奈良教育大学学術リポジトリNEAR
熱ルミネッセンス法による土器の年代測定 ?
著者 市川 米太, 長友 恒人
雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学
巻 23
号 2
ページ 3‑13
発行年 1974‑11
その他のタイトル Dating of Ancient Pottery by Thermoluminescent Method
URL http://hdl.handle.net/10105/537
̀こ・̀、 ㌢ こ';蝣‑k:蝣>.1I ,v>コ:V?:耳2 蝣:蝣 iflY',.) Un杓∴19‑L
Bull. Nara Univ. Educ, Vol.n, No.2 (Nat.), 1974
熱ルミネッセンス法による土器の年代測定 Ⅱ
I.l且が‑.ト
市川 米太・長友 恒人
(奈良教育大学物理教室) (昭和49年4月30日受理)
Dating of Ancient Pottery by Thermoluminescent Method
Yoneta Ichikawa and Tsuneto Nagatomo
(Department of Physics, Nara University of Education, Nara, Japan) (Received April 30, 1974)
Abstract
In an earlier paper of this bulletin, the authors described how the thermoluminescent (TL) method may be an effective one for the dating of ancient pottery and it has an advantage over radiocarbon method. The present paper is concerned with some salient points in the development of the TL technique at our laboratory during the past 10 years. The results recently obtained from the typical potteries are shown, which contain the dating results for a series of shards from Ban‑Chiang and those for a series of shards from Nara.
The quartz and feldspar embedded in clay matrix have been exposed by the natural radiation since the last heating. The TL emitted from the ancient pottery is a measure of the total dose of this radiation. On the assumption that the natural dose‑rate has been constant, the time elapsed since the firing of the pottery is estimated from the accumulated radiation dose and the dose per year. The TL dating used in the present investigation is the method which is known by the name of the inclusion method or the large grain method. For the estimation of the accumulated radiation dose we measured the TL of qualtz and feldspar inclusions with diameters of greater than 0.3 mm. Consequently, we could neglect the contribution from alpha particles which will only penetrate into the inclusions approximately 0.023 mm on average and are typically only from 10 to 20 % as efficient as beta or gamma radiation in the creation of TL. The environmental radiation and the radiation from the pottery itself were measured with CaSO4; Tm TL dosimeter developed by Matsushita Electric
Ind. Co.. Ltd.
1.緒 昌
考古学の研究において考古遺物の年代を正確に決定することは,最も基礎的にして重要なこと である.考古学では時間の尺度として主に土器が使用きれるが,その年代は土器の形式,文様お
3
4 市用 米太・長友 転入
よび出土地層の層位によって推定された相対年代である.したがって,この方法によってなされ た編年が正当なものであるかどうかを判断することはできない.これに対して約20f輔ifLibbyに よって放射性炭素年代測定法(C‑14法)が開発され,炭素を含む遺物の絶対年代が理・1円f]方法 によって測定されるようになった.その後,この方法による数多くの測定結果が報告されるよう になり,現在これらのデータを信頼する考古学者と反対の立場に立つ考古学者の問に大きな問題 を投げかけている.放射性炭素法による年代決定において問題になる点は第一に測定試料が炭素 含有遺物でなければならないことである.例えば,遺跡から収集した木炭について年代測定を行 ない,これと関連づけて同じ遺跡の土器の年代を推定するので試料収集においては充分な注意が 払われないと誤差の原因となる可能性がある.第二には一一一一般に理学的年代測定法の原理はある基 礎仮定の士に立って成立するものであり,仮定からのはず4日ま誤差の原囲となる.放射性炭素法 についていえば,放射性炭素の濃度が交換リザ〜バーのすべての部分において同一であること, この濃度が時間に対して不変であることなどの基礎仮定にもとづいている.これらの基礎仮定か らのはずれからくる誤差についてはいろいろな方法によって検討が加えられ,補正がされること は勿論であるが当然それにも限界がある.したがって,データの信頼性を高めるにはいくつかの 与'4なった原理の上に立つ理学的測定方法を開発し,同一一一資料を二つ以上の方法で測定することが 望ましい.
