牛 狩 りの際勇気 を奮い起 こす と,彼
はかつて経験 した ことのない,荒
々 しい,わ
けのわか らぬ幸福感に浸 る。数 回 にわた り彼 の覚 えた幸福 が記述 され てい る。 その時射 止 めた と思 った最初 の水牛 が起
きあが り
,茂
み に はい ったの で,そ
れ を彼 は射殺 しよう と思 う。一 日散 に突撃 して くる水牛 めが けて彼 は射 ち続 け る,その瞬 間 ffhe felt a sudden white‐hot,bindilag flash explode inside his head''20 彼 の妻 の発 した弾丸 が彼 の頭蓋 骨 に命 中 したの だ。
状 況 か ら判 断 すれ ば
,Margotに
よる他殺 の線 が濃厚 で あ る。WilSonは事 実 そ う考 えて い る。しかし誰 一人疑 う余地 の ない他殺 では無論 ない。手傷 を負 った水牛 が しゃにむに突進 して くる瞬間 に弾
丸 が発射 されたため (逆にそ うい うデ リケー トな シチ ュエイ シ ョンだか らこそ
,
も し殺意 が あれ ば完全犯罪 とな っていた ものであ るが
),キ
ー・ トー ンは他殺 の まま,WilSonの
再 三 の間 いか けに も作者 は彼 女 の コメ ン トを一切 控 えさせ てい る。 さ らに面 白 いの は題 名 を∬ShOrt Happy Life"と して い
る点 だ。 《ShOrt"は 自明 として
,な
ぜ「幸福」 なのか。卑却者 を極度 に嫌悪 す るHemingwayは
, 極 端 な例 とはいえ,妻
に射殺 され よう と, MaCOmberを
して,そ
の死 の直前 に勇気凛凛 とした昂 揚 感 を覚 え させ,え
もいわ れぬ幸福感 に侵 らせ るが,そ
の男の短 い生涯 はや は り幸福 とま ともに と って もよいので はなか ろうか。 ニ ヒ リステ ックな非情 な物語 を ものす る作家 に して,不
思議 とも思 えるほどに,人
間 に しろ動 物 に しろ,幸 福のパ ター ンがみて とれ る。それ は この作 に登場 す るライオ ンの如 く,死
の直前初速 ニ ト ン とい う0505銃
の強打 を口に受 けて,さ
らに二 番 目の轟音 で,腰
の辺 を打 ち砕 かれて も,火
を吹 く物体 に向 って這 い続 けて きた この姿勢 に,ま
た T力ι Sttθ初∫げ κ〃″ηαηα町 の 冒頭 に提示 された 豹 の如 く,獲
物 一 匹姿 を見 せ な いアフ リカ第一 の高峰 の頂 き近 く,そ
の動物 を駆 り立 てた内面 の不 可解 な衝動 等 に,いわばいかなる死 にざまをするにしろ,生 を思 うさま燃焼 させていく姿 こそ,Hemingway
の幸福 の一 つのパ ター ン と,大
概 の作 家 に は考 え られ な い こ とだが,こ
こで は率直 に とったほ うが よか ろう。 しか し,彼は一 つの もの に熱 っぽ くのめ りこんで ゆ く熾烈 さを もって はい るが,その視 点 は意 外 に クー ルで,こ
こで も複眼 を備 えて いる。妻 に間男 をされ「殺 された男」の生涯が はた して「幸福 な」 それ とい え るか とい う感懐 も,け
だ し当然 だか らだ。疑 間の まま放 置 され,読
者 の想像 力 に委 ね ら れ てい る としか,い
えない底 の ものであ る。 しか し「不幸 な男」 として,裏
