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一 少将出家

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Academic year: 2021

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(1)

     一 少将出家

  もと      ト       ちト    げ      せい       ト      う

 本よりかかる御心ありけれど︑父おとどおはしけるほどは制しきこえ給ひければ︑えおぼしたたざりけれど︑失せー

        はらんへ  きみ        こシろ      ぽ       もの 給ひてのち︑腹々の君たちはみな心とおはしませば︑おとどおはしまさねども︑ことに物しき事もなし︑この斎宮

の 御麟の女麗は︑まだともか−もな−てお己のかしづき給芒に紅りておはせしに︑さもξねば︑た誉の御一

      7 擢た9むつましきものにかたらひき・え給薯︑忠中のあはれな・・とをおぼししを︑菅て三り欝一

     み      ト を︑かた時見たてまつらではえおはしますまじけれど︑もとよりかかる御心ありけるうちに︑御めのとおはしけれ 5

     さとず       こトろ      ち      ぱ    こと ど︑それも里住みにてことなる事もなくて︑ようつのこと心ぼそくおぼえ給ふままに︑ただこの事のみ御心にいそ

      シ  い      ぎみ  

ほ うし     やま      

れ い

が れ 給 ひ つ つ 出で給ふたびごとには︑女君に﹁法師になりに山へまかるぞ﹂ときこえ給ひければ︑﹁例のこと﹂と︑

      れい      たま

ぼ してなむ︑きこえ給ひける︒﹁まことにこのたびは﹂ときこえ給ひければ︑﹁例のよさりはかへり給へ

(2)

       み       わら   ト      い       ぎみ らむをこそは法師かへるとは見め﹂ときこえて笑ひ給ひければ︑﹁まことそや﹂ときこえて出で給ひければ女君﹁法

       

師 に な らむと侍るは我をいとひ給ふなめり﹂とて︑      −o

       おも    やま  きみ  い   ふもと くさ  つゆ  け

  あはれとも思はぬ山に君し入らば麓の草の露と消ぬべし

ときこえ給へば高光の少将の君

    い    やま  は    を   ト      おも      わす

    わが入らむ山の端になほかかりたれ思ひないれそつゆも忘れじ

      8

       あい     もと      た       い と申し給ひて︑愛宮の御許にまで給ひて︑立ちながら出で給へば︑﹁ものきこえむ﹂とのたまひければ︑﹁などえのぼ

       むみだ      もの       こと り給はぬ﹂ときこえ給ひけれど︑涙もいで給ひければ︑﹁いそぎ物へまかる﹂ときこえ給ひて︑ことなる事もきこえ15

   い     ロ    ひ え        たま      おとうと      むろ      ぜんじ     め      そ

給 は で 出で給ひて︑比叡にのぼり給ひて︑御弟のおはしける室におはし︑とう禅師君を召して﹁かしら剃れ﹂との

       ぜんじ  きみ       も

た まひければ︑いとあさましくて︑禅師の君︑﹁などかくはのたまふ︒御心がはりやし給へる﹂とて︑のたまふまま

 な      

泣 き給ふ︒

(3)

 そ      

  て

か うぞり きたま

「 剃 れ﹂とのたまふ︒阿閣梨も泣きてうけ給はらざりければ︑御もとどりを手つから剃刀して切り給ひにければ︑い

 曽       をそ たま   

ぜ ん じ きみ な    たま か が は せ む とて︑なほ剃り給ひける︒禅師の君︑泣きまどひ給ひけり︒阿闇梨も﹁いとあさましきわざかな︒御はら20

        を       せうそこ      な    ぜ じ  きみ

か らの君たちも︑おのれをこそ︑の給はめ﹂と︑﹁御消息をだにもきこえあへずなりぬる﹂と泣く︒禅師の君﹁か

 く      ト

うかうなむ︑いとにはかにあさましく﹂と︑京の殿ばらにきこえ給ひければ︑いみじうあさましがり︑ののしりけれ

ば︑陪てき・しめし麓きてけり︒舞羅なども瞥まどひ慧け鵬女房も嶽きまどひて︑物もおぼえ給はずあ一

      9 さましきに︑い富かな・物も嵩らで曾聾け・.霜中将蓼は・め三三りて︑撃とξひき・看一

           

ふ︒山にみな登り給ふとて夜なかにぞおはしける︒中宮より初めたてまつりて驚きとぶらひきこえ給ふなかに︑御乳25     のぼ    ■    よ       はじ       おどろ       ●         めの

と トあい        もの       な      

母 と愛宮となむ︑物もきこしめさず泣きまどひ給ひける︒

(4)

      二   女

君 と愛宮の贈答

      ぎみ    あま      な     ロ      あい      もと      つね  かな

  か くいひて︑いふかひなくて月ごろになりぬ︒女君は︑尼になりなむと泣き給ひけり︒愛宮の御許になむ常に悲し

     かよ        きことをも通はし給ひける︒

磁にも︑こ乏もとなむぽ給ふる︒ひとたびになり給へ﹂とぎの︑女君の紮にきえ象ければ︑  一

                                                                                                        10

麿ばぎなるとも壁砦はふ・ざらむ・そかひなけれく瀧の麿でだにと賢縫ふるに︑それもか・・︸

た くや﹂かくきこゆるに︑

       たれ  と  ﹁いつくにもかくあさましきうき世かはあなおぼつかな誰に問はまし﹂

 あいみや       ぎみ と愛宮にきこえ給ひければ女君︑

 あま    おも      たれ  おな       たま      おな       おもふたま  ﹁尼にと思ひたまふれども︑げに誰も同じやうにしり給はざらむをなむ︒同じうきよかはと思う給ふべき︒うから

