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・大気汚染防止法と水質汚濁防止法の実相と諸相

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大気汚染防止法と水質汚濁防止法の実相と諸相

一一長期ばく露影響の有害大気汚染物質対策を推進する 大気汚染防止法と短期ばく露影響の有害物質規制を 維持する水質汚濁防止法の仕組み一一

目次

ー は じ め に

二 公害規制法としての大気汚染防止法と水質 汚濁防止法

公害防止強化装置の違い 行政措置による対応

五 長期ばく露影響の有害大気汚染物質対策を 推進する大気汚染防止法と短期ばく露影響の 有害物質規制を維持する水質汚濁防止法 六 水質汚濁防止法の有害物質及び大気汚染防

止法の有害大気汚染物質と他法令の規制・管 理との連動・連携関係

ー は じ め に

大気汚染防止法と水質汚濁防止法は,排出規 制方式(発生源規制)の基本的形態をとる公害 規制法のモデノレとされている。しかしながら,

現在の両法の仕組みをみると,大気汚染防止法 は,その基本的形態とされるばい煙の排出規制 などの短期ばく露影響に対する制度とともに,

有害大気汚染物質対策の推進という長期ばく露 影響に対する制度を設けている。 一方,水質汚 濁防止法は,大防法のばい煙規制と同じ型の有 害物質の排水(公共用水域) ・地下浸透水の規 制とともに都市型公害の生活排水対策の推進制 度が設けられたが,短期ばく露影響にとどまっ ている。

そして,公害の防止の強化という観点から,

小 幡 雅 男

(本法務研究科講師)

両法は,排出基準値超過に対して改善命令前置 ではない直罰制を規定し,損害賠償に関し無過 失責任の規定を定めている。その直罰の対象は,

大気汚染防止法がばい煙に含まれる

7

物質と総 量規制の対象である指定ばい煙(硫黄酸化物と 窒素酸化物)による排出基準値の超過なのに対 し,水質汚濁防止法は28の有害物質の排水基 準値の超過に対してである。無過失責任の対象 は,大気汚染防止法は健康被害物質(ばい煙,

事故時の特定物質,粉じん)による健康損害な のに対し,水質汚濁防止法は有害物質の排水 ・ 地下浸透水による健康損害を対象にしている。

また,環境質の改善(達成)目標として環境 基準が環境基本法には公害対策基本法を引き継 いで設けられているが,大気環境基準は健康項 目のみ4種類あるが,水質汚濁防止法の健康項 目はlつである。そして河川,湖沼,海域べつ の生活環境項目が設けられている。

さらに,両法とも,法的措置のほかに,行政 による措置(行政措置)として,大気汚染防止 法の有害大気汚染物質対策の推進では環境基準 とともに指針値を設け,それらを合わせた環境 目標値を改善目標とし,水質汚濁防止法では,

環境基準に準ずる要監視項目と毒性不明な物質 に対する要調査項目が設けられている。

このように,大気汚染防止法と水質汚濁防止 法は,同じような仕組みにみえるが,異なる面

も多い。そこで, 視点を変えて

(2)

をそれぞれ分解して対比し,その実相と諸相に 迫ってみる。

二公害規制法としての大気汚染防止法と水質汚 濁防止法

1 公害の定義と公害の防止 (1)  日本独自の「公害」

「公害」は英米法のpublicnuisanceの約語と されているが, publicnuisanceが法律用語で あるのに対し,「公害」は悲惨な健康被害をも たらした社会事象を指すものである。その対策 については,民事責任の追及から,行政が介入 して公害紛争の調停制度と公害健康被害補償制 度が設けられ, さらに公害発生防止に対する行 政介入として大気汚染防止法などが制定された

という経緯で説明されてきている1)

(2) 法概念としての 「公害」「公害の防止措 置」

この日本独自の「公害」概念に対し,法的に

「公害の概念」と 「公害の防止」をどう捉えて 構成しているか,そして大気汚染防止法及び水 質汚濁法がどう位置づけられているかについて,

紹介しておきたい。

公害の定義については,環境基本法第

2

条第

3

項で,「環境の保全上の支障のうち,事業活 動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲に わたる大気の汚染,水質の汚濁……によって,

人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係 のある動植物及びその生育環境を含む。以下同 じ。)に係る被害が生ずることをいう」として し、る。

この定義は昭和

4 2

年制定の公害対策基本法 の公害の定義を,環境基本法では,環境の保全 上の支障のうちの一類型とし,その定義の内容 は公害対策基本法の定義内容をそのまま引き継 いでいる。

そして,同法第21条第l項で,国は,環境 の保全の支障を防止するために,次に掲げる規 制の措置を講じなければならないと定め,第l 号に,大気の汚染,水質の汚濁, ……に関し,

事業者等の遵守すべき基準を定めること等によ り行う公害を防止するために必要な規制の措置 を規定している。

「事業者の道守すべき基準を定める」とは,

平成

6

年に刊行された環境庁企画調整局企画調 整課(当時)編著の『環境基本法の解説』(ぎ ょうせい)

( 2 2 2

2 2 3

頁)では,大気汚染防止 法第

3

条の排出基準,同法第四条の自動車排 出ガスの許容限度,水質汚濁防止法第

3

条の排 水基準…一・のように規制基準を定めて, これを 超える行為を禁止する規制手法である, と解説 している。そして「等」とは,それ以外の多様 な規制手法を含む意味であり,許可制,禁止,

義務付け,届出・改善命令など多様な形態があ る。その例として,悪臭防止法の悪臭が生じる 物の焼却禁止などとともに,化学物質の審査及 び製造等の規制に関する法律の新規化学物質や 第l種特定化学物質等の製造規制,農薬取締法 の農薬の販売・使用の規制,再生資源の利用の 促進に関する法律(現在は「資源の有効な利用 の促進に関する法律」に題名変更)の再生資源 の利用に関する勧告・公表等,などを挙げてい る。

以上を要約すると,環境基本法の公害自体の 定義内容は,公害対策基本法の定義そのままを 引き継いでいて,①人為的活動によること,② 相当範囲にわたる環境汚染であること,③人の 健康又は生活環境に係る被害が生ずること, と

なる。そうなると,すでに,土壌汚染対策法の 土壌汚染には自然由来を含めており,騒音,振 動については「相当範囲にわたる」とはいえな いものもあるの。

(3)環境基本法第21条第1項の公害防止措 置の例

この公害の定義を踏まえた規制措置, 「公害 防止措置」について環境基本法はどう考えてい るかというと,上記同法の解説書3)では,環 境基本法第21条第l項では,「事業者の道守す べき基準を定める」公害防止措置については,

大気汚染防止法の排出基準,自動車排出ガスの

(3)

神奈川口ージャー ナ ル 第8号 5 

許容限度,水質汚濁防止法の排水基準を例に挙 ifている。

そして,「等」については,これら規制基準 を定めて,これを超える行為を禁止する規制手 法以外の多種多様な規制手法とし,化学物質の 審査及び製造等の規制に関する法律の新規化学 物質の届出とその審査結果による第1種特定化 学物質の製造規制,再生資源利用促進法(マ マ)の判断基準と基準違反に対して必要な場合 にとる勧告・公表との措置などが該当するとす る。