このような意味で,放射性炭素法以外に現在熱ルミネッセンス年代測定法,考古地磁気法およ びフィッション・トラック法などの理学的年代測定法が研究されつつある.特に熱ルミネッセン ス年代測定法は鉱物を含む遣物であって,その製作時に700‑C以上の温度で焼成されたものであ れば総て試料として使用できる.したがって,考古学の時間の尺度となっている土語Ilをはじめと してカマ跡の土,レンガなど多くの遺物の年代を決定できる利点をもっている.熱ルミネッセン
CD
ス法は1950年Danielsによって初めて提案され,石灰岩などの地質年代の推定に用いられた.土
(2)
器の年代測定には]961年にKennedyによって初めて応用され,ギリシャの土器についてその相
(3) 01) (5) (6) (7)
対年代が求められた.その後, Tite, Ralph, Fleming, Zimmerman, Aitken,などアメリ カ,イギリスを中心に活発な研究が進められてきた.筆者らも]962佃ここの研究を始め, 1963年 に本紀要に熱ルミネッセンスによる土器の年代測定Iを発表したが,今回はその後約10年間の研 究の結果を総括して報菖するもI)であって,これらの一部については既に他の雑誌に発表したも
のも含まれている.
2.原 理
自然に存在する鉱物の大部分は加熱することによって白熱する以前の温度において,発光強度 に差はあるがその大部分が燐光を出す.この現象が熱ルミネッセンス(TL)と呼ばれるものであ る.その原因としては,放射線によるもの,摩擦や粉砕によるもの,化学作用によるものなどが ある.こ6)申で,放射線の刺激が原因となって発光するものを放射熱ルミネッセンスと呼んでい る.熱ルミネッセンス年代測定法はこの現象を利開する.土器試料においては主として,土酢11 の鉱物の中で熱発光に対して感受性の良い石英・長石が試料として使用される.石英・長石の熱 発光の機構は物性論的に完全には説明できないが,石英のアルミセンターに関してはいくつかの
(8)(9)
研究が報告されている.アルミセンターはFig. 1に示きれているように石英の結晶中に不純物 としてアルミニウムとアルカリ金属イオンが存在している場合で, Si*+がAli+3 で置換され,
│
‑0‑一
Si一一0
│Fig.1
ア ル ミ0‑)A:
│(ば・ o)
一
‑0‑一
0
セ ン ターの モデ ル
この ′二カに生ず る電 荷欠損 をLilま たはNaが補 償 して い る構造 を もつ欠 陥であ る.この欠 陥 は
A13
置換 に 、よって価電子帯 の上 に準 位Cを
作 り,
ワ'ルカ リイオンの存 在によって伝導帯 の下 に準位Aを
作 る。Fig。
2にこの欠陥の熱発光過程 のバ ン ドモデルを示す 。図において,1)放射 線 冽│(射に よって,2)電子は価電子 帯 お よびC準
位か ら伝導帯に励起 され る。3),4)伝
導││∫に ジャンブ した電子 は結晶中 を移動 し,A準位(ト
ラ ップ)に
捕獲 され る。A準
位の電子 の光 吸収 に よる励起が煙 水品の若色 の原因 となっている ものであ る。5)捕
獲 さイlた電子 は力‖熱 に よって 伝導│けに ジャンプ し得 るに充分 なエ ネルギーを与 えると再び伝導帯に励起 さイl,自
由電子 と して 結品 を動 し1両│る.捕
獲 中心 には活性化 エ ネルギ ーが異 な るいろい ろな深 さの ものが あ り,浅
い も のは100° Cの
加熱 で伝導帯 に励起 さilるが,深
い ものは400° C以
上 の高温 に加熱 しない と励起され ない もの もあ る
.捕
震電子 の14均寿命 も一般 には捕獲準位の深 さに関係 し,数
時1間か ら数千 年に及/1も の まであ る。6),7)力
日熱 に よって再励起 され た自由電子 は動 き回 った後,発
光 中心 のi∫:イLと
再結 合す る.再
結 合の過程 と しては,電
子 が は じめ発光 中′心の励起準位に発光 な しで移 行 しっ つ いで発光 を伴 って安 定準位Cに