(5)

    のぼ       と      よ ね ばこそ登りおはすらめど︑山にてもといふこともあらばとなむきこえまほしきを︑このかみもこの世をそむきて︑35

       す■よかは 

か げ み  ︵なほ︶ 

あはれなる人の住み給ふらむ横川をわたりて御影をだに見るまじくとも︑猶︑そむきても行ひ侍らまほしきを︑宮に

も︑しかぞ又おぼしめすなる︒御ともにもと︑

     ︹原本コノ次二面︵約三百字二当ル︶白紙トナツテイル︒阜ク脱落シテ了ツタモノデアロウ︺

か き︑.磐みずはといξともなきに・そは︒ま・とや︑識臨はましとか︑崇慧企・乱ひき・えめ・うか一                                                                                                           11

りねば・そ︑      一

      たれ  と

    ながれてもきみすむべしと水のうへにうきよかはとも誰か問ふべき﹂      如

       ふた      きこ       となむきこえ給ひける︒つねにこの二所︑かなしうあはれなることをなむ聞えかはし給ひける︒

(6)

      三  

桃 園の権中納言殿の中将

       もトそのト       きみ  い  たま      きこ       ロ  み   い

  か くて︑かの桃園の権中納言殿の中将の君まゐり給ひたりけりと聞ゆる人ありければ︑うちおき給ひて見まゐらせ

  

給 ひ て︑のたまふ︒

「 あはれなるなにはおふやとみつれどもかたちは・とにあればかひなし        一

                                                                                                      12

か た ちも・とになり給へりと鯵ど︑そのす芝はあらねば︑あはれにもあらず﹂と醗え繧け・を︑その雌の方三

み た まひて︑

    あふことのかたちはことになれりとも心だに似ばあはれなりなむ

 きこ       かへし  と聞え給ひければ︑その御返︑

       きみ

  もとむともかひやなからむたぐひなくあはれにありし君が心に

(7)

      ト   お      な       とのたまひつつ︑をりふしごとに泣き給ふを︑ うけ給はる人ごとにあはれがる︒

50

四  姉北の方

    うぐひす         きた  かた

三 月ばかり鶯なきければ︑北の方

  み       な       きみ       かよ わが身にも世をうぐひすと泣きをれど君がみやまにえこそ通はね

18

あねきた  かた    かへし  姉北の方の御返︑

山路しる鳥にわが身をなしてしが君かく恋ふとなきて告ぐべく や まち    とり     み      きみ    こ         つ

五   愛 宮 の 御 許 より

   あい      もと      ゆ

か くて愛宮の御許よりきこえ給ひける︑

55

(8)

       い       もの  おも         ふ じ

あはれ︑あはれ︑そこにもいかにとなむ思ひきこゆる︒夢にも山の君の見え給ふをりは︑さめてくやしくなむ﹂とき      くおも   み お    ﹁なぞもかく生ける世をへて物を思ふするがの富士のけぶりたえせぬ

       ︵かへし︶ こえたてまつらるれば︑御返︑

  ものおも      た こ  うらなみ

    物思ひはわれもさこそはするがなる田子の浦波たちやまずして

となむ︒

24 60    

六  ほととぎす

 たれ  く       きみ        あい    な  かな   たま    き ﹂   ●       ●    ︑の  きこ

  誰 も誰も御はらからの君たち︑この愛宮の泣き悲しび給ふを聞き給ひて︑あはれがりきこえ給ふも︑物を聞えでお

       く      きた      

は しふる︒ときどき故式部卿の北の方は︑時々とぶらひきこえ給ひける︒四月ばかりに卯の花につけて︑

    震のみか我もさこそは世の韓をあなうの糠となくほとピぎす

(9)

か へ し︑

    はな       かきね      ト       し

    うの花のさける垣根にほととぎす我はまさりてなくと知らなむ       砺

      きた    きこ     く

  又 式 部 卿の北の方︑ももそのどのに聞え給ふ︒﹁猶思ふ思ふともあさまし︒やまにてもいかにつきせずおぼす

らむ︒ゆめもあらば︑

   あはれなることかたらひてほとどぎすもろごゑにこそなかまほしけれ﹂と︒

                                                                                                        15

      く       つね  と        御かへり︑﹁かしこまりてなむ︒いともいともうれしく︑かく常に問はせ給ふことなむ︑つきせぬことには︒いでや

 く       く      ば

い で や︑すべてすべて︑たどおしはからせ︒まことや︑      m

      と         シ         し       おも

た らはぬさきよりなきつほとどぎすもののあはれを知れりと思へば﹂

(10)

      七   三 の 宮より愛宮へ

    あぜち       どの︑きた  かた  あいみや   もと       ∨         もの  は      おも◆

か くて按察の大納言殿の北の方︑愛宮の御許に︑﹁このごろはいかが︒あやしう物さわがしく思うたまへられてな

      きこ      よ  なか       たま      わた  たま     やま む︑しばしも聞えぬ︒あはれ世の中をいかにながめ給ふらむ︒こなたにもなどか渡り給はぬ︒山よりはとぶらひきこ

え 織ふや︒さも・そは世はそむき給はめ︑・のびてもいででも︑おほむもとには︑かたらひき・え給へか﹄女の避一                                                                                                         16

ふ 所 な らば︑さて避はまほし6蕪へど︑磐そあは曇いかにそ・ξ砦璽ピかなは繧りは︑雌へ三

い       お       よ  なか         く     あま      く 入 りぬべきをりあれど︑えやは世の中をそむく︒まがまがしく︑尼にならむとのたまふなる︑まことか︒ゆめゆめ︑

