三重大学教育学部附属教育実践総合セ ンター紀要
2010,
第30号,77‑82頁「生命誕生の授業」における児童の認識
二二重大学教育学部附属小学校2008年度3年 A組、5年C組の「赤ちゃんの旅」文集の分析―
佐 藤 年 明 1)0杉
村 伸 一分・ 藪 中 俊 典
"
本稿 は、佐藤「小学校性教育における『生命誕生過程』の授業実践の自己分析」
(2008年
)、「三重大学教育学 部附属小学校での 2つ の実験授業 における指導効果の比較検討」 (2009年)の続編である。過去2稿 で 自己分析 した授業実践「おなかの中の赤 ちゃんの成長」 (2007年3月 2日
、4年B組、全2時 間/2007年12月 11日
、4
年C組、全2時 間)に続 き、2008年 度 に「おなかの中の赤ちゃんの成長」(2009年 1月 22日
。28日
。29日
・3 月5日
、3年A組、全 5時 間)、「赤 ちゃんのいのちの始 まりか ら誕生 まで」(2009年 1月 22日
・28日
・2月 13日
・3月 3日
・6日 、5年C組、全 5時 間)を実施 した。2008年 度実践は初めて複数の学年学級での並行的実施 となっ た。両学級の学習内容には違いがあるが、学習の総括 として子 どもたちに「赤ちゃんの旅」 と題する作文を書か せたことは共通 している。そこで授業者 ・佐藤 と両学級担任の杉村 。藪中の共同討議により、学習内容である胎 児の成長に関する児童の認識お よび感情 を分析することを今次実践の総括の主要課題に据えた。なお本稿は、平成 19年 度〜 21年 度科学研究費補助金 (基盤研究
(B))「
共生社会における性教育の現代的意 義一 スウェーデ ンの先進的事例 に学ぶ―」(課
題番号 19402048)の 一環 としての、 日本 における基礎研究の一部 をな している。キーワー ド:「性教育」「生命誕生」「感想文」「児童の胎児観」
1.は じめ に ―は じめ ての複数 学年 での並行 実践
佐藤の三重大学教育学部附属小学校 における<ヒ トの 生命誕生>に関す る授業実践 は、2008年度で第3年次 とな り、初めて複数の学年学級か らオフアーを受けた。
第1・ 第2年次の授業 はいずれ も4学年であったが、第 3年次は3学年 と5学年である。3学年 はこれ まで よ り 低い学年であるので、児童にとってわか りやす く関心 を 持 ちやすいような学習過程の工夫が必要になる。 また5
学年児童の3分の 1は 、第2年次の授業で出会 っている ので、単なる繰 り返 しとならないよう工夫が必要である。
これ らに留意 して行なった両実践 を展開過程 に沿って 分析 し、また両実践 を比較検討することも必要であるが、
本稿ではそれ とは異なる限定的な総括作業 を行 なった。
第 1次 。第2次実践では、準備過程で対象学級の担任 教員 に授業者の意図や計画 を伝 え、意見 を求めたが、分 析 ・総括作業 は授業者が単独で行 なった。そ こで、第3
年次の第3次実践 (3年A組)・ 第4次実践 (5年C組)
については、両学級担任の杉村教諭・藪中教論 と佐藤の 3名で総括作業 を行なうに した。 しか し、第3次・第4 次実践合わせて lo時 間の授業実践 を詳細 に分析す る作 業は時間的に難 しい。そこで、両実践 に共通 して実施 し た学習過程終盤での「赤ちゃんの旅」作文について共同
1)三
重大学教育学部学校教育講座2)三
重大学教育学部附属小学校検討することが、初めての複数学年学級並行実践 という 貴重 な機会 を有効 に活かす ことにもなると考えた。
本稿 は上記のような経緯 を踏 まえて、1〜 5を 佐藤が、
また 6を 藪中、杉村、佐藤が分担執筆 した。
2.授業全体 の構成
第
3次実 践
(3年A組)の構 成 は 、以 下 の 通 りで あ る 。
[到達 目標
](1)人
間の胎 児 は、受精 か ら出産 まで約 280日 間母親 の胎 内で 生 活す る こ と、 その 間体 長が約
2000倍にな る な ど、驚 異 的
