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RIETI - 仕事に関する「強み」自認の規定要因と効果-「30代ワークスタイル調査」の分析より-

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RIETI Discussion Paper Series 14-J-014

仕事に関する「強み」自認の規定要因と効果

−「30代ワークスタイル調査」の分析より−

本田 由紀

東京大学

独立行政法人経済産業研究所 http://www.rieti.go.jp/jp/

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RIETI Discussion Paper Series 14-J-014 2014 年 3 月

仕事に関する「強み」自認の規定要因と効果

―「30 代ワークスタイル調査」の分析より―

1 本田由紀(東京大学) 要 旨 本稿は、仕事をめぐる「強み」の自認に焦点を当てる。(1)「強み」の内容、(2)「強 み」の形成機会、(3)「強み」を自認する層の属性、(4)「強み」自認と他の仕事意 識との関連、という 4 つの RQ に対し、労働政策研究・研修機構が 2011 年に実施 した「30 代ワークスタイル調査」を用いて、男女差に留意しつつ検討を加えた。 主な知見は以下である。(1) 自認された「強み」は「スキル・資格」と「対人能力・ 行動様式」に大別される。(2)「強み」は職場で形成される場合が多いが「スキル・ 資格」は特に女性の場合に教育機関などでも形成されやすい。(3)「対人能力・行 動様式」は男性では長時間労働者や管理・事務・サービス・販売の職種で、女性 では低収入層で自認率が高いのに対し、「スキル・資格」は男女とも専門・技術職 で自認率が高く、特に女性では高等教育経験者や高収入層で自認率が高い。(4)「対 人能力・行動様式」は男性では「栄達」志向、女性では「フリーター」志向と関 連が強く、「スキル・資格」は「専門・貢献」志向や「順調」意識と関連が強い。 以上より、特に女性のキャリア形成にとって、「スキル・資格」という「強み」の 自認が有効であることが示唆された。 キーワード:強み、スキル・資格、対人能力・行動様式、女性 JEL classification: J24 RIETI ディスカッション・ペーパーは、専門論文の形式でまとめられた研究成果を公開し、活発な議 論を喚起することを目的としています。論文に述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するもの であり、所属する組織及び(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。 1本稿は、(独)経済産業研究所における研究プロジェクト「労働市場制度改革」の「人的資本・人材改革 研究会」の成果の一部である。本稿の分析に当たって「30 代ワークスタイル調査」データの提供を受けた ことにつき、労働政策研究・研修機構の関係者に感謝する。また、本稿の原案に対して、鶴光太郎教授(慶 応義塾大学)ならびに経済産業研究所ディスカッション・ペーパー検討会出席の方々から多くの有益なコ メントを頂いた。

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1 1.問題関心―仕事に関する「強み」を自認することの意味― 1990 年代初頭のバブル経済崩壊以降、日本の労働市場において、非正規労働者の増加、 賃金水準の低迷、正規労働者の一部の「ブラック」化など、総じて労働条件の劣悪化が生 じてきたことは周知の通りである。この問題に対しては、労働関係法規の整備や雇用創出 といった労働需要側への対策が必要であることはむろんであるが、それと並行して労働供 給側への対策、すなわち人材育成も求められる。少子高齢化の進行により生産年齢人口が 減少しつつあることからも、非労働力の就労促進と、個々の労働者のエンパワーの必要性 が今後いっそう高まることは確実であると考えられる2 労働者のエンパワーに関して、筆者はこれまで労働市場における個人の〈抵抗〉と〈適 応〉との両面が重要であることを指摘してきた(本田2009)。〈抵抗〉とは、職場や労働市 場の諸問題を認識し、是正してゆく姿勢とノウハウのことを意味している。これに関して、 2013 年には「ブラック企業」(今野 2012)が政策的にも問題視され、労働相談や実態把握 などに一定の進展が見られたことは望ましいことであり、いっそう対策が拡充されること が期待される。他方の〈適応〉とは、職場や労働市場において個人が有能さを発揮しうる ことを意味しており、まさに人材育成という主題と重なる。 本稿では、この〈適応〉面でのエンパワーの現状分析を試みる。その際に、個々の労働 者が仕事面での自らの「強み」をどのように自認しているかということを、メインクエス チョンに据える。次節で述べるように、この観点は個々人の主観性を重視するアプローチ であり、個々人の労働市場価値を客観的に測定するというアプローチとは一線を画してい るが、不確実性やリスクの高まる現代においては固有の利点をもつものである。このメイ ンクエスチョンの下位に、次の4 つのリサーチクエスチョンを設定する。 RQ1 仕事に関して自認された「強み」にはどのような類型が見出されるか。 RQ2 仕事に関して自認された「強み」はどこで身につけられているか。 RQ3 仕事に関する「強み」を自認しているのはどのような層か。 RQ4 仕事に関する「強み」を自認することは、他のどのような仕事意識と関連してい るか。 以下の本稿では、第2 節で先行研究を検討し、第 3 節で使用するデータと変数を説明す る。第4 節で上記 4 つのリサーチクエスチョンの分析を行い、第 5 節では知見をまとめ考 察を加える。 2.先行研究と本分析の独自性 労働市場における個人の有能さの度合いを検証する研究には、膨大な蓄積がある。しか し、人間の「能力」の本質的な測り難さ(広田2011)を原因として、これまでの研究蓄積 2 このように述べることは、疾患や障害等により就労困難な人々に就労を強要することを肯 定しているのではない。日本ではきわめて手薄いセーフティネットの拡充が重要な課題で あることは自明である。

