社会移動の 日米比較
予備的考察
*
ャ 島 秀 夫
(1981年10月15日受理)
AComparative Study of Social Mobility:Japan and U・S・:
APreliminary Analysis
*
gideo KoJIMA
(Received October 15,1981)
m
Abstraot
Using 1975 SSM and 19730CG data, I tried to compare the process
of status attainment between Japan and the United States. Followingfindings have been obtained. (1)Even though there is no difference in te㎜s of the amount of intergenerational social mobility, openness of society in the United States is larger than that in Japan・(2)Concerning the I amount of intragenerational social mobility,1it脚has・been observed that the amount of.
高盾b奄撃奄凵@is rarger in the United唱States than in 一iaparL (3)Using Blau and Duncan s basic model・we can obserサe no difference in the process of status attainment, except 6ducation still 一一
???窒狽刀@strong influence on current occupation in the United States.
問 題
今日にいたるまでの社会移動研究のなかで,社会移動の国際比較研究の第1ステージは,1950 年代後半から1960年代前半の時期に求められるということにっいてはコンセンサスがえられるで
あろう。1950年代では国際社会学会(International Sociological Association)の国際共同研究事業である「社会階層と社会移動の国際比較研究計画」のもとに,世界各国で社会階層と社会 移動の調査が実施され,その成果が報告された。そして,それらのデータをもとにした社会移動 の国際比較研究がなされるようになったのである。この時期の代表的な比較研究としては,フラ
@ 1)
塔Xとアメリカを比較したロゴフの研究,世界六ケ国の社会移動の比較をしたリップセットー一ゼ Bターバーグの研発さらにより多くの国のデータを分析したミラーの麟などをあげることが
*茨城大学教育学部教育社会学研究室(Department of Sociology of Education,Ibaraki University)
できる。これらの研究に共通してみられる問題関心は,ある社会における社会移動の機会や量 が他の社会におけるそれと比較して高いか低いかというものであった。そして,そこにおいて強 調されたことは,移動の量が多いか少ないかといった発見的な関心であり,理論的な側面はあま り強調されなかった。したがって,それらの研究において共通に明らかにされたことは「社会移 動の量は,主として産業化した社会に多かれ少なかれ共通な構造変化によって決定されているた
4)゚,その種のあらゆる社会でほぼ同程度になると考えられる」といった非常に大まかな命題であ
った。
こうした命題はその後の研究によって批判されることになる茄この時騨社会移動研究の揺 藍期であったのを考えれば,そうした大まかな命題にしか到達できなかったのも無理のないこと であると考えられよう。この時期の国際比較研究の典型的な方法は,職業をノンマニュアル・マ ニュアル・農業に三分類し,父親と息子の職業を比較するものであり,もともとあまり情報が得
られる性格のものではなかったのである。その後,社会移動の国際比較研究のさらなる発展は社会移動研究における新たな方法論の開発
によってもたらさ鱒こととなった・すなわち・ブラウーダンカンが1967年lq甥・物・_加 z碑σ1ε枷伽7θを出版したのを契機として,比較研究のための定式化がなされたのであ£。
それ以前の研究にあっては調査に含まれる変数はきわめて恣意的なものであり,比較可能な変数 を捜すことがそもそも困難であるような状態で比較研究が行なわれていたが,ブラウーダンカン による基本的なパス・モデルの提言によって,比較研究のために必要とされる変数が明確化され
ることとなったのである。このことは,、4〃2θ7加π oo6πρ碗ゴ碑σ13 脇6勧76の後になされた社会移動の研究をみてみれば容易に理解されるであろう。そうした多くの研究は,ブラウーダンカ
ンの基本モデルをさらに拡大したモデルを採用しているのが普通なのである。ブラウーダンカン の著書の出版から今日までが,国際比較研究の第2のステージといえよう。
この時期における噸関心の転換は・状態評価的陥関心から状態翻的隔関心への移行と してとらえられているが,比較研究に内在する問題が解決されたわけではない。たしかに,社会 移動の研究が状態評価的問題関心から状態説明的問題関心へと移行するにつれて比較研究のため の定式化はなされたと判断されるが,このことが状態評価的研究を無意味なものとするわけでは ない。父親の職業と子どもの職業の関連は国によってどのように異なるのかといったことは,社 会移動の比較研究では依然としてもっとも基礎的な問題領域であることに変りはないのである。
周知のように,この分析のためには父職と子職のクロス表に対して,これまで開発された各種の 指数をあてはめて分析されるのが普通であるが,問題は職業分類なのである。通常,父職と子職 を問題とする場合には,専門・管理・事務・販売といったような職業大分類が使用されるが,同 じ国における社会移動の調査においても研究者によって職業の分類方法が異なることはよくある ことである。ましては,国が異なれば職業分類も大きく異なることは,ミラーの集めたデータを みるだけでも容易に想像されるであろう。職業のカテゴリー数が異なれば,その結果として各種 の指数の値は異なるし,また同じ職業が同じ職業大分類に含まれるとはかぎらないといったこと も,異なる社会を比較する場合にはよくみられることである。こうした職業分類は普通考えられ ているほど容易なものではなく,同じ調査票を使用して東京とシカゴの社会移動の比較分析を試
9)ンた研究においてすら,職業分類の困難さが報告されている。
職業分類の方法が異なり,同じ職業名が同じ大分類の下に分類されているとは限らないという
問題は,社会移動の比較研究の初期においても気づかれていたことと思われる。この問題を解決
