あらためて大学図書館の レファレンスを考える
-問題提起にかえて-
国立情報学研究所 学術コンテンツ課
米澤 誠
目次
2
1 学術コミュニケーションの変容 2 主体的学習とオープン教育
3 情報リテラシー教育としてのレファレンス
1 学術コミュニケーションの変容
1.1 学術情報におけるメディアの変容 1.2 情報獲得行動の変容
1.3 レファレンスサービスの変容
1.1 学術情報におけるメディアの変容
4
インフォーマルコミュニケーション
フォーマルコミュニケーション
会話・電話 会合
雑誌 図書
索引誌 抄録誌
メール テレビ会議
電子ジャーナル ウェブサイト
データベース 身体系・通信系
蓄積系
ネットワーク系
変容
変容
ネットワーク系
機関リポジトリ
『学術情報と図書館』(海野敏ほか,1999)から作成
1.2 情報獲得行動の変容(1)
考慮する 情報源
割合 最初に選択する 情報源
割合 検索エンジン 91% 検索エンジン 80%
図書館 55% 図書館 11%
オンライン図書館 42% オンライン図書館 6%
書店 37% 書店 2%
オンライン書店 30% オンライン書店 2%
“Perceptions of libraries and information resources : a report of the OCLC membership”(OCLC, 2005)から作成
選択する情報源
1.2 情報獲得行動の変容(2)
6
40 44
72 75
85 89
92
60 56
28 25
15 11
8
0% 50% 100%
信頼性 正確性 アクセス性 費用対効果 手軽さ 便利さ 即時性
検索エンジン 図書館
検索エンジンと図書館の優位性
1.2 情報獲得行動の変容(3)
69%
9% 22%
図書館の情報 同等
検索エ ンジン
情報としての信頼度
1.2 情報獲得行動の変容(4)
8
利用頻度 検索
エンジン
図書館 オンライン 図書館
毎日 52.5% 6.1% 7.0%
週 2 ~ 3 回 34.4% 12.3% 9.0%
週 1 回 5.1% 23.4% 5.0%
月 2 ~ 3 回 4.0% 30.6% 12.0%
月 1 回 1.0% 10.2% 4.0%
年数回 1.0% 12.3% 8.0%
ほとんどなし 2.1% 5.1% 55.0%
八洲学園大学「図書館経営論.2006春期」(米澤担当)アンケート調査から作成
情報源の利用頻度
1.2 情報獲得行動の変容・まとめ
図書館は重要と認識していながら 最初に選択するのはウェブ
即時性,便利さ・手軽さ,アクセス性に おいて,圧倒的にウェブが優位
情報の信頼性については 図書館が若干優位
情報提供に関しては,ネットワーク系情報源
(電子ジャーナル,データベース,ウェブサイト)の 利用が定着し,主流となっている
これらのことから
1.3 レファレンスサービスの変容(1)
10
比較的回答が容易で,
即答が可能な質問
Wikipedia をはじめとした,
レファレンス資料として利用 可能な情報資源により,
セルフで入手可能
専門家や経験者の 知見を必要とする質問
ウェブ上の質問回答サイト の参加者相互に質問のやり 取りにより,満足度の高い回
答の入手が可能
従来
従来
変容
変容
図書館レファレンスサービスの 認識度と期待度の低下
「デジタル環境の進展による図書館と利用者との関係の変容」(齋藤泰則,2007,
『情報の科学と技術』)から作成
1.3 レファレンスサービスの変容(2)
『ネット検索革命』(アレクサンダー・ハラヴェ,青土社,2009)から
ここには二つの危険な点がある。第一に,「デジタル・ネイ ティヴ」の若者たちは,ネットに耽ってきた世代に属し,最先端 の利用は心得ていても,例えば学術情報の取り扱い方法を 知らない。第二に,これは熟練の司書や学者ならば驚くことで はないと思うが,ウェブや検索エンジンは,信頼できる情報を 得るためには,不適切な道具だ,ということである。今の大学 生は,図書館や目録でデータベースを探すよりも,検索エン ジンに頼る傾向があることは,残念ながらあまり注意されてい ない。 2001 年時点で,十代の若者の 90% 以上が,宿題をす るのにウェブを使っている。(中略)
学生たちは,自分の情報発見および評価のスキルを,求めら
れる水準よりも高いと過信している。
1.3 レファレンスサービスの変容(3)
12
問題が重要で,その問題 の解決に中長期的な取り
組みが必要な時
利用者は図書館の情報 資源を選択し,図書館の
支援を求める 問題解決過程の初期状態
にあり,未だ情報要求を 質問として明確に提示で
きない場合
問題解決過程を進展さ せる手がかりを求めて
図書館を利用する
傾向
傾向
主体的な学習過程・問題解決の 過程の中でのレファレンス要求
「デジタル環境の進展による図書館と利用者との関係の変容」(齋藤泰則,2007,
