重複形容詞と重複形容動詞
著者 蜂矢 真郷
雑誌名 同志社国文学
号 24
ページ 40‑52
発行年 1984‑03
権利 同志社大学国文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004990
重複移容詞と重複形容動詞四〇
重複形容詞と重複形容動詞
蜂 矢 真 郷
本稿は︑これまで畳語に1っいて考察してきた前稿H﹁語の文法的 0 ◎構成 畳語について ﹂・o﹁移状言の重複の一形態﹂・臼﹁一 @ @部重複と縮重複﹂・四﹁重複彩容詞の構成﹂および近稿H﹁重複彩 ◎ @状言・重複接尾彩状一言﹂・O﹁動詞の重複とツツ﹂を承げて︑前稿
働に述べた重複砂容詞に関連しつつ︑それとともに重複彩容動詞に
っいて考えようとするものである︒
前稿陶において︑重複してシを伴い形容詞を構成したものを重複
彩容詞と呼んだ︒同様に︑重複してナリを伴い彩容動詞を構成した
ものを重複彩容動詞と乎ぶこととする︒尤も︑右にナリを伴い云六
と述べたが︑改めて言うまでもなくナリは二十アリが縮約したもの
であり︑従って︑より厳密には︑重複して二を伴い多く情態副詞に あらわれたものがアリを伴って彬容動詞を構成したものというべきところである︒ 右のナリ活用のものに対して︑重複してタリを伴い形容動詞を構成したところのタリ活用のものもやはり重複移容動詞に含まれる︒げれども︑タリ活用の彩容動詞はそのほとんどが漢語のものであり︑和語のものは カソ︿タリ︵興福寺蔵大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年頃点・類聚 名義抄観智院本︶ マチ︿タリ︵石山寺蔵大唐西域記長寛元年 点︶ ¢が知られているに過ぎたい︒今は︑和語のものの構成に1っいて考えようとするので︑タリ活用の重複蓉動詞は︑和語の例︑ヵツくタリ・マチ︿タリがありはするが︑以下の考察の主な対象とはな
らない︒また︑ナリ活用のそれにっいても︑漢語のものは基本的に
考察の対象から除くものとする︒
また︑近稿Hにおいて重複形容動詞にふれた際には︑その重複素
が彫状言であるものに問接的にふれただげであったが︑以下に見る
ようにその重複素は形状言のものの他に名詞や動詞︵連用彩︶のも
のがある︒前稿陶では必ずしも十分にふれ得なかったが︑重複形容
詞の重複素も形状言・名詞・動詞︵連用形︶などのものがあり︑こ
の点で重複形容詞と重複彩容動詞との共通性を窺うことができよう︒
二
まず︑重複形容動詞の例を挙げることにしたい︒
それに1当たって︑重複彩容詞との比較の便を考慮して︑前稿陶に1
おいて重複彩容詞の例を挙げた際に
の﹃時代別国語大辞典上代編﹄が見出し語とするもの︒
○源氏物語に用例のあるもの︒
い類聚名義抄観智院本に例のあるもの︒
をすべて採るという基準を設けたのにならいたいと考えるが︑しか
しながら︑右のoいはよいとして︑のにっいては﹃時代別国語大辞
典上代編﹄は彩容動詞を見出し語としていないので︑こののをその
まま重複彩容動詞の例を挙げるのにも適用することはできない︒そ
こで︑ 重複彩容詞と重複彩容動詞 萬葉集・古事記︵仮名書き部分︶・目本書紀︵同︶・風土記︵同︶・ 続目本紀宣命・祝詞に用例のあるもの︒を新たにいとして︑い岬いの範囲から重複形容動詞の例を挙げることとする︒なお︑後に重複形容詞に−っいて述べる際にも︑前稿働を修正していoいの範囲から例を挙げることにしたい︒ さて︑重複彩容動詞の例を︑重複素別に︑oo形状言の重複︑の名詞の重複︑c幻動詞︵連用彩︶の重複︑のように分類して挙げる︵い
・口・ハの注記は右のいoバのいずれの範囲から採ったかを示すも @のである︶︒
いロ ハ ハ ロ
○o彩状言の重複タニリカマくナリウツ・ナリシブ
ハ 日 ハ
︿ナリヨソ︿ナリ一装々一コトぐナリ一異己オホ