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2 には、その膨大さにもかかわらず、何を以て「能力」の客観的な指標とするかに関する不 透明さがつきまとってきた。 すなわち、一方には教育年数等を個人の「能力」の代理指標とみなして所得等の従属変 数との関連を問う研究群があり、他方には所得を個人の労働市場価値(≒「能力」)の代理 指標とみなしてそれを規定する要因を探る研究群が存在するが、両者を明確に区別してい ない研究群も数多く見られる。 たとえば、Becker(1964)以来、多数の研究蓄積をもつ人的資本論は、教育投資を人的 資本(≒「能力」)の代理指標とみなし、所得を人的資本に対する投資から得られる収益と みなす。人的資本論に基づいて教育の収益率を計測する研究は日本でも蓄積があり、近年 の主な成果として矢野・島(2000)、家庭背景なども考慮した安井・佐野(2009)、大学・ 学部別収益率を算出した青・村田(2007)などが挙げられる。 この流れを拡張し、初期値としての教育投資に関する変数を詳細化するような研究が、 特に今世紀に入ってから活発化している。たとえば、入試での受験科目(浦坂他2002)、英 語力(松繁2004)、大学の成績(大谷 2004)、大学の出身学部(浦坂他 2011、Hirata et al. 2013b)、大学入試の形態(浦坂他 2013a)、高校時代の理科の得意科目(浦坂他 2012、Hirata et al. 2013b)、大学時代の学習習慣(矢野 2009)等を独立変数とし、個人の労働市場での パフォーマンス(≒「能力」)としての所得を従属変数として、それらの間の関連を検討す るような研究がこれに当たる。これらの場合、従属変数と独立変数のいずれを「能力」の 代理指標とみなすかは曖昧化しており、むしろ教育面での「能力」と労働面での「能力」 という異質な「能力」間の関連を明らかにするというスタンスが強くなっているように見 受けられる。 これら以外にも、従事している仕事の技能レベルを、裁量性・複雑性(長松2008)や習 得に要する期間(高見2012)などの形で把握し、それらと所得との関係を検討する研究や、 能力開発機会が職業キャリアや所得に及ぼす影響を検討する研究(労働政策研究・研修機 構2009、2010、2013a など)が存在する。さらに、社会学においては、10 年ごとに繰り 返し実施されてきた「社会階層と社会移動」(SSM)研究にみられるように、所得だけでな く職業威信スコアを従属変数として用いる分析が数多くなされてきた。そして、最も近年 においては、双生児データを駆使することにより遺伝的な「能力」と環境要因を弁別しよ うとする試み(山形他2013 など)や、性格特性をスキルとみなして労働市場における効果

を測定する研究(Heckman and Kautz 2013)も進展している。

以上を含む膨大な研究蓄積においては、総じて、次のような課題が見出される。第一に、 何を以て個々人の仕事に関する「能力」の代理指標とすることが「真に」妥当であるかに ついて、議論や検討が十分に尽くされているとはいえないということである。ここには本 質的な困難さがあり、計測し難い「能力」と、その代理指標との間には、常に何らかの距 離が不可避的に存在する。 第二に、独立変数と従属変数のいずれかもしくは双方を「能力」の代理指標とし、その