2 大気汚染防止法と水質汚濁防止法の規制体 系

公害規制システムについて,大塚直教授は,

「公害の種類によって若干異なるが,基本的に は,規制内容を確定し(環境基準),公害の発 生施設を特定し,そこから排出される汚染物質 の許容限度(排出基準)を定め,その道守を強 制 す る 方 法 ( 排 出 規 制 方 式 ) が と ら れ て い

る」4)と述べている。

そこで,大気汚染防止法と水質汚濁防止法の 具体的な規制の体系をみてみよう。

大気汚染防止法の規制体系は,ばい煙の排出 の規制(第2章),揮発性有機化合物の排出の 規制等(第

2

章 の

2

),粉じんに関する規制

(第2章の3),平成27年改正による水銀等の 排出の規制等(第2章の4),有害大気汚染物 質対策の推進(第2章の5),自動車排出ガス に係る許容限度等(第

3

章)という

6

つの制度 からなっている。

6

つあるのは,第

l

に,ばい煙と粉じんが工 場・事業場の施設という固定発生源,自動車排 出ガスが自動車という移動発生源に体系を分け た。そして,第

2

に,固定発生源体系に,揮発 性有機化合物へのネガティブ方式による定義と その発生施設に対する規制と自主的取組を組み 合わせによる抑制措置5〕,平成27年改正の水 銀発生施設に対する排出規制と排出抑制のため の自主的取組責務を組み合わせた抑制措置を追

加したこと,さらに,長期ばく露影響の有害大 気汚染物質の推進という特殊な規制方式6)か ら構成されているからである。なお,第

3

章の 自動車排出ガス許容限度を除くといずれも第

2

章のばい煙規制の枝番号で,後から追加された 制度であり,その数が多いことは大気汚染防止 法の持つ性格を示している。

一方,水質汚濁防止法の規制体系は,工場・ 事業場からの排出水の排出の規制等(第

2

章),

ノーポイントレスソースの生活排水対策の推進

(第2章の2)の2つの制度からなっている。

都市型公害としての生活排水対策が後に追加さ れたことを除けば,当初の制度の枠組みがその

まま維持されてきている。

1)  北村喜宣「【環境と法】第4章環境管理法制度の 現状と課題」現代日本の法的論点(勤草書房,

1994 108頁以下,原因尚彦環境法』(弘文堂,

昭和56 7頁以下,大塚直環境法3]』

(有斐閣,平成22 3頁以下など。

2)  前注の原田尚彦環境法』7頁の注(**)で は,公害対策基本法2条が相当範囲にわたる」

環境汚染を基本法上の要素にしているのは,公的 な公害対策の緊急度を示したもので,私害(日照 紛争,近隣騒音など)を公害から質的に区分しよ

うとするものではないとしている。

3)  環境庁企画調整局企画調整課(当時)編著 境基本法の解説』(ぎょうせい,平成6 222〜  223

4) 大 塚 直環 境 法Basid(有斐閣,平成25 112頁,同環境法3版]』315

5)  北村喜宣環境法3]』(弘文堂,平成27 388

6)  前注389

三公害防止強化措置の違い

大気汚染防止法と水質汚濁防止法の公害防止 を強化する措置として,全国一律の排出基準値 に対する条例による上乗せ基準,環境基準未達 成地域に対する総量規制,排出基準値・総量規 制基準値の超過に対する直罰制,損害賠償責任 について無過失責任の規定が設けられている。

これらの措置が導入されてきた過程は,よく

(4)

知られているように,いわゆる水質二法から水 制度が施行されている。

質汚濁防止法が,ばい煙法から大気汚染防止法 そして平成

9

年基準のベンゼン, トリクロロ が制定された段階で排出基準が指定地域性から

全国一律の排出基準となり,先行条例と大気汚 染防止法・水質汚濁防止法の全国一律の排出基 準との調整から条例の上乗せ基準措置が設けら れ,排出基準の実効性を確保するために命令前 置ではなく直罰が規定され,公害の損害賠償訴 訟における原告(被害者側)の過失立証責任緩 和措置として無過失責任が規定されている。

そこで,これらのうち環境基準,直罰,無過 失責任が,大気汚染防止法と水質汚濁防止法の それぞれの規制システムにどのようにセットさ れているかについてみてみる。

1 環境基準

(1) 大気環境基準と大気汚染防止法

環境基本法第16条第l項に基づく大気の環 境基準は4種類あるがいずれも環境項目のみで ある。それらは,昭和48年の大気の汚染に係 る環境基準について(昭和48環 告25),昭和 53年 の 二 酸 化 窒 素 に 係 る 環 境 基 準 に つ い て

(昭和53環告38),平成9年のベンゼン等によ る大気の汚染等に係る環境基準について(平成 9環告4),平成21年の微小粒状物質による大 気の汚染に係る環境基準について(平成21環 告33)である。

昭和48年基準の二酸化硫黄, 一酸化炭素,

浮遊粒子状物質,光オキシダントの4物質と昭 和53年の二酸化窒素7)については,ばい煙規 制7物質のいおう酸化物,ばいじん,有害物質

(カドミウム,塩素,弗化水素,鉛,窒素酸化 物,特定有害物質(未指定)と自動車排出ガス 許容限度設定物質の一酸化炭素,炭化水素,鉛 化合物,窒素酸化物,粒子状物質の5物質のな かで環境基準設定が必要な物質について設けら れている。なお,光オキシダントと浮遊粒子状 物質の生成原因である揮発性有機化合物につい ては,平成16年改正大気汚染防止法によって,

平成

1 8

4

1

日から揮発性有機化合物抑制

エチレン,テトラクロロエチレン,ジクロロメ タンについては,有害大気汚染物質に係るもの で,附則に定める指定物質抑制基準の対象

3

物 質(ベンゼン, トリクロロエチレン,テトラク

ロロエチレン)の改善目標値と指針値から環境 基準になったジクロロメタンからなっている。

さらに平成21年に微小粒子状物質の環境基 準がPM2.5問題を背景に設定されているが,

具体的な措置については,ばい煙中のばいじん,

自動車排出ガスの一酸化炭素に対する規制強化 の検討がはじめられようとしている段階である。

(2)水質環境基準と水質汚濁防止法

これに対し,水質環境基準は昭和46年の水 質汚濁に係る環境基準について(昭和46環l 告59)(公共用水域基準),平成9年の地下水 の水質汚濁に係る環境基準(平成9環 告10)

(地下水基準)の2つで,公共用水域基準は健 康項目と生活環境項目,地下水基準は健康項目 のみである。

公共用水域環境基準の別表1の人の健康の保 護に関する環境基準(健康項目) 27項目は,

水質汚濁防止法の排出水規制の対象となる有害 物質28のうち有機リン化合物と塩化ピニノレモ ニマーが除かれているが, 一方,水銀を総水銀 とアノレキノレ水銀とに分けたので27物質に設定 されている。

