趣旨説明:計測の最適化を考えよう
(野口)
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趣旨説明:計測の最適化を考えよう
野口 淳
(N PO 法人南アジア文化遺産センター/奈良文化財研究所客員研究員)
第 2 回 の テ ー マ は 、「 古 墳 ・ 横 穴 墓 ×3 D」 で あ る 。 そ し て も う 一 つ の テ ー マ は 、 目 的 ・ 対 象 に よ る 計 測 手 法 ・ 機 器 の 最 適 化 で あ る 。 具 体 的 な 事 例 に も と づ き 議 論 し 、 理 解 を 深 め る た め に 、 対 象 と し て 横 穴 式 石 室 ・ 横 穴 墓 が 選 択 さ れ た 、 と い う こ と で あ る 。
今 回 も 焦 点 と な る 3 D 計 測 は 、 考 古 学 ・ 埋 蔵 文 化 財 の 分 野 で 従 来 行 な わ れ て き た 計 測 の 方 法 ― 計 測 点 を 指 示 ・ 指 定 し て 位 置 座 標 を 取 得 し 計 測 点 間 を 結 線 す る ― と は 大 き く 異 な り 、 対 象 の 表 面 形 状 を 高 い 解 像 度 と 精 度 で 面 的 に 計 測 す る 。 し か し 3 D 計 測 と い っ て も 、 手 法 や 使 用 機 器 は さ ま ざ ま で あ る ( 金 田 ほ か 2 0 1 0、 金 田 2 0 1 9)。 そ れ ら は 、 そ れ ぞ れ に 固 有 の 特 性 を も ち 、 長 所 と 短 所 が あ る 。 特 定 の 手 法 や 機 器 が 他 に 優 越 す る と い う こ と は な く 、 目 的 に よ っ て 最 適 な 手 段 を 考 え る べ き で あ る 。 今 回 は 、SfM/ MVS に よ る 写 真 計 測 ( フ ォ ト グ ラ メ ト リ )、SLAM、 レ ー ザ ー ・ ス キ ャ ナ を 取 り 上 げ る が 、 ほ か に も LiDARな ど が あ る 。
最 適 化 に つ い て 注 目 し た い の は 、 以 下 の 3 点 で あ る 。
1 ) 導 入 ・ 運 用 の 容 易 さは 、 主 に 金 銭 的 コ ス ト と 習 熟 コ ス ト で あ る 。 解 像 度 に お い て 優 れ た 特 性 を 示 す 手 法 ・ 機 器 で あ っ て も 、 導 入 や 運 用 の ハ ー ド ル が 高 け れ ば 選 択 肢 と し て は 優 先 度 が 下 が る こ と も あ る だ ろ う 。
2 ) 解 像 度は 、 細 か さ だ け が 注 目 さ れ が ち だ が 、 実 際 に は 運 用 の コ ス ト と 関 連 し て 検 討 す べ き 事 項 で あ る 。 高 い 解 像 度 は 、 計 測 ・ 処 理 の 時 間 コ ス ト の 上 昇 、 デ ー タ ・ サ イ ズ の 増 大 に よ る 取 り 回 し の 困 難 さ 、 維 持 ・ 管 理 コ ス ト の 上 昇 を 招 く 。 目 的 ま た は 対 象 に よ っ て 必 要 な 解 像 度 が 定 ま る 時 、 入 出 力 の 解 像 度 を 調 整 で き な い 機 器 ・ 手 法 で は 、 オ ー バ ー ス ペ ッ ク に よ る 損 失 が 生 じ る 場 合 が あ る 。 こ の 点 は 青 木 報 告 に 詳 し い 。 考 古 学 ・ 文 化 財 分 野 に 引 き 付 け る な ら ば 、 ど の よ う な 縮 尺 ・ サ イ ズ が 必 要 と さ れ る か を 考 え れ ば 良 い 。 た と え ば S=1/40~1/50 で 可 視 化 な い し 解 析 ・ 検 討 す る 際 に 、0 . 1 m m 単 位 の 解 像 度 は 本 当 に 必 要 で あ ろ う か?
