小学校5年生における走運動の分析
An Analysis of the Running Movement of Fifth Graders in the Elementary School
伊 藤 宏
Hiroshi ITO
(昭和59年10月11日受理)
Abstract
The following conclusions were obtained from the analysis on the performance of 50m dash of the 5th grader in the elementary school.
1.The analysis of 50m dash capacity.
Boy s sprint average time showed 9.28 sec.. Top speed was 6.06 m/s between 10m and 20m. The best frequency of the legs per second was 4.11 f/s between 5m and 10m. The length of stride was over the height between 10m and 20m. Girl s sprint average time showed 9.51 sec.. Top speed was 5.99 m/s between 20m and 30m・The best frequency of the legs per second was 4.02 f/s between 10m and 20m. The length of stride was over the height between 10m and 20m.
2.From the analysis of the movement pattern of legs in the intermediate sprint.
Boys and girls locomotive locus of the toe showed larger than the 4th graders on the recovery phase.
The change of girls running pattern was less than the 4th graders.
緒 言
マイネル1)によると,9才から12才までの児童の運動学習能力は,最適学習期に入ってきてい るとして,「新しい運動経過をすばやく習得する 即座の習得 能力を示し,全面的基礎の上に 成り立っ時機を得た専門化が可能である。」と述べている。
一方,現行指導要領2)の中で陸上運動は,5年生・6年生(10才〜12才)に配当され,児童の
3 4)5
達成欲求や自己顕示欲を考慮に入れた指導方法が求められてきている。その中で走運動は,そ の運動課題(より速く走る。)が今まで以上に中心課題となり,それに対処した学習内容や教材 研究が必要になってくると考えられる。
6 7) 8 9
今回の研究は,昭和54年からの継続研究5年目に当り,従来の研究成果を踏まえながら,児 童の短距離疾走能力の変容をパフォーマンスとランニングフォームの2側面から分析すること
にある。
研究方法
○期日 昭和58年4月23日〜4月25日
○場所
○被検者
○測定項目
静岡大学附属 小学校グラン
ド
静岡大学附属 小学校5年生 男子19名女子 21名。被検者 の形態値につ いては表1を
参照。
1.50m全力
表1.被検者の形態値と50m走タイム
Boys HEIGHT WEIGHT LOHRER 50M RUN
(cm) (kg) INDEX (sec.)
疾走タイム
2.50m速度曲線 3.50mピッチ曲線 4.50mストライド曲線 5.50m疾走フォーム 以上の測定および分析方法 は第一回目の報告どうりに行
った。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
M.AIKAWA R.00UCHI S.KAKITA D.KATSUMATA P.KANBE M.KIDO K.KOBAYASHI S.SUGITA Y.SUGIMURA J.SUGIYAMA A.SUZUKI Y.SUZUKI Y.TSUSHIMA Y.TERADA M.NOMURA H.HATSUGAMI S.HAYASHI N.MASAMURA M.YAZAKI
147.9 134.1 138.3 136.4 145.9 135.2 131.6 135.7 145.0 139.1 140.2 138.4 148.5 133.5 131.5 143.7 137.O l36.5 141.3
46.3
30.(1 29.2 33.3 35.3 29.1 29.4 33.3 44.1 29.8 29.3 34.8 38.8 40.5 27.8 33.0 28.1 30.3 31.2
143.11 124.40 110.39 131.22 113.66 117.75 129.00 133.26 144.66 110.72 106.32 131.27 118.48 170.22 122,26 111.21 109.28 119.14 110.59
9.6 9.1 8.5 8.5 9.0 9.5 9.4 8.8 9.6 8.4 9.1 9.8 9.3 9.6 10.1 9.6 10.2 9.2 9.1
MS
138.94 5.22
33.35 5.44
124.05 15.95
9.28 0.50
結果と考察
Girls HEIGHT WEIGHT LOHRER 50M RUN
(cm) (kg) INDEX (sec.)