公共用水域環境基準の別表2の生活環境に関 する環境基準は,水素イオン濃度等10の生活 環境項目について,河川,湖沼及び海域ごとに,

利水目的を考慮した水域群別に設定される水域 群別方式がとられている8。) そして,河川では,

5

類型別に基準値が設けられ,湖沼は

4

類型,

利用目的の適応性

5

類型, さらに海域は

2

類型,

利用目的の適応性4類型についてそれぞれ基準 値が設けられている。なお,類型への環境基準 のあてはめについては,二以上の都道府県にわ たる地域(県際水域)については政府が,それ 以外は都道府県知事が行うものとしている(環

(5)

神奈川口ージャー ナ ル 第8

境基本法第16条第2項)。また,水生生物に係 る環境基準 (平成15年)が河川,湖沼及び海 域ごとに設けられ,全亜鉛等3つの基準値が設 定されている。

公共用水域に接続する水道と下水道との関係 については,環境基準の別表

l

2 7

健康項目 の基準値は,当然のことであるが水道法の水質 基準値とほぼ同じ, さらに,下水道法の目的に

「公共用水域の水質の保全に資する」ことが昭 和

4 5

年の改正で追加され,終末処理場から公 共用水域への排出水は水質汚濁防止法によって 規制される仕組みになっている9)。

一方,大気環境基準は,工業専用地域,車道 その他一般公衆が生活していない地域又は場所 には適用されない。車道はもとより都市計画法 上工業専用地域には住居は建築できないので一 般環境の対象となる住民は住んでおらず,工 場・事業場の労働者には労働安全衛生法が適用

されるという整理になっているようだ。

(3) 大気環境基準と水質環境基準の違い 環境基準は,大気汚染防止法と水質汚濁防止 法それぞれの規制措置の達成目標と位置づけら れている。

しかし,健康項目(有害物質)の水質環境基 準と有害物質排水基準の項目はほぼ同じで,原 則として環境基準の

1 0

倍希釈が排水基準とし て設定され,連動している10)。

一方,大気汚染の排出基準は,原因物質によ って汚染の重大性や排出形態等の相違があり,

それらを踏まえて個別の排出基準値が設けられ,

環境基準とのつながりはない。しかし,ばい煙 規制物質と自動車排出ガスの許容限度の一部物 質の達成目標として定められている環境基準の うち硫黄酸化物と窒素酸化物(指定ばい煙)に ついて,未達成の場合に総量規制措置が事実上 連動している11)

ただ,環境基本法第16条第l項では「政府 は,大気の汚染,水質の汚濁 ・・ に係る環境上 の条件について,それぞれ,人の健康を保護し,

及び生活環境を確保する上で維持されることが

望ましい基準を定めるものとする。」と定めら れていて維持すべき基準をどのような方法で設 定するかは行政に委ねられている。設定方法の 違いは行政裁量の問題である12)。

また,環境基本法第16条第1項の環境基準 は,これまで科学的知見が十分な未然防止原則 によるものとされてきたので,ダイオキシン類 対策特別措置法(平成

1 1

年 法

1 0 5

)は,予防 的取組方法13)による規制措置であることから,

環境基準を同法第

7

条おいて人の健康を保護す る上での環境基準を規定している。しかしなが ら,水質環境基準の水生生物の基準,大気汚染 防止法の有害大気汚染物質の環境基準は,未然 防止の範時をはみ出ているようにおもわれる。

生物多様基本法が制定され,その第

3

条第

3

項 に予防的な取組方法が規定されたこともあり,

環境基本法第4条について,予防的取組方法も 含むものと解釈されるようになった14)。これ

らは,それを先取りしたものといえよう。

2 直罰制

直罰制が導入されたのは,大気汚染防止法で は,その原型ができたとされる昭和

4 5

年改正 において,一方,水質汚濁防止法は昭和

4 5

年 の制定時からである。大気汚染防止法では指定 地域性を廃止して全国一律の排出基準が,水質 汚濁防止法で、は指定水域制を廃止して公共水域 すべてを対象とする排水基準となり,その排出 基準,大気汚染防止法の総量規制基準の基準値 超過に対して直罰が規定された。

(1) 大気汚染防止法及び、水質汚濁防止法の直 罰規定

大気汚染防止法の直罰規定は,同法第33条 の

2

の第

1

項 第

1

号に,第

1 3

条 第

l

項(ばい 煙発生施設の排出口において排出基準に適合し ないばい煙の排出禁止)又は第

1 3

条の

2

(特 定工場ばい煙発生施設の排出口において総量規 制基準に適合しない指定ばい煙の排出禁止)の 規定に違反した者は,

6

月以下の懲役又は

5 0

万円以下の罰金に処する。また,同条第2項で,

(6)

過失により前項第l号の罪を犯した者は, 3月 以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

水質汚濁防止法の直罰規定は,同第31条第

l

項 第

l

号に,第

1 2

条 第

l

項(特定事業場の 排出口において排水基準に適合しない排出水の 排出禁止)の規定に違反した者は, 6月以下の 懲役又は

5 0

万円以下の罰金に処する。また,

同条第

2

項で,過失により前項第

1

号の罪を犯 した者は, 3月以下の禁固又は30万円以下の 罰金に処する。

規定をみると両法とも故意だけでなく過失も 対象とし,罰則内容も同じである。また,行為 者のほかに法人又は人に対して罰金刑の併科が 両法とも規定されている(大防法第36条,水 濁法第36条)。なお大気汚染防止法の直罰規定 第33条の2は枝番号で,昭和45年改正で,第 5条の 2及び 3の総量規制とともに規定された。

そして,これまで教科書等で説明されている ことは,以下のことであろう。

①  大気汚染防止法は,ばい煙排出規制とと もに指定ばい煙の総量規制まで直罰の対象であ るが15),水質汚濁防止法は排出水規制のみ直 罰の対象としている。

② 「排出口」の定義が,大気汚染防止法で は,ばい煙発生施設において発生するばい煙,

揮発性有機化合物及び水銀規制で、は,大気中に 排出するために設けられた煙突その他の施設の 開口部であるが,水質汚濁防止法では,「排出 水」を,特定施設(汚水又は廃液の発生施設)

を設置する工場又は事業場(以下「特定事業 場」という。)から公共用水域(河川,湖沼,

港湾,沿岸海域等及びこれに接続する公共溝渠,

濯概用水路,終末処理場を設置している公共用 下水道及び流域下水道など)に排出される水を いう,としている。

つまり,大気汚染防止法では,煙突の開口部 からが排出となるが,水質汚濁防止法で、は,特 定事業場から公共用水域への排水となる16)。 大防法の直罰規定適用は実際には極めて適用し にくいとされている一方,水濁法は公共用水域

への排出なので,警察や海上保安庁によって適 用される場合があるとされ実効性ある規定とな

っている17。)