するために「般的とられる方法は,職業分類をノンマニュアル・マニュアル・農業と三分類する ことである。この職業三分類であれば,職業の分類の誤りはなく,正確な比較ができるものと考 えられる。しかしながら,職業が三分類しかなされていないということによって分類の誤りは少
なくなる反面,それによって得られる情報量も少なくなるという欠点を同時に有するものなので ある。したがって,そうしたデータの分析から明らかにされる命題は,きわめて大ざっぱなもの にならざるをえないことは明らかである。こうした研究上の制約は,国際比較研究に必要とされ るデータを直接入手できなかったことにも求められるであろう。他の国のデータを入手するの が困難であるという問題は,現在も同じである。現在,社会移動の調査が世界各国でなされるよ
うになってきているにもかかわらず,社会移動の国際比較に関心をもつ研究者がそれらのデータ を入手できる可能性はきわめて低い。最近になって,世界各国の社会移動の調査を集めようとす る計画がSSRC(Social Science Research Coundl)によって進行中であるが,データが公
開されるまでには至っていない。研究者が比較研究に必要なデータを入手できないという研究上の障害に加えて,比較研究に必 要な共通に使用できる職業スコアが確立されていないという問題もある。この問題はトライマン
@ 10)
ェ標準スコア(Standard scale score)を提言したことによって解決されたかのように思われ たが,フェザーマンらがトライマンを批判することによって,現在ではトライマンの標準スコア の妥当性・信頼性が疑問視されるという状態にある。このことはもう少し詳しく説明されなけれ
ばならないであろう。前述したように,社会移動の研究において状態説明的問題関心が強調されると同時に,分析方 法においても多変量解析が動入されるようになった。多変量解析を使用するためには,なんらか の形で職業にスコアが与えられなければならないが,そうした職業スコアを求あることが社会移
動研究において重要な課題の一つであった。そうした職業スコアを職業小分類についてまでもと 11)
?轤黷驍謔、になったのは,わが国においてもごく最近のことである。社会移動の国際比較の場 合に問題になるのは,それぞれの国で求められた職業スコアが他の国のそれとどのような関連が あるのかということであった。もし,それぞれの職業スコアに高い相関がみられるのであれば,
共通な職業スコアを作ることは容易なことである。こうした問題関心に立ってトライマンは,入 手可能な世界数十ケ国におよぶ職業威信の調査結果を集め,相互に高い相関関係があるのを発見 し,標準スコアを作成することに成功した。そして比較研究のためには,この標準スコアを使
用することを提言しているのである。これに対してフェザーマンらは,職業威信スコアは何を測定しているのか明らかではなく,個
人の社会的地位の移動は社会経済的側面にそっておこるものであるとして,職業威信スコアを批 12)
サし,社会経済的指標(Socioeconomic i ndex)こそ,個人の社会的地位を反映するものである 13)
ニ主張した。そして実際に,アメリカのデータとオーストラリアのデータに対し,トライマンの 標準スコア,シーゲルの職業威信スコア,ダンカンのSEIスコアをそれぞれあてはめ,コンフ
アーマトリー・ファクター・アナリシスや重回帰分析などの統計技法をほどこし,SEIスコア
が職業威信スコアよりも個人の社会的地位の測定のためには適していることを証明したのである。社会移動の国際比較研究の領域において,このフェザーマンらのトライマンに対する批判のもつ 意味は重要である。もしフェザーマンらの主張することが正しいのであれば,われわれは次のよ
うなジレンマにおちいることとなる。すなわち,現在世界各国で社会的地位を測定するものとし
て使用されているのは職業威信スコアであり,それらの職業威信スコアをもとにして,トライマ
ンによって標準スコアが作られた。しかしながら,個人の社会的地位を反映するものは職業威信 スコアではなくSEIスコアなのである。ところが,このSEIスコアはアメリカにおいて,収 入と教育をもとにして作られたものであって,このSEIスコアがアメリカ以外の国にも適用可 能かどうかは明らかにされていないのである。つまり,われわれは再び,社会移動の国際比較研 究に必要とされる共通の職業スコアを失った状態にあるといえるのである。
イギリスのグラースらの社会移動の研究が発表されて以来,社会移動の研究は社会科学のなか 14)でも累積的社会科学(Cumulative social science)としてとらえられ,数多くの研究成果がア
メリカを中心として出されてはいるが,社会移動の国際比較の領域においては累積的な研究成果が
数多く出されるといった水準ではなく,やっと本格的な研究の入口に到達したというところであ
る。
本論は日本とアメリカの社会移動の比較研究を目的とするものであり,その意味では富永・直 15)井による東京・シカゴ調査研究の後に続くものであるが,次の二点で東京・シカゴ調査とは異な
る。第1の点は,東京・シカゴ調査は全国調査でないのに対し,本論で使用されるデータは日米 とも全国データである。第2点は,東京・シカゴ調査では専門・管理・事務・農業といった九力 テゴリーの職業大分類がとられているが,本論では職業カテゴリーを使用せずに,日米の職業に ダンカンのSEIスコアをあてはめ,それを五段階に区分した社会階層を使用する。
データと階層区分 データ
本論で分析に使用されるデータについて説明しておこう。日本のデータは1975年に実施された
f社会階層と社会移動」・(S㏄ial stratification and social rnobility)調査であり,アメリ力側のデータは1973年に実施されたOCG(Occupational cha㎎es in a generation)調査 16)である。ともに全国調査であり,その成果はすでに公刊されている。
SSM調査は,1975年に日本全国の20才から69才までの成人男子を対象としたもので,層化二 段抽出法によって,4001サンプルを対象とし,2,724の有効サンプルを得たものである。OCG 調査は1973年に全米の20才から65才までの成人男子を対象とし、CPS(Current population
survey)調査と並行して実施されたものであり,有効サンプル37,964を得たものである。OC G調査における1サンプルは,1,600人を代表するものである。この日米のデータは調査時期も,
調査対象者の年齢もきわめて類似したものであり,比較研究の目的に十分適していることは明ら かであろう。また,73年のOCG調査は62年のOCG調査の反復調査であること,日本の75年S
SM調査も62年のOCG調査の影響を受けていることを考えれば,比較研究に必要とされる変数
に恵まれていることも容易に理解されるであろう。階層区分