しかなおぼしそ︒

    うらみこしそむかまほしき世なりともみるめかつかぬあまになるなよ﹂

あい       と    たま      く       きこ      つね    は

愛 宮 の 御

返 し︑

            ﹁いとうれしう問はせ給へるなむ︒

                                            つ れ づ れ な るに︑

                                                           

よ りこそ聞えまほしけれど︑常にさわがし

(11)

      よろこ  ト  まい    あく   そで  トもの うおはしますらむにとぶらはせ給ふを喜びてぞ︑そなたにも参らまほしきを︑明け暮れのながめに袖のひちつつ物お釦

       やま  くをと 

  そ

た ま 

す が た

み み

 ●       よなか

ぼ え ぬ に な む︒山よりときどき音つれ給ひ︑かしら剃り給へらむ姿の見・たまへまほしきに︑見え給はぬがうき世の中

      あま      おもふ      なほ よ         おも      おもふ

に か へ らじとにやあらむと︒尼には︑さもやと思うたまふれども︑さても猶世の中にこそ思ひかへりこめと思うたま

      おも     ト

ふ れ ば︑まだ思ひたたずなむ︒

    あまならでそれにもしほはたるれどもうきめかつくとまたはなるべき﹂

                                                                                                        17    

八  断   章

       やまち

    よにはしりて山路にまどふ心も      85

弟の禅師の君︑ お とうと ぜ じ  きみ

  い   ト       いへぢ  おも       す

  出でてこし人の家路も思ほえずわがみやまこそ住みよかりけれ

(12)

九   右

衛 門佐愛宮を訪ふ

   あい     もと       すけ      きみ       かた

か くて愛宮の御許に右衛門佐おはして︑少将の君おはしつるやう語りきこえ給へば︑

「 わればかりうき身はなし︒

男はおはし通ひたぶ﹂ と︑ お とこ      かよ

   ふもと      ト         こひ       かげ      み 山の井の麓にいでてなかれなむ恋しき入の影をだに見む

とのたまへば︑

佐の君の御返︑ け   きみ    かへし 

一18

90

きみ     やまがは       

君 が す

む 山川水のあさましくうき世の中になかれいでにし

≡  あけの衣

    もシそのシひめぎみ       きみ   そで なみだ さてかの桃園の姫君︑少将の君の御袖に涙のかかり︑

た りければ︑

(13)

    く     ころも    み   くさば 

で  つゆ   ト

   

ほ の ぼ の とあけの衣をけさ見れば草葉の袖は露のかかれる

は      

    はかし  まくらがみ   

   ◆   な 

た ま      

( か

し も︶        なみだ なが 

侃 き給ひし御侃刀の︑枕上なるを見給ひても泣き給ふ︒さぶらふ人々︑上下︑﹁かの御身より涙の流れ出でぬ

       ひめぎみ る﹂ときこえ給ひければ︑姫君

  つ くに ほりえ  ふか  

お も   み  なみだ

  津の国の堀江に深く物思へば身より涙もいつるなるらむ

  きた     きこ    ぼ       

人 々北の方に聞え給ひければ︑あはれがり給ひて︑

      なみだ      を み

   ともすれば涙をながす君はなほ身をすみがまかこまもたえせぬ

  二 鏡 の 影

    つね  みたま     かがみ ひめぎみs         ほうし  かピみ  み

又 少将の常に見給ひし御鏡を姫君見たまひて︑﹁法師は鏡は見ぬか﹂

 つね     かぱみ やま      ぱ      かげ       み

 常に見し鏡の山はいかがあるとかたちかはれる影も見よかし

とて︑         て        

か は しきのしたに入れ給ふ︒

100 95

z9一

(14)

  うしほやくあま

れ く       ひめぎみ      たま         s    ︑       きこ      をとこ   りね

        か の 姫 君 の 御なげきを︑

誰々も︑

                            あ あはれがり給ひけり︒ももそのの︑ことに聞ゆるに︑男君︑常におはして︑

     ロ    ふみ

は れ が り給ふ︒御文にてもありけり︒

ひ め       きみ ぎみ     を よ  なか       あま       ・  き ︑

姫 君︑﹁なほ世の中心うし︑尼になりなむ﹂との給ふを聞きて︑少将の君︑

あま     おな  やま      を    

尼 に て も同じ山にはえしもあらじなほ世の中をうらみてぞへん か へ し︑

      み

そ で の うらに身をうしほやくあまなればみるめかつかであらむものかは

や ま      い      ふみ      

お ほ          

  か

山にもて参りたる御文に︑いとあはれ多かる︑御返りに︑

  かぱみやま    sげ       み

    鏡 山きみが影もやそひたると見ればかたちはことにぞありける

105

20一

(15)

      三

精進

     ひめぎみ     きみ をこな たま      いをく         ︑       さうじ      を    ●     やま  きみ

  さてこの姫君﹁山の君の行ひ給ふらむ︑われ魚食はむこそゆゆしけれ﹂とて︑御精進をぞなほし給ひける︒山の君m

       し      さうじ    い      ろ きこしめして︑あはれとおぼして︑ここかしこよりをかしき精進物まゐらせたるは︑時々たてまつりおくるにかひに

おきたるめをはじめていれたり︒又四月つごもりばかりに︑鶯の巣三つばかり︑むめすちばかりいれたり︒ を       うぐひす す み

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

  21

  たの      み        へ  きみ        おも

   ﹁頼みなくはかなく見ゆる我ゆゑに君がながめを思ひやるかな

あはれあはれ︑ときこゆ︒かひなくおぼすな︒まことや精進し給ふなるは︒しほうらこえぬ山なれど︑こころざしあ

  を       うぐひす りておひいでたるめそや﹂とあり︒鶯のあふすちには︑﹁かくそせん﹂とあり︒      田

       す         み

   ﹁わがすみか君はゆかしくおもほえばあなうぐひすの巣のうちを見よ﹈

し︑

(16)