『情報の科学と技術』)から作成
1.3 レファレンスサービスの変容(4)
『ネット検索革命』(アレクサンダー・ハラヴェ,青土社,2009)から
伝統的な情報の扱いが薄れていくことに多くの人は不満を 抱き,教師はウェブからの「切り貼り」(カット・アンド・ペースト)
のエッセイが提出されることを嘆く。(中略)
検索のエキスパートは,十年前の学生が大学の図書館で集 めたよりもはるかに多くの種類の情報を,居ながらにして集め ることができる。情報源は大きく変わっているが,学生の研究 能力が衰えたのかどうかは,まだ分からない。(中略)
情報が速く容易に手に入ることで,より深い知識や叡智を導く
ようなつながりを創りだすのは,困難になってきている。
1.4 長澤雅男氏の予言(1)
14
『レファレンスサービス』(長澤雅男,丸善,1995)から
電子掲示板システムで質問をしたとしても,回答が必ず得ら れるというわけではないし,提供される情報の詳しさや正確さ のばらつきも大きいという問題もある。
ネットワーク環境で電子化された一次情報が提供されるよう になると,所在の確認から情報の入手の過程は一連のものと なる。
今後は,利用者がコンピュータシステムを直接操作して情報
を入手する機会が多くなるであろう。
1.4 長澤雅男氏の予言(2)
『レファレンスサービス』(長澤雅男,丸善,1995)から
このような状況においてレファレンスサービスの専門性を示 そうとするならば,インターネットの探索用ソフトウェアを使い こなすということではなくて,その対象となる情報源について の専門的な知識によって,サービスに付加価値を与えるよう にしなければならない。
インターネット利用教育を図書館の情報サービスのレパート
リーの一つに組み込むことは,図書館の役割を外部にアピー
ルする一つのチャンスとなるであろう。
2 主体的学習とオープン教育
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2.1 主体的学習の実践例 2.2 主体的学習の効用
2.3 主体的学習/オープン教育の方向性
2.1 主体的学習の実践例(1)
テキスト履修科目「図書館経営論」における学習過程
・自分のホームライブラリーを選択
①「現状と特色」について,文献収集と 取材などでレポートを作成(3千字程度)
八洲学園大学
eラーニング授業の事例
②「課題と改善策」について,文献を 援用して考察し,レポートを作成
(5~8千字程度)
文献収 集の必
要性 文献収 集の必
要性
「レポート作成におけるコピペ防止策:コピペを超えるライティング授業デザイン」
(米澤誠,『情報管理』52(5),2009)から作成
2.1 主体的学習の実践例(2)
18
0% 50% 100%
情報探索力 図書館経営の話題 文章作成力 改善に関する知見 図書館経営論の知識 取材した図書館の情報 レポート作成力
身に付いたスキル 無回答
2008 年春期履修生 106 名からの回答 1 名につき,平均 4.5 項目のスキルが身に付いたと回答
知識だけではなく
技能も習得
2.1 主体的学習の実践例(3)
0% 50% 100%
「情報探索の基礎知識」
「これからの図書館像」
科目テキスト
「図書館像実践事例集」
レポート作成法教材 添削指導 レポート見本
有用だった資料 無回答
1 名につき,平均 5.9 の教材を有用と回答
学ぶだけではなく
習うための教材も
2.1 主体的学習の実践例(4)
20
・レポートを書くために,様々なことを調べたり取材して,今まで 漠然と利用していた図書館のことを,良く知ることができた。
・テキストで知識を学ぶだけではなく,自分の頭で考えたり,色々 な資料を調べたり,図書館員にインタビューしたりと,実践を伴っ た科目だった。
・与えられた課題をこなすのではなく,学ぶ姿勢・楽しさを教えて いただいた。
・足を使ってレポートを完成する楽しさを知りました。
・レポートの枚数も多く大変でしたが,実力がついたと思います。
・苦しくも達成感のある科目でした。さみしい気持ちがします。
2006年秋期履修生
2.2 主体的学習の効用(1)
自立的に問題解決を行う図書館中心の学習 教員の授業中心の受動的学習
自主的な学習能力 能動的な学習行動
生涯活用できる 変化に応じた探索術
学習効果の高い 発見型学習
学習方式による効用
図書館をとりこんだ学習 指導することが肝心
『情報を使う力』(ブレイビク,ギー著,勁草書房,1995)から作成
2.2 主体的学習の効用(2)
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自立的に問題解決を行う図書館中心の学習 教員の授業中心の受動的学習
多様な嗜好に応じた 多様な学習スタイル 多様な能力・関心
に応じた多様な資料
図書館利用による効用
