公正価値測定における会計アプローチと 業績報告への影響
王 琳
池 田 健 一
要 約
公正価値測定の導入は,一方で,資産負債アプローチが再び支配的な地位を 占めると同時に,資産負債アプローチに対する誤解も引き起こしている。他方 で,公正価値測定は利益計算モデルの変革を促し,業績報告に影響を与えると ともに,混乱も招いている。本稿では,資産負債アプローチに対して生じた誤 解を分析し,利益計算モデルの変革の促進をどのように達成するかを論じると ともに,業績報告に対する影響と混乱を分析する。
キーワード:資産負債アプローチ,利益計算モデル,業績報告,その他の包括 利益
Abstract
The introduction of fair value, On the one hand, has also led to misunderstanding of the Asset -liability approach as well as the domination of Asset- liability approach. On the other hand, fair value measurement promotes the change of Profit calculation model, which has an impact on performance report, but also causes confusion. This paper analyzes the misunderstanding caused by the Asset- liability approach, discussing how to achieve a change in Profit calculation model, and Analyze the impact and confusion of performance reports.
Key words: Asset -liability approach, Profit calculation model, performance reports, OCI
1)
2)
この研究は広東省哲学社会科学学科共建プロジェクト研究助成金によって支援された。
Grant Number(GD18XGL31)
1)広東外語外貿大学 会計学院 講師 2)福岡大学 商学部 教授
( 1 )
Ⅰ は じ め に
公正価値測定が日増しに活発になり,日常的な環境において,従来の会計 アプローチ(収益費用アプローチ)は衝撃と挑戦を避けられなくなっており,
公正価値測定に関する会計アプローチである資産負債アプローチが公衆の視 野に戻ってきている。公正価値測定が常に疑問と批判を受けている場合,関 連する会計アプローチも避けられず,過度に解読されるだけでなく,誤解さ れることもあるかもしれない。また,公正価値の導入は,一方で,会計測定 モードに衝撃を与え,既存の混合測定モードを形成している。他方で,収益 費用アプローチの変革を促し,包括利益という新たな業績指標を生み出した。
資産負債アプローチと収益費用アプローチは現在の会計実務において共存か つ混用されている。その他の包括利益は混合測定モードの必然的な産物であ り,業績報告と業績評価を漸進的に改革するデリバティブでもあるが,会計 基準制定機構がより多くの支持者を獲得するために選んだ妥協の方法である。
本稿では,まず,公正価値測定に反対する学者が資産負債アプローチに対 して生じた三つの誤解を分析し,次に,公正価値測定が収益の中身をどう変 え,利益計算モデルの変革を促進することを達成するかを論じる。最後に,
公正価値測定における業績報告への影響と混乱を分析し,包括利益とその他 の包括利益の業績報告における地位と役割を明確にし,非公認会計原則の業 績指標(Non- GAAP measures以下,Non- GAAPの業績指標と略称する)が会 計基準の関連性と権威性を弱めることを避けるために必要であることを論じる。
Ⅱ 資産負債アプローチへの誤解
公正価値測定が日増しに盛んになり,資産負債アプローチが再び主導的地 位を占めると同時に公正価値測定の更なる普及のための理論的基礎が打ち立
( 2 )
てられつつある。しかし,Paton and Littleton[1940]が『会社会計基準序説』
(An Introduction To Corporate Accounting Standards)を発表して以来,収益費 用アプローチの影響は根強く,会計業界では長期にわたって主導的地位を占 めている。さらに,外部市場の限界(2008 年の世界的な金融危機など)によ り,公正価値測定をより包容する資産負債アプローチの普及が多くの疑問を 受けている。筆者は公正価値測定による資産負債アプローチの誤解は,主に 以下の3点に集中していると考えている。
1.資産負債アプローチに基づく損益計算書と貸借対照表の関係
資産負債アプローチの提出は,損益計算書が軽視されることを意味する。
IASBは,概念フレームワークの結論の基礎では,貸借対照表と損益計算書 が同じように重要であることを繰り返し強調しているが,資産と負債の変化 によって損益に関する会計要素を定義する方式は,損益計算書が軽視された 信号を外部に伝えているようである。