も ち ろ ん 、 高 解 像 度=大 縮 尺 の デ ー タ か ら 、 低 解 像 度=小 縮 尺 の デ ー タ を 生 成 ( リ サ イ ズ 、 リ サ ン プ リ ン グ ) す る こ と は で き る が 、 逆 は 困 難 で あ る か ら 、 で き る 限 り 高 解 像 度 の 記 録 を 残 し て お く べ き だ と い う 思 想 ・ 設 計 も あ り 得 る 。 し か し 際 限 な く 解 像 度 を 高 く す れ ば よ い と い う こ と で は な い 。 サ イ ズ の 大 き な デ ー タ は 保 管 す る だ け で も コ ス ト が か か る し 、 何 よ り も 処 理 す る た め に 高 ス ペ ッ ク の コ ン ピ ュ ー タ が 必 要 と な る た め 、 運 用 コ ス ト の 増 大 を 招 く 。
し か し 現 状 で は 対 象 や 場 面 ご と の 最 適 解 を 示 す こ と は 難 し い 。 ケ ー ス バ イ ケ ー ス で 対 応 し つ つ 、 事 例 を 蓄 積 し て 最 適 化 を 模 索 す る べ き だ ろ う ( 金 澤 報 告 参 照 )。 処 理 ・ 運 用 環 境 に よ り コ ス ト 評 価 も 変 わ る の で 、 画 一 的 な 規 格 化 ・ 標 準 化 は 避 け る べ き で あ る 。 そ れ ぞ れ の 環 境 条 件 下 で の 、 そ の 時 点 に お け る ベ ス ト を 追 求 す る た め の 情 報 ・ 知 識 の 共 有 が 重 要 で あ る 。
3 ) 計 測 可 能 範 囲 ・ 条 件は 、 機 器 ・ 手 法 に よ り 大 き く 異 な る 。 計 測 可 能 範 囲 は 、 最 小 計 測 距 離 と 最 大 計 測 距 離 で 定 義 さ れ る が 、 多 く の 場 合 、 段 階 的 ( あ る い は 連 続 的 ) に 精 度 ・ 解 像 度
第2回考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
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も 変 化 す る 。 計 測 可 能 条 件 は 、 考 古 学 ・ 文 化 財 分 野 で は 、 と く に フ ィ ー ル ド ワ ー ク で の 計 測 記 録 と の 関 係 で 、 直 射 日 光 下 で の 計 測 が 可 能 か ど う か 、 お よ び 外 部 電 源 が 必 要 か 、 バ ッ テ リ の み で ど の 程 度 稼 働 で き る か が 検 討 対 象 に な る だ ろ う 。
次 に 、 こ れ ら 3 点 に つ い て 、 今 回 取 り 上 げ る 機 器 ・ 手 法 ご と に 概 観 し て み よ う 。
S f M / M V S は 、 デ ジ タ ル 画 像 ( 静 止 画 ・ 動 画 ) を 専 用 の ソ フ ト ウ ェ ア ・ ア プ リ ケ ー シ ョ ン で 解 析 処 理 す る 。 導 入 の 金 銭 コ ス ト は 、 撮 影 機 材+ソ フ ト ウ ェ ア の 価 格 と な る が 、 考 古 学 ・ 文 化 財 分 野 で は 撮 影 機 材 は 既 に 揃 っ て い る 場 合 が 多 い 。 ソ フ ト ウ ェ ア の 価 格 は 様 々 だ が 、 必 要 最 小 限 の 機 能 を 確 保 す る た め に は 無 償 ~ 数 万 円 で 、 撮 影 機 材 の 価 格 を 含 め な け れ ば も っ と も 安 価 と 言 え る 。 た だ し 無 償 の ソ フ ト は 操 作 性 ( た と え ば 日 本 語 化 さ れ て い な い ) や 機 能 の 制 約 (S f M の み で メ ッ シ ュ 生 成 等 は 別 の ソ フ ト が 必 要 ) が あ る 。
有 償 の 商 用 ソ フ ト も 多 々 あ る が 、 現 状 で は 、 主 に 価 格 面 か ら Agisoft Metashape が 、 考 古 学 ・ 文 化 財 分 野 で は 最 も 普 及 し て い る よ う に 見 え る 。 日 本 語 化 さ れ た 操 作 環 境 (GUI)も 導 入 ・ 運 用 コ ス ト の 低 減 に 一 役 買 っ て い る だ ろ う 。 ド ロ ー ン (UAV) や 延 長 ポ ー ル を 利 用 し た 俯 瞰 撮 影 に よ る 平 面 的 な 撮 影 ・ 処 理 の 場 面 が 多 い こ と も Metashape が 有 効 と 見 な さ れ る 理 由 の 一 つ か も し れ な い 。 