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先輩留学生の体験談を読む活動における教師の役割

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先輩留学生の体験談を読む活動における教師の役割

―話し合いの発話の分析をもとに―

中井陽子・菅長理恵・渋谷博子

キーワード:キャリア形成支援、教師の役割、体験談、読解教材、話し合い

1. はじめに

 近年求められるグローバル人材の一つのモデルとして、留学という異文化体験を自身のキャリ ア形成に生かすという形がある。筆者らは、外国人留学生を対象に、日本留学をテーマとした キャリア形成支援のための教材開発を行っている。この教材は、筆者らの所属機関を修了してグ ローバル人材として活躍している元留学生に対してインタビュー調査を行い(菅長・中井 2015a, b、2016、2017)、そこから得られた体験談をもとにしている。そして、中級レベルの読解授業に おいて、この元留学生、つまり「先輩留学生」の体験談を読んで話し合う活動を行った。さらに、

中井他(2019)において、本教材を用いた授業実践で学習者がどのような学びを得たかについて、

ワークシート教材、および、授業アンケートへの学習者の記述などを分析した。その結果、教材 の目標として掲げた(1)留学の早い段階でのキャリア形成意識の養成、(2)問題発見・解決能 力の養成、(3)人間関係構築力の養成、(4)日本社会や企業文化に関する基礎知識の提供におい て、学習者の学びが実証できた。これらの学びは、教材自体の有効性と、授業実践における教師 の果たした役割とがあいまって達成したと考えられる。

 そこで、本研究では、この読解授業での先輩留学生の体験談を読んで話し合う活動において、

学習者のキャリア形成に繋がる学びを促進させるために、教師がどのような役割を果たしたのか を、実際の会話例をもとに分析する。これをもとに、授業において日本語教師が本教材を活用す るための重要な点や補助教材のあり方について検討する。なお、本研究は、筆者ら自身の作成教 材を使用して授業を行い、その実践を自身で分析して振り返る「実践研究1」を行い、今後の教育 のあり方を再検討することを目指すものである。

2. 教師の役割についての先行研究

 本研究で日本語の読解授業の教師の役割を分析するために参考にする、「教師の発話カテゴ リー」(2.1)、および、「会話支援ストラテジー」(2.2)の先行研究を概観する。

東京外国語大学国際日本学研究 プレ創刊号 Tokyo University of Foreign Studies Japan Studies Review №0

1 細川(2005:11)は、「実践研究」について、「教師自身が自分の実践を内省的に振り返りつつ、その意味 を確認し、他者とのインターアクションを積極的に受け入れ、より高次の自己表現をめざそうとする活 動」として、授業活動の設計、具体化、学習活動の支援の上でその重要性を主張している。

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2. 1 教師の発話カテゴリー

 望月(2009)は、生徒が自身の生活と社会の繋がりを実感するためのシティズンシップ教育を 目指した、高校の家庭科の参加型授業における教師の役割について、授業中の録音・文字化資料 に見られる「発話カテゴリー」をもとに分析している。さらに、望月他(2011)は、望月(2009)

の「発話カテゴリー」をもとに、小・中学校の参加型の授業(家庭科、算数、理科)における教 師の言語活動の特徴を探っている。具体的には、「教師の発話カテゴリー」を 3 種(教師の権力、

教師の方略、教師の知識)、10 カテゴリーに分類・分析している(表 1)。そして、分析した全授 業において、教師が「活動の指示」「質問」などで、生徒に活動や発話をさせたりし、生徒の発 話を「再話」して生徒の発話を受け止めながら授業を進行していたとしている。さらに、教師が

「活動の指示」と「質問」をして、生徒の参加・思考を促しつつ、そこから出てきた事実を用いて 教師が持つ「知識」を伝える「レトリック」や「メタ知識」を用いて問題の整理をしていたとい う。

表 1 教師の発話カテゴリー(望月他 2011:14-15)

カテゴリー 定義

教師の権力 活動の指示(全体) 生徒全体へ活動の指示をする発話 活動の指示(個人) 生徒個人へ教師が活動の指示する発話

I・R・E メーハン(Mehan 1979)が明らかにした教師の発問(teacher initiation)と生徒の応答(student reply)と教師の評価(teacher evaluation)という教室特有の発話パターンであり、教師が正解 を知っていて、生徒に質問し、生徒の答えを評価する発話 評価 生徒の発話や行動を教師が評価する発話

教師の方略 質問 教師が生徒に問いかける発話

再話 教師が生徒の発話を聞き取り、繰り返して発話すること 私語を聞き取る 生徒の私語を聞き取り、全体へ向けての発話に組み込むこと 教師の知識 知識の説明 用語の意味を説明することや、学習の視点などを示すこと

レトリック

(問題の整理) 教師が自身の発話や生徒の発話の内容を整理して説明すること

(問題の整理)メタ知識 教師が自身の発話や生徒の発話の内容に対し、より知識的な内 容を付与して説明すること

 以上の「教師の発話カテゴリー」の分析は、小・中・高校の授業での分析だが、本研究で分析 するキャリア形成を目指した日本語の読解授業での教師の役割にも参考になると思われる。

2. 2 会話支援ストラテジー

 「会話支援ストラテジー」とは、相手の発話を理解していることを伝えたり、相手の会話参加 を励ましたりするために用いられるものである(村岡 1999)。栁田(2002)は、村上(1997)の

「意味交渉」の分類を参考に、日本語の母語話者(NS)が非母語話者(NNS)との会話中に用い る「会話支援ストラテジー」を 7 項目に分類している(表 2)。

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表 2 会話支援ストラテジー(栁田 2002:28)

1.あいづち 話を聞いていること、理解していることを伝えたり、発話に対する肯定的な評 価を示す

2.確認チェック NNSの発話をNS が正しく理解しているかどうかをNS自身がNNSに確認する 3.明確化要求 NSがNNSの発話を理解できない時などにNNSに発話を明確にするように要