  一 四

  苔 の 衣

                                                                                                      一

                                                                                                      22

さて中納言購監の友・の震の御秦麹誉り棚め三.くだりせ喜蓉て︑・れ雌へたてまつりければ︑峠一

     たま

へ た て まつり給ふ︒

   ぞ 「 この御衣どもの︑

い とあはれなれば︑

す      たれ

忘 れ て は 誰 が ことそとおぼめかれつる︑

きみ  き      すみぞめ      な

君 が 着 しきぬにしあらねば墨染のおばつかなさに泣きてたちつる

 を く なほなほ

  こ    ね  きみ   とこ      ト         そで

   ﹁恋ひて寝し君なき床のいはなみにここのながめに袖のぬれぬる

しのびきこゆるかひもありけるかな

 うぐひす す      み

    鶯の巣のうち見てもねをぞなく君がすみかはこれかと思へば﹂

120

(17)

  おくやま こけ ころも     み       つゆ

    奥 山の苔の衣にくらべ見よいつれか露のおきはまさると﹂

となむ聞え給ひける︒上の御衣よりはじめて墨染なり︒ただ袷の御袴ぞかいねりなりける︒山の御かへり︑     きこ      うえ    ぞ      すみぞめ       ピあはせ   はかま      やま

「 雌 欝ぎ恋どのみ・そぽは漁三顯妹露群酔墾整議〃末︶たれ︒・れ昆にもぽぬものどもなれど︑

 こころ      たま       むかし  きもの       たま        いま

御 心 ざしあるものどもにてなむ賜はりぬる︒昔の着物にもあらねばやおぼめい給ひつらむ︒今よりならひ給へかし︒

わいても︑・と人の・うも亮やしたまふらむ︒あたらし−そでぬれぬ︒ぬ落緯もとの穿すれ織ひなむ︒ま・竺

                                                                                                          28

とや︑嚢のきぬは発まふなればにやい忌ぬれまさりてなん︒        一

  ︵わ︶●       く

    佗びぬればくものよそよそ墨染の衣のすそそ露けかりける

       ころも かぜ

    露 霜 はあした夕べにおく山の苔の衣は風もとまらず﹂

となんありける︒

(18)

   

 一

五  さらに京に出でじ

      い ひめ あい    トをく

  さらに京に出でじとその給ひける︒これをこの姫君・愛宮︑おぼつかながり給ふ︒兄弟︑おこなひなん︑よくよく皿

 たま     はト  ちシおとピ         く     こ        たま し給ひける︒母君・父大殿をなむ︑いといと︑よく恋ひたてまつり給ひける︒

竃の塾に︑搬ぽ蕊君のたてまつり碧ける︒       一

                                                                                                        24

   ﹁物思ひのやむよもなくてほどふれば︵下句欠︶       一

   一

六 しのぶの草

      ト

「 ( 上 句 欠︶忘るることもしゐのわかきか

た  ち      み     ゑ      かな      け ふ       し    むかし   おも       コ

は きたるを見れば︑絵にかきたるさへなむ悲しう侍りける︒今日の御かたちは知らず︑昔のみ面影には見え給ふ︒蜘

(19)

      曽       ●      おも       しのぶぐさ       む つ そ こにはいかがとなん聞え侍る︒つれづれの御すまひなればにこそ︑思ひすてられける忍草うとからずや御らんずら

む︒ここにも︑

 ︵ひとり︶

    独 の み な が む る宿のつまことに忍ぶの草ぞおひまさりける﹂

       おもふ    あく 

 ﹁うけ給はりぬ︒これよりも聞えむと思う給ふれど︑袖ぬらすながめに明かし暮らすほどに怠り侍りにける︒つ

きせぬ物騨は︑いつはてなん︒磐ち忌くれたてまつりたるに︑ましてかかる欝ひの添ひて亮ば︑おぼしや竺

                                                                                                        25

灯よもぎのしげきぽ馨り給ひて︑あはれとの給ひし曇の見えねば︑月・のふ・︵三デ褒脱落︶ま置一

      すがた        み       ぱ       よ   ね は︑いとあはれに侍る︒かたちことになり給へらむ御姿を︑時々見え給はば︑なぐさむらむをいでじとのたまふな

      く       しのぶぐさ    し るこそ︑いといとおぼつかなけれ︒忍草はここにもや︑

       うへ  を       わ   み       つゆ

    しげりますしのぶの上におきそふる我が身ひとつは露のほどにぞ

お も  き        い

ひ 消えなで︑生きて﹂となむありける︒      皿

(20)

    一  早うより心かけたりし人

     ひめぎみ   はや    こトろ      きこ      きみ  やま  い

  さてこの姫君に︑早うより心かけきこえたりし人も︑とぶらひけり︒それが聞え給ふ︒﹁などかこの君を山に入り

      みたま       コ      むかし やまず      おも       ものおも    たま 給ふべく見給ひぬべきことはあらせたてまつり給ひし︒まろこそ︑昔︑山住みはせんと思ひしか︒人に物思はせ給へ

