発達障害学生 の理解 と修学支援 つ いて

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保 健 管 理 セ ンタす  西 村 優 紀美

Yukilni Nishimura:Understanding and study of students with developmental disorders

<は じめに>

障害のある人々の高等教育 に関 して、 さまざま なな困難 をで きるだけ軽減す るための支援体制が 検討 され、多 くは各大学 の学生支援 セ ンターが中 心 となり、施設設備等の環境整備や、修学手続 き や受講のためのサポー トなどハー ド面 ・ソフ ト面 の改善 に取 り組んでいます。

障害学生 とは、身体障害又 は発達上 の障害を有 す る者で、大学教育を受 け学生生活を送 る際に、

長期的又 は一時的に相当な制限を受 ける人をいい ます。すでに大阪大学や筑波大学、淑徳大学、 日 本福祉大学等多 くの大学 に 「障害学生支援室 (セ ンター)」が設置 され、実質的な支援 に取 り組ん でいますが、そのほとんどが身体障害 (視覚障害 ・ 聴覚障害 ・肢体不 自由)で 、発達障害を有す る学 生 についての具体的な支援体制が未だ確立 してい

ないのが現状 のよ うです。

今回、障害学生 の修学支援 について、発達障害 学生を中心 に して、その必要性を学生相談の立場 か ら述べてみたいと思 います。

<障 害学生支援センター (支援室)に ついて >

障害学生への修学支援 の歴史 は古 く、視覚障害 者や聴覚障害者、身体障害者 の入学 に関す る制限 はかなりの部分で取 り除かれ、点字受験や時間延

長等の特別試験体制が とられた り、構内バ リアフ リー、点字表示、わか りやすい視覚情報の提供 な ど入学後の勉学や生活条件の改善が行われていま す。

大阪大学障害学生支援室では支援 に関す る要項 の中で、 その目的を 「この要項 は、基本的人権を 擁護す る大阪大学憲章の理念 に則 り、障害を有す る学生がその能力 に応 じ、大阪大学 において十分 な教育を受 けるとともに、豊かな学生生活を実現 し、 もって社会 に貢献 しうる人材 として成長す る ために、適切な配慮のなされないことによる不利 益を被 ることがないよう、総長及 び教職員の責務 を明確 に し、及 び必要 な支援方策の策定 とその実 施 に関す る基本的な事項 を定めることを目的 とす る。」 と明記 しています。 その定義 には、「障害を 有す る学生」 として、F身体障害 または発達障害』

とあ り、 これまでの障害の概念枠 を拡 げた対応が 記 されている点が注 目されます。 日本福祉大学障 害学生支援 セ ンターにおいて も、「障害学生」 と して 『 視覚障害 ・聴覚障害 ・肢体不 自由 ・内部疾 患 ・高次脳機能障害 ・発達障害』を明記 し、 より 広汎 な概念の障害を視野 に入れた対応を目指 して

います。 しか しなが ら、 その具体的な対応につい

て明記 してあるのは身体障害のある学生 に対す る

ものであ り、発達障害学生 については、 これまで

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の他の障害の対応 に準 じた ものが準備 されている だけで、その特性 に応 じた具体的な対応 は明 らか にされているとはいえません。 そ の他、障害者 支援担当者やセ ンターとして、東京大学バ リアフ リー支援室、広島大学障害学生支援 ボランティア 活動室等が挙 げ られます。そのほかに筑波大学や 立命館大学 などで、支援制度やボランテ ィア支援 のプログラムがあ ります。

支援 セ ンター (支援室)で その基盤 となってい る考え方の一つ に、ユニバーサルデザイ ンの考え 方が あ ります。 ユニバ ーサルデザイ ンとは、 「す べての人 にとって、で きる限 り利用可能であるよ うに、製品、建物、環境をデザイ ンす ることであ り、 デザイ ンの変更や特別仕様 デザイ ンを必要 と す る もの で あ って は な らな い (without the need for)。 」 と定義 されています (ノースカロラ イナ州立大学 ユニバ ーサルデザイ ンセ ンター)。

そ して、「誰 もが公平 に利用で きること」「使 う上 で 自由度が高 い こと」「使 い方が簡単 です ぐにわ か ること」「 必要 な情報がす ぐに理解で きること」

「ミスや危険 につなが らないこと」「無理 な姿勢を とらないで、少 ない力で も楽に使用で きること」

「アクセス しやすいスペースと大 きさを確保す る こと」のユニバーサルデザイ ン7原 則が示 されて います。

この考えをさらに進 めると、大学教育の充実、

つまり、学生 に対 して直接教育活動 をお こな う大 学教員一人一人 の教育活動 にも及ぶ ことにな りま す。個々の教員が、障害学生 を視野 に入れた授業 内容 ・方法 に向けて改善を図 り、大学全体でそれ ぞれの大学 の教育理念 ・教育 目標がすべての学生 に対 して達成 され るように教育内容 ・方法 につい て組織的な研究 ・研修を実施することが重要になっ て きます。福岡教育大学では、大学 における障害 学生への支援 の充実 をファカルテ ィ ・デ ィベロッ プメン トの一つ として取 り組んでいます。