ロ・ナリ言くナリ
ロ し
似名詞の重複ナカ︿ナリクサぐナリソバくナリ
ロ ロ ロ サマーぐナリ カズ︿ナリ ココローぐナリ
ロ ロ 日 c幻動詞︵連用彩︶の重複 ナミ︿ナリ トリ︿\ナリ ヤセ
ロ ロハ
くカレぐナリ一枯々一ツレぐナリ
なお︑⁝Hのオホ・ナリは︑
欝一略︶ヨホ︑ナリ︵略︶︵仏下本二一七︹65オ︺︶
とあるが︑正宗敦夫氏編﹁類聚名義抄仮名索引﹂に﹁オホ・ナリに
てはなくや﹂とあるのによってオホ・ナリの例と見たものである︒
四一
重複形容詞と重複彩容動詞
右は︑重複してナリを伴ったものに限ったのであるが︑ニアリが
縮約していないものを︑二とアリとの間に助詞が介在しているもの
を含めて︑改めていoいの範囲から挙げると︑右に挙げたものに包
摂されるものの他に︑
口 さは ゆ CDシ︐・ニアリ ⁝山はしもく之自亦安礼等毛V川はしも多に行
げども⁝︵萬四〇〇〇︶
p しの cヵシノピく一アリ御文は忍びくにありげり一真木柱一
の例を追加することができる︒以下︑これらも重複形容動詞の例に
合めて扱う︒
これでは例が少匁いので︑参考として︑いoいに限らず上代・中
古の範囲からさらに例を拾うと︑
0Dホトくナリ一雄略紀八年前田本・同図書寮本一
9ナぐナリ一石山寺蔵大唐西域記長寛元年点一ヨソくナ
リ︹余所々々︺︵夜の寝覚︶
cヵチリぐナリ一大鏡一
を挙げることができるが︑依然として例は多くたい︒たお︑以下︑
これら参考として挙げたものにっいては括弧を付して示すことにす
る︒ 以上の例にっいて見ると︑全体として例が多くないので必ずしも
はっきりしないが︑0D彬状言の重複のものが最も多く︑以下︑の名 四二詞の重複︑岬動詞︵連用移︶の重複︑の順になっている︒ 重複素の末音節については︑0D彩状言の重複のものは基本的にア
・ウ・オ列のものでその他にイ列のものが1例あり︑の名詞の重複
のものはア・ウ・オ列のものぱかりであり︑ゆ動詞︵連用捗︶の重
複のものは当然のことながらイ・エ列のものぱかりである︒の名詞
の重複のものにイ・エ列のものが見られてもよさそうなところであ
るが︵前稿い参照︶︑その例は見当たらたい︒このことが偶然であ
るかどうかについては︑全体として例が多くないこともあって明ら
かにたらない︒
重複素の音節数については︑二音節のものが多い︒0Dウツ・ナリ
・オホ・ナリは︑重複素が二音節で︑前稿嘗に述べた縮重複のもの
である︒この2例はいずれも形状言の重複のものであるが︑縮重複
・一部重複が基本的に彩状言の重複に見られること︑前稿嘗に述べ
た︒他に︑一音節のものとしてcDタ︑・ナリ・シ︑・ニアリ︑三音節の
ものとして働コニぐナリ︑cカシノピく一アリがある︒
以上︑この節では重複移容動詞について概観した︒
三
重複移容詞の例は既に前稿回に示したが︑前稿的を修正して重複 彬容動詞と同様にい@バの範囲から例を挙げ︑改めて重複素別に分
@類して示すと次のようである︒
しロ ロ ロ し口
○D摸言の重複ナガ︿シ一ガ︿シワカくシスガ
い ■ 日 ロハ
<シソガ︿シヒガくシアダ︿シクダ︿ツ
日 日
ア一くシ一一ぐシセ一くシセバ︿シカ一
日 ロハ ︵口︶ いロハ
︿シイマくシアラくシムラ︿ツキラ︿シ
ハ ハ ロ ハ ロ
シラぐシワ・シサウぐシサク︿シスク︿シ
ロ し し
ムクくツタヅ︿シヤソくシイツ・シヤム︿ いロハロハ いロ ロ
シ ュ・シ カル人\シ コシ タド︿シ ウト︿シ︵い︶口 日 ロ ロ し
ホトくシホノぐシナホくシオボ︿シオホ・
いロ ロ ロハ いロ
シトホくシオモ︿シカロぐシオドロくシ
ロ い ロ ロ ロ
タイぐシタギくシウヒくシサヰ︿シクネ
ロ︿シ マメくシ
ロ ロハ ロ ロ の名詞の重複 ハカ︿\シ ヲサ︿シ オトナ︿シ シナ
日 口 し日 し
ぐシソバくシキ一ぐシク一くシウヤくシ
