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韓国における人材育成政策の転換と ナショナル・カリキュラムの変化

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ナショナル・カリキュラムの変化

― 初等教育低学年統合教科を中心に ―

井 手 弘 人

A Study on the Relativity of Transforming Human Resources Development Policy and National Curriculum in South Korea: focusing on

the integrated curriculum for elementary education of grade 1 - 2 Hiroto IDE

長崎大学教育学部紀要−教育科学− 第75号 別刷 2011年3月

Reprinted from Bulletin of Faculty of Education Nagasaki University : Educational Science, No. 75 (2011)

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長崎大学教育学部紀要−教育科学− 第75号 53〜62 (2011年3月)

韓国における人材育成政策の転換と ナショナル・カリキュラムの変化

― 初等教育低学年統合教科を中心に ―

井 手 弘 人

A Study on the Relativity of Transforming Human Resources Development Policy and National Curriculum in South Korea: focusing on

the integrated curriculum for elementary education of grade 1 - 2 Hiroto IDE

はじめに

2011年度より、新しい学習指導要領が全面実施される。すでに2009年度より小学校に 関しては算数・理科の授業時間数増加等が先行して行われているが、この数理領域を重視 する方針は直接関連する教科にのみ影響を与えているわけではない。具体的には、低学年 の統合教科である生活科に関して、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会が学 習指導要領改訂前にまとめた「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ」(2007年 11月7日)において、その事例を見ることができる。そこには、「改善の具体的事項」と して「中学年以降の理科の学習を視野に入れて、児童が自然の不思議さや面白さを実感す るよう、遊びを工夫したり遊びに使うものを工夫して作ったりする学習活動を充実する。

…」と示された。これを受ける形で、2011年度からの新しい学習指導要領では生活科の 内容(6)に「…遊びや遊びに使う物を工夫してつくり、その面白さと自然の不思議さに気 づき…」と明記され、科学的な見方・考え方の基礎を養うことが期待されている(野田,

2008)。

これらの背景には、「学力の国際化」を目指す動向が大きく関わっている。すなわち、

OECDが行っている「国際学習到達度調査」(PISA:Programme for International Student Assessment)

など、国際的に統一された基準で「測定」され、国家別に公表される「学力」として示さ れた結果を、ナショナル・カリキュラム上の「課題」として解釈し、改編の機会としてい る状況である。実際、新しい学習指導要領「総則」には、「…,OECD(経済協力開発機構)

のPISA調査など各種の調査からは,我が国の児童生徒については,例えば,①思考力・

判断力・表現力等を問う読解力や記述式問題,知識・技能を活用する問題に課題,②読解 力で成績分布の分散が拡大しており,その背景には家庭での学習時間などの学習意欲,学 習習慣・生活習慣に課題,③自分への自信の欠如や自らの将来への不安,体力の低下とい った課題,が見られるところである。このため,平成17年2月には,文部科学大臣から,

21世紀を生きる子どもたちの教育の充実を図るため,教員の資質・能力の向上や教育条 件の整備などと併せて,国の教育課程の基準全体の見直しについて検討するよう,中央教

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育審議会に対して要請があり,同年4月から審議を開始した。…」とある。つまり、「国 際的に」明らかになった「課題」を、「国内の」学習指導要領改定や教師教育(教員養成 教育及び現職教員教育)によって「克服」しようとする国家的意図が表明されているので ある。

国際的に求められている「学力」インパクトを受け、これを国内の教育上の課題として

「克服」しようとする動きは、日本以外でも当然起こり得るものである。かつ、そのイン パクトへの対応は、それ以前から国家が抱える、教育をめぐる「文脈」(context)を前提 に作用すると考えられる。「文脈」の相違は、グローバル・スタンダードの「自国化」を めぐる動きの相違と密接に関連していると仮説立てることができよう。

本稿では、隣国である韓国を対象として、初等教育低学年統合教科に焦点をあてて近年 のナショナル・カリキュラム改編の動向とその「文脈」について分析することを目的とす る。韓国の初等教育低学年統合教科に焦点をあてる理由は、以下の3つである。すなわち