<発 達障害に特定 された困難 さ>

筆者 は、平成15年度 よ り、全国大学保健管理研 究集会や全国学生相談学会、全国学生相談研究会

議等 において、発達障害学生 に対す る学生相談の 事例を発表 し、修学 に関す る支援 の重要性を提言 して きま したが、当時、実際に困難 さを感 じてい る相談担当者 は非常 に少ないのが実態で した。 し か し、 わずかなが らも、「これ まで うま くいかな か った相談 に中で、発達障害学生がいた可能性が ある」 とい う意見や、「すでに診断 されている学 生 の対応で、通常の学生相談だけではうま くいか ず、学内の事務職、教員、学生の理解 と協力、 そ して、修学 に際 しての特別の配慮が必要だ と感 じ ている」 という意見があったの も事実です。わず か 2〜 3年 前ではあ りますが、教育界では知的障 害 を伴わない軽度発達障害児 ・者が高等教育の場 に入学 して くることを想定で きないのが現状だ っ たといえます。

現在、軽度発達障害 〔 学習障害 :Learning Di sOrder(LD)・注意 欠 陥多動性 障害 :Attention Deficit/Hyperactivity Disorder(ADHD)0 広汎性発達障害 :Pervasive developmental dis―

order(PDD)の 中で知的障害 を伴 わない高機 能 自閉症 :High― functioning Autism(HFA)、

ア ス ペ ル ガ ー症 候 群 :Aspergers Syndrome (AS)〕 のある障害学生の支援 について、独立法 人国立特殊教育研究所等で支援体制 に関す る研究 がすすめ られています。研究所では、小学校 ・中 学校での軽度発達障害児への支援 をその始 まりと して、幼稚園 ・保育所,高 等学校の支援、そ して、

大学 ・短期大学の在籍す る障害学生の修学支援 に 取 り組み始め、 そのガイ ドライ ンを 『 発達障害の ある学生支援 ガイ ドブックー確かな学 びと充実 し た生活をめざ して一』 として発行 しま した。

ガイ ドブックの中か ら、 い くつかの典型的なエ

ピソー ドと彼 らの内面 を記述 し、 そ して、最後 に

筆者が執筆担当 した 『 発達障害のある学生の 「 卒

業」 に向けた支援』 を紹介 したいと思 います。

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ェ ピ ソ ー ド 1:

Aさ んは、入学直後、履修 に関す る手続 き がわか らず、教務係 に質問に行 きま した。

担当の事務員 は丁寧 に教えて くれ、「また、

わか らない ことがあ った らいつで も聞 きに来 て ください」 と言 って くれま した。 Aさ んは 非常 に助か り、困 ったことがあ った らいつで

もここに来ればいいんだ と思 いま した。

翌 日か らA さ んはわか らない ことがあると 教務係へ質問 して くるよ うにな りま した。距 離感がつかめない感 じで、 自分で判断で きそ うなことも聞いて くるので、職員 は戸惑 いを

! 感 じて い ます。       │

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エ ピソー ド2:

B さ ん は高校 までの授 業 とは違 って、大学 は授業担 当者 が 自分 の ペースで どん どん話 を 進 めて い く授業形態 につ いて い くことがで き ません で した。予習 す るのですが、読 む こと に時間がかか り、 い くつ もの授業 の予習 を平 行 してす るに は限界 が あ ります。

試験 も論述式が多 く、時間内に論点を絞 っ て答案を作成す ることが難 しく、結果的に必 修教科 の単位 を落 と して しまいま した。

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エ ピソー ド3:       !

Cさ ん は、大学生 にな って アルバ イ トを始 │ め ま した。 自分 な りに一生懸命 に働 いて い る ! つ もりなのですが、 いつ も店長 か ら注意 され │ て しまいます。 あ る時。 Cさ ん に とって は突 │ 然 、理 由 もな く、 「明 日か ら来 な くて もいい」 │

と解雇 されて しまいま した。         │

11:[│:lil:言 ii祟 [I:31i l わか らない。 たぶん、 い じめだ と思 う。

エピソー ド1の Aさ んは、社会性 ・コミュニケー ションの困難 さを持つ人 たちによ くあるエ ピソー ドです。社会性や コ ミュニケーションの問題 を生 じさせている背景の一つには、その場の状況を理 解す る判断が一般的な社会生活で中心 となる理解 の仕方 と違 うことが挙 げ られます。具体的にエ ピ ソー ドを見ていきま しょう。教務係 は、新入生が 初 めての ことで当然 わか らない と思 われ ることを 教 え ま したが、「また、 わか らない ことがあ った らいつで も聞 きに来て ください」 とい う言葉 は、

本当に字義通 りの意味 もあ りま したが、社交辞令 的な挨拶 としての意味 もそこにはあったわけです。

ですか ら、 その場 には実際的な言葉のや りとりは な くて も、 《あとは、 ほとん ど聞かな くて もわか るだろう》 《学生生活案内をちゃん と見ればわか るはず》 《どうして もわか らなか った ら、聞 きに きなさい》 とい う社会的な暗黙 の了解があ ったわ けです。一般的には、学生 も教務係の言外の意味 を くみ取 っているはずで、 このような非言語的な コ ミュニケー ションが言語的 コ ミュニケーション に平行 してお互 いの間を行 き来す るのが通常の理 解だ といえます。 このような実際の言葉のや りと

りの背景 にある文脈を、社会生活の中で 自然 に学 習す ることが難 しい タイプの人 たちが、軽度発達 障害のある学生 の一つの タイプと してあげ られま す。 このケースでは、周囲の人たちがAさ んの距 離感 のなさにス トーカー的な異常性を感 じ、精神 障害の可能性 を疑 って相談担当者 に相談 に訪れ る 場合があるよ うです。 Aさ ん 自身 にはそのよ うな 認識 はまった くな く、親切な教務係 に対 して全面 的な信頼 を もち、教務係の戸惑 いを察す ることも で きず、 これまで通 りに頻繁 に質問に来続 けるわ けです。

