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新型コロナウイルス

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Academic year: 2021

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(1)

− 107 −

新型コロナウイルス

〜見えないものを知る〜

講師:

中 根 明 夫

1 )

〔公開講座〕

Ⅰ.はじめに

2020 年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に 明け、逼迫した状態で終わろうとしている。中国湖北省 武漢市の海鮮市場で原因不明の肺炎患者が発生したのは 2019 年 12 月 18 日であるが、12 月初頭から原因不明の肺 炎患者として存在していたことが明らかとなっている。

日本国内の感染者の発生は 1 月 14 日であり、これまで の感染症と比べると、国内侵入までは短時間である。日 本では 2 月 1 日 COVID-19 を指定感染症としてさまざま な感染対策が行われてきたが、 4 月の第一波、 7 月の第 二波につづき、現行では最も感染者が多い第三波の中に ある(12 月下旬現在)。公開講座が開催された頃(10 月 24 日)は、弘前市で飲食店でのクラスター発生のまっ ただ中であり、十分な感染対策が施された中での講演で あった。本講座では、その時点まで得られた知見を基 に、以下の項目について話をさせていただいた。

(1)世界と日本の状況

(2)コロナウイルスとは

(3)臨床症状

(4)インフルエンザ、風邪との違い

(5)診断、治療、ワクチン

(6)感染予防

(7)今後の予測

(8)もう一つの問題

本稿では、これらの話題の中から一部の内容について 紹介したい。

Ⅱ.COVID-19、インフルエンザ、カゼ症候群の違い

COVID-19、インフルエンザ、カゼ症候群の臨床症状 による見分け方を問われることがあるが、明確な回答を することは難しい。原因ウイルスについては、COVID-19 は SARS coronavirus-2 (SARS-CoV-2)、インフルエンザ

は A 型、B 型、(C 型)インフルエンザウイルスであるが、

カゼ症候群については、ライノウイルスをはじめとし て、未発見のウイルスを含めて 100 種類以上あると考え られている(表 1 )。原因ウイルスの中にはヒトコロナ ウイルス(229E、 OC43、NL63、HKU1 の 4 種)が原因の 15% 程度を占めるため、COVID-19 はカゼ程度と考える 人もいるようであるが、それは間違いである。COVID-19 の有病者では、発熱、呼吸器症状(咳嗽、咽頭痛など)、

頭痛、倦怠感などの症状を示す。発熱については、イン フルエンザはほとんど前駆症状なしに突然の 38℃以上 の発熱を示し、カゼ症候群は平熱ないし微熱という違い があるが、COVID-19 では平熱から高熱までさまざまで あり、青森県の初発症状で発熱を示したものは約50% で ある1 )。従って、 3 つの感染症を臨床症状から明確に鑑 別することは難しい。一方、一部の COVID-19 感染者は 味覚異常や臭覚異常を訴えることがあり、この点は他の 2 感染症ではあまり例がない。青森県の初発症状でも、

味覚症状が 9 %、臭覚症状が 6 % となっている1 )。参考 までに、最近改訂された厚生労働省「新型コロナウイル ス感染症 (COVID-19) 診療の手引き第 4 版」2 )に記載さ

1 )弘前医療福祉大学保健学部 看護学科(〒036‑8102 青森県弘前市小比内3丁目18‑1)

 (令和 2 年10月24日 講演)

表1.かぜ症候群、インフルエンザ、

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(2)

− 108 − れている COVID-19 とインフルエンザの相違について表

2 に示す。

治療薬については、インフルエンザはオセルタミビル

(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)、ラミナミビル(イ ナビル)、ペラミビル(ラピアクタ)、バロキシサビル・

マルボキシル(ゾフィルーザ)がいずれもウイルスの放 出・複製阻害作用を示す抗インフルエンザ薬として治療 に使用されている。COVID-19 に対してはさまざまな薬 剤がその効果が研究されている。現段階ではレミデシビ ルとデキサメタゾンが認可されているが、いずれも重症 化抑制の治療薬であり、抗インフルエンザ薬のような初 期治療の薬剤ではない。抗インフルエンザ薬として認可 されているファビピラビル(アビガン)が COVID-19 に も有効であるとする知見があるが、動物実験で催奇性が 認められ、認可されたとしても妊婦や妊娠する可能性の ある人は使用できない。一方、カゼ症候群に対する治療 薬は開発されていない。いわゆるかぜ薬は対症療法とし て使用される。