求する

4.情報要求 トピックに関する新情報をNSが引き出そうとする 5.訂正 NNSの不適切な表現・言い回しを訂正する

6.貢献・完成 NNSが適当な語彙や表現を探せないときに、先取りして完成させる

7.自己発話の修正 NSが自分の発話をNNSの理解を促進するために、NNSの要求によって、また は自発的に言い換えたり、説明したりする

 さらに、栁田(2011)は、非母語話者との接触経験の多い母語話者が非母語話者から情報を受 け取る際、(1)意識的にあいづちを多用する、(2)理解表明と理解あいづちを併用する、(3)正 確な情報を得るために繰り返し、情報内容の確認を行う、(4)非母語話者の発話困難を察知して 積極的に援助を行うというストラテジーを用いていたと述べている。

 以上の「会話支援ストラテジー」は、日本語の母語話者である教師も非母語話者である学習者 とのやり取りを円滑に進めるために用いるのではないかと考えられる。

3. キャリア形成支援のための教材設計・授業の概要

 まず、本研究で分析対象とする読解授業で用いた、「先輩留学生の体験談」の教材設計について 概要を述べる(3.1)。次に、読解授業の概要(3.2)について述べる。

3. 1 先輩留学生の体験談を扱った教材設計の概要

 読解教材は、渋谷他(2017)の提案をもとに、主に、(1)キャリア形成意識の養成、(2)問題発 見・解決能力の養成、(3)人間関係構築力の養成、(4)社会文化知識の提供(日本社会や企業文 化に関する基礎知識の提供)を目標に、筆者らが作成した。教材の内容は、中級後半に「①日本 語の壁を越える」「②部活のカルチャーショック」「③相談相手を見つける」という 3 つのテーマ を選び、大学や会社で直面する様々な困難やその対処方法の体験談を教材化した。これは、2000

~ 2012 年に来日した留学生へのインタビュー調査を基に作成したものである。特に、大学の授業 や部活、および、職場での日本語使用、人間関係構築、問題発見・解決など、先輩留学生が早め に知っておいた方がよいと勧める事例を扱った(なお、上級レベルの体験談の教材も作成して使 用した。詳細は、渋谷他(2018)を参照されたい)。

 教材の構成は、主に、〈考えてみよう!〉、〈先輩の体験談の読み物〉、〈あなただったら?〉、〈未 来の自分へのアドバイス〉から成る。授業では、まず、〈考えてみよう!〉で、体験談のテーマの 関連事項について話し合い、意識化する。次に、〈先輩の体験談の読み物〉を学習者のレベルに合 わせて精読または速読する。読み物の理解促進のために、〈先輩のプロフィール〉、〈語彙リスト〉、

〈内容確認〉も付している。読み物を読んだ後、〈あなただったら?〉の設問をもとに話し合い、

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学習者が自分ならどのようにするか考える。最後に、これらをもとに、〈未来の自分へのアドバイ ス〉を簡単に書く。この教材を通して読解・話し合いを行うことで、主体的に自身のキャリア形 成について考えられるようになることをねらった。教材設計と教材内容、および、キャリア形成 における学習者の学びの詳細は、中井他(2019)を参照されたい。

3. 2 読解授業の概要

 2017 年 9 ~ 12 月に、東京外国語大学留学生日本語教育センターの国費学部進学留学生予備教 育プログラムにおいて中級レベルの読解授業を行った。この全 12 回のうち、3 回分(中級後半)、

上記教材を扱った授業を行った。本教材作成に当たった筆者らのうち 2 人の教師がそれぞれT1 ク ラス(学習者 8 名)とT2 クラス(学習者 10 名)を担当し、同じ教材を使用した。学習者は、ア ジア、ヨーロッパ、南米等からの留学生であった(表 3)。

表 3 学習者情報 学習者(国籍・男女)

T1 クラス A(アジア・男性)、B(アジア・男性)、C(アジア・男性)、D(アジア・男性)、

E(アジア・男性)、F(ヨーロッパ・女性 )、G(南米・男性)、H(南米・男性)

T2 クラス I(アジア・男性)、J(アジア・女性)、K(アジア・男性)、L(アジア・女性)、

M(アジア・男性)、N(ヨーロッパ・男性)、O(ヨーロッパ・男性)、P(ヨーロッパ・

男性)、Q(南米・女性)、R(南米・男性)

 本授業の目的は、先輩留学生の体験談を扱った読解教材をもとに話し合い、学習者自身のキャリ ア形成を考える契機とすることであった。授業では、体験談の読解活動の前後に、教師主導で体 験談のテーマとそれに基づいた学習者自身のキャリア形成に関することについて話し合い、キャ リア形成意識を高めるようにした。なお、学習者には、本授業のデータを今後の教育に役立てる ために分析対象としたい旨を伝え、許可を得た上で、本教材に関わる 3 回分の授業中の発話を全 て録音・文字化した。

4. 教師の役割の分析

 本授業での教師と学習者の発話の録音・文字化データのうち、教師の発話に着目し、教師の役 割について分析した。その際、「教師の発話カテゴリー」(望月他 2011)、「会話支援ストラテジー」

(栁田 2002)を参考に、分類していった。その結果、教師の役割が 5 種(①司会進行、②解説、③ 意見表明、④聞き手としての反応、⑤発話支援)、23 カテゴリー抽出された(表 4)。なお、表 4 には、「教師の発話カテゴリー」および「会話支援ストラテジー」との対応も示したが、本研究の キャリア形成のための読解授業のデータからは、この他に、「①司会進行:c.発話の促し」「②解 説:e.自身・他者の体験談の紹介」「③意見表明:a.自身の意見述べ、b.助言」「④聞き手として の反応:h.同意・非同意」「⑤発話支援:c.励まし」が新たに見られた(表中「-」網掛け部)。