つぎに社会階層の区分について説明しておこう。このことは,なぜここでは職業大分類を使用 していないのかという問題とも関連を有している。社会移動研究の第一歩は,父親の職業と子ど もの現在の職業のクロス表を作成することであるということは,多くの研究者によって受入れら れているbそして,職業分類としては専門・管理・事務職といった職業大分類が使用されるのが 普通である。こうした職業大分類は異なる国においてもほぼ似たもののように考えられる。しか
」
しながら問題は,同じ職業大分類の下に異なる職業が含まれている場合があるということである。
たとえば,同じ専門職を構成するものが国によって異なるといったことがある。こうしたことが
ある場合に,いかなる指数をデータに適用してもその結果は正確なものとはなりえない。このような職業分類の問題は,異なる社会移動のデータを比較する場合に必ず発生してくる問題である。
SSM調査とOCG調査についてもその例外ではない。 SSM調査では伝統的に専門・管理・事 務・販売といった職業8分類が使用されている。これに対しOCG調査では,専門・管理・事務
・販売・熟練といったように職業17分類がとられているため,これらの職業の一部をまとあるこ とにより,OCG職業分類をSSM職業分類と同じにすることが容易に可能であるような印象を 受けるが,細部を検討してみると,安易にそうすることは危険であることが明らかとなった。た
とえば,小売店主はSSM調査では販売的職業に分類されているが,OCG調査では管理的職業 に分類されているといったように,分類に差異がみられ,しかもその差異は半熟練・非熟練にお
いて大きいことが明らかとなった。したがって,こうした理由から本研究においては職業大分類を保持するという伝統的な考えを すて,日本の職業小分類に対してもダンカンのSEIスコアを与え,それを五段階に分類すると
いう方法がとられた。1975年に作られた日本の職業威信スコアとダンカンのSEIスコアの相関 1の
ェかなり高い(.826)ことを考えれば,SSM職業威信スコアで日本の職業を区分してもよい
わけであるが,比較研究には共通の尺度をあてはめるべきであるという方法論上の理由によって,SEIスコアが日本の職業に対しても使用された。なお,日本の職業にSEIスコアをあ
てはめる際には,職業の性格を調べるために,Dictionary of㏄cupational titles(1965年
版)やIntemational standard classification of occupations(1969年版)を使用した。以上のような手続きによって求められた父親の社会階層,本人の現在の社会階層,本人初職時 の社会階層の関連からどのようなことが明らかにされるかをみてみよう。
移 動 量 の 比 較 世代間移動の比較
ある社会の開放性や閉鎖性を解明するたあに用いられる基本的な方法は,世代間移動と世代内 移動を分析することである。ここでも世代間移動と世代内移動を分析することによって,日本と アメリカの社会の流動性を明らかにしてみよう。本論では職業のかわりに所属階層が使用されて いるので,階層区分の方法と分析に使用される測定方法について明らかにしておこう。
ここでとられる階層区分は,日米のすべての職業にSEIスコアをあてはめ,それを五段階に 区分したものである。すなわち,階層1はSEIスコアが75ポイント以上の職業,階層皿55〜75 未満,階層皿35〜55未満,階層IV 15〜35未満,階層V15ポイント未満である。それぞれの階層の イメージを具体的なものとするために,各々の階層に含まれる典型的な職業を示しておこう。階 層1に含まれる典型的な職業は会計士(SEIスコア76B),弁護士(93.0)があり,主として 専門的職業および管理的職業がこの階層に含まれる。階層Hの典型的な職業は,検査官(667),
セールスマン(66.1)があり,主として下層ホワイトヵラーが含まれる。階層皿に含まれる典型 的な職業としては,集金人(4a3),制本工(39.0)などがあり,下層ホワイトカラーとブルー
カラーより構成される。階層IVに含まれる典型的な職業としては,製粉工(190)や自動車修理
工(1ao)があり,主としてブルーカラーで構成される。階層Vに含まれるものとしては,タク
シー運転手(1α0),ゴミ集収入(6.0)などがあり,主として下層ブルーカラーで構成される。
以下の分析において使用されるいくつかの指数は,これまでの移動表の分析において使用され 18)
すでに市民権を得ていると判断されるため,ここで説明する必要はないと思われるが,遠距離移 動と近距離移動の定義について説明しておこう。ここで近距離移動とは,初期の所属階層から隣
接する階層に移動したものをいい,遠距離移動とはそれ以上移動したものと定義する。すなわち,平均的にみてSEIスコアの差が40ポイント以上あるものが遠距離移動であり,反対に20ポイン
ト以内が近距離移動であると定義される。まず初めに父職の所属階層と本人の現在の所属階層についてみよう。表1は,日米のデータに もとづき,移動率・非移動率,上昇移動率などを示したものである。これらの数値からどのよう
なことが読みとれるであろうか。表1 移動量の比較(世代間移動)
非移動率
移動率
上昇移動率 下降移動率 強制移動率Y係数
75SSM.379 ..621 .444
177.278 .692
730CG .315
.685 .500 .185 .200 .839 移動率についてみよう。日本のデータでは移動率が・621であるのに対し,アメリカのデータ では移動率が.685と日本よりもやや高い値を示しているが,アメリカの移動率がだんぜん高い というほどの差はみられない。日米どちらも,対象者の65%前後が父親とは異なる階層に属し ていることが明らかにされる。かつて,アメリカは社会的流動性に富む国としてとらえられてい たが,移動量をみる限りでは,日本もアメリカもほぼ似たものであるということが明らかにされ る。1から移動率を引いた値が非移動率であるが,今度は移動率の場合とは逆に,非移動率は日 本の方がやや高くなる。しかしながら,これも日米間で大きな差がみられるというほどのもので はない。
移動を経験した約65%の人々は,どの方向に移動しているのであろうか。すなわち,上昇移動 であろうか下降移動であろうか。このことを明らかにするために,上昇移動率と下降移動率をそ れそれ求めてみた。その結果によれば,日米どちらの社会においても下降移動率よりも上昇移動
率がはるかに高いのには変りはない。移動者の多くは上昇移動を経験しているのである。しかも,この移動量を日米間で比較してみると,上昇移動率,下降移動率とも日米間できわめて類似して いることが明らかにされる。上昇移動率はアメリカと日本では,それぞれ・500と・444であり,
対象者の45%前後が上昇移動を経験していることが明らかとなる。反対に,下降移動率はどちら
の社会でも約18%程度である。これまで述べてきたことを要約しておこう。日本とアメリカの世代間社会移動を比較した場合,
どちらの社会においても類似した社会移動の量を認めることができ,かつ移動の方向は下降移動 よりも上昇移動のほうが多く,その量も日本とアメリカではほぼ似たものであることが明らかに