実は,これはIASB修正の意図への誤解である。IASBは概念フレームワー ク(2010)の結論の中で明確に提示し,財務報告の主要な注目点として1つ のタイプの情報を指定するのは不適当である(CF2010_BC, par.1.32)。2013 年の概念フレームワークに対するディスカッションペーパー(DP)では,
IASBはさらに,1つの主要な財務諸表の重要性が他の財務諸表より高いと 仮定してはならないと指摘し,3つの主要な財務諸表は1つの組み合わせで あるべきである(DP, par.7.31)。言い換えれば,3つの主要な財務諸表には それぞれに重点があり全体として提供する組み合わせ情報は,単一の財務諸 表が提供する個別情報よりはるかに全面的で,より有用である。
資産負債アプローチを支持する者は,第一に,資産と負債の定義を起点と して,貸借対照表が損益計算書より重要であるという仮定は含まれていない と考えている3)。資産負債アプローチが重視されているのは,会計の重要な
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概念として資産と負債に重きをおき,資産と負債をもって中心概念とする考 え方である。当該アプローチは,まず資産および負債を定義し,これらの定 義とそれらの増減の観点から,演繹的に他の構成要素を定義するという特徴 を有している。これに対して伝統的な収益費用アプローチは,概念である 収益および費用を定義し,それらの時点決定を行った結果から,帰納的に他 の構成要素を導き出すという特質がある。そこで,資産負債アプローチは,
利益形成のプロセスを切り替えらせただけで,業績計算から離れたとはいえ ないだろう。
第二に,外部市場の発展と経済のグローバル化が進むにつれて,産業変革 及びビジネスモデルの革新は経済業務をより複雑にして,情報技術と評価技 術の急激な発展は評価測定を可能にする。
第三に,この背景において,資産と負債の評価測定の正確性と適時性は,
配分等によって規定により生じた損益計算書の数字よりはるかに高く,資産 負債アプローチは実質的に損益計算書の数字の正確性を向上させた。
一方,資産負債アプローチに反対する者は,第一に,収益や利益など業績 に関する情報が重要だと考えている。財務諸表の利用者は利益情報に関心を 持ち,直接に会計期間内に発生した帰属株主の利益を反映する。その利益は 日常のキャッシュフローの代替変数として,しかも企業が期間内に獲得した 収益として受託責任をより良く評価し,管理者が効率的かつ効果的に株主か ら委託された資源を使用するかどうかを評価するのに役立つ。しかし,資産 負債アプローチは主に価値の変動に注目しており,業績評価に適切な基礎を 提供できない。したがって,収益こそが肝心な要素であり,他の要素の定義 はそれに従属するべきである。
第二に,資産負債アプローチは,期間収益を資産と負債の価値の簡単な変 3) EFRAG.Getting a Better Framework: the Asset/Liability Approach[R]. 2013.
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化と見なすことを意味し,生じる包括利益の金額は,ただ異なる種類の取引 の数字をまとめたものであり,収益見通しと企業の業績を評価する意味は大 きくない。
第三に,定義方式に論理エラーがある。資産と負債の定義を起点として
「資産と負債は具体的に何かを定義してから,資産と負債による変動を定義 すべきである」という解釈があるが,概念フレームワーク(2010)では,
資産と負債の定義は,将来の経済利益の流入と流出の概念を含め,実際には
「変動」という意味である。そのため,このような定義方式には論理的な問 題がある。このような不備については 2018 年最新版の概念フレームワーク の中で修正された。資産を現在の経済資源と定義し,すなわち経済利益を生 む能力がある権利であるとした。負債を現在の義務と定義し,すなわち企業 が回避できない義務と責任であるとしたことを指摘しなければならない4)。
筆者は,過去の学者が慣れていた収益費用アプローチや,現在重視されて いる資産負債アプローチに関わらず,どの財務諸表がより重要であるかをア ピールする意図はないと考えている。確かに,異なる国,異なる利用者が異 なる財務諸表に対する重視度には差があるが,これは主に異なる国の資本市 場の発展程度と利用者の政策決定タイプと関係があり,収益費用アプローチ と資産負債アプローチ自体とは関係がない。資本市場が比較的発達している 国,例えば米国とイギリスのように,出資者は最も重要な会計情報の利用者 であり,このような持分を主な資金調達方式とする経済環境の下で,損益計 算書が完全に合理的であることをより重視している。しかし,資本市場が比 較的,発達していない国,例えばヨーロッパ大陸の各国,中国と日本では,
債権者こそ最も重要な会計情報の利用者であり,このような債権を主な資金 調達方式とする経済環境の下で,貸借対照表とキャッシュフロー計算書が いっそう重視されるのも珍しくない5)。
4) IASB.The Conceptual Framework for Financial Report, 2018.