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表 4 読む活動における教師の役割の分類 教師の発話

カテゴリー 会話支援

ストラテジー

①司会進行 a. 活動指示 活動の指示

(全体) - T: じゃ 2 番。進路、ね。

b. 問題提示 質問 - T: 進路を決める時は、一人で決めますか。

c. 発話の促し - - T: 他の人はどうですか。

d. 指名 活動の指示

(個人) - T: Rさんは?

e. 話の整理・

まとめ レトリック

/メタ知識

(問題の整理) - T: じゃ、みんないろいろこうストラテジーあ ると思うのでね。

②解説 a. 語彙・表現の

説明 知識の説明

T: あ、合弁会社?joint venture。

E: あの、英語が分からない。

T: えー、日本の会社とインドネシアの会社が、

一緒に協力して一つの会社になってるのか なあ。ジョイントしてるんです。

b. 内容の説明 知識の説明

T: この先輩も、困って、隣に日本人の学生が

いましたから、すみませんノートを見せて くださいって頼んだんですね。

c. 語彙・表現・

内容の問い かけ

I・R・E T: 何によって決まるんでしょうね。

N: 上司の国籍。

T:いいですよ。

d. 社会文化的

知識の提示 知識の説明

(問題の整理)メタ知識 - T: 日本の社会って結構こういうの多いです。

e. 自身・他者の

体験談の紹介 - - T: 私の入ってた部はそうでしたね。

③意見表明 a. 自身の意見

述べ - - T: まず呼び出されるっていう、こわいですよ

ね。

b. 助言 - - T: それは気にしなくていいです。

④聞き手と

しての反応 a. あいづち - あいづち T: なるほど、うん、

b. 繰り返し 再話 - P: 一人で決めます。

T: Pさんは一人で決めます。

c. 言い換え 再話

O: もう一度、入ってみたいの気持ちはいいだ と思います。

T: なるほどね。もう一回やってみよう、ちょっ と別のところでって、そういうなんか一つ 勇気があったんじゃないか。

d. 確認 - 確認チェック F: バブルは、留学生のバブル。

T: グループって意味かな?

e. 聞き返し - 明確化要求 F: 留学生のバブルを出る。

T: あ、バブルって、はー、

f. 質問 質問 情報要求 T: いい先輩が多いですか。

g. 評価的発話 評価T: それも大切ですねー。

h. 同意・非同意 - - T: 私もそれは賛成しますけど、

⑤発話支援 a.発話形成の

補助 - 貢献・完成 R: 先輩、

T: 先輩に相談しますか。

b.訂正 - 訂正、自己発話

の修正 P: 先生を聞いてみます。

T: 先生に、ね。

c.励まし - - T: はい、いいですよー。

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 以下、読解授業中に扱った教材の構成にそって、〈考えてみよう!〉(4.1)、〈先輩の体験談の読 み物〉・〈内容確認〉(4.2)、〈あなただったら?〉(4.3)の各段階で、2 名の教師T1 とT2 がどのよ うに「①司会進行」「②解説」「③意見表明」「④聞き手としての反応」「⑤発話支援」を行ってい るのか、教師の役割について会話例をもとに分析する。

4. 1 〈考えてみよう!〉における教師の役割

 会話例(1)は、「③相談相手を見つける」というテーマの〈先輩の体験談の読み物〉読解に入る 前に、〈考えてみよう!〉の設問にそって、「授業が分からない時どうするか」について話し合っ ている場面である。まず、T2 が 3 で「1 番。大学に入って、授業が分からなかったらどうします か」と設問番号を示して【活動指示】を行い、話し合いの【問題提示】を行っている。そして、

Pがふざけて 4 で「切腹します」と答え、NとRも笑いながらこの発話を繰り返している。そこ で、T2 は、7 で「どうして?{笑い}すぐ、すぐあきらめるの?」とPの発話意図をくみ取って

【質問】をし、その理由を掘り下げている。さらに、T2 は、11 で「なるほどね」という【あいづ ち】を用いてPの意見を受け止めた後、「他の人はどうですか。みんな同じ?」と、他の意見が ないか【発話の促し】【質問】を行っている。すると、12 でLが「授業中に質問します」と答え、

それに対して、T2 は 14 で【繰り返し】【確認】をしてLの意見を受け入れ、「それはいいですね」

と【評価的発話】でほめた後、教師の立場から学生の質問は大切だから質問した方がいいと【助 言】している。しかし、15 でRが授業中に質問をするのは授業担当者(先生)に失礼ではない かと質問をする。それに対し、T2 は、16 で授業担当者によって異なる点、T2 自身は質問しても らう方が助かる点、様子を見てから質問してみる方がよい点など、【社会文化的知識の提示】【自 身の意見述べ】【助言】を行っている。それに続けて、3 でT2 が【問題提示】した「授業が分か らなかったらどうするか」という問いに対し、17 でIが予習・復習をするという別の対応策を答 えると、T2 は「Iさんはいい学生です」と【評価的発話】でほめ、さらに「他にありますか」と

【発話の促し】を行っている。さらに、T2 の 3 の【問題提示】中の「授業が分からない」という 部分に対して、Mがそれは日本語の問題なのか科目の問題なのか質問する。T2 は、このMの質 問の意味をくみ取り、科目の問題なら予習できるが、日本語の問題なら授業担当者にゆっくり話 してもらうよう頼む必要があるだろうと、両方の場合に分けて【助言】を行っている。それに対 し、Mは重ねて 22 で他の学生が全員日本人なら失礼になってしまうのではないかと懸念を示し、

T2 は日本人が多い場合日本人側に合わせることが多くなることは事実だと【社会文化的知識の提 示】をした上で、留学生が困っていることに授業担当者が気づいていない可能性があるため、そ のことを伝えた方がよいと【助言】している。

会話例(1)「③相談相手を見つける」〈考えてみよう!〉話し合い(授業が分からない時どうするか)