りしぎにおぼしめせよ︒まめやかには︑雌昆み隻よりも︑とまりて璽し轡ミいかにねぶたからずおぼす一

                                                                                                      26

らむと思窒てまつりて︑       一

    たか       ぼやまびこ     こた       

    こゑ高くあはれといはば山彦のあひ答へずはあらじとそ思ふ﹂       皿

       たま     かな よしついてとて︑かへりごとし給はず︒悲しさぞまさりける︒

    又 ほどへて︑

       みトなしやま  やまびこ  よ       こた

   ﹁やまとなる耳無山の山彦は呼べどもさらにあひも答へず﹂

(21)

こたみも︑     ト        とりいるる人を見まほしとてない給ふ︒

      六

京 の 殿より

   との     ふみ      し     ぼそ      ト

  京の殿より御文に︑﹁このごろはいかにおぼすらむ︒ここには心細きを︑いとあはれになむ︒ここには︑このつき瑚

な み だ  

ま      おも      あま       涙とどめずそこにおぼすらむを思ひたてまつりて︒尼にならむとさへのたまふなる︑つねは世の中にさぞおぼすら

                                                                                                        27

   ト       よ      よ  なか む︒ここにぞうき世をばそむきはてなむと︑いさや世の中に︑ないしかみのぬしといふなれば︑かしらおろしては︑

      シ       さうじ         たま      わか        ふか かうぶりとられなんと人のものすればなむ︑いささかうしろのこして侍る︒精進をさへし給ふなれば︑若き人だに深

 もの       シ      あま         よ    はな         を く物をおぼすなれば︑ここにはまして水風のいもひをせましとなむ︒尼にてもうき世をば離れずや︒なほしかなおぼ

しそ︒       螂

  ふね         ママ

舟 ながすほどひさしといふなるをあまとなりてもながめかるてふ﹂

(22)

 きこ        と聞え給ひけり︒御かへし︑

       つね  と    たま      まう        おもふたま  ﹁かしこまりてうけ給はりぬ︒いとうれしう︑常に問はせ給へるをなん︒みつから申さまほしう思う給ふれど︑

       れい      はべ       このごろ︑みだり心ち︑例よりもまさりて︑あやしう侍りてなむながめ侍る︒

       み

    あまとても身をしかくさぬ物なればわれからとてもうきめかるなり

         おも    さだ        きこ とうけたまはれば︑思ひも定めず﹂と聞え給へり︒

170

28一

   

完  太刀はきたる姿

         どの      たま      ロ   ひめぎみ

又 右 衛 門佐︑中納言殿につたへ給へりけり︒ついでに大姫君の御方につたへ給へりけり︒

 わす      きみ

  忘 れ て もうれしかりける君かとてたそかれどきはまどはれぞする

ひ るね     を       ゑもんのすけ   た        きこ      まい

寝 して起き給へりけるほどなりけり︒右衛門佐﹁立ちながら聞え侍る︒あやしけれども︑いそぎて内へ参り侍れ

(23)

       く  きこ      よ  なか   たち       みたま ば なん︒ いかにとて︑えしばしばも聞え侍らず﹂とて︑﹁いかに世の中を︑太刀はきたるさまをも見給ふとてなむ﹂

と聞え給へる御返︑﹁いと嬉しう立寄り給へるを︑いそぎ給へばなん︒姿は︑たそかれ

きこ       ︵かへり︶    うれ   たちよ       たま        すがた     と

       ト       く

ど きにおぼつかなくなむ︒ここには︑それにもあはれになん︒つれづれのながめに︑すまひさ

      かげ  み       こ︑ろぽそ     と    たま      きこ       しづ    まい      た

へ か は りたれば︑あの人の影も見えねば︑心細きを︑問はせ給へるなん﹂と聞え給へば︑﹁さらば静かに参らむ︒太

ち       すがた  みたま      ず      い  たま

刀 はきたる姿も見給はむとあらば︑ゑりくぐつにてもさぶらはむ﹂とて出で給ひぬ︒

  ご ○

  宮のこのかみ

み や                    

  との       ひ       たちょ  たま

宮 の このかみの︑殿にて人たまへるついでに︑ようさりつかた︑月のほのかなるに︑立寄り給へり︒

む か し      口      ・ 昔きくやどのありしえに︑いかにそや︑山人はしのびてをり給ふや︒あいなく︑ 「

      やま      やまびこ      やま    を     ゴ

  あしひきの山よりいでん山彦はそま山水におとさざらなん﹂

175 180

29一

(24)

 きこ   うれたちよと    うれ    ことば と聞え給へれば︑﹁いと嬉しく立寄りて問はせ給へるを︑はじめは嬉しかりつれども︑のちの御言葉にさしあやまち

    ぱ         み      うた  かへ   きこ       き    こ て︑いとどしくさまも見えで﹂とて︑歌の返しは聞え給はず︒さかさうのやうに人もこそ聞け︒をとこのきむだち

       あいみや は︑しばしこそあはれがり給ひしか︒愛宮ぞおぼしやむことなかりける︒      斑

    三  長歌贈答                                                                                                         一

                                                                                                        30

さて・の饗︑身を基げてましとおぼ芸︑きむだちのおはしければ︑われなくてはい慕せむとおぼして︑峠一

 きこ  たま       を       ぱ     おも      つゆ

に 聞え給ふ︒﹁世︵原本コレ以下二行ホド切断︶⁝⁝おのれだになくはいかがせんと思ふに︑すこし露のいのちをもとめ

ゐつる︒

  きみ       ト       を       ト

  君

や うゑし われやおほしし なでしこの ふたばみつばに おひたるを かぜにあてじと おもひつつ はな

      ち

   

の さかりに なるまでに いかでおほさむと おもへども つゆのいのちやあへざらむ いまぞけぬべき ここ㎜

(25)

