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経済研究所 / Institute of Developing

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Academic year: 2022

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第10回 妻の財産権の保障がHIV感染率を引き下げる のか

著者 牧野 百恵

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名 IDE スクエア ‑‑ コラム 途上国研究の最先端

ページ 1‑2

発行年 2018‑12

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL http://doi.org/10.20561/00050629

(2)

リレー連載

第10回

途上国研究の最先端

妻の財産権の保障が HIV 感染率を引き下げるのか

牧野 百恵

Momoe Makino 2018年12月 今回紹介する研究

Siwan Anderson. 2018. "Legal Origins and Female HIV," American Economic Review 108 (6) : 1407–1439.

サブサハラアフリカ(以下アフリカ)諸国でみられる、男性より女性のHIV感染者 の方が多いという現象は、世界でも特殊であり、HIV/AIDSの「女性化(feminization)」

と呼ばれている。アフリカ諸国でこのような現象が見られるのはなぜか? 本研究は、

その理由の一つとして家庭内交渉力に注目し、妻の財産権の保障が避妊方法に関する 妻の交渉力を引き上げ、HIV感染率を下げることを実証している。妻の財産権の保障 の程度は、法体系の由来――コモン・ローか大陸法か――によって異なる。これまで の途上国に関する研究では、大陸法よりコモン・ロー由来の法制度の方が、一般的に 契約の強制執行や財産権の保障に関して優れており、経済開発につながることが示さ れてきた。しかし、こと妻の財産権の保障、具体的には、家事労働の経済的評価、共 有財産権の保障、離婚時の妻の財産権(折半)の保障、の3点については大陸法の方 が優れており、本研究によればその違いが女性の HIV 感染率の違いにつながってい るという。

法体系→妻の財産権の保障→避妊方法に関する家庭内交渉力→HIV感染率という チャネル

家族経済学の交渉モデルによると、婚外オプションに恵まれているほど、家庭内交 渉力が強い。本研究の家庭内交渉力は、夫の協力が必要な避妊方法(コンドームの使 用など)をとっているか否かに着目する。これらの方法は、ピルなど夫の協力がいら ない避妊方法に比べ、性感染症を防ぐことに効果的である。離婚時の妻の財産権が保 障されていると、妻にとって結婚を解消するというオプションが現実味をもち、妻は 夫の協力が必要な避妊方法を交渉できるようになり、結果として HIV 感染率を下げ るというメカニズムである。

実証で用いているアウトカムは、HIV感染率、避妊方法、妻の所有財産の有無、

妻の意思決定権の程度である。識別戦略は、結婚慣習などを共有するが国境で隔て られている同一民族内で、コモン・ロー側の国の集団と大陸法側の国の集団で、両 者のアウトカムに違いが出るか、という点である。主な標本は、違う法体系をもつ 国境にまたがる同一民族に属し、血液採取により HIV感染に関する正確な情報と GPSによる位置情報が得られる女性に限っている。標本数は 2003年から2013 年 にかけて20カ国のDHS(Demographic and Health Surveys)データから得られる女 性約11万人である。

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法体系の違いが女性のHIV感染率に違いをもたらす

実証結果によると、コモン・ロー体系の国の女性は、HIV感染率が25%高く、夫の 協力が必要な避妊方法を用いている割合は30%低い。離婚や死別後に財産を所有して いる割合や意思決定権の程度も、コモン・ロー体系の国の女性の方が低い。

想定している交渉モデルが当てはまるためには、一国の法制度の浸透が弱いアフリ カ諸国において、フォーマルな法律が女性の私的生活において実際に意味をもたなけ ればならず、著者もそれをサポートする実証結果を示すことに心を砕いている。具体 的には、主な実証結果が、電化が進んでいる地域、つまり国の法制度が浸透していそ うな地域にしかみられないことや、土着の慣習法が生活を律している可能性の高いム スリムや一夫多妻制の慣習がある人々にはみられないこと、などである。そのほか、

コモン・ロー体系と HIV 感染率との相関を説明しそうな他の可能性も丁寧に反証す ることで、法体系の由来が女性の HIV 感染率を説明するという壮大な仮説に説得力 をもたせているといえよう。■

著者プロフィール

牧野百恵(まきのももえ)。アジア経済研究所地域研究センター研究員。博士(経済 学)。専門分野は家族経済学、人口経済学。著作に"Dowry in the Absence of the Legal Protection of Women's Inheritance Rights"(Review of Economics of the Household, 2017)、

"Marriage, Dowry, and Women's Status in Rural Punjab, Pakistan"(Journal of Population Economics, 2018)等。

参照

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