エ ピソー ド2の Bさ んは、知的な遅れはないの ですが、読む ことやまとめることに時間がかか り、

聞いた り書 いた りまとめた りとい うことを同時並 行的に実行す ることが難 しいタイプの人たちによ くあ るエ ピソー ドです。高等学校 までは、教員が 教科書や資料、補助教材や視覚教材等 を効果的に 使用 し、授業 を組み立てて くれます。 また、定期

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的なテス トで こまめに到達度を確認 し、補習授業 などで補 って くれ るシステムがあ ります。生徒の 側か らすれば学校 でわか らない場合、塾や家庭教 師で弱点を補 い、通信教育等でさらに補充す るこ とも可能です。つ まり、同 じ教科 の内容を、学校 と塾、家庭教師 という複数の学習形態 により繰 り 返 し指導 され ることにな り、一度の機会で習得す ることが難 しい生徒 も、繰 り返 しの中で定着す る 可能性が多 くな ります。

大学ではそ うい うわけにはいきません。授業時 間 は90分。専門分野や教員の特性 に応 じて授業 の 形態 はまった く異 なるのが普通です。 しか し、 た とえば 「 読 む こと」が不得意 な学生 の場合、非常 に難 しい状況がお きて きます。当た り前 の ことか もしれませんが、大学で必要 な ことをすべて教員 が教えて くれ るのではな く、 自分で情報 を集めて 学ぶ ことが期待 されます。専攻 によ って は多 くの 文献を読 む ことが要求 され るで しょう。授業だけ でな く大学制度 の理解 や、 事務手続 きの場合 も

「 読 む」 力が求 め られます。高校時代 のよ うにク ラス単位で学級担任が親切 に指導 して くれ るわけ ではないので、 自分で資料を読み、対処 しなけれ ばな らない場合 もあ ります。読み障害のある大学 生 は、知的能力が低 くて理解できないのではな く、

「 読 む」 とい う手段 を用 いて情報 を取 り入れ る部 分が困難 なのです。 そのため、同 じ内容を耳で聞 けば問題 な く理解で きる場合があ り、 その機会が ないために困難 に直面 している場合があ ります。

エ ピソー ド3の Cさ んは、 自分の行動や生活上 の様々な事柄 を うま く調整 し、現実的な生活を円 滑 に送 ることに非常 に困難 さを持つ タイプの人 た ちです。大学生活 は必要な単位の授業科 目を選択 す るところか ら始 ま り、履修届を提出 し、授業 に 間に合 うよ うに出席 しなければな りません。 サー クルに入れば、練習時間を確保 しなければな らず、

アルバイ トや コンパを合間に入れ、 そ して、一人 暮 らしを していれば洗濯、掃除、食事、 ゴ ミ出 し 等 の 日常生活 を こなさな くてはな りません。 この よ うに言 うと、「そんな ことは、一人暮 らしをす れば誰で も直面す る困難 さであ って、特 に問題 に

はな らない」 と言 う人が多 いで しょう。 この言葉 には、 く誰で もや っているのに、 なぜで きないの か。努力や工夫が足 りないん じゃないの ?そ の程 度の ことをで きない理由にす るなんて…〉 という よ うに意見を した くなる気持 ちが ともなって きま す。

前述 した 「 発達障害のある学生支援 ガイ ドブッ ク」 には、実際に診断を受 けたご本人が、実名で その困難 さの実態を紹介 しています。大学 3年 生 の時にADHDと 診断を受 けたMさ んは、 ご自身 の困難 さを他者 にわか って もらうことの困難 さを 次のよ うに表現 しています。

『じっと座 って先生 の話を聴 き続 けることがつ らい、忘れ物やな くし物が多い、 あるいは期 日ま でに課題 を仕上 げるのが難 しい、 といった ことを 説明す ると、 ほとん どの場合 「 誰 で もそ うい うこ とはあるん じゃないの ?」 と言われて しまいます。

相手 は 「 誰 にで もあることだか ら、心配す ること はないよ」 と、励 ま して くれているのだと思 いま すが、 ADHDを 持つ私 の場合、 このような誰 に で も起 こりうる問題が、通常 よりはるかに頻繁か つ深刻な形で起 こるために困 り果てているのです。』

この 「 誰 にで もあること」が、通常 の回数 をは るかに超えて、 ほとん どすべての事柄 において起 こって しまうとした ら、本人の苦 しさは非常 に大 きな ものにな ります。Mさ んの大学生活では、や はり履修登録や奨学金関連の書類の提出を忘れる、

間違 える、覚えていたけど当 日になって必要 な書 類がそろっていなか ったなどで、背景 には、予定 管理の能力、実際に実行 に移す際の行動企画が難 しか ったよ うです。 このよ うなことがたびたび起 こると、実際の生活 に支障をきたす ことはもちろ ん、他者か ら信用 されな くな り、 自分 自身 として も情 けな くて 自己否定感が強 くな ります。幼 い頃 にこのよ うな体験 をす ると、 自己防衛的になった り、不安や孤独感を強 くもって しまう場合 もあり、