面 を逆 に強 くとる趣 の が約り として は,上
述 の理 由か ら無理 といえ る。 こ こで もや は り幸福 な男 と同時 に,不
幸 な男 の生 涯 が語 られ て いる こ とにな る。 Tんっし「%切
物 ″″ にあって も,昔
日の人 気 も巧緻 の 冴 え もない老 闘牛 士Manuelが
牛 の 角 で脇 腹 を ぐさ りとや られ,手
術 台 に運 ばれ て ゆ く姿 と,そ
れ を ル ポ して いた闘牛記者補助 の見 下 す よ うな コメ ン トを提示 し,
しか もその コメ ン トに反 して題名 をT力ι助施ηカカ″ としてい る意外性 が人 目 を引 く。 S/2θオ Я妙″L姥
と裏表の趣 旨が提示 されてい るが,「 第二 の空間」 を想定せ ざるを得 な い ことで は,一
致 を見 ている。 それが主題 や題名 に留 まらず,幾
多 のパ ター ンで,時
に は 続 り と接 す る域 を持 ちつつ,数
多 く の作 品の一見気づ きに くい個所 に組 み入 れ られてい る。n教
効 ι〃 の他 の例 として は,若
き二人 の看護婦 が Catherineの 帝王切 開 を見 ん もの と,「 人 の気も知 らない で」 とい うべ きか
,無
言 のHenryを
前 に して 《Aren't welucky?"21と
談笑 す る場 や,T7Bι【〃″だ で は
Andresonの
ため暗 い気持 に襲 われ たNickを
前 に して,彼
とは全 く異 質 な,無
知な者が示 す底 ぬけに楽天 的 な下宿屋 のかみ さんの反応 や
,22勁
ιO蒻
フ′2%α%″ 肋ι ttα で は,真
相 を知 る当事 者 た る老人 や少 年 の いない ところで
,そ
の大 魚 に対 して観光客が下 す異種 の判 断が見岡村俊明 :充 途せ る読者の空間 従って「第三の空間」 は
,nttη
房′に留 まらず幾多の作品に見 られ,ま
たそれはHemingway文
学を存立せ しめている作者の複眼を無視 しては理解で きない ものである。 最後 になったが,例
の Rinaldiの ほぞをかむ思は,力
説 した如 く,読
者の想像力で補完 しなけれ ば十分な読み とはいえず,そ
の前後のキ ッカケを介 して もそう取 らざるを得ず,し
か もこれがない と「第二の空間」 の基盤 その ものが崩れるわけだが,後 半における Rinaldiの 諦 めの良さを思 うと, 作者が燃 える嫉妬 と氷の諦観 をこの時点で もRinaldiに託 しているとしか思われない。そうすると これ も複眼 といえよう。無論 この複眼は,彼
独特の文体的単純性指向 と表現のunderstatementの
両者 と幸福 な結合 をな し,それが筋の独特 な展開にも利用 されて,は
じめて充浴せ る「第二の空間J が産み出され ることになったので,単
なる複眼でない ことは今更言 うに及 ばない。 III 三種の「読者の空間」 を想定 し,ま
た空間の独 自性 に考察 を力日えて きたが,そ
もそも文学 に して 拙稿で意味す る「読者の空間」がない ものは完無 ともいえる。 「空間」 はどち らか といえば,ジ
ャンル としての詩が最 も特異性 を発揮する ものである。例 えばEzra Poundも
のせ るIn a Staion Of the Wttetro The apparition of those faces in the crO、 vd;
Petals On a wet,black bough.
