奈良教育大学学術リポジトリNEAR
学習集団の形成過程における集団の表現方法につい て
著者 樫岡 健史, 吉田 武尚
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 30
ページ 21‑34
発行年 1994‑03‑01
その他のタイトル A Study of a Formalistic Expression for The Process of Making a Learning Groupe
URL http://hdl.handle.net/10105/6832
学習集団の形成過程における集団の表現方法についてホ
樫剛健史 吉田武尚 n
(奈良市教育委員会) (技術科教室)
要旨:学習集団の形成過程における集団を「目的」「交通」「核」という3つの 視点からとらえ、核の値の分布構造をもとに集団形成過程を表現することを試 みた。その結果、核の値の分布構造を決定するr限定性」r相互性」r集中性」
の概念を規定し、これらの概念で集団形成過程の記述ができることを証明した。
キーワード:学習集団 形式 集団構造分析 目的 交通 核
1.はじめ1こ
一般的に集団と呼ばれる状態は、「目的」と「組織」という二つの視点から表現される。集団は 自らの内に集団成立の目的をもつことにより、単なる無目的な人の集まりと区別される。さらに、
集団には目的を実現するための「組織」を見ることができる。組織はそれを構成する単位である 各個人問の目的的なっながりである。つまり、集団とは「目的とそれを実現する組織の統一的な 形態である」ということができ乱また・集団を形成する過程とは・「集団が自らの内に目的を形 成しつつ、それを実現するための組織を生みだしていく統一的な形態としての発展過程」という
ことができよう。
人間関係論にもとづくホーソーンの実験は、「組織」を目的達成のために論理的合理的に構成さ れたフォーマル組織からのみとらえるのではなく、非合理的な人間感情にもとづき自然発生的に 形成されるインフォーマル組織をも含めて考えることの必要性を示した。学校における学習も
「能率の論理」と「感情の論理」の複合的な行動によって行われる。そこで、学習集団をインフォー マルな組織としてもとらえることができるようにネットワークとして考えてみる。このネットワー クは固定したパイプライン的なものではなく、水平にも垂直にも縦横に走り抜ける神経組織が必 要に応じて連結し分離するような、常に新たなる生成を繰り広げる柔軟なもの、リゾーム的なネッ
トワークになるだろう。
本研究では、従来からの「目的」「組織」の二つの視点を元に、さらに組織について「交通」
「核」というネットワークを生成する新たな視点を付け加え乱さらに・集団が自らの内に目的を 形成するとはどういうことなのか、目的を実現する組織とはどのような形式として表現できるの
*:A Study of a Formalistic Expressi㎝for The Process of Making a Leaming−
Groupe
**:Takefumi KASHIOKA(The Board of Education of Nara City,Nara)
***:Tekehisa YOSHIDA (Department of Te㎝ica1Education,Nara University of Education,Nara)
かについて考えると共に現実の学習集団に適応してその妥当性を探る。
2.学習集団の表現の視点 2.1 目的化の視点
学習における「目的」は、具体的には教科目標、単元目標、毎時の目標、学習課題の達成等と してあげることができる。しかし、ここでは学習集団の形成に関わって「目的」ということを考 えてみたい。つまり、人間関係論的にいう「集団のモラール」に着目する視点になる。そこで、
集団のモラール形成、つまり、集団の意志としての目的の形成を考えるために、個人の目的と集 団の目的との関係、及び授業での指導者の役割と集団・個人の目的との関係の二つについて考え ておきたい。
