シリコンバルクの高電界特性
(昭和52年5月28日 原稿受付)
大学院(電子工学専攻)松本勝哉*
電子工学科
High Field Characteristics in Silicon Bulk
by Katsuya MATSUMOTO Keiji TAKAGI
SYNOPSIS
N−type silicon bulk with two ohmic contacts is prepared to investigate the high field characte−
ristics. It is dernonstrated that the bulk shows ohmic characteristic in low field region and non−
ohmic characteristic due to the hot electron effect at high electric fields. The measured noise shows almost white noise at 3−20 MHz. It shows thermal noiseテ=4〃7 g4∫at low electric fields, while it is evident that the noise increases rapidly with increasing the electric field above the critical field.
The hot electron noise is demonstrated qualitatively in the n−type silicon bulk in this paper.
ど熱平衡状態にあると考えられる。この場合には,ボル 1・まえがき @ ッマン方程式を解くこと1、よって容易に直流特性が得ら
筆者らは,先に,シリコンで空間電荷制限ダイオード れ,これは,次式で与えられる4)。
撒㌶覧㌶㌫∵冴:1ξ㌶ 元…編百去・∂(;三τ(ε)〉・E㏄E(1)
が認められ,ホットキャリア雑音が観測された。ところ ここで,ノは電流密度,ηは状態数,θは電子の電荷,
で,高電界におけるこのホットキャリア雑音は、高周波 勿は電子の質量,εは電子のエネルギー,τ(ε)は緩和時 特性改善によるチャネル長の短縮された電界効果トラン 間,Eは電界強度,〈A>は, A(ε)のボルツマン分布に
ジスタにおいても考慮する必要があり2),その評価をす よる平均値を表わす。このように低電界においては,オ ることは重要である。そこで,本文では,電界効果トラ ーミック電流が流れることになる。
ンジスタを最も単純化した構造,すなわち,ゲートをも 高電界の場合には,直接分布関数を求めることは非常 たない2つのオーミック電極をつけただけのn形シリコ に困難である。それは,電子が電界から得るエネルギー ンバルクを製作し,その特性を測定した。その結果, は非常に大きく,そのエネルギーをすみやかに結晶格子 Ryderの報告3)と同様な直流特性,すなわち,高電界領域 に与えられなくなっており,熱平衡状態からかなりずれ において移動度が減少する傾向が観測された。また,雑 ていると考えられるからである。しかし,定性的には,
音特性においては,高電界効果を考慮した従来の熱雑音 直流特性はエネルギーの釣合の条件から求まる。J. L 理論ア;4〃Tg(E)∠∫より急激な雑音増加が観測さ Mollによれば,低電界から中間的な電界においても電子 れ,n形シリコンにおいても,やはりホットキャリア雑 の散乱は,音響形フォノン散乱だけによるものと仮定す 音が生じることが,明らかになった。 ると,次式が成立する5)。
2.・形シリコンの高電界特性の考察 (乎)2一乎一霊(μぎ)2=・ (2)
低電界の場合には,電子は,ドリフト運動時に電界か ここで,τ,は電子温度,Tは格子温度,μ。は真空中の透 ら得たエネルギーをすみやかに結晶格子に与え,ほとん 磁率,Cは結晶中の音速である。この式は,T,/Tに関す
*現在九州大学工学部
る2次の代数方程式であるから容易に解くことができ, で表わされる。ここで〃はボルツマン定数τはバルク
芸=去〔1+{1+誓(μ誓)2}112〕 (3)ぽ:野こ㍑㌶還三、㌃㍑夢8
となる。したがって,低電界(μ・E《C)のときには, 一定であるから,そのまま適用できるが,高電界領域に
乎≒1+(μ鵠 (4)當㌫ξ鷲㌔:認㌶1霊
元≒・⇒1一丁(μ誓)2・題〕 (5)−L離)の傾きである・この場合(8)・(9)式は次式とな る。
となり,高電界(μ。E》C)のときには,
♀≒・紺 (6) ア=・・4〃τ(音)∠プ (1①
ノ≒卿( ) 、Uム1Ec・E)1/20cE1/2 (7) 石=・・警(銑) (ll)
となる。ここで,E。=32C/3πμ。は臨界電界である。 一般に・高電界になると・前述の理論のように9は減 (4)式は,電界強度Eが増加すると格子温度τより高い 少することになる。したがって,バルク内部で発生する 温度7・,の電子を生ずることを意味している。このよう 雑音が・すべて熱雑音であれば・電界強度の増加ととも な電子を・ホットエレクトロン〃と呼ぶ。電流密度∫ に・その雑音は・減少することになる・高電界における については,電界が弱いところでは,(5)式において,第 他の雑音機構については・今までのところ明らかにされ
2項は,第1項に比較して無視できるから ∫≒εημ。E ていない・