価 格 的 に は 高 く な る が ($3,499)、Professional 版 で は 座 標 を 付 与 で き 、 オ ル ソ 画 像 が 出 力 で き る の で 、 遺 跡 や 調 査 区 全 体 を 計 測 し 、 可 視 化 ・ 図 化 し た い 需 要 に 即 し て い る 。 一 方 、SfM や メ ッ シ ュ 生 成 、 テ ク ス チ ャ 処 理 な ど に つ い て は ソ フ ト ご と の 長 所 短 所 が あ る の で 、 た と え ば 遺 物 の 種 類 ・ 表 面 状 態 別 に 、 異 な る ソ フ ト (Reality Capture:https://
www.capturingreality.com/な ど)の 出 力 と 比 較 す る 必 要 が あ る 。
S f M / M V S の 精 度 ・ 解 像 度 は 、 主 に 入 力 ( 画 像 セ ッ ト ) の 品 質 に 依 拠 す る 。 解 像 度 は 処 理 過 程 に お い て 指 示 ・ 変 更 す る こ と も で き る 。 と く に ミ ク ロ な 表 面 状 態 の 計 測 ・ 図 化 ・ 解 析 が 可 能 な 点 は 長 所 で あ る ( 大 村 報 告 )。CPU/ GPU の 性 能 や メ モ リ は 、 画 像 サ イ ズ や 数 に 対 す る 処 理 精 度 ・ 解 像 度 と 処 理 時 間 ( あ る い は 直 接 的 な 処 理 可 能 画 像 数 ) に 影 響 す る 。 し か し そ も そ も 低 品 質 な 画 像 を 改 善 す る こ と は で き な い ( 専 用 ソ フ ト で の 画 像 処 理 は 除 く )。 処 理 過 程 で の 秘 訣 や 裏 技 は あ る が 、 基 本 的 に 要 求 さ れ る の は 画 像 取 得 、 す な わ ち 撮 影 の 技 量 で あ り 、 そ れ は か な り の 部 分 で SfM/ MVS 用 以 外 の 写 真 撮 影 の 技 術 と 共 通 す る 。 計 測 可 能 範 囲 ・ 条 件 も 、 写 真 撮 影 に 準 じ る 。 こ れ ら の 点 で 、 写 真 撮 影 の 知 識 ・ 技 術 を 一 定 程 度 身 に 付 け て い る 担 当 者 が 少 な く な い 考 古 学 ・ 文 化 財 分 野 で は 習 熟 コ ス ト が 低 く 、 か つ 条 件 も 整 備 し や す い た め 、 SfM/ MVS が 普 及 し て い る と い え る だ ろ う 。 な お Metashape は 、 動 画 や 全 天 球 画 像 も 利 用 可 能 な た め 、 画 像 セ ッ ト 作 成 に お い て キ ャ パ シ テ ィ が 大 き い ( 伊 藤 報 告 )
SLAMは 、Simultaneous Localization and Mappingの 略 称 で あ り 、 自 己 位 置 推 定 と 地 図 作 成 を リ ア ル タ イ ム で 行 な う 技 術 で あ る 。 レ ー ザ ー ・ ス キ ャ ナ に よ る 測 距 や 、 画 像 に よ る 深 度 認 識 、 モ ー シ ョ ン ・ ト ラ ッ キ ン グ な ど の 組 み 合 わ せ に よ る 。 全 自 動 掃 除 機 が 室 内 の 状 況 を 認 識 し 自 走 す る 際 に 利 用 さ れ る 技 術 と 言 え ば 分 か り や す い だ ろ う 。 実 は 、 機 器 導 入 の 金 銭 的 コ ス ト に お い て S f M / M V S と 大 き く 変 わ ら な い か 、 場 合 に よ っ て は 安 価 な こ と も あ る 2 )。 運 用 も そ れ ほ ど 複 雑 で は な く 、 機 器 に も よ る が 習 熟 は 比 較 的 容 易 で あ る 。 一 方 で 、 他 用 途 へ の 互 換 性 が な い 専 用 機 器 を 必 要 と す る こ と か ら 、 コ ス ト パ フ ォ ー マ ン ス の 点 で SfM/ MVS よ り 劣 る と 捉 え ら れ が ち な の か も し れ な い 。 ま た 現 状 で は 、 解 像 度 に お い て SfM/ MVS や レ ー ザ ー ・ ス キ ャ ナ よ り 劣 る 場 合 が 多 く 、 計 測 可 能 範 囲 ・ 条 件 も タ イ ト で あ る 。 直 射 日 光 下 で は 、SfM/
