1) JCHO
東京蒲田医療センター外科2)
東京医科大学消化器外科・小児外科分野【要旨】 症例は
59
歳女性。主訴は右下腹部痛であった。急性虫垂炎、虫垂周囲膿瘍、腸重積、回盲 部腫瘍疑いの診断となり、手術を施行した。虫垂は暗赤色に腫脹し、回盲部全体が腫大し、一塊の腫 瘤となっていた。悪性病変の可能性が否定できないため、回盲部切除術およびリンパ節郭清D2
を施 行した。摘出標本で回盲弁の下口唇に直径13 mm
の球状の硬い腫瘍を認め、腫大した回盲弁が先進 部となり、腸重積を起こし、回盲弁と虫垂入口部との間に形成された糞石が虫垂入口部に嵌頓するこ とによる虫垂炎を契機に発見に至ったと考えられた。病理組織学的に回盲弁内の腫瘍は神経鞘腫で あった。神経鞘腫はSchwann
細胞に由来する良性腫瘍で多くは軟部組織内の末梢神経に発生し、消化 管に発生することは少なく、回盲弁原発はきわめて稀である。今回、われわれは多彩な病態を併発した、回盲弁に発生した神経鞘腫の
1
切除例を経験したので報告する。平成
30
年1
月5
日受付、平成30
年2
月27
日受理 キーワード:
神経鞘腫、虫垂炎、腸重積(別冊請求先
:
〒352
-0001 埼玉県新座市東北 1
-7
-2 新座志木中央総合病院外科)
TEL : 048
-474
-7221(PHS 871) FAX : 048
-472
-7581
は じ め に神経鞘腫は Schwann 細胞に由来する良性腫瘍で 多くは軟部組織内の末梢神経に発生し、消化管に発 生することは少ない 1) 。今回、われわれは多彩な病 態を併発した、回盲弁に発生した神経鞘腫の 1 切除 例を経験したので、若干の考察を加えて報告する。
症 例
59 歳、女性。主訴 : 右下腹部痛。既往歴 : 特記 事項なし。現病歴 : 二週間前に右下腹部痛を主訴に 近医を受診した。急性虫垂炎の診断にて保存的療法 施行されるが、軽快しないため、当院紹介受診とな る。現症 : 腹部所見では McBurney 点に圧痛を認め、
腹膜刺激症状は軽度で腫瘤は触知しなかった。血液 生化学的検査では白血球数 9,640/μl、CRP 1.73 mg/dl と軽度、炎症反応の上昇が認められた。画像所見 : 腹部レントゲン検査では腸石を疑う石灰化が認めら れた(Fig. 1)。腹部 CT 検査にて虫垂の腫脹、腸石 の嵌頓、後腹膜への炎症の波及が指摘され(Fig.