(2)  直罰の適用対象の違い 1)  大気汚染防止法の直罰の対象

大気汚染防止法で直罰の対象となるのは,第 13条 第l項に規定する 「ばい煙」で,第3条 のばい煙の定義では,いおう酸化物,ばいじん,

そして人の健康又は生活環境に係る被害を生ず るおそれのあるカドミウム,塩素,弗化水素,

鉛及び窒素酸化物の

5

物質の計

7

物質と第13 条の2に規定する 「指定ばい煙」(いおう酸化 物と窒素酸化物)している。

この直罰対象のばい煙7物質と指定ばい煙2 物質は,その後追加されずに現在に至るまでそ のまま維持されている。 7物質の排出基準値は 施行規則第

3

条,第

4

条,第

5

条に定められて いるが,都道府県条例によりこの基準の上乗せ ができる。その場合は上乗せ基準値が直罰の基 準値となる。

なお,大気汚染防止法は,ばい煙規制のほか に粉じん,自動車排出ガスの許容限度そして平 成

1 8

年改正で追加された揮発性有機化合物,

平成

2 7

年改正により水銀について規制措置と 自主的取り組みを求める抑制措置が導入された が,いずれも直罰は適用されない仕組みになっ ている。

2)  水質汚濁防止法の直罰の対象

一方, 水質汚濁防止法の直罰の対象は,第

1 2

条第

l

項に規定する特定施設を設置する特 定事業場の公共用水域への排出口において排水 基準に適合しない「排出水」で,地下浸透水,

貯蔵物質からの洩れは含まれていない。

そして対象となる法第

2

条第

2

項第

l

号の有 害物質(カドミウムなど人の健康に係る被害を 生ずるおそれがある物質)が施行令第2条に 28項目,その基準値は法3条の規定に基づく 排水基準を定める省令(排水基準省令)(昭和 46年総令35))で定められている。

これら排出水に含まれ規制対象となる28の

(7)

神奈川口ージャーナル第8

有害物質は,昭和46年にカドミウム等8物質 について設定されている。その後,昭和

5 0

年 には

PCB

,平成元年には半導体洗浄液のクロ ス汚染問題からトリクロロエチレンとテトラク ロロエチレンの

2

物質が定められている。そし て平成5年にはジクロロメタン等13物質,平 成13年には,ほう素,ふっ素並びに硝酸性窒 素,亜硝酸性窒素及びアンモニア性窒素の

3

物 質,平成

2 4

年に

1 , 4

ージオキサンが追加されて し、る。

当初設定された

8

重金属類物質のうちカドミ ウム,水銀, ヒ素による健康被害については公 害健康被害の補償等に関する法律(昭和

4 8

年 法

1 1 1

)の大気 ・水質汚染の影響による特異的 疾患を対象とする第2種地域の指定疾病(イタ イイタイ病,水俣病,慢性枇素中毒)になって いる。直罰の趣旨を,公健法の指定疾病など公 害疾病を引き起こすおそれのある短期ばく露影 響物質に対するものと理解すると,昭和

5 0

年 の

PCB

そして平成元年のトリクロロエチレン 及びテトラクロロエチレンの有機塩素系化学物 質に至ると,当初のいわゆる公害疾病の原因物 質とは様相を異にしている。

PCB

はカネミ油症事件を契機に昭和

4 8

年に 難分解性・高蓄積性・長期毒性を有する

PCB

類似物質の製造を原則禁止とする化学物質の審 査及び製造等の規制に関する法律(昭和

4 8

年 法

1 1 7 )

(化審法)が制定され,昭和

5 0

年に水 質汚濁防止法の有害物質に追加指定されている。

その後,半導体製造過程において使用される 洗浄液のトリクロロエチレン及びテトラクロロ エチレンの地下浸透により,それが土壌に溶出 し,大気中に蒸発するという環境媒体を越えた クロス汚染(ハイテク汚染)に対し,平成元年 にトリクロロエチレンとテトラクロロエチレン を水質汚濁防止法の有害物質に追加指定すると ともに,同法を改正して排出水と同じ項目の有 害物質による地下浸透規制の制度を導入してい る。一方,大気汚染防止法では,平成9年に有 害大気汚染物質対策の推進措置が定められ, ト

リクロロエチレン,テトラクロロエチレンにべ ンゼンを加えた

3

有害大気汚染物質については,

早急に抑制措置を講ずる必要があるとして同法 の附員jl

9

項で, 「当分の間」指定物質抑制基準 が設けられて抑制措置が,また,同時期に環境 基準が設定されている。

なお,上記化審法では,昭和

6 1

年改正で,

制定の契機となった

PCB

は第

l

種特定化学物 質(難分解性,高蓄積性,長期毒性)として原 則製造禁止,第

2

種特定化学物質(高蓄積性は ないが難分解性,長期毒性)としてトリクロロ エチレン及びテトラクロロエチレン等が指定さ れ,使用量と使用目的が制限されている。さら に,平成

1 2

年改正で,目的規定から「難分解 性」が削除され,当初の難分解性の性状を持つ 新規化学物質についての事前審査による製造規 制法から良分解性の性状をもっ化学物質も対象 になったが,第l種特定化学物質については,

従前のとおりの性状,第2種特定化学物質には,

良分解性の性状をもっ化学物質も対象となり,

「継続的に摂取される場合には人の健康を損な うおそれのあるもの(同法第2条第2項第l号 ロ,第

3

項第

l

号イ)」を要件としている。他 方,大気汚染防止法の有害大気汚染物質は,継 続的に摂取される場合には人の健康を損なうお それのある物質で「大気汚染の原因となるもの

(いおう酸化物, 5有害物質及び特定粉じんを 除いたばいじんと一般粉じんを対象)としてい る(同法第2条第13項)が,そのうちのトリ クロロエチレン,テロラクロロエチレン及びベ ンゼンについては上述したように早急に抑制措 置を講ずる必要のある指定物質に指定して「当 分の間」抑制基準による抑制措置を定めている。

(3)  トリクロロエチレン,テトラクロロエチ レンに対する法的位置づけの違い

クロス汚染対応が求められた有機塩素系のト リクロロエチレン及びテトラクロロエチレンは,

継続的に摂取される場合には人の健康を損なう おそれ(長期曝露影響)のある物質と捉えられ ているが,水質汚濁防止法では直罰が適用され

(8)

る有害物質に,大気汚染防止法では有害大気汚 染物質のうちの早急に抑制措置を講ずる必要の ある指定物質に,そして化審法では,使用量及 び使用目的を制限する第2種特定化学物質に指 定されている。それぞれの法律が,その目的に 応じてリスク同定を行って,適切と考えられる 措置を決めている。