な成長 を遂 げることが わか る。
(2)人
間の胎 児 も、成長の初期 には他 の動物 の胎児 とよ く似 た 体つ きであ り、 え らや しっぽ 。太い体毛 な ども持 ってい るこ と、胎 内での成長 に伴 ってそれ ら初期 の特徴 は消滅 し、人間 ら しい体型 に近づいてい くことがわか る。
(3)胎
児 と母体 を結 ぶへ その緒 は、酸素 ・栄養 の摂取 と老廃物 の排 出の機 能 を持 ち、胎児が生 きてい く上で不可欠の「命綱」
であるこ とが わか る。
*( )内
は、各節 の到達 目標 を示す。
o‑1.自
己紹介
(教育学部 の教員 であ る こ とを紹介す る。
)0‑2.家
族 紹介
(学習 の導 入 と して、授 業 者 の子 ど もた ちの こ とを紹介す る。
)1.受
精 か ら誕生 に至 る胎 児 の驚異的成長
1‑1.出
生 直後 の胎 児
(出生 直後 の胎 児 の 身長 が約
50cmであ るこ とを確認す る。
)1‑2.受
精 か ら出生 まで の 身長 の驚異 的伸 び
(受精 か ら出
生 までに、赤 ちゃんの身長が約 2000倍 に成長す るこ とを実感的に把握する。)
2.母胎内での胎児の形状変化 (ヒ トの胎児の成長過程 と、他 の動物のそれ との共通点 と違いを知 り、そこか らどんなこと が言えるかを考える。)
※第 1時 の授業 をめ ぐる質問や感想 を出 して もらう 3.母胎内での胎児の生活の不思議
3‑1.子どもたちの疑間 を相互交流する (前時終了時の子 どもたちの疑問点 を相互に知 り合 う。)
3‑2.母胎 内の胎児の映像 を見 る (動画 を見 ることで、母 体内で胎児が生 きていることを実感する。)
3‑3.胎児の生活 を想像す る (胎児の母体内での生活 と今 の 自分たちの生活の違いを考え、また疑問点を発見す る。)
3‑4。 子 どもたちの予想 ・質問集か ら学習をは じめる 3‑5。 へその緒 (踏帯)の役割 (胎児が暦帯 を通 じて母胎
か ら栄養 ・酸素 を受け とり、 また老廃物 を排出 してい ることを知る。)
3‑6.赤ちゃん とお母 さんの血 は混 じり合 わない (胎盤 に おいて栄養 。酸素や老廃物の交換が行 なわれているこ
とをイメージで きる。)
3‑7.赤ちゃんの食事 (赤ちゃんは 一原則 として 一口か ら 栄養 を摂取 しないことがわかる。)
3‑8。 胎児 の排泄行動/飲む/食べ るP/しゃべ る?(暦
帯 を通 じて栄養 を摂取 し、老廃物 を排 出で きるにもか かわ らず、胎児が排尿行動 をした り羊水 を飲んだ りす ること、それは出生後の消化・排泄等の行動に向けて の訓練ではないか とも考えられていることを知る。)
3‑9.胎児の聴覚
3‑10.胎児の視覚
3‑H.逆 子
4。 まとめの作文「赤 ちゃんの旅」
第4次実践 (5年C組 )の構 成 は、以 下 の通 りで あ る。
[到達 目標]
(1)受 精のためには性交 (ペニス とワギナの結合)が必要であ ることがわかる。
(2)人 間の胎児 は、受精か ら出産 まで約
280日
間母親の胎内で 生活す ること、その間体長が約 2000倍 になるな ど、驚異的 な成長 を遂げることがわかる。[復
習事項](3)人 間の胎児 も、成長の初期 には他の動物の胎児 とよく似た 体つ きであ り、えらや しっぽ・太い体毛なども持 っているこ と、胎内での成長に伴ってそれ ら初期の特徴は消滅 し、人間 らしい体型に近づいてい くことがわかる。
[復
習事項](4)胎 児 と母体 を結ぶへその緒は、酸素 。栄養の摂取 と老廃物 の排出の機能 を持ち、胎児が生 きてい く上で不可欠の「命綱」
であることがわかる。
[復
習事項](5)出 生は胎児 と母親の共同作業であること、出生直前に肺呼
佐藤 年明・杉村 伸一 。藪中 俊典
吸に切 りかわ り、胎 内の生活 とは一変 した新たな生活が始 ま ることがわかる。
(0〜
