保 健 管 理 セ ンタす 西 村 優 紀美
Yukilni Nishimura:Understanding and study of students with developmental disorders
<は じめに>
障害のある人々の高等教育 に関 して、 さまざま なな困難 をで きるだけ軽減す るための支援体制が 検討 され、多 くは各大学 の学生支援 セ ンターが中 心 となり、施設設備等の環境整備や、修学手続 き や受講のためのサポー トなどハー ド面 ・ソフ ト面 の改善 に取 り組んでいます。
障害学生 とは、身体障害又 は発達上 の障害を有 す る者で、大学教育を受 け学生生活を送 る際に、
長期的又 は一時的に相当な制限を受 ける人をいい ます。すでに大阪大学や筑波大学、淑徳大学、 日 本福祉大学等多 くの大学 に 「障害学生支援室 (セ ンター)」が設置 され、実質的な支援 に取 り組ん でいますが、そのほとんどが身体障害 (視覚障害 ・ 聴覚障害 ・肢体不 自由)で 、発達障害を有す る学 生 についての具体的な支援体制が未だ確立 してい
ないのが現状 のよ うです。
今回、障害学生 の修学支援 について、発達障害 学生を中心 に して、その必要性を学生相談の立場 か ら述べてみたいと思 います。
<障 害学生支援センター (支援室)に ついて >
障害学生への修学支援 の歴史 は古 く、視覚障害 者や聴覚障害者、身体障害者 の入学 に関す る制限 はかなりの部分で取 り除かれ、点字受験や時間延
長等の特別試験体制が とられた り、構内バ リアフ リー、点字表示、わか りやすい視覚情報の提供 な ど入学後の勉学や生活条件の改善が行われていま す。
大阪大学障害学生支援室では支援 に関す る要項 の中で、 その目的を 「この要項 は、基本的人権を 擁護す る大阪大学憲章の理念 に則 り、障害を有す る学生がその能力 に応 じ、大阪大学 において十分 な教育を受 けるとともに、豊かな学生生活を実現 し、 もって社会 に貢献 しうる人材 として成長す る ために、適切な配慮のなされないことによる不利 益を被 ることがないよう、総長及 び教職員の責務 を明確 に し、及 び必要 な支援方策の策定 とその実 施 に関す る基本的な事項 を定めることを目的 とす る。」 と明記 しています。 その定義 には、「障害を 有す る学生」 として、F身体障害 または発達障害』
とあ り、 これまでの障害の概念枠 を拡 げた対応が 記 されている点が注 目されます。 日本福祉大学障 害学生支援 セ ンターにおいて も、「障害学生」 と して 『 視覚障害 ・聴覚障害 ・肢体不 自由 ・内部疾 患 ・高次脳機能障害 ・発達障害』を明記 し、 より 広汎 な概念の障害を視野 に入れた対応を目指 して
います。 しか しなが ら、 その具体的な対応につい
て明記 してあるのは身体障害のある学生 に対す る
ものであ り、発達障害学生 については、 これまで
の他の障害の対応 に準 じた ものが準備 されている だけで、その特性 に応 じた具体的な対応 は明 らか にされているとはいえません。 そ の他、障害者 支援担当者やセ ンターとして、東京大学バ リアフ リー支援室、広島大学障害学生支援 ボランティア 活動室等が挙 げ られます。そのほかに筑波大学や 立命館大学 などで、支援制度やボランテ ィア支援 のプログラムがあ ります。
支援 セ ンター (支援室)で その基盤 となってい る考え方の一つ に、ユニバーサルデザイ ンの考え 方が あ ります。 ユニバ ーサルデザイ ンとは、 「す べての人 にとって、で きる限 り利用可能であるよ うに、製品、建物、環境をデザイ ンす ることであ り、 デザイ ンの変更や特別仕様 デザイ ンを必要 と す る もの で あ って は な らな い (without the need for)。 」 と定義 されています (ノースカロラ イナ州立大学 ユニバ ーサルデザイ ンセ ンター)。
そ して、「誰 もが公平 に利用で きること」「使 う上 で 自由度が高 い こと」「使 い方が簡単 です ぐにわ か ること」「 必要 な情報がす ぐに理解で きること」
「ミスや危険 につなが らないこと」「無理 な姿勢を とらないで、少 ない力で も楽に使用で きること」
「アクセス しやすいスペースと大 きさを確保す る こと」のユニバーサルデザイ ン7原 則が示 されて います。