ロハ ロ ハ ロ ロ
ヰヤくシカウぐシヤウくシ一一シカド︿シ
ロハ 日ハ ロ いロ ロ
一トぐシ一事々一ヒトぐシモノくシヲ・ショツ
日 日 日 口
くシミチくシカヒぐシナサケくシオホヤケ
ロ ロ し ロ ロ
︿シクセぐシムネくシヒネ︿シメ・シ一
ユくシ
ロ ロハ ロ
に幻動詞一連墨一の重複スキぐシツキぐシカケく
重複彩容詞と重複形容動詞 ロ ロ ロ ロ ロ シ ホケ︿シ ハニ入ビ\シ ナレ︿シ ハレ人\ツ オ 同 ロ
レくシホレぐシシレぐシ
日 口 ↑o副詞の重複 イトシ ウベ︿シ この他に︑○o〜↑oのいずれ︑もしくはそれ以外︑に分類されるか ハ ◎未詳のものとしてユヒ︿ツがある︒ たお︑⁝wのヤム︿シは︑ 験︵略︶ヵタクナムヤ︑ムシ︵略︶︵僧中九九︹5ーオ︺︶とあるが︑﹁験︵路︶加太久奈又也牟くく志﹂︵新撰字鏡享和本︶によってヤムくシの誤りと見たものである︒これにっいては︑轟吉男氏の研究発表﹁中古におげる語幹重複型の形容詞について﹂︵H鵠H・閉もト国語学会︶の当目配布の﹁資料﹂を参照した︒ また︑因みに︑音便のもので前稿的にふれたかったものについて 日 ハ付言しておくと︑ののヵウぐシ・ヤウ︿シはそ毫れヵミぐ
シ一神六一・ヤミくシ一闇々一のウ音便と見られる︒ さて︑重複形容動詞と同様に︑参考として︑いoバに限らず上代・中古の範囲からさらに例を拾うと次のようである︵*印を付した @ものは東郷氏﹁平安時代の重複形容詞索引﹂を︑**印を付したも
のは同氏﹁平安時代におげる重複型語幹の彫容詞にっいて かな @系文学作品の用例を中心に ﹂を︑***印を付したものは同氏 @前掲﹁資料﹂を︑それぞれ参照したものである︶︒
四三
重複彩容詞と重複彩容動詞 ホ○oサガくシ一西大寺蔵金光明最勝王経平安初期点一チカぐ
ホ
シ一落窪物語一サ・シ一栄花物語一ナ一くシ一大和物
ホホホ 語・平中物語︶ キラ・シ ︵高野山大学図書館蔵蘇悉地翔羅経承
ホ 保元年点︶ シブ︿シ︵龍光院蔵妙法蓮華経平安後期点︶ ニ
ブ︿シ︵狭衣物語︶ オム︿シ︵雄略紀四年前田本・同
図書寮本一フルぐシ一枕草子一オ一・シ一持統紀元年
北野本一トモ︿シ一新撰字鏡一ツヨくツ一梁塵秘
抄一ノロくシ一夜の寝覚・栄花物語一
のトガくツ一堤中納言物語一ワザくシ一蜻蛉目記・夜の
ホ
寝覚・大鏡一サマぐシ一大鏡一チカラぐシ一落窪物
語一ヨソ︿シ一余所々々一一狭衣物語一ホドくシ一古
今六帖・拾遺九二二︶
ゆワイ︿シ︵石山寺蔵法華経玄賛平安中期点・推古紀升四年岩
崎本︶ ワキ︿シ︵東大寺諏謂文稿︶ モヂ︿シ︵天理図 ホ 書館蔵金剛波若経集験記一オイくシ一字津保物語・栄花物 ホ 語︶ アリ︿シ︵宇津保物語︶ ツギテ︿シ︵東大寺諏 ホ
謂文稿一カ一くシ一推古紀世年岩崎本一サメぐシ
︵夜の寝覚︶
右のうち︑gサマぐシは︑
伊周 帥殿の御こ上ろもちゐのさま人\しくおはしまさぱ 四四のような例で︑右にはとりあえずサマ人\シとして挙げたが︑目本古奥文学大系一大鏡一の頭注に﹁一さかくしく一の誤りか一とあるように︑異奮従って0Dサヵくシとして挙げるべきものかもしれ汰い︒また︑ゆのモヂくツは︑ モチ毛チシ 為性剛彊猛戻
のような例で︑﹃目本国語大辞典﹄はモチ︿シとして挙げ﹁たげ
だげしく道理にそむいている﹂意とする︒この﹁たげだげしく﹂と
あるのは﹁猛﹂にっいてのことかと思われるが︑訓は﹁戻﹂にっい
ていると見られるので︑結局﹁道理にそむいている﹂意ということ
になる︒また︑東京教育大学大学院中田教授国語学ゼ︑・・ナール学生 @編﹃金剛波若経集験記古訓考証稿﹄は︑この例を﹁孤例﹂とし﹁意
味未詳︒その神の性格が酷でねじけているというようなことか︒﹂
︵この項︑犬飼隆氏担当︶としている︒﹁戻﹂という用字と︑恐らく
はそこから考えられたであろうところの﹁道理にそむいている﹂な
