《第1部 》 地 球 社 会 と地 球 史
一 ロ シ アで の 地 球 学 研 究 を 中心 に一
中西 治
GlobalCommuneandGlobalHistory GlobalStudiesinRussia
NISHIOsamu
1.は じめ に
日本 国 際 政 治 学 会 が 発 行 す る 『国 際 政 治 』137号(2004年6月)は 「グ ロ ーバ ル な 公 共 秩 序 の 理 論 を め ざ して一 国 連 ・国家 ・市 民 社 会一 」 を特 集 して い る 。 ま た,日 本 社 会 学 会 が 発 行 す る 『社 会 学 評 論 』Vol.56,No.2,通 巻 222号(2005年9月)も 「グ ロ ーバ ル化 と現 代 社 会 」 を特 集 して い る。
『国 際 政 治 』 特 集 号 の 責 任 者,庄 司 真 理 子 は今 日の 地 球 社 会 に は 主 権 国 家 に加 え て,国 連 な どの 国 際 機 構,NGO,個 人 な どの 市 民 社 会 を構 成 す る 主 体 が現 出 して い るが,主 権 国 家 が 相 対 的 に役 割 を低 下 させ て も,地 球 は依 然 と して ア ナ ー キ ー(無 政 府 状 態)で あ る と考 え て い る。 しか し,庄 司 は ア ナ ー キ ー を無秩 序 と して否 定 的 に捉 え るの で は な く,無 政 府 性 を積 極 的 に捉 え,
「む しろ ア ナ ー キ ー は,地 球 社 会 を,国 家 を含 め た 多 様 な ア ク タ ー が 主 体 的 に か つ 創 造 的 に常 に秩 序 を生 成 させ る公 共 空 間 と して捉 え る た め に 重 要 な意 味 を持 つ 。」 と指 摘 し,「21世 紀 の 地 球 社 会 は,国 家 を 含 め た 多 様 な 主 体 が 多 次 元 の公 共 秩 序 を絶 えず 生 成,発 展,消 滅,再 生 させ る動 態 的 な体 系 とみ る こ とは で きな い だ ろ うか 。」 と結 ん で い る。 こ こ で注 目 され る の は ア ナ ー
キ ー を積 極 的 に捉 え て い る こ とで あ る 。 これ は後 で 見 る よ うに カ オ ス を積 極 ジ 的 に捉 え る考 え と一 致 して い る。(1)
『社 会 学 評 論 』特 集 号 の 担 当 者 の0人,小 倉 充 夫 は グ ロ.̲̲.バル 化 を次 の よ うに 理解 して い る。 「市 場 経 済 化 と 自 由民 主 主 義 化 の徹 底 に よ る 世 界 の̲̲̲̲元
地球社会 と地球史 9
化,情 報 技 術 の発 展 に よる 世 界 の 共 時 化,人 の 移 動 の 国 際 化 な ど,総 じて グ ロー バ ル 化 とい わ れ る 現 象 が 現 代 社 会 の あ らゆ る側 面 に 大 き な影 響 を 及 ぼ し つ つ あ る。 地 域 社 会 か ら国 際 社 会 まで,さ ま ざ ま な 次 元 の 社 会 が 相 互 に浸 透
し合 う こ とに な る 。 そ の 結 果,社 会 間 の 関係 に 注 目す る 必 要 性 は 一 層 強 まっ て い る。 しか しな が ら,国 民 国家 の 相 対 化 や 『国家 の 退 場 』 ば か りで な く, 国民 国家 ・主 権 国 家 の存 続 とい う現 実 を他 方 で は充 分 考 慮 す べ きで あ ろ う。
本 特 集 で は,国 民 国 家 の 変 容 と存 続,お よ び グ ロ ー バ ル化 とい う状 況 を念 頭 に お きな が ら,社 会 学 に お い て取 り上 げ られ て きた 課 題 を新 た な視 点 か ら検 討 す る 。 な お,グ ロ ー バ ル化 は 同 化,排 除,統 合 あ る い は対 抗 な ど,相 反 す る現 象 を 同 時 に生 み 出 して い る 。 例 え ば ア フ リ カ の 多 くの 人 々や 政 府 は,ア フ リ カ が グ ロ ー バ ル 化 に よ り周 辺 化 され,あ る い は グ ロ ー バ ル化 か ら排 除 さ れ て い る とい う疎 外 感 を抱 い て い る 。 ヨー ロ ッパ は 自 ら を統 合 す る こ と に よ り,グ ロー バ ル 化 に対 抗 して い る と もい え よ う。 した が っ て グ ロ ー バ ル化 の 実 態 を 南 北 対 立 や 各 地 域 の 特 殊 性 を 踏 ま え て 実 証 的 に 把 握 し て い き た い」。(2)
『社 会 学 評 論 』 特 集 号 の も う一・人 の担 当 者,正 村 俊 之 は 論 文 「グ ロ ーバ ル 社 会 の編 成 原 理 一 新 しい 近 代 か新 しい 中世 か一 」 で 現 代 の グ ロ ー バ ル化 を特 徴 づ け て い る もの と して,国 家 を含 む 多 元 的 な 主 体 の ネ ッ トワ ー ク的 関係, グ ロー バ ル 化 とロ ー カ ル 化 の 同 時 進 展,機 能 分 化 の 再 編,情 報 化 へ の 依 存 の 4点 を あ げ,グ ロー バ ル化 の基 礎 に は 社 会 の 編 成 原 理 が 内 部 と外 部 を厳 格 に 分 離 す る 「分 割 原 理 」 か ら内 部 と外 部 の 相 互 浸 透 を許 す 「入 れ 子 原 理 」 へ 転 換 した こ とが あ る と主 張 して い る。 そ して 「入 れ 子 原 理 」 は す で に 中世 に お い て も見 られ るが,中 世 の 「入 れ 子 原 理 」 は神 とい う中 心 的存 在 を もつ 静 態 的 な もの で あ る の に対 して現 代 の 「入 れ 子 原 理 」 は脱 中心 的 で 動 態 的 な構 造 に よ っ て特 徴 づ け られ る と指 摘 しr結 論 と して現 代 が 「新 しい 近 代 」 で あ る
と同 時 に 「新 しい 中 世 」 で あ る と述 べ て い る。(3)
庄 司,小 倉,正 村 の3人 と もグ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンが 現 代 社 会 の 重 要 な現 象 で あ り,現 代 社 会 の動 向 に大 きな影 響 を与 え て い る時 代 を画 す る よ う な 出 来 事 で あ る と考 え る点 で は 一 致 して い る。 ま た,現 代 社 会 を構 成 す る 要 素 と して 国家 と国 家 間 の 国 際 機 構 お よ び個 人 とそ の 集 団 を あ げ る 点 で も一 致 して
い る が,そ れ ぞ れ の集 団 の性 格 とそ れ が 果 た す 役 割 の 評 価 の 点 で は考 え を異 に して い る。 と くに現 代 国 家 を どの よ う に特 徴 づ け る の か に つ い て 違 い が あ る。
た と え ば,庄 司 は現 代 国 家 を主 権 国 家 と呼 び,国 民 国 家 な ど とい う用 語 は 一・度 も使 っ て い な い。 しか し,小 倉 は 冒頭 に お い て 一 度,現 代 国家 を 国 民 国 家 ・主 権 国家 と並 立 して 記 述 して い るが,そ の 後 は 現 代 国 家 を 国民 国家 と し て 『社 会 学 評 論 』 所 載 の諸 論 文 を紹 介 して い る。 他 方,正 村 は現 代 の 国 家 を 近 代 国家 と して把 握 して い る が,そ れ は 近 代 の 主 権 国家 と同 一 で は な く,グ
ロー バ ル 化 の な か で 近 代 国 家 の在 り方 が 変 容 して い る と理 解 して い る 。 この よ うな現 代 国 家 につ い て の 考 え の 違 い が 現 在 の 世 界 を地 球 社 会 と呼 ぶ の か, 国 際 社 会 と呼 ぶ の か の 違 い に あ らわ れ て い る。 私 は 現 代 国 家 の 性 格 づ け と現 代 世 界 の 把 握 の仕 方 は グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ンの 現 在 と将 来 を考 え る うえ で 重 要 な意 味 を持 っ て い る と考 え て い る。
