学習者中心の文法指導 : グループワークの試み
著者 米田 みたか, 小泉 有加
雑誌名 明治学院大学教養教育センター紀要 : カルチュー
ル = The MGU journal of liberal arts studies : Karuchuru
巻 4
号 1
ページ 237‑248
発行年 2010‑03
その他のタイトル Using Group Work to Develop a Learner‑Centered Approach to English Grammar
URL http://hdl.handle.net/10723/80
学習者中心の文法指導
グループワークの試み
米 田 みたか 小 泉 有 加
1. はじめに
コミュニケーション能力の育成を中心に据えた カリキュラムにおいては, 文法を扱う授業は必ず しも歓迎されない傾向にあるのではないだろうか。
しかし, カネール&スウェイン (Canale and Swain,1980) がコミュニケーション能力の4つ の要素は 「文法能力」 「談話能力」 「方略的能力」
「社会言語的能力」 であると提唱しているように, 文法知識を習得することは受信・発信できる英語 力の向上のうえでも不可欠である。 TOEFL ITP
やTOEICにも文法能力を問う問題が出題されて
いることも, 英語学習における文法知識の重要性 を裏付けていると言えるだろう。
文法の授業が歓迎されない理由の一つには, 文 法を扱う授業に特有の問題点が考えられる。 文法 の授業は, 教師が一方的に解説をし, 学習者は黙々 と問題演習を行うだけという教師主導型の一斉授 業で行われる場合がほとんどではないだろうか。
こうした一斉授業は, 問題演習と解説の単調な繰 り返しに陥りやすく, その結果, 学習者の授業に 対する姿勢は消極的, 受動的になりがちである。
このような状況では, 授業に参加しているという 学習者の自覚を促すことも, ひとりひとりの学習 意欲を高めることも困難である。
本研究の対象となった首都圏の私立大学では, 2007年度以来, 1年次の選択科目の一つとして, TOEFL ITPのSection2: Structure and Writ- ten Expressionを題材に文法を学習する授業を 開講している。 当大学では, 新入生全員が入学時, 前期終了時, 後期終了時の計3回TOEFL ITP を受験し, その結果が1年次必修の英語科目 (コ ミュニケーション) の評価に盛り込まれる。 また 2年次以降の選択英語科目の履修や留学の選考も TOEFL ITPのスコアに基づいて行われるため,
学生のTOEFLに対する関心は高く, その結果
のもつ意味も大きい。 この文法の授業には, こう した学生のTOEFLへの関心に応えると同時に, 英語学習に欠かせない文法知識を強化するという ねらいがある。
本研究は, 2007年度に小泉・米田が担当した それぞれの文法のクラスにおいて, 教師主導型の 一斉授業で文法の授業を行った際に直面した課題 に基づいている。 その課題とは以下の2点である。
・教師による解説と学習者による問題演習の単 調な繰り返しに陥らないためにはどのような 工夫ができるだろうか
・学習者が一方的に教師の解説を聞くという受 け身の姿勢で授業に臨むのではなく, ひとり ひとりの学習意欲を高め, 授業に参加をして
いるという自覚を持ってもらうためにはどの ようにすればよいだろうか
これらの課題を改善するために, 2008年度に グループワークを導入した授業を行った。 本稿で は, この文法の授業報告をもとに, 学習者中心の 文法指導として, グループワークを導入した授業 の可能性を考察したい。
2. グループワーク
グループワークとは, 学習者中心の指導法の一 つの形態である。 グループ学習の他に協同学習と いう用語が使用されることがあるが, Jacobs他 (2005) は協同学習をグループ学習の一形態と位 置付けていることから, 本研究ではグループワー クという用語を使用する。
近年, Vygotsky (1978) が提唱した社会文化 理論が外国語教育においても注目されている。 こ の理論では, 現在持っている発達レベルより上で 単独の能力では解決できない場合でも, 自分より よくできる他者の助けがあれば達成が可能になる レベルを最隣接発達領域 (zone of proximal de- velopment) と呼んでいる (Vygotsky,1978, p.