年長 になるにつれ失敗 した くないあまりに、社会 生活か ら退却 した くなる人 もいるようです。

Mさ ん は、 さらにこのよ うに続 けています。

『障害を説明 した相手 に 「 誰で もそ うだよ」 と

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言われて しまうと、やはり 「 十分理解 して もらえ なか った」 という印象 を持 たざるを得 ません。私 は相手の こうした反応 に戸惑 い、 ADHDが 障害 であることを何 とか理解 して もらお うとし、脳の 生来的な問題か ら起 こっていることや、症状の改 善のために薬を飲んでいることを話 しま した。 し か し、障害 としてのADHDを 強調 しす ぎたこと で、今度 は相手が引いて しまう形 にな り、 よけい な不安 を与えるだけの結果 に終わ って しまいま し た。

こうした経験か ら、私 は特 に必要がない限 り、

自分か らはADHDの ことを話 さないよ うに して います。 しか し、 もう数年 してADHDと い う言 葉が もっと一般的にな って くれれば、 もっと楽 に 話せ るよ うになると思 っています。』

Mさ んの言葉か ら、F困難 さ』 を 「誰で もあ る こと」 と理解 され るの も、 「障害」 と理解 され る の も、本人 の実感 にフィッ トしないばか りか、わ か って もらえないむな しさと孤独感が強まるだけ になることが伝わ って きます。

筆者が発達障害学生の相談 を受 けていて、上述 のMさ ん と同様の訴えを聞 くことがあ ります。 自 分 にはで きない ことが、一般 の学生 は事 もなげに で きている、友人が ごく普通 に学生生活 を送 り、

忙 しさをむ しろ楽 しんでいるように見え るのに、

自分 は授業 に行 くことす ら手間取 って しま うし、

サークル と授業の 日程調整がで きずに、当た り前 の ことがで きない。そ ういう自分が情 けな くて仕 方 ありません。高校生 まで困難 さを感 じなが らも、

まじめさと繰 り返 しで、一生懸命に学校生活を送 っ て きた人たちが多いのですが、大学 に来て、「いっ たい、 自分の何がよ くないのか。 なぜ、普通の こ とがで きないのか」 とい う自分 に対す る漠然 とし たわか らなさに、途方 に暮れているというところ が実感なのではないで しょうか。

筆者 は、軽度発達障害の臨床像を 「障害」 とい う枠組みで描 くことに違和感を感 じています。 た しかに、社会生活を送 る上での困難 さは大 きく、

周囲の理解がないと本人の困難 さは解決 されない ばか りか、その特性がより強調 した形で顕在化 し

て しまい、周囲 との関係性が さらに悪化 した り、

本人が精神的な問題や社会的な問題 を引 き起 こす 場合 もあります。 しか しなが ら、一般的に 「 障害」

のある人を治療 ・教育 してい くときに、 その 「障 害」の部分 に特化 した指導をお こなわれやす く、

本人のためとい う名 目で、行動統制 プログラムが 施 されることが多 いよ うに思 います。現実生活を 送 る上で、修正 してい くべ きことは多いと思 いま すが、その前 に、『本人が困難 と感 じること』 と、

『私 たちが、彼 らが困難 と思 うこと=障 害』 が、

実際 に実感 としてイコールなのか という疑間につ いて考えてみたいと思 っています。『混沌 と した 自分 に対す るわか らなさ』 を、『自分』 か ら少 し 距離 を置 いた ところに置 き、『自分 にあ る 《 混沌 と したわか らなさ》の正体』 を、『自分』が少 し で も学校生活を過 ごしやす くす るために工夫 して いこうとす るイメージを持 って向 き合 う方が、何 とな くぴ った りす るよ うな気が しているのです。

それを 「障害」 というのだろうか とい う問いかけ を、 いつ も心の片隅に置 きなが ら、彼 らの困難 さ に耳 を傾 けていると、 もっとぴ った りす る表 し方 があるのではないだろうかという思いがわき上がっ て くるのです。

<本 人からのメ ッセージ :ニ キ リンコ氏の場合 >

ニキ リンコ氏 は、成人 になってか ら広義の自閉 症の うちの言語発達 に遅れのないサブタイプ、 ア スペルガー症候群 とい う診断を受 けた女性です。

氏 は、「障害学の主張」 (明石書店)で 「自閉」 と、

その困難 さについて興味深 い記述を しています。

以下、彼女 の記述を通 して、「障害」 と 「困難 さ」

について、考えていきたいと思 います。

彼女 は本書の中で 「自閉症」か ら 「 症」 とい う 文字 をあえて外 して、持論 を展開 しています。

「自閉」 とい う用語 を広義 の autismの 意味で 用 い、 「症 」 とい う文 字 を あ え て はず の は、

autismは 障害で はあ って も疾患で はない と考 え

るか らである。重複障害の治療、心身の機能を高

める訓練 など 「状態のよい自閉者」 になるための

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手助 けは有益だが、 自閉その ものは病気ではない と考える筆者 にとって、 自分の原稿の中でまで、

疾患を連想 させ る 「 症」 という字が含 まれ る用語 を使 うのは愉快 な もので はない。 もちろん、「自 閉症」が正 しい用語 なので、必要な場面では当然 そち らを使 うが、本稿では、引用部分を除 き、筆 者 自身 に苦痛 の少 ない 「自閉」 を用 いる。

もう一つの理 由は、 スペク トラムの中で も最 も 健常 に近 い人 たち、お、 だんは特 に援助を必要 とせ ず、 自立生活が送れ る人たちを排除 しないためで ある。 自閉 とは連続的な ものなので、非常 に軽度 の人々は、次第 に 「ち ょっと偏 った健常者」の中 へ と溶 け込んで消えてい く。つまり、 この世界に は、 自閉的セ ンスや嗜好を共有 しなが らも、それ がひどい障害 にはなっていない人々がた くさんい ることになる。生活 にひどい支障が出ていない以 上、診断など臨床場面では障害 と区別す る必要が ある。 しか し、 セ ンスや嗜好 の近 さ、当人の帰属 意識 などは、機能 レベルとは独立の問題だ し、臨 床家 に線引 きを委ね る必要があるとは思えない。