      ︑       た      ﹂      ︑

    ちのみ つねにみだるる たまのをも 絶えぬばかりぞ おもほゆる もののかずにも あらぬ身を ただひと

       おも     ﹂         よ      よ

   

ゑ とて あさましく あまたのことを 思ひいでて きみをのみ世に しのぶぐさ やどにしげくそ おいめ世

      し    み

    に  ごひてふことも 知らぬ身も しのぶることの うちはへて きてねし人も なきとこの まくらがみを

      ︑     き    な      よ      い

   

そ  おもほしき ことかたらはん ほととぎす 来ても鳴かなん 世をうしと きみが入りにし やまがはの

   

の ながれておとにだに齢かまほしきをほだされて営すみのえのみつのはにむすべる・との皿一                                                                                                         31

   

か りせばつねにζひをたきもののひとりひがもかえいでなまし﹂     一

山の御返し︑ や ま

        な  〜     s      つゆ      め  み

   ﹁もろともに 撫でておほしし なでしこの 露にもあてじと おもひしを あなおぼつかな 目に見えぬ は

       おも       み         おも    ︑      よ         み

    なのかぜにや あたるらむ と思へばいとそ あはれなる いまも見てしが と思ひつつ ぬる夜のゆめに 見

       み        め     ﹂      な       み

    ゆやとて うちまどろめど 見えぬかな 目のうつつまに かぎりなく こひしきをりは おもかげに 見えて⑳

(26)

       シ  とき       す     も心 なぐさみぬ かたみにさこそ みやこをば おもひわするる 時やはある はるけきやまに 住まヘ

      ト       く

    どもつかまわすれずおもひやるくもゐながらもあしがきの まちかかりしに おとらずぞ あはれあはれ

      ト      お     し

    と まこもかる よとともにこそ しのぶぐさ わがみやまにも ふもとまで 生ふと知らなむ しらかは

       し

    の   ふ ちも知らずは ひたぶるに きみがたにのみ うきよかは うれしきせをぞ ながれては見む﹂

となむありける︒      蹴

    二 二

  御 はらからの君たち

       きみ      ぐ      あめ  ふ

  五 月ついたちに︑御はらからの君たち︑わりご具しておはしたりけるに︑雨の降りたりければ︑

   な      ぽなみだ みつ

    か か りてふよかはともへどさみだれていとど涙に水まさりぬる 少

納 言︑

い しをぎみ︑

32_

(27)

きみ      なみだ あめ

君 が す む よかはの水やまさるらむ涙の雨のやむよなければ

  もんのすけ

右 衛 門 佐

210

くさふか やまち      おも

深 き山路をわけてとふ人をあはれと思へどあとふりにけり

亮︑

       す

い つ くへもあめのうちよりはなれなばよかはに住めばそでぞぬれます

となむ︒

83 三 一

  富小路の君たち

とみのこうち  きみ      ト      たま        ろう      きこ  たま 富小路の君たち︑わりこしつつ︑まで給へり︒六郎ぎみの聞え給ふ︒

215

よ  なか こトろ        を

世 「

の 中︑心うければ︑おのれこそ︑

かしらそらむ︑

や まい 

山へ入らむと思うたまへしかど︑おとどの君のかくしたまは お もふ    をざ

(28)

 う  たま        つみふか     おもやたま    おも  

や まく        いま       おも       きみ       おも

で 失 せ 給 ひ に しかば︑罪深くなると思う給へて︑思はぬ山々にありくこと︑今に思ひ侍れど︑君の思はずにておはす

    で し       ・たま      ぜ じ  きみ   で し      きこ

れ ば︑御弟子にもやなりなましと思う給ふる﹂とのたまへば︑禅師の君︑﹁弟子まさりにこそあなれ﹂と聞え給へば︑

 らう   

し       ふかト  やま   い      らう

六 郎 ぎみ︑﹁弟子まさりとおぼさばこれより深からむ山にこそ入り侍らめ︑いつくならむ﹂とて六郎ぎみ︑

 みやこ       つみふか  やま

離の競︑禦へし︑       一     都へもさらにかへらじわがごとく罪深き山いつこなるらん      加                                                                                                         84

    ・れより無き蹉に驚いらばあ・ま・からむ購の水         一

ぎみ︑

  きみ    を      おも   やま

    君

を なほうらやましとそ思ふらむ思はぬ山に心いるめり

     ぜじ きみ きこ  ロ

七 郎 ぎみ︑禅師の君に聞え給ふ︒       泌

  きみ      やまち   つゆ      そで

    君 が す

む 山路に露やしげるらむわけくる人の袖のぬれぬる

(29)

御 か

し︑

      きみ  そで    つゆ

    こけのきぬ身さへそわれはそぼちぬる君は袖こそ露にぬるなれ 弟︑禅師の君︑ お とト ぜ じ  きみ

 むかし   やま       トで     きみ         つゆ

    昔 より山水にこそ袖ひつれ君がぬるらむ露はものかは       20

                                                                                                   

 一

   

  父 大 殿 の 夢

                                                           85

                                                                                                   

 一

        きみ   ゆめ       ぜ  きみ       すがた        よかは      な    きこ    ロ

  か くてこの入道の君︑御夢に︑おとどの君出家し給へりし御姿にて︑この横川におはしまして泣きて聞え給ひけ

      たう        たう      かな る︒﹁なにをうしとて︑かくはなり給ひしにか︒尊とさはいと尊とけれどいと悲しくなむ︒あはれに︑とひきこえ給

     たす       な くきこ  

へ ば︑それに助かることどもあり︒さはあれどいとくちをしくなむある﹂などのたまへば︑泣く泣く聞え給ふ︒

      ゐ       お      ト         ﹁いとあはれなるすまひし給ひけるを︑あまがけりてもたつねとぶらはむ︒かかりとならばよにおち給ふな﹂とて︑

(30)