86)。 英語教育研究では, この領域に注目し, 学 習者ひとりでは解決できない場合でも, グループ のメンバーとのインタラクションを通し互いに補 うことで課題を克服していくことができることに 関心が注がれている。
例えばSlavinやDornyeiは, グループワーク という形態をもちいることにより, 学習者間で積 極的に情報交換が行われ, 学習者の達成度を高め, さらに学習意欲をも高めることができると報告し て い る (Slavin, 1996; Dornyei, 1997) 。 ま た , Long and Porter (1985), Pica and Doughty
(1985), Rulon and McCreary (in Day, 1986) も, それぞれの研究においてグループワークを行 うことによる効果を挙げている。 例えばLong and Porterの計算によると, 授業の半分をグルー プワークに使えば, 学習者個々の練習量は従来の 講義形式の授業の5倍に増えるとしている (Long
& Porter,1985, p.208)。 このほかにも, 彼らは グループワークの利点について以下のように述べ ている。
・Improves the quality of student talk
・Helps individualize instruction
・Promotes a positive affective climate
・Motivates learners (Long & Porter,1985)
このように, グループワークには学習者にとっ て様々な長所があるということが窺える。 特に日 本の英語教育現場においてはクラスサイズが大き いことがよく指摘されるが, そのマイナス面をカ バーする一つの手段としてグループワークは効果 が期待される。
実際に, グループワークを導入して行った授業 について数々の報告が行われている。 日本の大学 の英語の授業に関して報告されている例を挙げる と, 高橋 (2003) は, リーディングの授業で1年 間グループワークによる指導を行っている。 学力 や学習意欲に差がある47名のクラスの指導方法 としてグループワークを導入し, 学習者はその結 果を好意的に評価している。 また,Cutrone(2002) はスピーキングのクラスでのグループワークの活 用を, 国内で英語を話す機会がない日本人の学生 には特に有効であると報告している。 英語の4技 能 以 外 で 効 果 が あ っ た と す る の はKurauchi (2009) で, グループワークを行ったことにより, 学習者がグループ内でのリーダーとして自覚を高
め, 授業への参加度も高まったと述べている。
その一方で, グループワークを導入することに よる短所も指摘されている。 Harmerは, クラス が騒がしくなり, クラスの一体感がなくなってし まう可能性があることや, グループワークの始ま りと終わりには編成に時間がかかってしまうこと など, 授業運営に悪影響を及ぼすことを指摘して いる。 さらには, グループ内で役割が決まって, それが固定されてしまい, 主導権を握る学習者や 受け身にまわってしまう学習者ができてしまうと いう懸念も示唆されている (Harmer, 2002, pp.
194195)。 また, 教師が授業中にグループワーク を敬遠したがる理由として, 教師のコントロール の下にはおさまらなくなってしまう恐れがあるこ とや, 教師がすべてのグループを一度に監視でき ないことが挙げられる (Brown,2007)。 その他, 学習者の中には, ひとりで学習することを好むも のもいる (Harmer,2002; Brown,2007) という 点は想像に難くない。
グループワークは, 特にoral fluencyの練習に 有効であると考えられている (Ur,2008, p.232)。
実際に, グループワークはスピーキング, リーディ ング, ライティングのクラスで導入されているこ とが多く, 先行研究もこれらの技能の上達を目的 にしたものがほとんどである。 数少ない大学での 文法の授業に関する研究の例として, Kojima (2004) は学習者中心の文法指導について研究を 行っている。 文法指導による英語コミュニケーショ ン能力養成について内堀・中條 (2004) が研究を 行っているが, いずれもグループワークを導入し た研究例ではない。 また, 我々が行ったアンケー ト調査でも, グループワークによる英語の文法の 授業を受けたことがある受講者は54名中8名と 少数であったことから, 高校でもグループワーク による文法の授業はほとんどなされていないと考
えられる (表1を参照のこと)。
3. 研究目的
以上のように, 文法の授業にグループワークを 導入した研究や実践例は決して多くはない。 この 現況はグループーワークが文法の授業に適してい ないということを示唆しているのだろうか。 本研 究の目的は, こうした現状を踏まえ, 文法の授業 におけるグループワークの有効性を探ることであ る。 文法の授業にグループワークを導入すること で, 学習者の意欲を喚起し, 授業への積極的な参 加を促進することは可能なのだろうか。 本研究で は, グループワークを用いた場合に短所と考えら れる事項を基に研究課題を設定し, 授業の運営方 法を紹介したうえで, 学習者のフィードバック, およびグループワークを導入した授業の教育的効 果を検証していく。
4. 研究課題
1. 教師がコントロールできないという不安が挙 げられている (Brown,2007) が, 特に, スピー キングなどのクラスと異なり, 答えの決まって いる文法の授業においてグループワークは機能 するのか?