(「 障害学 の主張」P180)

この感覚 は、筆者の軽度発達障害児 ・者 との臨 床場面 で感 じる感覚 と非常 に近 い ものであ り、

「障害」 や 「治療」、「指導 プ ログラム」 に対す る 違和感に納得する説明がされたように感 じました。

私 たちが 「自閉」 とみ る世界がまった く異質 な世 界 ではな く、連続体 と して、 「自閉的な傾向があ る」 セ ンスや嗜好が存在す ると考えるのです。大 切 なことは、生活 にひどい支障が出ないような手 助 けをす ることであ り、「自閉」 を治す ことでは ないというメッセージ性を感 じることがで きます。

「ガイ ドブック」 や 「支援 システム」 を考えてい く場合、前提 として確認 しておきたい視点だ と思 います。

さて、ニキ リンコ氏 は 「自閉」の 「 社会的問題」

について も次のように説明 しています。

性 の問題が中核で、最 も重要だと言われている。

確かに客観的に見れば、私 たちが壁 に突 き当たる 原因は社会性の障害であることが多い し、社会性 の障害は結果 も重篤なものになりやすい。 しか し、

これは援助者 の視点 であ り、当人ねヽ 最 も切実 ′ ご感 じている問題カミ 必 ず しも客観的 に大 きな問題 を

;は 起 こす症状 と一致 するとはか ぎらない。たと えば、社会性の障害 とは対人関係の問題である以 上、主 として相手のある場面で しか問題が起 こら ない。 しか し、認知や注意力の特性、気分の変動、

こだわ りなどは、相手がいようと一人だろうと関 係 な く、意識がある限 り常 につ きまとう。 自閉者 本人 は,時 た りとも自閉者仕様の身体 ・脳を離れ て生活す ることはないのだか ら、相手のいるとき しか問題 の起 こらない 「社会性 の障害」 は、 (た とえ苦痛 にな っていて も)一 番基本的な問題 とは 感 じられない こともある。対人関係の失敗 も、失 敗 の原因が 自分 にあると気づいていない人や、そ もそ も対人関係を欲 していない人 にとっては、 い くら苦痛ではあって も他人事である。

「 症状」とは、ケアに当たる立場の人々が、我々 の能力の凹凸を見て、援助の必要 な分野を特定 し よ うとい う動機で切 り取 った ものである以上、適 応上不利になる性質に偏るのは自然なことで、ニュー トラルな性質 は優先度が低 いのであま り話題 にの ぼ らない。一方、 自開症者本人 は、 自分 の能力 の 四凸 と四六 時中つきあ っている し、主観的 にはそ れを標準 と感 じている。 どの部分が障害でどの部 分がそ うでないか とい うのは、周囲 との比較で初 めて決 まることが多 い。 自閉 とは、自ヒカ だ `

けに影 響 する ものではな く、興味 ・関 己ヽ のあ りかた、意 欲 や嗜好 ′ ごも影響 する。 つまり、価値観や優先/1F 位 も既 に自閉 の影響を受 けている。援助者が自閉 児 ・者を見れば、症状ばか りが浮 き上が って見え るのか もしれない し、症状 はどれ も等価 に見える か もしれないが、当人の実感 はそれ とは違 ってい るか もしれない。 (「 障害学の主張」P181‑183)

「自閉」 は Wingの 三つ組 みの中で も、 社会 このような内的世界の記述を見 るにつ け、私 た

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ちが彼 らの何 を 「援助」 しなければな らないのか を、真摯 に考え直す必要があるといわざるを得 ま せん。私 たちが考える 「社会性の障害」 は、誰 に とっての 「 社会性の障害」 なので しょうか。彼 ら が大学生活を送 る上で、私 たちが感 じる困難 さが やは り 「 社会性の問題」だ とした ら、 どこをどの よ うに援助す る必要があるので しょうか。

現在、学生相談担当者が、 さまざまな支援の仕 方を提案 しています。 その中には、 ソー シャルス キル トレーニ ング (SST)を 適用 し、相談 に訪 れ る学生 に施行 しているものを目にす ることがあ ります。 たとえば、次のような事例があ ります。

「理ふ属罫:更 :可 瓦 ・

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ク しないので、 「部屋 にはいるときには ドア を ノ ックす るのがマナーです。」 と指導 し、

部屋の外 に出て入 り直 しをさせ る。次回の面 接時 に同 じ失敗 を した ら、再度部屋 に入 り直

i土 .聾 二l」 萱il望 .■ ¨ 二"̲̲ ̲"」

学生の実感 とか け離れた SSTは 、彼 らにとっ てその必要性す ら伝わることはあ りません。実際 に、 たとえノックをす ることがで きて も、相談室 以外の人を訪れるときに、 その部屋の ドアをち ゃ ん とノ ックで きるよ うになるか とい うとそ うで も ないのです。彼 らは、そ こで 自分への評価が低 く なることが怖 いのではあ りません。  ド アの向 こう にいる人 との交流の中で、 うま くや っていけない ことに困難 さを感 じて い るのです。 援助者 が、

「まずは、出会いの始めが大切だか ら、 ドアをノッ クす るところか ら指導 しよう」 と思 うことは、今 の本人 には必要のないこと、必要性の意味が見 い だせないことになるだけで しょう。