*個人の目的と集団の目的との関係
ある個人が何等かの目的をもっということはどういうことであるのか。その個体が環境から真 に独立しているのであれば・その個体の目的は個体固有の価値と論理によるものであるというこ とができ孔そして、何を学習するのか・どのように学ぶのかはその個体のもつ目的に依存して いる。しかし、人間という個体は真に環境から独立することはできない。人間は生まれたときか ら、その生命を維持するために、社会的なコミュニケーションを要求される。例えば、誕生にあ たって自らできることといえば産声という最初の呼吸反射でしかない。これ以外の点ではすべて を周囲の援助に待つほかない。生存のために最低限必要な食物摂取においても、母やそれに代わ る者からの「授乳」として、対他関係のなかで行わせる。しかも、胎児の状態とは異なり、要求 が生じてもすぐにこれが満たされるということはなく、そのあいだにずれが生じる。このずれに よる苦しみが身体の痙攣や泣くといった筋肉運動的発散としておこる。これら条件反応の持っ表 現的性格が周囲の人間との関係のなかで泣くということを栄養欲求の「しるし」にさせる。ワロ
ンは、こういった情緒的共生(symbiose affective)は子どもの感受性を育て、怒り、苦痛、悲 しみ、嬉しさなどあらゆる種類の情動のニュアンスを示すことができるようにさせると言ってい る…〕。これらの諸行為の本質は、個体にとってのr生存」であるが、同時に自他未分化ななかでの
「しるし」を生み出す相互関係ということができる。つまり、人間にとっての「生存」とそれを成 り立たせる最初の「学習」として見出たせ孔
このように、人間にとっての最初の「学習」は個体内の欲求から生じるものではなく、対他関 係のなかから生み出されるという事実は、「学習」が個体固有の目的から生じるものというよりそ の目的自身が対他関係の中から学習を通して生成するもの、と考えることができる。そこで、こ のような対他関係から生じる個体の目的をその個人の目的としてとらえるなら、個人の目的と集 団の目的との関係は、図1−1のように各々が独立しながらも、相互に依存し合っている各学習 者間の相互関係の表象として表すことができる。
図1−1 個人の目的と集団の目的との関係
学習者三,jが、ある学級に所属している場合の各学習者の目的と学級という学習集団の目的の 変化とを考えてみよう。一般的にいえば、もともと、どの学習者も自らの目的に合わせてその学 級を選び、構成しているのではない。偶然に同じ学級に所属することになったに過ぎない。だか ら初めは、学習についても各々が恣意的に自らの目的を持っているだけで、学級全体としてはそ れがあたかも一個人であるかのような統一的な目的を持っているわけではない。しかし、そのば
らばらな各個人の恣意的な目的は、学級という集団の中で相互に規制され、徐々に他人との具体 的な関わりをふまえた個人的な目的へと変化していくことになる。
このような学級集団を構成する各個人の目的の集まりは、学級の外からは、統一的であるかど うかは別にして何等かの集団的意志の表れに見える。そして、そのばらばらな各個人の恣意的な 目的を学習に向けて規制する学習集団的意志は、そのばらばらな各個人の恣意的な目的を越えて、
徐々に学習集団としての目的という表象へと生成していく。
これは、インフォーマルな組織としての目的ということができるだろうが、非合理的な人間感 情にもとづき自然発生的に形成されるこれらの目的こそ、リゾームそ〕のような学習集団の形成を考 える上で基礎的な「集団としての目的」ということができるだろう。
*授業での指導者の役割と集団・個人の目的との関係
学習集団の目的は集団を構成する各学習者の目的の相互関係からのみ生じるわけではない。む しろ、学校現場では学習集団の外部から、その集団に課せられた課題、使命という性格をもった 目的として与えられる。学校における学習集団は、自然発生的にインフォーマル組織としての子 ども社会を形成しているが、それでもなお本質的に、目的のためにつくられた学級というフォー マル組織ということができる。
