線形代数第 2 資料 No. 1
担当:松田 晴英
4 ベクトル空間
ベクトル空間
高等学校では,ベクトルを『向きと大きさをもった量』と定義し,これが矢印を用いて表されると教わ ります。しかし,『向きと大きさをもった量』という表現が数学的に意味をもつためには,『向き』『大 きさ』『量』『向きをもつ』という表現が万人にとって共通に定められていなければなりません。一方で,
例えば,『向き』という表現が万人に共通して同じ概念として理解されているかというと,数学的には 正しいとはいえないでしょう。そこで, 『ベクトル』という概念そのものを拡げて定義しなおすことに し,ベクトルを幾何学的もしくは力学的イメージとは切り離して,純粋に論理的に定式化します。
集合
V
が空集合でなく,V
において,次の2
つの演算が定義され,教科書63
ページの欄外に挙げ られている(1)
〜(8)
の性質をみたすとき,V
をベクトル空間または線形空間といい,V
の要素をベ クトルという。•
(
ベクトルの和)
u+
v(u,
v∈V )
•
(
ベクトルのスカラー倍) au (u
∈V
,a
∈R)
高等学校で習った『ベクトル』のイメージをもったまま上の定義を読むと,違和感を覚えるかも知れま せん。ここではベクトルを『ベクトルとは· · · である』というように,陽的に定義するのでなく,教科 書
63
ページの欄外に挙げたすべての性質をみたすものをベクトルとよぶことにしたのです。このような アプローチをすることで,ベクトルの概念を論理的に捕らえることができるようになります。また,直 感的には『方向と長さをもった量』と考えられない数学的対象,例えば,数列や関数などもベクトルと して捉えることができ,これらの概念に共通して成り立つことをまとめて学ぶことができるのです。
零ベクトル ベクトル空間
V
において,次の性質をみたすベクトル0のこと。u
+
0=
0+
u=
u(u
∈V )
部分空間 ベクトル空間
V
の部分集合W
がV
で定められている和とスカラー倍を用いて,W
自身 がベクトル空間となるとき,W
をV
の部分空間という。
ベクトル空間
V
の部分集合W
が単なる『部分集合』でなく,『部分空間』であるかどうかをチェックす るには,教科書63
ページの欄外に挙げたすべての性質をみたしているかを調べないといけないと思われ るかもしれません。しかし,次の定理はその必要がないことを保障しています。
定理4.1.1 ベクトル空間
V
の部分集合W
が部分空間であるための必要十分条件は次の(i), (ii), (iii)
がみたされることである。(i)
0∈W (ii)
u,v∈W
ならば,u+
v∈W (iii)
u∈W, c
∈Rならば,cu
∈W
注意 ベクトル空間
V
の部分集合が部分空間であるか否かを判定するには,上の(i)
〜(iii)
がすべて成り 立っているかを調べればよく,教科書63
ページの欄外にある(1)
〜(8)
の性質をみたしているかを チェックする必要がないと主張する定理です。証明 必要性 ベクトル空間V の部分集合W が部分空間,つまり,V で定められる和とスカラー倍を用いて,W 自身がベクトル空間であるとき,(i)〜(iii)の条件が成り立つことはベクトル空間の定義から明らかである。
十分性 ベクトル空間V の部分集合W が(i)〜(iii)をみたすとき,W はV の部分空間であることを示す。
条件(ii)より,V におけるベクトルの和がW上に制限しても成り立つ。また,条件(iii)より,Rの元cに よるV のスカラー倍をW 上に制限しても成り立つ。さらに,条件(i)より,Wには零ベクトルが存在する。
したがって,教科書63ページの欄外にある(1)〜(8)はV で成り立っているので,W でも成り立つ。
例題4.1.2 (1) W =
{
x1 x2 x3
∈R3
2x1+ 3x2−x3= 0 · · · ⃝1 x1−2x2+ 3x3= 0 · · · ⃝2 }
(i)
0 0 0
は⃝1も⃝2もみたすので,
0 0 0
はWの要素である。つまり,
0 0 0
∈W
次に,(ii), (iii)が成り立つことを示す。このために,u=
u1
u2
u3
,v =
v1
v2
v3
をW の任意のベクトルとする と,uもvも⃝1,⃝2をみたす。すなわち,
{
2u1+ 3u2−u3= 0 · · · ⃝1′ u1−2u2+ 3u3= 0 · · · ⃝2′
{
2v1+ 3v2−v3= 0 · · · ⃝1′′
v1−2v2+ 3v3= 0 · · · ⃝2′′
このとき,
(ii) u+v=
u1+v1
u2+v2
u3+v3
に対して,⃝1′,⃝1′′を用いて,
2(u1+v1) + 3(u2+v2)−(u3+v3) = (2u1+ 3u2−u3) + (2v1+ 3v2−v3) = 0 + 0 = 0 が成り立つから,u+vは⃝1をみたす。また,⃝2′,⃝2′′を用いて,
(u1+v1)−2(u2+v2) + 3(u3+v3) = (u1−2u2+ 3u3) + (v1−2v2+ 3v3) = 0 + 0 = 0 が成り立つから,u+vは⃝2をみたす。よって,u+v∈W
(iii) cを任意のスカラーとするとき,cu=
cu1
cu2
cu3
に対して,⃝1′,⃝2′を用いて,
2(cu1) + 3(cu2)−(cu3) =c(2u1+ 3u2−u3) = 0 (cu1)−2(cu2) + 3(cu3) =c(u1−2u2+ 3u3) = 0 が成り立つから,cuは⃝1,⃝2をみたす。よって,cu∈W
以上から,W は部分空間である。
(2) W = {
x1
x2
x3
∈R3
2x1+ 3x2−x3= 1 · · · ⃝1 x1−2x2+ 3x3= 2 · · · ⃝2 }
0 0 0
は⃝1も⃝2もみたさないので,
0 0 0
はWの要素でない。よって,(i)をみたさないので,W は部分空間で ない。
今日のまとめ :教科書
4.1
節(63–65
ページ)の内容を扱いました。復習として :教科書
67
ページの1.
を解くことで,今回の内容を確認しましょう。次回 :教科書