『国 際 政 治 』 と 『社 会 学 評 論 』 の 諸 論 文 に共 通 して 言 え る こ と は,グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンの 問題 を そ れ ぞ れ の専 門 の枠 を越 え よ う と しなが ら も,な お 依 然 と して基 本 的 に は国 際 政 治 と社 会 学 とい う専 門 の 枠 内 で,し か も,も っ ぱ ら近 現 代 の 問題,と くに現 代 の 問題 と して 論 じて い る こ とで あ る。 私 は地 球 の 一 体 化 は人 間 が この 地 球 上 に住 む よ う に な っ た と きか ら始 まっ て い る と 考 え て い る が,そ れ で も これ まで これ を グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン とは 呼 ば ず,
グ 「ロー バ リゼ ー シ ョ ンが 実 際 に 始 ま っ た の は1492年 の コ 「ロ ン ブ ス の ア メ リ カ到 達 以 降 で あ る と して き た。 しか し,現 在 で は私 は グ ロ ー バ リゼ.̲̲̲ション の 問 題 を研 究 す る た め に は 国 際 政 治 や 社 会 学 とい っ た既 成 の狭 い学 問領 域 に 限 定 す る こ とな く,地 球 の 誕 生 以 後 を視 野 に入 れ た もっ と広 い 地 球 史 ・地 球 学 とい っ た新 しい 学 問 領 域 を設 定 す る こ とが 必 要 で あ る と考 え て い る。(4)
本 論 文 で は 主 と して ロ シ ア に お け る地 球 学 研 究 の動 向 を検 討 ・紹 介 しなが ら,グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン の 問 題 を よ りい っ そ う地 球 史 全 体 の な か で 歴 史 的 ・思 想 的 に検 討 し よ う と思 っ て い る。
2.地 球 社 会 の 発 展 とグ ロ0バ リゼ ー シ ョ ンの 進 展
地 球 が こ の 宇 宙 に 誕 生 した の は45億 年 以 上 前 の こ とで あ る とい わ れ て い
地球社 会 と地球 史11
る 。 北 ア メ リ カ大 陸 に あ る グ ラ ン ド ・キ ャ ニ オ ンは 訪 れ る人 の 目 を奪 う壮 大 な 景 観 で あ る が,そ れ が で きた の は1000万 年 前 か ら900万 年 前 とい わ れ て い る 。 人類 が こ の 地 球 上 に住 み始 め た の は そ れ か ら少 し後 の お よそ700万 年 前 と さ れ て い る。 しか し,そ れ は ア フ リ カ に生 息 して い た 類 人 猿 が ゴ リラ の 先 祖 とチ ンパ ン ジー の先 祖,そ れ に,現 世 人 類(ホ モ ・サ ピエ ンス)の 先 祖 に枝 分 か れ し始 め た 時 期 で あ り,現 世 人 類 が 歴 史 に登 場 す る の は そ れ か らず っ と後 の い ま か ら10万 年 前,8万 年 前,6万 年 前,5万 年 前,4万 年 前 と諸 説 が あ る 。 この 間 に人 類 の居 住 地 域 は ア フ リ カか ら東 南 ア ジ アの ジ ャ ワ 島,
ヨー ロ ッパ 大 陸 へ と広 が っ て い っ た 。
地 球 が で きて か ら今 日 ま で を1日 二24時 間 とす る と,グ ラ ン ド ・キ ャ ニ オ ンが で きた の は1日 が 終 わ る7分 前,人 間 が 誕 生 した の は わ ず か に47秒 ほ ど前 で あ る 。 しか も,当 時 は氷 河 期 の 時 代 で あ り,人 間 の社 会 が 本 格 的 に 発 展 す る の は 最 終 氷 河 期 が 終 わ っ た お よ そ1万3000年 前 か らで あ る。 こ の 時 期 に は 地 球 上 のす べ て の 人 間 は 狩 猟 採 取 に よ っ て生 きて い た 。
文 明 化 は植 物 の栽 培 と家 畜 の飼 育 と と も に始 ま る 。 地 球 上 で も っ と も早 く 植 物 の 栽 培 が 始 ま っ た の は ユ ー ラ シ ア 大 陸 の 「肥 沃 な 三 日月 地 帯 」(The FertileCrescent)と 呼 ば れ る 地 域 で あ る。 現 在 の トル コ,シ リ ア,イ ス ラエ
ル,ヨ ル ダ ン,イ ラ ク に か け て の 地 域 で あ る 。 そ れ は西 暦 紀 元 前8500年, い まか ら1万500年 ほ ど前 で あ る。 野 生 種 か ら栽 培 化 され た 植 物 は小 麦,碗 豆,オ リー ブ な どで あ る。 この 地 域 で は羊,山 羊 な どの 動 物 の飼 育 化 もほ ぼ
同 じ時 期 か ら紀 元 前8000年,い ま か ら1万 年 前 に 始 ま っ て い る。 続 い て 植 物 の 栽 培 化 と動 物 の 飼 育 化 が 始 ま っ た の は 中 国 で あ る。 こ こ で は 紀 元 前 7500年,い まか ら9500年 前 に 米,粟,高 梁 な どの 栽 培 が 始 ま り,豚,蚕 の 飼 育 が 始 ま っ て い る。
南 北 ア メ リ カ大 陸 の 中 央 ア メ リ カ で は玉 蜀 黍,隠 元 豆,南 瓜(カ ボチ ャ), ア ンデ ス と ア マ ゾ ン川 流 域 で は ジ ャ ガ イ モ とキ ャ ッサ バ な どの植 物 の 栽 培 が 紀 元 前3500年 か ら紀 元 前3000年,い まか ら5500年 前 か ら5000年 前 に始 ま
っ て い る 。 北 ア メ リ カ大 陸 の東 部 で ヒマ ワ リ,ア カザ な どの 植 物 が 栽 培 され る の は紀 元 前2500年,い まか ら4500年 前 で あ る。(5)
お よそ1万 年 前 に始 ま っ た 農 業 革 命 は9000年 以 上 に わ た っ て ゆ っ く り と
進 み,人 間 の 主 た る 生 活 の 手 段 を 狩 猟 採 取 か ら栽 培 飼 育 に 変 え た 。17世 紀 な か ば か ら18世 紀 な か ば に始 ま っ た 工 業 革 命 は300年 ほ ど の あ い だ に 人 間 の 社 会 を 農 業 社 会 か ら工 業 社 会 に 変 え た 。 そ して,20世 紀 後 半 に 始 ま っ た 情 報 革 命 は 人 間 の社 会 を急 速 に 知 識 晴報 社 会 に変 え つ つ あ る。
科 学 技 術 革 命 の 進 展 に と もな っ て 地 球 上 に住 む 人 間 の 数 も急 激 に増 え て い る 。 西 暦 紀 元 の始 ま り頃 の 地 球 人 口 を2億5000万 人 とす る と,1800年 は10 億 人,1930年 は20億 人,1975年 は40億 人,1999年 は60億 人,現 在 は64 億 人 を越 え て い る 。(6)
人 間社 会 の 発 展 の基 礎 に は科 学 技 術 の発 展 が あ る。 地 球 学 の研 究 者 で あ る ロ シ ア の 哲 学 者 チ ュ マ コ ー フ は 人 間 の科 学 技 術 の 発 展 を技 術 と科 学 の 発 展 の 二 つ に分 け,ま ず 技 術 の 発 展 段 階 を次 の 四 つ と して い る。