このフォーマルな目的は、広義には制度しての学校であり、直接的には、教室での教師の指導 に表れている。ここではより直接的な目的をとらえてみよう。そこで、授業における指導者の役 割をその集団に属する個人の目的、またその相互関係から生じる集団の目的との関係として考え
てみる。
宰団としての目的 一一 指導者
目的化
1 ↓ の
学習者個人の目的 一一 指導
図1−2 授業での指導者の役割と集団・個人の目的との関係
図1−2は、授業での指導者の役割と集団・個人の目的との関係を表している。この中で「集 団としての目的」はインフォーマルな学習者組織から生み出される目的と指導者である教師から 学習集団としての目的として与えられるフォーマルな目的の二面性を合わせ持っている。分析的
にはこの両者を分けて考えるべきであろうが、学習者個人から見れば両者は混然一体となって、
自らに集団の規範として振舞う。それは、あたかも集団という存在物があり、それが持つ意志の ように見えるだろう。
このように指導者は・学習者に直接働きかけることで学習者個人の持つ目的を指導することと 同時に、学習者同士が互いにはたらきかけ合って作り出すインフォーマルな目的にも直接的に、
あるいは関接的に影響を及ぼしている。
現実には、教室という場所には学習者と指導者の2者しか存在しない。しかし、その両者の関 係が作り出す、集団という関係としての存在をも含めた3者の間に相互関係が生まれる。この関 係の生成を学習集団の目的化と呼ぶことにする。
つまり、学習集団を形成するというのは集団を学習に向けて目的化することになる。
2.2 交通化の視点
交通は、学習集団の組織について考えるとき、最も基礎となる概念になる。ある集団に属する 学習者は、その集団に属した直後に同じ集団に属する他の学習者と何等かのっながりをっくる。
例えば、編成直後の学級の場合を考えてみよ㌔実際に学級が編成され、子どもたちが互いに顔 を見合わせるまで、その学級にはなんらの子どもたちどうしのっながりはない。仮に、学級編成 の直前まで仲良く話し合っていたものどうしが同じ学級になることもあるだろうが、学級編成前 と後では彼らが所属する集団は異なっている。つまり、集団から見たとき、学級編成直前までそ の学級集団には何らの交通も存在しないということができる。しかし、一度、学級集団が編成さ れ、子どもたちが互いに顔を見合わせた瞬間からその集団は多くの交通を持つことになる。それ らは、ある個人から別の個人へという1対1の対他関係の集合であり、単一の方向性を持ってい る交通が交差している状態ということができ乱
このような交通のひとつをグラフに表してみる(図1−3)。このグラフでは学習者jから学習 者ブに対する交通を表現している。
学習者{ 学習者ゴ
図1−3 学習者{から学習者ブに対する交通
学習者は自らの交通を集団に属する学習者たちの中から何人かの学習者に生じさせる。このよ うな交通の対象者はその時点における他者に対する関心にもとづいている。ある学習者が、「あな たは誰と同じクラスか」と問われた時、もしその学級が40人学級なら彼はきっと身近な友人の名 から答え始めるだろう。そして、40人すべての名前を答えるにはかなり時間を要するにちがいな い。もしかすると全員の名前を答えることはできないかも知れない。「あなたのクラスで誰が計算 が得意か」と問えば、彼はすこし考え、何人かのクラスメイトの名前を答えるだろう。それは、
先ほど答えた身近な友人の名前とは異なっているかも知れない。「あなたのクラスで誰が走るのが 速いか」という問いに対してはまた異なった名前を聞くことができるにちがいない。