2は 第 3次 実践 と同 じ構成であるため省略する。)3.胎児の生活 を想像する (胎児の母体内での生活 と今の自分 たちの生活の違いについて、予想できることを共有する。)
4.受精のためにどうして も必要なこと=性交
4‑1.卵子 はこの ようにつ くられる (卵子 は約一 ヶ月ごと に 1個 つ くられること、卵管で精子 と出会 うこと、受 精で きる時間はわずか数時間 しかないことを知る。)
4‑2.精子はこうして卵子 と出会 う (性交)(男性のペニス が女性のワギナに挿入 されることによって精子が女性 の胎内に送 り込 まれることをcG映像で理解する。) 5。 踏帯=赤ちゃんとおかあさんの命綱
5‑1.へその緒 (磨帯)について知っていること
5‑2.へその緒 (踏帯)の役割 (胎児が磨帯 を通 じて母胎 か ら栄養 ・酸素 を受け とり、 また老廃物 を排出 してい ることを知 る。)
6.胎盤の機能をイメージする
7.胎児の排泄行動等 (踏帯 を通 じて栄養 を摂取 し、老廃物 を 排出で きるにもかかわ らず、胎児が排尿行動 をした り羊水 を 飲んだ りをすること、それは出生後の消化 ・排泄等の行動に 向けての訓練ではないか とも考えられていることを知る。)
8.胎児の潜在能力
※前回の授業へのみんなの感想や疑間を取 り上げる 9.胎児の体型変化
10。 双子誕生の ドキュメンタリーを見 る
H。 まとめ=「赤 ちゃんの旅」の作文発表
3.作文「赤ちゃんの旅」の位置づけ
第3次実践では、最終第5時の末尾に、この課題 を下 記のように説明 して提起 した。
「いのちのスター トか ら誕生 までの赤ちゃんの旅につい て、みんなが赤 ちゃんになったつ もりで書いてほ しい。
赤ちゃんは書けませんけど、赤ちゃんになったつ もりで、
どういう旅 をして きたか。ここで習ったことを書いて も いいんです よ。で も、習わなかったこととか、疑間が解 けなかった ことで、『こうじゃないかな?』 と思 うこと を想像 して書いて もかまいません。正 しいことだけ書 く ん じゃな くて、『こうかな?』 と思 うことをぜ ひ…ロマ ンチ ックな赤ちゃんの旅 を書いて下 さい。」
回収 した作文は、後 日文集に して配付 した。
第4次実践では、最終前時の第4時に、下記のように 説明 して課題提起 した。
「赤ちゃんの旅…性交か ら始 まって、おなかの中で どん どん大 きくなって、
(誕
生の ところは 6日 にまだ残 って るんですけど)そこまでやった後で、赤ちゃんの旅につ いて、勉強 してないこととか、疑間がまだ解けてないこ一‑78‑一
ともあると思 うんです よ。『こうじゃないかな?』 と想 像 して もらって もいいんで、赤ちゃんの旅 という作文 を
6日 までに書いて きて下さい。」
そ して最終第5時の末尾に「赤ちゃんの旅」作文の発 表時間を設けた。子 どもたちは発表することを恥ずか し がつたが、それで もH名が発表 して くれた。
4.3年A組の「赤ちゃんの旅」作文事例と分析
「赤ちゃんの旅」作文は、「旅」 という流れや構成が重 要な文章であるため、省略せず全文 を紹介 した。 このた め、紙数の制限 もあ り取 り上げる作品数を限定せ ざるを 得なかったことを予めお断 りしてお きたい。
(下
線は佐藤)①
(第
一章)仲間をおってある日ぼ くが 目ざめた らそこは暗い部屋。あた りをよ く見回 してみると、仲間がた くさんいた。その中の一 つがぼ くだ。その時は名前 も何 もついていなかった。
小 さい小 さい生 き物だ。ある日、みんなが きゅうに動 き出 した。ぼ くは、聞いた、「何 をす るの。」「長い旅 だよ。」一人の子が教 えて くれた。ぼ くは、えっと思 っ た。だがぼ くは、だい じょうかなあとふあんで心配だっ た。そ して、いよいよ、本当に動 き出 した。 日に日に ぼ くは仲間についていった。 とちゅうで力つ きた りの りお くれた りしたやつ もいた。で もぼ くはひっしにつ いていった。つ ぎの 日もつ ぎの 日も仲間を追いかけた。