移行す る.こ の過程 でTLがぁ る。電子 を放 出す る温 度 即 ら, TLを
生ず る温度 は トラ ップの深 さに依存 してお り,温
度の関数 と して熱発光強 度 を記録 した もの を グロー曲線 と呼び, TLの
研究 において 一般 的に使 われ る ものであ る.一
個 の トラ ッ プは単一の グロー ビー クを刻tすが,一
般 に は結 晶中に数種 の トラ ノプが あ り,数
個の グロー ビー クよ り成 り立 つ グロー曲線 を示す。Fig。 3に
CO‑60の γ線 に よって照 射 され た石英 の グ ロー 曲線 を示す 。Fig.2
熱発光過程 のバ ン ドモデ ル市り│1 米太 。長友
恒人
:00 200 300 400 丁 emperature ° C
Fig.3
石英のグローカーブ(4X105R照
射)天然 に存在 す る石英
,長
石 は地質年代 に渡 り放射線 を受けてい るので力‖熱 し た と きTLを
示 す 。 しか し土器 において は その製 作時に750° C以
上 の温度で焼成 されているので熱発光 的に零に な って い る。待 って,土
器 資料か ら抽 出 した石英,長
石 の示すTLは土器が作 られてか ら現在 に 到 るまでの間に受 けた天然 の放射線 に よ る ものであ る。 もし捕獲電子 の寿命が測 定 しよ うと して い る年代 よ り充分 に長 い とす ると,捕
獲電 子 の数 は それ を生ず る原因 であ る放射線 の線 量Dに
比(10)
例 して い ることは実験 に よって確か め られて い る。また
,捕
獲電子 の数 はカロ熱 に よって励起 され 元 の状態 に戻 ると き発 す る熱発光量Iに比例 す る。即 ら, I二KDとな る。 ここでKは
比例定数 で あ り,結
品のTLに
対す る感受性 を示す ものであ る。結晶 に等線量 の放射線 を照 射 した場合 で も発す る熱発光 量 は結晶によって異 な るのであ る。熱 ル ミネ ッセ ンスの現象 を利用 して放射線量 を測 定す るTL線量計では,人
工的に結晶に不純物 を付加 して感受性の高 い ものを作 り試料 とす る。土器 中の石英・長石 において も試料によって それぞれ感受性Kの
値 は異 な る。 このKの
値 を 求 め るためには,試
料CO‑60な
どの人工放射線源 を使 用 して既知線量D。 を照射 し,そ
の試 料 の熱発光量 Ioを測 定す る。即 ち,10二KD。 か らKを
求 め ることが で きる。以上 に述べ た原理に ょ って,土
器 中 の石英 。長石 の熱 発光量 の測 定か ら土器 が焼成 されてか ら現在 まで受 けて きた蓄 積線量Dを
求 め ることが で きる。原理的には土器が1年
あた り受 け る吸収線量Rを
測 定す ればD=Rtによ って土器 の年代
tを
求 めることが で きる。土器中に inclusionと して含 まれている石英・長英が受け る放射線 の源 は
,周
囲 の土 及び土器 のmatrixで
ぁ る粘土 中に含 まオ1てい るU,Th,K‑40と宇宙線 であ る.Fig。4に
U3ppm, Th 12ppm,K‑401%の濃度 の土 中に埋 め られた土器 の1年
間に受 け る平均 的 な年 間線量 を示 して あ る:
この表か らわか るよ うに,年
間線量の大 部分 は α線 に よって占 め られて い る。 行 っ て,TL年代測 定法 の初期 の研究段階 において は,近
似的 に年間線量 を土器 中の Uと Thのみ に よると考 え られ,シ
ンテ レー シ ョンカウンタを使 つて α線 を計数測 定 して こオlから年間線量 を 評 価 した。筆者 の研究室 にお いて1967年,この方法に よって測 定 した相対年ftがFig.5に
示 されて い る:)測 定 した資料は Table。
1に
示 されて い る 日本 の組文早期か ら古墳時代 に到 るJ31Jの熱 ル ミネッセンス法 によ る土器 の年代 洲∫定
Ⅱ