このようにある時点における関心は一過性のものも含めて集団内の交通を変化させる。身近な 友人の例は継続的な関心にもとづく交通ということができるが、その他の質問に対する答えの場 合は、学習者自ら抱いた関心でないなら一過性のものということになるだろう。こういった諸関 心の中で、個人の継続的な関心はその個人の何等かの目的に結び付いていると考えられる。つま
り、交通は各個人の目的により生じる他者への関係性ということができるだろう。
「誰が速いか」という問いに対して答えるとき、3人の名前を思いついたとしよう。次の問題 は、誰の名前を最初にするか、ということになる。つまり、3人の中で誰が一番速いのか、とい う問題が生じる。交通の場合においても同じことが起こる。個人土は個人ゴに、個人ノは個人三にとい うように各個人の持つ目的に応じて土からノに、あるいはノから三に、方向性のある関わりを生じさせ る。そして、それが3者になるとき、個人1は個人ノとの関わりを個人々との関わりからその差異と して強度を見いだすことになる。交通の程度は複数の交通、すなわち関係の差異から生じる。
このように集団における交通は方向性と強度で表現される。学習集団における各学習者が生み 出す交通は、学習者三からノヘというように関係の方向と強さを持ち、交通値下ウ(Oから1の小数)
として表現することができ孔 2.3 核化の視点
核は学習集団の組織を考える上でもう一つの重要な概念になる。交通という概念が集団に属す る各個人の結び付きを表現する。しかし、それはあくまで個人の問題であって、交通がどう存在 していても集団の問題としてとらえることはできない。核という概念は、この交通の結び付きを 表現することをめざしている。学習者{,エ々,の3者の交通を例に考えてみよう。3者の交通を 図1−4に表す。この図は、個々の交通をとらえるには見やすいが、交通どうしのつながりを見 ることは難しい。そこで、図1−5に描きあらためる。この図のように描くと交通どうしの関係
を一目でとらえやすい。このようなグラフは、ソシオメトリックテストの結果を表示する場合に 用いられるソシオグラムと同様になる。そこで学習者ゴに対応する交通丁肋,丁挽の結び付きを学 習者{の核、学習者々に対応する交通丁肋,丁批,丁励の結び付きを学習者々の核として表現する。
つまり、核は集団内の交通の結合性を表現するものとして考える。
学習者 学習者j 学習者プ 学習者た
学習者j 学習者ゐ 学習者ゐ 学習者…
図1−4 学習者{,ゴ,々における交通
1 ↑↓
図1−5 学習者{,ノ,たにおける交通(新)
7{司
この核という概念から、各個人は集団内において固有の核としての値(核値)を持つことにな る。例えば、学習者圭についての核値を学習者{における交通の結合の値(交通値)から求めるこ とができる。学習者三に対する交通値下ガ,逆に学習都からの交通値下むを元に核値K土は次の式の ように表現することができる。
n
K1一ΣTバ1+Tむ)/2(・一1)
j=1
n=集団構成人数
各学習者の核値は1からOの間の値をとる。つまり、核値はある学習者に対して集団全貫から 集まる平均的な交通値とその学習者との交通の相互性を表している。集団全員との相互の交通を 成立させたとき、いいかえれば学級全員との目的化の共有を果たしているとき、その学習者の核 値は1となる。
学級など学習集団に属する全員の核値は1から0の問に度数分布する。お互いに交通を交わし 合えばより1に近く分布することになり、逆に、ほとんど交通がないなら0に近く全体の分布が 集中することになる。学習集団はその交通がどのように結び合っているか、つまり、核の構造に より特定の核値の度数分布をすると考えられ瓦
3 学習集団の形成過程
これまで見てきた学習集団を表現する3つの概念「目的」「交通」「核」は、互いにどのような 関係にあるといえるのだろうか。集団を形成する過程を、集団が自らの内に目的を形成しつつそ れを実現するための組織を生み出していく統一的な形態としての発展過程としてみたとき、集団 内のそれぞれの学習者の核値は集団形成とともにどのように変化するだろうか。
図2に学習集団の形成における概念構造をまとめる。
投棄!