ワクチンについては、インフルエンザウイルス A 型、

B 型に対するワクチンが 65 歳以上の高齢者では定期接 種、他の人には任意接種で行われている。COVID-19 に 対するワクチン開発は国際競争となっている。最近、

ファイザー・バイオンテクの mRNA ワクチン、アスト ラゼネカの DNA(ベクター)ワクチン、モデルナの mRNA ワクチンが先行し、一部の国で認可・接種が始 まっている。ファイザー・バイオンテクの mRNA ワク チンについては日本でも認可申請が出された。一方、カ ゼ症候群のワクチンは開発されていない。

Ⅲ.日常生活の感染予防

SARS-CoV-2 のレセプターはアンジオテンシン変換酵 素 2  (ACE 2 ) であり、心臓、腎臓など各種臓器に発現

しているが、上気道粘膜と結膜への高く、主たる感染経 路は飛沫感染である3 ,  4 )。一方、従来から言われている 飛沫(直径 5 µm 以上)に加え、エアロゾル(マイクロ飛 沫、直径 0.1‒ 5  µm)や空気感染(飛沫核による感染)

もあることが指摘されているが、空気感染を起こす麻疹 ウイルスの基本再生産数(Ro ; ひとりの感染者から他者 に感染する人数)が16〜18であるのに対し、SARS-CoV-2 の Ro は約 2.5 であることからすると、ほとんどは飛沫感 染と考えられる。従って、日常生活におけるSARS-CoV-2 感染予防の基本は、マスクの着用、ソーシャルディスタ ンシング、換気の 3 点である。さらに、飛沫による接触 感染も起こるので、手洗いも重要である。

マ ス ク は 大 ま か に 3 種 に 分 け ら れ る。 濾 過 マ ス ク

(N95 マスク)は、感染防御効果の高いマスクであるが、

装着の厳密な密閉性やフィルター孔が微細であるため装 着可能時間が短いこともあり、医療用に優先すべきで一 般使用は控えるべきである。従って、日常生活では、

サージカルマスクと布マスクの使用となる。従来から サージカルマスクや布マスクは、飛沫、エアロゾル、飛 沫核の吸入防止効果については明確な確証がない。従っ て、これらのマスクは、感染防御ではなく、自らの飛沫 を拡散させないため、つまり周囲の人への感染予防のた めに着用すべきである。マスク着用を推奨している国で は都市あたりの致死率が低いことが指摘されている5 )。 最近、理化学研究所の坪倉らのスーパーコンピューター 富岳による解析では、布マスクでも材質により効果が異 なり、綿素材よりポリエステル素材のほうが効果が高い という結果が出ている(表 3 )。米国疾病予防管理セン ター(CDC)では、 2 層以上で、綿と化学繊維(ポリエ ステル、ポリウレタン)の異なる素材を組み合わせるほ うが、機械的および静電気作用によるフィルター効果が 高いとしている6 )。一方、フェイスシールドのみネック ゲイターの感染予防効果は不明としている6 )。マスクの

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表3.飛沫に対するマスクの防御効果

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(3)

− 109 − 着用は飛沫を発する側だけでは感染予防は不完全と考え られ、周囲の人もマスクを着用することにより、感染リ スクが軽減される7 )

SARS-CoV- 2 が主として飛沫感染であることを考える と、ソーシャルディスタンシングが重要である。ただ、

ソーシャルディスタンシングのみでは感染予防効果は低 く、マスクの併用が必要である8 )。また、エアロゾルに よる感染はマスクやソーシャルディスタンシングでは防 止できないので、換気によりエアロゾルの除去が重要で ある。

飛沫は拡散し、周囲のものに付着する。大型クルーズ 船ダイヤモンドプリンセス号の環境調査では、感染者が 使用していた部屋の64% で SARS-CoV-2 遺伝子が検出さ れた9 )。特に浴室内トイレの床(39%)、枕(34%)、電 話 機(24%)、 机(24%)、TV リ モ コ ン(21%) で の 検 出率が高かった。これらの値が感染性ウイルス量を表し ているわけではないが、付着したウイルスを介しての接 触感染は起こりうる。人間は無意識に顔に手が触れるこ とが多く、手に付着したウイルスが鼻腔粘膜や結膜に侵 入する可能性が考えられる。SARS-CoV-2 の不活性化に 有効な消毒薬として、消毒用エタノール、プロパノール、