€--- Gommo
+ from soll
8oサ
a trOn31fiOn !●
ソer
(〜
2mm〕0 600 0
く
50
」
ト
39 26 86
151 125
U β 恥
K
860 855 0
36 63
Fig 4
土器 中の結晶が受 ける放射線源 と年 間線量 (m Rads)●
̀2,
●16:
: 0 :
AD‐BC
2 t 15 6 ? 89
Archoeologicol Age
:5:●
̀9)
(7〕
: Ol
Fig.5 TL測
定法 によ る 日本の土器 の相対年代市川 米太 。長友 恒人
Table l.TL測
定法による日本のfLI‖│の
相ヤf有i代
資料zt:- J|rl 117. .E--L
It1 l,f -Fft tJ
I
土
地 資 料
年 代
1
2 3
45 6 7
8 9 10 11 12 13夏 月ヽ ゴヒ it
曽 滋 杉 神 天 平 石 経 飛
島
(神
奈│││) 島(喬 │││)
│││(4( 部) サ卓
(神
奈│││) 谷(千
葉)里
(滋
賀)田
(神
奈川) 足(京
都)山
(大
阪) 城(奈
良)山
(二
重)塚
(大
阪)鳥
(奈
良)弥 生 土 器
7300B.C.
7300B.C.
4000 B o C.
2700B.C.
1800B o C.
1000B.C.
700B.C.
200B o C。
100A.D.
300A.D.
400A.D.
500A.D.
600A.D.
組 文 土 器 │
蔦│
自 穂
賀
″ 瓦
土器 であ る
.図
に示 されてい るよ うに相対年代 を表 わすD/Rの
値 は大 体考古年代 と直線関係にあ る ことが認 め らイlた。 しか し, 6,10,]],12の
資 料 は直線か ら下方 に大 きくず オ1る傾向 を示 し た。 これ らの資料 は α線 の言[数の測定において,他
の資料 よ り高い値 を示 した ものであった。こ の ことは, 熱 発光 に寄与す る天然放射線 の大部分 を α線 による もの と し, β線や γ線 の寄与 を 無 視 したためであ ると考 え ざるを得 なか った。その後,この点 に関す る種 々の検討が加 え られた 結果,次
の2点が 明 らか に された。第一には,結
謂1の
TLに対す る感受性 は 放 射 線 の linear energy trasferに よって異 な り,α 線 は β線, γ線 に比べ て=〜
喘程 度であ ることが実験的に 検証 され た。貝日ち,育itt tンたI=KDは I=KαDα
tt Kβ.Dル と書か なければな らないのであ る。第二 には, Fig。
6に
示 さオ1てい るよ うに α線 の透過 力が石英 について平均23 μm程度 に とどま り,直
径 の大 きな粒 子では ご く表面 に しか影響 を(14,
与 えない とい うことで あ る。
この事実 の上 に立 って
,そ
の後のTL年代測 定法 は試 料の選 択法 に よ って二 つの方 法に分 け られ る
(1う
に/よっノニ. 一 つ は fine grain method と 呼ばれ る方 法 で,粒
」うの直径が α線のrange以
下 の もの を試料 と し
,年
間線量 の評 価に α線 の寄 与 も考慮に入オlる TL年│ヽ測 定法 である。他 の一 っ は, large grain method 叉 は inclusionmethodと
呼ばれ る方法 で あ って,100μm以
上 の 粒 子を試料 とし,試
料調 整 につ いて フ ッ化水素酸 で表面 をエ ッチ ングす る。従 って,試
料 に対す る α線 の効果は除去 され,年
間線量 の評 価においてもα線 の寄与 を無 視す る方 法 であ る。
Fig.6
石英粒子中の放射線の透過 (R:α線の透過距 離〜23μm)3. 測 定 方 法
(I)試 料調整法
現在
,筆
者 らが実 施 してい る試料の調整法 を箇条書 きに よって次 に示 す 。① 土器 の表 面を0.2〜0.3mmの厚 さにわ たっては く離す る.