一層重
↓
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図2 学習集団の形成における概念構造
学校における学習の場としての授業は集団の目的化を促す。学習集団において目的化とは、集 団の学習化にほかならない。個人個人は様々な興味関心と目的をもって学級(学習集団)に集まっ てくるが、授業という場において個人の興味関心、学習という目的は集団の目的の中へ連結され ていく。こういった個人の目的が互いに響き合って集団の目的が生まれ育っていく過程にこそ学 習集団が形成されていく姿だということができ乱
集団が学習に向かって目的化していく過程で何が見られるか、交通という視点から考えてみよ う。集団の目的化により変容した集団の目的はその集団的作用により、個々の学習者の目的にも 変化を与える。各学習者の交通は各々の学習者の目的から生じているから、学習者の目的の変化
は必ず彼らの交通の変化を引き起こす。つまり、今まで交通の対象であった者が対象で無くなっ たり、程度が下がったりする。あるいはその逆かも知れない。例えば、40人学級にあっては最大1 521の交通が存在し得るが、それらはみなそれぞれの個人の目的から発生し、その目的の変化とと
もに変化する。
交通の変化は当然・それぞれの核の変化として現れ私自らに対する交通が減少すれば核値の 高かった者も低くなり、逆に、交通が増したり相互性が生じれば低かった者が上昇する。あるい
は、全員が高まる場合もあり得る。これらの変化は、各個人のそれぞれの交通がどのように変化 するかにのみ関わっている。各個人の核の変化に注目することも重要であるが、ここでは集団の 問題としてとらえてみよう。各個人の核の変化は集団内の核の分布に影響を与える。全員が高ま れば、その分布は1に向かって全体的にシフトするだろう。ある者と他の者が互いに入れ替わっ ただけでは分布にはなんらの変化も生じない。学習集団における核の構造が変化した時のみ分布 に変化が表れてくる。集団の学習をリードし、集団を構成する多数からそのことを認められる者 が出現すれば核値の分布はその基本的な分布形を保ったまま、1に向かう広がりを増すことにな
るだろう。
このような核の構造的な変化は集団の個人に対する影響力を変化させる。つまり、集団の目的 そのものも変えていく力となる。各個人の目的が集団の目的を生み出していくメカニズムは、こ の交通の変容、核の構造変化によると考えることができる。
では、学習集団の形成に直接関わっている核の構造変化とはどういうことか、3つの概念をも とに述べたい。
3.1 核の限定性
学習集団における核の構造は、集団の核値の分布として表すことができる。それぞれの学習者 個人がどのような核値をもつかは集団の交通の存在にのみ関わっている。例えば、3人の集団内 にただひとつの交通があるとする。この集団で0以上の核値を持ち得るのはただ1人で、それ以 外の2人は0の核値になる。自分に対する集団唯一の交通をもつこの1人の学習者が、他の学習 者と交替しても集団の核値の分布は変化しない。この場合、交通の総数が増したときの核の構造 変化が起こる。
このように、集団における核の構造変化は集団の交通の総数に依存している。交通の総数が決 まればその集団がとり得る核値の分布、いいかえれば核の構造が限定される。この現象を「核の 限定性」と呼び、核の構造を決定する基本的な要因としてとらえる。
このことは、理論的には核値の分布に関して集団の平均的な核値(集団の平均核値)は交通の 総数とそれぞれ交通の程度により決定することを示している。だから、核の限定による核の構造 変化が生じない限り理論的な集団の平均核値は変化しない。
3.2 核の相互性
核の限定による核の構造変化は、理論的には集団の平均核値の変化として読み取ることができ るが、実際にはどうだろうか。核の構造変化は核の限定によってのみ生じるわけではない。たと え等しい交通総数と程度をもつ集団であっても、その交通が相互に成立している場合には核値は 上昇する。理論的には一定の人数の集団内で一定の交通数がある場合、相互関係を成立させる交 通の割合は一定であるが、現実には相互に成立する交通の割合によって理論的な平均核値との間 にずれが生じるだろう。このずれの大きさが集団のより目的的な結び付きの程度を表現している といえる。この現象を「核の相互性」と呼び、核の構造を決定する2つめの基本的な要因として とらえる。