みるみるぼ くの体はやせ細 ってい く。それで もいつ ま で も一。
(第
2)せい しとらん じがまじわる。ぼ くたちの仲間が どんどんへ っていった一お く匹 ぐら いいたのが百匹にへっていた、ぼ くたちの仲間も顔色 がす ごくへんで今にも死にそうだった。ぼ くは、
「あっあそ こになにかある」 と言い ま した。そ うした ら、「みんなおいで〜」 と言われた。ぼ くは、 さい後 の力 をふ りしぼって声 をかけて くれた生物にとびこん だ、ぼ くが一番の りだった。ぼ くは、その生物に言っ た。「 きみだれ、そ してぼ くだれなんだ…」そ したら、
「ぼ くはらん しあなたはせい しだよ」 とらん しは言 っ た。そ して、 らん しは、 もうせい しが入ってこないよ うにガー ドをは りました。ほかの子は しんで しまいま した。そ して、新 しい命のは じまりです。
(第
3)赤ちゃんたん じょうぼ くはいつのまにか手や足顔 もついていた。 まだぼ く は小 さかった。お母 さんか らごはんをもらっている おい しいなあザ ァー血 えきがながれている。ぼ くはだ いぶ大 きくなった。ぼ くは足で どんどんおなかをけっ た。そうすると、どこか らか、「 どんどん しているね。」
と声が聞こえる。「はや く生 まれてね。」ぼ くは、 しゃ
「生命誕生の授業」における児童の認識
べれないけどアピール した。五時になったついに母さ んにげ きつ うが始 まったついに手ずつの時が きまし た。三時間かけてやっとうまれました。「オギャーオ ギヤー。」 これが きせ きです。一お くもあるせい しか ら一匹えらばれた物です。ぼ くは自分で自分 をすごい なと思います。1999年 6月 21日 これか らも命 を大切 にしていつ も気 をつけてい きてゆきたいです。
(KS)
3Aで最 も長い作 品である。3Aでの学習の出発点は、
事前の藪中教論 との協議に基づ き、 これまで2年次に渡 る4学年での実践 と同様、性交 を扱わずに精子が卵子 と 合体する瞬間の写真 を提示することか ら始めた。従 って、
この作 品の「第一章」「第二章」 は、KS児の 自学 に基 づ く想像である。多 くの児童が精子 と卵子の合体から叙 述 を始めているが、それ以前の過程 に触れた もの も数名 あった。 なお、KS児の作品の「第三章」 も前半は授業 の学習内容であるが、後半の出産については学習 してい ない。授業での学習事項だけに基づ くのではな く、自由 に想像 してよいと指示 したので、精子の旅の始 まりか ら 出産 までの 卜,タルな物語 を描いたのであるも
精子 と卵子の結合以前の経過 を授業 では学習 していな い こ とが、TK児の場合 はメルヘ ンのス トー リー を創作 す る こ とに結 びつ い てい る。 この児 童 の胎 内生活 の イ メージは、体 の器官が次 々に作 られ、成長 しなが ら誕生 を待ちわびている、というものである。授業では、栄養 摂取0排泄0呼吸・視覚・聴覚など、胎児の身体機能に 注 目したのだが、TK児の関心は、器官の形成の方にあっ たようだ。
②ある日せい子くんとらん子ちゃんが道で歩いていて ぶつか りました。そのとき、どっちもみとれていまし た。そ して、赤ちゃんにいっしょにな りましょう。 と 言って小 さいたまごにな りました。たまごか ら、少 し ずつ人間の形にかわって きました。だんだんかお と体 が出 きて きて、 口がで きたよ鼻 も日もで きたよ手 と足 ができたよゆびも五本できたよもうわたしたちは人間 だ。こんどは、はや くでて外をみたいよ。声が来こえ たお母さんの声かな ?は や くお母さんを見てみたい。
わくわくなんだかきつ くなってきたよ体 も顔 も大きく なったよもうす ぐしたら外 にでれるかな?なんだか ちょっとさがってきたよ、あともうちょっとかな?外 はどんな所だろう。なにがあるのかな?あっ顔が外に でた。はや くでたいはや くでたい「ぱ」あでたウェー
ンウェーン自分でこきゅうができた。やった。