2. グループワークでの話し合いのため時間がか かってしまい, 授業効率が下がり, その結果
TOEFLのスコアに影響があるのではないか?
3. グループでの役割が決まってしまい (Harmer, 表1 高校生のときに受けていた英語の文法の授業は?
教師による解説を中心とした授業 46 グループワークを中心とした授業 6 その他 (解説とグループワークの両方) 2
2002), 文法を得意とする学習者が主導権を握 り, 不得意とする学習者がおきざりにされてし まうのではないか?
5. 研究概要
5.1 調査方法本研究は, 1. 2008年度 (2008年4月から2009 年1月) に行われた授業の事例報告, 2. 後期終 了時 (2009年1月) に受講者を対象に実施した アンケート調査, 3. 受講者のTOEFL ITP Sec- tion2: Structure and Written Expressionのス コア分析に基づいている。
5.2 調査対象者
本研究の調査対象者は首都圏の私立大学に通う 1年生である。 調査対象となったクラスは小泉が 担当した29名と米田が担当した36名の2クラス で, そのうち半期のみの履修者4名を除いた61 名を調査の対象とした。 履修者の所属学部は, 文 学部, 経済学部, 社会学部, 法学部と多岐にわた るが, 全員が共通して1年時必修の英語科目を履 修している。 また, 英語科目のクラス分けおよび 成績評価にTOEFL ITPのスコアが使用される ため, 対象者は入学時, 前期終了時, 後期終了時 にTOEFL ITPを受験している。
対象授業は1年次選択の授業だが, 前期授業開 始時にTOEFL ITPのSection2: Structure and Expressionのスコアに応じて, 履修者の調整を 行っている。 研究の対象となった2008年度では, スコアが31から47に該当する場合のみ受講が許 可された。 選択の授業であるため, 英語の学習に 積極的な受講者が多いが, Section2の最低スコ アは31, 最高スコアが68であることを考えると, 英語を得意とする受講者が多いわけでは決してな
く, どちらかといえば英語が得意ではない, もし くは英語力の補強が必要である受講者が多いのが 特徴である。 実際, 「受験を経験しなかったため, 英語力に不安がある」 「英語をやり直したい」 と いうコメントを耳にすることも多かった。
5.3 授業方法
対象授業は, TOEFL ITP Section 2: Struc- ture and Expressionの問題演習を行いながら, 高校卒業までに学習した文法事項を確認し, さら に応用・発展させることを目的としている。 授業 では TOEFLテストITP文法完全攻略 (アル ク) をテキストとして使用した。 このテキストは, 関係詞, 接続詞, 比較, 分詞構文などの文法事項 に基づいた 「解法キーワード」, それに沿った例 題, さらに6回分の模擬テスト形式の練習問題か ら構成されている。 授業開講前に, 教師がこの模 擬テスト形式1回から4回までの練習問題を分析 し, 各問題を解法キーワードに挙げられている文 法事項に分類した。 その結果, それぞれの解法キー ワードに3〜7題の練習問題が準備された。
通常の授業の展開は次のとおりである (図1を 参照のこと)。 まず, TOEFL ITPの問題演習に 入る前に, 必要な文法事項を復習し, 整理してお く必要がある。 そのため, 大学入学以前に学習し た文法事項を思い出すための簡単な問題を用意し, 学習者は各々で問題を行う (図1①)。 次に, 問 題の答え合わせをまずグループ内で行ってみる (図1②)。 教師の主導で答え合わせを行う前に グループワークの時間をとることには, 学習者間 の情報交換を促し, 達成度を高めるねらいがある。
その後, 学習者を指名して答えを発表してもらい, クラス全体で答えを確認し, 教師が必要に応じて 解説を加える (図1③)。 その際グループごとに 指名し, グループリーダーに答えを発表してもら
うこともあれば, ランダムに学習者を指名するこ ともある。