3 損害賠償の無過失責任規定

無過失責任規定の導入は,大気汚染防止法,

水質汚濁防止法とも,当初からではなく昭和

4 7

年の両法の改正において導入された。その 当時の状況は,同年

7

2 4

日に津地裁四日市 支部の四日市ぜんそく損害賠償事件判決が,同 年

8

9

日に名古屋高裁金沢支部でイタイイタ イ病事件控訴審判決が,それぞれ出され,翌 48年に公害健康被害補償法(昭和62年改正で

「公害健康被害の補償等に関する法律」)が制定 されている。

そこで,無過失責任を規定した大気汚染防止 法第4章の2の諸規定と水質汚濁防止法第4章 の諸規定をみてみる。

(1)  大気汚染防止法第4章の2の諸規定 大気汚染防止法第

2 5

条第

l

項は,工場又は 事業場における事業活動に伴う健康被害物質

(ばい煙,特定物質又は粉じんで,生活環境の みに係る被害を生ずるおそれのある物質として 政令で定める18)以外のものをいう。)の大気中 への排出(飛散を含む。)により,人の生命又 は身体を害したときは,当該排出に係る事業者 は,これによって生じた損害を賠償する責めに 任ずる。

同条第

2

項は,ーの物質が新たに健康被害物 質になった場合には,前項の規定は,その物質 が健康被害物質になった日以後の当該物質の排 出による損害について適用する。

2 5

条の

2

は,前条第l項に規定する損害 が二以上の事業者の健康被害物質の大気中への 排出により生じ,当該損害賠償の責任について 民法第719条第l項の規定(共同不法行為)の

適用がある場合において,当該損害の発生に関 してその原因となった程度が著しく小さいと認 められる事業者があるときは,裁判所は,その 者への損害賠償の額を定めるについて,その事 情をしんしゃくすることができる。

2 5

条の

3

は,第

2 5

条第

1

項に規定する損 害の発生に関して,天災その他の不可抗力が競 合したときは,裁判所は,損害賠償の責任及び その額を定めるについて,これをしんしゃくす ることができる。

2 5

条の4は,短期消滅時効を定める規定 で,第

2 5

条第l項に規定する損害賠償の請求 権は,被害者又はその法定代理人が損害及び賠 償義務者を知った時から

3

年間行わないときは,

時効によって消滅する。損害の発生の時から

3 0

年を経過したときも,同様とする。

2 5

条の

5

は,第

2 5

条第l項に規定する損 害賠償の責任について鉱業法の適用(注:同法 の無過失責任規定)があるときは,同法の定め るところによる。

2 5

条の

6

は,この章の規定は,事業者が 行う事業に従事する者の業務上の負傷,疾病死 亡に関しては,適用しない。

(2)  水質汚濁防止法第4章の諸規定

一方, 水質汚濁防止法第四条は,工場又は 事業場における事業活動に伴う有害物質の大水 又は廃液に含まれた状態で、の排出又は地下への 浸透により,人の生命または身体を害したとき は,当該排出又は地下への浸透に係る事業者は,

これによって生じた損害を賠償する責めに任ず る。

同条第2項は, ーの物質が新たに健康被害物 質になった場合には,前項の規定は,その物質 が有害物質となった以後の当該物質の汚水又は 廃水に含まれた状態での排出又は地下浸透によ

る損害について適用する。

2 0

条の規定は,その物質が有害物質とな った以後の当該物質の汚水又は廃水に含まれた 状態での排出又は地下浸透による損害について,

大気汚染防止法の第

2 5

条の

2

と同じく共同不

(9)

神奈川口一ジャーナル第8号 11 

法行為における少量排出者の責任をしんしゃく する規定であり,第

2 0

条の

2

は,大気汚染防 止法第

2 5

条の第四条と同じく天災その他の不 可抗力が競合したときの損害賠償の責任及びそ の額のしんしゃく規定である。

そして,第

2 0

条の

3

は,大気汚染防止法第

2 5

条の4と同じ短期消滅時効を定め,第

2 0

条 の

5

は,大気汚染防止法第

2 5

条の6と同じ,

労働者の業務上の疾病による健康被害には適用 しないとする規定である。

(3)無過失責任規定の法的性格

大気汚染防止法第

2 5

条第l項及び水質汚濁 防 止 法 第 四 条 第l項の無過失責任の規定の法 的性格は,民法

7 0 9

条の特別規定となっていて,

無過失責任規定の適用対象となった物質による 健康被害と因果関係を立証すれば,無過失責任 規定が適用されるとしている19)。そして,四 日市ぜんそく損害賠償判決(津地裁四日市支部 昭和

4 7

7

2 4

日)で確立された「共同不法 行為」20)が適用される場合の事業者の責任の範 囲について,「裁判所が適用できる」とする規 定をおいている。

(4)無過失責任規定の違い

1)  健康被害物質を対象とする大気汚染防止 法の無過失責任規定

大気汚染防止法は,無過失責任規定の適用対 象物質を,直罰が適用されるばい煙7物質のほ かに事故時の措置が求められる特定物質21)と 粉じんをあわせて「健康被害物質」とし,これ による被害発生を適用の要件にしている。

粉じんには,一般粉じんと特定粉じんがあり,

特定粉じんは,粉じんのうち,石綿その他の人 の健康に係る被害を生ずるおそれがある物質で 石綿のみ政令で指定されているものをいい,一 般粉じんは特定粉じん以外のものとしている。

このことから,健康被害物質は特定粉じんの石 綿のみで,特定粉じん(石綿)発生施設22)か ら大気中への排出と飛散によ って健康被害が生 じた場合に無過失責任規定が適用されることに なる。

その一方,喫緊の課題となった石綿の飛散防 止策として「特定粉じん排出作業」を定め,建 設工事(解体工事)の施工者に対する届出と作 業基準の遵守などが大気汚染防止法の平成

8

年, 18年及び

2 5

年改正で定められている。これは 建物の解体が行われる作業現場からの飛散とな るが,第

2 5

条第

l

項の健康被害物質は,工場 又は事業場における事業活動に伴うものとして

L、る23)。

2)  水質汚濁防止法で、は有蓋物質の排出水と 地下浸透水による被害発生に対して無過失責任

の規定を適用

水質汚濁防止法の無過失責任規定は,有害物 質による特定施設からの汚水又は廃液の排出と 地下浸透を対象としている。大気汚染防止法で は,事故時の措置対象となる特定物質による場 合も無過失責任規定の適用を受けるが,水質汚 濁防止法で事故時の措置の対象となる指定物質 については適用されない。なお,指定物質を規 定した14条の2では,指定施設(第2条 第4 項)から公共用水域に多量に排出されることに

より人の健康若しくは生活環境に被害が生ずる おそれのある有害物質及び油以外の政令で定め るものを指定物質とし, ホノレムアノレデヒドなど

5 8

物質が定められている。

3)  無過失責任規定の適用の違い

大気汚染防止法では,ばい煙規制7物質は,

人の健康又は生活環境に被害を生ずるおそれの ある場合であることから,健康被害を生ずるお それに限定した「健康被害物質」という法概念 をつくる必要があり,事故時の対応が求められ る特定物質もそれに含めた。