2
-a)、盲腸の壁肥厚(Fig. 2
-b)、右下腹部に腸重積 を疑う target sign (Fig. 2
-c)が認められた。以上か ら急性虫垂炎、虫垂周囲膿瘍、腸重積、回盲部腫瘍 疑いの診断にて開腹手術を施行した。手術所見 : 虫 垂は暗赤色に腫脹し、回盲部全体が腫大していた。
周囲に膿瘍は認められず、一塊の腫瘤となっていた。
回盲部腫瘍と判断し、悪性病変の可能性が否定でき
ないため、回盲部切除術およびリンパ節郭清 D2 を
施行した。
摘出標本 : 回盲弁の下口唇に径 13 mm の球状の 腫瘍を認め、回盲弁が先進部となり、結腸内へと腸 重積を起こしていた。また回盲弁と虫垂入口部の距 離は短縮し、虫垂入口部に腸石の嵌頓を認め、虫垂 内は膿瘍を形成していた(Fig. 3)。
病理組織学的所見 : 盲腸は固有筋層や粘膜に変 性、浮腫が強く認められ、回盲弁内に直径約 13 mm の球状の硬い結節が認められた。虫垂入口部はその 結節と腸石の嵌頓により狭窄し、膿瘍形成を示して おり、虫垂は壁組織の浮腫と共に瀰漫性に炎症細胞 が浸潤していた。リンパ節転移は認められなかった。
腸石は糞石であった。回盲弁内の直径約 13 mm の 球状の紡錘形腫瘍細胞が束状を呈して錯綜し密に増 生しており、核異型は目立たず、明らかな核分裂像
は認められなかった。免疫組織化学的に腫瘍細胞は S
-100 蛋白に陽性、 SMA、 CD34、 c
-kit は陰性であっ
たため( Fig. 4 )、神経鞘腫と診断した。手術後 7 年
経過したが、無再発経過中である。
考 察
神経鞘腫は Schwann 細胞に由来する良性腫瘍で 多くは軟部組織内の末梢神経に発生し、消化管に発 生することは稀である。消化管原発の神経鞘腫は全 体の約 5% で大腸原発はそのうちの約 4.8% と少な く、さらに回盲弁原発はきわめて稀である 1) 。
医中誌で 1976 年から 2016 年までに「大腸」、「神 経鞘腫」を key word に検索すると本邦では 62 例が 報告され、 「盲腸」、 「神経鞘腫」を key word とすると、
Fig. 1 Abdominal radiograph. Calcification, suggesting fecal calculus(➡) was observed.
a b c
Fig. 2 Abdominal CT image. Enlargement of appendix, incarceration of intestinal calculus, and spread of inflammation to retroper- itoneum were observed
(a➡); thickened appendiceal wall
(b➡)and target sign
(c➡)suggesting intussusception were also noted.
Fig. 3 Excised specimen. A sphere
-shaped tumor
(➡)was
found at lower lip of ileocecal valve, which formed lead-
ing part of intussusception involving colon. Distance be-
tween ileocecal valve and appendiceal orifice was
shortened. Incarceration of intestinal calculus at appen-
diceal orifice and abscess formation in appendix peritoni-
tis were observed.
9 例の報告 2
-9) (会議録は除く)が認められた。「回 盲弁」、「神経鞘腫」を key word に検索すると報告 例は認められず、本症例は本邦初と考えられた。
「回盲弁」は大腸癌取扱い規約第 8 版によると回 盲弁に一致する管状部(回腸と盲腸の移行部)は盲 腸に含めるとされているので、自験例を盲腸発生と 考え、盲腸神経鞘腫 9 例と検討した。発症年齢は 19 歳から 83 歳までで平均は 59.7 歳であり、男性が 7 例、女性は 2 例であった。腫瘍最大径は 0.8 cm か ら鶏卵大までとさまざまであった。腫瘍最大径が 4 cm を超える 4 例が自覚症状として腹満を訴え、
うち 3 例は腸重積を併発し、自験例と同様の臨床症 状として認められていた。また 5 例は大腸内視鏡検 査スクリーニングにて粘膜下腫瘍として発見され、
初発時に自覚症状は認められなかった。自験例は大
きさが 13 mm であるが、回盲弁神経鞘腫により腫
大した回盲弁が先進部となり、腸重積を起こし、回 盲弁と虫垂入口部との間に閉鎖腔が形成され、糞石 を生じ、その糞石が虫垂入口に嵌頓したために虫垂 内に膿瘍形成、虫垂炎発症を契機に発見に至ったと 推測された。
神経鞘腫は Meissner 神経叢から発生した場合に は球状の有茎性ポリープ様形態を示し、Auerbach
神経叢から発生した場合は半球状や広基性隆起の粘 膜下腫瘍の形態を示すとされている 10) 。本症例を含 めた 10 例はいずれも粘膜下腫瘍の形態を示してお
り、 Auerbach 神経叢から発生した神経鞘腫と推測
された。盲腸神経鞘腫は稀な疾患であり、診断に関 しては特異的な臨床所見はなく、また下部消化器内 視鏡検査、造影検査などでも粘膜下腫瘍の形態を呈 することが多く、特徴的な所見はないことから術前 確定診断は困難である 11) 。自験例を含む 10 例でも 術前に確定診断の得られたのは 1 例のみであった。
自験例についても手術検体の病理組織学的な検索 で、紡錘形腫瘍細胞が束状を呈して錯綜し密に増生 しており、免疫組織化学的に、S
-100 蛋白に陽性、
SMA、 CD34、 c
-kit はいずれも陰性であることから、
神経鞘腫と診断された。自験例では炎症所見が軽度 であること、成人腸重積症の原因の 80
-90% が腫瘍 性疾患であることを考慮すると術前に下部消化器内 視鏡検査を検討する必要があった。しかし、自験例 は炎症所見が軽度であったが、腹痛の訴えが強く、