第 一 は人 間 が 手 作 業 の 道 具 を作 っ た段 階 で あ る。 こ の段 階 は手 先 の器 用 な 原 始 人 類(ホ モ ・ハ ビ リス)が300‑200万 年 前 の 旧石 器 時代 に労 働 の 道 具 と して 石 器 を作 り,改 善 して い っ た 時 代 か ら,理 性 的 な現 世 人 類(ホ モ ・サ ピ エ ンス)が 火 を使 い,石 の 他 に 骨 や 木 を利 用 して ナ イ フや 斧 を作 り始 め た時 期 を経 て 近 代 に至 る 長 い 期 間 で あ る。 第 二 は 人 間 が 機 械 を作 っ た17世 紀 後 半 以 降 の段 階 で あ り,技 術 と科 学 が 一 体 化 した科 学 技 術 進 歩 の 始 ま りで あ る 。 第 三 は20世 紀 に お け る 自動 化 機 械 の 出 現 で あ り,科 学 技 術 革 命 の 始 ま りで あ る。 第 四 は20世 紀 の 第 四 四 半 期 に お け る計 算 機 技 術 の 出現 で あ り,情 報 革 命 の 始 ま りで あ る 。
つ ぎ に科 学 の発 展 で あ る が,チ ュ マ コ ー フ は こ れ を五 つ の段 階 に分 け て い る 。 第 一 は前 科 学 期(紀 元 前4000年 か ら紀 元 前600年),第 二 は古 典 古 代 期 (紀 元 前6世 紀 か ら紀 元 後4世 紀),第 三 は 中 世(4世 紀 か ら14世 紀),第 四 は ル ネ ッサ ンス期(14世 紀 末 か ら16世 紀 初 め),第 五 は近 代(17‑18世 紀 以 降)で あ る 。 そ して,近 代 に お い て状 況 が根 本 的 に変 化 し,先 に も述 べ た よ
う に,科 学 と技 術 が 別 々 に 発 展 す る こ とが で き な くな っ た と して い る。 つ ま り,技 術 と科 学 が 分 か れ て い た の は技 術 発 展 の 第 一 段 階 だ け で あ っ て,第 二 段 階 以 後,つ ま り17世 紀 後 半 以 降 は技 術 と科 学 の 発 展、が0つ と な り,そ の
相 互 関係 が ま っ た く新 しい水 準 に達 した の で あ る。(7)(図1参 照)
こ の よ うな 科 学 技 術 の 発 展 に も とつ い て 地 球 上 の各 地 域 の交 流 が 次 の 四つ
地球 社 会 と地球 史13
発展水準
図1科 学技術進歩の主要段階
哲 学 に含 まれ る科 学
1哲 学(科 学)
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科 学 技 術 革 命 レ
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2005年
1万 年 紀 元前6世 紀1600年1700年1800年1900年2000年 時
出 所:チ ュ マ コ ー フ 『グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン 。 全 一 的 世 界 の 概 要 』 モ ス ク ワ,2005年, 408ペ ー ジ 。
の 時 期 を経 て 拡 大 した 。
第 一 の 時 期 は500‑300万 年 前 の 人 類 の 出現 か ら新 石 器 革 命 の 終 了 まで の 時 期,つ ま り,紀 元 前7000‑3000年 頃 に最 初 の 国 家 が 現 れ,形 成 され る まで の 時 期 で あ る 。 こ の 時 期 は さ らに4‑6万 年 前 の 現 世 人 類 の 登 場 前 とそ の 後 の 二 つ に分 た れ る。 現 世 人類 の登 場 前 は 地域 間 の交 流 は な く,現 世 人 類 の 登 場 後 の 交 流 も断 片 的 で ロ ー カ ル(局 所 的)な も の で あ った 。 第 二 の 時 期 は新 石 器 革 命 の終 了 か ら地 理 上 の 大 発 見 の 始 ま りまで,す な わ ち,ル ネ ッサ ンス期 ま
で の 時期 で あ る。 こ の 時 期 の 交 流 は リ ー ジ ョナ ル(地 域 的)な もの で あ っ た が,グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ンの 最 初 の兆 候 が 現 れ て い た 。 紀 元 前5世 紀 の ペ ル シ ャ戦 争,紀 元 前4世 紀 の マ ケ ドニ ア の ア レ クサ ン ドル 大 王 の 東 征,紀 元 前 1世 紀 の ロ ー マ 帝 国 の 成 立 な どが そ れ で あ る 。 第 三 の 時 期 は 実 際 に グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンが 始 ま っ た 地 理 上 の 大 発 見 か ら1957年 に ソ ヴ ェ トが 最 初 の 人
図2地 球的 交流 の主要確 立 期(時 期 区分)
r
多 面 的 グmバ リゼ ー シ ョ ン (宇宙 時 代 の 始 ま り)
‑一 下 一 一1一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 』
基 本 的 グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン
1
りま始のンヨシ
一▲ーゼーllー▼リバ
一ログの実現 在現▲﹁I11ー
2000年
1900年
1800年
1700年 地 理 上 の 大 発 見 期
グmバ リゼ ー シ ョ ンの 最 初 の徴 候
r
第4期 地 球 的 交流 確 立 (宇宙 的 出 来事)
1
第3期 地 球 的 交 流 確 立↑
(地球 的 出 来事)
↓
r
第2期 地 球 的 交 流 確 立 (地域 的 出 来 事)
‡
出 所=チ ュ マ コ ー フ 「グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン 。 全 一 的 世 界 の 概 要 』 モ ス ク ワ,2005年, 410ペ ー ジ 。
↓ 紀元前6世紀 ↓
tr
歴史の始 まり 局地的歴史の始ま り
!11
↑ …‑1万 年 第1期 地晶 交流確立
原始 新石器革命(局 地的出来事)
(幣 社会 撫 亜
一… 一……}
300万 一500万 年
口衛 星 を打 ち 上 げ,1969年 に米 国 が 月 に 人 間 を 送 っ た と き まで の 時 期 で あ る 。 こ の 時 期 の 交 流 は地 球 的 な もの で あ っ た 。 そ れ 以 後 の 第 四 の今 日の 時 期 の 交 流 は 宇 宙 的 な もの とな っ て い る。(8)(図2参 照)
交 流 の拡 大 は人 間 の意 識 に大 き な影 響 を与 え た 。kの 時 期 の 後 半,つ ま り,現 世 人類 の登 場 後 の 人 間 は世 界 観 を神 話 や 宗 教 に よ っ て 表 明 した 。 この 時 期 の 絶 頂 は1万 一7000年 前 に進 行 した 新 石 器 革 命 で あ っ た 。 人 間 は最 終 的 に動 物 の状 態 か ら脱 した 。 労 働 の 道 具,踊 り,歌,岩 面 彫 刻,ロ 頭 の コ ミ ュ
地球社会 と地球史 15
ニ ケ ー シ ョン な どの 物 質 的 ・精 神 的 文 化 の 萌 芽 が 見 られ る。 歴 史 の 始 ま りで あ る 。 第 二 の 時 期 に は紀 元 前7世 紀 か らキ リス トが 生 誕 す る まで の あ い だ に ヤ スパ ー ス の言 う 「軸 の 時 代 」 が あ り,社 会 生 活 の根 本 的性 格 が 変 化 した 。
世 界 観 の特 別 な歴 史 的形 態 と して 哲 学 が 生 ま れ,文 化 とい う用 語 が 現 れ た。
第 三 の 時 期 に は社 会 的 意 識 の 自立 的 形 態 と して 科 学 が 哲 学 か ら分 離 し,文 明 とい う用 語 が 現 れ た 。 第 四 の 時 期 に は 人 間 は 地 球 的 意 識 を持 つ よ う に な り, グ ロ ーバ リゼ ー シ ョン とい う用 語 が 現 れ た 。 チ ュ マ コー フ はそ の 後 に倫 理 的
図3地 ・生物 ・社会 シス テムの主 要転換(変 態期)
楽 丁
第5仮 説的変態期1倫 理的(仮 説的)革 命
寺 一… … 一一一一一1(聖 簿 誓 懸 奨 轡 の
現在 第4変 態期
地球的革命(地 球 的意識の出現)
一 一 一 一 ↑
1
第3変 態 期↑ 1
第2変 態 期↑
↓
第1変 態 期↑
!