この考えをさらに進 めると、大学教育の充実、
つまり、学生 に対 して直接教育活動 をお こな う大 学教員一人一人 の教育活動 にも及ぶ ことにな りま す。個々の教員が、障害学生 を視野 に入れた授業 内容 ・方法 に向けて改善を図 り、大学全体でそれ ぞれの大学 の教育理念 ・教育 目標がすべての学生 に対 して達成 され るように教育内容 ・方法 につい て組織的な研究 ・研修を実施することが重要になっ て きます。福岡教育大学では、大学 における障害 学生への支援 の充実 をファカルテ ィ ・デ ィベロッ プメン トの一つ として取 り組んでいます。
<発 達障害に特定 された困難 さ>
筆者 は、平成15年度 よ り、全国大学保健管理研 究集会や全国学生相談学会、全国学生相談研究会
議等 において、発達障害学生 に対す る学生相談の 事例を発表 し、修学 に関す る支援 の重要性を提言 して きま したが、当時、実際に困難 さを感 じてい る相談担当者 は非常 に少ないのが実態で した。 し か し、 わずかなが らも、「これ まで うま くいかな か った相談 に中で、発達障害学生がいた可能性が ある」 とい う意見や、「すでに診断 されている学 生 の対応で、通常の学生相談だけではうま くいか ず、学内の事務職、教員、学生の理解 と協力、 そ して、修学 に際 しての特別の配慮が必要だ と感 じ ている」 という意見があったの も事実です。わず か 2〜 3年 前ではあ りますが、教育界では知的障 害 を伴わない軽度発達障害児 ・者が高等教育の場 に入学 して くることを想定で きないのが現状だ っ たといえます。
現在、軽度発達障害 〔 学習障害 :Learning Di sOrder(LD)・注意 欠 陥多動性 障害 :Attention Deficit/Hyperactivity Disorder(ADHD)0 広汎性発達障害 :Pervasive developmental dis―
order(PDD)の 中で知的障害 を伴 わない高機 能 自閉症 :High― functioning Autism(HFA)、
ア ス ペ ル ガ ー症 候 群 :Aspergers Syndrome (AS)〕 のある障害学生の支援 について、独立法 人国立特殊教育研究所等で支援体制 に関す る研究 がすすめ られています。研究所では、小学校 ・中 学校での軽度発達障害児への支援 をその始 まりと して、幼稚園 ・保育所,高 等学校の支援、そ して、
大学 ・短期大学の在籍す る障害学生の修学支援 に 取 り組み始め、 そのガイ ドライ ンを 『 発達障害の ある学生支援 ガイ ドブックー確かな学 びと充実 し た生活をめざ して一』 として発行 しま した。
ガイ ドブックの中か ら、 い くつかの典型的なエ
ピソー ドと彼 らの内面 を記述 し、 そ して、最後 に
筆者が執筆担当 した 『 発達障害のある学生の 「 卒
業」 に向けた支援』 を紹介 したいと思 います。
ェ ピ ソ ー ド 1:
Aさ んは、入学直後、履修 に関す る手続 き がわか らず、教務係 に質問に行 きま した。
担当の事務員 は丁寧 に教えて くれ、「また、
わか らない ことがあ った らいつで も聞 きに来 て ください」 と言 って くれま した。 Aさ んは 非常 に助か り、困 ったことがあ った らいつで
もここに来ればいいんだ と思 いま した。
翌 日か らA さ んはわか らない ことがあると 教務係へ質問 して くるよ うにな りま した。距 離感がつかめない感 じで、 自分で判断で きそ うなことも聞いて くるので、職員 は戸惑 いを
! 感 じて い ます。 │
L . ̲ " ̲ " 一 一 一 " 一 ¨ 一 一 一 " 一 ¨ 一 ― 」
エ ピソー ド2:
B さ ん は高校 までの授 業 とは違 って、大学 は授業担 当者 が 自分 の ペースで どん どん話 を 進 めて い く授業形態 につ いて い くことがで き ません で した。予習 す るのですが、読 む こと に時間がかか り、 い くつ もの授業 の予習 を平 行 してす るに は限界 が あ ります。
試験 も論述式が多 く、時間内に論点を絞 っ て答案を作成す ることが難 しく、結果的に必 修教科 の単位 を落 と して しまいま した。
i
エ ピソー ド3: !