の簡潔無比の詩が産 み出す「空間」 は
,新
鮮 なイメイジ,物
と物 との斬新な関係 が,極
度に抑制 さ れたその表現 によって,そ
れ まで経験 したことのない読者の想像力 を刺戟 し,作
者の新奇な経験 を 読者にも追体験 させ ることによって,文
字の何層倍にも拡大 された「空間」である。 それに反 してHemingwayの
空間 は,可
酷な状況 を作 り出 して,普
通の読者が感 じること,ま
た当然想像 しうる 部分 を切断 して,そ
れ らを読者の想像 に委ねる「空間Jな
のである。同 じ「空間」で も, Poundら
の詩人が作 り出すいわば「正」の方向性 を持つ 「空間Jに
対 して,「負」の方向にひた走 っている のが,Hemingway文
学の特質であろう。 つ とに喧伝 されてい るHemingwayの
understatementも
,「負」の方向性 を持 ち,そ
れ は主 に 「第一の空間」 に該 当す るものだ。幾多の先達がそれを意識的に使用 したが,Hemingwayの
名が そのために特 に著名なのは,彼
が独 自な状況 に即応 させて,格
段 に押 し進 め,完
成 させたか らであ る。勿論 こちた く技巧 を凝 らしたいかなる独 自な達成 といえども,一
人の作家が無か ら創出するも のでな く,必
ず先人 の業績 を発展 させ た といって も過言ではないか ら,そ
の見地 か らいって も,Hemittwayの
筆の押 えはそのために過少評価 されることがあってはならないだろうが。 それに比 して過渡的 ともいえる「第二の空間Jを
経て達成 された「第二の空間Jは
,Hemingway
独特の もの といえる。「第三の空間Jが
位置する領域 は,ジ
ャンル としての小説がその叙述 に こそ, 最 も特異性 を発揮するもので,そ
のために小説家が「空間Jの
まま放置す るのを最 も忌避 している か らだ。その叙述のために妍 を競 いあい,文 学史に名 を残 した作家 も数 しれない。その一人VirginiaWOOrの
7b ttι とを肪肋熔ιを例 に とり,描写に苦慮 した彼女の軌跡 をさぐり,そこか らHeminttvay
の「第二の空間」の特異性 を逆照射 したい。(1)(Yes,of course,if it's fine tomorrow,'said A/1rs Ramsay.〔 But you'1l have to be up with the lark.'she added.
(2)(But,'said his father,stopping in front Of the drawing― r00rn windoMら くit WOn't
be fine。'
(3)【But it may be fing十 I eXpect it will be fine,'said Mrs Ramsay24
豹 厖ιとを肋οttι 冒頭 の会話部分 を摘 出 し
,筆
者 が それ に番号 を附 したのが この引用 であ る。勿論それのみで成立 してい るので はな く
,情
景,心
理描写の地 の文が混 じ りあい,い
や3頁
にお よぶ この部分 に しめ る会話文 は
,ご
く一部 にす ぎない。次 に考察 を加 えたい と思 う。(1)は
Ramsay夫
人 の6才
の末息子Jamesに
話 しか け られ た もので,」amesの
直接 の応答 はないが
,彼
はその言葉 です っか り喜 びにみた され てい る。彼 は床 にすわ り,カ
タ ログ を切 り抜 いて いた が,何
年間 も待 ち望 んでいた素敵 な ものが,暗
い一夜 をす ごし,船
にのれ ば,彼
の手 に届 くもの と 考 えていた。他 に も彼 の挙動,心
理 が こ と細 か に叙述 されてい る。 そんな時庭 を散歩 していた彼 の 父 は,客
間の前 でふ と立 ち止 ま り,「 明 日は晴れ ないだ ろう」と水 をさす。 息子 の心情 を思 いや ったRamsay夫
人 は靴下 を編 み なが ら,怒
った ように儡)を言 い放 つ。彼 女 は靴 下 を編 みあげて病気 で臥 せ っている燈 台守 りの子供 に贈 ろ うと思 ってい る。 長 々 し く紹介 したが,実
は この調子 で続 く。1行
の会話 に30行
以上 の叙述 が婉々 と続 く。問題 な の は,
ここで取 り上 げ る(動とは)のRamsay夫