本人がその 「 生 きに くさ」 をソーシャルスキル の欠落だけで感 じているわけではな く、 さまざま な内部感覚や こだわ りもその基盤 にあ り、社会的 に もわか らないことが多 いという不安 に混乱 して いる可能性 も想像で きる支援者であ りたい もので す。

<社 会性 ・コミュニケーシ ョンに困難 さを感 じて いる学生支援 >

次 に、「 発達障害のある学生支援 ガイ ドブック」

で、筆者が担当 した 『 卒業や就労 ・進学への支援 一 論文の作成、卒業に向けた支援 一』を紹介 します。

ここでは、卒業論文作成 とい う場 を通 して、本人 が感 じる困難 さを本人の視点で解釈 し、援助者 は その内的世界を共感的に理解す ることの重要性 を 指摘 しています。 また、心理面接では本人の困難 さを明確 に した後、それを二人の共通課題 として 認識 し、一緒 に適応的な振 る舞 いがで きるような 方策 を考え、実行 してい く行動 マネー ジメ ン トが 必要であることを提案 しています。

《論文の作成、卒業 に向けた支援》

卒論 には、 これまでの大学生活 にはなか った課 題があ ります。学生 に とって、「卒業論文 を仕上 げてい く」プロセス自体がはっきりわか らないこ とのようです。支援す る側 は日常的な支援 に加え て、卒論を仕上げていくプロセスを段階的にサポー トしてい くためのプログラムを準備 しなければな りません。発達障害のある学生が卒業論文作成 に 向けて困難を示す事柄 には、次のよ うな ことが考 え られます。

1.卒 論 に関す る知識 ・到達 目標

・これまでの レポー トとの違いがわか らない

・卒論 に取 り組む予定を立てることがで きな

ヽヽ

・卒論のテーマを絞 りきれない (決め られな い)

2.意 欲や集中力の持続

・ゼ ミや教員の個別指導の日時を忘れる、あ るいは遅刻す る

・授業やサークル、 アルバイ ト等、他の活動 との調整がで きない

・とりかかるまでに時間がかかる

。関心がさまざまに拡が り、卒論に集中でき ない

。卒業後のことがJと ヽ 配 にな り、就職活動 との

優先順位が混乱す る

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こだわ り、先 に進 めな くな る

0す るべ きことよ りも、気 にな った ことを優 先 して しま う

。教員 の曖昧 な表現が読 み とれず、 自分 が何 を求 め られてい るのかわか らない

・行 き詰 ま った時、再考 し手 直 しせず、 これ まで の積 み上 げを ご破算 にす る

4.気 持 ちの コ ン トロール

・自分 が思 ってい るよ りもで きない ことに絶 望 す る

・教員 の注意 や叱責 にパ ニ ックにな り、混乱 した態度 を とる

・鬱的 にな り、 これ までの慢性 的 な 自己不全 感 が再燃 す る

・被害感 が強 くな り、 対人 的 な混乱 (関係 妄想 様)を 示 し、 引 きこ もる  等

これ らの困難 な状況 に対 して、三 つ の支援 の ポ イ ン トをま とめてみ ます。

(1) 卒 業論文 を仕上 げ るまでの契約 を結 ぶ まず、学生 と支援者 が卒業 を 目標 と した卒論作 成 に最後 まで取 り組 む ことを約束 します。 この先 困難 な ことが あ って も必 ず書 くとい う約束 を し、

その上 で支援者 はで きる限 りのサ ポー トを行 う契 約 をす るのです。卒論 を書 き上 げる過程 で、彼 ら が本質 的 に持 って い る困難 さに直面 す る可能性 が で て きます。 その時 に これ までの よ うに うろたえ パ ニ ックにな って しま うので はな く、適応 的 に行 動 し解 決 して い くとい う望 ま しい 自己像 を築 いて い くのです。卒論 とい う課題 を学生 と支援者 が共 有 し、彼 らの困難 さを二人 の間の共通課題 と して 外 在化 させ ます。 その中で彼 らは自分 の問題 を客 観 的 に捉 え、対処方法 を冷静 に考 え る ことがで き ます。 つ ま り、 自己理解 をすす め る作業 が行 われ て い るのです。卒論作成 は大学生活 の締 め くくり と して、 また将来 の社会 的 自立 に向 けたよい課題 といえ るで しょう。

学 生 に は、 「自分 は卒 論 を書 く」 とい うは っき

す。卒論のテーマを決 める時や、段階的な課題 を 解決 してい く時、 やや もすれば学生 は大 きな目標 を忘れ、課題 に取 り組む ことを引 き延ば した り、

だんだん 目標か らずれていって しまった りしまい がちです。 このような場合、支援者 は学生 に、そ のようにな っている自分への自覚 を促す話 し合 い を し、本来の目標 に軌道修正を していきます。

このような支援 は、卒論が仕上が る直前 まで行 われます。学生 は少 しのス トレスで精神的に動揺 して しまい目標への努力が停止 して しまいます。

たとえば、ゼ ミで、「この点 については調べなか っ たの ?」 と言われ ると、それだけで無力な自分を 責 め られたように感 じ、質問の意味が理解で きず にうろたえパ ニ ックにな り、卒論が書 けないと諦 めて しまいます。 あるいは、後悔の念 ばか りが′ い を占めることもあ ります。 さらには、「卒論のテー マを変えれば解決する」 と、 これまで積み上げて きたことをご破算 に しようとした りします。支援 者 は、彼 らの目標への意識を常 に目覚めさせ、継 続 して取 り組むよ う自覚 を促す必要があ ります。