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MVS や 中 距 離 用 レ ー ザ ー ・ ス キ ャ ナ に 大 き く 及 ば な い 。 こ う し た こ と も あ っ て か 、 考 古 学 ・ 文 化 財 分 野 で は 知 名 度 ・ 普 及 度 も 低 い 。 し か し 対 象 あ る い は 場 面 に よ っ て は SfM/ MVS や レ ー ザ ー ・ ス キ ャ ナ よ り 優 位 に 立 つ 。 金 澤 報 告 、 岩 村 報 告 を 参 照 し て 欲 し い 。
レ ー ザ ー ・ ス キ ャ ナは 、 レ ー ザ ー 光 の 直 進 性 を 利 用 し 、 そ の 反 射 を 検 出 し て 対 象 の 表 面 形 状 を 計 測 す る も の で あ る 。 レ ー ザ ー ・ ス キ ャ ナ の 種 類 と 特 性 に つ い て は 、 金 田 ほ か (2 0 1 0) に 解 説 さ れ て い る ほ か 、 青 木 報 告 で 、 長 所 短 所 が SfM/ MVS と の 比 較 を 通 じ て 詳 説 さ れ て い る 。 端 的 に 言 え ば 、 導 入 ・ 運 用 コ ス ト は 最 も 遥かに高い。比較的小さな遺物(<300mm 程度)を 対象とするのであれば、SfM/ MVS のソフト+撮影機材の導入コストと拮抗する可能性もあるが、古 墳の石室クラスの対象に適した機器の導入コストは、最低でも十数倍~百倍以上になる。ただし、高 価な機器は計測可能範囲や条件において高い性能を示すため、導入コストとトレードオフの関係にあ るとも言える。この場合、広い範囲を短時間で計測できることが最大の魅力である。機器ないし制 御・処理ソフトウェアにおいて、計測の解像度を調整できるので、広範囲の計測であっても不必要に 大きなサイズのデータを生成することを避けることもできる。導入の初期コストをクリアでき、かつ 十分な稼働率が確保されるなら、運用面で償却できるとも考えられるだろう。一方で、広範囲を計測 可能な機器は最小計測距離も相対的に大きいため、狭い空間や小さい対象には不向きである。
このほかにも、各機器・手法ごとの特徴、長所と短所は、条件によって様々に挙げることができる。
しかし重要なのは、計測機器・手法の違いに関係なく、取得された 3D 計測データを、同じ過程で処
理し、利用できることである。たとえば、正射投影(オルソ)図像を作成し、また展開図や断面図を 作成する、あるいは各種の画像処理を行なうにあたって、計測機器・手法ごとの特性を考慮する必要
はあるが、まったく別の過程を準備する必要はない。3D計測は、考古学・文化財におけるデータ取得
モジュールとして、多様で多彩なアウトプットを生み出す基点となる。そこでは、どのような機器・
手法を選択し、実施するかは、互換可能な選択肢である。であるからこそ、その時点、場面、条件ご とに最適な選択を行なうことができるよう、知識や経験を共有することが、貴重なデータの記録にお いて最重要タスクだということが理解されるだろう。これこそが、今回、共有したい点である。
そ の 上 で 、 見 た こ と の な い 図 化 ・ 視 覚 化 と 研 究 の 視 点 が 表 れ る こ と を 期 待 す る 。
注
1) 2019年7月時点で無償利用できるオープンソースSfMソフトとして、COLMAP(https://demuc.de/colmap/)、
Regard3D(http://www.regard3d.org/)、MESHROOM(https://alicevision.github.io/#meshroom)、VisualSfM
(http://ccwu.me/vsfm/)、MicMac(https://micmac.ensg.eu/index .php/Accueil)などがある。3DF Zephyr(https://
www.3dflow.net/3df-zephyr-pro-3d-models-from-photos/)は有償の商用ソフトだが無料版でもモデルの出力・保存が 可能、ただし処理できる画像は50枚まで。
2)たとえばMicrosoft Kinnect Sensor for WindowsやIntel RealSense Depth Camera D435iは、いずれも店頭 価格で3万円前後、ZenfoneAR(SIMフリー、ストレージ64GB)は中古価格で4~5万円前後。
文 献
金 田 明 大 ・ 木 本 挙 周 ・ 川 口 武 彦 ・ 佐 々 木 淑 美 ・ 三 井 猛 2 0 1 0『 文 化 財 の た め の 三 次 元 計 測 』 岩 田 書 院 金 田 明 大 2 0 1 9「3 次 元 技 術 等 に よ る デ ジ タ ル 技 術 の 導 入 」『 デ ジ タ ル 技 術 に よ る 文 化 財 情 報 の 記 録 と
利 活 用 』 奈 良 文 化 財 研 究 所 研 究 報 告 第 2 1 冊