となり・これは・オーミ・ク翫が流れることを意味し 3.試料の製作と測定 ている。そして、電界強度Eの増加とともに,オーミッ
ク電流よりEの二乗に比例して減少し,Eがさらに増加 3.1.試料の製作9)
すると,(7)式のようにノはEの平方根に比例するように n形シリコンバルクは図1に示すように,シリコンの なる。 n形エピタキシャル層にアンチモン化金AuSbを蒸着 ところで,(6),(7)式によれば,Eの増加とともに7 。, 及び拡散して,2つのn+層を作り,オーミック電極とし 元はいくらでも大きくなれるが,物理的には,このよう た。その製作方法の概要を次に述べるが,これは,今日 なことはあり得ず,ある一定値に落着く。これは,以上 最も一般的であるフォトエッチング技術を用いている。
の解析が,高電界における音響形フォノン散乱のみを考
慮したからであり,実際には,高電界においては,大き 25亀100μm 、 、 H
欝こ繊≧㌶瓢::llll 51念㌶1論Z_
:ご羅㌶繍;:㌻二゜°NN漂燃゜8°°恥m
なエネルギー変化を伴なっ散乱,たとえば,光学形フォ
困難である。そこで,最近では,理論的解析として,電 図一1 n形シリコンバルクの構造 子計算機によるシミュレーションが行われる。
次に,雑音特性について考察する。2つのオーミック まず,n形シリコンウェハーを約15mm角に切断し,
電極を付けただけのバルクより発生する雑音は,ナイキ 有機溶済及び蒸留水でよく超音波洗浄する。洗浄後の ストの定理によって,次式で表わされる。 ウェハーはよく乾燥させてから純粋な酸素ガスを流した ア=4〃Tg4∫ (8) 電気炉中に入れ.適当な温度と時間で:n形シリコンエ あるいは,等価雑音電流1,,に変換して *酸化膜の厚さは,ウェーバーの温度と時間によって一
∫,,一塑9 (9) 意的に決まるが・酸素ガスがd・yかw・tかによっても
θ 異なる。
む ピタキシャル層の上に2000〜3000Aの酸化膜を作る。 Nois¢
次に酸化膜の表面に感光物質(Kodak Photo Resist;K− 9¢n¢rotor
PR)を塗布し乾燥させ,その後,図2に示すような電極 Sdrnple DC
パターンのネガをウェ・一に直蹴させ=で露光 1・p・t ch。PP。, V°1垣ge
する。そのウェハーをKPR用現像液で現像すると,未感 光の電極部分だけが,その溶済に溶け,他の部分はKPR
circuit
がそのまま残る。そのウェハーを化学エッチすると,電 Pre AmP n¢rotor 極部分の酸化膜だけが,エッチされてなくなり,その部
分には,エピタキシャル層が現われる。さらに,あたた
Puls¢
9¢
めた繊容済で硬化したKPRを取除き,窓のあい遷 他t G。t・ D。1。y First
極部分に不純物(AuSb)を蒸着し,適当な温度と時間で
熱拡散を行えば,n層中にn+層ができる。このn+層に Second
;ペーストでリード線を付けてオーミ、,ク電極とした. M°in AmP Ddqy
触 5⑭ 加G。t¢
Amp
(a) (b)
図一2 電極パターン Squor¢
d¢t¢ctor 3.2.測定
試料の測定にあたり,特に高電界における特性を測定M
することが一つの目的であるから誼流バイアスを印加 図_3パルスバィアス1艮掟系
して測定したのでは,試料の温度上昇のために,その目 的を達成することが困難となる。そこで,周期数+m
sec,衝撃係数約0.1のパルス電圧でバイアスを行ない, しており,その抵抗値は,温度が低いほど小さな値となっ その期間,測定を行った。 ている。これは,周知のように,低温になるほど・キャ 電圧電流特性は,シンクロスコープの波形から直接測 リアの運動を防げる格子振動の影響が減少するからであ
定できるが,雑音測定は,パルスバイアスを行うために, ろう。電界強度が増加し,数KV/cm以上になると・ど 図3に示すように,幾分複雑な測定系になる。しかしな ちらのバルクもオーミック特性からはずれ始める。この がら,その測定原理は,直流バイアスの場合lo)とまった 理由については,2.で述べたようにキャリアである電 く同様であり,やはり,試料で発生する熱雑音のパワー 子の温度7 ,が格子温度丁より高くなり,いわゆるホッ と飽和二極管(nOiSe generatOr)で発生するショット雑音 トエレクトロン状態になり始めるからであろう。この のパワ_とを比較して測定される1・)。 オーミック特性からはずれ始める電界強度Eoは・それ ぞれの特性曲線から正確に見出すことは難しいが,大体
4・測定結果 の目安として求めると,表1のようになる.ここで,
4.1.直流特性 Ryder3)のように,ん㏄E4と∫d(x E112の折線近似の交 Bulk 1とBulk 2の直流特性を図4,図5に各々示す。 点をホットエレクトロン状態の生じ始める目安の電界強
どちらの特性も電界強度が小さい範囲では,すぐれた 度E。として求めたいのであるが,測定された特性曲線
オーミック特性を示している。この特性は,温度が変化 においてはム。(EJ2の範囲が狭く,E,を求めること
してもやはりある範囲内において,オーミック特性を示 は困難であった。したがって,オーミック特性からはず
二
一 酬u㌫
;一
l l−lll[一
一 . A
1
〒 一
ロ }o・K・ @ ㍑ 1
一
二_… 牌 1 │ i
[{ll