1900年
科 学 革 命
(世 界 観 の 一 形 態 と し て の 科 学 の 出 現) 近 代
1700
‑… 一 一 一 一 … … 一 一 … … … 一 一 一 一 一 地 理 上 の 大 発 見 期
1400年
科 学 革 命
(世 界 観 の 一 形 態 と し て の 哲 学 の 出 現) キ リ ス ト誕 生
軸 の 時 代(ヤ ス パ ー ス に よ る)
土
紀 元 前7世 紀
7000年 新 石 器 革 命
1万 年
世 界 観 の 形 成 (神話,宗 教 の 出現) 4万 一6万 年
出 所=チ ュ マ コ ー フ 『グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン 。 全 一 的 世 界 の 概 要 』 モ ス ク ワ,2005年, 411ペ ー ジ 。
革 命 が 起 こ り,個 人 的 意 識 と社 会 的 意 識 が ヒュ ー マ ニ ゼ ー シ ョ ンす る と予 測 して い る。(9)(図3参 照)
科 学 技 術 の 発 達 と地 球 上 の 各 地 域 の あ い だ の 交 流 の 拡 大,人 間 の 意 識 の変 化 に と もな っ て 人 間 が グ ロー バ リゼ ー シ ョ ン を認 識 す る よ う に な っ た。 そ れ が 顕 著 に な り始 め る の は地 理 上 の 大 発 見 以 降 で あ る。
そ の 代 表 的 人 物 は18世 紀 後 半 か ら20世 紀 の20年 代 ま で の 第 一 段 階 で は マ ル サ ス(1766‑1834),マ ル ク ス(1818‑1883),ダ ニ レ ー フ ス キ ー(1822‑
1885),シ ュペ ング ラ ー(1880‑1936)な どで あ る。 彼 ら は世 界 が 一 体 で あ る こ とを 感 じて い た が,グ ロー バ リゼ ー シ ョ ンに つ い て は っ き り と した 定 式 を 出 す に至 っ て い な い 。20世 紀 の20‑60年 代 の 第 二 段 階 で は ヴ ェ ル ナ ー ツ キ ー(1863‑1945) ,ヤ スパ ー ス(1883‑1969),ト イ ン ビ ー(1889‑1975),ラ ッ セ ル(1877‑1957)な どで あ る。 彼 らは 世 界 の 一 体 性 を理 解 し,地 球 全 体 の 規 模 で 生 物 的 な もの,社 会 的 な もの,精 神 的 な もの が切 り離 しが た く結 びつ い て い る こ と を認 識 す る よ う に な っ た 。1960年 代 後 半 か ら1980年 代 末 ま で の 第 三段 階 で は多 くの 自然 科 学 者 や 人 文 科 学 者 た ち が 地 球 的 諸 問 題 を発 見 し, 新 しい科 学 知 識 分 野 と して 地 球 学 を形 成 し,地 球 的 意 識 を持 ち始 め た 。1990
年 代 後 半 か ら今 日 に至 る第 四段 階 は急 速 な情 報 技 術 革 命 の展 開 の 時 期 と一 致 し,世 界 の 一 体 性 が 認 識 され,地 球 的 な世 界 観 が 形 成 され た。(10)(図4参 照)
以 上 見 て きた よ う に,人 類 は この 地 球 上 に誕 生 して 以 来,長 い 年 月 を か け て 地 球 上 の 各 地 に広 が り,今 日に至 っ て い る。 い ま流 に言 え ば,人 間 の グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ンで あ る。 人類 の歴 史 は グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ンの 歴 史 で あ る。
人 間 は そ れ を 長 い 間 グ ロ...̲.バリゼ ー シ ョ ン と して 自覚 して い な か っ た 。 そ れ を 自覚 す る よ う に な る の は 地 理 上 の 大 発 見 以 後 で あ り,と くに20世 紀 に お い て 人 間 の 行 動 が 地 球 の 大 気 圏 を飛 び 出 して 宇 宙 空 間 に及 ん だ こ とで あ る。
そ れ は まず 地 理 的 グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ン と して 表 面 化 し,つ い で 経 済 的 グ ロ ーバ リゼ ー シ ョン,政 治 的 グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン,生 態 的 グ ロー バ リゼ ー シ ョン,情 報 的 グ ロー バ リゼ ー シ ョ ン と して続 い た。 い ま や全 体 と して グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ンが急 速 な勢 い で進 み,人 間 の 意 識 も急 速 に グ ロー バ リゼ ー シ ョン し,コ ス モ ナ イゼ ー シ ョ ン して い る。(11)(図5参 照)
地球社会 と地球史 17
図4グ ロ.̲..バ リ ゼ ー シ ョ ン 認 識 の 主 要 段 階
↑ ↑
グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン認 識 の1
1状 態 ,過 程,現 象 と し て の グ ロ ー バ リ ゼ ー 第5(仮 説 的)段 階
;シ ョ ンの 認 識1
…‑r‑『 … 『一一一T癬 一一亮 隔 ⊇=ヨ ー
ンの」L‑1.16 グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン認 識 の 第4段 階
(広範 な社 会 的 意 識)
桑
グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン認 識 の 第3段 階 (自 然 科 学 者,人 文 科 学 者)
寺 千
グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン認 識 の 第2段 階 (ヴ ェ ル ナ ー ツ キ ー,ヤ ス パ ー ス,
ト イ ン ビ ー,ラ ッ セ ル 等) 寺
グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン 認 識 の 第1段 階 (マ ル サ ス,マ ル ク ス,
ダ ニ レ ー フ ス キ ー,シ ュ ペ ン グ ラ ー 等)
世 界 の 一 体 性 の 認 識 。 地 球 的 世 界 観 の 形 成 。
1980年
地 球 的 問 題 の 発 見 。 新 しい 科 学 知 識 分 野 と し て の 地 球 学 の 形 成 。 地 球 的 意 識 の 形 成 開 始 。
1960年 個 々の学 者 に よる世界 の 一体性 の 理解 。 惑 星(地 球)全 体 の 規 模 で 生 物 的 な も の,社 会 的 な も の,精 神 的 な も の が 切 り離 せ な い よ っ に結 び つ い て い 1920年 る こ と を指 摘 。
全 体 的 相 互 関 係 につ い て の 直 観 的 推 測 。 世 界 の 一 体 性 の 感 得 。 は っ き り と し な い 定 式 化 。 グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンは展 望 さ れ,予 測 され る だ け。
出 所1チ ュ マ コ ー フ 『グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン 。 全 一 的 世 界 の 概 要 』 モ ス ク ワ,2005年, 413ペ ー ジ 。
3.地 球 史 と地 球 学
この よ うな状況 の なか で地球 史 と称 す る新 しい学 問分 野が 発展 し始 め た。
地 球 史 が い か な る もの で あ るか につ い て は,本 特 集 号 の辻 村 論 文 で も紹 介 さ れ て い る よ う に,諸 説 あ る が,ロ シ ア で2003年 に発 刊 さ れ た 『地 球 学:百 科 事 典 』 で 哲 学 者 の ナ ザ レチ ャ ンは 地 球 史 を次 の よ うに 定 義 づ け て い る。
「地 球 史 と は 地 球 の 歴 史 を惑 星(地 球 の こ とe中 西)の 諸 圏 の 一 貫 した 形