いし﹁ねじげている﹂という意味から考えて︑これは別稿﹁モドロ @カス考 モドルとマダラとの間 ﹂に述べたモドル︵恨︶の語
群とと乏とらえられ︑モチ︿シより喜しろモヂくシと見ら
れるものである︒別稿に言うモドル︵恨︶の語群とは︑モドル︵恨︶
・モドル︵戻︶・モヂル︵擾︶・モヂ・モドク・モドカシ.モドラカス
︵繰︶・モドロカス︵候︶を言うが︑モヂ︿シもこれに加えられるこ
とになる︒その際︑重複素モヂは︑四段活用もしくは上二段活用モ
ヅを想定し︑その連用彩と見ることになろう︒別稿に挙げたモヂの
諸例も︑同様にその連用形ないし居体言と見られよう︒
なお︑以下︑これら参考として挙げたものにっいては括弧を付し
て示すことにする︒
以上の例にっいて見ると︑全体として例が相当あり︑oo形状言の
重複のものが最も多く︑以下︑の名詞の重複︑側動詞︵連用形︶の
重複︑↑o副詞の重複︑の順となっている︒↑o副詞の重複については
後に述べる︒
重複索の末音節については︑oo移状言の重複のものは基本的にア
・ウ・オ列のものであるがイ・二列のものもいくらかあり︑の名詞
の重複のものはア・ウ・オ列のものがやや多いがイ・エ列のものも
多く︑ゆ動詞︵連用形︶の重複のものは当然のことながらイ・ヱ列
のものぱかりである︒
重複素の音節数については︑やはり二音節のものが多い︒重複素
が二音節で縮重複のものに○oイツ・シ・︵オコ・シ︶・オホ・シ︑↑り
イトぐシ︑同じく一部重複のものにoo︵キラ・シ︶がある︒他に︑
一音節のものとして○D︵サ・シ︶・ワ・シ・ユ・シ・コぐシ︑のコ
・シ・ヲ・シ・メ・シ︑三音節のものとしてooオドロくシ︑のオ
重複彩容詞と重複彩容動詞
トナ︿了一チカラぐシ一・ナサケくツ︑2ツギテ︿ツ一︑
さらに四音節のものとしてのオホヤヶくシがある︒ ここで縮重複のイト︑・シにっいて;冒する必要があろう︒先にもふれたように︑縮重複・一部重複は基本的に移状言の重複に見られる︒副詞の重複のイト︑・・イト︒・シはその点でやや問題になるかと思われる︒実は︑前稿嘗においては︑イトぐの重複素イトを︑イヨ・の重複素イヨの交替形イヤ︑およびウタ・の重複素ウタとともに︑
副詞ないし副詞的接頭語として用いられるとしっっ︑イトぐならび
にイヨ・・ウタ・を彬状言の重複として述べたのであった︒副詞的
接頭語として用いられるイヤ・ウタを形状言とするのはよいとして︑
副詞として用いられるイトについては今少し説明が不足していたよ
うにー思う︒すなわち︑イトの交替形イタは形容詞イタッの語幹であ
るように彩状言としてあり︑副詞イトも本来的には形状言であると
考えられることにふれるべきところであった︒イト︑・・イト︑・シは︑
副詞の重複ではあるが︑本来的には彩状言の重複であることによっ
て︑縮重複となることができるととらえられよう︒
以上︑この節では重複形容詞について改めて概観した︒
さて︑ 四
ここで重複形容詞と重複形容動詞とを比較することにした
四五
重複彩容詞と重複形容動詞
いが︑まず︑後に述べるとした副詞の重複にっいて考えることにし
たい︒ 重複彩容詞には︑重複移容動詞と異なって︑↑D副詞の重複のもの
があることが注意される︒イト︑・シ・ウベくシがそれであるが︑
やや時代を下るとその他にゲ一くシ一宇治拾遺物語一のよ差例
もある︒ 前稿Hにふれたように︑副詞の重複は︑重複することによって強
調する働きをなしていると見られ︑従って重複したい単独のもので
も文の意味は基本的に充足されるということができるもので︑語と
語が複合して新たに一っの語を構成するものと共に扱うよりは︑む
しろ二っのものの並列と認めるべきものであるという性格を持って
いる︒Lかしながら︑重複するだげでたくさらにシを伴って彩容詞
を構成するとなると︑それは二っのものの並列にとどまらないもの