(2) 長 期的な支援

長期的 な支援 には、 (a)漠然 と した疑問や発想 を確実 に結果の出るテーマに してい く,(b)卒 業 論文 を仕上 げるとい うことについて、大 まかな活 動を時系列で把握す るという 2点 があ ります。学 生が テーマに選ぶ ものは、 自分の中の小 さな疑問 や発想か ら出発 しています。それ は彼 ら特有の内 的動機か ら生 じている性質上、ユニークな点 に気 づいたと高 い評価 を受 けることがあ ります。 とこ ろが、学生 にとってそれを客観的、科学的に組み 立てて論 じる作業 は、 自分 にとって意味のないこ とである場合が多 いのです。む しろ、 自分が大切 に したいと思 う重要 な部分が、消 されてい くよう な違和感を もつ こともあるようです。

<事 例 :Aさ ん >

資料や参考文献 を見て も、 その人が書 いた文

章 を自分 もその人 と同 じように百パ ーセ ン ト考

(9)

えているのか と疑間に思 う。で も、 エ ッセイの ようになるのは、私的で駄 目なような気がする。

直感でテーマが生 まれたせいか、淡々と論 じて、

へんに収 まって しまうのは違 う感 じがす る。

<事 例 :Bさ ん >

文章 に してい くよ りも絵や図で書 いた方が簡 単。ぱっと見た感 じで理解できるし表現できる。

それをどうして言われ ると、 ものす ごくつま ら な くなる。先生 には絵で描 いたのを持 ってい っ てそれを文章 に して もらう。 先生 は、 淡 々 と

「これは何で ?」 「これはこうして書いて」 と言 っ て くれ る。私 としてはつま らな くなるし、私が

したか った ことではないと感 じる。

このよ うな場合、 まず彼 らの卒論への動機を十 分 に聞 きます。彼 らがテーマに したか ったことは、

彼 ら独特 の視点であ り世 の中への関心 の示 し方で もあ ります。 そこか ら見えて くる彼 らの内的世界 を支援者 自身 も気持 ちを沿わせて捉えてみ ると、

彼 らが自分の内的世界 と社会生活の狭間で感 じて いる気づ きや疑間が見えて くることがあ ります。

そ こに支援者が 自己一致 しなが ら聞いてい くと、

学生 は共感的に受 け止 め られたとい う感覚を持 ち ます。 この ことは彼 らの大 きな自信 にな ります。

このよ うな過程 を経て、学生 はようや く卒論 と い う作業を、 自分の こだわ りか ら少 し解放 された ところで受 け止 めていきます。 テーマが論文 とし て形 を整えてい くために、何を していかねばな ら ないかのかを学3劫らヽ の準備ができたといえるで しょ う。指導教官 との連携がで きる学生 は、学生の困 難 さを伝えます。学生本人の了解 を求め、誰 (本 人あるいは、支援者)が 、 どのような伝え方 をす るか (診断名を告 げるか、別の説明の仕方をす る か)と い う点 について も具体的に話 し合 います。

<Cさ んの指導教員の言葉 >

Cさ んは、漠然 とした疑間を明 らかにす るた めにどのような手続 きで論文を書 いていった ら よいのかわか らなか ったよ うなので、「疑間 は 疑問 としてわか るが、 テーマをで きるだけ絞 っ

て小 さくて もいいか ら確実 に結果を出すのが論 文だ」 と終始伝えるよ うに努 めま した。課題を 話 し合 い、 日を決 めて研究室 に結果を もって く るように言 いま したが、課題がで きないと来な いので、会 う約束を した日には課題がで きてい な くて も来 るようにと約束 を し直 しま した。手 取 り足取 りの指導 にな りま した。

卒論の進 め方 は、指導教官や専門分野 によ って 異 なる場合があ ります。学生 と支援者 はず緒 に大 まかな計画を確認 します。 ゼ ミの 日程 と個別 に指 導 を受 ける日程をカ レンダーに書 き込み、卒論 を 仕上 げるとい うプロセスを継次的 に捉 え るよ うに

していきます

(3) 短 期的な支援

実際の 日常的な支援 は、週一回のペースで定期 的 に行 います。大 き分 けて、 (a)よ り具体 的で実 際的 な行動 へのアプ ローチ と(b)突発的な気分 の 揺れ に対す るカウンセ リングがあ ります。学生 は 相談 日を忘れた り、間違 えた りす ることがあ りま す。面接 の枠組みが定 ま らな くて も、支援者 は、

「 遅れて もいいか ら来 る」「 忘れたことに気づいた らす ぐに連絡 をす る」 ことを約束 し、学生 とのつ なが りが切れないように します。短時間で もかま わないので、短 い周期で時間を決めて面接を継続 していきます。 より具体的で実際的な行動へのア プ ローチは、学生の特徴 によって さまざまなケー スが考え られます。期 日を守 るとか、忘れないよ うに手帳に書 く、あるいは携帯電話 に登録 してア ラームがなるように してお くとか、指導教官か ら の課題の指示を記録するなど、ワーキングメモ リー の問題を補 うための方法を学生 と一緒 に取 り決め ます。 これまでどのような方法で失敗 してきたか、

どのよ うな方法だ った ら成功 したかを聞 き、本人 が一番や りやすい方法を考えてい くのです。

<Dさ んがパ ニ ックになったとき>

指導教官 に会 う約束 の時間に間 に合 わなか っ

たとき、頭の中に一気 にた くさんの ことが出す

(10)

