保健室でとらえにくい生徒の健康問題の把握と対応についての研究
中村朋子・松本まどか
壌.はじめに
養護教諭が生徒のかかえている健康問題を把握する機会は,本人または,学級担任や,友人等が保健室に 来室し,心身の健康問題を訴えてきた場合が多い。あるいは,毎Bの健康観察結果,健康診断・健康調査表等 の資料の利用により明らかにすることができる1)。
しかし,健康問題を持っていても,何等かの理由により,保健室を訪れない生徒については,健康問題の 把握が困難なことが多い。また,医療機関を受診し,治療を受けていても,本人や保護者から学校に連絡が なかったり,本人が自分の健康問題に気づいていない場合も,学校では健康問題の把握が困難である。つま り,心身に健康問題を持つ生徒がいても,それが,養護教諭まで届かないことも少なくないと思われる。
学校で健康管理をしていくうえで,生徒が持っている健康問題のうち,とくに,学校で,急変が予想され る場合や学校生活をする上で,何等かの配慮を必要とする場合,養護教諭だけでなく,学級担任をはじめと する一般教職員等もこれらの健康問題を把握していることが必要であろう。
今回の調査では,このように養護教諭に届きにくい健康問題にはどのようなものがあるか明らかにしょう とした。生徒はどのような要因によって保健室に来ないのか(来にくいのか),養護教諭に話に来ないのか
(話しにくいのか,話したくないことも含めて)の実態調査した。それらの要因を知ることによって,生徒 の抱えている健康間題が保健室に届きやすくするには,養護教諭として生徒との対応のしかた,保健室のあ
り方,学級担任等の連携についてどのようにすればよいか検討した。
2.調査方法,調査対象,調査期間
5府県の中学校,高答学校の養護教諭各!00名に質問紙を郵送した。回収は中学校38名,高等学校43名で,
回収率は27%だった。調査期間は昭和62年9〜ユ0月。
3.調査結果と考察 1)保健室でとらえにくい健康問題の内容について
健康問題を持ちながら本人が保健室を訪れない生徒に対して,養護教諭が多様な情報のもとに後になって 把握できた健康問題にはどのようなものがあるのかを調査した。結果を表1にまとめた。
「登校拒否(長期欠席者も含む)」が高率になっており,全体で72.7%をしめている。文部省の調査でも 登校拒否の急増が指摘されている通りである。休みはじめたことを学級担任は知っていても養護教諭までは 連絡が来ないことが多いと思われる。次いで「悩み等による身体症状」37.7%だった。頭痛,腹痛,気分不 良等の症状を訴えて保康室へ来室する児童・生徒が増えており,その原因,要因,背景は様々であるが,精 神的,心理的なものが多いといわれている。今回の調査では,保健室へ来ない生徒の中に様々な症状をもち,
その背景や要因は交友関係によるもの(778%),家庭環境によるもの(74.1%),親子関係によるもの,
部活動によるもの各(40.7%),進 表1 保健室で把握しにくい健康問題 路・受験によるもの(33.3%),疾
病への逃避によるもの(222%)そ の他担任との関係,成績等の回答が あった。
中,高校生であれば,程度の差は あれ,上記の様なことで悩むのはよ くあることだが,身体症状が発現し,
程度がひどくなり,本人は保健室に 来られず,担任,友人等が保健室へ 相談に来るのは問題であろう。学校 や家庭でもっと早く解決する方法,
機会を考える必要があると思われる。
2)保健室で健康問題をとらえられ ない要因について
表1に示したような健康問題につ
( )内は% いて保健室で養護教諭がとらえられ ない要因を表2に示した。生徒が訴
えて来ない場合,一般教師の理解不 表2 健康問題をとらえきれない要因について 足,養護教諭の力量不足や日常執務
の忙しさ等があげられよう。それら の実態とそれらを改善・解決してい くために,どのような配慮,工夫を しているのか考察した。
生徒側の要因,養護教諭側の要因,
一般教師側の要因が8割をこえてい ( )内は%
る。とくに主な要因1つを回答して
もらったものでは,中学校では養護教諭側の要因26.3%,保健室の要因18.4%,高等学校では生徒側の要因 35!ア%,養護教諭側の要因286%であった。小倉2)は養護教諭まで健康問題が届かない要因として児童。生 徒,学級担任,保護者をあげている。今回の調査でもその他に保護者の要因として,てんかんや精神分裂病 など学校に連絡がなく把握出来なかったという回答があった。
(1)生徒側の要因について
生徒側の要因と考えられるものを表3にまとめられた。「生徒の性格によるもの」が多かった。
恥ずかしい,気が小さくて保健室にいけない等があげられた。生徒が無口で,内気な性格だと,他の元気 な生徒におされて,入室しづらい等があげられた。「相談に関するもの」では「相談しても仕方ないと思い 行かなかった,人に相談することを思いつかない」等が回答された。自分の健康について誰かに相談しようと する姿勢のみられない生徒の姿が想像される。
「病職の不足によるもの」では,精神分裂病,躁欝病等,身体面より精神面が絡んだ健康問題の事例があ げられた。その他「人に知られたくない」「教師への信頼不足」と続いている。新田3),内山4)らの調査で
校 種健康問題
中(n;34) 高(n=43) 計(n=77)
登校拒否(長期欠席者含む) 22(64.7) 34(79。1) 56(72.7)
悩みによる身体症状 13(38.2) 16(37.2) 29(37.7)
性的問題 12(35.5) 16(37.2) 28(36.4)
月経困難・月経異常 12(35.3) 15(34.9) 27(35」)
妊 娠 7(20.6) i5(34.9) 22(28.6)
てんかん 9(26.5) 13(30.2) 22(28.6)