①日本の初等教育低学年統合教科(生活科)に先行して、かつ段階的に、教科の統合を実 現させたものであること、②日本の生活科が理科・社会を「廃止」して「新設」された教 科とされ、以後その枠組みが一貫しているのに対し、韓国の初等教育低学年統合教科は、

時期ごとに統合・分化を繰り返してきた経緯があり、日本の状況と異なる。したがって、

その相違性の構造に着目することで、「自国化」の「文脈」を分析することが可能なこと、

③韓国における「文脈」を明らかにすることで、日本のそれとの比較考察を行う上での基 盤を形成しうること、である。

1.韓国「教育課程」における低学年統合教科の変遷過程

⑴ 第4次教育課程 −限定的統合の誕生

まずはじめに、30年余りの韓国低学年統合教科の流れについて概観しておこう。

韓国における低学年統合教科の動きは、日本よりもやや早い1980年ごろから本格化す る。1981年に公示された第4次教育課程において、初等教育(当時は「国民学校」)1,

2年について統合的運用を図ることとされた。具体的には、道徳・国語・社会科をまとめ て各学年374時間(週当たり11時間)、算数・自然科(日本の理科に相当)をまとめて第 1学年204時間(同6時間。第2学年については従来どおり算数136時間(同4時間)自 然68時間(同2時間)とした)、体育・音楽・美術科をまとめて第1学年204時間(同6 時間)第2学年238時間(同7時間)というように、教育課程上の時間配当基準を3つの 教科群に再編して柔軟性をもたせた。また、主たる教材である教科書についてもそれぞれ

「正しい生活」「賢い生活」「楽しい生活」という名で「統合」して発行した。ただし、こ こでの教科統合の論理は、増加する一方であった学習内容の「精選」の一環としての色彩 が濃かった。実際、時間配当基準や教科書の「統合」が実現したとは言っても、各教科の 目標や内容に関しては従来どおり教科別に示されており、この意味で教科そのものの統合 ではなく、主たる教材である教科書の限定的な「統合」であった。その半面、「正しい生 活」「賢い生活」「楽しい生活」の3つの名称が、後述する統合教科の正式誕生後も引き続 き用いられていることを考慮すれば、初等教育低学年における統合教科が成立する契機に なったと言うこともできるだろう。

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⑵ 第5次教育課程 −統合教科の誕生

1987年告示の第5次教育課程で先ず特徴的なことは、初等学校のスタートカリキュラ ムとして「私たちは一年生」が提示された点である(年70時間)。これは、入学したばか りの1年生を対象として3月から開始される新学期1ヶ月間、全ての教科に先行して行わ れる教科で、学校への適応を目指した準備教育内容を総合的に実施するものである(教育 部,1998,p.201)。さらに、第4次教育課程では教科書の名称に過ぎなかった「正しい 生活」(120時間)「賢い生活」(60時間)「楽しい生活」(180時間)が教科として正式に 示された。

しかし一方で、この3つの統合教科の統合形態には大きな変更がおきる。第4次教育課 程で「正しい生活」の中に組み込まれていた国語、及び、「賢い生活」の中にあった算数 については、これらの教科とは別教科として分離された。この二教科の分離については、

教育課程改編のプロセスにあった1986年の夏から秋にかけて大きな議論になり、結論が 出なかった。教育課程改定に大きな影響を与える韓国教育開発院(KEDI)の研究報告で は、他国に比べて韓国の教育課程において低学年の言語及び数理領域の時間配当が少ない こと、現場教員から国語及び算数を分離する声が支配的であることを述べつつも、問題は 統合の在り方ではなく教科書の内容にあるとして「『正しい生活』を言語中心に,『賢い生 活』を数理中心に構成すれば現場と学会の対立する二つの意見を発展的に調整・統合でき ると考える」(韓国教育開発院,1986,p.66)としていた。しかしながら、「児童の学習 不振に最も直接的に大きな影響を与えるのは言語と数理能力であり,この領域は体系的に 強調して指導すべきだと力説」(金在福,1986,p.53)する現場側の「基礎学習技能」低 下懸念の声を受け、最終的には国語と算数が分離される形となった。現在も続く低学年統 合教科の編成に影響を与える「学力」と「知」との関係をめぐる議論は、この第5次教育 課程改編期におけるものが契機となっている。