図5多 面 的 グ ロ ーバ リゼ ー シ ョン
1 1 1
過 程 の流 れ の 強 さ
X450年1500年1600年1700年1800年1900年1961年2000年 時
出 所:チ ュ マ コ ー フ 『グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン。 全 一 的 世 界 の 概 要 』 モ ス ク ワ,2005年, 412ペ ー ジ 。
成 ・発 展 ・相 互 影 響 と して検 討 す る もの で あ る。 この 惑 星 の 諸 圏 の 過 程 で は 最 初 は生 物 相 が,後 に は文 化 が 改 変 の 主 要 な動 因 とな っ て い る 。 学 際 的 な 知 識 分 野 と して 地 球 史 が 形 成 さ れ は じめ た の は,地 質 的 過 程 と生 物 的 過 程 と社 会 的 過 程 が 相 互 に深 く影 響 し合 っ て い る こ とが 明 らか に な っ た20世 紀 前 半 で あ る。 こ の学 問 の創 始 者 とさ れ て い る の は ロ シ ア の 地 球 化 学 者 ヴ ェ ル ナ ー ッ キ ー,フ ラ ンス の 人類 学 者 シ ャ ル ダ ン,哲 学 者 レル ア で あ る 。 彼 らは 人類 の 歴 史 が 人 智 圏 の 創 造 で 終 わ る 地 球 的 進 化 の 一 局 面 で あ る こ と を 証 明 し た 。」(12)
チ ュマ コ ー フ に よ る と,地 球 は宇 宙 の な か に存 在 す る一 つ の 開 か れ た シ ス テ ム で あ る。 宇 宙 か ら地 球 に は太 陽 エ ネ ル ギ ー や 宇 宙 放 射 線 が 注 が れ,隈 石 や 宇 宙 塵 や そ の他 の物 質 が 落 ち て きて い る。 他 方,地 球 か らは宇 宙 に 向 け て エ ネ ル ギ ー が 拡 散 し,人 間 に よ っ て 発 せ られ る無 線 電 波 や 電磁 気,そ の 他 の
地 球社 会 と地 球 史19
放 射 線,お よ び,信 号 が 送 られ て い る。 さ らに大 気 圏 か らガ ス が 宇 宙 に拡 散 して い る。 こ う した な か で 地 表 に は三 つ の 圏 が 存 在 して い る。 第 一 は地 表 に 近 い地 下 か ら地 球 を取 り巻 く大 気 圏 を含 む広 大 な 地 圏 で あ る。 第 二 は 生 命 を 持 つ 動 植 物 の 生 物 圏 で あ る。 第 三 は精 神 や 社 会 関 係 の 分 野 で あ る社 会 圏 で あ る。 こ れ らの3圏 は一 つ の ま と ま っ た 「地 ・生 物 ・社 会 シス テ ム(地 表 シス テ ム)」 を形 成 し,そ こ に は密 接 な 相 互 交 流 と相 互 依 存 の 関係 が 存 在 す る。
地 球 とそ こ に生 き る生 物,社 会 関係 は 一 つ な の で あ る 。(13)(図6参 照) ロ シ ア の歴 史 家 イ オ ー ノ ブ は地 球 史 の研 究 者 の な か に は 次 の 三 つ の 潮 流 が 存 在 す る と指 摘 して い る。 第 一 は米 国 に移 住 した オ ー ス トリア の哲 学 者 ヤ ン チ を創 始 者 とす る普 遍 的 な進 化 論 の 理 論 で あ る。 こ の 論 は 人類 学,生 態 学,
シ ネ ル ゲ チ カ(相 互 作 用 論)と 密 接 に結 びつ い て い る 。 第 二 は現 代 地 球 学 の 核 で あ る フ ラ ンス の歴 史 家 ブ ロ ー デ ル と米 国 の 社 会 学 者 ウ オー ラ ス テ イ ン を
図6地 ・生 物 ・社 会 シ ス テ ム(地 表 シ ス テ ム) 大気圏か らのガスの拡散
太 陽 エ ネ ル ギ ー と 宇 宙 線 の流 れ
エ ネ ル ギ ー の 拡 散
3圏(地 圏,生 物 圏,社 会 圏)
'!ノ
無 線 電 波,電 磁 気,そ の 他 の 放 射 線
\
宇 宙 か らの 阻 石, お よ び人 間 に よ っ て発 せ られ る信 号 宇 宙 塵 お よ びそ の 他 の物 質
◎ 地圏 ホ 生物圏
賛 ・ 社会圏
出 所=チ ュ マ コ ー フ 『グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン 。 全 一 的 世 界 の 概 要 』 モ ス ク ワ,2005年, 409ペ ー ジ 。
祖 とす る 世 界 シス テ ム論 で あ る。 第 三 は第 二 の 潮 流 か ら分 離 しつ つ あ る一 種 の 歴 史 的 地 政 学 で あ る。 こ れ は地 球 的 な政 治 関 係 シ ス テ ム の 結 節 点 で あ る世 界 的 諸 大 国 の 歴 史 で あ る 。
イ オ ー ノ ブ に よ る と,20世 紀 の60‑70年 代 に 地 球 史 が 世 界 史 か ら離 れ 始 め た 。 「大 きな 物 語 」 の 図 式 に対 す る不 信 が 増 大 し,構 造 主 義 か らポ ス ト構 造 主 義,ポ ス ト近 代 主 義 へ と移 っ て い た 。 丁 度 この 時 期 に 自然 科 学 の 分 野 で シ ス テ ム の 自己 組 織 化 へ の 関 心 が 高 ま っ て い た。1967年 に ベ ル ギ ー の プ リ ゴ ジ ン は散 逸 構 造 論 を提 起 し,「 動 揺 を経 て の秩 序 」 と い う考 え を 出 した 。 突 然 の カ オ ス 的 変 化 を経 て新 しい秩 序 が 生 まれ る とい う考 え方 で あ る。 カオ ス が 極 限 に達 す る と シス テ ム は崩 壊 す る か,根 本 的 に変 わ る 。 この さい 危 機 か らの脱 出 の 方 向 は基 本 的 に は予 測 で き な い の で あ る。(14)
ロ シ ァ語 の シ ネ ル ゲ チ カ(cKHepreTKKa)は ギ リ シ ャ語・のsyn‑
ergtikos(共 同 作 用)を 語 源 と して い る。 英 語 のsynergism(シ ナ ジ ズ ム) は 回心 に は 人 間 の 意 思 と聖 霊 が協 力 し合 う とい う神 人 協 力 説 や 薬 物 な どの 共 力 作 用,相 乗 効 果 な どを意 味 す る。 シ ネ ル ゲ チ カ は非 線 形 ・非 均 衡 ・非 定 常 の 開 か れ た シ ス テ ム の な か で の 「共 同 現 象 」 を研 究 す る学 際 的 学 問 で あ り,
ドイ ツ の 物 理 学 者 ハ ー ケ ンが1971年 に使 い 始 め た用 語 で あ る。 こ の 学 問 は 複 雑 な動 的 シス テ ム の な か で の 自 己組 織 化 の過 程 を研 究 す る もの で あ る。
シ ネ ル ゲ チ カ で は進 化 の諸 過 程 を 自 己組 織 化 の 諸 過 程 と して 検 討 して い る 。 一 般 的 な 図式 は 次 の よ う な もの で あ る。 まず 比 較 的 安 定 して い る状 態 が 安 定 性 を失 い 始 め る 。 安 定 性 の 喪 失 を もた ら した諸 原 因 に よ っ て 内 的状 態 の 変 化 か 外 的規 制 が もた ら され る 。 シ ス テ ム 内 の新 しい 要 素 か 制 御 パ ラ メ ー ター へ の 影 響 に よっ て分 岐 が起 こ り,こ れが 動 的 な過 程 を始 動 させ,シ ス テ ム の い っ そ うの 自己組 織 化 へ と進 む 。 自 己組 織 化 の 過 程 が 終 わ る につ れ て 進 化 推 進 シ ス テ ム が 新 しい,比 較 的 安 定 した状 態 に移 行 す る 。
こ の よ う な 「変 動 を経 て 新 しい もの が 生 まれ る」 と い っ た 論 が1980年 代 か ら1990年 代 に か け て の世 界 の 激 動 の 時 期 に 注 目 を浴 び る よ うに な っ た の は 自然 な こ とで あ っ た 。 ロ シ ア の シ ネ ル ゲ チ カ は米 国 の 動 的 カ オス 論,フ ラ ンス とベ ル ギ ー の散 逸 構 造 論 と基 本 的 に は 同 じで あ る。(15)
ソ ヴ ェ トに お い て グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ンの 問 題 が 本 格 的 に論 じ始 め られ る