妻 の会話 に対 す るその場 に居合 わせたJamesの
反応 であ る。彼 はその場 に居合 わせ るのみで,そ
の会話 に直接加 わ らないが,「 明 日は晴れ ないだ ろ う」 とい った父 に激 しい怒 りを覚 え,手
近 か に斧 か火掻 き棒 か何 か武器 が あれ ば,や
にわ に握 りしめ, 父 の胸 に穴 をあ けた い衝動 に駆 りたて られた。 そ うい う息子の心理 の叙 述が,詳
細 に書 かれてい る こ とが,
と りわ け関心 をそそってゃ まない。 なぜ な らHemingwayの
「 第二 の空 間」 と併 せ て考察 す るな らば,両
者 の相違 は極 めて明確 であるか らだ。
Woolfの
作 品 を挙 げて例証 したが,これ はなに もWoolfだ
けの独 垣場 で はない。James
Joyceは
この種 の叙 述 を極 めて大胆 に,極
限 と思 われ る まで押 し進 めてい る し,な
に もこの道 の大 御所Joyceに
登場願 わ な くとも,常
識 的 レヴ ェルで はD.H.Lawrenceや
William Faulknerに
,その種 の例 は こと欠かない。河ヽ説 の技法 の発展 につれて
,こ
の種 の叙 述 に最 も力点 がおかれ た とも いえよう。問題なのは,ジ ャンル としての小説が最 も得意 とする叙述 を「読者の空間」│こするHemingway
の異常 さと,そ
の面 白 さであ ろう。 多少 の誇 張 を承知 で い えば,積
み上 げ られた「空間」、特 に「第二 の空 間Jを
踏 み台 に,登
りつ め てい ったのが,近
代小 説 の経緯 であ る ともい え るほ どだ。 それ に比 して ジャンル としての演劇 が, それ を「空間」 に してお くことは容易 だ。劇 で は一般 に小説 に比 して科 白が凝縮 されてお り,
しか も科 白以外 の役者 の一挙手一投足 も大 きな働 きを もち,そ
れ に感応 してわれ われが想像力 を働 かせ るか らだ。 それで いて この種 の「空間」 が劇 にみ られ ることは極 めて稀 で,む
しろその存在 は劇 を 駄 作 に しかね まじき ものであ る。劇 は この種 の「空 間」を緊迫感 を欠 くもの と見徴 し,観
客 (読者) の この種 の想像力 の行使 の節囲 を狭 め,そ
の「空間J作
成 を忌避 し,そ
れ を何 らかの作者 の叙 述 で 埋 めつ くそ うとしてい る。 しか しいざ叙述 を企 て る となる と,そ
れ は実 に困難 な面 を露呈 す る こと になる。 なぜ な らジャンル として演劇 は,物
理 的時空 と生 ま身の役者 とい う,印
象 を鮮 明 にす る とい う長 所 は持 つ が,時
には頑 固な まで につぶ しの きかな くなる媒体 を持 つ ゆえ,近
代小 説 の ご と くその領岡村俊明 :充 浴せ る読者の空間 域 を容易 に発達 させ るこ とはで きなか った。しか しこの ような演劇 に してか らが,「空 間Jのま ま留 め お くこともな く工 夫 を凝 らして い る。その軌跡 の一端 を見 て も
,Hemingwayの
「第三 の 空 間」 の特 異性 がわか る とい うものだ。 「第二 の空間」 を産 み出す状況 に立 ちいたれれば,演
劇 で は二個 の会話 を平 行 して進 め る こ とが 通常不可能 であ るため,一
方 の会話 にRinaldiを是非 とも割 り込 ませて,彼
の心理 の裳 が垣 間見 さ せ る手法 が とられ よう。 これな ら容易 だ。 あ るいは劇 特有 の「傍 白」 の手法 が使 われ る ことが あ ろ う。例 えば 0励房ん で,夫
の安否 を案 じつつ, Desdemonaは
夫 の副官Cattioと
話 を交 わ す下 り が あ る。二人 の一挙手一投足 を見逃 す まい と観察 してい るIagoは