⑶ 第6次教育課程 −新しい「統合軸」の模索

1992年に告示された第6次教育課程では、「正しい生活」と「賢い生活」の統合形態が 再び改められた。すなわち、「正しい生活」から、社会科に関連する内容が「賢い生活」

へと移行した。これによって、「賢い生活」で扱われる内容編成は、日本の生活科と近接 した形態になったと言える。

この統合論理の変化は、韓国にとって画期的なものであった、第4次・第5次教育課程 までの低学年統合教科では、近接する学問領域間で統合を指向する傾向があった。例えば、

「正しい生活」における道徳と社会科との統合は、民族国家における市民的資質の形成と いう側面から、また、第4次教育課程における算数と自然との統合は、自然科学分野の統 合をそれぞれ企図したものであった。しかし、第6次教育課程における「賢い生活」の統 合は、内容に関して人文・社会科学分野と自然科学分野との統合を指向している。キム・

スンホ(1999,p.52)が指摘しているように、第5次教育課程における「賢い生活」が 自然現象を中心とした科学的探究意欲を育てることをねらいとしていたのに対し、第6次 教育課程のそれは、自然現象と社会現象を統合した周辺現象に対する探究へと、その幅を 拡大したのであり、発達上自然現象と社会現象を分離して考えることが難しいという児童 の実態に合わせた改編であったと言うことができる。

井手:韓国における人材育成政策の転換とナショナル・カリキュラムの変化 55

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⑷ 第7次教育課程 −「グローバル・スタンダード」の本格導入

1997年に告示された第7次教育課程に関しては、後述する「教育の世界化」構想の下、

低学年統合教科の内容についても大きな変化がおこった。道徳を基本とした「正しい生活」

においては、国際理解教育の概念が入ることとなり、これに関連する形で、北朝鮮を意識 した「統一教育」を強化した。このほか、「正しい生活」では環境教育についても内容と して重視されるようになる。「賢い生活」については、社会環境と自然環境の双方を扱う 形態が維持されたが、概念形成を重視した第6次教育課程の内容では学校現場で統合的な 指導をしにくいという指摘から、概念と知識中心の学習を転換し、学習に対する興味を高 めること、及び周辺環境の理解を支援できるように、活動中心の内容を選定・組織した。

そして、国際的な「学力」として求められる探求能力を育てるため、観察、分類、測定な どの基礎行動を経験できるようにした(教育科学技術部,2008,p.9)。

⑸ 改定第7次教育課程(2007年改定教育課程) −内容から方法の強調へ

この教育課程改定より、「第○次」のような名称を使わず、必要に応じて随時改定して いく方法に改められた。低学年統合教科については、学習内容ではなく学習方法について、

「変化」を促している点が特徴的である。すなわち、前回の教育課程で強調された「経験 中心」の編成について、教育課程内容の「伝達」意識が強い教師側に浸透しにくい実態を 考慮して、教育課程では主題提示を中心とし、「計画(導入)」「実行(展開)」「整理」の 三段階に分けて児童の活動を分類し、主題をもとに児童の実態に応じてそれぞれの段階に 適合した指導をする方法の事例を示すなど、児童の生活経験をもとにした「主題学習」の 推進を前面に掲げた。

⑹ 2009年改定教育課程 −統合論理の「揺り戻し」

前回の改定からわずか2年で再改定された2009年改定教育課程では、大きな変化が加 えられた。すなわち、「学年群」及び「教科群」の設定である。初等教育においては、低 学年(1,2学年)中学年(3,4学年)高学年(5,6学年)の3つの「学年群」が設 定され、さらに、国語、社会・道徳、数学、科学・実科、体育、芸術(音楽・美術)、英 語の教科群が示された。低学年統合教科においては、スタートカリキュラムとして設定さ れていた「私たちは1年生」が廃止され、特別活動と裁量活動(日本の総合的な学習の時 間に相当)とを組み合わせて新設された「創意的裁量活動」の時間に、その役割を移した。