された。
二つの社会にみられる社会移動の原因に差がみられるであろうか。社会移動の原因としては出
生率の差や産業構造の変動によるものと,社会の開放性によるものが考えられる。前者による社
会移動は強制移動,後者による社会移動は純粋移動としてとらえられている。社会移動の研究で
は,どちらの原因による移動がより重要であるということはないが,どちらの移動がより多いかということは,その社会の特徴を示す指標となりうる。すなわち,純粋移動が多い社会は社会の開放 性が大きい社会といえ,出身背景に関係なく,個人の才能と努力によって上昇移動をすることが 可能な社会と考えられる。これに対して強制移動の多い社会は,ある特定の職業分野の拡大など がみられる社会であるから,個人の上昇移動は個人の努力や才能以外の要因によって決定される
ことが多い社会といえる。
日本とアメリカの社会移動の原因にはどのような差がみられるであろうか。このことを明らか
19)ノするために,強制移動とY係数をそれぞれ求めてみた。その結果,強制移動率は日本では・278,
アメリカでは。200であることが明らかにされた。日本の強制移動率のほうがやや高いが,大きな
20)キがみられるというほどではない。すなわち,日本の社会も戦後の高度成長にともなう産業構造
の変化も一段落し,よりアメリカの社会に近づきつつあると判断されるであろう。これに対して,Y係数を比較してみた場合どのような差がみられるであろうか。周知のように,Y係数はその値 が1に近づくにつれて平等移動の状態にあることを示し,反対に完全な封鎖状態ではゼロの値を とるように作られている。このことを念頭におき,日米のY係数を比較してみよう。その結果,
明らかにされることは,アメリカのY係数のほうが日本のY係数よりもはるかに高いということ である。言いかえれば,アメリカの社会は日本の社会よりも開放性に富む社会であるといえる。
さきに,移動量自体を比較した場合には日米でそれほど差はみられず,むしろ類似した量の社
会移動がみられることが明らかにされたが,移動の原因にまでさかのぼってみると,そこでは日米の差が明らかとなる。日本の社会における移動はアメリカのそれと比較して,それほど大きな差
、 ではないが,依然として強制移動率がアメリカよりも高く,Y係数はアメリカのそれよりも低い ということで特徴づけられる。社会の開放性の大きさという点についてみれば,アメリカは依然 として開かれた社会であり,その意味では「アメリカン・ドリーム」が依然として存在する基盤 21)
ェあるといえよう。
表2 移動距離の比較(世代間移動)
上 昇 移 動 下 降 移 動
近 距 離遠 距 離 近 距 離 遠 距 離
75SSM
730CG75SSM 730CG 75SSM 730CG 75SSM
730CG.248 .267 .196
.233
.104.119
.073.066
つぎに,移動した人々の距離についてみてみよう。表2は,移動した人々がどちらの方向にど のくらいの距離を移動したかを示したものである。一見して明らかなように,上昇移動あるいは 下降移動した場合でも,遠距離移動よりは近距離移動が多いということである。このことは,遠 距離移動よりも近距離移動のほうがしやすいということを考えれば当然のことではあるが,注目 すべき点は,近距離上昇移動と遠距離上昇移動の比率が日米でほぼ等しいということである。す
なわち,上昇移動を経験した人のなかで,近距離上昇移動者の数は遠距離上昇移動者の数よりも やや多いが,それほど大きな差ではなく,調査対象者の約%が近距離上昇移動を経験し,約%が
遠距離上昇移動を経験しているのである。また,遠距離上昇移動者の比率を日米で比較してみると,アメリカの方がやや高いが,それほど大きな差ではない。
以上のように,移動率・非移動率,上昇移動率・下降移動率を比較することによっても社会移 動の実態はある程度解明できるが,それのみではどの階層の移動が高いのか,あるいは低いのか
o
を明らかにすることはできない。個別
表3 入移動率・出移動率の比較(世代間移動)
階層の流動性を明らかにするためにと
入 移 動 率
出 移 動 率 られる簡単な方法は 入移動率・出移75SSM
730CG75SSM
730CG,
ョ率を求めることである。表3は個別 階層1
K層H
・811
D662
・821
D825
726 D645
.649 階層の入移動率および出移動率を計算
階層皿815
793 .591D696
742したものである。この表より,次のよ 階層IV .731 622
.542 .595
うなことが明らかにされる。 階層V.190
.401.639 .744
(1)日本のデータで入移動率の高い階層は, 階層1・∬・IVである。これに対してアメリカのデ 一タで入移動率の高い階層は,階層1・皿。皿である。
(2)出移動率の高い階層は,日本のデータでは階層1のみであるが,アメリカのデータでは階層
皿と階層Vである。
(3)入移動率で日米間に差のみられる階層は,階層皿・IVおよびVである。階層Hの入移動率は 日本のデータでは・662であるのに対し,アメリカのデータでは.825で,約.16の差がみられ る。階層IVの入移動率は日本では・731で,アメリカの・622より約・1程度高い。階層Vの入 移動率は日本では・190であるのに対し,アメリカでは・401と大きな差がみられる。階層Vへ の入移動率がアメリカでは日本よりも高いという傾向は注目される。
(4}出移動率で日米間に差のみられる階層は,階層1・皿そして階層Vである。階層1の出移動 率は日本のデータでは・726であるのに対し,アメリカのデータでは・649となっており,アメ
リカの社会における上層社会の固定化傾向は日本よりも強いといえる。階層皿の出移動率は,今 度は反対にアメリカが日本よりも約15%程度高く,それぞれ.742と・591となっている。階層V
の場合も同様な傾向が読みとれ,日本とアメリカの出移動率はそれぞれ・639と・744となっている。㈲入移動率・出移動率をそれぞれ個別階層別に比較した場合,日米でどのような差がみられる であろうか。日本では階層1が高流入・高流出を示しているのに対し,アメリカで高流入・高流 出を示す階層は階層Hと階層皿である。
(6)階層Vについてみても日米間で顕著な差がみられる。階層Vは,日本では中程度の流出率を 示し,流動率は低いのに対し,アメリカでは,階層Vは高流出率を示し,かつ中程度の入移動率 を示している。したがって,日本では低階層から流出する人々が多く,そこに流入してくる人は あまりないのに対し,アメリカでは低階層から流出する人々が多い反面,そこに流入してくる人 も多いということである・こうした差がみられる一つの原因は,SEIスコアでは農業は階層Vに 含まれており,日本での農業人口の急激な低下によるものと考えられよう。
表4 強制移動係数(個別階層) 表5 亥係数(個別階層)
(世代間移動) (世代間移動)
75SSM
730CG75SSM
730CG階層 1 一.