5) IASB.The Conceptual Framework for Financial Report, 2018.
( 5 )
2.資産負債アプローチに基づくすべての資産と負債の認識を求めているか 一部の学者は,資産負債アプローチが資産と負債に立脚しているため,す べての資産と負債の認識を要求する可能性があると心配している。例えば,
測定できない資産(自己創設のれん)および将来の請求の可能性が低い負債 がある。これは,財務諸表作成者に余計なコスト負担をかけるだけでなく,
会計情報のノイズを引き起こし,かえって利用者を誤解させることにもなる。
これに対して,ヨーロッパ財務報告コンサルティンググループ(EFRAG)と ヨーロッパ会計基準制定者は,資産負債アプローチ自体の問題ではないと考 えている。資産負債アプローチはあくまでも会計アプローチであり,具体的 な操作には要素の定義,認識基準などの手順によって制約されている。この ような結果が生じるのは,資産負債アプローチに起因する必然的な結果では なく,概念フレームワークにおける要素の定義と認識基準によるものである。
したがって,上記の懸念については,根源的な概念フレームワークから解決 すべきである。
3.資産負債アプローチに基づくすべての資産と負債に公正価値測定を求 めているか
多くの学者は,資産負債アプローチと公正価値測定は必然的なつながりが ないと考えている。まず,概念フレームワークは,異なる会計手順において 要素の定義,認識基準と測定属性の選択などを単独で考慮することを要求す る。また,上記の手順によってそれぞれ決定しなければならないので,測定 属性の選択は要素の定義を超えない。そのため,資産負債アプローチと測定 属性の選択には矛盾がない。公正価値測定は,将来のキャッシュフローの情 報を提供する唯一の方法ではない。例えば,IASBは収益認識の方法におい て,入口価格を用いて業績を測定し,公正価値という出口価格で測定する必 要がない6)。
( 6 )
次に,IASBは資産負債アプローチを採用し,公正価値測定を全面的に採 用することを要求しておらず,ビジネスモデルの概念を導入して,測定属性 の選択を指導している。IASBはまた,ある状況において同一の取引につい て議論し,ビジネスモデルに従ってそれぞれ貸借対照表と損益計算書におい て,異なる測定属性を採用して,最も関連する情報を提供することができる。
Ⅲ 利益計算モデルへの影響
1.公正価値測定と利益計算モデルの変革
包括利益(Comprehensive Income,略称CI)は資産負債アプローチに基づい た利益概念であるが,資産負債アプローチを利益計算モデルとして体系的に 提示したのは,FASBの 1976 年討議資料である。FASBは,1976 年討議資料 の公表時点から包括利益への接近を目指していたが,その後利益概念は変質 を余儀なくされ,資産負債アプローチに基づく包括利益と,収益費用アプロー チに基づく純利益と類似している稼得利益というまったく異質の利益概念の 共存状態が生じた7)。
公正価値測定は資本の評価と収益の確定方法に影響するだけでなく,実質 的に収益の中身を変え,利益計算モデルの変革を促進した。利益モデルは 従来の純利益モデルだけを重視していたが,今までは包括利益モデルも含め て重視されている。さらに,包括利益モデルはもっと重視されているとも 言える。
FASBは,1980 年に発表したSFAC 3において,初めて包括利益を会計要 素として提示した。包括利益とは,SFAC 5によれば,「取引その他の事象が 企業に及ぼす影響についての広範な測定値であり,それは出資者による投資
6) 黄(2019),7頁。
7) 津守(2002),154 頁。
( 7 )
及び出資者への分配から生じる持分(純資産)の変動を除き,取引その他の 事象及び環境要因からもたらされる。一会計期間の企業の持分について認識 されるすべての変動から構成される(par.39)」。すなわち,包括利益は,株主 との取引以外の取引から生じる営利企業のすべての持分の変動をいう。した がって,実現利益以外に未実現利益も包括利益として認識される。こうした 持分の変動が資産と負債の差額として定義されていることから,包括利益は 収益および費用といった要素から定義されているのではなく,「資産」➡「負 債」➡「持分」➡「持分の変動=包括利益」という順序に照らして決定され る利益であり,資産負債アプローチを具体化とした利益概念であるというこ とができる8)。