このようにして必要な文法事項を確認した後, 授業の後半でTOEFL ITPの演習に入る。 後半 の流れは上述のものとほぼ同じである。 まず, 前 半で復習した文法事項にそった練習問題を配布し, 学習者が各々で問題を行う (図1④)。 次に, グ ループ内で問題の答え合わせを行う (図1⑤)。
この時に, 単に自分の選んだ選択肢を発表し, 多 数決で答えを決めてしまうことがないよう, 各自 がなぜその答えを選んだかを説明するように指示 する。 グループ内で説明し合うことによって, 学 習者同士で思考の過程を共有し, 学習した文法事 項を定着させるねらいがある。 その後, 前半と同 様に全員で答え合わせを行い, 教師が解説を加え る (図1⑥)。
5.4 グループの構成
本研究では, 先行研究を参考にしたうえで, 使 用した教室の物理的な面を考慮し, 1グループの 人数を原則4人とした。 Jacob他は, 4人グルー プはグループ内で全員が活動をすることができる 人数であり, クラス運営上, 学習を行う上でも多 くの利点があると述べている (2005, p.33)。 グ ループの構成方法は, 各グループの能力が均等に なるように成績順に分ける, 学習者に一任するな どの方法もあるが, 本研究では無作為に決定した。
具体的な方法としては, あらかじめ出席票の裏に 座席の番号を書いておき, 学習者は自分が受け取っ た番号に従って席を移動する。 学習者は指定され た席のとなり, 前もしくは後ろの席の学習者4人 とグループを構成する。 話し合う時には, 席を移 図1 授業の展開方法
① 文法事項の復習
テキストの 「解法キーワード」 にあげられた文法事項の復習を行う。 この段階では
TOEFL ITPの問題で使われているような難易度の高い構文や語彙は使わず, 大
学入学前に既習したものに近い様式で, 英作文や問題演習を行う。
↓
② グループワーク
教師による解説の前に, グループ内で答えあわせを行う。
↓
③ 答えあわせ・解説
①での課題の答えあわせを行い, 教師が解説を加える。
↓
④ TOEFL ITPの問題演習
①で復習した文法項目に沿ったTOEFL ITPの問題を5問程度, 各自で行う。
↓
⑤ グループワーク
②と同様に, まずグループ内で答えあわせを行う。 その際, 正解だと思う選択肢を 機械的に発表しあうのではなく, 答えの一致, 不一致に関らず, なぜその答えにな るかの話し合いを行う。
↓
⑥ 答えあわせ・解説
③と同様に, ④での課題の答え合わせを行い, 教師が解説を加える。
動せずに前列の2名が後ろを向いた。 また, 毎回 必ず先導役のグループリーダーを選出してもらっ た。 グループリーダーは固定せず, 原則的には授 業ごとに交替し, 必ず全員がグループリーダーを 経験する方法をとった。
6. 結 果
6.1 授業運営上での変化
授業にグループワークを導入した結果, 教師が 一方的に解説をし, 学習者はそれを聞くだけとい う従来の一斉授業のもつ問題に関して, 一定の改 善を加えることができた。 例えば, 学習者にとっ て, 授業展開①で扱う内容は大学入学前に既習し た文法事項である。 ②のグループワークの結果, 学習者同士で教えあい, 正解にたどりつくことが ほとんどであるため, ③で教師が解説する時間は 最小限に抑えることができた。
また, TOEFL ITPの問題を扱った⑤のグルー プワークの場合には, ④での各自の答えが一致し ないことが多いため, なぜその答えになるのかと いう話し合いは自発的に行われていた。 その場合, 前半の文法事項の復習の場合と異なり, グループ ワークを経て必ずしも全グループが正解にたどり ついているわけではないが, グループメンバーの 答えが食い違うことにより問題に対する関心が高 められるため, 従来の授業形式をとった場合の学 習者の消極性・受動性という問題は軽減された。
さらに, 学習者を指名し答えを発表してもらう 場合には, 一度グループ内での話し合いを経てい るため発表することへの不安感が軽減され, その 結果授業に対する積極性が促されるという利点も あった。 また, 不安感が軽減されるだけでなく, グループワークの結果, 学習者が単独で行った場 合よりも正解率が高くなるため, 学習者の達成感
を高め, 自信につながっているようにも見受けら れた。
6.2 学習者からの評価