  きみ     ょかは  みつ       っね  み

    君 が す む 横川の水しにごらずはわがなきたまは常に見せてむ      郷 御 か へ りごと︑

    ぱ    そで         よかは   きみ  トげ

    い とどしく袖ぞひちぬる横川には君が影みば水もにごらじ

 きこ       おと  きみ  かた        と聞え給ふほどに︑やがてさめ給ひぬ︒こひちかひ給ひて︑御弟の君に語らひきこえ給ひてぞ泣き給ふ︒

                                                                                                        一

   

二 五 父 君 か       鎚                                                                                                         一

        きみ    こ     た ち    たま        み       も        

  さてかの入道の君の御子は︑太刀はき給へる人を見給ひては﹁ててきか﹂とのたまふに︑

      はトぎみ       ト      シ    ひさ    み      な         ひめ

「 あらず﹂とのたまへば︑﹁母君こそ︑ててきにはあらず︒などか︑ててきの久しく見えざらむ﹂とて泣き給へば︑姫脚

ぎみ  ト  な      ト  きみ  やま      な  たま      ト      トたま

君 よ よと泣き給ふ︒御ぐしかきなでて﹁君は山にぞおはする﹂とて泣き給ふを︑おほちぎみ見給ひてのたまふ︒

       やま    おや  こ      こ       かな

  あしひきの山なる親を恋ひてなくつるの子みればわれぞ悲しき

(31)

北皇 の 方

 、

     おや  

づ るへ なみだ  

な が

ひ え に す

む 親こひてなく子鶴ゆゑわが涙こそかはと流るれ

は は ぎみ︑

さはみつ  た  かげ      み      〜   こづる        こ

沢 水 に 立 つ 影 だ に も見えよかしここら子鶴のなきて恋ふるに

       とて泣き給ふ︒

か くてあはれなることがちになむありける︒

                                                              37

充はきた・人みても︑﹁・れやてでき︑などは冒のもとにおはせ一

ぬ︒       たま われをいだき給はぬ﹂ とてなげき給へば︑ は

は・ ぎ み

 、

       ゆし うら ひなつる かな あふことのかたみも知らず浦になく雛鶴みるぞ悲しかりける

250 北ξ の 方

 、

      な     ト あふことのかたみとてだになぐさまでわらはなきにぞわれも泣かるる

(32)

を ト

おほちぎみ︑

       おや        こ       み         かな

    か た に て も親ににたらば恋ひなきになくを見るにぞわれも悲しき

   

  三ハ新 少将

饗の酷︑曇の少将ぎみの禦はりに︑少将になり5て︑よう・びに︑・の中納言購曇り縫へ・昆象姻一

                                                                                                        88

て も︑又せきやりがたき御けしきなり︒﹁培の瀧少将は︑雌の慧のかはりか﹂とて︑     一

       おな      そで

   

た が は ず

や 同じみかさの山の井の水にも袖をぬらしつるかな

きた

方︑

       み       きみ   ト

   たがふことすくなき見るはあはれなるみかさの君がかはりと思へば

      おも       ●    なみだ       うれ

将 も︑思ひいで給ひて︑涙のこさでぞおはしましける︒﹁つかさもことに嬉しからず﹂とそのたまひ捌

(33)

   あにぎみ        たま        ける︒﹁兄君のなりいで給はむしりにたちてありかむとこそ思ひしか︒よろこびにありかむこ

  かな       〜      ぱ       たま との悲しきこと﹂とのたまひけれど︑いかがはせむとそありき給ひける︒

      うた    シ      も

  か くて近衛つかさの人きて︑歌ひののしれど︑なにのうれし・げもなくそ︑しほたれ 給ひける︒ た ま

  な   

や まいきなみだあめ を ト

  名にたてるみかさの山に入り来ても涙の雨になほぬるるかな

       きこ

か へ し︑うけたまはる人の聞えける︑

     やま      きみ  シ     つゆ     シ

    みかさ山あめはもらじをいにしへの君がかざしの露にぬるるぞ

    二 七

  白銀の花瓶

 も〜そのs       きみ  しろかね  はながめ  よ       つく        ころ  はな     やま      ●

桃 園 の 中納言の君︑白銀の花瓶を四つばかり作りて︑その頃の花さして山にたてまつり給ふとて︑

89 265

(34)

  やま  は ト      きみ     みやこ はな  お    そで

    山の端はかくしもあらじ君がため都の花は折れば袖ひつ 御 か

り︑

       きみ   お      はな      やま   は   つゆ  そで

    わ が ために君が折りける花みればすむ山の端の露に袖ぬる

     はな〜   きみ      きこ    ・       のぼ    みたま      だう        かめ  はな    s   をこ    ●

  さてこの花など︑君たちみな聞え給ひて︑みな登りて見給ふ︒念仏堂には︑この瓶に花たててなむ行ひ給ひける︒

    きみ     く   

に うだう きみ かた たま

  殿 上 の 君︑しかじかと︑入道の君に語り給ふ︒ある殿上人︑

     す       きみ

    うらに住むものといふとも君ともにかめさへのぼるみやまなりけり

 コ 同く︑殿上人︑

  よかは    な      いま     かめやま

    横 川てふ名にはたてれど今よりは亀山とこそいふべかりけれ

又︑        きみゐ  よかはかめ

    あはれなる君によはひをゆづりてぞ横川に亀もたちのぼりける

275 270

一40一

(35)