また、3学年以後の教科群編成に適合するように、これまで「賢い生活」に含まれてい た社会領域が「正しい生活」に含まれ、「賢い生活」には自然科学系と実科(日本の技術 家庭科に相当)、さらにこれまで「楽しい生活」に含まれていた体育内容が新たに含まれ ることとなった。また、「楽しい生活」には新たに外国語活動が入ることとなり、これま での統合論理から大きく変化した。

第4次教育課程から2007年改定教育課程までの初等教育低学年統合教科の変遷につい て、チョン・グァンスン(2010)は、第7次教育課程を境に、統合の性格が変化してい るとしている。すなわち、第4次教育課程から第6次教育課程では教育内容に対する量的

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区分 統合形態 具体的な要素 第4次教育課程(1981〜87) 教科書統合 8教科を3つの教科書にまとめる 第5次教育課程(1987-92) 教科と生活の統合 ・基礎学力不振の克服:国語、算

 数の分科化

・統合教育課程の開発:各教科の  共通点を中心に統合

・初等学校の教育課程に対する統  合的なアプローチの開始 第6次教育課程(1992-97) ・統合教科の性格究明及び元教科

 との差別化

・統合教科の源泉:「日常生活」の  表明

・教科と生活の連携指向 第7次教育課程(1997-2007) (活動)主題中心の統合 ・統合教育課程内容選定基準設定

 :児童の「活動主題」中心 2007年改定教育課程(2007-

2009)

・統合教育課程内容選定基準設定  :主題中心

(チョン・グァンスン,2010,p.387より作成)

適正化及び質的適合性に関する問題を解決しようとした現実的理由が作用し、第7次教育 課程以後ではこの問題は初等学校1,2学年児童の学校での学習は「主題」を中心として 教授・学習することがより適切なものであるという指向が働いている、というものである

(【表1】)(チョン・グァンスン,2010,p.396)。ただし、2009年改定教育課程では、

環境教育の強化を主張しつつも数理領域の「学力」強化も強調したことで、日本の生活科 にあるような「生活圏」重視の統合内容編成の方針が薄れた。この意味に限定すれば、韓 国では再び第6次教育課程期の統合論理が「復活」したような枠組みになった。統合教科 とは言いつつも、児童の生活経験を扱う教科がその枠内で「再分離」した形となり、その 面での統合の機能は「創意的裁量活動」という、教科の枠にはない部分へと譲る形になっ たのである。

2.韓国における「ナショナル・カリキュラム政策」

ところで韓国における初等教育低学年統合教科が、この30年余りの間、日本における 生活科では考えられないような頻繁な再編成経緯をたどるのはなぜだろうか。この背景に あるのは、「ナショナル・カリキュラム政策」とも言うべき大方針が、大統領の交代ごと に現れていることと無関係ではない。

「ナショナル・カリキュラム政策」が重視されるようになった転換点は、第6次教育課  

井手:韓国における人材育成政策の転換とナショナル・カリキュラムの変化

【表1】第4次〜2007年改定教育課程時期別統合に対する概念および指向の変化

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程期の後半と考えるのが自然であろう。すなわち、1995年、「教育大統領」と言われた金 泳三大統領の諮問委員会「教育改革委員会」が同年5月31日に取りまとめた「世界化・

情報化時代を主導する新教育体制樹立のための教育改革方案」には以下のように述べられ、

「世界標準」すなわち、「グローバル・スタンダード」を意識した教育改革を推進するこ とが明確に打ち出された。

先端情報通信技術と交通の発達、そしてイデオロギーという障壁の崩壊によって、全世 界はもはや一つの生活圏へと変化している。経済に関する限り国境がなくなった世の中に なり、世界的広域単位の共同体であるEU、NAFTAなどがスタートし、1995年には国境 のない世界経済体制であるWTOが出現した。これからは、国境という保護膜の中に安住 して形成された今までの発想、制度的枠組みと慣行を持っていては正しく生きていくのが 難しい、新しい世の中が私たちの前に現れているのだ…(中略)。