0 土器片 を鋼板に包 み
,万
力 によ って土器 中の石英や長石 の結晶 を7卜か ない よ うに注意 しな が ら粉砕す る.そ
の後 さらに メ ノウの乳鉢 で│卜」様 な注意 を しなが ら結晶の周囲についた粘土 をはがす.0 節 い分 けに よ って 28メ ッシュ以上 の鉱物 と 200メ ッシ ュ以下 の粘土及 び鉱物 をそれ ぞオ1除 去 し
,残
りを熱発光景測定用の試料│とす る。① この試料 を水及び アル コー ルで洗浄す る。
(D その後,HCl(約
]0%)と
HF(約10%)で
それぞれl分間 と5分
間酸処理 をす る。③ きらに再 び水 とアルコールで洗浄す る。
⑦ 試 料
│を
乾燥 した後 に電磁分離機 に よって 自色 の非磁Hi鉱物 (石英 ・長石)と
着色鉱物 とに 分離 し,自
色鉱物 を試料 とす る.③ この試料 を節 によって,28〜42メ ッシュ, 42〜100メ ッシュ, 100〜200メ ッシュに粒度分 け し
,そ
れ ぞれにつ いて熱発光量の測定 を行 な う。(Ⅱ
)蓄 積線量 の測 定前述 したよ うに土器 の蓄積線量 の評 価 は熱発光量 の測 定によって行 な う。TL測定装置 につい
ての詳細 は前回の論文に報告 してあ る1)装 置の主要部分 は試料 を加熱す るための熱板
,試
料か ら 出 た1奔光 を電流 に変換す るための光電 子増倍管,こ
の微小電流 を増幅す るための直流増幅器,熱発 光 量 と温 度 を同時に記録す るための2ベン記録計な どによって構成 されている。前回の装置 と比 較 して改良 さオlた主 な点 は,測 定中,試料室 を窒素ガ スで満 たす(ヒ うに した ことであ る。即 ち,空 気 中で加熱 す ると試料中のあ る成分が酸 素効果 に よって発光 す る ことが あ るか らであ る。また1,
試料調整 法 と して改良 され た点 は前述 したよ うに上器 中か ら自色鉱物 を分取 して熱発光量測定用 の試 料 と した ことである.Fig.7に原爆 の放射線 を受 け た瓦 を議Fと した場合 の全成分
,自
色 鉱物部分及び昔色鉱物部分 の それぞれの グロー曲線が示 さオlてい る。図に見 らオlる
よ うに発光 に 寄与 して い るのは主 として自色鉱物 部分 であ る。 この ことは上器 について も1司 じであ り,そ
の成 分 は主 と して石英・長石 であ る。従 って,こ
の部分 を抽 出 して使用す ることによって,発
光効率 を良 くす ることが で きる。また この試料調 整法 はlarge grain methodを
可能にす る必要条件であ る。 この方 法 に よって得 らえlたマ ラヤの土器 の
natural TLの
グロー曲線が代表 的 な もの と してFig.8の(A)に
示 してあ る。試料 の感受性 を求 めるための既知]線量線源 と してはCO‑60
の γ線 を使用 している。上記の マ ラヤ土器 について1000R照射 した artificialグ ロ
̲曲
線がFig。
3の
(B)と して示 されて い る。土器が 的iられてか ら天然 の放射線 によって受 けて きた蓄積線量は 発光 の原因 であ る トラ ップの電 子の平均 寿命 がすべ て,土
器 の年代 に比較 して長 い も の で まリィl ば,曲
線(A)と曲線(B)が
基線 との融]に
占 め る面積 の比 に よ って求 め る ことが で きる。深 さEの
トラ ッカ 琳 獲 されてい る電子 の平均寿命
7は ,7=き
♂ 憎 こよって求 めることがで きる。 ここ でSは frequency factor,Tは発光 の ピー クの温度であ る.しか し, 土器 の よ うに試料 細成が 複雑 な もので は,そ
の グ ロー曲線か らFJlらか な よ うに いろ/tな 深 さの トラ ップ,い
ろ/Lな 平均寿市川 米太・長友 恒人
:00 :50 200 250
Temperature(℃ l Fig。 7