地球社 会 と地球 史21
よ う に な る の は1980年 代 に入 っ て か らで あ る。1981年 に ソ ヴ ェ ト科 学 ア カ デ ミー世 界 経 済 国 際 関係 研 究 所 の イ ノ ゼ ー ム ツ ェ フが 編 集 した 「現 代 の 地 球 的 諸 問 題 』 が 出版 され,同 じ年 に哲 学 者 の フ ロ ー ロ フ とザ グ ラ ー ジ ンの 共 著
『現 代 の 地 球 的 諸 問 題:学 問 的 側 面 と社 会 的 側 面 』 出版 さ れ て い る。 こ の な か で フ ロ ー ロ フ とザ グ ラ ー ジ ン は グ ロ ーバ リゼ ー シ ョンの 問 題 に つ い て マ ル クス 主 義 科 学 は歴 史 的 楽 観 主 義 の 立 場,理 性 が勝 利 す るの は 避 け が た い との 立 場 か ら対 処 して い る と述 べ て い る。 ザ グ ラ ー ジ ンは さ らに1985年 に 出 版 した 『地 球 的 諸 問 題 と人 類 の 社 会 的 進 歩//現 代 の 地 球 的 諸 問 題 に つ い て の マ ル ク ス ・レー ニ ン主 義 的 考 え 』 で 「こ れ らの 諸 問 題 の根 本 的 な,そ れ ど こ ろ か,最 終 的 な解 決 の 見 通 し は,事 は完 全 に現 実 的 だ とい う こ と で あ る。」
と述 べ,グ ロ ーバ リゼ ー シ ョンが 生 み 出 す 諸 問 題 の 解 決 に つ い て 楽 観 的 見 通 しを述 べ て い る 。(16)
しか し,数 学 者 で あ り,か つ,哲 学 者 で あ っ た モ イ セ ー エ フ は1980年 代 末 か ら1990年 代 な か ば に か け て 発 表 した 一 連 の 著 作 「数 学 者 の 見 た 生 態 学:人 間,自 然,文 明 の 将 来 』(1988),『 人 間 と人 智 圏 』(1990),「 普 遍 的 進 化 論 」(1991),『 現 代 合 理 主 義 』(1995)な どで グ ロ ーバ リゼ ー シ ョン につ い て 悲 観 的 な見 通 し を発 表 して い る。 彼 は,生 態 学 的 危 機 は近 代 化 に よ っ て 生 じた もの で あ る,と 考 え て い た 。 彼 は合 理 主 義 と新 しい技 術 の可 能 性 を信 じ て い た け れ ど も,そ の 危 機 を克 服 す る 第 一 の 方 途 は地 球 人 口 の抑 制 と伝 統 的 文 化 の保 持 で あ る と考 え,文 明 の境 界 を越 え た 人 類 の統 合 とい っ た グ ロ ー バ
リゼ ー シ ョ ンの 可 能 性 を信 じて い な か っ た 。(17)
他 方,ナ ザ レチ ャ ンは1990年 代 な か ば か ら2000年 代 は じめ にか け て発 表 した0連 の 著 作 『世 界 文 化 発 展 に お け る 侵 略,道 徳,諸 危 機(社 会 的 進 歩 の シ ネ ル ゲ チ カ)』(1995),「 歴 史 的 進 化 の ベ ク トル 」(1999),『 包 括 的 歴 史 の 文 脈 の な か で の 文 明 的 諸 危 機i(シ ネ ル ゲ チ カ,心 理 学,未 来 学)』(2001)な
どで グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンに つ い て 楽 観 的 な 見 通 し を発 表 して い る 。 彼 は 人 類 が 技 術 を発 展 させ なが ら,つ ぎつ ぎ と起 こ る新 しい危 機 を克 服 す る 前 提 で あ る 賢 明 さ と忍 耐 強 さ を ます ます 多 く身 に付 け る能 力 を持 っ て い る と考 えて い る。(18)
第 二 の世 界 シス テ ム論 につ い て の研 究 は ソ ヴ ェ ト科 学 ア カ デ ミー か らロ シ
ア科 学 ア カ デ ミー に変 わ っ た 世 界 経 済 国際 関 係 研 究 所 の チ ェ シ ュ コー フ を 中 心 と して 行 な わ れ た。 チ ェ シ ュ コー フ の 『ポス ト ・ソ ヴ ェ トロ シ ア の 地 球 的 文 脈 。 世 界 一 体 性 の 理 論 と方 法 論 の 概 括 』(1999)は こ の研 究 を総 括 した も
の で あ る。 こ こ で は ソ ヴ ェ ト時 代 前,ソ ヴ ェ ト時 代,ソ ヴ ェ ト時 代 後 の ロ シ ア の歴 史 的 継 承 性 と非 継 承 性 が 分 析 され て い る 。 また,ロ シ ア の 変 化 しつ つ あ る地 位 と関 連 して 現 に行 な わ れ て い る ロ シ ア で の改 革 が 世 界 的 な 文 脈 の な か で 分 析 さ れ て い る。 チ ェ シ ュ コー フ は地 球 の 問 題 を考 え る に は新 しい学 問 が 必 要 で あ り,そ こ に は古 典 的 な 学 問 と と もに シ ネ ル ゲ チ カ 的 ア プ ロ ー チ や ポ ス ト近 代 主 義 的 ア プ ロ ー チ,さ らに は神 学 や 秘 儀 的信 仰 も必 要 で あ る と主 張 して い る。 彼 は地 球 の 一 体 性 は 一 つ の シ ス テ ム と して で は な く,さ ま ざ ま の 要 素 の 総 体 と して 定 義 さ れ な け れ ば な ら ない と考 え て い る。(19)
東 洋 学 者 の メ ドヴ ェ ー トコ は2002年 に発 表 した 論 文 「ロ シ ア,西 洋,イ ス ラー ム(戦 争 と平 和 の 一 体 的 結 び つ きの な か で の 弁 証 法 とシ ネ ル ゲ チ カ)」
で グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ンの 互 い に対 立 す る傾 向 の 相 互 関 係 を分 析 す る の に シ ネ ル ゲ チ カの 諸 原 則 を意 識 的 に利 用 して い る。 彼 は カ オ ス を克 服 す る こ と と カ オ ス を特 殊 な 「秩 序 」 と して 受 け 入 れ る こ と,諸 政 治 勢 力 の相 互 進 化 の 方 途 を探 る こ と と無 法 状 態 に合 法 性 の 形 態 を与 え る こ と な どの よ う な 人類 が 直 面 して い る二 者 択 一 的 問 題 を考 え る さい に シ ネ ル ゲ チ カの 概 念 装 置 を利 用 し て い る。 ア ル シー ノ ブや ブ ラー ンス キ ー な ど もシ ネ ル ゲ チ カの 方 法 を多 用 し て い る。(20)
第 三 の 歴 史 的 地 政 学 に つ い て の ロ シ ア で の研 究 は世 界 的 エ ンパ イ ア と して の ロ シ ア,ま た,西 ヨー ロ ッパ の 資 本 主 義 的 シス テ ム に対 抗 して歴 史 的 に発 展、して きた 「反 シス テ ム」 と して の ロ シ ア の歴 史 と結 び つ い て い る。 フ ー ル ソ フ の 『歴 史 の 鐘 』(1996)と 「中 央 ア ジ ア の 中心 性 。 世 界 の 地 域 シス テ ム の なか の 中央 ア ジ ア の歴 史 的 位 置 」(1997),ツ ィム ブ ル ス キ ー の 「ヨー ロ ッ パ=ロ シ ア:文 明 化 シ ス テ ム の く 第 三 の 秋 〉」(1997)と 「国 際 紛 争 シ ス テ ム は どの よ う に生 き,死 ぬ か(16‑20世 紀 の バ ル ト ・黒 海 シス テ ム の 運 命)」
(1998),ヤ コ ヴ ェ ー ン コ の 「チ ル ジ ッ トの 平 和 か らモ ロ トフ=リ ッベ ン トロ ブ まで(祖 国 史 の 近 代 化 大 サ イ ク ル)」(1998)な どの研 究 は ロ シ ア の 大 きさ の故 に地 球 学 的 性 格 を持 っ て い る。(21)
地 球社会 と地 球史23
以 上 の よ うな グ ロー バ リゼ ー シ ョ ンに対 す る ロ シ ア の 知 識 人 の対 応 は ロ シ ア の 知 識 人 が お か れ て い た 状 況 を見 事 に 反 映 して い る 。1980年 代 は じめ は 絶 頂 が 過 ぎ,停 滞 が 表 面 化 し始 め た とは言 っ て も ソ ヴ ェ ト体 制 は ま だ安 定 し, 存 在 して い た 。1980年 代 なか ば に は ペ レス トロ イ カ(立 て 直 し)が 始 ま り, 再 生 へ の期 待 が あ っ た 。 しか し,1980年 代 末 か ら1990年 代 前 半 に か け て は