にならざるを得ないであろう︒副詞の重複の重複移容詞において︑
重複素である副詞は重複されて強調され︑かつ︑シを伴いシク活用
捗容詞を構成するとともに意味を内面化して情意的意味を表わすよ
うにたると考えることができる︒
このように考えると︑重複彩容詞に副詞の重複のものがあるのは
一応うなずげると思われる︒げれども︑二っのものの並列にとどま
らないものにならざるを得狂いのは︑重複するだげでなくさらにナ 四六リを伴って彩容動詞を構成する重複捗容動詞についても同様に言い得ることであり︑↑o副詞の重複のものが重複形容動詞に見られないことが改めて問われなげれぱならたい︒ さて︑前稿Hにも見たように︑重複形容詞はシク活用であり︑ク活用捗容詞が情態的意味を表わすのに対して︑シク活用彩容詞は情意的意味を表わすことが指摘されている︒一方︑重複捗容動詞は情態的意味を表わすものであり︑重複して二を伴う情態副詞との関係からもそのように考えられてよい︒すなわち︑重複移容詞は情意的意味を表わし︑重複彩容動詞は情態的意味を表わすという差違が両者の問にあると考えられる︒ そして︑イト︑・シ・ウベ︿シおよびやや時代の下るゲニ︿シにおいて︑その重複素について見ると︑イトは程度副詞︑ウベおよびゲニは陳述副詞に用いられると見られる︒ここで考えられることは︑程度副詞や陳述副詞の重複が情態的意味を表わすということがあるだろうかということである︒副詞の重複は強調を表わすが︑強調された程度副詞や陳述副詞が情態的意味を表わすことは極めてありにくいのではないだろうか︒仮に︑情態副詞の重複であれぱ︑強調された情態副詞が情態的意味を表わすことは十分考えられてよく︑さらにナリを伴って重複彩容動詞を構成することもあり得るであろうが︑程度副詞・陳述副詞の重複はナリを伴って重複彩容動詞を構
成することが困難なのではないかと思われる︒
尤も︑このことは程度副詞や陳述副詞が情態的意味を表わすよう
になること湊いとするものではない︒現に︑ウベくシの重複素
ウベはナリを伴ってウベナリ﹁諾此云宇毎那利﹂︵神武前紀︶とし
て用いられる︒ただ︑程度副詞や陳述副詞が重複されて強調された
ものが情態的意味を表わすことは極めて難しいのではないかと思わ
れるのである︒
而して︑重複彬容動詞は程度副詞や陳述副詞を重複素とすること
がないであろうと考えられる︒重複彩容詞はそれらをも重複素とす
ることができる訳であるが︑それは︑重複形容詞が情意的意味を表
わすというだけでなく︑形容詞の構成力の問題でもあろう︒前稿陶
において︑重複彩容詞は︑前稿oに見た重複動詞に比べて多彩なも
のを重複素となし得ることにっいて述べたが︑そのことは重複彩容
動詞と比べて杢言えるようである︒以下︑重複彩容詞と重複形容動
詞との比較を続げる︒
重複形容詞と重複形容動詞とを比較してみると︑全体として前者 ◎86︵27︶例︑後者21︵4︶例︵括弧の中は参考として挙げた例︑以
下同様︶と︑前者の方が相当多い︒重複素別に分類した場合に︑先
に見たように︑↑O副詞の重複のものは前者に2例あるが後者にはな
い︒その↑り副詞の重複を別にして︑前者では︑○D形状言の重複のも
重複形容詞と重複彩容動詞 @ @の47︵13︶例︑の名詞の重復のもの27︵6︶例︑ゆ動詞︵連用移︶ ゆの重複のもの10︵8︶例︑後者では︑○O形状言の重複のもの9︵1︶例︑似名詞の重複のもの6︵2︶例︑C幻動詞︵連用彩︶の重複のもの6︵1︶例と︑OO彩状言の重複のものが最も多く︑以下︑の名詞の重複︑c幻動詞︵連用形︶の重複︑の順である点は︑前者も後者も共通しているようである︒↑O副詞の重複を︑後者O例としてこれに加えても同様である︒ 重複素の末音節にっいて整理すると︑次の表1のようである︒au0とあるのは重複素の末音節がア・ウ・オ列のものを︑ieとあるのは同じくイ・工列のものを示す︒それぞれ例を一つ挙げる︒数字は例の数である︒