(TK)
③1998年のある日、ぼくは、2お くこいじょうのせ
い子 の 中か らなぜ か
lrく
だ けが ぇ らば れ て 、小 さな小 さなたまごにな りました。いったい、ぼ くは、 どうな るの ?あ んなにた くさんの ともだちがいたのに、ひと りぼっち。ぼ くは、たった 1人 で、 まっ暗でせ まいへ やにとじこめ られて どんどんちが うかたちに変化 して いった よ。ぼ くは何 になるのかな。 ここはどこかな。ぼ くが少 し大 きくなって、気がつ くとぼ くのおへやは、
お水 だ らけ。ぼ くは、一 日中気持 ちよく、プカプカう いていたよ。時々ひまだったか ら、手や足 をバ タバ タ 動か して、水 あそびをしていたよ。そ してつかれての どがかわいた らえい ようのお水 を飲んで どんどん元気 になったよ。で もぼ くは、 まだ何 も食べ られなかった か らお母 さんか らさんそ とえい ようをもらっていたん だ。 このへやは、暗 くて きゅうくつだけどとって もふ わふわプカプヵ、まるで うちゅうにいるみたいで、ぼ くは、た くさんの きらきらした星 にかこまれているゆ めをよく見たよ。それか ら、時々お母 さんの話 とか笑 い声 とか、 きれいな音が きこえたよ。 とて もタトが どん な世界か早 く見た くてが まんで きな くて、大 きくなっ た足でおへやをけった り手でパ ンチ した りして合図 し たけど気づいて くれなかったよ。 このおへやの外 はど んな世界かな?楽しそ うだな、早 くでたいな…。1999 年5月 16日午前5時47分ぼ くは、まっ暗なへやか ら
とって も明るい世界へ10カ 月 もかけてやっ ととび出 しました。あ―よかった。 (KH)
胎 内生 活 につ い てKH児は、孤 独 、 ま っ暗、狭 い、
窮屈 な どの負 の イメージ と、気持 ちいい(プカプカ、 ひ まな どの正 の イメー ジ を持 ってい る。 いず れ に して も、
外 の世 界へ の誕生 を待つ準備 の時期 とい うとらえ方であ る。
IR児は数字 (受精卵 の直径、胎児 が飲 む羊水 の量、
胎内生活の 日数)にこだわっている8羊水 を「胎盤の中 の水」 と誤解 している。授業では第3時に胎児が羊水 に
佐藤 年明・杉村 伸一 ・藪中 俊典
よって満 た された袋の中で生活 していることは押 さえた が、煩雑 さを避 けて羊膜 0子 宮 などの用語 は教えていな い。胎児 と母体が、その緒でつながれていること、へそ の緒が母胎 につ なが る接続面 に胎盤があることは図示 し て教 えたが、IR児の母胎 の構 造理解 には混乱があつた ようだ。胎 盤 の機能 につぃてNHK「驚異 の小宇宙 人体」
〕 ″Dの映像 で学 習 した こ とが強 く印象 に残 つていたの か もしれ ない。
⑤せい子 とらん子が合体 して命がはじまりました。命 は、お母さんのおなかの中ですんでいました。赤ちや
おはなにかとぃうことです。ぉなかの中であばれてい ました。えいようをとってぐんぐんそだっていきまし た。やがて、まくが、小さくなったようにかんじられ ました。タトからなにか聞こえてきました。よくわから ないので聞 くのをやめときました。赤ちゃんは、なく れんじゅうを心の中でしていました。さかさまにむい て、「お ぎゃ―」 と生 まれました。よかったと赤ちゃ んは思いました。 (IY)
IY児のへ その緒 に関す る記述は興味深い。授業では 胎児の胎 内生活 に関する学習の最初にへその緒を通 じて の胎児の母胎 とのつなが りについて学習 した。この結果 IY児自身がへ その緒 を強 く意識するようになったので あろうが、赤ちゃんがへその緒は何かを気 にするとはど うい うことだろうか。「へその緒 は大事 なんだけど、そ の意味は赤 ちゃん自身にはわか らないだろうなあ。」 と い うことなのか?それ とも、「赤ちゃんは、 自分の体に 付いている太いホースみたいなもののことが気 になるだ ろうなあ。」 とい うことなのか?