1.50m疾走能力について 1)50m疾走タイム(表
1)
男子は平均9.28秒を示し,
4年次の平均9.43秒より0.15 秒の短縮を示したが,有意な 伸びではなかった。女子では 平均9.51秒を示し,4年次の 平均9.80秒より0.29秒短縮 し,1%の有意な伸びを示し た。日本人体力標準表15)によ ると,男子平均身長,138.9cm の基準タイムは9.0秒を示し,
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
K.ARAO M.ISHIGAMI Y.ISHIZUKA T.001SHI
H.OOMURA M.OKUNO Y.KATOU M.KAWAGUCHI Y.KITAHARA J.KOYANAGI
S.SAJI M.SANPEI T.SUGIYAMA M.SUZUKI S.SEKIGUCHI Y.TAKAHASHI U.TSUCHIYA N.NAKAMURA A.HORAGUCHI M.MASUDA K.MOCHIZUKI
128.5 136.6 148.O
l4L3
144.6 131.O l37.3 141.5 137.6 153.2 137.5 144.0 137.5 146.1 142.3 147.6 133.7 146.2 148.2 141.9 145.6
26.0 26.6 36.2 33.0 37.6 30.1 26.0 33.6 29.2 37.9 36.2 41.0 35.5 42.5 34.8 38.8 29.3 33.8 36.6 30.4 36.0
122.54 104.36 111.67 116.97 124.36 133.89 100.45 118.60 112.08 105.41 139.25 137.31 136.56 136.28 120.77 120.66 122.60 108.16 112.44 106.40 116.63
10.2 9.4 9.8 10.8 9.8 9.1 9.8 9.4 9.1 9.1 9.7 9.4 9.6 9.2 8.6 9.0 10.1 10.0 9.6 9.0 9.1
MS
141.44 6.19
33.86 4.76
119.40 11.84
9.51 0.51
女子平均身長141.4cmでは,基準値9.3秒を示していることから,男女とも全国平均より0.2秒
1.5
1.0
05
QO
E
5 (mls)
4
3 璽
)
0 50(m)
1.55(m1,)
10
Q5 4
00 3ε 茎
8 7 6 5 4 3 2 1
0
0 5 10 20 30 40 50(m)
図1 50m疾走の速度・ピッチ・ストライド曲線
遅いタイムを示していたが,一応平均値圏内に入っていた。
2)50m速度曲線(図1,表2)
男子は10m−20m区間で最高速度毎秒6.06mを示し,速度維持率は95.9%であり,4年次よ り全体的にわずかながら向上を示した。女子では20m−30m区間で最高速度毎秒5.99mを示し 95.1%の速度維持率を示した。女子もスタートからゴールまで昨年を上回る能力を示した。浅 川・古藤 6)の報告では,5年男女ともに,10m前後で最高速度約毎秒6mを示していたとして いるが,猪飼・芝山・石井17)の報告では,最高速度・維持率は男子で6.23m/s,98.1%,女子で 5.81m/s,97.4%であったとしている。今回の被検者男女とも,ほぼ同様な能力を示していた。
表2.50m走の各区間の速度・ピッチ・ストライド
Boys n=19 5m 10m 20m 30m 40m 維持率50m (%)
Speed
(m/s)
Pitch
(f/s)
Stride (m)
Stride ratio
MS
MS
MS SM
3.25 0.32 3.31 0.42 1.21 0.09 0.87 0.05
5.09 0.27 4.11 0.38 1.36 0.15 0.98 0.10
6.06 0.39 4.10 0.33 1.49 0.12
LO7
0.08
5.93 0.40 4.03 0.30 1.50 0.11 1.08 0.07
5.96 0.38 4.06 0.35 1.47 0.12 1.06 0.08
5.88 0.43 3.90 0.35 1.53 0.17 1.10 0.10
95.89 3.56 91.49 5.52 96.09 5.67
Girls n=21 5m 10m 20m 30m 40m 維持率50m (%)
Speed
(m/s)
Pitch
(f/s)
Stride
(m)
Stride ratio
SM MS SM
SM
3.03 0.15 3.04 0.24 1.21 0.09 0.86 0.06
5.02 0.28 3.91 0.23 1.33 0.18 0.94 0.12
5.85 0.30 4.02 0.29 1.48 0.09 1.05 0.06
5.99 0.52 3.97 0.25 1.50 0.IO l.06
(1.07
5.80 0.42 3.92 0.26 1.51
(1.lo
l.07 0.07