3T2: 1 番。大学に入って、授業が分からなかったらどうしますか。{笑い}

① a. 活動指示、① b. 問題提示

4P: 切腹します。{笑い}

5N: // 切腹します、ね。{笑い}

6R: 切腹します。{笑い}(聞きとれず)じゃないですか。{笑い}

7T2: どうして?{笑い}すぐ、すぐあきらめるの? ④ f. 質問

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8P: いやいや、たぶんまず自分で勉強して、そして、まだ分からなかったら友達や先生を聞いてみます。

9T2: 先生に、// ね。       ⑤ b. 訂正 10P:     先生に。

11T2: なるほどね。他の人はどうですか。みんな同じ? ④ a. あいづち、① c. 発話の促し、④ f. 質問 12L: 授業中に// 質問します。

13T2:     うん。            ④ a. あいづち 14T2: あ、先生に質問しますか、手を挙げて。うん、それはいいですね。先生も学生が分かったか分から

ないか知りたいので、授業中もし分からないことがあったら、ぜひ手を挙げて質問して//くださ い。はい、うん。 ④ b. 繰り返し、④ d. 確認、④ g. 評価的発話、③ b. 助言、④ a. あいづち 15R: でも、あの、授業中、し、質問、授業の、について質問したら失礼じゃないですか。その、たと、

たぶん、あとや前の方がいいんじゃないですか。

16T2: うーん、そうですね。それはね、先生によります。だから、私はみんなが質問してくれた方が授業 がしやすいです。どのぐらいのレベルの日本語使った方がいいか分かるからね。ただ、うーん、慣 れてない先生の時どうしたらいいかですね。だから、1 回目はもしかしたら様子を見て、授業が終 わった後、授業中に手を挙げて質問してもいいですか、って先生に聞いてからするといいかもしれ ませんね。でも、失礼かどうかの問題ではありません。授業の邪魔になるとか先生が嫌がるとか、

何か人によってそれは違いますが、失礼ではありません。学生は質問する権利があります。ね、そ れは気にしなくていいです。

④ a. あいづち、② d. 社会文化的知識の提示、③ a. 自身の意見述べ、③ b. 助言 17I: とー、授業の前に予習したり、授業のあとで復習したりします。

18T2: すばらしい。もう、いい学生ですね。もー、Iさんはいい学生です。はい、他にありますか。

        ④ g. 評価的発話、① c. 発話の促し 19M: せん、先生、// それは日本語の問題ですか。あの、あー、そのー、科目の問題ですか。

20T2:     はい、どうぞ、Mさん。       ① d. 指名 21T2: あー、そうですねー、うん、うん。もし科目の問題だったら、予習して言葉をこう調べておくとい

うことでできますよね。ただ、日本語の問題の時には例えば、先生、もう少しゆっくり話してくだ さい、とかね。あの、そういう風にお願いする必要があるかもしれませんね。

④ a. あいづち、③ b. 助言

22M: でも、これ、その、// 全部日本人がいるから、ちょっと、しつ、失礼と思います。

23T2:     うん、うん、うん。        ④ a. あいづち 24T2: あー、先生にもよりますね。留学生に合わせてくれる先生もいますが、日本人の方が多かったら、

どうしてもそちらの方にね、合わせがちになります。でも困っている時には先生に言った方がいい です。先生は気が付いていないかもしれません。

④ a. あいづち、② d. 社会文化的知識の提示、③ b. 助言

 ここでは、〈考えてみよう!〉の設問を通して、「③相談相手を見つける」というテーマに対し て意識の活性化を図ることが目的だが、「授業が分からない時どうするか」は留学生にとって切実 な問題であり、「実際に授業中に教師に質問ができるか」は関心の的であることが会話例からうか がえる。T2 は、教師によって受け止め方が違うだろうが、困っている時はそれを伝えるべきであ ることを教師の立場から助言している様子が見られる。

4. 2 〈先輩の体験談の読み物〉・〈内容確認〉における教師の役割

 会話例(2)は、「③相談相手を見つける」についての〈先輩の体験談の読み物〉読解の部分で

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ある。ここでは、学習者に 1 文ずつ音読させ、段落ごとに内容の確認を行っている場面である。

まず、94 でT2 が学習者の読み物の読みを一旦切る【活動指示】をし、その【内容の説明】を行 い、さらに、「なぜ日本人に留学生の側から助けを求めた方がいいのか」という【問題提示】を し、学習者に考えさせている。そして、95 でPが答えた内容を 96 でT2 が【あいづち】【言い換 え】でPの意見を受け入れ、「もう一つは?」という【問題提示】をし、他の理由をさらに考え させている。そして、97 でLが「人見知り」と言ったのに対し、98 でT2 が【繰り返し】【あい づち】でLの意見を受け入れた後、日本人が人見知りをするため留学生から頼んだ方がよいと説 明を補い、【社会文化的知識の提示】【助言】を行っている。

会話例(2) 「③相談相手を見つける」〈先輩の体験談の読み物〉読解(自分から頼む)

94T2: 一回そこで切りましょうね。この先輩も、困って、隣に日本人の学生がいましたから、すみませ んノートを見せてくださいって頼んだんですね。そしたら、その日本語が、{笑い}ちょっと下手 だったので、留学生だって分かった。それで、親切にしてくれた。でもね、日本人は親切な人が多 いのですが、助けてほしい時はこちらから頼まなければなりません。どうして?

① a. 活動指示、② b. 内容の説明、① b. 問題提示 95P: あーなんかー、日本人の、なんか、問題があるのは、えっと、自分で分からないかもしれません。

96T2: そうね。そう思ってるか言わないと分からないっていうのが一つありますね。もう一つは?