このような世界化時代の到来は、以下のいくつかの教育的意味を内包している。

第一に、世界化時代に適切に対応するために、我々の教育は世界水準で質的に跳躍を成 し遂げなければならない。第二に、世界化時代に我々らしさを失わず様々な国と調和を作 り出しつつ生活するために、まず我々固有の伝統文化に対する教育的関心と努力が強化さ れなければならない。

第三に、世界市民の観点で考えて行動できる開かれた心と文化意識を持つのみならず、

国際的なコミュニケーション能力を備えなければならない。第四に、中央から地方への権 限の委任を通じて、教育における自律と分権の原理が実践されなければならない。…(中 略)。

世界的水準の教育のために、初・中等教育は断片的知識の暗記中心教育から創造力培養 中心教育へ転換されなければならない。…

(大統領諮問教育改革委員会,1995,p.8〜9)

OECDは1980年代にINES(International Indicators and Evaluation of Educational Systems)

プロジェクトを推進し、さらにそれを拡大して90年代からはEducation at a Glanceを発行 するなど、教育に関する国際指標を主導的に開発・公表してきた(Henry, Lingard, Rizvi,

Taylor, 2001,p.88)。その存在は、韓国(政府)にとっても国内の教育の現状と課題、

そして目標を国際的な指標比較として照らし出すには極めて大きなものであったと言える。

PISAのような国際的な調査も、「グローバル・スタンダード」が示す指標として、政府は もちろんのこと、マスコミなども注視して詳細に報道するようになった。「OECD水準か どうか」を比較できるあらゆる教育指標は、教育の「世界化戦略」を遂行する韓国にとっ て最も重要なバロメーターとなる構図が、この時期出来上がった。

こうした構図が、「第7次教育課程」(1997年公示)に対して「グローバル・スタンダ ード」の影響を大きく与えることとなった。2000年に本格実施となった同教育課程は、

韓国のナショナル・カリキュラムにかつてない変化をもたらした。その最大のポイントが

「国民共通基本教育課程」の登場であった。これは第1学年(小学1年生)から第10学 年(高校1年生)までを一つの共通教育課程とし、11学年及び12学年(高2,高3)に ついては選択科目として、生徒や学校、地域の実情にあわせて自由に編成・履修できる単

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(韓国教育開発院,1999,p.143−154より作成)

位制(1単位:50分授業を1学期(17週)履修)とした(特別活動8単位を含め144単 位を履修)。このカリキュラム制定に極めて大きな影響を与えたのは加盟前後に行われた OECDの教育政策検討(policy review)に基づく12の「勧告」である。

このように「勧告」には、集権的な教育・訓練の管理統制の方針から各学校・地域単位 に権限を大幅委譲して評価に基づく質管理システムへと移行させること、そして、教育の 達成度評価に対する責任所在を明確化すること、等が盛り込まれていた。

第7次教育課程には、2つの特徴があった。ひとつは「水準別教育課程」である。数学 と英語について、学期単位で2つの「下位段階」を設けて水準別教育を行うというもので ある。もう一つは学校が独自に決定できる「裁量活動」の時間が設けられた。これは中等 学校の場合、選択科目学習と国民共通基本教育課程の教科について「深化」「補充」の学 習を行うための「教科裁量活動」、そして学校の特色ある教育や、生徒からの要求に対応 して、教科を超えた学習や「自己主導的」学習能力を促進するための「創意的裁量活動」

に分かれている。

こうしたナショナル・カリキュラムの編成は、「暗記主義教育」から脱却し、児童・生 徒の特性に合わせ、「多様な」能力を育てることを目指したものであった。また、「多様化」

は教育課程のみならず、科学高校や外国語高校などの特色をもった学校の開設や、地域や 大学などが関与して幅広く行われる「英才教育」などへも拡大していくことになる。

井手:韓国における人材育成政策の転換とナショナル・カリキュラムの変化 59

【表2】OECD韓国教育政策検討団 勧告案(抜粋、下線筆者)