Cさ ん は、大学生 にな って アルバ イ トを始 │ め ま した。 自分 な りに一生懸命 に働 いて い る ! つ もりなのですが、 いつ も店長 か ら注意 され │ て しまいます。 あ る時。 Cさ ん に とって は突 │ 然 、理 由 もな く、 「明 日か ら来 な くて もいい」 │
と解雇 されて しまいま した。 │
11:[│:lil:言 ii祟 [I:31i l わか らない。 たぶん、 い じめだ と思 う。
│エピソー ド1の Aさ んは、社会性 ・コミュニケー ションの困難 さを持つ人 たちによ くあるエ ピソー ドです。社会性や コ ミュニケーションの問題 を生 じさせている背景の一つには、その場の状況を理 解す る判断が一般的な社会生活で中心 となる理解 の仕方 と違 うことが挙 げ られます。具体的にエ ピ ソー ドを見ていきま しょう。教務係 は、新入生が 初 めての ことで当然 わか らない と思 われ ることを 教 え ま したが、「また、 わか らない ことがあ った らいつで も聞 きに来て ください」 とい う言葉 は、
本当に字義通 りの意味 もあ りま したが、社交辞令 的な挨拶 としての意味 もそこにはあったわけです。
ですか ら、 その場 には実際的な言葉のや りとりは な くて も、 《あとは、 ほとん ど聞かな くて もわか るだろう》 《学生生活案内をちゃん と見ればわか るはず》 《どうして もわか らなか った ら、聞 きに きなさい》 とい う社会的な暗黙 の了解があ ったわ けです。一般的には、学生 も教務係の言外の意味 を くみ取 っているはずで、 このような非言語的な コ ミュニケー ションが言語的 コ ミュニケーション に平行 してお互 いの間を行 き来す るのが通常の理 解だ といえます。 このような実際の言葉のや りと
りの背景 にある文脈を、社会生活の中で 自然 に学 習す ることが難 しい タイプの人 たちが、軽度発達 障害のある学生 の一つの タイプと してあげ られま す。 このケースでは、周囲の人たちがAさ んの距 離感 のなさにス トーカー的な異常性を感 じ、精神 障害の可能性 を疑 って相談担当者 に相談 に訪れ る 場合があるよ うです。 Aさ ん 自身 にはそのよ うな 認識 はまった くな く、親切な教務係 に対 して全面 的な信頼 を もち、教務係の戸惑 いを察す ることも で きず、 これまで通 りに頻繁 に質問に来続 けるわ けです。
エ ピソー ド2の Bさ んは、知的な遅れはないの ですが、読む ことやまとめることに時間がかか り、
聞いた り書 いた りまとめた りとい うことを同時並 行的に実行す ることが難 しいタイプの人たちによ くあ るエ ピソー ドです。高等学校 までは、教員が 教科書や資料、補助教材や視覚教材等 を効果的に 使用 し、授業 を組み立てて くれます。 また、定期
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的なテス トで こまめに到達度を確認 し、補習授業 などで補 って くれ るシステムがあ ります。生徒の 側か らすれば学校 でわか らない場合、塾や家庭教 師で弱点を補 い、通信教育等でさらに補充す るこ とも可能です。つ まり、同 じ教科 の内容を、学校 と塾、家庭教師 という複数の学習形態 により繰 り 返 し指導 され ることにな り、一度の機会で習得す ることが難 しい生徒 も、繰 り返 しの中で定着す る 可能性が多 くな ります。
大学ではそ うい うわけにはいきません。授業時 間 は90分。専門分野や教員の特性 に応 じて授業 の 形態 はまった く異 なるのが普通です。 しか し、 た とえば 「 読 む こと」が不得意 な学生 の場合、非常 に難 しい状況がお きて きます。当た り前 の ことか もしれませんが、大学で必要 な ことをすべて教員 が教えて くれ るのではな く、 自分で情報 を集めて 学ぶ ことが期待 されます。専攻 によ って は多 くの 文献を読 む ことが要求 され るで しょう。授業だけ でな く大学制度 の理解 や、 事務手続 きの場合 も
