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『都市をたたむ―人口減少時代をデザインする都市計画』 (花伝社、2015 年)

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109 書 評 1

1.はじめに

 本書は 2015 年 12 月の発売以来、大変 な注目を集めている。新聞書評でも「都 市と人の関係に転換を促す本書の筆致に は、右肩上がりの時代への未練を断たせ る力強さがある」(武田 2016)や、「実に 繊細なまちづくりの手法だ。担い手には 鋭敏な言語感覚と、衰退を成熟へと読み かえる強靱な意志が欠かせない。そのと きスポンジ化した地区でのあるべき住民 の生活が、都市計画の中ににじんでいく のだ。そんな未来の町に住んでみたい、

本書の読了後、人はそう思うだろう」(牧 原 2016)と、本書が示す未来像への期待 が語られている。

 本書評ではその後に発表された著者に よる各種論考(饗庭 2016a,2016b,2016c)

も手掛かりとしつつ、評者が専門とする 地方自治論の観点からどう読み解くかを 議論したい。

2.ベビーブーマーと都市膨張

 本書は人口ピラミッドの世代間不均衡 がもたらす帰結から出発する。ベビーブー

マーの誕生とその後の成長を主因(具体 的には宅地・住宅の購入)とする開発・

膨張圧力の下で形成されてきた戦後日本 の都市(饗庭 2016b)は、決定的に多数 を占める彼らが経済的にも生物学的にも

“退場”してゆく局面で“膨張パラダイム”

が終焉する。そして、第 2 次大戦後の農 地改革とその後の相続課税による資産再 分配政策から実現した勤労世帯が分厚 い「小規模土地所有者」としてメインス トリームを構成する経済社会の下、主た る土地所有世代でもあるベビーブーマー たちの土地資源が相続によりマーケット に再投入される約 10 ~ 20 年後に向けて、

日本の都市空間を人口規模に適切に即し た低密度化に向けて混乱なくマネジメン トしてゆくにはどのようにするべきか、が 評者が見る本書の基本的なテーマである。

 これに対し、本書は人口減少を所与と して“冷静に利用する”立場をとる。都 市計画として人口膨張圧力を「捌く」必 要がないからである。まち・ひと・しご と創生法に基づく人口ビジョンと地方創 生総合戦略で人口の“V 字回復”を基調

【書評 1】

饗庭 伸 著

『都市をたたむ―人口減少時代をデザインする都市計画』

(花伝社、2015 年)

長野 基

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都市政策研究 第 11 号 2017 年

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とする計画を定める自治体も存在するが、

本書から導かれる政策的立場は、まずもっ て、「人口減少を当たり前の現象として捉 える」であり、「人口を直接増やす政策を 頑張らない」こととなる(饗庭 2016c)。

3.都市の「スポンジ化」への対応  人口集中世代がベビーブーマー以外に ないことから、人口の“器”としての都 市は“ゆっくりとした変化”を遂げてい くこととなる。ただし、そこで生じる変 化は、人口拡大期の市街地の外縁部への 拡大と市街化区域内での農地の宅地化と いう変化とは異なる市街化区域内での空 き家の発生を特徴とする。しかもそれは、

開発途上国におけるスラムのような面的 な集積で存在するのではなく―スラムが 可視化されなかったことも本書では日本 の都市計画の成果と強調される―、死去・

相続など、所有者個人の個別の事情を原 因としてランダムに“無数の穴”として 発生する「スポンジ化」を特徴とする。「都 市はスポンジ状に変化する」のである。

これは土地所有が“プチ地主”としてマ スたる中間層主体に細分化している条件 と合わせると、「コンパクトシティは簡単 にはできない」ということも意味する(饗 庭 2016c)。

 こうした「スポンジ化」で生じた空き 家には売却や賃貸物件として市場に再投 入されるものがある一方で、十分なスペッ クを持つが“個人の思い出・思い入れ”

などの事情から市場に投入されない「非

市場空き家」となるものが大量に発生す る(発生している)。人口減少社会では住 宅ニーズそのものが減少するため、空き 家は最終的には解体という“最期”へ向 かうのであるが、その過程で、個人の所 有を前提としつつ、コミュニティ施設や 福祉施設などとして人々の集う場となり、

ソーシャル・キャピタルを育む空間資源 としてどれだけ利用され、「豊かな最期」

を迎えさせることができるか、換言すれ ば、個々人の事情を読み合わせ、人々に

“開かれた”ものとして維持するための個 人・組織レベルでの関係性構築とメニュー 作りが都市空間プランニングの重要な課 題となる(饗庭 2016a)。そして、広域レ ベルでのマスタープランもコントロール から“折り合い・編集”という機能へシ フトしてゆく。人口拡大期とは異なるプ ランニングの専門性が人口縮小期には求 められるのである。

4.小さな単位での“物語を紡ぐ”都市計画  土地利用規制を中心とする都市計画の 決定主体は国家か自治体か、そして、市 場取引にどれだけ公共的介入を行うか、

が都市計画の類型論として用いられてき た(北原 2007)。また、地方分権を前提 に土地利用規制の決定へ自治体がどれだ け政治的パワーを持つことができるのか

(北原 2009)も大きな論点であった。だが、

本書の主張に従えば、これらは開発・人 口膨張圧力の下での問題である。人口減 少社会では、これら争点の重要性は相対

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的に低下する。人口圧力が消滅するため、

公的主体が強制力を持って、中心部から 外縁部に向かって同心円状にゾーニング してゆく姿から、都市空間全体としての 低密度化を不可避のものとして、用途を 混在させ、多様な顔を持つ都市空間を小 さな単位で創造してゆくことへの転換が 期待されるのである。

