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Vol.18 , No.1(1969)073岸部 武利「口伝鈔について」

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Academic year: 2021

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口 伝 砂 に つ い て ( 岸 部 )

口 伝 砂 の 成 立 に 関 し 古 来 種 々 論 じ ら れ た が、 昭 和 九 年 竜 大 の 佐 藤 哲 英 師 の 研 究 ( 宗 学 院 論 輯 第 十 六 輯 ) が 出 て、 こ れ が 定 説 化 の 観 を な し て い る。 然 し 其 後 実 査 し 得 た 古 写 本 も あ り、 又 異 つ た 観 点 か ら の 考 察 も 成 り 立 つ と 考 え る の で 申 し 述 べ 度 い。 発 表 時 間 の 関 係 も あ り、 本 願 寺 本 に 限 り 度 い。 西 本 願 寺 蔵 乗 専 筆 覚 如 自 筆 践 本 ( 以 下 Aと 称 す ) 蚊 に 竜 大 蔵 康 永 三 年 覚 如 自 筆 本 ( 以 下 Bと 称 す ) の 蹟 に 拠 れ ば、 本 砂 は 元 弘 元 年 十 一 月 下 旬 宗 祖 寂 後 七 十 年 目 の 報 恩 講 七 日 七 夜 の 勤 行 中 に、 如 信 上 人 面 授 口 決 の 祖 師 聖 人 の 御 己 証、 他 力 真 宗 の 肝 要 を 談 話 さ れ、 乗 専 を し て 記 せ し め ら れ た も の で あ る。 従 つ て 此 時 は 当 然 十 四 座 の 法 話 で あ つ た 筈 で、 此 を 文 章 に す れ ば 十 四 章 と な る べ き で あ る。 古 来 此 の 点 に 留 意 さ れ 無 か つ た の で、 混 乱 が 生 じ た と 考 え ら れ る。 現 存 古 写 本 の 構 成 を 検 す る に、 二 巻 本 ・ 三 巻 本 の 別 は あ る が 上 巻 に 関 す る 限 り、 例 外 な く 八 章 よ り 成 立 し て い る。 然 る に ﹁A﹂は 下 巻 の み し か 現 存 し な い が 六 章 構 成 で あ る。 上 巻 の 構 成 に 問 題 が 無 い か ら、 元 弘 元 年 本 は 上 下 二 巻 十 四 章 構 成 で あ つ た と 考 え ら れ る。 更 に ﹁A﹂に は 元 弘 元 年 覚 如 自 筆 の 践 が あ る。 此 が 自 筆 で あ る 事 は ﹁B﹂の 署 名、 西 本 願 寺 蔵 留 守 職 文 書 の ﹁ 宗 昭 ﹂ と 比 較 す る 事 に よ り 確 認 せ ら れ る と 共 に ﹁A﹂、﹁B﹂の 践 文 が 全 同 で あ る 事 に よ り 証 せ ら れ る。 即 ち 偽 文 の 践 を 自 著 に、 本 人 が 騰 写 し 付 す る 事 は 考 え ら れ な い。 又、 践 文 に 拠 れ ば 元 弘 元 年 の 法 話 の 資 料 は 如 信 上 人 面 授 口 決 の も の で あ つ た 筈 で あ る。 然 る に 現 行 本 二 十 一 章 か ら、 先 の 十 四 章 を 除 い た 七 章 の 内 容 を 検 す る に 恵 信 尼 文 書 を 中 心 と し て い る 事 が 明 か で あ る。 即 ち 本 願 寺 個 有 の 資 料 を 中 心 と し て い る か ら、 如 信 上 人 面 授 口 決 の 強 調 に 反 す る。 乗 専 筆 写 の 康 永 二 年 本 ( 以 下 Cと 称 す ) も 上 下 二 巻 十 四 章 で あ つ た、 勿 論 下 巻 は 六 章 構 成 で あ る。 ( 此 の 本 は 兵 庫 県 毫 摂 寺 に 大 正 十 一 年 十 月 下 旬 ま で 存 在 し て い た が、 現 在 は 所 在 不 明、 但 し 上 記 日 時 に 故 鷲 尾 教 導 師 が 複 写 せ ら れ た も の が 竜 大 に あ り ) 其 処 で