ボロでて きて 自分の行動 しがちな方向にか き混 ぜ られてい く。我慢が きかな くなる。

このような感覚 を持つ学生 に支援者 は、彼 らの 制御 しがたい情動 をわか り、そのようにな ったと きどうすれば適切な行動 をす ることがで きるかを 一緒に考えます。 こだわりを抑えて行動するとか、

失敗 したときのパニ ックを コン トロールするのは、

かな りのエネルギーを使 うようです。 まさに自分 との葛藤です。気 になるところがあると先 に進 ま ず、 さ らにこだわ って追求 した くなるとい うDさ ん は、次のよ うな手段で解決 したといいます。

<Dさ んの対処法 >

卒論で言葉の言い回 しが気になり始めま した。

どん どん言葉のニュア ンスにこだわ り、先 に進 めな くな ったので、パ ソコンの画面でイ ンター ネ ッ トを開いて言葉 の検索 を し気分転換を しま した。卒論のページをいったん縮小 させるのが、

私の こだわ りを縮小 させ ることにつなが りま し た。気持 ちの切 り替えがで きた ら、卒論 の画面 を拡大 して卒論作成 に戻 ることがで きま した。

頭 の中で、映像 として コラージュのように一気 に浮かんで くるものを、いきな り順序立てて整理 す るように言 って も実際的ではあ りません。映像 として一つずつ縮小 して、順番に並べ直す作業を していけばよいのです。 このように対処法 は非常 に個別的です。困難 さを共有 し、 その学生 に合 っ た方法を一緒 に考えてい く支援が必要です。

<終 わ りに>

発達障害学生の様々な困難 さは生活全般 にわた りますが、大学生活の ごく一部である卒業論文 を め ぐる中で も、発達障害学生の困難 さを際だたせ る問題が見えてきます。卒業論文を仕上 げるとい う過程で、彼 らが本質的に もっている生 きに くさ に直面す る場面があるのです。発達障害学生への 援助 は、①心理療法、②行動マネー ジメン ト、③ 大学の援助 システムの構築の三点 に集約 されるで しょう。彼 らのこれまでの 「生 きに くさ」 を言語 化す る場 は、何 よ りも大 きな意味を持 ちます。 ざ まざまな困難 さが あ った と して も、 その中で も

「よ りよ く生 きたい」 とい う願 いを もって、 自分 な りに努力 して きたことを確認す る作業で もあ り ます。そ して、 これまで うま くいかなか ったけれ ど、今後 もそのような結果 に しかな らないのでは な く、必ず うま くい く方策 はあることを伝えます。

つ ま り、「自分 の人生」 に対する肯定感 と、未来 への希望を話 し合いの中で見いだ してい くのです。

行動マネー ジメン トは、お互 いの信頼関係 と自分

(11)

に対す る希望が失わなければ、根気強 く継続的に お こな うことで、比較的容易 にお こな うことがで きるよ うにな ります。

最後 に、 これか らの課題 として考えなければな らないのは、③大学 の援助 システムの構築 に関す ることにな ります。前述 したように、障害学生へ の修学支援 は、 そのほとん どが視覚障害、聴覚障 害、身体障害 に対象が限定 されてお り、発達障害 学生への支援 はその他の障害 に準 じる形で示 され ているだけで、本来の特性 に応 じたきめ細やかな 支援 について検討 されてはいません。おそ らく、

入学後 に諸手続 に始 まって、履修届 けの提出、授 業の選択、それぞれの授業形態 に即 した受講態度 か ら、 日常的な生活 に関す ることなど、学生が困 難 さを感 じる機会が大学生活にはあS、れています。

まず は、 「軽度発達障害」 についての啓蒙 を図 り、 これまでの障害学生 の支援 システムの対象を 拡 げることが必要です。他 の障害学生 の理解 ・啓 蒙 と同様のスタイルで支援が進む性質 の ものでは ないか もしれませんが、少 な くとも、そのような 内的世界を持つ人が存在す るとい うこと、 その困 難 さは目には見えないけれど、存在 に関わ るほど の重大な ものであることは理解可能で しょう。大 学教育全体 に関わる問題 として捉え、すべての シ ステムを見直 してい くことを期待 したいと思いま す。

現在の ところ、障害告知 を受 けた学生が入学 し て くることは少ないのですが、近い将来、小 0中 ・ 高等学校の段階で診断を受 けた人が入学 して くる

ことになるで しょう。 これまでの障害学生の入学 に準 じた対応だけでは、彼 らの障害特性 に応 じる ことはで きないと思われます。筆者 は学生相談 の 立場か ら、発達障害学生 の支援の一端を担 い、不 可分であ り連動す るべ き大学教育 と学生支援の体 制づ くりを提言 していきたい と考えています。

<参 考文献 ・引用文献 >

・小塩允護、徳永豊、佐藤克敏、福田真也、大泉 博、高橋千音、篠田晴男、西村優紀美、望月葉

子、岩 田淳子、神山忠、松本太一 (2005):発 達障害のある学生支援 ガイ ドブックー大学 にお ける支援体制の構築をめざ して一。 ジアース教 育新社.

0石 川准、倉本智明 (編著)(2002):障 害学の主 張。明石書店.

・大阪大学 ホームページより障害学生支援室の項 目を抜粋

・日本福祉大学 ホームページより障害学生支援セ ンターに関す る解説を抜粋

・岩田淳子、小林弥生、関真利子、杉田祐美子、

福 田真也 :発達障害の学生への理解 と対応 に関

す る研究,学 生相談研究,25‑1,2004.

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参照

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