原爆の放射線 を受 けた瓦 の グロー曲線ω :白 色鉱物成分
い
)全
成 分 C)着色鉱物成分260 300
300
Tomperc,ure(lC)
0)CO‑60の 1000R照射によるTL
︑ 一 響 E O お 2 t 4 ・ ト 当
・ ・ コ c 即
ト ︲
Fig.8
マ ラヤ土器 の発光曲線 悴)自然放射能 によ るTL
命 の捕獲 電 子が存在 してい るため
,蓄
積線量 を実 際に求 め る ことはか な り困難で あ る。筆者 らは なん度以上 の グロー曲線 の部分が土器年代 に対 して減衰せず に残 ってい るか を実験的方 法に よっ て検討 した。即 ち,曲
線(A),(B)か
ら各温度について土器 の蓄積線量 を求 め,図
の上部に示 し てあ るグラフを作 った。低温部 においては,natural TLは
減衰 して い るために,そ
の分だ け蓄 積線量 は少 な く現 われ るが, 280°C以上 にお いて曲線 は plateauにな り蓄積線量 は一定の値 とな る。 この部分の熱発光 に寄与す る捕獲電 子の寿命 は土器 年代にわたって減衰 していない もの と して この値 を蓄積線量 とす る。 約20年 前に原 子爆 弾 を受 けた瓦 の TL測定か らは ゲ ロー曲線 の
200° C以
上 の部分が減衰 していない ことが認 め られ た。(Ⅲ)年 間線 量 の測 定
現在
,筆
者 らが行なってい るTL年代測定法 は,大
きな粒11を 土器 中か ら選び出 し,そ
の表 面 を フ ッ化 水素酸 でエ ッチングす ることによって α線 の影響 を無[見で きるよ うにす る large grainmethodで
ぁ る。従 って,∠FI罰
線 量 の測定には β線 ,γ 線 の寄与 のみを評1画す る。 その洪」定法 の ひ とつ と しては,U,Thを│ヒ学分析によって求 める方法があ る。他 の方法 としては,石
英粒1■と 同 じ粒度のTL線量計 を利用す る方法が あ る。 このTL線量計 としては,松
下電器 。中央研によって開発 された CaS04;Tmが使 わイtてい る。 この線量計 は
0.lmRょ
り200Rま
で直線性 を示す非常 に感度の良 い ものであ る。測定法 と しては
,ま
ず土器 のmatrixで
あ る粘土 を 200メ ヽリシ ュ以ドに粉砕 して ボ リ袋 に入れ る。次 に CaSO.;Tmの粒 子300mgを 0.04mmの
ポ リ袋に入オ1,これ を上記 のポ リ袋中の粘土 の中に埋 め込 み
,鍋
箱の中 に約50日間入れて放置 しておいた後 に線量 を測定 した。ボ リ袋にTL線量計 を入イlる ことによって α線 をカ ッ トしているのであ る。周 囲 の土 か らの γ線 は,TL線量計 を
2mmの
鋼板 に包 み,土
器 の埋 って いた遺跡 の土 中に約50日 間埋 め込 む ことに よって求 めた。 この と き,半
径7cmの上 の球 の中心 においた試料 では受 け るべき全 γ線量の50%しか受 けない 。半径30cmの球 を作 るだけの土 の量が得 らオlる場合はその中,とヽに 試料 を置 くことに よ つて全線量 の
95%を
測定す る ことが で きる。土器 試料 によっては周囲 の土が 得 られず,土
器 に付着 した数gの
土 しか入手 で きない ことが あ る。 この場合 は シンチ レー シ ョン カウンタを用いて試料 の α線放 出率 を測定 し,こ れか らγ線 量の概略値 を計算によって求 めた。4.測 定 結 果 お よ び 考 察
筆者 ら〉は,こズ
tま
でに12の 遺跡 の出土上器 についてlarge grain methodによるTL年代潰」定を行 なって きた。 その中で
,今
DIは Ban‐Chiang遺
跡 と布留遺跡 出土土器についての測定結果 を報告す る。Ban‐Chiangの