1997 年にFASBがSFAS 130の「包括利益報告」を発表し,その中で包括 利益の定義をそのまま使用し,その他の包括利益(Other Comprehensive Income,
略称OCI)の概念を初めて提示した。包括利益を純利益とその他の包括利
益の二つの構成部分に分けて,従来の純利益の概念を保留して,すでに実現 された収益と発生した費用を反映する。その他の包括利益は認識されたが,
未実現のため,損益計算書に計上され ず,直接に貸借対照表の純資産に計 上された項目を反映する。稼得利益
(純利益)と包括利益の関係を簡単 に 図 示 す る と 図 表 1 の よ う に な る
(FASB [1984], par.44;訳 232 頁)。
包括利益自体は広い概念であり,純 利益を明確にしても,単にFASBを通 じてその他の包括利益に対する解釈だ
8) 津守(2002),152 頁。
図表1 稼得利益と包括利益の関係
収 益
− 費 用
+ 利 得
− 損 失
稼 得 利 益
± 累 積 的 会 計 調 整
純 利 益 (実 現)
+ その他の包括利益 (実現可能) 包 括 利 益
出所:(FASB [1984], para.44;平松・広瀬訳
[2010].228 頁)より筆者作成
( 8 )
けでは豊かな内包を識別することができない。2007 年,IASBは改訂した
IAS 1の「財務諸表の報告」で,その他の包括利益とは,国際財務報告基準に
従って要求または許可されず,損益において認識された収益および費用項目
(組替調整を含む)をいう。すなわち,包括利益には含められるが,純利益 から除かれる収益,費用,利得及び損失は「その他の包括利益」と呼ばれる。
注意すべきなのは,IASBは概念フレームワークの中で包括利益またはそ の他の包括利益を会計要素として扱っておらず,その他の包括利益に対して 排除法を採用することによって規定される。その他の包括利益は一部の論争 項目の「ジャンクヤード」(dumping ground)となり,伝達された情報にノイ ズが生じることが避けられないことである。その他の包括利益は従属的な立 場にあることが明らかである9)。それでも,包括利益とその他の包括利益の 存在は重要な現実的意義を持っていて,従来の利益計算モデル(純利益モデ ル)から経済現実を忠実に反映する利益計算モデル(包括利益モデル)に向 かう利益へ考え方の転換を示している。
2.その他の包括利益による混乱
1997 年にFASBがSFAS 130でその他の包括利益概念を初めて提案して以 来,その他の包括利益が財務業績の測定値としてうまくいっていない。議論 の焦点の最も基本的な問題は「その他の包括利益とは何か」である。概念の 提案からみれば,その他の包括利益はその存在の合理性を持っている。まず,
SFAS 130のその他の包括利益の出現は収益費用アプローチの変革を含んで
いる。収益認識は「収益費用アプローチ」から「資産負債アプローチ」への 回帰であり,純利益モデルが次第に包括利益モデルに向かっていることを示 して,経済の本質を忠実に反映させたものである。次に,その他の包括利益
9) 黄(2019),6頁。
( 9 )
は一時的に混合測定モードにおける収益変動の測定,分類,開示及び会計不 一致問題を解決し,基準制定者と出資者にもたらす難題を解決した。
公正価値測定の導入は単一の取得原価測定モードを打破したが,公正価値 測定が損益に与える影響は従来の会計純利益の内容とは異なり,一時的に全 面的公正価値を実現できない場合,混合測定モードが併存している現状に直 面している。一方,その他の包括利益の認識は,包括利益にできるだけ真実 な収益を反映させる。他方,従来の収益概念を変えずに純利益の関連性を向 上させる。したがって,その他の包括利益の存在は,他の業績指標を最適化 するためであり,その他の包括利益自体の内包を強調するのではない。
この点はFASBとIASBのその他の包括利益に対する態度からもわかる。
両基準制定機構はこれまでその他の包括利益を個別の会計要素として使用し ておらず,直接定義もしていない。前述したように,基本的には排除法を採 用し,どの項目がその他の包括利益に入るかを具体的な基準で明確にする。
