奈良教育大学学術リポジトリNEAR
奈良の鉄筋収蔵庫内の気温と湿度
著者 永田 四郎
雑誌名 古文化財教育研究報告
巻 2
ページ 13‑19
発行年 1973‑03
URL http://hdl.handle.net/10105/370
奈良の鉄筋収蔵庫内の気温と湿度
永 田 四 郎
(奈良教育大学 地学教室)
前号に奈良県内にある重要な古寺堂、倉蔵内外の気温と湿度の平均値を示し、これらの建物内 の全般的な平均状態を掻く簡単に述べておいたが、ここには、同じく奈良県内の古文化財を保存 展観している鉄筋収蔵庫内外の気温と湿度の月平均値と年平均値とを示しておく。
ここで対象としている鉄筋収蔵庫は、それぞれに外観や室容積、また管理状態なども違うが、
これらの何れも冷暖房設備を持たず自然換気の状勝こおかれていることや、建物の主な材質がコ ンクリートである点などが共通している。従って、たとえば換気量や室容帝と室内の温湿度との 間の量的関係を検出したい場合などには、ここに示してある資料では十分でないが、とに角奈良 に現存している鉄筋収蔵庫内がどれぐらいの温湿度であるのか、その平均状腰を知ることはでき
るであろう。
著者はこれまでに多くの古寺堂、倉蔵、鉄筋収蔵庫等の内外の温湿度測定値を得ているので、
これらを綜合解析すれば、古文化財の保存管理上、また一般室内気候上、いろいろな興昧ある問
責掛こついて、ある程度解明できるのではないかと期待しているが、このことは別として、ここには
奈良の鉄筋収蔵庫内外の温湿度平均値だけを示し、これを基にして若干の検討を簡単に加えてお
く。
1.観 測 法
前号の古寺堂、倉蔵内外の観測と同様な方法で、これらと同時に並行して、古寺堂や倉蔵内と 比較しつつ継続観測をおこなった。その概略は次のようである0
測点……建物内は、できるだけ室中央部、床血上0.5〜1.Omの高さ。室外は、建物の近くで 通風良好で直射日光から遠い位置、地上1.Omぐらいの高さ。
それぞれに通巻自記温湿計を設置。
測器……遇巻自記温湿計。アスマン通風温湿計でチェック0
測定…… 建物は通常の管理状態のまま。1年以上の連続観測。欠測はほとんど無かったが、記
鐘不明等は若干あった。測定者はほとんど全部が著者自身である。
なお、一部の建物については、室内蒸発量や室内敵気象、壁温等の測定も実施した。
ー13−
乱 温湿度平均値
気温と湿度の自記記紗こついて、2時間ごと、または4時間ごとに、温度は少数点以下1位ま で、湿度は1位まで読み取り、アスマン通風温湿計によるチェックに従って補正し、それぞれの 建物について月平均値と年平均値とを求めた。これらを第1表と第2表にまとめてある0
表中、数値の左肩に「印のあるものは、観測が「印のある月から始まり、翌年の「印の前月で 終っているということで、従って年平均値はこの間の月の総平均となっている。また、表中の外 気の温湿度は、前号の第4表中にも示してあるが、ここにも比較しやすい様に室内外を並べて示
しておく。
中2β ̄
宮川 ̄
寺 0−
8β ̄
聖2.0一
三1山・ 0■
8.0  ̄
長28一
‡川・
0 ■
2β
蛋川 ̄
寺 0 ̄
東2山 ̄ 大11)■
寺 0−
− ■ ■
∩〝 ∩〝+U
O− 1 法隆寺
1 2 8 亘11て扇
第1図鉄筋収蔵ヰ内外の温度差の年変化比較
(収蔵阜内気温一外気温)恒
−14−
第1表 鉄筋収蔵庫内外の気温平均値(OC)
観測期間
7一28・726・6
6元紬
5一19.︒16.8
4議12.8
3議8・1
2盲33
1竜亜
年
17.0 14.8
8
28.7 263
「2
「27J
「29.0
「26.0
ヱ8・76.9
11議1︒.2
芸川
9詣22・6
内外 ∫lし 寺
隆 法
l 1955,6月
J56,5月
7 .4 7 5 3 3 3 3
1 2 3 内内 内 外 .7 ∫ 7 3 5 5 5 5 β .4 6 4 2 2
.3 n〃 ▲ぷ .7 1 1 2 0 2 2 2 2
月 .7 nN.A 7 7 9 6 1 1 1 1
9 7 0 00 2 2 3 2 1 1 1 1
3 3 ︻J ︵力 9 9 9 00 6 ︵わ 1 3 2 2 3 1 1 1 1 1 ︻心 ▲ぷ ︻J ユ 6 6 7 5 1 1 1 1 只〜.A .5 ユ 1 2 3 1 2 2 2 2
6A 15.1 6ユ 15J)
6.5 15.9 6.1 142
19伍.8月 J66,7月
寺 大 東
2.