3 3 核の集中性
集団の交通量に限定される核の構造は、集団内の交通の偏りによっても決定される。つまり、
集団内の特定の個人やグループに集中している場合と全員に均等にばらまかれている場合とでは 自ずからその核値が異なってくる。例えば、3人の集団に2つの交通があるとしよう。もし、2 つの交通ができる限り均等に各個人に振り分けられたとすると、3人のうち1人の核値はOとな り他の2人は等しくO以上の核値をもつ。しかし、1人が2つの交通を独り占めしたなら2人が 核値0となり、1人だけが高い核値をもつことになる。この場合の核値の分布変化はあきらかだ
ろう。どちらの場合も核の相互性は含まれていない。このように、核の構造変化は核の限定性や 相互性に限らず、特定の者に交通が集中することによっても生じる。そこで、この場合の構造変 化の現象を「核の集中性」と呼ぶ。
4 実験 4 1 目的
学習集団は「目的」「交通」「核」の3側面の構造として表現される。また、学習集団の形成は
集団の目的化の過程、いいかえれば目的化による交通の変容、さらに交通の変容による核の変容、
そして、集団の核の構造変化として表現される。そこで、現実の授業を通して、学習集団が形成 されていく過程を集団の核の構造変化である「核の限定性・相互性・集中性」という現象として 記述できるかどうか検証する。
4.2 方法
*交通の測定
ソシオメトリックテストの応用による各学習者の他の学習者に対する関係度Pを調査すること により、Pから交通値下を求める。Tヴは学習者jの学習者ゴに対する交通値として表す。
T4=Pむ/Pma x ただし、Pm a x=Pの取り得る最大値
ソシオメトリックテストは一般に同じグループになりたいものを数名・人数を限定し・その順 に記名させる方法をとることが多い。ソシオメトリックテストを実施する場合のむずかしさのひ とっに連続的に学習者から解答を得ることがあげられ乱いつもいつも「誰と同じグループにな りたいか」という間いでは、その度に学習者から得られる解答にもとづいてグループ編成でもし 直さない限り正直に答えさせることは困難になる。そのため学習者の座席に注目してソシオメト
リックテストのデータを得るなどの工夫も考えられてい孔また・ソシオメトリックテストは、
選択数の制限と共に排斥を問う。これは集団における人間関係を好・鎌の意識の集合とみなし、
その範囲を限定することで意識の強度を統制し・一般化しようとするものである。しかし・学習 集団形成における交通は各個人の自由な目的形成に基づき、強度は他者との関係性において正の 値となる。ある学習者の交通と他の学習者の交通を外部から正負として統制することは外部の価 値による目的化の統制になる。
今回は、調査そのものを積極的に学習集団を意識させる手段として活用する目的から直接学級 全員について自分との関係を記述する方法を採用している。具体的には、学級の名簿に自分との つながりに応じて、その程度を他の選択者との比較など自分自身の尺度により3〜1の3段階で 任意に評価させている。マークしなかった者については空欄とし、関係度PはOとして扱う。な お前述のとおり負の評価はさせない。直接問うことについては、それ自身が他の学習者に対する 関心を抱かせる指導言になりえるため、教師の意図や期待に応えようとする学習者の反応を加味 させることになる。しかし、普段格別に意識しない学級全員と自分の関係をより良いもの、広が り、深まりといった観点から見直すよい機会になったと考える。単に調査のための調査ではなく、
より良い学習集団の形成をめざす実践のひとつとして位置づくことが大切であろう。
*対象
公立中学校第2学年の1学級(男子22女子17言十39名)を2学期間に渡り継続して調査した。学 級は2年生でクラス変えをし、新しくメンバー構成している。学級指導は集団形成を促すため、
フォーマルな委員会活動と共に、よりインフォーマルな学級内組織としての各グループを班やク ラブとして編制、活動させた。調査は5回(5.7.9.10,12月)実施した。
*期待度数分布
核の相互性・集中性として述べたように、集団が同じ交通量を持っていても核の構造によって