勧告3

中央官庁は一般政策として,高等教育機関,訓練機関,市・道教育庁及び各学校単 位が参照できるように責任遂行と関連した基準と指標について議論を通じて決定する 一方,機関それぞれの教育・訓練の質を統制して管理できるように権限を委譲し,そ の結果を評価して中央に報告できる体制の構築を勧告する。

勧告10

教師と学校の達成度に対する評価は,次の事項を考慮してより思慮深くなるべきで ある。すなわち,学校と地域教育庁による決定権を移譲する政策,教職の質的向上,

あらゆるレベルの教育行政関係者間の協力,教育課程開発者,教師教育担当者,現職 教師及び学生の学習の質評価を担当する者との協力等に関連した政策を包括的に考慮 すべきである。

勧告11

韓国教育当局は,公平性と社会的連帯感醸成の視点から,社会・経済的地位が低い 地域社会の子どもたちのために放課後学習に補助金を至急する一方,同補助金を学校 運営委員会が管理する方策を検討するよう勧告する。

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政策領域 政策分野

Ⅰ.国際競争力ある核心人材養成 1.将来有望な産業を率いる核心人材の養成 2.知識サービス分野の専門人材養成 3.大学教育の産業現場適合性を高める 4.人的資源開発及び活用の国際化

−国内教育の国際化・世界化を通した教育競争力強化 5.卓越した教育の拡大

−児童・生徒中心の水準別教育課程運営強化

−英才教育の量的・質的水準を高める

−創意的な科学英才育成で科学技術立国基盤を構築

(シン・ヒョンソク他,2008,p.232より作成)

Ⅱ.全国民の生涯学習能力向上 1.人的資源開発最適化のための教育体制改編 2.国民の基本核心能力の涵養

−国家教育課程随時改定体制に転換

−学生基礎学力保証及び価値観涵養教育の強化

−初・中等教育自律化と教育自治制度の改善 3.職業教育・訓練・生涯学習体制の革新 4.地域人的資源開発の促進

5.軍・公職分野人的資源開発の活性化

「多様化」を別な角度からみると、国家の意図が見えてくる。韓国が金大中政権以後に 推進された「人的資源開発政策」を具体的に見ると、【表3】にあるとおり、「人材育成」

にも2つのカテゴリーがあることが分かる。すなわち、「国際競争力ある」人材の養成と

「生涯学習能力」をもつ国民の育成である。

ところが、「世界化戦略」をにらんで急進的に多様化や自立化の運営を求めた第7次教 育課程であったが、現場ではその真意がなかなか伝わらず、次第に「乖離」の状況を示す ようになる。大幅に権限が移譲された学校や地域の現場では、指導者の不足や力量不足な どにより、結果的に従来の指導内容をそのまま7次教育課程で「読み替えて」運営する状 況が多く見られたほか、改革が進まなかった大学入試の熾烈な競争の現実から、課題解決 能力などの「力量」(competency)を重視した教育課程運営はあまり行われなかった。

とりわけ、「水準別教育」や「深化過程」は、教育課程の意図とは全く別の動きをする ようになった。学校では、「優劣班」という言葉が示すように、「水準別」が「できる子ど も」と「できない子ども」のように扱われはじめ、ますます塾(「学院」)通いの傾向を強 め、韓国で常に問題となっている私教育費問題はむしろ深刻化し、OECDの「勧告」に逆 行する動きとなった。

さらに、新たに加わった「創意性教育」により、2005年度からの大学修学能力試験(修 能)が大幅に難しくなるとの憶測から,創意性教育を専門にする塾が出現し大人気となる

【表3】人的資源開発政策細部課題現況(2006−2007)(抜粋、下線筆者)

(10)