「 読 む」 力が求 め られます。高校時代 のよ うにク ラス単位で学級担任が親切 に指導 して くれ るわけ ではないので、 自分で資料を読み、対処 しなけれ ばな らない場合 もあ ります。読み障害のある大学 生 は、知的能力が低 くて理解できないのではな く、
「 読 む」 とい う手段 を用 いて情報 を取 り入れ る部 分が困難 なのです。 そのため、同 じ内容を耳で聞 けば問題 な く理解で きる場合があ り、 その機会が ないために困難 に直面 している場合があ ります。
エ ピソー ド3の Cさ んは、 自分の行動や生活上 の様々な事柄 を うま く調整 し、現実的な生活を円 滑 に送 ることに非常 に困難 さを持つ タイプの人 た ちです。大学生活 は必要な単位の授業科 目を選択 す るところか ら始 ま り、履修届を提出 し、授業 に 間に合 うよ うに出席 しなければな りません。 サー クルに入れば、練習時間を確保 しなければな らず、
アルバイ トや コンパを合間に入れ、 そ して、一人 暮 らしを していれば洗濯、掃除、食事、 ゴ ミ出 し 等 の 日常生活 を こなさな くてはな りません。 この よ うに言 うと、「そんな ことは、一人暮 らしをす れば誰で も直面す る困難 さであ って、特 に問題 に
はな らない」 と言 う人が多 いで しょう。 この言葉 には、 く誰で もや っているのに、 なぜで きないの か。努力や工夫が足 りないん じゃないの ?そ の程 度の ことをで きない理由にす るなんて…〉 という よ うに意見を した くなる気持 ちが ともなって きま す。
前述 した 「 発達障害のある学生支援 ガイ ドブッ ク」 には、実際に診断を受 けたご本人が、実名で その困難 さの実態を紹介 しています。大学 3年 生 の時にADHDと 診断を受 けたMさ んは、 ご自身 の困難 さを他者 にわか って もらうことの困難 さを 次のよ うに表現 しています。
『じっと座 って先生 の話を聴 き続 けることがつ らい、忘れ物やな くし物が多い、 あるいは期 日ま でに課題 を仕上 げるのが難 しい、 といった ことを 説明す ると、 ほとん どの場合 「 誰 で もそ うい うこ とはあるん じゃないの ?」 と言われて しまいます。
相手 は 「 誰 にで もあることだか ら、心配す ること はないよ」 と、励 ま して くれているのだと思 いま すが、 ADHDを 持つ私 の場合、 このような誰 に で も起 こりうる問題が、通常 よりはるかに頻繁か つ深刻な形で起 こるために困 り果てているのです。』
この 「 誰 にで もあること」が、通常 の回数 をは るかに超えて、 ほとん どすべての事柄 において起 こって しまうとした ら、本人の苦 しさは非常 に大 きな ものにな ります。Mさ んの大学生活では、や はり履修登録や奨学金関連の書類の提出を忘れる、
間違 える、覚えていたけど当 日になって必要 な書 類がそろっていなか ったなどで、背景 には、予定 管理の能力、実際に実行 に移す際の行動企画が難 しか ったよ うです。 このよ うなことがたびたび起 こると、実際の生活 に支障をきたす ことはもちろ ん、他者か ら信用 されな くな り、 自分 自身 として も情 けな くて 自己否定感が強 くな ります。幼 い頃 にこのよ うな体験 をす ると、 自己防衛的になった り、不安や孤独感を強 くもって しまう場合 もあり、
年長 になるにつれ失敗 した くないあまりに、社会 生活か ら退却 した くなる人 もいるようです。
Mさ ん は、 さらにこのよ うに続 けています。
『障害を説明 した相手 に 「 誰で もそ うだよ」 と
言われて しまうと、やはり 「 十分理解 して もらえ なか った」 という印象 を持 たざるを得 ません。私 は相手の こうした反応 に戸惑 い、 ADHDが 障害 であることを何 とか理解 して もらお うとし、脳の 生来的な問題か ら起 こっていることや、症状の改 善のために薬を飲んでいることを話 しま した。 し か し、障害 としてのADHDを 強調 しす ぎたこと で、今度 は相手が引いて しまう形 にな り、 よけい な不安 を与えるだけの結果 に終わ って しまいま し た。