しかし,水質汚濁防止法ではそもそも健康被 害を生ずるおそれのある有害物質の排水・地下 浸透規制が主なので,新たな法概念創設は必要 とされなかった。なお,事故時の対応を求めら れる指定物質について,前述したように規定で は,公共用水域に多量に排出される場合に健康 又は生活環境に被害が生ずるおそれがあるもの

(水質汚濁防止法14条委の2)としているが,

(10)

無過失責任の規定は適用されない仕組みになっ ている。

両法の無過失責任規定の適用対象の違いは,

人が常に接している大気環境においては,その 排出規制物質により人の健康とともに生活環境 への影響もあることを想定した仕組みとなって いることから, 「健康被害物質」をつくる必要 があった。他方,水環境においては,公共用水 域又は地下水について,人は,飲料水,魚介類 の摂取等による一時的な接し方をする。水質汚 濁防止法は,それらの水に含まれ,人の健康被 害を生ずるおそれのある 「有害物質」規制,い わば, 危険物質による短期ばく露影響 を想 定した規制システムと水の汚れの程度に係る生 活環境項目についての規制システムを別に扱っ ていることから,特に新たな法概念を創設する 必要がなく,そのままの仕組みで有害物質に対 して無過失責任の規定を適用していることにな る。

4 条例による上乗せ基準及び総量規制 条例の上乗せ基準及び総量規制も公害防止の 強化措置ではあるが,それは別の機会に譲るこ

ととして,ここでは取り上げなかった。

簡単にまとめると,条例の上乗せ基準の規定

(大気汚染防止法第4条,水質汚濁防止法第3 条第

3

項)の「条例」について,水質汚濁防止 法は,いわゆる裾だし(規模要件の引き下げ)

も含めた制定ができるとしているのに対し,大 気汚染防止法では含まれない24)。また,大気 汚染防止法の条例上乗せ基準対象物質にいおう 酸化物は規定されていない25)。なお,大気汚 染防止法は,施設集合地域の全部または一部を 対象とする特別の排出基準を定めることができ

る(同法第

3

条第

3

項)。

また,総量規制の対象物質について,大気汚 染防止法は康被害を生ずるおそれのある指定ば い煙物質を対象としているが,水質汚濁防止法 は指定水域ごとに生活環境に関する指定項目を 対象とし,有害物質については総量規制の仕組

みはない。

7) よく知られているように昭和53年に二酸化窒素 の環境基準を改定し,二酸化窒素だけの種類を創 設した。公害系の大気環境委基準は,昭和48年環 境基準と改定二酸化窒素の環境基準を含めたもの

となっている。

8)  水質汚濁に係る環境基準の取り扱いについて

(平成5910日環水管120号:昭和457 22日経企水公77号の改正)

9)  柳憲一郎「第13章 大気・水環境管理における 規制的手法」『環境保全の法と理論』(北海道大学 出版会,平成26年)232

10) 4の大塚直『環境法Basid141頁,注5の北 村喜宣『環境法[第3版]』 346頁など。

11前注の北村喜宣『環境法』 137頁では,措置導 入基準の機能を示したものとしている。

12) なお,大気環境基準設定は処分ではないとした 二酸化窒素環境基準告示取消請求事件東京高裁判 決(東京高裁昭和621224日行集3812 1807頁,判タ66810頁,環境判 例 百 選 2

J

10事件)において, 排出基準及び総量基準は,

環境基準のみから直接的,自動的に決定されるも のではなく,環境基準と右各基準は重要な関連性 を有しているが,環境基準が果たしている役割は,

目標値ないし指針としての事実上の機能であると い法的な連関性について否定されている。

13) ここでは,生物多様性基本法第3条第3項に規 定された「予防的な取組方法」を用いることとす

14)  5の北村喜宣『環境法」75

15)  394頁に,指定ばい煙の総量規制が直罰の対 象となった事情が説明されている。

16) 360頁では,判例・実務では「排出」「排水 口」をひろく捉え,特定施設に起因しない場合で も排水基準違反罪を構成するとしている。

17) lの大塚直『環境法[第3版]』318 18) 生活環境のみに被害を生ずるおそれのある物質

についての政令規定はない

19)  5の北村喜宣『環境法』367〜368 398〜 399

20)  環境判例百選[第2版]有斐閣1013頁(小賀 野昌一評釈)

21)  健康被害物質となった特定物質は,ばい煙と合 成,分解その他の化学的処理に伴い発生する物質 のうち人の健康若しくは生活環境に係る被害が生 ずるおそれがある政令で定めるアンモニアなど28 物質で,ばい煙発生施設及び特定物質を発生する 施設から事故でそれら特定物質が多量に大気中に 発生した場合の応急及び復旧措置を同法第17条で 定めている。

22)  石綿の製造は既に禁止されているので特定粉じ ん発生施設からの石綿の排出・飛散規制措置はほ ぼ空文化していると思われる。

23)  道路は工作物なので,これに該当しない(注5 の北村喜宣『環境法』 399

24)  5の北村喜宣『環境法』370頁の「トリビア

(11)

神奈川口ージャーナル第8 13 

環境法26事業場規模の引下げは上乗せか横出し か?

25) 規定されなかった背景については注5の北村喜 宣『環境法』382頁参 照。注lの原田尚彦環 境 法』115頁では,はっきりとおそらくいおう酸 化物の規制は,国のエネルギ一政策,原油の輸入 政策等が関連するので,地方公共団体が独自の判 断で規制強化をはかるのは不適当であると解した

ものとおもわれるとしている。

四行政措置による対応

大気汚染防止法と水質汚濁防止法においては,

上記公害防止措置(環境基準を含む)とともに,

大気汚染防止法では,有害大気汚染物質対策の 推進において,環境基準とともに「指定値」

「環境目標値」が,水質汚濁防止法では,環境 基準に準ずる「要監視項目」 「調査項目」が,

それぞれ行政による措置(以下「行政措置」)

によって定められている26)。

このように,両法は,それら行政措置を含め た体系になっている。

1 水質環境基準予備軍の「要監視項目」,毒性 が不明確な物質に対応する 「要調査項目」

( 1) 要監視項目

要監視項目は,平成5年に環境基準に準ずる 予備軍として法的根拠をもたず局長通知で定め

られている。

カドミウムの環境基準に関する平成23年7 月22日の中央環境審議会第3次答申によれば,

「人の健康の保護に関連する物質ではあるが,

公共用水域及び地下水(以下, 「公共用水域等」

という。)における検出状況等からみて,直ち に水質環境基準健康項目とせず,引き続き公共 用水域の検出状況など知見の集積に努めるべき

もの」を「要監視項目」として監視の対象とし ている27。)

その数については,平成

2 6

年の中央環境審 議会4次答申(トリクロロエチレンの環境基準 の見直し検討)の時点では,公共用水域におい て

2 6

項目,地下水において

2 4

項目が定められ ている。

なお,要監視項目については,検出状況等に

より水質環境基準健康項目への移行等を検討す ることとされていて,

14

ージオキサンが平成 21年11月30日に環境基準に移行されている。

(2) 要調査項目

調査項目は,平成

1 0

年に, 「毒性も明らかで、 ないいわばグレーゾーンにある 300物 質28)」 が指定されている。指定基準は, ①日本で一定 の検出率を超え, ②日本ないし外国において法 規制の対象としているか,人の健康又は水生生 物への影響が指摘されており, 日本でも一定量 以上の製造・輸入がなされ, ③専門家の知見等 により人や水生生物に影響を与える可能性があ ることのいずれかに該当するものとなってい る29)。なお,大塚教授は,これらについては,