   ぜ じ  きみ

し︑禅師の君︑

  ひさ     ミ        み  おも     かめ いのち きみ

    久しくもなにかわが身を思ふべき亀の命は君にまかせん

280

    ゴ   近 江 の 北 の 方

  あぜちどの     もsその〜きた  かた    もと    あふみ  きた       ふみ         よ      おさな  sみ

                                                                                                       一   又 按 察 殿 より︑桃園の北の方の御許に︑近江の北の方の御文︑﹁いかに世の中をおぼしおはしますらん︒幼き君                                                                                                         41

   み      たま    かな      やま       ト

                                                                                                        一

た ちを見たてまつり給ふに悲しくおぼすらむ︒されど山にだにおはしませば︑たのもしくおぼしめすらむ︒ここにこ

      s      よ  なか        おも そ︑人かずに侍らねど︑ちちなしごをもてわづらひぬれ︒それは世の中をなにとは思はむ︒まつかの山の御すまひの

         さと  い    エ      いのち あはれなるをなむ︒里へ出で給ふまじとあるはまことか︒されど御命だにおはせば︑

       やま とし    ・     宮こ〜

    あしひきの山に年へむとおもへども都・こひしくならばいでなむ                                                                                                       鵬

      しで   としあ はべ

た とふべきことにはあらねど︑死出の山いりにしおきなどもの︑年をふれど逢ふことなく侍れば︑いみじく﹂とあ

(36)

りo

 きた  かた  ひめぎみ      きこ      ひめのきみ      きこ     

  北 の 方︑姫君に︑かくなむと聞え給へれば︑姫君の︑御かへり聞え給ふ︒

  みやこ         やま  い       こひ       

   ﹁都をばいとひて山に入りぬれど恋しからねば思ひいでじを

み ち  わす  ぐさ    お い

道 に 忘れ草こそ生ひたらめ﹂となむ︒

   

綿物奉入

   ぜ じ  きみ       きみ     やま  なつ  さむ        わたもの     したま      いろ   ひた︑れ

  この禅師の君の御はらからの君たち︑山は夏も寒かなるを︑綿物奉入し・給ふ︒中宮より︑くるみの色の御直垂︑

    ぞめ       ひとかさ      かは      あをにぴ  さしぬき あはせ はかま      たまふ  うた くちなし染のうちき一重ね︑ふるきの皮のおほんぞ︑青鈍の指貫︑袷の袴︑たてまつれ給へる歌︑

  なつ     やま  さむ      かぜ

   ﹁夏なれど山は寒しといふなればこのかはぎぬぞ風はふせがむ とてなむたてまつる﹂とあり︒

御 か へ し︑

290

42一

(37)

  やまかぜ      そで

    山風もふせぎとめつるかはぎぬのうれしきたびに袖ぞぬれぬる       班

    どのxきた  かた      ●       つむぎ あをいう  そ       ぶきいろ        かさ   あをにび  あや  さし

  大 納 言 殿 の 北 の 方のたてまつれ給ふ︒いともきよげなる紬を青色に染めて︑山吹色のうちき一重ね︑青鈍の綾の指 貫︑袷の袴ひとかさね︑たてまつれ給ふ︒そへられたる歌︑ ぬ き あはせ はかま      たま       うた

  きみ      つゆ    みやこ  ト ペ  こけ

    君 が た め た ちぬひたれば露そそふ都の野辺の苔のきぬには

か へ し︑       一

                                                                                                        48

    そ

はりけ・鰯もたえせぬ醤のきぬいと宝警ぬれまさるかな       叉

     きた  かた      たま      

  式部卿の北の方︑ひとりおはすれば︑ことなることおはせねど︑人のものし給ふに思ひしりてもあらねど︑ふすま

       

た て まつり給ふ︒

  つゆ       さむ

の ごとよひあかつきにおくなればよるの寒さにふすまかさねむ

し︑

(38)

       やまぶし  衣 ・ .        いま

    よるとてもうちふすまなき山伏はころもさだめず今よりそしく    

三 〇  ころもがは

       

  か くてこの中宮におはしますをみな人御ぞたてまつれ給ふが︑かならずわれとたてまつらむとのたまひければ︑

      あをにび       おな  いろ はかま      たま きさい宮われとぐしてたてまつらむとて︑青鈍のうちきひとかさね︑同じ色の袴ひとかさねなむたてまつれ給ひけ

る︒      トげ      かは       そで

    きみが影みえもやするところも川なみたちぬひに袖ぞぬれぬる

し︑

       かは       とし

    わがためになみのぬひけるころも川きてだになれむ年をわたりて

310 305

44一

(39)

一 三   湯 か たびら

 あい       トけふ      ゆどの     な

  愛宮︑われなにわざをせんとて︑きぬの御かたびらひとかさね︑ぬのの清らなると︑御湯殿しるかるらむにとて︑

         く      よ      ト

    きみがためなくなくぬへば世の中になみだもかかるころもたちけり

肥 避﹁いであはれや︑・れより・そ露のやうなりとも製はたてまつれまほしけれ︑ゆかたびら︑ただのと・い一                                                                                                         45

      く     み

                                                                                                        一

か に せ させ給へらむと︑あはれあはれと見たまふるに︑      鵬    たもとよりぬれけむそでもまだひぬにみにもしみぬるからころもかな﹂

が 北ミ の 方聖 に は

ヨ あ ふ

の か た み に と こ

そ 見み た

て ま

つ れ 一

い み

く あ は

に な

      たま となむきこえ給へりける︒

み じうあはれとなむご

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