}
‡
」
よ3牒澤
4・長谷寺
5・聖林寺l冨
26月 28.7 253 「17β 267 283 25.3 「18.4 26A 27.4 24J)「163 恒57 28.4 24.5 173 ほ3.9 25.1 22.1 16」2
26A 「29.2 23月 16.9 23.9 「25.8 21.7 153 27β 28.5 26.4 19β 5.4 6.7 10.7 14.0 19.6 232
4∫ 6β 10.0 13.4 18.8 222 4.1 5A lO.1 14.6 18A 21月
3.0 37 6.9 13.7 20.6 23.5 18 3.0 6.1 13.3 18.2 21.5
3.3 2A 9.0 162 19.4 23.7 3.0 1.4 7.6 13A 16.6 20β
53 6.9 7.0 14−8 20J; 22−4 2.3 4.6 5.1 12.8 18.5 20.9
43 5.4 9.1 14.0 19.2 22.7 32 3.8 7.6 13.3 17.5 215
13.0 7.6 16.6 13.5 7.1 16」2 11月 6.6 15.6
10β 5.0 15.2 9A 4−4 13∫
1965,10月 J66,9月
1粥6,7月 J67,6月
12・5 5・015∫い粥7・8月 11A 3月13・7」′J髄・7月 13.0 7.9 16.711969.1月
6.中宮寺 26.3 27.2 24.817.311.5 5.514月?J69,12月
26.6 28.4 242 17.9 12.6 67 15.9 25.3 26.3 22.7 16.2 10.9 5.5 14.5
東大寺内1・‥=・第1号室(大童)、 東大寺内2……第2号室(2階小室)、 東大寺内3……第4号室(3陣中室)
元興寺内1……中央室(大童)、 元興寺内2……東室1階(小室)
第2表 鉄筋収蔵庫内外の湿度平均値(%)〔()内は水蒸気圧(mb)〕
竺6777
516980 望6879
l㌫70 2㌫69 3−6869 416166 11一6676 ︶ ︶ 00 2 9 6
2 2
1 1 ︵ ︵
7 5
6 7
内 外 ′l
寺 隆 法
l 5 8 6 7 4 0 7 8 1 4 6 免じ 6 q︶ q︶ 3 7 7 6 只V ︶ ︶ ︶ ︶ 1 4 8 9 .〇 .▲⁚一2−︻J 2 2 2 2 1 1 1 1 ︵ ︵ ︵ ︵ 0 3 8 9 7 7 6 7
0 2 0 6 7 7 7 7
1 2 3 内 内 内 外 0 3 6 0 7 7 6 00 5 9 2 7 6 6 6 7 9 亡U 2 9 6 7 7 7 ■b q︶ 7 9 6 6 6 7 1 3 0 9 7 7 7 7 9 5 6 6 6 7 6 7 4 7 1 2 7 7 7 00 7 0 5 9 6 7 6 7 l 1 9 9 7 7 6 7
寺 大 東
2 9 1 9 ∵ ﹂
6 7 4
6 6 7 ︶ ︶ ︶ 7 5 0 2 ユ 4 2 2 2 1 1 1 ︵ ︵ ︵ 5 6 0 6 6 7
1 3 6
6 6 6 5 6 1 6 6 7 9 9 2 6 6 7
64 62 65 65 69 66
00 2 2
5 6 6 00 9 2 6 6 7 7 7 3 6 6 7 1 7 5 7 6 7 0 nV 1 7 7 7
2 3
7 8 ト ト
3 1
7 8 ︶ ︶ 5 2 .2 2 2 2 1 1 ︵ ︵ 1 8 7 7
76 69 70 67 72 74 78 76
8 1
6 8 9 2 6 8 O 1 7 00
5 9
7 7 8 3 6 00 8 6 6 7
68
66 62 62 64 65 75 「69 71 71 73 71
72 68 70 67 76 73 85 「79 83 75 78 77
56 64 61 64 59 71 69 71 69 66 64 70 68 68 66 70 72 78 77 77 77 78 77 72
68 (12ユ2)
75 (1175)
65 (1235)
73 (1229)
68 (12.28)
75 (12.38)
67 67 65 67 66 72 72 69 68 65 68 70 71 71 71 72 74 78 80 78 79 76 78 76
(5.56)(6.01)(7.5り(1071)(14.68)(19.86)(25β7)(26.70)(20月3)(13.33)(9.91)(6.87)(12.28)
(5.45)(5.69)(7Al)(1099)(14∫9)(2仙0)(25.79)(2634)(2179)(13.9由(10β3)(4.97)(12.38)
8.平均温湿度の比較
各月の月平均温度と同湿度について、各建物ごとに(室内)−(室外)で差を求めて図示する
と、第1図と第2囲のようになる。これらから若干の検討を試みる0
0 ■●
−5 −
平 均一10一
−15 ■・
中 0●
宮 −5  ̄ 寺_10一
里 0− 林 一5−
寺_10.