将来的には,大気汚染防止法と同様に,事業者 の自主的取組を促す規定がおかれる可能性を指 摘している30)。

2 有害大気汚染物質対策の推進目標として設 定された 「指針値」,「環境目標値」

(1) 有害大気汚染物質対策の推進の規定 平成8年改正大気汚染防止法で,第2章の4 に有害大気汚染物質対策の推進が導入された。

これは,ベンゼン等の低濃度で長期ばく露によ る健康影響が懸念される関値のない有害大気汚 染物質への対応で,法3条第3条第3項で,有 害大気汚染物質とは,継続的に摂取される場合 には人の健康を損なうおそれのある物質で大気 の汚染の原因となるもので,ばい煙中の硫黄酸 化物,カドミウム等5有害物質及び特定粉じん

(石綿)を除くもの, としている。

この定義を踏まえ,法第2章の4では,施策 等 の 実 施 の 指 針 (18条の20),事業者の責務 (18条の21),国の施策,地方公共団体の施策 そして国民の努力を規定している。

施策等の実施の指針の規定では,有害大気汚 染物質による大気汚染防止の施策は,科学的知 見の充実の下に,将来にわたって(アンダーラ

インは筆者による)人の健康に係る被害が未然 に防止されるようにすることを旨として,実施

(12)

されなければならないと定め,環境基本法第4 条の文言に 「将来にわたって」を付加した条文 になっている31)。そして,早急に排出又は飛 散を抑制すべき物質に係る対策について附則

9

13項にかけてこれに該当する3物質を指定 物質とし,抑制基準を定めている32)。

(2) 有害大気汚染物質対策の推進の仕組み 法3条13項の有害大気汚染物質の定義規定 には,「政令で定める」規定がおかれていない。

行政がとった推進の仕組みは,有害大気汚染物 質に該当する可能性がある物質(該当可能性物 質)(現在248物質〉,すなわち,「これらの物 質すべてに法第2章の4の規定が適用されるも のではないが,健康被害の未然防止の見地から,

行政は,物質の有害性,大気環境濃度等に関す る基礎的情報の収集整理に努めるとともに,事 業者等は,自主的に排出等の抑制に努めること が期待されるもの」とし,それを絞り込んで,

現在23物質の 「優先取扱物質」を,法2章の 4の対象となる有害大気汚染物質としている33。)

そして優先取扱物質対策推進の仕組みは,環 境目標値(環境基準+指針値)を設け,法

1 8

条の21を踏まえた事業者の自主取組が進めら れている。

(3)優先取扱物質対策推進目標として設定さ れた環境境目標値(環境基準+指針値)

1)  環境目標値(環境基準+指針値)

中央環境審議会の平成12年6次答申,平成 15年第7次答申とそれに基づく施策において,

環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの 低減を図るための指針となる数値(指針値)を アクリロニトリノレ,塩化ピニノレモノマー,水銀,

ニッケノレ化合物の計4物質について定め,優先 取組物質のうち問答申で指針値が示されなかっ た物質についても,今後,迅速な指針値の設定 を目指し,検討を行っていくとした。

そして優先取扱物質のうち4物質(ベンゼン,

トリクロロエチレン テトラクロロエチレン,

ジクロロメタン)については既に環境基準が設 定されており,これと創設された指針値を含む

環境目標値を優先取組物質のリスク削減目標と する施策とした。

2)  指針値

指針値については,中央環境審議会の第10 次答申で,環境基本法第

1 6

条に基づき定めら れる環境基準とは性格及び位置付けは異なるも のの,人の健康に係る被害を未然に防止する観 点から科学的知見を集積し評価した結果として 設定されるもので,基本的には,大気からの長 期的曝露による健康影響を未然に防止する観点 から設定されるものとしている。

3 水質環境基準と水質汚濁防止法の規制を補 完する行政措置と有害大気汚染物質推進目標 である行政措置との性格の違い

(1)水質汚濁防止法の要監視項目,要調査項 目の性格

要監視項目は, 1,4ージオキサンが知見の集 積により環境基準に移行したように,水質環境 基準健康項目の予備軍的位置づけにあるもので ある。また,毒性が不明確な要調査項目は,自 主的取組措置を導入する準備段階のものといえ

る。

いずれも水質汚濁防止法の施行により必要と なった対応を行政措置で行なった性格のものと いえよう。

(2) 有害大気汚染物質対策推進目標の指針値,

環境目標値の性格

一方,指針値は,大気汚染防止法の有害大気 汚染物質推進において優先取組物質のリスク縮 減指針として行政措置により設けられた。それ は, 「環境基本法第

1 6

条に基づき定められる環 境基準とは性格及び位置付けは異なるもの」で, 有害大気汚染物質のうちのベンゼン等

3

指定物 質について設定された環境基準の予備軍的位置 づけにあるものではない。そしてベンゼン等4 物質のいわゆる有害大気汚染物質に係る環境基 準とあわせて「環境目標値」が設けられている。

これも行政措置である。

有害大気汚染物質対策の推進は,指針値の性

(13)

神奈川口一ジャーナル第8号 15 

格を 「基本的には,大気からの長期的曝露によ る健康影響を未然に防止する観点から設定され るもの」としたように,長期ばく露による健康 影響を未然に防止するための制度で,それは,

ベンゼン等

3

指定物質抑制措置については同法 附則に規定するとともに,第2章の4の各規定 を踏まえた行政措置による仕組みをとってい る34

26) なお,水質汚濁防止法の排水基準28物質のうち 現時点で7物質について規制対象業種の一部に暫 定排水基準が設けられている。これも水質汚濁防 止法の規制体系を構成しているものであるが,今 回は取り上げなかった。

27)  lの大塚直環境法[第3]』358頁参照。

28) 同358 29) 同358359

30)  同359頁,なお, 「自主的取組を促す規定」とは おそらく大気汚染防止法の第3章有害大気汚染物 質対策の推進の事業者の責務を規定した第18条の 22のような規定を念頭においているものと思われ

31)  この規定をみても有害大気汚染物質対策の推進 の仕組の特殊性が理解されよう。

32)  ジクロロメタンは,環境基準は設定されている が,基準を超過していないので指定物質には指定 されていない。

33)  大気汚染防止法の一部を改正する法律の施行に ついて(平成9年2月12日環大規31号)