ソ ヴ ェ ト体 制 が 揺 ら ぎ,崩 壊 し,ソ ヴ ェ トは解 体 した 。1992年 に は物 価 が1 年 間 に25倍 も高 騰 す る よ う な カ オ ス の 状 態 で あ っ た 。 シ ネ ル ゲ チ カ が 関 心
を集 め た の は 当 然 で あ っ た 。1990年 代 末 か ら2000年 代 は じめ に か け て ロ シ ア社 会 は 安 定 し始 め た。 ロ シ ア の 知 識 入 た ち も1980年 代 か ら1990年 代 にか け て の激 動 の 時 期 を客 観 的 に評 価 で き る よ うに な っ た 。
21世 紀 に入 っ て ロ シ ア の 知 識 人 の グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン に 対 す る態 度 は は っ き り して きた。 一 つ は グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンに批 判 的 で あ り,明 確 に反 対 す る人 び とで あ る。 も う一 つ は グ ロー バ リゼ ー シ ョ ン を地 球 史 的 観 点 か ら 肯 定 的 に捉 え,グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ン を全 面 的 に分 析 し,そ の 問 題 点 を 克 服 す る た め に新 しい学 問 二地 球 学 を生 み 出 そ う とす る 人 び とで あ る。
第 一 の 人 び と は心 理 学 者 ボ リ シ ャ コー フ を 中心 とす るサ ン ク トペ テ ル ブ ル グ,モ ス ク ワ,チ ュ メ ニ の研 究 者 た ち で あ る。 彼 ら は2000年 に共 著 『社 会 と政 治 』 を 出 版 し,ボ リ シ ャ コ ー フ は2001年 に単 著 「行 為 の 進 化 論 』 を上 梓 し,2002年 に編 著 『ロ シ ア。 惑 星 的 諸 過 程 』 を 出 版 し た 。 ボ リ シ ャ コー フ は この 編 著 に 掲 載 した 巻 頭 論 文 「グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンの 過 程 」 の な か で グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンに つ い て きわ め て 否 定 的 な 見 解 を率 直 に 表 明 して い る。
彼 は まず グ ロー バ リゼ ー シ ョ ンが 多 義 的 な概 念 で あ り,今 日 ま だ この 現 象 につ い て の統 一 した 定 義 も,そ れ に 対 す る統0し た 態 度 も な い と指 摘 して い る。 そ して,グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンは 諸 国 家 の 衝 突 や 例 え ば諸 階級 の 衝 突 で は な く,諸 国 家 間 や 諸 国家 の 内 部 構 造 問 お よび 諸 国 家 の 上 に あ る構 造 間 で展 開 さ れ て い る過 程 を特 徴 づ け て い る 主 要 な紛 争 の0つ で あ る と し,グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンの 支 配 者 で あ る米 国が グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン に賛 成,そ の 客 観 的 な犠 牲 者 で あ る ロ シ ア が グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ン に反 対 とい うの は正 し くな い と して い る。
ボ リ シ ャ コ ー フ は グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンに お い て 多 国 籍 企 業 が 果 た して い
る役 割 を大 変 重 視 して い る。 彼 に よ る と,多 国 籍 企 業 は 国家 を 良 い場 合 に は 彼 らの 言 い な りに な る利 益 の擁 護 者 と考 え て い る。 ソ ヴ ェ トの消 失 は多 国 籍 企 業 が きわ め て 卑 劣 な こ と を行 な う機 会 を与 え た 。 米 ソ両 国 が 互 い に相 手 を 疲 弊 させ,力 を失 わ せ て い る と き に多 国 籍 企 業 は世 界 で の影 響 力 を増 大 させ た 。 い ま で は米 国 は か つ て な く強 力 で あ る が,米 国 の利 益 は決 して い つ も多 国 籍 企 業 の利 益 と一 致 して い る わ け で は な い 。
ボ リシ ャ コ ー フ は ま た グ ロー バ リゼ ー シ ョ ンの現 在 の 局 面 の始 ま りが 時 期 的 に 「冷 戦 」 で の ソ ヴ ェ トの敗 北 と社 会 主 義 諸 国体 制 の 崩 壊 と0致 して い た こ と を指 摘 し,こ の と き多 くの ロ シ ア 人 は これ か ら中央 ア ジ ア の 諸 共 和 国 を 養 わ な くて す む よ う に な る の で,今 後 これ まで よ りも楽 に暮 らせ る よ う に な る と本 当 に思 っ て い た が,実 際 は い ま の ロ シ ア人 の 生 活 水 準 は ソ ヴ ェ ト時 代 の 二 分 の 一 で あ る と述 べ,グ ロ ー バ リゼ ー シ ョン の進 行 が ソ ヴ ェ トに と って 好 ま し くない 結 果 を もた ら して い る こ とを 明 らか に して い る。
ボ リシ ヤ コ ー フ は さ らに 問題 を 注 意 深 く検 討 す る と,グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ンは 米 国 を先 頭 とす る西 側 文 明 の 惑 星 的(地 球 的)支 配 を保 証 す る こ と をめ ざ した 活 動 シ ス テ ム と して 第 二 次 大 戦 終 結 後 の 最 初 の 数 年 間 に計 画 さ れ た も の で あ る と主 張 し,グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンの 将 来 につ い て 次 の よ う な見 通 し を述 べ て い る。
「グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン は 寄 生 虫 で あ る 。 そ れ は福 祉 の 総 量 を再 分 配 す る だ け で あ り,増 や し は し な い 。 悪 い 場 合,ド ル の 金 融 シス テ ム は 崩 壊 す る
(グ リ ンス パ ンは こ の シ ス テ ム の 増 大 しつ つ あ る諸 問 題 につ い て 語 っ て い る)。
ロ シア の よ う な 国 々 は ペ レス トロ イ カ に 匹敵 す る よ う な危 機 に よ っ て 揺 り動 か され る だ ろ う。 米 国 は ソ ヴ ェ トの モ デ ル に した が っ て崩 壊 を体 験 す る で あ ろ う。 ふ た た び 人 類 は カ オ ス の な か で核 兵 器 を手 元 に お い て 死 の ゲ ー ム を も て あ そ ん で い る。 良 い 場 合,ド ル の役 割 は低 下 す る で あ ろ う。 グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン は水 泡 に帰 す る で あ ろ う。 グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ン は歴 史 的 に不 可 避 な もの で ない か らで あ る 。 代 わ りに な り う るの は コ ミ ュ ニ ズ ム で あ る。 つ ま り,金 融 の 完 全 な廃 止 で あ る 。歴 史 は つ ね に 人 び とに代 替 策 を提 案 す る。 つ ね に 選 択 を強 い る。 唯 一 の 選 択 を。」(22)