He takes her by the palnl:ay, lvell said, whisperiwith as little a web as this wiH I ensnare as great a fly as Cassio.Ay, s,lile upon her,do,Iw』 l gyve thee in thine oM′ n courtship.「Fou say true, 'tis sO. indeed: if such tricks as these strip you out of your heutenantry,it had been better you had not kissed your three fingers so oft,、 vhich now again you are most apt to play the sir in,Very good;Ⅵ rell kissedl an excellent courtesy! would they were clyster‐ pipes for your sake125
と傍 白をす る。二人の会話 や動作 の描写 と同時 に
,IagOの
心理 、将来 の計画 な どがぶ ち まけ られ て い るこの種 の傍 白は,他
の登場人物 には無 に等 し く,従
って実際 には作成 されてい ないが,「第二 の 空 間」 を産 み出す状況 に相 当す る といえよう。傍 白は劇 が本来具有 す る弱点 をカ ヴ ァし,劇
に陰影 あ るいは濤 を刻 み こむ もので はあ るが,約
束 の上 に成 立 してい る とはい え,本
来 隠 され て い る人 間 の心の動 きを大声 で人 に知 らしめ る もので あ り,
しか も傍 にいるDesdemona等
に も聞か して はな らないので あ る以上,や
は り不 自然 さは否 めない。 演劇 の構造 的 この弱点 をカヴ ァす るた め,傍 白以外 によexpository soliloquy"26と ぃ ぅ手法 も採 用 された。 これ は会話の進行 中,当
事 者 が それ に感応 す るコメ ン トを直接提示 せ ず,他
の人物 の退場 を もって は じめて,そ
の時 の心理 を逐 一述懐 す る底 の ものである。Я躍 ルチ(2.2.584-642)が
それ に該 当す る といえるが,傍 白 と異 な る点 は《expOSitOry soliloquy"の 方が それ よ り蓬 か に長文 で あ り,ま
た傍 白が進行 しつつあ る会話 と同時提示 であ るに比 して,他
者 は同時 に生起 した ものの時 間差 提示 で あ る こ とだ。 この独 白は劇 の手法 として は極 めて精緻 に作成 された とはい え,そ
れ が与 え る不 自然感 は否 めず,実 際の ところ20世
紀 の演劇 で は この種 の独 自は殆 ん ど影 を潜 めた といえる。 問題 なの は,「第二 の空間」 の案 出 を さほ ど困難 と見 倣 さない劇作 家 です ら,そ
れ を「読者(観客) の空間」 の まま放置せず,結
局 は充分 に成 功 した とはい えない種 々の工 夫 で作 者 自身 が叙 述 すべ く 苦慮 してい る こ とで あ る。考 えてみれ ばそれ ほ ど忌避 され た領域 で ある。 それ をわがHemingway
は,先
に述 べた詩 の「空間」 とは異種 な もの を創 出 し,近
代 小説 が巧緻 を極 めた叙 述 で埋 めつ くし た もの を「空間」 の まま留 めて,読
者 の想 像力 で充浴 させ てい るが,い
わ ば英米 文学 史的観点 か ら いって も,n兜
紗ι〃_作
とい うよ り,全
作 品 に共通 す るHemingwayの
三種 の「空間」,特
に「第 二 の空間」 の特異性 は光輝 を発 す る もので あ ろう。 それ らの「空間」 を通 じてわれわ れ は,
これ ま で といは異質 な想像力の存在 を知 り,斬
新 な手触 りの文学 に解遁 した とえ る。現 在 沈 滞 して い るか にみ えるHemingway文
学 が再 浮上 す る道 は,こ
れ らを正 当に評価 す るこ とで もあ る と思 う。Notes
Walter Ⅵたskeatェ ed.,C/22Bvじ♂/f GDη妙ル″ レ紗/1s(LolldOn:Oxford univeFSity Press,1912),p.419. 使用テキス トは Emest Hёmingway,■ F餌軸 ι〃ゎ4脇暗 (New York:Charles s∝ibners Sons,1929) 以下同じ. rぅチ′.,p 4. 五♭ガブip 331. 乃″,p.331. 五♭ゲプ。,P323. 乃″Ⅲ
p.318 .