アンケート調査の結果, グループワークを使用 した授業がよかったと答えた学習者は54名中50 名, よくなかったと答えた学習者は4名であった。
複数回答可のグループワークの授業がよかった理 由に関する質問に対しては, 「わからないことが あったときに, グループの人におしえてもらえる」
を選択した学習者が最も多く, 32名であった。
その他には, 「あてられた時に, 自分一人で考え た答えでなく, グループで相談した答えが言える ので気が楽だ」 (30名), 「リラックスした雰囲気 で授業を受けられる」 (25名), 「今までと違った 方法で楽しい」 (17名), 「ただ解説をきくより, グループの人と相談することによって, 文法事項 が身につく」 (16名) などが挙げられた。
また, 上記の選択肢以外にグループワークを使 用した授業がよかった理由として, 「文法の授業 は何か話す機会がないと眠くなってしまうので, グループワークはよい」 「話し合うことで, なぜ そうなるのかが理解でき, よい方法だと思う」
「普通の授業より皆と仲良くなれてよかった」 「人 の意見を聞くことで忘れていた文法を思い出せた」
「グループで相談するほうがやる気がでる」 など のコメントが寄せられた。
グループワークの授業がよくなかった理由とし ては, 「教師の解説による授業のほうが慣れてい る」 「自分の答えとグループで相談した答えが同 じでないことがあり, あてられた時にどう答えて よいかわからない」 「グループワークは時間がか かり, 効率が悪い」 「グループの人に教わるので は不安だ」 「グループの人と協力してやることが そもそも好きではない」 などが挙げられた。
6.3 TOEFL ITPの結果
学習者のTOEFL ITP Section 2: Structure and Written Expressionの平均スコアをクラス 分けテスト時 (2008年3月), 前期終了時 (2008 年7月), 後期終了時 (2009年1月) で比較した 結果は, 以下の表2と表3のとおりであった。 ク ラス分け時と比較すると, 前期終了時のスコアは
+4.1であった (表2を参照のこと)。 前期終了時 と後期終了時を比較すると, −3だが, 後期終了 時のスコアをクラス分け時と比較した場合には+
1.1である。
また, スコア別にクラス分け時と後期終了時の 平均点の変化をみると, クラス分け時に35点未満 だった学習者の場合には+6.9, 35点以上40点未 満の場合は+2.3の変化があった。 その一方で,40 点以上45点未満の学習者の場合は−0.3, 45点以 上の場合には−4.4であった (表3を参照のこと)。
7. 考 察
以上がグループワークの導入によってもたらさ れた授業運営上の変化, 学習者からの評価, およ
びTOEFLスコアの変化である。 次に, この結
果を基に研究課題それぞれを検証しながら, グルー プワークを導入した文法の授業の可能性について
考察したい。
7.1 文法授業におけるグループワークの有効性 (研究課題1)
グループワークのマイナス点として, 教師がコ ントロールできないという点が挙げられている。
さらに本研究では, スピーキングやリーディング のクラスと異なり, 答えの決まっている文法の授 業においてグループワークが機能するのかという 課題があったが, 調査の結果, 90%以上の学習者 からグループワークを導入した授業がよかったと いう評価を得た。 評価する理由として最も多かっ た 「わからないときにグループの人におしえても らえる」 という点は, 学習者間で知識の伝達が効 果的になされていたことを示唆しており, 対象授 業におけるグループワークの有効性を示している といえる。 特に, 大学における文法の授業では, 既習の文法事項を思い出し, それを応用すること が中心となるため, グループワークの長所が活か されるようである。
7.2 授業効率への影響 (研究課題2)
前期終了時のTOEFL ITPの平均スコアと後 期終了時の結果を比較するとスコアに落ち込みが 見られるが, 通年ではグループワークを導入した ことにより, 僅かではあるがスコアが上昇した。
よって, グループでの話し合いに時間がかかり, 相 対 的 に 問 題 演 習 の 時 間 が 減 り , そ の 結 果
TOEFL ITPのスコアに影響がでるのではないか