0−
長 省 一5一 専一10_
元 0一 興 −5一
専一10.
大 −い 専一10_
法 0一 隆 一5_
専一10_
1 2 8 ▲ 5 8 7 8 8 10、l▼1112月 第2国 鉄筋収蔵年内外の温度差の年変化比較
(収蔵年内湿度一外気湿度)(≠)
ー17−
1)建物内と室外の温湿度を比較すると、温度の元興寺4月と湿度の長谷寺1月とを除いて、
他はすべて室内が室外より高温で、低湿である。この様に、建物内が冷暖房や除加湿の空気 調節をしていないにもかかわらず、平均して外気より高温低湿である傾向は、前号でも述べ た如く木造の寺宝倉蔵についても認められるが、鉄筋収蔵掛ま木造寺堂倉蔵よりさらにこの 傾向が大きく現れている。すなわち、年平均値を比較すると、前号の寺堂倉蔵平均で外気よ
り 0.80C高温、3%低湿であったが、鉄筋収蔵庫平均では、外気より1.4℃高温で7%低湿 となっている。このことから、鉄筋収蔵庫内は一般的に、木造の寺堂倉蔵内より、平均して 高温乾燥(低湿)状態になりやすいといえるが、この傍向は古文化財の保存管理上 まず注
目しておかねばならない。
2)収蔵庫内外の気温差、すなわち建物内が外気より高温である程度は、建物によっても、ま た月によっても異なっている。
まず、建物ごとに比較すると、年平均気温が外気温より最も高いのは法隆寺収蔵庫(大宝 蔵殿)内で、外気温より2.20cも高温で、以下聖林寺収蔵庫内が2.0℃とつづき、東大寺収 蔵庫内は外気より0.90C高温で最小である。第1図から分る様に、法隆寺と中宮寺の収蔵庫 の年変化の形は似ていて、他の収蔵庫に比して1年中どの月も同じ程度に外気温より高温で あるが、これは拝観者の影響や管理の仕方などに困ると考えられる。これらと対称的に、大 きく年変化しているのに聖林寺と長谷寺の収蔵庫があるが、この両収蔵庫では特に夏期を中 心とした高温状態が日立つ。これは、特に前者収蔵庫の童容横は狭小で、換気量も少ないの
で、夏期の強烈な日射で屋根や壁体が吸熱昇温し、この熱が昼夜を通じて室内に放射されて いて、いわゆる 熱がこもる//状腰におかれているためと考えられる。この様な、夏期の高 温状態は古文化財保存上も好ましくないと思われるので、適切な処置や改善が望ましい。
3)各月ごとの室内外温度差、すなわち室内外温度差の年変化を見ると、これらの収蔵庫を平 均して、冬期を中心として差が小さく、夏期を中心として差が大きくなっている傾向が見ら れる。これは、これらの収蔵庫が平均して、夏には室外よりかなり暑いが、冬は外よりそれ ほど温かでないということで、≠暑さを綴らげ寒さを防ぐ′/という建物の機能からも感心で きない。このことは前述の聖林寺収蔵庫などが著しい例であるが、現在の鉄筋収蔵庫の一般 的欠陥として注目し、改善さるべきであろう。
中宮寺収蔵庫は、室内外温度差が冬期に大きく夏期に小さくなっているので、他の収蔵庫 に比べて、冬は暖かく夏は涼しい、防寒防暑の傾向が見られ、この点から好ましい建物と思 われる。
−18−
4)湿度についても気温と同様に室内外の差は建物により、また季節により変化しているが、
これらの細かい検討は簡単でないので、ここではおこなわない。
ただ、建物内が平均して室外より低湿になっているが、室内外の水蒸気圧を比較すると大 差はなく、大体同じと見てよいので、建物内の低湿は、室内の水蒸気量が少ないためではな
く、室内の気温が高いためであると見るべきであろう。
ここでは詳細に述べられないが、鉄筋収蔵庫によっては、かなりの長期間にわたり、室内 が却って室外より水蒸気量が多い場合もあり、いわゆる≠湿気がこもる//傾向も認められて いることを述べておく。
参 考 文 献
(1)永田四郎:堂内気象の観測(1)〜㈹、奈良教育大紀要、第3〜20巻、(1953〜1971)
(2)∵:奈良の古寺堂・倉蔵内の気温と湿度、古文化財教育研究報告(奈良教育大)、
第1号、(1972)
(3)∴ :古文化財を収蔵する建物内の気象状メ軌2入 日本気象学会講演要旨(1969)
ー19−