など、大学入試をめぐる問題が「助長」する形になり、英才教育や特性化高校への進学準 備ための教育対象はどんどん低年齢化していった。

このような「知識重視型」が容易に崩れない環境は、OECDによる「勧告」にもあった 私教育費問題による教育機会の不平等問題をますます深刻化させる背景にもなった。

第7次教育課程の運営をめぐる現場の混乱は、教育課程の「不信感」となって表面化し た。その火をつけたのが他ならぬPISA調査であった。2006年のPISA調査で韓国の科学成 績が11位に「墜落」した際、「7次教育課程の非現実的な運営が問題」とマスコミに厳し く糾弾され、OECDの勧告を受けて推進したナショナル・カリキュラム改革の結果が、そ の指標を使って批判されるという皮肉な事態を経験したのである。

OECDが1997年から開始したDeSeCo(Defining and Selecting Key Competencies)プロジ ェクトによれば、「力量(competency)」は「特定の文脈(context)の複雑な要求を、知識 と認知的・実践的技術のみならず、態度・感情・価値・動機などのような社会的・行動的 要素を稼動させることで成功裏に充足することができる」としている(ソ・ギョンヒ,2007,

p.7)。しかしながら、それを国家が仮に「学力」としてオーソライズし「教科」において 推進しようとしても、これまでの「知識『量』」と「選抜」が「学力」の価値を支配して きた文化的・社会的背景ゆえに、「学力」の定義についての葛藤を誘発しており、その調 整をどこが担うのかが曖昧なまま、グローバル・スタンダードを意識した新しい「学力」

は「さまよう」こととなった。こうした動きが、低学年統合教科をめぐる「統合のゆらぎ」

の現象となって、影響を与えていると言える。

3.ナショナル・カリキュラムレベルにおける「統制」論理−韓国低学年統合教科におけ   る「知」の位置づけ方の視点から

これまで、韓国低学年統合教科の「統合」をめぐる流れとその背景を概観してきた。こ の動向から、以下のことが確認できる。

第一に、ナショナル・カリキュラムが従来からもつ、「知の統制」機能の韓国的な論理 である。韓国の場合、低学年統合教科をめぐって常にゆらぎの対立軸となっているのが、

対象となる社会環境及び自然環境を扱う「教科の場所」である。すなわち、韓国が解放直 後からシティズンシップ教育の中核としてきたナショナル・アイデンティティとの「統合」

を図るか、児童の生活環境との「統合」を行うか、である。また、産業や科学技術発展を 担う人材育成に関連する学問分野との「統合」か、生活環境のそれか、という点で、自然 環境に関連する内容も、時期や政権の方針によって動いてきた。

第二に、こうした対立軸に、21世紀を境に「グローバル・スタンダード」が入ってき た点である。正確に言えば、国内のもともとの文脈に「グローバル・スタンダード」を添 えて、ナショナル・カリキュラムの「統制」論理を自己強化している、ということであろ う。

第三に、これらのナショナル・カリキュラムが要求している学習の成果は、人材の「選 抜」システム、さらに言えば大学入学試験によって実質的に「管理」されている。その「選 抜」をめぐって、文化的に固定化された「文脈」との共存を余儀なくされ、結果的に「韓 国的」なものの再生産に関与することによって、「自国化の循環装置」に内化される。一  

井手:韓国における人材育成政策の転換とナショナル・カリキュラムの変化 61

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見したところ関係のない低学年統合教科でさえも、この「文脈」とつながる「知」のあり 方から見れば、その一部であり続けているのである。現在の李明博政権は、大学入学試験 の抜本改革を大統領選挙公約に掲げ当選しており、現在「入学査定官(admission officer)

制度」の導入を強力に推進している。これはまさに、「循環装置」の大改造を図ったもの と言ってよい。

生活圏を対象としている点で一貫してきたわが国の生活科と比較すれば、韓国の低学年 統合教科での統合・分化の動きは特殊なものに見える。しかし、「大韓民国の」人材輩出 システムの一環として継承されてきた「国家による知のあり方」の歴史を考えれば、そこ にある葛藤は、この国家が解放後65年を経て「世界化」を達成するための、極めて重要 な過程の産物である、とも言えるだろう。

参考文献

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韓国教育開発院(1999)『OECD 韓国教育政策検討後続報告』(受託研究 CR99-30)(韓 国語)

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大韓民国教育部(1998)『教育50年史』(韓国語)

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参照

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