しかし,公正価値測定の普及と運用に従って,外部市場要因に対する考慮 と反映がますます多くなり,金融商品の多様化が次々と現れ,その他の包括 利益の項目は日増しに膨張する態勢を呈しており,これによって新たな問題 が発生する。すなわち,その他の包括利益は経営者が利益を操作するための ツールになりやすくて,「ジャンクヤード」になってしまった。この結果,企 業業績の評価に影響し,利用者の混乱を引き起こすことさえある。
Ⅳ 業績報告への影響
1.従来の業績指標への影響
会計の中で最も直観的で,最も根深い財務業績の測定指標は間違いなく純 利益である。多くの出資者,債権者などの財務諸表利用者は,純利益を効果 的な業績測定指標と見なす。異なる利用者は,分析において損益項目を結合
( 10 )
し,または将来の分析の出発点として,または現実に報告主体の業績の主要 指標としている。包括利益とその他の包括利益の異なる表示法は,間違いな く「ボトムライン」の数字に影響を及ぼし,さらに利用者にとって重要な財 務指標を使用し,混乱をもたらす。
包括利益を導入すると,純利益を継続して業績報告の合計数として保持す るか否かについて大きな論争がある。純利益の保持に対して賛成者の理由は 以下の通りである。
1 包括利益に対して,純利益は外部市場の価格変動を再測定または制限す るような部分の収益と損失を排除しているが,この部分の収益と損失は継 続性がなく,変動性が強く,将来の純キャッシュフローに対する予測性が 低いため,純利益は包括利益より将来の収益見通しに対して大きな予測値 を有する。
2 実現された収益はすべて純利益に含まれている。これは配当金としての 配分または業績賞与の発行の堅実な財務指標である。逆に,未実現収益の 配分が企業のキャッシュフローの過剰流出を招き,資本の保全を危うくし,
企業の継続経営に不利になる。
3 純利益は企業がビジネスモデルを運用する経済結果である。ビジネスモ デルは企業が価値を創造する主要な決定要因であり,そして予想可能性が ある。したがって,純利益は包括利益よりも予測性が高い。
4 純利益指標は企業業績評価の重要変数である。公正価値測定の導入はか えって純利益指標に影響を与え,論理的一貫性を失う。このため,純利益 合計を留保することは,従来の金融モデルの継続を確保するための要件で ある。
また,純利益の保持に対して反対者の理由は以下の通りである。
1 包括利益はより理論的な利点を持ち,その反映する業績はより真実な経 済収益に近く,これはまさに意思決定の有用性と受託責任を評価するため に必要な情報である。
( 11 )
2 純損益への過度の関心は,利用者が注目すべきその他の包括利益に含ま れる重要な情報を無視することをもたらす。
3 経営者が利益操作の機会を提供するために,経営者は,損益から不安定 な項目や企業の財務業績に悪い影響を及ぼす項目を排除し,リスクを隠し,
会計情報利用者を誤解させる可能性がある。
IASBは,概念フレームワーク(2018)において純利益の存在価値を認め,
財務業績の重要指標と見なし,初めて収益と費用をその他の包括利益に帰属 させるときの指針を提供した。しかし,公正価値測定がさらに広まるにつれ て,その他の包括利益の項目は急激に増加し,純利益の予測価値は大きな衝 撃を受けるに違いない10)。
2.業績報告様式への影響
まず,包括利益を導入すると,従来の損益計算書の様式が変わる。包括利 益概念を受け皿として未実現利益の弾力的処理が可能となったのである11)。
そしてSFAS 130では包括利益の報告書の方式を,以下のように損益計算書
方式と持分変動書方式とに二分し,さらに損益計算書方式については1計算 書方式と2計算書方式に分類している(FASB [1997], paras.22-23)。
① 全ての包括利益の構成項目,すなわち,純損益およびOCIを単一の包括 利益計算書に表示する形式(1計算書方式)
② 純損益の内訳は,損益計算書において表示し,OCIの内訳と包括利益合 計は,純損益により開始包括利益計算書に表示する形式(2計算書方式)
③ 純損益の内訳は,損益計算書において表示し,OCIの内訳と包括利益合 計は,持分変動計算書に表示する形式(持分変動計算書方式)
10) IASB.The Conceptual Framework for Financial Report, 2018.