下部消化器内視鏡検査の合併症を回避するため、施 行しなかった。
盲腸神経鞘腫は今後、画像診断能力の向上により、
発見機会が増えると考えられる。しかし、形態が粘
c S - 1 0 0 p r o t e i n d
Fig. 4 a) Hematoxylin
-eosin
(HE)×1 ; b) HE × 20 ; c) S
-100 protein × 20 ; d) c
-kit × 20
Histological examination revealed spindle-
shaped tumor cells arranged in intersecting fascicles. Tumor cells were fusiform
with spindle and wavy nuclei. Immunohistochemical staining was positive for S
-100 protein and negative for c
-kit.
困難であるため、臨床的には悪性疾患を除外するこ とができず、外科的切除を考慮せざるを得ないと考 える。
結 語
虫垂炎を契機に診断した腸重積と腸石を伴う回盲 弁神経鞘腫の 1 例を経験した。
COI
の開示著者の COI 開示 : 本論文発表内容に関連して特 に申告なし。
文 献
1) Stout AP : The peripheral manifestation of the spe- cific nerve sheath tumor. Am J Cancer 24 : 751
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2)
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-304, 1978
3)
市原邦彦、吉富久吉、大場 清:
腸重積をきた した盲腸神経鞘種の1
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-1483, 1981
4
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-898, 1992 5
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単孔式腹腔鏡手術を施行した盲腸神経鞘 種の2
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-312, 2016 10)
佐野 仁、後藤和夫、白木繁博、岡山安孝、浜田茂彰、土田研司、飯田昌幸、安藤白二、滝本 一、
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:
特 異な形態を示した横行結腸神経鞘腫の1
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11)
神崎章之、西 鉄生、伊藤昭宏、榊原 聡:
腸 重積をきたした上行結腸神経鞘腫の1
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-792, 2009
Abstract
The patient was a 59-
year
-old woman presenting with right lower quadrant pain. Acute appendicitis, abscess around the appendix, intussusception, and ileocecal valve tumor were suspected, necessitating a surgical intervention. The appendix was dark red and swollen, and the entire ileocecal valve was enlarged, forming a mass. Since the possibility of malignancy could not be ruled out, the ileocecal valve was resected and a D2
-lymphadenectomy performed. Observation of the resected specimen revealed a hard, spherical tumor with a diameter of 13 mm in the inferior lip of the ileocecal valve. With the enlarged ileocecal valve as the leading point, intussusception occurred, and coprolites that had formed between the ileocecal valve and the orifice of the appendix were incarcerated in the orifice, leading to the development of appendicitis. The findings in this case were thought to be attributable to appendicitis. The tumor in the ileocecal valve was a schwannoma, a tumor arising from Schwann cells. Schwannoma usually develops in the peripheral nerves, seldom in the digestive tract. A schwannoma of the ileocecal valve is very rare. We herein present a single case of a patient undergo- ing resection of a schwannoma developing in the ileocecal valve with various pathological conditions.
〈Key words〉