表 1
重複捗容詞 − 重複彩容動詞
⁝形状言の重複@au0ナガくシ41︵13︶カマくナリ8︵1︶
@・1eウヒくシ6シ︑・ニアリ1
似名詞の重複ゆau0ヲサくシ17︵6︶カズくナリ6︵2︶
・1eユヱくシ01
側動詞︵連用彩︶ゆ・1eスキ六\シ10︵8︶ナミくナリの重複 6︵1︶
削副詞の重複auOイトぐシ1
・1eウベくシ1
四七
重複彩容詞と重複彩容動詞
↑o副詞の重複のものが後者にない他に︑似名詞の重複のイ・工列
のものが後者には見られない︒これが偶然であるかどうか明らかで
ないことについては先に述べたが︑前者においても後者においても
全体としてア・ウ・オ列のものが多く︑特に前者のの名詞の重複の
ものにおいてア・ウ・オ列のものの方が多いところからすると︑後
者のの名詞の重複のものにイ・エ列のものがあるとしても例は少な
いであろうと思われる︒
重複素の音節数にっいて整理すると︑次の表2のようである︒回
〜回とあるのはそれぞれ重複素が一〜四音節のものを示し︑重複素
が二音節で縮重複ないし一都重複のものはこれとは別に△で示す︒
それぞれ例を一っ挙げるが︑△で縮重複と一部重複との両方の例の
あるものは一っずっ挙げる︒数字は例の数である︒
表 2 重複移容詞 重複形容動詞
⁝彩状言の重複囚ユ・シ 3︵1︶シニアリ 2
△イツ・シ・︵キウツ・ナリ 2
ラ・シ︶ 2︵2︶
ゆ回ナガくシ 41︵10︶カマくナリ 5︵1︶
固オドロくシ ー 四名詞の重複回ヲ・シ 3
ゆ回ヲサくシ 21︵5︶カズくナリ 5︵2︶ 四八
固オトナくシ2︵1︶ココロ︿\ナリー
囚オホヤケくシー
ゆ側動詞︵連用彩︶固スキ人\シ ー0︵7︶ナミくナリ 5︵1︶の重複固︵ツギテくシ︶︵1︶シノピくニアリー 削副詞の重複△イト︑・シ ー
回
ウベくシ ー
↑o副詞の重複のものが後者にない他に︑oo彩状言の重複の三音節
のもの︑の名詞の重複の一・四音節のものが後者には見られたい︒
先に見たように︑全体として前者の例の方が相当多かった︒その意
味においては︑前者にあって後者にないものがあるのはある程度当
然であろう︒先に見た↑o副詞の重複のものや︑重複素の末音節につ
いて見た場合のの名詞の重複のイ・エ列のものも含めて︑これらは
その例にたるかと思われる︒そして︑このことは︑前者すたわち重
複彩容詞の方が後者すたわち重複形容動詞よりも多彩なものを重複
素とたし得るということに他ならない︒副詞の重複のものについて
考えた際にもそのように述べたが︑その他の点からもやはりそのよ
うに考えられる︒
なお︑右のように見てくると重複形容詞と重複形容動詞とはかた
りの重なりを見せるかのように思われるかもしれたいが︑実は必ず
しもそうではたい︒以下︑そのことにっいて補足的に述べておきた
い︒ 重複形容詞を前稿域と同様にX北シと表わし︑ナリ活用の重複彩
容動詞をニァリが縮約していないものを含めてX北ナリと表わすこ
とにして︑X北シーx北ナリの対応を持つものは︑いOいの範囲で
は
oo摸言の重複カマく干カマくナリオホ・シーオホ
・ナリ
日 3
薯詞の重複ソバくシ←バくナリ
のみであり︑それぞれ範囲を広げて先に参考として挙げた例を含め
ても 口 ○D︵シブくシ一ーシブくナリ ロ 〇一サ一ぐシ一ーサ一ぐナリ一ヨソ︿ツ一余所々々一一
上ヨソくナリ一同一一
が拾えるに過ぎない︒しかも︑先にふれたよ忌一サ一ぐツ一の
例には疑問もあり︑それを含む対応は削られるかもしれないものと
してある︒
ゆ動詞︵連用移︶の重複にX久シーX五ナリの対応を持つものが
見られないことが少し注意されるが︑ゆ動詞︵違用形︶の重複は︑
重複形容詞においても重複彬容動詞においてもそれほど例の多いも