という課題に関しては, グループワークの導入に よって授業効率は必ずしも悪化しないと言えるだ ろう。
7.3 グループ内での役割の固定化 (研究課題3) グループワークのマイナス面として, グループ 表2 Section2: Structure and Written
Expression 平均スコアの変化 2008年3月 2008年7月 2009年1月
39.7 43.8 (+4.1) 40.8 (+1.1)
表3 スコア別平均点の変化 (2008年3月→2009年1月)
35点未満 35点以上 40点以上 45点以上
+6.9 +2.3 −0.3 −4.4
での役割が固定されてしまうという不安が挙げら れている。 文法の授業にグループワークを導入す ることで, 文法を得意とする学習者が主導権を握 り, 不得意とする学習者がおきざりにされてしま うのではないかという懸念があった。 こうした役 割の固定化を防ぐために, 授業では毎回グループ リーダーを替えるようにしたが, 70%の学習者は この点を好ましいと評価した。 加えて, クラス分
け時のTOEFL ITPのスコアが低かった学習者
ほど, グループワークによるスコアの伸びが大き かったという結果が得られた。 以上の点から, 工 夫次第でグループ内での固定化を防ぐことは可能 であり, グループワークを導入することによって 英語が苦手な学習者が疎外されることはないと言 えるだろう。 むしろ, グループワークは英語が苦 手な学習者に適した指導法なのではないかと考え られる。
8. ま と め
本稿では, 学習者中心の文法指導法として, グ ループワークを導入した授業の可能性を考察した。
グループワークを導入した結果, 教師が一方的に 解説をし, 学習者はそれを聞くだけという一斉授 業のもつ問題に関して改善を加えることができた。
現状では文法の授業にグループワークを導入した 報告例は決して多くはないが, その可能性は今後 積極的に見直されるべきであろう。
本研究では, 文法指導におけるグループワーク の導入に関して多くの学習者から積極的な評価を 得ることができたが, その一方で, グループワー クを使用した授業がよくなかったと評価した学習 者がいたことも事実である。 グループワークを導 入する際に, 他の人と協力してやることがそもそ も好きではない学習者がいるということは配慮す
るべき点であり, そのような学習者にどのように 対応すべきかは今後検討されるべきであろう。 ま た, グループワークを積極的に評価しつつも,
「グループ内にやる気のない人がいると迷惑であ り, 逆効果だ」 とコメントした学習者もおり, グ ループワークを導入したからといって必ずしも積 極的な学習環境が築かれるわけではなく, 学習者 間の協力がスムーズに行われるための教師の工夫 が必要であるという課題も得られた。
TOEFL ITPの結果に関しては, 通年でみると スコアに多少の伸びが見られたが, 後期終了時の 結果を前期終了時のものと比較した場合には, ス コアの落ち込みが見られる。 落ち込みの原因の一 つとして, 大学生活全般における意欲低下に伴う 学習意欲の低下が考えられるが, 詳細に関しては より長期的な調査による精査が必要である。
今回の調査では, 学習者に最適なグループワー クの形態を探る目的で, アンケート調査の項目に グループの決め方や人数, グループを変える頻度 に関する質問を加えたが, 対象授業で採用した方 法に肯定的な意見が大多数を占める結果となっ た。 学習者にとって理想的なグループワークの形 態に関しては, 選択枝として挙げた他の形態の導 入も試み, 今後も考察を続けていきたい。
以上のような課題はあるものの, グループワー クには学習者の意欲を喚起し, 授業への積極的な 参加を促進するという教育的効果が期待できる。
グループワークという学習者中心の指導を導入す ることで, 大学における文法授業の可能性は広がっ ていくだろう。
本稿は2009年9月に開催された大学英語教育学会 (JACET) 第48回全国大会で筆者が行ったポスター 発表 「学習者中心の文法指導 グループワークの試 み」 に加筆・修正を加えたものである。
謝 辞
本研究の実施にあたり, 明治学院大学教養教育セン ターの高桑光徳先生に様々な助言をいただきました。