5.5年C組の「赤ちゃんの旅」作文事例と分析
① らん子のか らをつ きやぶって、一ぴきつ きやぶった 精子が、男性のDNAや情報 を伝 える。
そ して、男性 と女性の情報 を照 らし合わせて、男性 と 女性のDNAを もつ こどもが生 まれる。メダカやヮニ やブタと似た原型 を持つ、「赤ちゃんの もと」ができる。
しっぽがな くな り、まわ りは羊水が しようげきなどか ら赤ちゃんを守 り、目が しつか りとで きて、体の形が、
が つ しりとして きて、
(お
しつこなどもす る)へその おか ら栄養 をもらい、 また、へそのおを通 してい らな い ものをすて、(丁■音るのウイルスなどもJまいる)赤ちゃ んがたん じょう!! (HM)妊娠初期 の ヒ トの胎児 の体形が他 の動物 の胎児 と類似 してい る こと、当初 しっぽ状 の ものがあるが後 に消失す
④精子がおよぐようにらん子にぶつかろうとしてたっ た一ぴきの精子が らん子に入った。これで命がたん じょうした。その高さはo。lmmぐ らいのころで した。
それから一 日一日えいようをもらってす くす くそだっ ていきました。270日 しかはたらかないたいばんの中 の水を毎 日750mlのんでえいようももららて育ちまし た。255にちごろぼ くはうごいてお母さんのおなかを ドン、 ドンとたたいた。268日がたったころおかあさ んにふ くつうが きてぼ くもでるじゅんびをしていた。
270日 ぼくやつとはじめて外にでれました。
(IR)
一
‑80‑一「生命誕生 の授業」 における児童 の認識
ることは第1時に、へ その緒 の役割 は第2時に学習 し た。DNAの ことや胎盤が一部のウイルスを通 して しま うことは、学習課題 とは してぃないが、第2時に視聴 し たNHK「驚異の小宇宙 人体」〕/Dの説明の中に出て きた。HM児は、授業中に得た情報 を多 く盛 り込んで物 語 を構成 している。
②ぼくは真っ暗な羊水の中でひとりぼっち、たまにお 母が話 しかけて くるが、そんなのじゃものた りない。
そこで考えた。その他の仲間に会 う前にどう接すれば いいか、どう笑ったらいいか、このたっぷ りと時間の ある真っ暗な空間の中で練習すればいいのだ。
そしてむかえた本番、この世に現れ、初めてすう空気、
初めて会う仲間。うまくできるかな? (NM)
NM児は、授業で学習 した胎児が生 まれてか らの生活 に向けて身体機能 を使 う練習 をするとい う事実 を、「孤 独で暇で時間がたっぷ りある」 とい う胎内生活観 と結び つけて説明 している。
なお、同児は第4次実践第2時の感想文に「 もともと 性交のことは知っていたけれ ど、大たんにその事 を言っ て くれたので良かった。」 と書いていた。
IK児も、胎内生活がまっ暗でせまく、また永遠に続 くかと思うほど長いとイメージしてお り、出生児の泣 き 声は同じ人間に出会ったことによるうれし泣 きだと解釈
している。また、胎児はまだ母親 というものが認識でき ないが、胎児と「女の人」をつなぐへその緒が重要であ るということで、物語を作 り上げている。
母 さんいつ も栄養あ りが とう。私は、お母 さんのおな かの中はせ まくてひまでいごこちわるい。やっぱ りひ まだ。お母 さんのおなかけってやる―。ボヨーン。お 母 さんには、勝てない。最初 は、ぶ さい くだけど、 ど んどん育って きれいになるか らね。私は、お母 さんの 上 ころに生 まれたかったか ら何億人 もいるみんなとた 女かった よ。たった私だけがのこって ここにいるんだ。
がんばってお母 さんのおなかか ら出ていろんなことし
ようね。 (ON)
ON児には、 まだ幼い妹がいる。妹が生 まれる過程 を 回想 して作文を書いたのであろうか。胎内が狭 くて居心 地が悪 い とい うイメージ と共 に、他 の精子 との競争 に 勝 って受精 したの もお母 さんに会いたいか らとして、誕 生 による母親 との対面 を楽 しみに しなが ら胎 内生活 を 送っているとい うとらえ方をしている。
⑤赤ちゃん太郎君の旅
「ポ コッ」赤 ちゃんの太郎君 は、元気 な音 とともに、
旅 に出 ま した。太郎君の まわ りには、か らがあ りま す。そ う、太郎君は今、卵子 として、せん毛に動かさ れ、子宮 に向かっているのです。「ああ、早 く精子 と くつつ きたいなあ。」しか し、それを口では言えません。