④ a. あいづち、④ c. 言い換え、① b. 問題提示 97L: shy。ひと、人見知り。

98T2: 人見知り、そうですね。日本人は、あ、なんか困ってる人いるなー、と思っても、どうしました か、って声をかけるのとても勇気がいるんですね。なので、あのー、自分から頼んだ方がいいと思 います。 ④ b. 繰り返し、④ a. あいづち、② d. 社会文化的知識の提示、③ b. 助言

 会話例(3)は、先輩留学生が水泳部の 3、4 年生 10 人ほどに呼び出されたという「②部活のカ ルチャーショック」についての〈先輩の体験談の読み物〉読解の〈内容確認〉の設問の回答を確 認し、そこから発展させて、内容についてどのように思うか話し合っている場面である。まず、

先輩留学生がどのようなことを注意されたかについてT1 は 328 で【問題提示】し、さらに「こわ いですよね」と【自身の意見述べ】をしている。そして、330 でT1 は、10 人ほどの 3、4 年生が 1 年生一人を呼び出しているという〈先輩の体験談の読み物〉読解の【内容の説明】を行ってい る。これを受けて、331 でAが 1 対 10 で話すのは不公平だという意見を述べ、T1 は 332 で【あ いづち】でAの意見を受け入れ、さらに【確認】して議論を深めようとしている。そして、Aが 大人数ではなく、1 対 1 で話すべきだったという意見を述べ、344 でT1 が【同意】している。さ らに、こうしたことは社会の中で存在すると、【自身・他者の体験談の紹介】【社会文化的知識の 提示】を行いつつ、この事例では罰として呼び出されて叱られているのだと【自身の意見述べ】

も行っている。

会話例(3) 「②部活のカルチャーショック」〈内容確認〉(呼び出し方の不公平さについて)

328T1: で、先輩にどんなことを注意されたか。まず呼び出されるっていう、こわいですよね。

① b. 問題提示、③ a. 自身の意見述べ

329F: こわいです。

330T1: 10 人くらいの 3 年生と 4 年生のね、結構、うん、1 年生一人と 3 年生の先輩//と、

② b. 内容の説明

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331A: unfairと思います。

332T1: あー、そうか。あー、それはかわいそうだと思います? ④ a. あいづち、④ d. 確認

(中略)(Aが 3、4 年生が大人数ではなく、1 対 1 で 1 年生と話すべきだったという意見を述べる)

343A: ちょっとひどい。//ひどすぎる。

344T1: 私もそれは賛成しますけど、日本の社会って結構こういうの多いです。うん、

ひどいですよね。集団と 1 人っていうのはね。言いたいけど言えなくて泣いてしまう人とかいま すよね。うーん。だからこれは、panishmentなので{笑い}そういう、グループと一人っていう風 にしてるんでしょうね。話し合いじゃないのかもしれないね。こういうこともあります。事実と してあるのでね、うん。いいかどうかはちょっと別ですけどね。

④ h. 同意、② e. 自身・他者の体験談の紹介、② d. 社会文化的知識の提示、③ a. 自身の意見述べ

 ここでは、〈先輩の体験談の読み物〉、〈内容確認〉のテーマをもとに、「日本人に助けてもらい たい時にどうするか」「部活での注意のされ方がどうか」について、教師が学習者の意見を引き出 している。さらに、教師はそれを発展させて、〈先輩の体験談の読み物〉の背景になる事項につい て例を交えて解説したり、自身や他者の体験を語ったり、自身の意見や助言を述べたりし、学習 者の読み物に対するより深い理解を図っている様子が見られた。

4. 3 〈あなただったら ?〉における教師の役割

 会話例(4)は、学習者が「①日本語の壁を越える」というテーマの〈先輩の体験談の読み物〉

読解の内容を自身に引き付けて考えるための〈あなただったら?〉の設問をもとに話し合ってい る場面である。まず、307 でT1 が「日本語力を向上させるいい方法」について【問題提示】を 行っている。これに対し、学習者から、留学生同士の輪から飛び出して日本人の輪の中に入って いくべきだという意見が出たため、さらに 323 でT1 はどうしたら日本人と友達になれるかとい うさらなる【問題提示】を行っている。これに対し、学習者から、日本人に積極的に声をかけて 話すべきだという意見が出た後、具体的にどのような言葉で声をかければいいかのかという意見 が出る。それらの意見を受けて、385 でT1 は、「じゃ、みんないろいろこうストラテジーあると 思うのでね」と【話の整理・まとめ】をし、友達を作るのが上手な人のテクニックを学べばいい という【助言】を与えて、この話題を終了させている。

会話例(4)「①日本語の壁を越える」〈あなただったら?〉話し合い(日本人の友達の作り方)

307T1: はい、じゃ、2 番いきますね。日本語力を向上させるいい方法、はい、何でしょうか。大学に入っ てからね。        ① a. 活動指示、① b. 問題提示

(中略)(Fが留学生グループの中から飛び出して日本人の中に入っていくべきだという意見、Hが日本人 に声をかける場面についての意見を述べる)

323T1: じゃあ、どうしたら日本人と友達になれるか。これはどうですか。     ① b. 問題提示

(中略)(A、B、D、F、H、が日本人にどのような言葉で声をかければいいかについて意見を述べる)

385T1: じゃ、みんないろいろこうストラテジーあると思うのでね。あの、上手、友達を作るの上手な人 をよく見てね、テクニックを取ってくださいね。 ① e. 話の整理・まとめ、③ b. 助言

 会話例(5)は、上記の会話例(4)の一部 307 ~ 317 の部分である。ここでは、T1 が〈あなた だったら?〉の設問をもとに、「日本語力を向上させるいい方法は何か」という【問題提示】を行

(10)

い、話し合いをしている場面である。この【問題提示】を受け、308 でFが留学生同士の輪(バ ブル)から出るべきだという意見を述べている。これに対し、T1 は、309、311、314 で【繰り返 し】【聞き返し】【あいづち】【確認】でFの意見を受け入れた後、314 でバブルから出てどこに行 くのか【質問】している。その回答としてFが 316 でバブルから出て「日本人とたくさんしゃべ る」という意見を述べたのに対して、T1 は 317 で【あいづち】で受け入れた後、それを発展させ