『情報を使う力』(ブレイビク,ギー著,勁草書房,1995)から作成
2.3 主体的学習/オープン教育の方向性
受身的・一方的な教育
主体的・双方向的なオープン教育
・基礎的知識の習得
・専門的知識の習得
・課題発見型学習
・グループ学習
具体的な学習・問題解決の文脈の中
(=ティーチャブル・モーメント)でこそ もっとも学習効果がある
補完的な役割
これが有効な理由
3 情報リテラシー教育としてのレファレンス
24
3.1 オープン教育と情報リテラシー教育 3.2 情報リテラシー教育の方向性
3.3 情報提供型レファレンス
3.4 学習指導型レファレンス
3.1 オープン教育と情報リテラシー教育
25
情報リテラシー
情報を探索・整理
多様な学習環境 探索術を習得
多様な情報資源 発見型の学習 自主的に情報選択 オープン教育
主体的学習 学び方の学習
思考力を発達 課題学習 多様な教材 多様な教室・家具
類似
類似
「ラーニング・コモンズの本質:ICT時代における情報リテラシー/オープン教育を実 現する基盤施設としての図書館」(米澤誠,『名古屋大学附属図書館研究開発年報』
7号,2009)から作成
3.2 情報リテラシー教育の方向性
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受身的・一方的な情報リテラシー教育
主体的・双方向的な情報リテラシー教育
・新入生ガイダンス
・図書館OPAC講習会
・レファレンスを通じた指導
・レポート作成を通じた指導 具体的な学習・問題解決の文脈の中
(=ティーチャブル・モーメント)でこそ もっとも学習効果がある
補完的な役割
これが有効な理由
インタラクティブ
期待感 付加価値
3.3 情報提供型レファレンス(1)
情報提供型
レファレンスサービス
間接的・能動的サービス 直接的・受動的サービス
・情報の提供
・文献の提供,その他の情報源の提供
・図書館利用法の援助
・文献(情報)探索法の援助
・レファレンスコレクションの維持・管理
・インターネット上の情報資源へのリンク集作成
・インフォメーションファイルの編成・維持
・自館製ツールの作成,二次文献の作成
・レファレンスネットワークの組織
『図書館ハンドブック』第 版( , ),「図Ⅱ- レファレンスサービスの種類」から作成
3.3 情報提供型レファレンス(2)
28
レベル 内容
第1
情報源の組織化
間接的なサービス
・組織化された情報源に対する利用者自身によ る探索
第2
情報源の所在調査
レディレファレンスにおける仲介的機能
・事実検索質問・既知文献探索質問への回答
・質問と回答
第3
情報源の探索
標準的なレファレンスにおける仲介的 機能
・主題探索
・特定の順序によらない情報源の利用
・問題,インタビュー,情報源
「デジタル環境の進展による図書館と利用者との関係の変容」(齋藤泰則,2007,
『情報の科学と技術』)から作成
3.4 学習指導型レファレンス(1)
学習指導型
レファレンスサービス 直接的・能動的サービス
・文献(情報)の提供と図書館利用法の指導
・文献(情報)の提供と探索法の指導
・レファレンス情報源(図書館コレクション,
ウェブ情報源)利用法の指導
・パスファインダーの作成・提供と利用指導
・オンラインレファレンスによるサービスと利 用指導
レファレンスを通じた効果的な学習指導
主体的な学習法・問題解決法を
習得させるレファレンスサービス
3.4 学習指導型レファレンス(2)
30
レベル 内容
第4
アドバイザー
定形化された仲介的機能
・主題探索
・推奨された順序による情報源
・問題,交渉,順序性
第5
カウンセラー
問題解決過程全体にわたる仲介的機能
・構成的探索
・全体的経験
・問題,対話,戦略,情報源
・再定義
「デジタル環境の進展による図書館と利用者との関係の変容」(齋藤泰則,2007,
『情報の科学と技術』)から作成
利用者への情報提供機関か ら
利用者の学習支援機関へ
4 明日のレファレンスのために
4.1 大学生の学び方を知る
4.2 大学のカリキュラムを知る
4.3 カリキュラムに対応する資料を知る
5 米国大学図書館の問題意識(1)
32
“Studying students.”(Foster & Gibbon,ARL,2007)から
( 26% の学生は)論文で最も難しいと考える部分,つまりアイ ディアの整理と提示方法について,ライティングセンターに支 援を求めていた。
一部の学生,特にクラスで図書館員と接触している学生は,
自分の研究について,レファレンス図書館員に相談している。
その他の学生たちは,レファレンス図書館員や主題図書館員 の役割を理解しておらず,図書館員を単に資料をコピーし,
書架から書籍を探し出す人と考えている。
5 米国大学図書館の問題意識(2)
“Studying students.”(Foster & Gibbon,ARL,2007)から