深くお礼申しあげます。
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付 録
英語特別研究におけるグループワークについてのアンケート
英語特別研究のクラスでは, 1年間, 授業にグループワークを積極的に取り入れてきました。 今後の 授業の改善のため, グループワークの是非や具体的な方法について, 受講者の方の意見を伺いたいと思っ ています。 ご協力お願い致します。
小泉 有加 米田みたか
アンケートにあたってのお願い
●無記名アンケートですので, 氏名等の記入の必要はありません。
●いつ辞退しても構いません。
●内容については, 研究以外の目的では使用しません。 第三者に見せることもありません。
0 高校生のときに受けていた英語の文法の授業は., .のどちらでしたか? どちらか1つに○
を入れてください。 それ以外の場合は.に記入してください。
. 教師による解説を中心とした授業 . グループワークを中心とした授業 . その他
( )
英語特別研究の授業でグループワークがあったのは (どちらか1つに○を入れてください) . よくなかった → 質問へ
. よかった → 質問〜 へ
◆の質問は, でグループワークの授業が 「. よくなかった」 と答えた場合のみ答えてください。
グループワークの授業がよくなかったのはなぜだと思いますか? 該当する理由すべてに○を入 れて下さい。
. 教員の解説による授業のほうが慣れている . グループの人に教わるのでは不安だ
. グループの人と協力してやることがそもそも好きではない . グループワークは時間がかかり, 効率がわるい
. 緊張感に欠ける
. 自分の答えとグループで相談した答えが同じでないことがあり, あてられた時にどう答えてよ いかわからない
. グループに協調性がなく, かえって大変だ . その他
( )
◆〜の質問は, でグループワークの授業が 「. よかった」 と答えた場合のみ答えてください。
グループワークの授業がよかったのはなぜだと思いますか?該当する理由すべてに○を入れて下 さい。
. 今までと違った方法で楽しい
. リラックスした雰囲気で授業を受けられる
. 分からないことをあったときに, グループの人におしえてもらえる
. あてられた時に, 自分一人で考えた答えでなく, グループで相談した答えが言えるので気が楽 だ
. ただ解説をきくより, グループの人と相談することによって, 文法事項が身につく . 前よりも文法がわかるようになった気がする
. 前よりも文法が面白いと感じる . その他
( )
グループの決め方はどのようにしたらよいと思いますか? 一番よいと思うもの1つに○を入れ て下さい。
. 教員が指名する . 自分たちで決める . その他
( )
で 「. 自分たちで決める」 と答えた方へ, どういう基準でグループを決めたいですか。 一番 よいと思うもの1つに○を入れて下さい。
. 仲のよい友達
. リーダーシップを取ってくれそうな人と組みたい . 文法に強そうな人と組みたい
. 積極的に意見を言ってくれる人と組みたい . その他
( )
グループを変える頻度はどのくらいがよいと思いますか? 一番よいと思うもの1つに○を入れ て下さい。
. 毎回変える
. 4回ぐらいで変える
. 半期の間は同じメンバー . 1年間同じメンバー . その他
( )
グループリーダーの決め方はどのようにしたらよいと思いますか? 一番よいと思うもの1つに
○を入れて下さい。
. 教員が指名する
. やりたい人がやる (自主的に) . 順番 (全員が担当)
. じゃんけんで決める . その他
( )
グループリーダーを変える頻度はどのくらいがよいと思いますか? 一番よいと思うもの1つに
○を入れて下さい。
. 1回の授業内で, グループで話合う度に変える . 毎回の授業で変える
. 授業4回ぐらいで変える . 半期の間は同じリーダー . 1年間同じリーダー
. その他
( )
今後もグループワークで文法の授業を受けたいですか。 最も近いもの1つに○を入れてください。
. はい . いいえ
. どちらとも言えない
今後グループワークをよりよくするために, 意見, 提案, アイデアがあったら書いて下さい。
ご協力どうもありがとうございました。