て、T1 自身が留学中に「テンション」を上げて現地の友人を作っていった経験、および、以前の

留学生から聞いた日本人の友人を作った経験を述べることで【助言】【自身・他者の体験談の紹 介】を行っている。

会話例(5)「①日本語の壁を越える」〈あなただったら?〉話し合い(日本語力向上の方法)

307T1: はい、じゃ、2 番いきます。日本語力を向上させるいい方法、はい、何でしょうか。大学に入って からね。               ① a. 活動指示、① b. 問題提示 308F: 留学生のバブルを出る。

309T1: あ、バブル。{笑い}あ、バブルって、はー、     ④ b. 繰り返し、④ e. 聞き返し 310F: バブルは、留学生のバブル。

311T1: あー、そう。グループって意味かな?あー、バブルからポーンって// {笑い}

④ a. あいづち、④ d. 確認

312E: バブル{笑い}

313: {ざわめき}

314T1: あー、出てどこに行くんですか。 ④ a. あいづち、④ f. 質問 315: {笑い}

316F: あー、日本人とたくさんしゃべる。

317T1: なるほどね。うーん、なのでちょっといつものみんなよりもテンションはちょっと高くしないと いけないかもしれないね。だって努力しないといけないからね。うーん、いつもだとあんまり人 に声かけないけど、こんにちはーとかね。言わなくてはいけないかもしれないですね。うーん、み んなの先輩もレクチャーの大きい 100 人の部屋で隣の日本人の人に、すみません、宿題何ですか、

ノート見せてください、とかね、{笑い}言ってそれで友達を作ったりしていたそう。

④ a. あいづち、③ b. 助言、② e. 自身・他者の体験談の紹介

 会話例(6)は、「③相談相手を見つける」というテーマの体験談を読んだ後に進路相談につい て話し合っている場面である。T2 は、211 と 213 で設問をもとに、「進路について誰かに相談す るか」という【問題提示】を行っている。その後、各学習者の答えに対し、【あいづち】【繰り返 し】で受け入れつつ、他の学習者を【指名】したり【発話の促し】をしたりして多様な意見を引 き出そうとしている。そして、「先輩」などと学習者が不完全な文の日本語で回答をした際、T2 は 220 のように、「先輩に相談しますか」と【確認】の形で【発話形成の補助】を行い、学習者の 意図をくみ取ろうとしている。さらに、223「いい先輩が多いですか」と【質問】し、議論をさら に展開させようとしている。これに対し、いい先輩が多いかどうかRが答えなかったため、T2 は 229「いいか悪いかどうかは知らない」とRの発話意図をくみ取って整理している。さらに、220

「あー、それはいいですね」、231 と 233「それも大切ですね」と【評価的発話】で学習者の意見を 価値づけている。そして、233 で体験談の進路相談の話題を現在の学習者らの進学相談に結び付 ける【確認】を行いながら議論をまとめている。最後に 233「いいですよー」とよい意見が出た

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ことをほめて【励まし】を行っている。

会話例(6)「③相談相手を見つける」〈あなただったら?〉話し合い(誰に進路相談するか)

211T2: じゃ 2 番。進路ね。皆さんは、そのー、大学院に入るかとか、会社に入るとか国にとか日本で働 くのかとかね、そういう進路を決める時は、一人で決めますか、誰かに相談しますか。 

  ① a. 活動指示、① b. 問題提示 212P: あー。

213T2: どうでしょう。まだねこれから先のことだからちょっと想像してみてください。どうしようか なーって迷った時に。          ① b. 問題提示 214R: 先輩。

215P: 私はあまり言ったことがありません。だから一人で決めます。

216T2: はい。//Pさんは一人で決めます。うーん。 ④ a. あいづち、④ b. 繰り返し 217R:    すごいですね。

218T2: Rさんは?        ① d. 指名 219R: 先輩、

220T2: 先輩に相談しますか。あーそれはいいですね。

④ d. 確認、⑤ a. 発話形成の補助、④ g. 評価的発話

221R: はい。

222R: いっぱいいますからね。{笑い}

223T2: いっぱいいる、いい先輩が多いですか。 ④ b. 繰り返し、④ f. 質問 224R: あー、

225P: // いえ。

226R: 先輩が多いです。

227T2: 先輩が多い。{笑い}   ④ b. 繰り返し 228R: はい。

229T2: いいか悪いかどうかは知らない。{笑い}なるほどね。他の人はどうですか。 

① e. 話の整理・まとめ、① c. 発話の促し

230L: 家族。

231T2: 家族に相談します。それも大切ですねー。 ⑤ a. 発話形成の補助、④ g. 評価的発話 232Q: えとー、そのー、うーん、例えば大学のー、あー、いいとこ、いい点とか、えーとー、研究のー、

あー、可能性とかー、うーん、先生、先生と、あー、相談します。

233T2: 先生と相談します。そうだ、今まさに皆さん進学先の大学を決めなければなりませんから、進学相 談をしているとこですね、先生にね。うんうんうん、そうですね。それも大切ですね。はい、い いですよー。 ④ b. 繰り返し、④ d. 確認、④ a. あいづち、④ g. 評価的発話、⑤ c. 励まし  ここでは、先輩の体験談をもとにした〈あなただったら?〉の設問を教師が投げかけ、「日本語 力を向上させるいい方法」「どうしたら日本人と友達になれるか」「進路について誰かに相談する か」について、学習者自身がどうするのか意見を引き出している。この際、教師は、学習者の意 見をくみ取り、あいづち、繰り返し、確認、発話形成の補助などを行い、学習者が発話すること を励まし、複数の意見を出させて、整理している。さらに、教師がこれを発展させて、自身や他 者の体験談を紹介し、助言を行っている様子が見られた。