薬物乱用(シンナー等) 12(35.3) 9(20。9) 2エ(27.5)
やせ(思春期やせ症等) 5(14.7) 15(34。9) 20(26.0)
身体の障害(奇形・あざ等) 4(11.8) i3(30.2) 17(22」)
貧 血 6(17,6) 10(23.3) !6(20.8)
運動障害 8(23.5) 6(14.0) i4(18.2)
分裂病 4(11.8) 10(23.3) 14(18.2)
躁健病 2(5.9) 9(20.9) 11(14.3)
ノイローゼ 2(5。9) 9(20.9) 11(i4.3)
糖尿病 2(5.9) 3(7.0) 5(6.5)
その他 3(8.8) 6(14.9) 9(1L7)
校 種要 因
中(葺二38) 高(n漏42) 計(n瓢80)
生徒側の要因 33(86.8) 38(90.5) 71(88.8)
養護教諭側の要因 30(78.9) 37(88.1) 67(83.8)
一般教師側の要因 29(76,3) 35(83.3) 64(80.0)
保健室等の要因 25(65.8) 26(61.9) 51(63.8)
その他の要因 6(15。8) 8(ユ9.0) 14(17.5)
表3 健康問題をとらえきれない要因 一生徒側の要因一 は「たいしたことはないと思いがま んした」 「時間的余裕の不足」等が あげられている。
(2)生徒側の要因についての対応 のしかた
生徒側の要因に対してどの様にし て対応すればよいかまとめた。
・ 生徒の性格によるものについ ては養護教諭はできるだけ気軽に話 しかける。生徒の様子がいつもと違 うと思われる時,普段自ら話をしな い生徒が来た場合,特に気をつけて 養護教諭から話しかけるようにする。
話しやすい雰囲気づくりに心がけ,
生徒の信頼関係が得られるようにし ていく等。
・ 相談に関するものについては,
保健室の役割を生徒・一般教師に PRして共通理解をはかる。健康相談を組織化して,相談に来やすくする。
・ 病識の不足によるものは生徒自身,自分の健康問題に気づき,解決するために保健教育,保健指導の 強化,保護者にも保健だよりや保護者会等で健康に関する情報提供をおこなう。
③ 養護教諭側の要因について
健康問題が把握できない要因のうち養護教諭側に要因があると回答した内容を表4にまとめた。
「忙しくて,ゆっくり時間をかけ
表4.健康問題をとらえきれない要因 て生徒と対応できない」が多く・ 一養護教諭側の要因一
52.2%だった。これに「日常執務だ けで手いっぱい」「救急処置だけで 手いっぱい」等を含めると,回答の あった養護教諭のほとんどが「忙し い」という要因をあげている。次い で「養護教諭の力量不足」があげら れた。その他「周囲への働きかけの 不足」「養護教諭の人間性」等があ げられた。大谷等の調査では「養護
教諭の対応を思うと行きたくない」との回答があげられている。
(4)養護教諭側の要因についての対応のしかた
・忙しくて時間がないについては執務内容の整理をはかり,生徒と接する時間を作る。生徒の訴えが聴 けるように,精神的にゆとりを持つようにしたい。
来室しても,話を聴けなかった場合,あとで個別に呼んで相談等に応じたり,担任から最近の様子を聞く。
校 種要 因
中(R;33) 高(n漏38) 計(n=71)
生徒の性格によるもの 14(42.4) エ9(5α0) 33(46.5)
はずかしい 6(42.9) 1!(57.9) 17(51.5)
気が小さい 6(42.9) 5(26.3) 11(33.3)
行きづらい 0(0.0) 3(15.8) 3 9ほ)
その他 5(35。7) 5(26,3) 10(30.3)
相談に関するもの 9(27。3) 16(42.1) 25(35.2)
相談しても仕方ない 3(33.3) 5(31.3) 8(32.0)
思いつかない 2(22.2) 3(18.8) 5(20.0)
保健室への理解不足 2(22.2) 3(18。8) 5(20.0)
他教師に相談する
1(エ1.1)1(6.3) 2 8.0)
友人に相談する 0(0.0)
2(エ2.5)2 8.0)
その他
1(1ユ,1)5(31.3) 6(24.0)
病識の不足によるもの 5(15.2) 13(34.2) 18(25.3)
人に知られたくない
6(!8.2)10(26.3) 16(22.5)
教師への信頼不足 6(18,2) 7(18.4) 13(18.3)
その他 7(21.2) 7(18.4) !4(19.7)
校 種要因
中(R=30) 高(n識37) 計(n漏67)
忙しく時間がない 14(46.7) 21(56.8) 35(52.2)
養護教諭の力量不足 8(26.7) 6(16.2) 14(2α9)
周囲への働きかけの不足 4(13.3) 7(18.9) 11(16。4)
日常執務で手いっぱい 6(2α0) 4(10.8) ユ0(エ4.9)
養護教諭の人間性
4(ユ3.3)5(13。5)
9(ユ3.4)救急処置で手いっぱい 3(10.0) 4(10.8) 7(!0.4)
生徒とのふれあい少ない 2(6,7) 5(i3.5) 7(ユα4)
その他 2(6.7)
4(!0.8)6(9.0)
校種要因
中(n=29) 高(n−35) 計価=64)
保健室への理解不足 8(27.6) 15(42.9) 23(35.9)
問題を一部で抱え込む 6(20.7) 16(45.7) 22(34.4)
問題の軽視(力量不足) 8(27.6) 1エ(31.9) 19(29.7)
養護教諭への理解不足 1(3.4) 7(20.0) 8(12。5)
学校保健への理解不足 1(3.4) 2(5.7) 3(4.7)
ラポールの未確立 2(6.9) 1(2.9) 3(4.7)
その他 11(37。9) 5(14.3) エ6(25.0)
校 種要 因
申(R == 25)