体がないのです。で も、細胞が分れつ してい きます。
そのころ、お母 さんとお父 さんは、お医者 さんと相談 して、性交 を しました。精子 も、「早 く卵子 と出会い たいなあ。」と思っています。で も、それが出来るのは、
三億ある精子のうちたったの一つの精子だけです。精 子たちは、卵子 に向かってまっ しぐら。 どんどん進ん でい きます。 ミ トコン ドリアのエネルギーを使って、
進む、進む。
そ して、エネルギーを使い果た したころ、一つの精子 が、こう素でか らをやぶ り、受精 しました。卵子 と精 子のDNAが結 び付 き、今か ら、太郎君は、人のすが たに成長 してい きます。
(後
略) (KN)ICN児の作品は5Cで最長であるが、紙数の都合か ら この作 品に限 り後半部分 を省略 した。 この作品で注 目 したいのは性交 に関する説明の部分である。授業では、
NHK「驚異の小宇宙 人体」のCG画像 を視聴 させて、
父親の「おちんちん」が母親の体の中に挿入 されること によって精子を卵子のところまで送 り届けるメカニズム を説明 した。 しか し、 どのような経緯で父親 と母親が性 交に至 るのかについては説明 しなかった。ICN児はその 部分のス トーリーを埋め ようとして「お医者 さんに相談 して」 とい う説明を生み出 したのであろう。受精 を確実 にす るためのア ドバ イス を受 ける と考 えたのであろう か。あるいは、妊娠 を希望 しなが らなかなか実現で きな
④暗いしひまだな―。
く温かい。ゴクゴク。
でもお母さんのおなかは、すご 羊水ってけっこうおい しい。お
③ ぼ くが生 まれてなかった ときの話。ぼ くはまだ 目が 見えず真っ暗やみの中で くらしていた。で も、経験か らい くと、せ まい空間の中とじこめ られるように して 毎 日毎 日永遠に くらしているようだ。 また、はらの部 分か ら長いひものようなものが上の方へ続いているこ ともわかった。 さらに、上の方か らかすかなが ら女の 声が聞こえているようだ。 もしか した ら、このひも
(ヘ
そのお)をた ぐれば、その女の人 と二人で くらせると 思い、ひっ死でひもをた ぐっていった。だが体 と気持 がかみ合わず、失敗 に終わった。ぼ くは、またこのま まずっとくらしていた…。ある時まぶ しい光が差 しこ んで きた。そ して、その光の中にはい出 した。そこで、ぼ くは、初めて同 じ様 な「仲間」 を見つけたので、 と Fも うれ しくて、泣いて しまった。
(IK)
い夫婦が医師に相談す る とい うような情報 を得ていたの か もしれ ない。KN児の物語 は、性交 だけで な くそれ以 前 の過程 も含 めて、生殖 メカニズ ムの面か らだけで な く 人間関係 の面か らも学習 を行 な うことの必要性 を示唆 し て い る。 しか し、 ここには
privacyも
絡 んでお り、適切 な教材 の編成 は容易 で はない。6.両ク ラ ス の 作 文 事 例 の 比 較
ここでは、作文事例についての3名の共同討議に基づ き、 まず両 クラス担任 の藪 中、杉村が コメン トを述べ、
最後に佐藤が全体 を総括する。
3年 A組の作文について
(藪
中俊典)第 1時 は、佐藤先生か ら、受精か ら胎児の成長につい て絵 や写真 を通 じて教 えていただ く形で学習 を進めた が、第2時以降は、子 どもたちの疑問を取 り上げ、それ についてみんなで意見 を出 し合った り、佐藤先生に答え て もらった りする形で学習 を進めていった。
第2時では、第 1時 で胎児 について興味をもった子 ど もたちか らは様 々な疑間が出されたが、「音や声が聞こ えているのか。」「呼吸 をしているのか。」「 しゃべ ること はで きるのか。」「 どうや って栄養 をとっているのか。」
「 うんちやお しっこはするのか。」 といった疑間をもつ子 どもが多 くいた。子 どもたちは、妊婦 さんのお腹が大 き いことや2年生 までの生活科での「 自分 自身の成長」の 学習か ら、お腹 の中で胎児が大 きくなってい くことや 自 分 自身がお母 さんのお腹 を蹴 っていたことなどは分かっ ているようであったが、胎児の様子についてはあまり考 えたことがなかったようであった。佐藤先生か らの説明 は、映像 も用いた ものではあったが、3年生の子 どもた ちにとっては、ゃゃ難 しい ものであった。 しか し、作文 の中に「お母 さんか らごはんをもらっているおい しい なあザ ァー血 えきがながれている。」 (KS)「 たいばんの 中の水 を毎 日 750mlの んで」(IR)な どが書かれている のを見ると、子 どもたちな りに自分たちの疑間について 知 りたい とい う思いをもって意欲的に学習 していたこと が分かる。