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-324-﹁A﹂を 底 本 と し て ﹁C﹂と 対 校 し た 結 果、 相 違 個 所 四 十 五。 そ の 内 容 を 云 へ ば、 左 訓 ・ 読 み 仮 名 ・ 註 の 脱 落 二 十 六 音 韻 の 相 違 十 四 文 字 の 相 違 三 其 他 二 で あ つ て、 重 大 な 変 化 は 認 め ら れ な い。 依 つ て ﹁A﹂の 上 巻 ば ﹁C﹂と 同 一 と 考 え ら れ る。 次 に、 諸 記 録 に よ り 明 か な 通 り、 乗 専 は 覚 如 に 随 順 し た 人 で あ る か ら、 恣 意 に 任 せ て 覚 如 の 撰 述 し た 聖 教 を 改 変 す る 人 と は 考 え ら れ な い。 改 邪 砂 は 本 砂 と 同 様、 乗 専 の 関 与 に よ り 成 立 し た 事 は 慕 帰 絵 詞 ・ 最 須 敬 重 絵 詞 に て 明 か で あ る が、 乗 専 の 恣 意 に よ り 改 変 せ ら れ た と の 事 を 聞 か ず、 又 改 変 せ ら れ た 古 写 本 が 無 い 事 は、 消 極 的 で は あ る が、 口 伝 紗 に も 所 謂 乗 専 改 変 本 が 無 い 事 の 傍 証 と 出 来 る。 三 巻 本 の 構 成 を 見 る に、 上 巻 八 章、 中 巻 六 章、 下 巻 七 章 の 本 ( 以 下 甲 と 称 す ) と 上 巻 八 章、 中 巻 七 章、 下 巻 六 章 の 本 ( 以 下 乙 と 称 す ) の 二 種 あ り、 調 巻 の バ ラ ン ス を 考 え る と ﹁ 甲 ﹂ が 優 れ て い る 事 は 議 論 の 余 地 が 無 い。 ﹁、 甲 ﹂ の 成 立 の 時 期 は 新 潟 県 浄 興 寺 本 の 践 を 認 め る 限 り 建、 武 四 年 以 前 と 考 え ら れ、 最 下 限 は 覚 如 自 筆 本 に よ り 康 永 三 年 と 考 え ら れ る。 康 永 三 年 覚 如 自 筆 本 を 底 本 と し て、 そ の 直 系 と 考 え ら れ る 写 本 三 本 を 検 す る に、 谷 大 蔵 禿 奄 文 庫 本 ( 右 コ ノ 本 ハ 覚 如 上 人 の 御 シ ヒ チ ノ ホ ン ヲ モ テ 一 モ ン ヲ タ カ ヘ ス カ キ ウ ツ シ タ ル 物 ナ リ 文 明 十 七 年 二 月 二 五 旧 花 押 の 蹟 を 有 す ) が 最 も 近 く、 竜 大 蔵 写 字 台 文 庫 旧 蔵 本 が そ れ に 次 ぎ、 岐 阜 県 専 精 寺 本 は 古 来 覚 如 自 筆 本 と 称 さ れ て 来 た が、 字 態 も 若 く 可 成 の 相 違 が 認 め ら れ る。 然 し 本 文 が 漢 字 と 平 仮 名 で あ る と 言 う 点 で は、 覚 如 自 筆 本 ・ 禿 奄 文 庫 本 ・ 専 精 寺 本 が 一 致 し、 書 物 の 形 態 が 枡 型 本 で あ る 事 で は、、 覚 如 本 と 専 精 寺 本 が 一 致 す る。 ﹁ 甲 ﹂ 系 統 の 古 写 本 を 検 す る に 富 山 県 浄 興 寺 本、 石 川 県 勝 満 寺 本 ( 佐 藤 師 の 先 掲 論 文 で は 原 本 を 確 認 し て 居 ら れ な い が 現 存 し て い る )、 大 阪 府 光 徳 寺 本 ・ 真 宗 寺 本 ( 此 本 は 佐 藤 師 論 文 の 光 善 寺 本 か と 考 え ら れ る 節 あ り ) ・ 浄 照 坊 本、 谷 大 蔵 端 坊 旧 蔵 本 ・ 又 一 本、 西 本 願 寺 蔵 蓮 如 自 筆 本 ・ 又 一 本 ( 中 巻 の み の 本 ) の 九 本 あ り。 二 巻 本 虹 に ﹁ 乙 ﹂ で 底 本 が 明 か な も の を 検 す る に、 西 本 願 寺 蔵 乗 専 自 筆 本 は 元 弘 元 年 ・ 西 本 願 寺 蔵 浄 真 本 は 元 弘 二 年、 兵 庫 県 毫 摂 寺 本、 京 都 府 常 楽 台 本 は 夫 々 康 永 二 年 乃 至 康 永 二 年 本 を 底 本 と し て 成 立 し て い る。 浄 興 寺 本 を 除 い て 考 え る と、 康 永 三 年 覚 如 自 筆 本 成 立 以 前 に 属 す る。 従 つ て 初 稿 本 は 矢 張 二 巻 十 四 章 構 成 で あ つ て、 康 永 三 年 の 覚 如 の 増 補 が 出 来、 そ の 結 果 従 来 所 持 の 二 巻 本 に、 そ の 増 補 部 分 を 中 巻 と し も の が ﹁ 乙 ﹂ 本 で あ る と 考 え ら れ る。 此 を 立 証 す る 例 と し て は 、 大 阪 府 妙 琳 坊 蔵 の 二 部 の 口 伝 紗 で あ る。 即 ち そ め 一 本 は 大 阪 府 浄 照 坊 蔵 本 の 複 写 本 で あ る。 浄 照 坊 本 に は ﹁ 右 此 口 伝 砂 者 当 流 之 肝 要 /秘 蔵 書 也 錐 然 河 内 口 伝 砂 に つ い て ( 岸 部 )