11) 志賀(2011),137 頁。
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業績報告に包括利益とその他の包括利益を報告することは,経営者が利益 操作を行う動機を減らすことができ,出資者が適時にこの情報に関心を持ち,
必要な判断を下すことにも役立つ。
次に,業績報告の分類とまとめに対する思考を促進する。意思決定の有用 性に基づく財務諸表の目標は,収益と費用項目の分類とまとめに対して,利 用者が報告主体の経済資源の見返りを理解すること,及び経営者が将来の収 益の見通しを評価することに役立つ。
公正価値測定においては,包括利益は様々な資源から得られたキャッシュ フローが同質であるように見えるが,安定性,リスク性,測定可能性におい て大きな差異がある可能性がある。すなわち,業績報告には,包括利益の 様々な類似した構成内容に関する情報を開示する必要がある。
3.業績評価への影響
公正価値測定の運用において,理論上,懸念されている1つの問題がある。
負債の公正価値測定に企業の自己の信用リスクを含めると,自己の信用リス クが悪化する際には評価益が認識される一方で,自己の信用リスクが改善す る際に評価損が認識されることになるため,このような一般常識や直観に反 する現象は,「負債のパラドックス」として指摘されてきた。このような明ら かにビジネスロジックに反する会計処理は,業績評価指標を妨害し,一連の 深刻な経済結果を引き起こしてしまった。この問題は 2008 年に金融危機が 発生した後に非難を引き起こした。
例えば,ロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)の 2008 年財務諸 表によると,公正価値測定された金融機関の損失は甚大で,合計で 102 億ポ ンドの損失が計上された。しかし,自己の信用リスクが悪化し,銀行が発行 する金融機関に対する市場参加者の評価値を下げ,負債の公正価値が低下し ていく。当時IAS 39によると,RBSは自己の信用リスク変動を反映し,この
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負債に対して 9.77 億ポンドの公正価値変動による評価益を計上した。2009 年第1四半期の多くの金融機関の「収益」は,自身の信用格付けが低下し,
負債の公正価値が減少したことで評価益が計上されたものである。また,シ ティグループ(City Group)は 2009 年第1四半期に 16 億ドルの評価益を計上 した。そのうち,25 億ドルの自己の信用リスクの悪化で計上された負債の公 正価値変動の評価益が含まれている。HSBCは 2009 年第1四半期に 8.72 億 ドルの純利益を計上した。そのうち,66 億ドルの自己の信用リスクの悪化で 計上された負債の公正価値変動の評価益である。
これに対して,経営改善や資本市場の人気を集めている企業は,自己の信 用リスクの改善で負債の公正価値が上昇し,損失の計上をしなければならな い。モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)は 2009 年第 1 四半期に 15 億ド ルの負債の公正価値変動の評価損を計上した。中国の小米会社は新株式発行 に関する会社内容説明書に開示し,IFRSに従って 2017 年の業績は 439 億元 の損失を開示している。しかし,そのうち,負債の公正価値変動の評価損(541 億円)を含んでいる12)。この巨額の損失を除けば,小米会社の利益は多額に なる。このような経営状況に反する結果について,出資者は会社の業績をど う評価するかよくわからないといわれる。このようなことに鑑みて,負債の 公正価値測定に自己の信用リスクを織り込むことに反対する者は,企業が貸 借対照表を粉飾し,利益を操作するための新しい扉を開くものであると指摘 してきた。
金融負債の公正価値は,自己の信用リスクとその変化を反映すべきかどう かが,会計上の議論の焦点である。JWGは,金融負債の信用リスクは,公正 価値が重要かつ関連した経済結果を反映する重要な要素であると考えており,
一部の金融機関がデリバティブを利用してその債務の信用リスクを管理して いるため,当該債務にクレジットリスクの変化を反映しないと,これらのデ
12) 黄(2018),8頁。
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リバティブとの公正価値の不整合を招くと考えている。SFAS 157は,すべ ての負債は,公正価値の中に報告企業の信用リスクとその変化を反映しなけ ればならないことである。そして,会計ルールにしたがって行われる実務処 理において,自己の信用リスクを反映する負債の公正価値がどのように算出 されるか注目する必要がある。
4.会計基準の権威に対する挑戦
業績報告と業績評価は会計基準の権威性に支えられている。調査による と,出資者と財務アナリストはその決定分析において,アナログ測定指標