5年C組の作文について
(杉
村伸―)5年 C組では約三分の一の子が、4年時に佐藤先生か ら「命」についての学習 を受けている。5年生では、そ のことを踏 まえ、 どの子 も同 じ条件で学習が始め られる よう、4年時に学習 した内容 を含めて「命」の学習 を始 めていただいた。 しか し、今回はさらに奥深 く学習を進 めるとvヽう意味で、新たな試み として、「性交」「出産」
とい う2つのことを学習に取 り入れた。
担任 として、正直、「性交」 を取 り扱 うことには抵抗 があった。それは、「思春期 を迎 えた 5年 生の子たちに『性 交』 を教 えていいのだろうか。興味本意で終わって しま
佐藤
年 明 。杉村
伸一 。藪 中
俊 典
うのではないか。担任 として、今後の学習はどう展開 し ていけばいいのだろうか。」などの不安があつたからだ。
しか し、佐藤先生 と話 し合いをもち、第一歩を踏み出す ことに した。
「性交」を取 り扱う時間はほんの1時間であり、その メカニズムを説明したcG画像を視聴させただけで、ど のような経緯で父親と母親力や性交に至るのかについての
詳 しい説 明 は しなか った。 はっ きり言 つて、子 どもたち の 中には、「性 交」 についての印象 はあ ま り残 らなか つ た ようだ。 それは、「赤 ちゃんの旅」作文 に も表れている。
「性 交」 につ いて学習 した に も関わ らず、たつたの数名 しか「性交」 についてふれていなか った。 また、「性交」
については親 か ら教 わ り知 っていた子です ら、その こと については書 いてお らず、羊水 の中の赤 ちゃんの′亡ヾ1青に つ いて、 ひたす ら書 き綴 ってぃたのである。
もう一つ の新 た な試 み は「出産」 であ る。「命」 の尊 さを知 る上 で、「 出産」 は欠かせ ない。授業 では、ある 母親 の出産 シー ンの ビデオを視聴 させ た。 もちろん母親 の出産時の姿 を見せ ることをね らい としていたのである が、 もう一つ、 この母親 の娘、つ ま り産 まれて くる双子 の姉 の姿 も、子 どもたちに見せたかったのである。姉 は、
母親 の出産す る姿 に顔 をこわば らせ緊張 している。その 後、弟が産 まれて きた ときは、緊張か ら解 き放 され感動 のあ ま り父親 の胸 の中で泣 くじゃ くるのであるё子 ども た ちは、その ような姉 や母親 の姿 を通 し、「命」 の尊 さ を感 じ取 った ようだ。学習後 の「赤 ち ゃんの旅」には、「お 母 さんが僕 を待 っていて くれた。」「僕 は初 めて同 じ仲 間 を見つ け、 とて もうれ しくて泣 いて しまった。」「みんな の笑顔 が こち らを向いてい ます。」の ような、産 まれて きたばか りの赤 ちゃんの心情 が書 かれていた。 この こと で、「出産」 を取 り扱 った意義が確 かめ られた。
この ように して考 える と、子 どもたちは、「性交」 に つ いて も理解 した と考 え られるが、それ よ りも、赤 ちゃ んが羊水 の中で守 られていた時の こと、へ その緒の大切 な役割、 また、産 まれて きた ときの感動 についての こと の方が′と、に強 く残 らた ようだ。
暫定的 な総括作 業 を終 えて
(佐
藤 年明)私が行 なった授業 について、両 クラス担任 とともに総 括討議 を行 な うことは私 の附属小学校 での実践史の中で は画期 的 なことであ ったが、それで も実践者 と実践研究 者 の共 同作 業 と して は まだ緒 につ い たばか りの感が あ る。学習者 の 日常 の姿 を深 く知 る担任教 師のア ドバ イス をよ り立 ち入 って得 なが らよ りよい授業過程 をつ くりた い と願 うと同時 に、一方では学部教員 の投 げかけを受 け 止 めていただいて、附属学校教員 に よる人間の性 の授業 をつ くりだ していただ きたい とも思 う。いずれに して も 今後 とも共 同の実践研 究 を継続 してい きたい。