のではないので︑そのために対応を持つ例が見られないのかとも思
重複形容詞と重複形容動詞 われる︒ 全体として︑X劣シーX尤ナリの対応を持つものは非常に少ない︒
つまり︑重複形容詞と重複形容動詞とは︑ともに形状言・名詞・動
詞︵連用形︶などを重複素としっっも︑前者の重複素と後者のそれ
とは基本的に互いに異なるものなのである︒その意味において︑重
複彬容詞の重複素と重複形容動詞のそれとは相補的であると言って
もよいかと思われる︒
このそれぞれの重複素が言わぱ相補的であることにっいて︑例え
ぱこれを重複移容詞が情意的意味を表わし重複彩容動詞が情態的意
味を表わすことから説くことができるであろうか︒しかしながら︑
重複して二もしくはトを伴った情態副詞と重複彩容詞とが重複素を
共通にするものはいくらもあり︑重複彩容詞の重複素の重複が情態
的意味を表わさないのではない︒そして︑前稿Hに見たように︑重
複形容詞が情意的意味を表わすのはシを伴ってツク活用形容詞を構
成する点にポィソトがあるのではないかと考えられた︒従って︑重
複形容詞の重複素の重複は︑重複彩容動詞の重複素の重複と同様に︑
情態的意味を表わすと考えられる︒してみれぱ︑それぞれの重複素
が基本的に互いに異なることをこの点から説くことには無理がある
であろう︒
重複形容詞の重複素と重複形容動詞のそれとが言わぱ相補的であ
四九
重複形容詞と重複形容動詞
ることは︑むしろ︑一般的に形容詞と形容動詞との関係において言
えることのようである︒彩容詞と彩容動詞とが語基を共通にするも
のは オロカシ︵類聚名義抄観智院本︶ーオロカナリ︵新撰字鏡︶
アラタシ︵琴歌譜︶ーアラタナリ︵源氏物語・鈴虫︶ スクナ
シ︵萬三七四七︶−スクナナリ︵源氏物語・乙女︶ ケシ︵萬
三七七五︶ーケナリ︵推古紀三年岩崎本︶
などが挙げられるが︑それらは上代・中古の範囲においては多くな ゆいと思われる︒上代・中古において︑移容詞の語基と彩容動詞のそ
れとは基本的に互いに異なるものであり︑重複彬容詞と重複彩容動
詞とにおいてもそれに包摂されて同様にそれぞれの重複素は基本的
に互いに異なるものではないかと考えられる︒
注¢
ゆ
@
@
¢
@ ﹁萬葉﹂86︵お虐・昌︶ ﹁親和国文﹂10︵岩ぎ・N︶
﹃論集目本文学・目本語﹄1上代︵おべ︒︒・︒︒角川書店︶
﹁同志杜国文学﹂19︵岩o.H・H◎︶
﹁帝塚山学院大学目本文学研究﹂15︵おo︒苧N 予定︶
﹃国語語彙史の研究﹄5︵お︒◎苧m和泉書院 予定︶
山口佳紀氏﹁タリ型形容動詞の成立﹂︵﹁国語国文﹂50112 岩o.H・嵩︶
参照︒ 日他に︑これら和語のものに対して︑漢語のものとしてキャウくナリ
がある︒ 五〇 これによって︑前稿四にG○の範囲から挙げた重複形容詞のうち︑倒ヲ
サくシ︑9キくシ︑側クダくシ・オコ・シは︑いの範囲から洩
れることに雲一ヲサくシ・クダくシは潟の範囲のみから挙げら
れる︶︒その他に前稿@と相異する箇所は本稿で訂正したものである︒ 口 ■@他に︑これら和語のものに対して︑漢語のものとしてラウくジ・ゲス
日 日 ︐シ・一チぐシ・ビ・シ・ザ一くシがある︒ 日◎ ケ・シは︑前稿回に述べたように︑重複形容詞から除外されるか︑も
しくは︑漢語のものとしてとらえられることになるかと思われるので︑
以上には挙げたかった︒
@ ﹁犬阪薫英女子短期大学研究報告﹂17︵H竃〜・畠︶
@ ﹁国語学﹂m︵おo◎N・り︶
@他に︑これら和語のものに対して︑漢語のものとしてリャウくジ
一宇藻物語・枕草子一・一ウくシ一堤中納言物語一・ゲソくシ一一枕草
子一一がある︒
@ ︵岩畠・蜆︶
@ ﹁親和国文﹂16︵冨︒︒H・嵩︶@mスガくシ・ソガくシ︑サウぐシ・サクくシ︑タヅくシ・タドくシ︑カルぐシ・カロぐシ︑タイぐシ・タギくシ︑9
ヤくシ・ヰヤくシ︑倒一ワイくシ一・一ワキくシ一をそれぞれ一つ