は核値とその分布が変化する。ある人数の集団がある一定量の交通量をもつとき、その核値の度 数分布は確率から理論分布をつくることができる。集団の核の構造が核の限定性によってのみ決 定されるか、核の相互性や集中性があっても均等に交通が分配されるなら理論分布は一定の核値 に集中すると考えられる。しかし、実際の集団においては、どの程度核の相互性や集中性が起こ るかわからない。そこで、観測した集団の交通総量(数と程度)を核の限定条件として与え、核 の相互性・集中性をそれが起こり得る確率として求め、その総集計から理論分布をつくる。この 理論分布を期待度数とし、観測度数との差異を元に核の構造をとらえる。
期待度数を求めるために、観測集団と同数の構成人数をもつ仮想集団に観測集団と同じ総交通 量になるように一様乱数により交通値を分布させる。さらに、この仮想集団の作成を30回繰り返
し、それぞれの仮想集団の核値分布を求める。これらの核値分布の平均から観測集団に対する核 値の期待度数分布を作成している。
4.3 結果
各々の調査について、交通値と核値を求め、核値分布に示す。核値分布は、観測値とそれぞれ の期待値について図4−1〜図4−5としてまとめられてい孔観測度数は*で・期待度数はO で表示している。分布は核値で0.01きざみになっているが紙面の都合で0.50以下のみ示している。
また、各々の交通の総数、及びその内訳(関係度の程度毎の総数)、核値平均と標準偏差等は各回 の下部に示しれそれぞれの度数分布の期待度数分布との比較はパ検定による。ただし・分布の 人数が1以下でしか現れてこない分布の裾の広がりについては誤差としての扱いをし検定してい
る。各図にその結果を示す。
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図3−4 第4回調査結果
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図3−5 第5回調査結果
5.結論
5.1 3つの視点について
これまで学習集団をとらえる視点として、目的・交通・核の3つの概念とその関係について述 べてきた。これは、学習集団の形成をどう表現するかという本研究の問題を考える上で、ある意 味でのメタレベルとしての概念を提起することになっている。しかし、これらの諸概念は学習集 団の形成という概念にとっての本質的なメタ概念というわけではない。これら3つの諸概念は学 習集団の視点としての概念に過ぎない。
一般的な概念成立のための構造として概念の階層構造があげられる。つまり、ある概念を支え る下位概念と、さらにその下位概念を構築する下位概念という構造によって遠近法的に見いださ れる概念の形成構造によれば、あらφる概念は遠近法における消失点にように何等かの下位概念 を本質的なメタ概念として承認することによってしか成立しない。しかし、これらのメタレベル を保障するシステムは自己言及的しかあり得ず、種々のパラドックスの例に見られるように決定 不可能性を抱えることになる。こういう意味から言っても3つの概念は学習集団のメタ概念では
ない。
目的・交通・核の3つの概念は、学習集団というものを各々の視点から見たときの学習集団の 表象としてある。いや、学習集団という「もの」などありはしない。そこに個人と彼らひとり1 人の目的とそれらを外部から統括する意志としての目的があるに過ぎない。これらの関係を我々
は集団と呼び、学習という目的をもつ集団を学習集団としてとらえる。我々の集団を見る意志が
とらえるべき学習集団をつくりだしている。目的・交通・核の3つの視点は、こういった意味か らのみ学習集団を構成する概念ということができる。これら3つの概念とその関係は{意味され るもの/意味するもの}という意味での学習集団であり、同時にまた「意味するもの」としての 目的・交通・核に対して「意味されるもの」としての学習集団ということができる。つまり、{意 味されるもの/(意味されるもの/意味するもの)}という関係として学習集団・目的・交通・核 を見いだす。