5.79 0.39 3.86
(1.16
1.53 0.13 1.09 0.09
95.05 2.83 92.61 3.52 97.22 3.89
3)50mピッチ曲線(図1表2)
男子は5m−10m区間で最高毎秒4.11回を示し,10m以降漸次ゆるやかな減少を示した。女 子では10m−20m区間で最高毎秒4.02回を示し,20m以降男子同様のゆるやかな減少傾向を示
した。宮丸の報告 8)では,2才〜6才の児童で毎秒4.11回〜4.58回を示しているとしているが今 回の値もほぼ同様なものであった。
4)50mストライド曲線(図1表2)
男子は20m以降でストライド比が1.00以上を示し,ゴール区間で最高値1.53mを示した。女 子でも20m以降にストライド比が1.00以上を示し,ゴールまで漸次増加傾向を示しゴール区間 で1.53mを示した。
5)50m疾走フォーム(図2図3表3表4)
a)疾走中の接地時間,空中時間,跳躍比にっいて
男女ともに,跳躍比が60%〜70%を示したが,男子は,昨年よりも空中時間が短かくなる傾 向を示した。跳躍比の大きい走法19)ではキックカが要求され,跳躍比の小さい走法では,疾走リ ズムとバランスをくずさないようにすることが求められるが,この5年生男女ともに,接地時 間が長いので,接地中に体全体をリズミカルに動すことが課題になってくる。
b)疾走中の腰の接地時速度,空中時速度,速度比にっいて
男子は4年次と同様な速度変化であったが,女子の方が1%の有意水準で大きな向上を示し ていた。これは,50m走タイムの短縮の裏づけとなり,脚の接地中の腰の移動がよりスムース にできるようになったと判断できる。また男女とも30m地点で,速度比が90%以上を示してい たので,ほぼ等速運動をしていた。
c)疾走中の 回復局面に おける膝角 度変化につ いて
女子の支持脚 角度が4年次よ
りも大きくなり,
それだけ接地中 の腰の移動が十 分できるように なったことが考 えられる。
表3 中間疾走中の脚の各局面における時間と速度
接地時間 空中時間 (s) (s)
跳躍比 接地時の速度
(m/s)
空中時の速度
(m/s)
速度比
Boys n=19 Girls n=21
MS MS
0.149 0.012 0.148 0.011
0.098 0.012 0.109 0.012
0.664 0.106 0.738 0.100
5.56 0.41 5.98 0.42
5.04 0.31 5.79 0.33
0.91 0.06 0.97 0.04
表4 中間疾走中の脚の各局面における角度変化
最閉角度 最高位角度 移動角度 角速度 支持脚角度 股関節角度
(°) (°) (°) (°) (°) (°)
Boys n=19 Girls n=21
MS MS
43.00 8.54 45.38 10.64
100.84 9.87 101.33 12.06
57.84 9.96 55.95 11.81
653.74 128.90 598.30 105.73
136.58 8.84 135.86 9.77
86.89 9.04 87.67 6.61
2.中間疾走における脚の運動様式につい
て
1)果点の運動範囲について (図2図3表5)
男子については,4年次と比較するとY(垂 直方向,腰に対する踵の引きつけの高さ)の みに,女子では,X(水平方向,ストライド)
とYの項目に有意な増加がみられたが,H
表5 回復局面における果点の変位
X
(cm)
Y
(cm)
H
(cm)
Boys n=19
Girls n=21
MS
MS
73.96 6.78
77.81 7.00
51.88 4.78
49.14 6.20
5.29 2.73
5.53 2.21
表6 ランニングフォームのパターン変化
Boys 1年 2年 3年 4年 5年
生時 生時 生時 生時 生時 Girls 1年 2年 3年 4年 5年
生時 生時 生時 生時 生時
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
M.AIKAWA R.00UCHI S.KAKITA D.KATSUMATA H.KANBE M.KIDO K.KOBAYASHI S.SUGITA Y.SUGIMURA J.SUGIYAMA A.SUZUKI Y.SUZUKI Y.TSUSHIMA Y. TERADA M. NOMURA H.HATSUGAMI S.HAYASHI N.MASAMURA M.YAZAKI
AC AD BD BD BC BC BD BC AD ACAC AD BD BD BC BD AD BC AD
BD*
AC*
AD*
BDBC
AC*
AD*
BD*
AC*
BD*
BC*
AC*
BC*
BD
BD*
BD AD
AD*
AC*
BD
BC*
AD BD
AD*
AD*
BD*
BD
AD*
AD*
AC*
AC BC BD
BC*
AC*
BD*
BC*
AD*
BC*
AD*
BC*
BD
AC*
AC*
BC*
BD AD
AC*
AC
AD*
BD*