こうした経験か ら、私 は特 に必要がない限 り、
自分か らはADHDの ことを話 さないよ うに して います。 しか し、 もう数年 してADHDと い う言 葉が もっと一般的にな って くれれば、 もっと楽 に 話せ るよ うになると思 っています。』
Mさ んの言葉か ら、F困難 さ』 を 「誰で もあ る こと」 と理解 され るの も、 「障害」 と理解 され る の も、本人 の実感 にフィッ トしないばか りか、わ か って もらえないむな しさと孤独感が強まるだけ になることが伝わ って きます。
筆者が発達障害学生の相談 を受 けていて、上述 のMさ ん と同様の訴えを聞 くことがあ ります。 自 分 にはで きない ことが、一般 の学生 は事 もなげに で きている、友人が ごく普通 に学生生活 を送 り、
忙 しさをむ しろ楽 しんでいるように見え るのに、
自分 は授業 に行 くことす ら手間取 って しま うし、
サークル と授業の 日程調整がで きずに、当た り前 の ことがで きない。そ ういう自分が情 けな くて仕 方 ありません。高校生 まで困難 さを感 じなが らも、
まじめさと繰 り返 しで、一生懸命に学校生活を送 っ て きた人たちが多いのですが、大学 に来て、「いっ たい、 自分の何がよ くないのか。 なぜ、普通の こ とがで きないのか」 とい う自分 に対す る漠然 とし たわか らなさに、途方 に暮れているというところ が実感なのではないで しょうか。
筆者 は、軽度発達障害の臨床像を 「障害」 とい う枠組みで描 くことに違和感を感 じています。 た しかに、社会生活を送 る上での困難 さは大 きく、
周囲の理解がないと本人の困難 さは解決 されない ばか りか、その特性がより強調 した形で顕在化 し
て しまい、周囲 との関係性が さらに悪化 した り、
本人が精神的な問題や社会的な問題 を引 き起 こす 場合 もあります。 しか しなが ら、一般的に 「 障害」
のある人を治療 ・教育 してい くときに、 その 「障 害」の部分 に特化 した指導をお こなわれやす く、
本人のためとい う名 目で、行動統制 プログラムが 施 されることが多 いよ うに思 います。現実生活を 送 る上で、修正 してい くべ きことは多いと思 いま すが、その前 に、『本人が困難 と感 じること』 と、
『私 たちが、彼 らが困難 と思 うこと=障 害』 が、
実際 に実感 としてイコールなのか という疑間につ いて考えてみたいと思 っています。『混沌 と した 自分 に対す るわか らなさ』 を、『自分』 か ら少 し 距離 を置 いた ところに置 き、『自分 にあ る 《 混沌 と したわか らなさ》の正体』 を、『自分』が少 し で も学校生活を過 ごしやす くす るために工夫 して いこうとす るイメージを持 って向 き合 う方が、何 とな くぴ った りす るよ うな気が しているのです。
それを 「障害」 というのだろうか とい う問いかけ を、 いつ も心の片隅に置 きなが ら、彼 らの困難 さ に耳 を傾 けていると、 もっとぴ った りす る表 し方 があるのではないだろうかという思いがわき上がっ て くるのです。
<本 人からのメ ッセージ :ニ キ リンコ氏の場合 >
ニキ リンコ氏 は、成人 になってか ら広義の自閉 症の うちの言語発達 に遅れのないサブタイプ、 ア スペルガー症候群 とい う診断を受 けた女性です。
氏 は、「障害学の主張」 (明石書店)で 「自閉」 と、
その困難 さについて興味深 い記述を しています。
以下、彼女 の記述を通 して、「障害」 と 「困難 さ」
について、考えていきたいと思 います。
彼女 は本書の中で 「自閉症」か ら 「 症」 とい う 文字 をあえて外 して、持論 を展開 しています。
「自閉」 とい う用語 を広義 の autismの 意味で 用 い、 「症 」 とい う文 字 を あ え て はず の は、
autismは 障害で はあ って も疾患で はない と考 え