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5. 総合的考察

 以上の会話例から、教材の各段階において、教師は 5 種の教師の役割(①司会進行、②解説、

③意見表明、④聞き手としての反応、⑤発話支援)を果たしつつ、学習者に自身に引き付けて考 えて意見を述べることを促していたことが見て取れる。そのような教師による促しが具体的に見 られる場面としては、〈先輩の体験談の読み物〉の読解で「なぜ日本人に留学生の側から助けを求 めた方がいいのか」を考えさせる場面や、話し合いで「友人の作り方」や「誰に相談するか」を 考えさせる場面が挙げられる。これらの場面は、今後の大学生活で遭遇するであろう困難点を克 服する方法を考えさせる機会となっており、キャリア形成支援という目的に沿ったものであると 言える。以下、4 章で見た教材の各段階別の教師の役割を、①~⑤の教師の役割別に整理しなお してみる。

 まず、教材の全ての段階で、教師が「①司会進行」を行うことで、学習者にどのような活動を 行うかを明確に示し、問題を提示して考えさせ、発話の促しや指名によって学習者の意見を引き 出し、話を整理していた。

 次に、「②解説」として、先輩の体験談の読解教材や話し合いで出てきた語彙・表現の説明、内 容の説明を行うだけでなく、それらに関連した社会文化的知識の提示を行うとともに、自身・他 者の体験談の紹介も行うことで、キャリア形成に関する話し合いのテーマをより自身や学習者に 引き付けて考えさせるようにしていた(例:自身の留学や職場の経験、以前教えていた留学生や 家族などから聞いた経験など)。先輩の体験談を自分に引き付けて考える際、学習者たちは「授業 中に質問したら失礼ではないか」など、切実な「自分自身の問題」として不安を表明してくる。

そうした学習者自身のキャリア形成上の疑問や不安に対して、教師は「質問を受ける教師の立場 からの考え」を伝えたり、「自身が学生だった時の経験」を新たな知識として提供したりしてい た。

 さらに、「③意見表明」として、先輩の体験談の読解内容や学習者から出た意見をもとに、教師 自身も話し合いの一参加者として自身の意見を述べたり、人生の一先輩として学習者に助言をし たりする様子が見られた。これらにより、学習者が先輩の体験談の読解教材の内容をより自身の キャリア形成に引き付けて深く考えるきっかけを与えようとしていたと考えられる。

 ここから、キャリア形成支援の授業においては、まず教師自身が体験談の読み物を自身に引き 付けて考え、それを示すことで、学習者が自身のキャリア形成に引き付けて考えられるようにね らっていたと言える。これらの「②解説」や「③意見表明」は、学習者たちが人生の様々な局面 にこれから向き合うというキャリア形成支援に欠かせない要素となっていると言えよう。

 これらに加えて、「④聞き手としての反応」として、教師があいづち、繰り返し、言い換え、確 認、聞き返し、質問、評価的発話、同意などを行い、学習者の発話を受け止めようとしている様 子が見られた。教師が良い聞き手として振る舞うことで、学習者の発話意欲を高め、議論と思考 を促進させていると言えよう。

 最後に、「⑤発話支援」は、学習者が日本語でうまく発話できない際に、適宜、教師が行ってい た。これにより、日本語での話し合いの会話を円滑に進め、学習者の日本語力を向上させようと していたと言える。まだ自身の意見が十分に表せない中級の学習者にとって、発話を促進させる ためにも必要不可欠なものであると言えよう。

 このような①~⑤の教師の役割を通して、教師が学習者に問いを投げかけ、常に考えさせるよ

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うにし、学習者が自身のキャリア形成を行っていく上で直面する問題を発見・解決していくため の議論を深めていき、学習者一人一人が自身の将来のキャリア形成について自分なりに考えてい けるようにすることがキャリア形成支援において重要であると考えられる。特に、日本語中級レ ベルでは、教師が学習者一人一人の発話意図をくみ取って確認や質問をしつつ、話を整理してい くことが求められるだろう。

 本教材では、上述のように、(1)キャリア形成意識の養成、(2)問題発見・解決能力の養成、

(3)人間関係構築力の養成、(4)社会文化知識の提供を目的としている。会話例の分析により、

(4)はもちろんのこと、(1)(2)(3)においても、5 種の教師の役割が目的達成に寄与している ことが分かった。先輩の体験談の読解を通して、学習者に、キャリア形成を行っていく上で、将 来自身にも起こりうることとして問題のありかを意識化させ、その解決方法を考えさせることは、

(1)キャリア形成意識の養成、(2)問題発見・解決能力の養成につながる。また、先輩の体験談 で語られている人間関係の作り方というテーマをもとに、教師が話し合いの中で学習者の意見を 引き出し、学習者に意見交換をさせるとともに、教師自身の意見や体験談を紹介することは、(3)

人間関係構築力の養成を図るものである。

 ただし、このような教師の役割は、先輩留学生の体験談の内容の充実の上に、力を発揮するもの であると言える。キャリア形成を行っていく上で、試行錯誤しながら自身の道を切り開いていっ た先輩留学生の体験談からは、人生の失敗を乗り越える困難の克服力が垣間見られる。こうした 貴重な体験談は、先輩留学生の声であるからこそ、同じ境遇になりうる学習者の心に大いに響く のだと考えられる。実際に、本授業で先輩留学生の失敗と克服の体験談を読んで、学習者は「失 敗しても何度でも挑戦すればよいと分かった」「失敗から学んだ方がいい」「準備が必要だ」など と述べていた(詳細は中井他(2019)参照)。こうした先輩の体験談を活かすために、教師が学 習者に先輩の体験談を身近に感じられるように生き生きと伝え、自身のキャリア形成上の問題と して議論させるような工夫をすることが必要であろう。また、先輩の体験談の中に出てくるエピ ソードは、学習者が自身のこれからのキャリア形成を行っていく上で直面しうるものであり、読 んでいる段階では、未知の世界であるとも言える。したがって、学習者の理解を助けるため、段 階を踏んで議論を深める質問をしたり、内容を説明したり、社会文化的知識を補足したりするこ とが求められよう。このように、本教材を用いてキャリア形成支援を行おうとする教師は、まず、