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-325-口 伝 紗 に つ い て ( 岸 部 ) 国 渋 河 郡 久 宝 寺 /法 円 依 所 望 予 初 一 丁 之 分 染 筆 詑 /外 見 労 可 有 掛 酌 者 而 已 /時 也 文 正 弐 歳 二 月 十 六 日 /釈 蓮 如 ( 花 押 )﹂と あ り、 上 巻 は 焼 失 し た 由 で あ る が、 下 巻 の こ の 蹟 は 明 か に 蓮 如 の 筆 跡 で あ る。 現 存 の 中 ・ 下 巻 を 検 す る に ﹁ 甲 ﹂ に 属 す る。 妙 淋 坊 蔵 の 一 本 は、 右 蹟 を 有 す る が 筆 跡 は 蓮 如 で 無 い か ら、 浄 照 坊 本 が 蓮 如 の 伝 授 本 で あ る 事 を 知 つ て 乞 う て 複 写 し た も の と 考 え ら れ る が、 そ の 構 成 は ﹁ 乙 ﹂ で あ る。 蓮 如 の 伝 授 本 の 権 威 を 認 め て 書 写 し た に も 不 拘 何 故 に、 斯 様 な 変 化 が 生 じ た か。 そ れ は 妙 琳 坊 に 今 一 本 ﹁ 貞 和 二 年 丙 戊 八 月 上 旬 候 令 校 合 奉 授 与 之 ﹂ の 蹟 あ る 一 本 が 所 蔵 さ れ て い た か ら で あ る。 此 の 本 は 門A﹂ に 属 す。 蓮 如 伝 授 本 で あ る 浄 照 坊 本 と 対 校 す る に、 此 の 旧 蔵 本 に は 七 章 不 足 し て い る 事 に 気 附 き、 精 検 す る に 構 成 順 序 も 行 文 も 等 し い、 只 中 途 七 章 の み が 不 足 し て い る の で、 旧 蔵 本 を 底 本 と し で 不 足 分 を 中 巻 と し て 増 補 す る と 共 に 蓮 如 の 権 威 に 服 し 浄 照 坊 本 の 蹟 文 を も 筆 写 し て 成 立 し た の が、 妙 琳 坊 蔵 有 蓮 如 践 本 だ と 考 え ら れ る。 ﹁ 乙 ﹂ 構 成 の 三 巻 本 の 成 立 事 情 を 示 す 好 例 と 考 え ら れ る。 一 一巻 本 蛇 に ﹁ 乙 ﹂ 系 本 と し て は、 西 本 願 寺 歳 乗 専 自 筆 本 ・ 浄 真 本、 兵 庫 県 毫 摂 寺 本、 大 阪 妙 琳 坊 本 ( 貞 和 本 )。 京 都 府 常 楽 台 本、 大 阪 願 得 寺 本 ・ 妙 琳 坊 本 ( 有 蓮 如 蹟 )、 谷 大 蔵 端 坊 旧 蔵 本 ・ 恵 空 本、 愛 知 県 浄 光 寺 本 ( 下 巻 の み 現 存 ) の 十 本 が あ る。 此 の 他 に、 谷 大 蔵 山 田 文 昭 旧 蔵 本 と 家 蔵 の 一 本 と 断 簡 一 葉 ( 家 蔵 ) が あ る が、 初 め の 二 部 は 上 巻 の み、 他 は 断 簡 で あ る 為 め 決 め 手 が 無 い。 但 し 初 め の 二 部 は 所 謂 高 田 本 に 似 て い る 個 所 が あ る。 高 田 本 を 論 じ る 時 ま で 保 留 し 度 い。 猶、 浄 興 寺 本 は 未 だ、 眼 福 を 得 ず 部 分 的 な 写 真 を 見 た の み で、 全 文 を 精 査 し て 居 ら な い の と 他 に、 慈 俊 ( 従 覚 ) 系 の 古 写 本 を 愚 目 し な い 為 め に、 三 巻 本 の 成 立 を 建 武 四 年 以 前 に す る 事 は 保 留 し 度 い。

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