るか らである。重複障害の治療、心身の機能を高
める訓練 など 「状態のよい自閉者」 になるための
手助 けは有益だが、 自閉その ものは病気ではない と考える筆者 にとって、 自分の原稿の中でまで、
疾患を連想 させ る 「 症」 という字が含 まれ る用語 を使 うのは愉快 な もので はない。 もちろん、「自 閉症」が正 しい用語 なので、必要な場面では当然 そち らを使 うが、本稿では、引用部分を除 き、筆 者 自身 に苦痛 の少 ない 「自閉」 を用 いる。
もう一つの理 由は、 スペク トラムの中で も最 も 健常 に近 い人 たち、お、 だんは特 に援助を必要 とせ ず、 自立生活が送れ る人たちを排除 しないためで ある。 自閉 とは連続的な ものなので、非常 に軽度 の人々は、次第 に 「ち ょっと偏 った健常者」の中 へ と溶 け込んで消えてい く。つまり、 この世界に は、 自閉的セ ンスや嗜好を共有 しなが らも、それ がひどい障害 にはなっていない人々がた くさんい ることになる。生活 にひどい支障が出ていない以 上、診断など臨床場面では障害 と区別す る必要が ある。 しか し、 セ ンスや嗜好 の近 さ、当人の帰属 意識 などは、機能 レベルとは独立の問題だ し、臨 床家 に線引 きを委ね る必要があるとは思えない。
(「 障害学 の主張」P180)
この感覚 は、筆者の軽度発達障害児 ・者 との臨 床場面 で感 じる感覚 と非常 に近 い ものであ り、
「障害」 や 「治療」、「指導 プ ログラム」 に対す る 違和感に納得する説明がされたように感 じました。
私 たちが 「自閉」 とみ る世界がまった く異質 な世 界 ではな く、連続体 と して、 「自閉的な傾向があ る」 セ ンスや嗜好が存在す ると考えるのです。大 切 なことは、生活 にひどい支障が出ないような手 助 けをす ることであ り、「自閉」 を治す ことでは ないというメッセージ性を感 じることがで きます。
「ガイ ドブック」 や 「支援 システム」 を考えてい く場合、前提 として確認 しておきたい視点だ と思 います。
さて、ニキ リンコ氏 は 「自閉」の 「 社会的問題」
について も次のように説明 しています。
性 の問題が中核で、最 も重要だと言われている。
確かに客観的に見れば、私 たちが壁 に突 き当たる 原因は社会性の障害であることが多い し、社会性 の障害は結果 も重篤なものになりやすい。 しか し、
これは援助者 の視点 であ り、当人ねヽ 最 も切実 ′ ご感 じている問題カミ 必 ず しも客観的 に大 きな問題 を
;は 起 こす症状 と一致 するとはか ぎらない。たと えば、社会性の障害 とは対人関係の問題である以 上、主 として相手のある場面で しか問題が起 こら ない。 しか し、認知や注意力の特性、気分の変動、
こだわ りなどは、相手がいようと一人だろうと関 係 な く、意識がある限 り常 につ きまとう。 自閉者 本人 は,時 た りとも自閉者仕様の身体 ・脳を離れ て生活す ることはないのだか ら、相手のいるとき しか問題 の起 こらない 「社会性 の障害」 は、 (た とえ苦痛 にな っていて も)一 番基本的な問題 とは 感 じられない こともある。対人関係の失敗 も、失 敗 の原因が 自分 にあると気づいていない人や、そ もそ も対人関係を欲 していない人 にとっては、 い くら苦痛ではあって も他人事である。
「 症状」とは、ケアに当たる立場の人々が、我々 の能力の凹凸を見て、援助の必要 な分野を特定 し よ うとい う動機で切 り取 った ものである以上、適 応上不利になる性質に偏るのは自然なことで、ニュー トラルな性質 は優先度が低 いのであま り話題 にの ぼ らない。一方、 自開症者本人 は、 自分 の能力 の 四凸 と四六 時中つきあ っている し、主観的 にはそ れを標準 と感 じている。 どの部分が障害でどの部 分がそ うでないか とい うのは、周囲 との比較で初 めて決 まることが多 い。 自閉 とは、自ヒカ だ `