さらに、図3−1で見ることができるようにこれらの3つの概念は他の2つの概念を下位概念 として成立し、円環構造をもつ。目的によって記述される交通は目的化→交通の変容という形式 によって記述される。また、交通によって記述される核は、交通の変容→核の構造変化という形 式で表現される。そして、核の構造によって記述される学習集団の目的は、核の構造変化→学習 集団の目的の変容という形式で表される。学習者個人の目的は対他関係により生じる目的問の差 異、言い替えれば、「集団」の意志と自らの自覚する目的との差異として、(学習集団の目的の変 容/学習者の目的)→学習者の目的という形式で記述される。
このような円環構造によって記述される学習集団はその絶え間ない変容により学習集団として の自立を表現することができる。
5 2 集団の形成過程と核の構造変化について
実験における5回の測定結果は、それぞれの期待度数分布とは明らかに差異(P≦O.05)が見 られ、核の相互性や集中性によると考えられる上方への偏りが現れている。総交通量の変化は核 の限定性を現している。全体的な傾向として交通の程度の増加傾向、平均核値の増加傾向、観測 度数分布の上方への偏り傾向が現れている。これらは学習集団の目的化、組織化の過程で現れる 現象であると考えられる。このことから、学習集団が形成されていく過程を集団の核の構造変化 である核の限定性・相互性・集中性という現象で記述することができると考える。
学習集団を意味(目的)からではなくその形式においてとらえようとする試みは、学習集団を それに期待する学習集団の意義から解き放ち、それが本来もっ構造をあきらかにしたいという思 いから始まっている。だから、それぞれの視点からはなんら学習集団の意味が生じないよう配慮 している。つまり、教育目的的、実践的にはまるで無意味な視点から学習集団をとらえたいとい う試みといえる。教育の目的は、構造(形式)的なものではなく、我々の創意による価値的目的 とでも表現すべきものだろう。本研究で表したように、集団自身が本質的、構造的に何等かの価 値を持っているのではない。それは目的と交通、核の概念で表現できる単なる形式でしかない。
この集団に何等かの教育的価値を見いだすのは教育にたずさわるものの価値観による。
これは、評価が絶対評価であれ相対評価であれ、それが価値をもつのはそれらの評価にたずさ わる者の価値観によるものであって、それらの評価が構造的にもっている価値によるものではな いことと同じといえる。さらに、評価についても、評価を目的的に利用する教育的価値感のおよ ばない場所でその形式を問うことでなければ、評価という形式がもっているものはあきらかにす ることはできないといえるだろ㌔
そういう意味からも、学習集団を教育的価値からではなく、その形式においてとらえようとす
る試みによってのみ学習集団はその構造をあらわにするといえる。
今回の調査では、交通値を4段階のクリスプな数値として扱っているが、本来的にこういった 値は複数の交通の差異から生じるアナログ的な値であろう。また、ある値の関係度もその数値は 絶対的なクリスプ数ではなく、そのあたりにある値の代表として示されるファジィー数として扱 う方が適当であるかも知れない。また、交通の測定法についても学習集団の把握を必要とする目 的によっては、アンケートによらず観察法など学習者に意識させない方法が必要になることもあ る。ディベートによる授業などでは他の学習者の意見との関わりを記録するなどの方法も用いる ことができるだろう。
6.おわり1こ
今日、学校教育には、大量生産、効率主義的な教育形態ではなく個に応じた教育がますます求 められている。学習集団の研究はこういった時代にこそ重要な位置を占める。学習集団をとらえ ることは、個人を尊重する教育がその個人の能力を伸ばすことのみをめざすあまり単なる個別化 に進むのではなく、逆に集団を意識するからといって個人を軽視し、集団主義的実践に固執する のでもなく、学習者にとって自ら必要とする集団を形成できる個人を育成するために大切になる
だろう。
核の限定性・相互性・集中性という概念は・集団を把握する評価の概念として利用できる可能 性を示している。本研究の中で不充分なまま残されている多くの課題と共に、具体的な評価法な
ど引き続き研究したいと考える。
参考文献 ω
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