先輩留学生たちの体験談を単なる読解教材として扱うのではなく、教師自身がこれまで積み上げ てきたキャリア形成における経験に引き付けて読み込む必要がある。その上で、日本語学習者ら が将来直面するであろう様々な場面を想定しつつ、教師が人生の先輩としてどのように知識を提 供し、助言したらいいかを考えることが必要であると考えられる。

6. まとめ

 以上、「先輩留学生の体験談」を読む活動での教師と学習者の発話をもとに、5 種の教師の役割

(①司会進行、②解説、③意見表明、④聞き手としての反応、⑤発話支援)について分析した。こ れらの教師の役割を果たすことにより、(1)キャリア形成意識の養成、(2)問題発見・解決能力の 養成、(3)人間関係構築力の養成、(4)社会文化知識の提供という教材の目標の実現を図ってい たと言える。このような学習者の発話を促しつつ多角的な視点を与えて議論を深める教師の役割 は、学習者のキャリア形成に繋がる学びを促進させる上で欠かせないものである。そして、キャ

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リア形成支援を行う際の教師には、先輩留学生の体験談や助言を聞き、それを現役の学習者に伝 え、そこで議論したことをまたその後の後輩の留学生にも伝えていくという、過去と現在の学習 者を繋いでいくパイプ的な役割が求められるのではないかと言えよう。

 今後は、本研究で明らかになった教師の役割を果たしやすくするための補助教材の開発も行っ ていきたい。教師が本教材をもとに、自分自身の体験談や他の留学生から聞いた話などを紹介し たりして、学習者に多角的な視点を持たせる役割が果たせるかどうかは、教師の経験に左右され る。したがって、今回使用した「先輩留学生の体験談」を誰もが使える教材にするためには、教 師向けの補助教材があった方がよいと言える。例えば、コラムや教師用マニュアルのような形で、

元留学生や日本人学生、社会人などの体験談や社会文化的知識を提供できるように工夫したい。

 同時に、キャリア形成の多様性に配慮した教材作成を進めることも必要である。議論を深める 土台となる多様なキャリア形成のあり方を示すために、教材の数や幅を広げていく必要がある。

さらに、日本語学習者のレベルに合わせた課題設定も求められる。中級の学習者でも簡単に読め る語彙・表現・内容に調整した教材を作成する一方、上級レベル向けに、学習者が教師主導で情 報を与えられるのを待つのではなく、より主体的に情報収集を行ったり、学習者が主体となって 議論を深めたり、さらには教室の外に情報の発信をしていくというような教材・活動のあり方も 検討する必要がある。今後も、キャリア形成支援のためにより良い教材を提供できるよう、研究 と実践を行っていきたいと思う。

付記 文字化表記方法(抜粋版)

// //の後の発話が次の番号の発話と同時に発せられたことを示す。

{ } { }の中の行動は非言語的な行動の「笑い」等を示す。

謝辞 本稿は、JSPS科研費 26580092 の助成を受けて行った。調査に協力してくださった皆様に 心より感謝申し上げます。

参考文献

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菅長理恵・中井陽子(2016)「学生時代に培われたアカデミック・ジャパニーズと職場での活動のつながり

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をめざした教材作成と授業実践から―」『東京外国語大学留学生日本語教育センター論集』第 45 号,

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村上かおり(1997)「日本語母語話者の『意味交渉』に非母語話者との接触経験が及ぼす影響」『世界の日本 語教育』第 7 号,pp.137-155.

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望月一枝・齊藤遥子・芳谷由佳子・中村淳・栗山将幸・阿部寛之・田村和典(2011)「授業におけるディス コース分析 教師の言語活動を中心に」『秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要』第 33 号,pp.13- 23.

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(なかい ようこ 東京外国語大学大学院国際日本学研究院 准教授)

(すがなが りえ 東京外国語大学大学院国際日本学研究院 教授)

(しぶや ひろこ クリエイティブ日本語学校 校長兼教務主任)

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The Role of the Teacher in Activities Involving Reading

‘the Experiences of Former International Students’

based on Analysis of the Utterances during Discussions

NAKAI Yoko, SUGANAGA Rie, SHIBUYA Hiroko

KEYWORDS: Career development support, The role of the teacher, Experience narratives, Reading materials, discussions

The authors implemented classroom activities which involved reading about ‘the experiences of former international students’ in Japanese intermediate classes, aiming at supporting international students’ career development. This study analyses the roles teachers played in the activities, based on the utterances made by teachers during the discussions.

Teachers were observed to play five role. (1) The teachers acted as moderators/facilitators by clearly announcing the activities, indicating issues, eliciting students’ opinions and summarizing topics. (2) They explained vocabulary/expressions and contents in the reading materials and in discussions. Additionally, they introduced socio-cultural knowledge as well as their own/others’

experiences relating to the discussion topics. As a result, they tried to let the students see the themes of discussion as closer to their own issues. (3) They expressed their own opinions and advice based on the contents of reading materials and discussions. (4) They reacted as listeners and understood students’ utterances, using devices such as aizuchi, repetition, rephrasing, confirmations, clarifications, questions, assessments and agreements. As a result, they tried to increase the students’ motivations to speak up and to facilitate students’ discussion and thinking. (5) They supported students’ utterances when those students could not speak Japanese well, thus promoting discussions in Japanese and help the students acquire Japanese competence.

In playing these roles, the teachers were trying to encourage students’ utterances and help to deepen discussions, in an effort to promote students’ career development.

表 2 会話支援ストラテジー(栁田 2002:28) 1. あいづち 話を聞いていること、理解していることを伝えたり、発話に対する肯定的な評 価を示す 2. 確認チェック NNS の発話を NS が正しく理解しているかどうかを NS 自身が NNS に確認する 3
表 4 読む活動における教師の役割の分類 教師の発話 カテゴリー 会話支援 ストラテジー 例 ①司会進行 a.  活動指示 活動の指示 (全体) - T: じゃ 2 番。進路、ね。 b

参照

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