BD
AD*
AD*
BD
BD*
BC*
AC*
BD*
BC
BC*
AC
AD*
BC BD
AC*
AD*
BC*
AC*
BD BD
BD*
AC*
BDBD
AD*
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
K.ARAO M.ISHIGAMI Y.ISHIZUKA T.OOISHI H.00MURA M.OKUNO Y.KATOU M.KAWAGUCHI Y.KITAHARA J.KOYANAGI S.SAJI M.SANPEI T.SUGIYAMA M.SUZUKI S.SEKIGUCHI Y.TAKAHASHI U.TSUCHIYA N.NAKAMURA A.HORAGUCHI M.MASUDA K.MOCHIZUKI
BD BC ACAC BC BD ADBD AD AC AC ADBD AD BC BC BC BC AC AC BD
BD
AD*
AC
AD*
AC*
BC*
BD
AC*
BD*
BD*
AC BD
AC*
BD*
BC BC BC
AD*
AC AC
AD*
AD*
BC*
AC AD
BD*
BD*
BD AC BD
AD*
AC
BC*
BC*
BD BC
BD*
BC ADAC
AD*
BC*
BD*
AD*
AC
BD*
BDBD BD
AD*
BC*
AD
AD*
AC*
BD*
AD*
BC
BC*
BC AD AC
AC*
AD*
BC*
AD
AD*
AD*
BD
BC*
BC*
AC*
BC
BD*
ADAC
BC*
ADBC BC BC ADAC ACAD
1m ACパターン
0.5m
ADパターン 1m
H−一一一一一一:一:一一一一一一一一一一i
O.5m
1m BCパターン
〇.5m
1−一一一一一=i=i::・一一一L−一一一
〇.5m BDパターン 1m
図2 各種パターンにおける足首の軌跡とランニングフォーム 5年男子
t・・一一一・一一:一 :一 ・一一一一一一一一1
0.5m
0.5m
O.5m
ロ 0.5m
図3
1m ACパターン
1m ADパターン
1 ・m BCパタ_ン
、
1miD_ン
各種パターンにおける足首の軌跡とランニングフォーム 5年女子
(踵の変位点の高さ)については男女ともに増加は認められなかった。
これらの変位については,跳躍比が小さい,支持脚角度が大きくなったこと,接地中の腰の 速度が増加した事とすべて関連性がみられ,回復局面前半における脚の運動範囲が大きくなっ てきた事を示すものである。
2)中間疾走における脚の運動様式について(表6)
男子では,昨年からみてみると,19名中11名(58%)がいずれかのパターンへ変容を示して いた。5年間同一パターンを示した者はBDパターン1名だけであった。女子では,22名中8 名(38%)がいずれかのパターンへ変容を示した。5年間同様なパターンを示した者は,BCパ ターンが2名,ACパターンが1名であった。また女子では変容数が減少してきているので個 人のパターンが少しつつ安定してきたのではないかと思われる。
3.今回の被検者での男女差について
今回の全測定項目について有意差検定を行った。男子の方が優れている項目には,50m疾走 中の加速疾走区間(5m〜10m)におけるスピードとピッチが挙げられた。女子の方が優れてい る項目では,30m地点での腰の移動速度があげられた。以上の事から,男子はスタートからの 加速疾走能力に優れているが,女子では中間疾走での速度維持に優れている走法を示している
ことになる。
結 論
小学校5年生の50mの疾走の分析から以下のような知見が得られた。
1.50m疾走能力について
①男子は平均9.28秒を示し,その走法は10m−20m区間で最高速度毎秒6.06mを示し,そ の速度維持率は96%であった。ピッチでは5m−10m区間で最高毎秒4.11回を示し,そ の維持率は91%であった。ストライドは10m−20m区間で身長以上を示す長さになり,
ゴールまで維持されていた。
②女子では平均9.51秒を示し,その走法は20m−30m区間で最高毎秒5.99mを示し,その 速度は95%の維持率でゴールまで保たれた。ピッチでは10m−20m区間で最高毎秒4.02 回を示し,93%の維持率を示した。ストライドは10m−20m区間で身長以上を示しゴー ルまで漸次増加傾向を示した。
2.中間疾走における脚の運動様式から
①脚の動かし方にっいて,男子では回復局面前半において踵の腰への引きつけが十分され た走法を示し,女子では,回復局面前半後半ともに大きな軌跡を示し,より大きな動き を示した。
②パターンの変容では,女子に固定化現象がみられた。
謝 辞
本研究にあたって,終始温い援助をいただいた附属小学校大石光男先生ならびに本研究生の 保科政敏君,袴田智子君に対し,心から感謝の意を表したいと思います。さらに本原稿の校閲
をいただいた飯田頴男教授に厚く御礼申し上げます。
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