R08
一.S90
階層 1783 ・743 階層 且
一・O50
『・S23 階層 皿 779 844
階層皿
一・ T48
一.P97
階層皿743 .931
階層IV 一 411 一・O68
階層IV806 .909
階層V 554
.572 階層 V ・382・616
こうした流入・流出の分析のみでは, その原因が個別階層それ自体の変動によるものなのか,
.
それとも階層の開放性によるものなのかを明らかにすることはできない。したがって,ここでも 各々の個別階層について,強制移動係数および〃係数を求めてみよう。
まず強制移動係数についてみよう。個別階層に対する強制移動係数は,拡大階層についてはマ イナスの符号,縮小階層についてはプラスの符号をとり,それぞれ強制入移動率と強制出移動率とよばれる。
(1ト見して明らかなように,日本でもアメリカでも階層Vは縮小階層であり,それ以外の階層
は拡大階層である。②階層V以外はすべて拡大階層であるが,強制移動係数をみると日米間で大きな差がみられる。
すなわち,階層1の強制移動係数は日本では一308であるのに対し,アメリカでは一.490とな
っている。階層皿の強制移動係数も,日本では一.05であるのに対し,アメリカでは一・423と,大きな差がみられる。
(3)階層皿とIVは階層1・Hの場合とは逆に,強制移動係数がアメリカよりも日本において高く なっている。階層皿の強制移動係数は日本では一.548であるのに対し,アメリカでは一.197と なっている。同様に階層IVの強制移動係数も日本では一・411であるものが,アメリカでは一〇68
となっており,大きな差がみられる。つぎに,個別階層に対する〃係数についてみよう。,係数もY係数と同様に,平等移動の状態 において最大値1となる。〃係数について日米で,以下めような差がみられる。
(1)日本のデータで3係数の値が相対的に大きいのは,階層IV(・806),階層1(・783),階層
H(.779)であり,反対に低いのは階層Vである。これに対して,アメリカのデータで相対的に
y係数の値が大きいものは,階層皿(.931),階層IV(.909),階層皿(・841)であり,低いのはやはり階層Vである。
(2汐係数の値を日米で比較してみると,アメリカの方が相対的に大きな値を示すことが明らか になるが,階層1以外の階層については日本とアメリカで大きな差がみられる。階層皿の〃係数 は,日本では・779であるものがアメリカでは.844となっており,階層皿の〃係数は日本では
・743であるものがアメリカでは.931と大きな差がみられる。階層IVについても日米で・1の 差がみられる。〃係数の値の差が日米間で一番大きいのは階層Vであり,日本では・382である のに対し,アメリカでは・616となっている。
さて,これまでみてきたような入移動率・出移動率,強制移動率,〃係数から日米のそれぞれ の社会階層の特徴はどのようにとらえられるであろうか。以下では,それぞれの階層の特徴を要
約してみよう。(1)階層1は日本では高流入・高流出のみられる階層としてとらえられ,それほど拡大している
わけではないが,階層の開放性は相対的に大きい社会階層であると,とらえられる。これに対し
てアメリカの社会階層1は,高流入・中程度の流出がある階層としてとらえられ,階層の開放性は相対的に低いが,依然として拡大しつっある階層であるとして特色づけられる。
(2)階層Hは日本では中程度の流入と流出が存在している階層であるが,あまりこの階層の拡大
はみられない。しかしながら,開放性は相対的に大きい階層としてとらえられる。アメリカにお ける社会階層nは,これに対して,高流入・高流出のある階層としてとらえられ,依然として拡 大傾向にあり,なおかつ相対的に開放性の高い階層として特色づけられる。
(3)日本では階層皿は,高流入・中程度の流出のある階層であり,相対的に大きく拡大しつっあ
る階層である。開放性は相対的に低い階層として特色づけられる。これに対して,アメリカの階
層皿の流入率・流出率は高いが,あまり大きく拡大しつっある階層ではない。しかしながら,開
放性の程度は高く,ほぼ平等移動に近い状態にあるといってよい。
(4旧本の階層IVは,高流入・中程度の流出がみられる階層であり,依然として拡大傾向にあり,
かつ開放性も大きい階層といえる。アメリカの階層IVは,中程度の流入・流出を示し,ほとんど
拡大してはいないが,開放性は非常に高い階層として特色づけられる。(5)階層Vは,日本では低い流入率と中程度の流出率を示し,縮小しつつある階層であり,かつ
開放性も低いといったことで特色づけられる階層である。これに対し,アメリカの階層Vは,中 程度の流入と高い流出を示す階層であり,日本と同様に縮小しつつある階層であることにかわ
りはないが,開放性が相対的に低い階層として特色づけられる。開放性が相対的に低いとはいっ
ても,日本の場合よりははるかに高いことは注目されてよい。世代内移動の比較
世代間移動とならんで重要な概念は世代内移動である。以下では,世代内移動について日本と アメリカではどのような差異がみられるのかをみてみよう。使用される指数は世代間移動の場合
と同じであるから,結果のみについてみてゆこう。表6 移動量の比較(世代内移動)
非移動率 移動率
上昇移動率 下降移動率強制移動率
Y係数 75SSM.612
.388.266 ,122 .123 .417
730CG
.459
・541 .379 .162 .109 .654表6は,世代内移動表をもとにして得られた,移動率・非移動率,上昇・下降移動率,強制移 動率,Y係数を示したものである。まず移動率についてみると,日本のデータでは39%が移動し ているのに対し,アメリカでは54%が移動していることが明らかにされる。すなわち,アメリカ では半数以上の人々が初職時の所属階層から移動しているのに対し,日本では移動しているのは 40%程度である。非移動率は,当然,日本において高く,アメリカにおいて低くなっている。日
本の非移動率は61%であるのに対し,アメリカの非移動率は46%である。世代間移動の分析では,アメリカの移動率が日本の移動率よりもやや高いものの,日米間でそれほど大きな差がみられな いことが明らかにされたが,世代内移動に関しては,アメリカの方が日本よりもはるかに流動性 に富むことが明らかにされる。このことは,転職がアメリカの社会においては日本の社会よりも 頻繁であることを考えれば容易に想像されよう。