けに影 響 する ものではな く、興味 ・関 己ヽ のあ りかた、意 欲 や嗜好 ′ ごも影響 する。 つまり、価値観や優先/1F 位 も既 に自閉 の影響を受 けている。援助者が自閉 児 ・者を見れば、症状ばか りが浮 き上が って見え るのか もしれない し、症状 はどれ も等価 に見える か もしれないが、当人の実感 はそれ とは違 ってい るか もしれない。 (「 障害学の主張」P181‑183)
「自閉」 は Wingの 三つ組 みの中で も、 社会 このような内的世界の記述を見 るにつ け、私 た
ちが彼 らの何 を 「援助」 しなければな らないのか を、真摯 に考え直す必要があるといわざるを得 ま せん。私 たちが考える 「社会性の障害」 は、誰 に とっての 「 社会性の障害」 なので しょうか。彼 ら が大学生活を送 る上で、私 たちが感 じる困難 さが やは り 「 社会性の問題」だ とした ら、 どこをどの よ うに援助す る必要があるので しょうか。
現在、学生相談担当者が、 さまざまな支援の仕 方を提案 しています。 その中には、 ソー シャルス キル トレーニ ング (SST)を 適用 し、相談 に訪 れ る学生 に施行 しているものを目にす ることがあ ります。 たとえば、次のような事例があ ります。
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ク しないので、 「部屋 にはいるときには ドア を ノ ックす るのがマナーです。」 と指導 し、
部屋の外 に出て入 り直 しをさせ る。次回の面 接時 に同 じ失敗 を した ら、再度部屋 に入 り直
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学生の実感 とか け離れた SSTは 、彼 らにとっ てその必要性す ら伝わることはあ りません。実際 に、 たとえノックをす ることがで きて も、相談室 以外の人を訪れるときに、 その部屋の ドアをち ゃ ん とノ ックで きるよ うになるか とい うとそ うで も ないのです。彼 らは、そ こで 自分への評価が低 く なることが怖 いのではあ りません。 ド アの向 こう にいる人 との交流の中で、 うま くや っていけない ことに困難 さを感 じて い るのです。 援助者 が、
「まずは、出会いの始めが大切だか ら、 ドアをノッ クす るところか ら指導 しよう」 と思 うことは、今 の本人 には必要のないこと、必要性の意味が見 い だせないことになるだけで しょう。
本人がその 「 生 きに くさ」 をソーシャルスキル の欠落だけで感 じているわけではな く、 さまざま な内部感覚や こだわ りもその基盤 にあ り、社会的 に もわか らないことが多 いという不安 に混乱 して いる可能性 も想像で きる支援者であ りたい もので す。
<社 会性 ・コミュニケーシ ョンに困難 さを感 じて いる学生支援 >
次 に、「 発達障害のある学生支援 ガイ ドブック」
で、筆者が担当 した 『 卒業や就労 ・進学への支援 一 論文の作成、卒業に向けた支援 一』を紹介 します。
ここでは、卒業論文作成 とい う場 を通 して、本人 が感 じる困難 さを本人の視点で解釈 し、援助者 は その内的世界を共感的に理解す ることの重要性 を 指摘 しています。 また、心理面接では本人の困難 さを明確 に した後、それを二人の共通課題 として 認識 し、一緒 に適応的な振 る舞 いがで きるような 方策 を考え、実行 してい く行動 マネー ジメ ン トが 必要であることを提案 しています。
《論文の作成、卒業 に向けた支援》
卒論 には、 これまでの大学生活 にはなか った課 題があ ります。学生 に とって、「卒業論文 を仕上 げてい く」プロセス自体がはっきりわか らないこ とのようです。支援す る側 は日常的な支援 に加え て、卒論を仕上げていくプロセスを段階的にサポー トしてい くためのプログラムを準備 しなければな りません。発達障害のある学生が卒業論文作成 に 向けて困難を示す事柄 には、次のよ うな ことが考 え られます。
1.卒 論 に関す る知識 ・到達 目標
・これまでの レポー トとの違いがわか らない
・卒論 に取 り組む予定を立てることがで きな
ヽヽ