土器 は1971年3月 ,タ イ東北 部, UdOn Tllani県 で青銅器 とと も に発掘 さオlた ものである。 この遺跡か ら出土 した遺物が5,000年 ない し6,000年 前の もの と推定 さ れ た ことか ら,タ イに中国 よ り古 い青銅器文化が栄 えたのではないか と世界的な注 目を集 め,発
掘調 査にあた った タイ国立博物館が外務 省 を通 じて
,筆
者に土器片 の年代測定 を依頼 して ≧た も のである。 この土器片 の中には炭素が多 く含 まれてお り,上
器中の結品の表 面 も炭素 に よって汚 染 さオlてい たため試料調整 において フ ッ化水素酸処理 を特に長時間行 なった。また発掘地点の上 が入手 で きなか ったので,周
囲 の土 か らの γ線寄与 の年間線 量は土器片 の表 面に付着 していたtを シンチ レー シ ョンカウンターで測定 す る ことに よ って推定 した。 lF代 測定 の結果 は
Table 2
に刀ヽさオ1てい る。
測 定 を依頼 さイlた土 器片 は地表 か らの深 き,50〜
60cm,80〜 90cm,110〜 120cm,ぉ
よび 190〜200cmの 4つの グループに分 け らオlていた。表か ら判 るよ うに
,各
グループの中に そオlぞれ含 まれてい る土器片 の年代 はか な りの巾 を持 って いる。 これ は各時代の層位が 凹凸であ るため,同
じ深 さ (絶対高度
)の
範 囲 の中に2つ以上 の時代 の土器片が入 ってい る可能性があ ることに原因 して い ると考 え られ る.タ イの青銅器文明の年代については,今
回測定 した土 器 と問題 となる青 銅器片 との関連 が考古学 的に もっとワ]確に さオ1ない と結論 は下 されない と思 う。Table 3に奈良Table 2. Ban Chiang∫ li器]σ)TLイ ドィt,ユ 1,こ糸lilil
1甘川
米 大 。長 友
恒人
蓄 積 線 量
1年
間 線 量(Rad) │ (Rad/Yr)
0.196 0.220 0.179 0.198 0.181 0.179
0。196 0.194 0.202
0。182 0.193 0.197 0.207 0.177 0,188 0,198 層
(Cm) │
1-T .ir: rJ-- | at
f t t"1,1\ | +
(Yr) i t"'l
50‑60 1 1‑3
:│三
││ │ │三
::│::│ │ :::
│:│::│:│ │ ::::
::│::││ :::
靴憂式上糞
│土
師
器
1
上
師 器
2
Jl 師器
3
土
:市
器 41ヒ 自7i 器 5
土
師
器
6
上
師
器
287 559 467 654 653 424 599 781 863 873 855 951 1111 1010 1176 1266
1210 2540 2610 3300 3610 2370 3060 4030 4270 4800 4430 4830 5370 5710 6260 6390
A.E). 760 BoC. 570 B.C. 640 B.C.1330 B.C.1640 B.C. 400 B.C.1090 B.C.2060 B.C.2300 B.C.2830 B.C.2460 B,C.2860 B.C.3400 B.C.3740 B.C.4290 B.C.4420
Table 3.布留遺跡出土土器の
TL年
代測定糸ll果資 料 1 蓄積線量 R I 総 年 間 線 量 I TL 年 代 492
487 342 358 351 375 387 350 369
0.192 0.213 0.214 0.212 0.214 0.230 0.231 0.225 0.217
2563 2286 1598 1690 1642 1630 1675 1556 1700
1 年
代
B.C. 589 B.C.312 A,D. 376 A.D. 283 A.D. 331 A.D. 343 A.D. 298 A.D.417 A.D。 273
県天理T「布留遺跡出土土器の年代測定の結果が示 してある。 この土器資料は天理大参考館の置田 雅昭氏の提供によるものである。縄文式土器