では,移動者はどちらの方向に移動しているのであろうか。日本のデータでは,調査対象者の 27%が上昇移動し,下降移動者は12%であることを示している。アメリカのデごタでは,調査対 象者の38%が上昇移動をし,16%が下降移動をしていることが明らかにされる。したがって,世 代内移動の場合も世代間移動の場合と同様に,移動者の大多数は上昇移動をしているのである。
移動はなにによってもたらされているのであろうか。ここでも強制移動率とY係数をみてみよ う。強制移動率を比較してみると,日本では・123,アメリカでは・109と,強制移動率は低く,
かつ日本とアメリカで差のないことが明らかにされる。すなわち,世代内移動を考える場合には,
強制移動率に注目する必要はほとんどないといえる。では,Y係数については日米でどのような 差がみられるであろうか。日本のデータのY係数は・417であるのに対し,アメリカのデータの
Y係数は・654であり,日本よりもアメリカの方がはるかに開かれた社会であることが明らかに
される。しかしながら,世代内移動の場合のY係数は世代間移動の場合のY係数よりも低く,世 代内移動はどちらの社会においても,世代間移動より困難であることも明らかにされる。
表7 移動距離の比較(世代内移動)
上 昇 移 動 下 降 移 動
近 距 離 遠 距 離
近 距 離 遠 距 離
75SSM
730CG75SSM
730CG75SSM 730CG 75SSM 730CG
.171 .240
.095
.139 .090.125 .032
.035さらに,移動した人々の距離も考えてみよう。ここでも移動者を近距離移動・遠距離移動にわ けて考えてみよう。その結果,どちらのデータでも遠距離移動者より近距離移動者の方が多いこ とが明らかにされる。また,このことは移動の方向に関係がないことも明らかにされる。全体的 にみれば日米のパターンはよく似ているといえるが,それでも近距離上昇移動者および遠距離上 昇移動者の割合は,アメリカのデータの方がやや高いという傾向がみられる。アメリカの社会は 流動性に富む社会といわれているが,移動距離までを考慮に入れると,移動はあくまでも近距離 移動の場合が大部分であって,遠距離移動の場合は少ないということが,ここでも再度明らかに
される。
表8 入移動率・出移動率の比較(世代内移動)
個別階層について,入移動率・出移
動率をみてみよう。どのような傾向が 入移動率 出移動率
表8より読みとることができるであろ 75SSM 730CG 75SSM 730CG
うか。 階層1
.506,526 .248
.297(1)どの階層の入移動率・出移動率を
階層H .689 .647
.293 ・428みた場合でも 世代間移動の場合の入
階層皿.307 .623 .493
.625 ,レ動率・出移動率の場合よりは高くな
階層IV.335
.477 .339.479 い。このことは,世代内移動率が世代 階層V
・261 .467.389 .691 間移動率よりも低いということからも予想できる。
②日本の入移動率で相対的に高い値を示している階層は,階層皿である。これに対してアメリ カの場合,入移動率が相対的に高い階層は,階層IIと階層皿である。農業を含む階層Vの入移動 率は,日本でもアメリカでも低いが,日本では・261と極端に低くなっている。
(3)出移動率について,日本とアメリカを比較してみると,日本のすべての階層において出移動
率は相対的に低いということがわかる。そのなかでも出移動率が相対的に低いのは階層1および 階層1である。すなわち,初職の段階で上層に属する場合には,その階層に所属し続け,下降移 動することが少ないという傾向が日本ではみられる。この傾向はアメリカでもみられるが,日本
ほど顕著ではなく階層豆の出移動は・428となっている。
(4>階層皿・IV・Vの出移動率を比較してみると,日本よりもアメリカにおいて出移動率が高い
という傾向がみられる。そのなかでも階層Vの出移動率は,日本とアメリカでは大きな差がみら れる。階層Vの出移動率は日本では・389であるのに対し,アメリカでは・691となっている。
すなわち,アメリカでは初職時において低い階層に所属していたとしても,その後,約70%の人
が上昇移動するのに対し,日本では約40%の人しか上昇移動をしない。したがって,日本の場合,本人の現在の地位を決定する要因として本人の初職が大きな影響力をもっていることが明らかに
される。
表9 強制移動係数(個別階層) 表10 〃係数(個別階層)
(世代内移動) (世代内移動)
75SSM
730CG75SSM
730CG階層 1
一・R43 一. R26
階層 1267 .340
階層皿
一・T60
一.R82 階層 皿 355 ・519
階層1皿
268 006
階層皿.429 .779
階層IV
.004 004
階層IV.501 .737
階層V .172
.420
階層 V.354 .624
つぎに,個別階層別の強制移動係数についてみよう。
そこからどのような所見がえられるであ ろうか。
(1)世代間移動表をもとにしてもとめた個別階層の強制移動係数の場合とは異なり,世代内移動
表よりもとめられた強制移動係数で,拡大を示す階層は階層1と階層Hであり,その他の階層は 縮小階層である。このことは,日本でもアメリカでも変りはない。
②日本で相対的に大きく拡大しつつある階層は階層Hであり,反対に大きく縮小しつつある階 層は,階層皿である。階層Vは世代間移動の場合に,もっとも縮小を示す階層であったが,世代 内移動の場合にはそうではない。一方,アメリカのデータでは階層1と階層Hは同じ程度の拡大 を示している。階層皿とIVは,ごくわずかであるが縮小傾向を示している。アメリカでは階層V が,世代内移動の場合でも世代間移動の場合と同様に,大きく縮小傾向を示す階層である。階層 Vは,日本でもアメリカでもともに縮小を示す階層ではあるが,縮小傾向はアメリカの方が日本
よりも強いということは興味のあることである。〃係数についてはどのようなことがいえるであろうか。ここでも,世代間移動の場合の〃係数 よりは低いという傾向がみられる。日本のデータで相対的に高い開放性を示す階層は階層IVで,
その他の階層の開放性は低い。アメリカのデータで相対的に高い開放性を示す階層は階層皿と階 層IVであるが,その他の階層の開放性は低い。日本とアメリカに共通することであるが,階層1 の〃係数の値はどちらにおいても低く,ともに閉鎖的であることがわかる。