Fb″.,p.20. ■uat,p.70, 竹 内道之助 他訳『ヘ ミングウェィ全集』第四巻 (三笠書房,1974),60頁, 乃 "初9,II,p.12. 乃″.,p18 カ″,19. rbどブ,p21_ rb云ガi,p27.T力ι&`η4Fdo Ftts quoted from JtW.Beach,伎 Style in FOF tt/榜 0″滋ιB♂〃 駒 ′た''inど能盗サrFF″√ 芝 ″pjJ f
じ万所留rts 9/Яυ″″ノ販jθ″川ου″0(New York:Charles Scribner`Sonsl 1962),p.82
Heml■gway,Dttr/Pヵ r/2¢ 】げ影解。οη (New YOrk i Charles Scrお ners sOns,1953),Chap.XVI.
Heningway,F20Jv/T,vヮ (New YOrk t cllaFles Scribnerも SOns,1925),p.17
Ray W∝t,改
4F婢
切ι″ 乃4協
s″ れ ど物おチ疵 η麓摯 り 丁ご崩 勒 盗 げ 乃 ″″Mttbr助
兜る(New York:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 13 19
ChaFleS SCribner's Sonョ,19621 ,p36
20 Hemingway,敵
t Sη蜘、ヮrx坊″η,磁
盟″0チカιアSわ万♂s(れ,t lNew York i Charles Scriblnerヽ I Sons, 1904) ,pl153.21 Fレ 拓孵 ι″,p.324.
22 Hemingway:〕々″
"1,励
働ガ レリ″″″ (New York:charltt Scribner's SOns,1927),p.94
23 Hetningway,T7B夕 0″ フッ物ヵ,″ブ ヵ¢S破 (New YOrk:Cllaries Scribnerls sons,1952),Op.126-27. 24 Virginia Wo01i a9諺 ¢上を之t聴″骸 (London i Everynan4 Library,1938),pp 3-.5Ⅲ
25
テキス トは`1lG Clark and wiA Writtht,eds‐ ,a力?方りぬ ゲ レ″筋αtt S娩々ゅ 密瑯駅Fpt LondOnIMacmillan,1961).
岡村俊明 :充 途せ る読者の空間
ABSTRACT
Overflowing Readers'Spaces一
A Study of
4Fち
物 ο〃 ん
Aタッタ
港一
Toshiaki Okamura
HemingM′ay once said,ttThe dignity of inovement of an ice‐berg is due to only one― ei811th of it being above
water'',and trroull lose it、 vhen you talk aboutit" Those are interesting sayings because it lanay be that hre cannot fully appreciate Heming、 vay and may even endanger the life Of his ttFOrkS MFithOut dOing justice to the unspoken sentences or the seven― eighths being under、vater ヽVhen Mre meet them,、ve nlust fill them with our ilnagination ln such cases、ve、vant to can them ttreaders'spaces"
There are three kinds of them in 4′]2/7ιυゼ′′わ4,ク″s The first space comes into existence when we can
give fuH play tO Our imaginatiOn and recognize frona the clues Of understatenlent and the resulting unstated
ideas that which he wants to conveyヽ「氏hen M′ritten clues are llot to be fotind,、/e sonletinles get a foothold in
the very expressions of, fOr instance, dis」 ointed sentences and make cOnaplete expressions ttrith our ilnaginatiOn(the SecOnd space)ヽVhen clues are not found or、 vhen they are placed far apart,and the readers'
attention is draM′n to another part of the p10t, 部re cannot understand Henling、raぅr's real intention Mrithout attuming the existence of the third space at the same tinle
The space is related to his idea of the construction ofthis、 rork and his basic viettrpoint This exists in many
of his M′Orks,as MァeH as this one lt comes out of his double perception, 帯,hich is happily united ttrith his pecuhar understatement concerning the development of the plot
COntemporary novelists detest to make that space,even襦′hen a suitable situation comes along i「 hey exert their utmost to express everything AccOrdingly, as the technique of laaodern novels develops, the very
description at the assumed third space is more stressed This kind Of space is not found in poetry or draina And this space together ttFith his other spaces yields a pecuhar texture and a ne、 ァkind of imagination,and
emits dazzling rays in Enghtt and American literature Our proper estirnation of thella rnay bring Heming、 ray
into the spotlight of the literary ttrorld again