次亜塩素酸ナトリウムに加え、一部の純石けんを含む界 面活性剤が有効であることは NITE(独立行政法人製品 評価技術基盤機構)により検証されている10)。次亜塩素 水も有効性が確認されたが、不安定なため作製後早めの 使用が必要である。

Ⅳ.おわりに

日本赤十字社では COVID-19 には「 3 つの感染症」と いう顔があるとしている11)。第 1 の感染症は本来の感染 症としての顔、第 2 の感染症は「不安」、そして第 3 の 感染症は「差別」である。感染者、感染者の家族といっ た周囲の人間、医療従事者などの職業人、さらに人間の みではなく特定地域など、COVID-19 に関する差別的発 言や行動など目に余ることが横行している現実がある。

その根底には COVID-19に対する「恐れ」「不安」といっ たものがあると考えられる。感染症は地位、財力、能力 と言った人間の価値観とは関係なしに、ある意味におい てはすべての人間が平等にいつでもどこでも感染する可 能性がある。従って、COVID-19 に対する偏見を払拭し て、お互いを思いやり「正しい知識をもって、正しく恐 れ、人に寄り添う社会」になることが肝要なことである。

人間としての基本の立ち戻ることが、終息への近道であ ると信じたい。

参考文献

1 )青森県新型コロナウイルス感染症特設サイト:

  https://www.pref.aomori.lg.jp/welfare/health/wuhan-  novel-coronavirus2020.html

2 )厚生労働省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

診療の手引き第 4 版. 2020. https://www.mhlw.go.jp/

content/000702064.pdf

3 )Wölfel R, Corman VM, Guggemos W, Seilmaier M,  Zange S, Müller MA, Niemeyer D, Jones TC, Voll- mar P, Rothe C, Hoelscher M, Bleicker T, Brünink S,  Schneider J, Ehmann R, Zwirglmaier K, Drosten C,  Wendtner C: Virological assessment of hospitalized  patients  with  COVID-2019 .  Nature.  581 :  465 ‒469 ,  2020. 

4 )Hui KPY, Cheung M-C, Perera RAPM, Ng K-C, Bui  CHT,  Ho  JCW,  Ng  MMT,  Kuok  DIT,  Shih  KC,  Tsao S-W, Poon LLM, Peiris M, Nicholls JM, Chan  MCW: Tropism, replication competence, and innate  immune responses of the coronavirus SARS-CoV-2  in  human  respiratory  tract  and  conjunctiva:  an  analysis in ex-vivo and in-vitro cultures. Lancet Re- spir Med. 8 : 687‒695, 2020.

5 )Peeples L : Face masks: What the data say. Nature  586 : 186‒189, 2020.

6 )Centers  for  Disease  Control  and  Prevention:  How  to select, wear, and clean your mask. https://www.

cdc.gov/coronavirus/2019 -ncov/prevent-getting- sick/about-face-coverings.html

7 )Prather  TA,  Wang  CC,  Schooley  RT:  Reducing  transmission  of  SARS-CoV-2 .  Science.  368 :  1422 ‒ 1424, 2020.

8 )Zhang  R,  Lib  Y,  Zhang  AL,  Wang  Y  Molina  MJ: 

Identifying  airborne  transmission  as  the  dominant  route for the spread of COVID-19. Proc Natl Acad  Sci USA. 117 : 14857‒14863, 2020.

9 )山岸拓也、神谷 元、柿本健作、岡本貴世子、鈴木  基、竹田 誠、松山州徳、白戸憲也、直 亨則、長 谷川秀樹、影山 努、高山郁代、齊藤慎二、大西  真、脇田隆字、大曲貴夫、具 芳明、松永展明、高 谷紗帆、坂口みきよ、田島太一、和田耕治、藤田  烈、齋藤浩輝、冲中敬二:ダイヤモンドプリンセス 号環境調査に関する報告.https://www.niid.go.jp/

niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019 -ncov/2484 -  idsc/9849-covid19-19-2.html

10)厚生労働省、経済産業省、消費者庁:新型コロナウ イルスの消毒・除菌方法.

(4)

− 110 −   https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/ 

syoudoku̲00001. html,  https://www.meti.go.jp/

covid-19 /pdf/shodoku̲jokin.pdf,  https://www.caa.

go.jp/policies/policy/consumer̲policy/information/ 

notice/

11)日本赤十字社:新型コロナウイルスの 3 つの顔を知 ろう!〜負のスパイラルを断ち切るために〜.

  http://www.jrc.or.jp/activity/saigai/news/200326 ̲  006124.html 

参照

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