ここで,世代内移動表を分析して得られた流入・流出率,強制移動率,〃係数をもとにして,
それぞれの階層の特色を明らかにしておこう。
(1)階層1は,日本でもアメリカでも高流入・低流出のある階層で,どちらにおいても拡大階層
である。しかしながら,この階層の開放性は,どちらの社会においても低い。したがって,この 階層への移動の原因はこの階層の拡大によるものである。
②日本の階層皿は,高流入・低流出がみられる階層であり,まだ拡大を示す階層である。開放 性は相対的に低い。アメリカの階層Hは,高流入・中程度の流出のある階層であり,拡大階層で
ある。開放性は日本の階層1よりも高いが,アメリカの他の階層と比較した場合には相対的に低
い。
(3旧本の階層皿は,低流入・低流出のある階層として特色づけられ,縮小階層であり,開放性 は相対的に低い。強制移動係数はアメリカの同じ階層よりもはるかに大きい。これに対してアメ
リカの階層皿は,高流入・高流出のある階層であり,わずかながら縮小傾向を示しているが,そ
の傾向は無視してもよいほどである。開放性は相対的に高く,移動は階層の開放性によっておこ
る。
(4}階層IVは日本では,低流入・低流出がみられる階層であり,ほとんど拡大も縮小もしていな
いといえる。開放性は日本では相対的に高い階層であるが,アメリカと比較すると低い。アメリ カの階層IVは,中程度の流入・流出を示す階層であり,階層は拡大も縮小もしていないが,開放
性は相対的に高い。(5旧本の階層Vは,低流入・低流出のある階層であり,縮小傾向にあり,かつ開放性は相対的 に低い。これに対して,アメリカの階層Vは中程度の流入・流出がみられる階層であり,かつか なりの程度の縮小傾向をしめしている。開放性は相対的に高く,日本の同じ階層よりははるかに
高い開放性を示している。移動過程の比較
基本モデル
前節では,世代間移動表および世代内移動表をもとにして比較分析をすすめてきた。本節では,
移動過程の分析に焦点をあててみよう。ここで使用されるのは,ブラウーダンカンの基本モデル
@ 吻
ナある。周知のようにブラウーダンカンの基本モデルは,父親の職業,父親の学歴,本大の学歴,
本人の初職,そして本人の職業の5変数より成立している。これらの5変数がSSMとOCG調 査でどのように測定されているのかについて説明しておこう。
父親の職業………父親の職業は,出身家庭の経済的地位を示す代表的な指標であって,この変 数の地位達成に与える影響が大きい社会は,前近代的な社会であると考えられる。日本のSSM 調査では,本人が15才頃,本人初職時の父職,父主職の3つがとられているが,ここでは父職と
して父職の主なる職業をとってある。これに対してOCG調査では本人が16才頃の父職がとら れている。日本のデータでは父親の主要な職業が,アメリカのデータでは本人が16才頃の父職 がとられているため,比較に問題があるように考えられるかもしれないが,日本のデータでは異 なる3つの父職の相関は高く,どの父職を使用しても実質的に変りないことが明らかにされてい る。したがって,時点は異なってはいても父職の比較は可能である。日本のデータでもアメリカ のデータでも職業名が小分類でとられているため,それらの職業に対してSEIスコアを与えた。
したがって,以下の分析では威信スコアは使用されていない。
父親の学歴………父親の職業が出身家庭の経済的地位を示す指標であるのに対し,父親の学歴 は出身家庭の文化水準を示す指標であると考えられる。学歴と職業は概して高い相関関係を示す のが普通である。父親の学歴に対して教育年数があてはめられている。
本人の学歴………これも父親の学歴と同様に教育年数をあてはめて分析がなされている。本人 の学歴は父職や父学歴の影響を受ける一方では,本人の初職や現職に対して大きな規定力をもつ
ことが明らかにされている。
初職………父職と同様に,SEIスコアがあてはめられる。前節の世代内移動の分析からも明 らかなように,初職がどのようなものであるかによって,その後の職業的地位が決定されるとい
う意味で重要である。現職………父職,本人の初職と同様にSEIスコアが使用される。ブラウーダンカンの基本モ
デルでは本人の現在の職業が被説明変数となっている。相関係数と偏回帰係数の比較
ブラゥーダンカンの基本モデルをさらに,家族人数,収入などの新しい変数を組入れることに よって拡大することは可能であるが,当面の比較研究のためには基本モデルで充分であろう。ま ず,5変数間の相関係数の比較を行なうことが,移動過程の比較分析のための第一歩であろう。
表11 5変数間の相関係数
父学歴
父 職 学 歴 初 職 現 職 平 均 標準偏差父学歴
、417.504
.299260 8.19
a23父 職 .542 .440 .390 。368 3α11
23β0
学 歴 .481 .414 .520
452
11.10 279初 職 .341 ,409
.620
.637 31.6120.36
現 職
.284
.346 .570 .626 36.3323.04
平 均
9.08
29.95 11.8032.00
39.73 標準偏差4.03 2294 3.25 24.23 25.02
対角線右上(1975SSM)
対角線左下(19730CG)
表11は5変数間の相関係数,それぞれの変数の平均,標準偏差を日本とアメリカについて表わ したものであるが,これからどのようなことを読みとることができるであろうか。それぞれの変 数の平均と標準偏差については,日米間で差がみられないため,以下では相関係数について比較
してみよう。
(1}日本のデータでもアメリカのデータでもすべての変数の組合せのなかで最も高い相関関係を
示しているのは現職と初職であり,日本とアメリカではそれぞれ・637,.626となっている。
②初職と現職についで相関関係の高い組合せは,初職学歴との組合せであり,日本とアメリカ ではそれぞれ・520と.620となっている。日本でもアメリカでも相関関係の高い組合せは,現 職と初職,そして初職と学歴である。この初職と学歴の相関係数も,日本よりもアメリカの方が
23)b「という発見は,シカゴと東京を比較した富永と直井の結論とは異なる。富永と直井は,すべて
の変数の組合せのなかで一番高い相関関係をしめすものは,東京では初職と現職であるのに対し,シカゴでは本人の学歴と現職であることを報告しているが,ここでのわれわれの発見ではアメリ カにおいても日本においても最も高い相関関係を示すものは,初職と現職との組合せであること
