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博士論文審査報告書

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Academic year: 2022

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早稲田大学大学院国際情報通信研究科

博士論文審査報告書

論 文 題 目

幼児の学習行動に着目した音環境計画

-教育音響学の試み-

Environmental Planning of Sound based on Children’s Learning Behavior - A Study of Educational Acoustics -

申 請 者

野口 紗生

Saki NOGUCHI

国際情報通信学専攻 音響情報処理研究Ⅱ

20122氏 名

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1

音は人間のコミュニケーション手段である音声会話を成立させる重要な要素であ る。また言葉をやりとりする際に意味や感情を音に込めたり、音の大きさや高さ、

音色や響きの違いなどから環境の変化や音源の位置等の空間情報を無意識に感じて いる。人間はこの様に日常社会生活に不可欠な音を巧みに発し、聞き分ける能力を その成長過程において身につけている。身体の外面的な発達と同様に心的、内面的 な発達が特に著しい就学前の幼少期において、音環境が後の人間形成に与える影響 は極めて大きい。

一方、音環境の計画と設計は、対象となる場の活動目的に合わせて利用形態や適 切な性能、仕様等を検討することから始まり、空間のあり方などの意識が人々の間 で共有されていることを前提に行われている。慣例や習慣、礼儀作法などに類する もののみならず先天的で生理的な感覚閾値等に関しても、この前提は生活場面にお ける学習と社会における教育によって形成されると捉えることができる。特に日常 生活空間における音環境の計画を適確に行うには、従来の音響学における音源と受 音間の信号伝送系をモデルとした研究に加え、人間と環境系の相互作用として音環 境を把握、考察することが不可欠であると申請者は主張している。

本論文は社会的実践による快適な音環境づくりを目指し、特に音環境と幼児期の 子どもの学習活動との相互のかかわりを明らかにし、多様な観点から音環境デザイ ンの方法を提案したものである。

以下、本論文の章ごとに概要を述べ、評価を加える。

第1章「序論」では、音響学、建築学、心理学、および教育学での本論文の主題 と関連する近年の取り組みを概説し、本論文の位置づけと目的を述べている。

第2章「幼稚園施設の音環境調査」では幼稚園における幼児の活動を、学習目的 が設定されている一斉保育場面と、自由に遊びを展開する自由保育場面とに分類し、

各場面を観察し、音を時系列的に周波数解析した結果との照合分析から、幼児の学 習と音環境との関わり及び音環境の形成過程の把握を行っている。詳細な記録・測 定・分析により個々の活動時間帯の長短など各施設の特徴を反映した発生音の予測 が可能となった。

従来、学習と音の関係については情操や表現を重視した音楽教育の観点から研究 された例が多いのに対し、環境に在る人間の学習のきっかけを音事象と幼児の行動 の関係から探究している点は評価される。

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第3章「幼児の聴取位置に着目した音場観測」では、幼児の耳の位置、受音する 高さに着目して、幼稚園施設室内の残響時間、インパルス応答、音圧レベル分布、

近接4点法を用いた仮想音源分布、指向性パターンの測定を、現状および吸音材を 床や壁に配置した状態で行っている。また幼児の自由保育場面における発生音の測 定を施設内オープンスペースで受音高さ別に行っている。これらの測定結果から幼 児の耳の高さの音場は、床面反射音に加え身近な備品からの反射音による違いが大 きく、幼児の行動に影響を与えていることを明らかにしている。言葉の聞き取りや すさ等が幼児と大人とでは異なる状況もあり得ること、視環境と同様に音響面でも 備品の大きさ、特に高さや素材による吸音率の違いに着目した部位や備品の選定が 重要であることを指摘している。

対象室内における人間の行動分析と併せた検討結果から、身近な建築材料、備品 による反射音の影響が大きいことを定量的に明らかにした点は評価される。

第4章「床材に着目した音環境デザイン」では、第2・3章の調査結果を踏まえ、

床面反射音の影響が大きかったこと、および椅子や御座等を床に配置する保育者の 働きかけ行為に着目して、木質フローリング仕上の施設の床に二種の絨毯を敷き込 む実験について論じている。実験条件による、残響時間、音圧レベル分布、および 床衝撃音測定用ボールや幼児遊具等を床に自由落下させた時の発生音圧レベルと振 動加速度レベルを測定し、環境の違いによる幼児の行動とそれに伴う発生音の変化 を観測した。その結果、環境に変化を与えた条件下では音響特性自体の変化に加え 幼児の行動の変化が現れ、音環境へ大きく影響することが明らかになった。

人間の行動の結果として音環境が形成されていることが保育実環境において示さ れ、同一空間を多目的に用いる幼児施設では、身近な備品等により音空間を設定で きる可能性を示唆した点は評価される。

第5章「教育音響学の試み」では、第2~4章における幼児の学びの場としての 音環境についての考察と調査対象幼稚園保育者への意識アンケート調査の回答分析 から、音環境計画に際し、音を学びのきっかけとして保育者が働きかける取り組み について論じている。環境に属する人間が現状の音環境に課題を見出す過程を、観 察、測定、実験、回答結果から抽出し、発達段階にある幼児の音環境が行動のフィ ードバックとして大きく影響を受けていることを明らかにしている。

教育施設を計画・設計する側と施設を使用・運営する側との、より密接な交流に つながる提案として評価できる。

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第6章「総括」では本論文で得た成果をまとめ、今後の検討課題と応用の方向性 について述べている。

以上要するに本論文は、従来の音響学における音源と受音間の信号伝送系をモデ ルとした方法とは異なる、人間と環境系の相互作用に着目した音響計画を提案して いる。特に、幼稚園での詳細な現場観察、測定を行い、その結果に基づいて人間の 行動の結果として音環境が形成されていること示した。教育施設の音響設計のみな らず音環境計画全般に対しても新たな道を開くものであり、国際情報通信学の発展 に寄与すること大である。よって本論文は博士(国際情報通信学)(早稲田大学)の 学位を授与するに値するものと認める。

2012 年 2 月 24 日

審査員:主任 早稲田大学教授 工学博士(早稲田大学) 山﨑 芳男 早稲田大学教授 博士(美術)(東京藝術大学) 長 幾朗

早稲田大学教授 藪野 建

早稲田大学教授 博士(人間科学)(早稲田大学) 河合 隆史 早稲田大学准教授 博士(工学)(早稲田大学) 及川 靖広

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