,土
師器の外に須恵器の土器片 も数片あったが,須
恵器は粘土成分が多い上に高温焼成 されているために土器中か ら石英 。長石の結晶を破壊せずに 取 り出す ことが困難であった。
TL年代測 定法 は前述 したよ うにC‑14法に比較 して土 器 を測定対象 にで きる利点 を もってい る。 しか し
,土
器 とい う複雑 な組成 を もった ものを試料 とし,現
象が環境 に支配 さオl易 い物性的 な ものであ るため,この方法におけ る誤 差要因 は10個 以上考 え られ る。蓄積線量 を評価す るため5. 結
熱ルミネッセンス法による士器レ)咋代測定11
13
の熱発光量の測定においては土器中の白色鉱物を試料とするが,この中には石英・長石の他多種 多様な鉱物が含まれているためグロー曲線の再現性が問題となる.特に土器片が小さくて多量の 試料が得られないときに.'ま,少量のTL感受性の強い鉱物の偏在によって再現性の得られないこ
とがある.また現在もっとも解決が迫られているものとして年間線量の評価の冊題がある.年間 線量は士紳幸代にわたって一定であるという基本仮定の上に立ってTL年代測定法が成り立って いるが,地下水の変化など土器の埋没車の履歴の変化はこの仮定を破るものであり,出土地点の 検討が必要となる.
1962碑こ本研究を始めて10年が経過した.現在この方法による誤差は資料によって果なるが, 約二l二10%程度であり,考古学への寄与を考えるとこれを±5%程度まで高めることが望ましい。
この剛再を果たすため,現在,文部省科学研究費の交付を受けて,考古地磁気法,フイッシコン
・トラノク法の研究者と協力し,年代既知の資料についてそれぞれ測定して3方法問の相互チエ
・ソクをしながら精度を高めるための改善を検討中である.
文 献
(1) F. Daniels and D. F. Saunders: Science 111, 462 (1950).
(2) G. Kennedy: Archaeology, 13, 147 (1961).
(3) M. S. Tite and J. Wain: Archaeology, 5, 53 (1962).
(4) E. K. Ralph and M. C. Hann: Nature 210, 245 (1966).
(5) S. J. Fleming: Archaeometry: 9, 170 (1966).
(6) D. W. Zimmerman: Archaeometry: 10, 26 (1967).
(7) M. J. Aitken: Phil. Trans. Roy. Soc. Lond. A. 269, 77 (1970).
(8) M. C. M. 0'Brien: Proc. Roy. Soc. London A 231, 404 (1955).
(9) Y. Ichikawa: Japan J. Appl. Phys. 7, 220 (1968).
(10)車用米太:奈良学芸大学紀要11, 55 (1963).
(ll) M. J. Aitken: Thermoluminescence og Geological Materials: 377 (1968).
(12) Y. Ichikawa: Bull. Inst. Chem. Res. Kyoto Univ. 45, 63 (1967).
(13) ibid. 43, 1 (1965).
(14) S. J. Fleming: Archaeometry 12, 133 (1970).
(15) M. J. Aitken, M. S. Tite and S. J. Fleming: Luminescence Dosimetry ed. 490 (1967).
(16) Y. Ichikawa, T. Higashimura and T. Shidei: Health Physics 12, 395 (1966).
(17)車用米太,長友恒人,正司宙輝子:奈良教育大学古文化財研究報告3, 1 (1974).