34) 北村教授は 「特殊な規制方式」としている 5の北村喜宣環境法』389

五 長 期 ば く 露 影響の有害大気汚染物質対策を推 進する大気汚染防止法と短期ばく露影響の有害 物質規制を維持する水質汚濁防止法

以上,大気汚染防止法と水質汚濁防止法の公 害防止措置について,その目標である環境基準 と排出規制を強化する直罰制,損害賠償の無過 失責任規定, さらに両法で用いられている行政 措置について,分解して対比してみた。その結 果を要約すると,

7物質について排出基準を定めてその違反に対 し,さらに指定ばい煙(硫黄酸化物と窒素酸化 物)に対する総量規制基準の違反に対して,そ れぞれ直罰を科している(第33条の2第l項 第1号,第13条l項,第13条 の2第l項)。 それらの物質は人の健康又は生活環境に係る被 害を生ずるおそれのあるものである(法

2

l

3

号)。そこで,無過失責任の規定の対象に ついては,ばい煙7物質,粉じん,事故対応措 置の対象の特定物質とし,それらのうちで生活 環境のみに係る被害を生ずるおそれがある物質 を除いている。これらを健康被害物質としてい る(同法第25条第l項)。そして環境基準は,

健康項目のみ定めていて,昭和48年に二酸化 いおう等5物質を定め,そのうちの二酸化窒素 に関しては昭和

5 3

年に分離している。これら 環境基準のうちいおう酸化物と窒素酸化物につ いては環境基準未達成の場合は総量規制措置導 入と事実上連動している。

大気汚染防止法は,ばい煙規制物質にみられ るように,人の健康又は生活環境に係る被害を 生ずるおそれのあるものを対象としていること から,健康影響に限定した以上のような仕組み を設けざるを得なかったようだ。そして以上の 仕組みの対象となる物質(ばい煙規制

7

物質)

は,その後追加されず,その一方で,平成8年 改正で,ベンゼン等の低濃度で長期ばく露によ

る健康影響が懸念される関値のない有害大気汚 染物質への対応として早急に措置を講ずる必要 のある指定物質抑制措置とそれらについて環境 基準が設定されたのを除き,施策の指針などの 規定を踏まえた行政措置による仕組みがとられ た。さらに平成

1 6

年改正の揮発性有機化合物 排出抑制措置,平成27年改正の水銀排出抑制 措置は,いずれも規制と自主取組を組み合わせ たもので,直罰,無過失責任とは別のシステム

となっている。

総括すると,大気汚染防止法の規制体系は,

l大気汚染防止法の公害防止措置の特徴 ばい煙規制の仕組みと対象物質は当初のままに 大気汚染防止法の公害防止措置は,ばい煙等 しておき,その一方で,長期ばく露影響の有害

(14)

大気汚染物質対策を推進するものとなっている。

2 水質汚濁防止法の公害防止措置の特徴 一方,水質汚濁防止法の公害防止措置は,大 気汚染防止法と同じく,人の健康を保護し,生 活環境を保全することであるが,健康に被害が 生ずるおそれのある有害物質については,原則 環境基準の10倍希釈で設定される排水基準値 に対して直罰,そして地下浸透の規制基準値の 超過による場合も加え,健康被害発生の損賠賠 償訴訟において無過失責任が適用されるという 一貫したシステムとなっている。

ただ,環境基準そして有害物質は,公害疾病 に関わったカドミウム等重金属類

8

物質であっ たが,その後のトリクロロエチレンなどの有機 塩素系化合物などが含まれて現在,環境基準 27そして有害物質28になっている。そして環 境基準の予備軍的位置づけの要監視項目と毒性 不確実なものに対する要調査項目が行政措置で 設けられている。

他方,生活環境項目については排水の基準と 生活環境項目の環境基準が海域ごとの類型で設 定されていて,いわば別の体系になっている。

総括すると,水質汚濁防止法の公害防止措置 は,短期ばく露影響の有害物質規制の仕組みを そのまま維持している。

六水質汚濁防止法の有害物質及び大気汚染防止 法の有害大気汚染物質と他法令の規制・管理と の連動・連携関係

これまで,水質汚濁防止法の有害物質規制と 大気汚染防止法のばい煙規制・有害大気汚染物 質対策の推進のシステムに焦点を当ててきたが,

目を外に転ずると,水質汚濁防止法の有害物質 は食品衛生・公衆衛生関連法令の規制と連動す る場合があり,また大気汚染防止法の有害大気 汚染物質・該当性物質は特定化学物質の環境へ の排出量の把握と等及び管理の改善の促進に関 する法律(平成11年 法86)(化管法)の指定 物質との連携関係にある。最後にこれらのこと

に触れておく。

1 水質汚濁防止法の有害物質と食品衛生・公 衆生成関連規制との事実上の連動関係

水質汚濁防止法の有害物質規制は,食品・公 衆衛生関連の規制と事実上の連動関係にある場 合がある35)。その例としてカドミウムの排水 基準強化の経緯を紹介する。

まず,平成18年7月のFAO/WHO合 同 食 品委員会において一定の食品群にカドミウムの 基準が設定されたことを踏まえて平成

2 0

7

月に日本の食品安全委員会がカドミウムの耐容 週間摂取量(TWI)を設定した。これを受け て平成21年l月に食品衛生法の規格基準の改 正が行われ,翌平成22年4月に水道法の水質 基準の改正が行われた。

そして同年6月に環境基本法の土壌汚染の環 境基準が改正されてそれが土壌汚染対策法のカ ドミウム汚染に対する発動基準となり,平成 23年10月にカドミウムの水質環境基準(健康 項目)が改正され,これを踏まえて平成

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年 12月1日に水質汚濁防止法のカドミウム排水 基準が改正された(環境基準の10倍希釈)36)。

2 大気汚染防止法の有害大気汚染該当可能性 物質と化管法の指定物質との連携関係 平成

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年改正大気汚染防止法による有害大気 汚染物質対策の推進が導入された当初,有害大 気汚染該当可能性物質は234物質,優先取組物 質は22物質となっていた。その後,平成11年 の化管法が制定され,その対象となる指定物質 が,人の健康(化管法は生態影響も含む)に係 る被害の未然防止を目的に,排出状況の把握,

自主的な排出抑制や管理の改善を求める物質と して位置づけられている点で類似しており,対 象物質の選定の考え方にも共通点があることか ら,化管法の指定物資との整合性を図るよう見 直され,該当可能性物質248,優先取組物質が 23になった37)。

(15)

神奈川口ージャーナル第8

35)  なお, WHO飲料水水質ガイドラインを踏まえ た場合の方が多い。

36)  省令改正の基となった平成26716日の中 央環境審議会水環境部会排水規制専門委員会報告 では,排水基準の設定について 有害物質の規制 に係る排水基準についての従来の考え方を踏襲し,

既規制項目で環境基準が強化されたカドミウムに ついても,新しい環境基準(0.003mg/L)10 値(0.03mg/L)を排水基準とすることが適当であ 。」としf

37)  平成121219日付中央環境審議会答申 後の有害大気汚染物質対策のあり方について(第 6次答申)。なお,注9の 柳 憲 13章 大 水環境管理における規制的手法」『環境保全の 法と理論」 241頁も参照。

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