ボ リシ ャ コ ー フが こ の よ う な結 論 に達 して い る の は グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン
地球社 会 と地球 史25
を主 と して 多 国 籍 企 業 の 活 動 を 中 心 と した経 済 グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン,と く に金 融 グ ロ ーバ リゼ ー シ ョン と して 捉 え て い る か らで あ る。 私 は ボ リ シ ャ コ ー フ の ドル の金 融 シス テ ム と ドル の 役 割 に つ い て の見 通 しは正 しい と思 っ て い る が,そ れ を きわ め て 多 面 的 な グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン全 体 に 普 遍 す る こ と に は 反 対 で あ る 。
他 方,哲 学 者 の マ ズ ー一ル とチ ュ マ コ ー フ は2003年 に グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンに か んす る 百科 事 典 『地 球 学:百 科 事 典 』 を共 同編 集 して 出版 した 。 こ の 書 は先 に地 球 史 につ い て の 規 定 で 引 用 した もの で あ るが,ロ シ ア に お け る新
しい 学 問,地 球 学(r」Io6a∬HcTHKa,globalstudies)の 発 足 を世 界 に示 す もの で あ っ た 。 マ ズ ー ル とチ ュマ コ ー フ は 同 書 で 地 球 学 を 次 の よ う
に規 定 して い る 。
「グ ロバ リス チ カ と は 次 の こ と を め ざす 学 際 的 な学 問研 究 分 野 で あ る 。 す な わ ち,グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンの諸 過 程 の本 質,傾 向,原 因 を解 明 す る こ と, グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンに よ っ て 生 み 出 され て い る地 球 的 諸 問 題 を解 明 す る こ
と,お よび,こ れ らの 諸 過 程 の 結 果 の う ち 人 間 と生 物 圏 に とっ て積 極 的 な も の を確 認 し,否 定 的 な もの を 克 服 す る方 途 を探 求 す る こ とで あ る。」(23)
地 球 学 の よ う な 学 問 が 世 界 的 に 関 心 を集 め 始 め る の は1960年 代 後 半 で あ り,そ れ が 形 成 さ れ る の は1960年 代 末 で あ る 。 そ の き っか け とな っ た の は, は じめ は先 進 工 業 諸 国 で,の ち に は そ の他 の 国 々 で 著 し く先 鋭 化 し始 め た 生 態 学 的 諸 問 題 で あ る。1965年 に は ウ ィー ンで 「未 来 問題 研 究 所 」,オ ラ ン ダ で 国 際 基 金 「2000年 の 人 類 」,1966年 に ワ シ ン トンD.C.で 世 界 未 来 研 究 協 会 が 設 立 され た 。 地 球 的 な 問 題 に本 当 の 関心 が 寄 せ られ る の は1968年 に創 立 さ れ た ロ ー マ ・ク ラ ブ が1972年 に 「成 長 の 限 界 」 を 発 表 し た あ と で あ る。(24)
ソ ヴ ェ トに お い て も1970年 代 な か ば か ら新 聞,雑 誌 な どで グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン の 問 題 が 論 じ られ る よ う に な り,『 哲 学 の 諸 問 題 』 誌 も座 談 会 な ど をお こ な っ て い るが,こ の 問 題 につ い て本 格 的 に論 議 さ れ る よ う に な る の は 1980年 代 に 入 っ て か らで あ る。 そ の な か で 理 論 面 に お い て 重 要 な 役 割 を 果 た した の は哲 学 者 で あ る 。 彼 らは宇 宙 の な か に存 在 す る地 球 を一 つ の シ ス テ ム と して 理 解 して い る。 こ の よ うな観 点 か らす る と,グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン
はず っ と昔 か ら始 ま っ て い る こ と に な るが,そ れ が 今 日 と くに 問 題 と さ れJ 地 球 学 の よ う な新 しい 学 問 が 提 唱 され る の は,地 球 環 境 の 悪 化 や 貧 富 の格 差 の 増 大 とい っ た 問 題 だ け で は な く,大 量 破 壊 ・虐 殺 や 人 間 の モ ラ ル の低 下 と
い っ た グ ロ ーバ リゼ ー シ ョンの マ イ ナ ス 面 が 顕 著 に な りつ つ あ るか らで あ る。
地 球 学 の 目的 は これ らの マ イ ナ ス 面 を克 服 す る こ とに あ る 。
先 進 国 と発 展 途 上 国 との 格 差 に つ い て い う と,1960年 に20対1で あ っ た 最 上 位5か 国 と最 下 位5か 国 の 所 得 格 差 は1990年 に は60対1,1997年 に は 74対1に 増 大 し て い る。 貧 富 の 格 差 は先 進 国 と発 展 途 上 国 の 内 部 で も増 大
し,そ れ ぞ れ の 社 会 の 内 部 に深 刻 な亀 裂 と対 立 を呼 び起 こ して い る 。 こ の よ うな状 況 の も とで2001年9月11日 の事 件 が 起 こ り,ア フ ガ ン戦 争 ・イ ラ ク 戦 争 とそ れ に対 す る抵 抗 運 動 が 泥 沼 化 し,無 差 別 な 人 間 の殺 傷 と破 壊 が 地 球 上 の 各 地 で 日常 化 して い る。 人 類 は生 存 の危 機 に あ る。(25)
4.お わ り に
人 間 の歴 史 は グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ンの 歴 史 で あ り,コ ス モ ナ イゼ ー シ ョ ン の歴 史 で あ る。 こ の こ と を人 間 に 自覚 させ た の は15世 紀 の 地 理 上 の 大 発 見 で あ り,20世 紀 の 人 間 の 宇 宙 空 間 へ の雄 飛 で あ る。21世 紀 に は 本 格 的 に コ ス モ ナ イ ゼ ー シ ョ ンの 時代 が 始 ま る で あ ろ う。 私 た ち は この 時 代 に相 応 しい 新 しい学 問 を創 りだ さ な け れ ば な らな い 。 そ れ は 地 球 学,地 球 宇 宙 学,地 球 宇 宙 平 和 学 と も呼 ば れ るべ き学 問 で あ る。
こ の学 問 の根 底 に は 人 間 を宇 宙 の な か の 地 球 に住 む 生 物 の 一 つ と して位 置 づ け る哲 学 が な け れ ば な ら な い。 まず 宇 宙 が あ り,そ の な か に 地 球 が あ り,
そ こ に 人 間 が住 ん で い る。 そ の 人 間 の 生 活 を規 制 す る もの と して 人 間 を取 り 巻 く 自然 が あ り,他 の動 植 物 が あ り,人 間 そ の もの が あ り,人 間が 作 り出 す 社 会 が あ る。
昔 か ら庶 民 は 「怖 い もの と して 」 「地 震,雷,火 事,親 父(お や じ)」 を挙 げ て い る。 地 震 と雷 は 自然 現 象 で あ り,人 間 で は ど う に も な らな い と考 え, そ れ を甘 受 す るが,そ の 被 害 に あ っ た もの に と っ て は,そ れ は 生 死 に か か わ る一 大 事 で あ る。 しか も,私 た ち人 間 は 間違 い な くこ う した 地 震,雷,大 雨, 洪 水,旱 魑 を生 み 出す 地 球 上 に住 ん で い る 。 そ こ に は灼 熱 の 地 もあ れ ば,酷