に数え︑また︑mオモくシ・一オムくシ一を一つに数えてい紹の範
囲に入れる奮ば︑8︒一蛎一例差る︒釜︑便宜上︑mキラくシ・
︵キラ・シ︶を一つには数えたかった︒
@注@と同様に数えるたらぱ︑42︵12︶例となる︒
@注@と同様に数えるならぱ︑26︵6︶例となる︒
ゆ注@と同様に数えるならば︑10︵7︶例とたる︒
ゆ注@と同様に数えるならぱ︑37︵12︶例となる︒
@注◎と同様に数えるならば︑5例となる︒
@注◎と同様に数えるたらば︑16︵6︶例となる︒
ゆ注@と同様に数えるならば︑10︵7︶例となる︒
@注◎と同様に数えるならば︑36︵9︶例となる︒
@ 注@と同様に数えるならば︑20︵5︶例となる︒
ゆ 注@と同様に数えるならぱ︑10︵6︶例となる︒
@ 形容詞と形容動詞とが語基を共通にするものが︑下って抄物などに見
られることについては︑山田忠雄氏﹁形容詞スルドシの成立﹂︵﹁目本大
学文学部研究年報﹂4 畠亭︒︒︶︑柳田征司氏一.抄物の語彙﹂︵﹃講座目本
語の語彙﹄4中世の語彙 Hoc.H・HH明治書院︶など参照︒別稿﹁ケシ・
カシイ・カイ﹂︵﹃同志杜国語学論集﹄ 畠c︒︒︒・岬 和泉書院︶にもふれたと
ころがある︒
︵付記︶詳細について繰り返すことは避けるが︑前稿陶において︑重複彬
容詞の構成について︑単独彩容詞︵Xシ︶の例が見られる倒旧のもので︑
Xツがク活用のものについては
x/←xヱ
↑︑り■↑xツ←xエシ
のように︑Xシがシク活用のものについては
Xl←X工︑︑↑ xヱシ X︑ ● ■ ■xシ︵シク活用︶
のように図示した︵点線で示したものは⁝
あることを示す︶︒
重複彩容詞と重複彩容動詞 吾も⁝告も現象上のもので これに対して︑東郷氏は前掲論文において︑単独形容詞がシク活用のものについて︑ヲサくシはともかく︑オトナくツ・モノくシ・オホヤケくシについては︑オトナく・モノく・オホヤケくの例が﹁全く見られない﹂で︑オトナシ・モノッ・オホヤヶシの例は﹁決して珍しいものとはいえない﹂ので︑ 顕在化していないオトナォトナなどを想定して︑例えば︑オトナ← オトナオトナ←オトナオトナシと考えるよりは︑オトナ←オトナシ ←オトナオトナシと見る方が︑妥当性が大きいと考えるのである︒と批判された︒ しかしながら︑Xシ⁝・←X北シの経路はあくまで現象上のものであ
って︑Xシを重複してシを伴い重複形容詞を構成したもの︵Xシ尤シシ︶
がある訳ではない︒重複素となるのは︑XシではなくXシの語基︵Xシが
ク活用のものにおいては語幹でもある︶Xである︒そして︑Xシの語基X
を重複してシを伴い重複彩容詞X火ツを構成するというのは︑X久が語
例として顕在化していると否とにかかわらず︑理論的順序としてX←X
北←X北ツととらえることに他ならない︒
もし仮に︑X五が語例として顕在化していないものは︑X←X五←X
北シの経路ではなくXシ:⁝÷Xオシの経路をとっていると考えるとす
るならぼ︑Xシ・X北の例のともに見られない刷のものはどのように構
成されたのか︑説明することができなくなるであろう︒
而して︑重複彩容詞はいずれも︑X北が顕在化しているものもいない
ものもX←X北←X北シの理論的順序を経て構成され︑それを現象上X
︑︑︑9X北シと見ているととらえられる︒
隻︑モノくの例が︑意味するところは多少異なるものながら東大
寺調謂文稿にあること︑前稿陶にふれた︒無論︑これが語例として顕在
化しているか否かが今問題となるのでは法い︒
五一
重複彩容詞と重複彩容動詞五二
以上のように︑東郷氏の批判にもかかわらず︑前稿輔はこの点につい
て修正の必要を認めたい︒ただ︑単独彩容詞がシク活用のものは前稿的
に挙げたものの他にもいくらかあるようであり︑その点については改め
て考える必要があるかもしれないとは思っている︒