(pro-forma measures)またはNon- GAAPの業績指標をますますよく使うよ うになった。
ニューヨークの公認会計士協会の調査結果によると,過去 20 年間にNon- GAAPの業績指標を使用した会社の割合は 59%から 96%に増加した。フィ ナンシャルタイムズ 100 指数(ftse-100 index)は,81 社が年次報告でNon- GAAPの業績指標を開示しており,スタンダード・プア 500 指数(S&P 500 index)は,88%の会社がNon- GAAPの業績指標を開示している。ダウジョー ンズ指数(DJIA)は,GAAPとNon- GAAPの業績指標の差が 2014 年の 12%
から 2015 年の 30%に上昇した。Non- GAAPの業績指標がますます重視され ていることは,資本市場はこれに対して強い情報需要があることを示してい る。これはIFRSとGAAPが権威性と関連性を喪失していることをある程度 説明している。
実証研究では,米国の資本市場において,Non- GAAPの業績指標は株価の 増加にプラスの関係がある。しかし,会計基準に要求される業績指標は,例 えば利益などの指標の価値関連性が低下傾向にあることがわかった13)。した
13) 黄(2018),9頁。
( 15 )
がって,筆者は,利用者に有用な情報を提供するために,収益と費用項目の 分類及び開示をどのように進めるべきかを提示している。
Ⅴ お わ り に
本稿では,公正価値測定において,「会計アプローチ」と「業績報告」とい う2つの面で,影響を分析した。検討の結果,概ね次の事柄が明らかにさ れた。
第1に,公正価値測定による資産負債アプローチに対する誤解を分析した。
公正価値測定は資産負債アプローチの必然的な結果のように見える。公正価 値測定と資産負債アプローチを合併することは,評価理論における経済収益 の核心である。したがって,資産負債アプローチに対する疑問の発生は両者 の概念上の一致によるものである14)。しかし,このような理解は,すべての 資産と負債がいつでも認識可能および検証可能であると仮定する一定の前提 の下で確立する必要があり,これは明らかに非現実的である。EFRAGも,
コストパフォーマンスの原則に基づいて,適切な時にのみ公正価値で資産と 負債を測定することを認めている。
第2に,公正価値測定が収益の中身をどう変え,利益計算モデルの変革を 促進することを達成するかを論じた。公正価値測定は利益計算モデルの変革 を促進し,すなわち「包括利益モデル」を生み出した。包括利益は意思決定 の有用性に基づく業績報告に基づき,公正価値を用いて将来の経済利益を測 定する産物である。現在包括利益が直面している挑戦は主に実務操作過程に 由来している。
第3に,公正価値測定が業績報告に対する影響と混乱を分析した。公正価 14) EFRAG.Getting a Better Framework: the Asset/Liability Approach, 2013.
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値測定は業績報告に4つの影響がある。それぞれは,従来の業績指標への影 響,業績報告様式への影響,業績評価への影響および会計基準の権威に対す る挑戦である。また,公正価値測定に伴うその他の包括利益も業績報告に混 乱を与えている。
IASBのディスカッションペーパーに対するフィードバック意見では,財 務諸表利用者のその他の包括利益に対するコメントは一つの問題を指摘して いる。つまり,企業の業績をどのように評価するかということである。筆者 は,従来の損益計算書の最後の行の「純利益」は,重要な業績指標(KPI)と されてきたが,包括利益計算書の出現に伴い,「純利益」はさらに「包括利 益」に拡張され,いずれも業績報告の主要なデータである。そして,業績報 告は収益と費用の項目に対して合理的な方法で組み合わせと区分を行い,利 用者に単一種類の項目の内容を理解できるだけでなく,その上で必要なもの を取り,業績評価指標を形成し,過去と未来をより良く評価すると考えて いる。
なお,筆者は,Non- GAAPの業績指標の運用はますます普遍的になり,財 務アナリストなど専門家の愛顧を受けていることから,基準制定機構は,
Non- GAAPの業績指標の重視を強めなければならないと考えている。基準
制定機構は,業績報告の制定と改善プロジェクトを適時に起動し,特に包括 利益とその他の包括利益の業績報告における地位と役割を明確にしなければ ならないと考えている。そうでないと,会計基準の権威性と関連性はさらに 弱まり,業績報告の開示と評価は,無秩序状態に陥る可能性があると考えて いる。
以上より,公正価値測定の導入と発展は資産負債アプローチ,利益計算モ デル及び業績報告に与える影響は二面性がある。公正価値測定と開示には改 善すべき点がまだある。この点についても別稿で考察を進めることとしたい。
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