 このような、より小さな単位での“物 語を紡ぐ”ことが重視される都市計画は、

評者が見るに、市域単位での利害調整が

(フィクションだとしても)期待されてい た都市計画審議会から首長による都市計 画決定へ至る現行の決定手続きとそれを 支える態勢へ変容を迫るものである。そ こでは近隣住区内での住民間の利害対立 を解決できるよう熟議を支援する機能や 住民自身が学習して納得の上で決定でき るように専門的な助言をする機能が必要 であること(長野 2009)も展望されるが、

具体のプロセス設計は評者を含め公共政 策研究に関わる者へ筆者から呼びかけら れた研究課題といえよう。

5.都市における新たな政治的対立構造 の可能性

 本書では「都市の担い手」として、「A 惰性のように経済成長のために都市を使 う人たち」「B 目的なく都市を消費する人 たち」「C 新しい目的を持って都市を成長 し続ける人たち」「D 新しい目的を持って 都市を消費する人たち」の 4 類型を設定 する。A は「一棟数百億円くらいのタワー

型のマンションの一部を購入するような 人々」、B は「自身の親から受け継いだ住 宅や、公営住宅、安価なアパートメント などを拠点にして最小限の生活を成り立 たせる」人々、C は「貨幣を媒介とする 経済市場からから必要なだけの富を得て、

それを空間にも投資しながら生活を豊か にしていく」人々、そして、D は「自分 たちの目的にあわせて都市にこれまでつ くられた空間を積極的に使い続けながら、

貨幣を媒介とする市場経済から能動的に 距離を置いて暮らしを送る」という「脱 物質的価値」(イングルハート 1978)重 視の人々である。著者は 4 類型が「混在 することが可能で、人々が自由に 4 つの スタイル間のシフトチェンジが可能であ り、多くの人の多元化した目的を多元的 に実現することが可能であることがこれ からの都市の条件である」とする。

 もちろん、本書は A の“タワマン族”

が新自由主義的政策に親近感を持つ右 派・保守政党支持者、B の公営住宅居住 者層は再分配政策重視の左派・組織政党 支持者であるというような政治的志向性 について言及するものではない。だが、

評者には、このような“類型の共存論”

に近年の都市政治分析との共通性を見出 すことができる。たとえば、Pierre(2011)

では「マネジャーリズム志向」「コーポラ ティズム志向」「経済成長重視志向」「福 祉・再分配志向」という 4 つの都市ガバ ナンスモデルが現代の都市には並行的に 存在し、どのモデルが優位になるかによっ

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て政策枠組みが方向づけられるとする。

 著者は 4 類型間での「シフトチェンジ」

が個人の中で生じるとするが、では、社 会勢力間でも生じるのであろうか?仮に 固定的だとするならば、政策の志向性の 変化は生じないこととなる。これも都市 政治分析研究者に筆者から投げかけられ た問いであると言えよう。

6.「世代の責任」としてのマニフェスト  空き家の「豊かな最期」という書きぶ りに現れるように、とかく暗く語られが ちな人口減少社会への対応に対して、本 書は“明るく・楽しく縮小過程を楽しも う”というメッセージを伝える。同時に 本書はベビーブーマーたちが都市に与え てきた影響から議論を開始する。都市拡 大の主導力となった彼らが高齢期となる に合わせて上程された本書のもうひとつ の問題意識は(誤解を恐れずに言えば)

ベビーブーマーたちへの“看取り”とし ての「都市をたたむ」ではないだろうか。

その意味で、本書は 1970 年代に生まれ たベビーブーマー Jr. 世代の著者によっ て記された“世代の責任”としてのマニ フェストである。

【引用参考文献】

饗庭伸(2016a)「都市のたたみかた」『地方自 治職員研修』2016 年 7 月号, 19-21.

饗庭伸(2016b)「人口減少時代の未来を見据え たまちづくり」『月刊自治研』 2016 年 8 月号, 16-23.

饗庭伸(2016c)「人口減少と都市縮小を考える 7 つのポイント」廣瀬克哉・自治体議会改 革フォーラム編『議会改革白書 2016 年版』, 32-35, 生活社

イングルハート, ロナルド(1978)『静かなる革 命-政治意識と行動様式の変化』東洋経済 新報社.

北原鉄也(2007)「都市計画の新動向に関する 分析-決定主体と介入手段-」『大阪市立大 學法學雜誌』54(2), 732-772.

北原鉄也(2009)「「国の都市計画」から「自治 体の都市計画」へ、「行政的都市計画」から

「政治的都市計画」へ」『地方自治職員研修』

2009 年 9 月号, 29-31.

武田徹(2016)「書評:都市をたたむ―人口減 少時代をデザインする都市計画[著]饗庭 伸」『朝日新聞』「書評(2016 年 2 月 28 日)」

( h t t p : / / b o o k . a s a h i . c o m / r e v i e w s / reviewer/2016022800014.html)(最終アク セス 2016 年 12 月 24 日)

長野基(2009) 「自治体政策過程における都市 計画審議会の機能の分析-東京都区市を 事例にして-」『年報行政研究』44 号, 150- 169.

牧原出(2016)「書評:『都市をたたむ』 饗庭 伸著」『読売新聞』「書評(2016 年 2 月 24 日)」

(http://www.yomiuri.co.jp/life/book/

review/20160214-OYT8T50020.html)

(最終アクセス 2016 年 12 月 24 日)

Pierre, Jon (2011), The Politics of Urban Governance, Palgrave Macmillan.

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参照

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