が明らかにされた。(3)しかしながら,学歴と現職との相関には日本とアメリカでやや差がみられる。すなわち,学
歴と現職との相関係数は日本では・452であるのに対し,アメリカでは・570とやや高く なって いる。アメリカのデータでは学歴と初職,学歴と現職との相関係数はいずれも日本よりも高く,
その意味では日本よりもアメリカの方が学歴社会であるといえる。
(4}父学歴と父職の相関係数は日本とアメリカでそれぞれ.417と.542であり,差がみられる。
これは,本人の学歴と初職および現職との相関が日本よりもアメリカにおいて高いということを
考えれば,容易に理解されることである。こうした相関係数の分析では,説明変数の被説明変数に対する直接効果と間接効果を分離でき
ない。そうした目的にかなう分析方法はパス解析である。以下ではパス解析の結果についてみて
みよう。
まず職業達成の流れについ 表12偏回帰係数・パス係数(1975SSM)
てみると,日本では学歴→初 独 立 変 数
重決定職→現職といった流れが明瞭
従属変数父学歴
父 職 学 歴 初 職a
係 数に認められる。これに対して
.326.032
アメリカでは,一応日本と同 学 歴 (.378) (.291)
7434 .316
じような流れはみられるが,〔・016〕
〔.002〕大きな差異は,学歴が現職に
.012*.160 3,421
対しても大きな直接効果を与
初 職 (・001) (.186) (.451)一10.861 .314
えていることである。日本の 〔.139〕
〔.017〕 〔.165〕場合には学歴は初職に対して 一〇84
.1151D12 .609
大きな直接効果を与えているの 現 職(一〇11)
k−142〕
(.119)
k.018〕
.118)
k.184〕
(・540)
k.022〕
2991
.445 みで,学歴の現職に対する直接上段:偏回帰係数 *は統計的に有意でないもの効果はきわめて小さくなって
中段:パス係数 しまう。アメリカの場合には・ 下段:標準誤差
学歴の初職に対する直接効果
は大きく,しかも現職に対す
表13 偏回帰係数・パス係数(19730CG)る効果をみても,それほど低 独 立 変 数
重決定 くはなっていないのである。 従属変数父学歴 父 職 学 歴 初 職 係 数
学歴に対する父学歴,父職 .272 .031
のパス係数を比較してみても, 学 歴
(・343)
(.232)8,616 .255
それほど差は認められない。 〔・006〕 〔・001〕このことは日本についても,
一148 .199 4,533
アメリカについてもあてはま 初 職 (一・023)(・183)
(・567)
一25.732.424
る。また,学歴を目的変数に 〔.044〕 〔.007〕 〔・052〕した場合の重決定係数は日本
一188 .093
2,496.422
で・316,アメリカで・255
現 職(一〇29)
(・084)(.305
)(・412)一4,444 .460 であり,それぞれ学歴の分散
〔.044〕 〔.007〕 〔.062〕 〔.007〕の31%,25%が説明されるに 上段:偏回帰係数
中段:パス係数すぎない。したがって,現代
下段:標準誤差
の日本とアメリカの社会にお
いては,教育の機会は同じ程度に開かれており,ひとたび高い学歴を獲得すれば,それがよりS EIスコアの高い職業に結びついているといえる。
父学歴,父職,学歴を説明変数にし,初職を目的変数にした場合の重決定係数は日本のデータ では・314であるが,アメリカのデータでは・424であり,分散の説明力に10%程度の差がみら
れる。しかしながら,初職をも説明変数に加え,現職を目的変数にした場合の重決定係数は・日本のデータでは・445,アメリカのデータでは・460となっており差は認められない。ブラウーダ
ンカンの基本モデルでは,日本でもアメリカでも,父学歴,父職,学歴,初職の4変数によって現
職の45%が説明されている。ついで,それぞれの偏回帰係数およびパス係数について,日米間でどのような差がみられるの
かを明らかにしよう。(1)まず目につく顕著なちがいは,父学歴の初職に対する効果である。日本のデータでは統計的 に有意ではないが,父学歴が初職に与える効果はプラスであるのに対し,アメリカのデータでは,
父学歴の初職に与える効果はマイナスとなっている。すなわち,日本では父親の学歴が高いとい うことが本人の初職に対して,ごくわずかではあるが,有利に作用しているのに対して,アメリ カでは父親の学歴が高いということが本人の初職に対して不利に作用しているのである。おそら く,この差は日本とアメリカの間でみられる父親の教育年数の差によるものと考えられよう。日 本では父親の教育年数は相対的に低いのに対し,アメリカにおいては父親の教育年数は相対的に 高く,教育年数の上限に近づきつつあるためと考えられよう。同様に,父学歴の現職に対する効
果は,日米ともにマイナスであるが,日本よりもアメリカにおいてそのマイナスの効果は大きい。②学歴の初職に対する効果についてみると,日本よりもアメリカにおいて高いことが明らかに される。同様のことは,学歴の現職に対する効果についてもいえる。すなわち,教育の経済効果
は日本よりもアメリカにおいて大きいといえる。(3)初職の現職に対する効果についてみると,今度はアメリカよりも日本のデータにおいて大き
いことが明らかにされる。このことは,日本における年功序列主義および転職の少なさを考えれ
ば明らかであろう。これまでみてきたように,ブラウーダンカンの基本モデルを使用した分析結果によれば,個々 の偏回帰係数やパス係数については日本とアメリカで差のみられるものもあるが,移動過程自体 は,アメリカにおいて教育が初職のみならず現職に対しても大きな効果を与えているという点を のぞけば,日本でもアメリカでもきわめて似ていることが明らかとなる。
要 約 と 結 論
現在では社会移動の研究は世界の多くの国で研究されている領域であるにもかかわらず,社会 移動の国際比較研究の領域においては,まだ画期的な研究が続出するといった段階に至ってはい ない。その理由の一つは,これまで社会移動の国際比較研究に必要とされるデータが研究者の手 に入らなかったことがあげられる。本論では1975年のSSM調査と1973年のOCG調査の分析を 通じて,日本とアメリカの社会移動の比較分析を行なった。この分析を通じて明らかにされたこ
とを要約してみよう。