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3 間の関係を計量的に検討するタイプの研究においては、労働市場内での自分の位置づけに 関する個人の主観的な認識や理解、それに基づいた行為のあり方は、ブラックボックス化 される傾向があったということである。本稿の冒頭に述べた、労働者のエンパワーという 課題には、労働者自身の主体性や自己効力感などの主観的・間主観的な意識を高めること が不可分に含まれているのであり、労働者が単に性能のよいマシンになることで達成され るものではない。 これらの制約に対して、完全にではないが一定程度は対処しうる試みとして、本稿では、 労働者個々人が主観的に自認する仕事上の「強み」という変数を使用する。次節で説明す るように、この変数は「今のあなたの仕事上の知識や技能における強みはなんですか。ま たその強みは、いつごろ、どんな経験でついたものだと思いますか。詳しくご記入くださ い」という問いに対して、自由記述で回答された内容を、アフターコーディングにより分 類したものである。これは回答者本人の自己認識であり、非常に主観的であるとともに、 これまでの仕事経験の中で他者との関係や職場での処遇を通じて培われた間主観的な変数 である。 このような性質をもつ「強み」という変数を採用することにより、客観的な「能力」の 本質的な計測し難さというアポリアを迂回し、主観的な「能力アイデンティティ」(中村2011、 片山2010、岩田 1981)の検討という、別の積極的な分析課題に取り組むことが可能となる。 この分析課題の積極性は、以下のような主張によって根拠づけられる。社会学者ギデンズ が指摘しているように、後期近代たる現代社会においては、人々は不断に「自分はどのよ うな存在か」について再帰的にモニタリングし、自己規定し続けることを避けられなくな っている(Giddens 1991=2005)。「自分はどのような存在か」という問いの中核にあるの は、「自分にはどのような能力があるか」という問い、すなわち「能力アイデンティティ」 であり、特に学校教育や仕事場面においては、課される様々なタスクの達成度等の手掛か りを通じて、人々は自らの「能力アイデンティティ」を形成するようになる(中村2011)。 この「能力アイデンティティ」は、単に自らの過去の達成に基づいて現在の行為を規定す るだけでなく、流動的な環境の中で自らの将来に向けての行為可能性を模索する「エクス ぺクテーション」(古賀2010)の土台ともなる。言い換えれば、「能力アイデンティティ」 は、主観的・間主観的に構成されたものであることに留まらず、個人にとって将来にわた る主体的なキャリア形成を駆動する意識面での源泉としても作用すると考えられるのであ る。 それゆえ、何が自分の「強み」かについての人々の認識に分析の照準を定めることは、 個人の労働市場価値を客観的に把握しようとする分析とは異なる/それを超えた、独自の 意義をもつと考えられる。ただし、この変数を用いることに対して批判も予想される。考 えられる批判は第一に、そうした主観的認識は誤認を含んでいる可能性があるということ である。確かに、そのような問題を払拭することはできない。しかし、今回の分析で使用 するデータは30 代の就業者を対象とするものであるため、生徒・学生や 20 代の若者と比

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4 べて就労期間がより長く、経験もより豊富であることから、あまりにも現実離れしたよう な誤認は少なくなっていると考えられる。批判の第二は、誤認とまではゆかなくとも、何 を自分の「強み」として認識するかの基準(たとえば、比較優位か絶対優位か)や、それ を認識するに至った契機の有無(たとえば、他者からの明示的な評価や転職の成功など) などの条件が、個人によって異なるのではないかということである。これに関しては、「強 み」を自認する理由に関するサブクエスチョンなどによってさらに掘り下げることが必要 であるが、今回の質問紙においてはそうして質問は設けられていないことから、今後の課 題とする。 以下の分析では、この「強み」そのものの内容(RQ1)、その形成機会(RQ2)、それを 自認する者の属性(RQ3)、それが他の仕事意識とどう関連しているか(RQ4)の順番で検 討を行ってゆく。 なお、労働力人口の減少や男女共同参画による社会・経済の活性化などの観点から、近 年の日本では、女性の活躍の促進という課題が緊急性を帯びている。それゆえ、分析に際 しては、性別による相違や、特に女性に関する結果について、注意を払うことにする。 3.使用するデータと変数 分析に使用するデータは、労働政策研究・研修機構が実施した「30 代のワークスタイル 調査」である3。この調査は、2011 年 7 月~10 月に、首都圏在住の 30 代の有職男性 1,035 名、有職女性965 名、計 2000 名をエリアサンプリングにより抽出して実施した。 前記の通り、このデータにおいては仕事上の「強み」に関して「今のあなたの仕事上の 知識や技能における強みはなんですか。またその強みは、いつごろ、どんな経験でついた ものだと思いますか。詳しくご記入ください」という質問が設けられており、その記述内 容をアフターコーディングした変数を分析のキー変数として用いる4 次節で示すように、今回の分析では、記入内容をアフターコーディングした結果を、さ らに「対人能力・行動様式」と「スキル・資格」の 2 つに分類して使用している。このう ち前者は「コミュニケーション能力」「接客」「思考力」など、不定形で人格や感情と密接 に結び付いた内容の「強み」から成り、筆者が指摘してきた「ハイパーメリトクラシー」 下での「ポスト近代型能力」(本田2005)、もしくは堤(2010)のいう「非標準化能力」と 3 このデータに関する報告書としては、労働政策研究・研修機構(2013b)を参照。 4 アフターコーディングは堀有喜衣氏による。この質問項目はもともと、首都圏の 20 代の 若者を対象として2011 年に実施された「第 3 回若者のワークスタイル調査」において設け られていたものであり、そのコーディングと分析の結果は労働政策研究・研修機構(2012) の第1 章に含まれている。今回分析に使用する「30 代のワークスタイル調査」結果のコー ディングは、比較可能性を担保するため、「第3 回若者のワークスタイル調査」のコーディ ングを踏襲する形でなされている。「30 代のワークスタイル調査」における「強み」変数の 基礎的な分析結果は、労働政策研究・研修機構(2013b)の第 2 章を参照。アフターコーデ ィングの際に、記載内容が複数であるケースはほとんど見られなかったため、実質的に単 一回答として処理することが可能になっている。

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5 しての性格が強い。それに対して後者は、「資格」「パソコン」「機械」「医療・福祉」など、 輪郭が明瞭で伝達・評価・証明が可能な「近代型能力」(本田2005)・「標準化能力」(堤2010) としての性格が強い。筆者は、近年の日本社会における「ハイパーメリトクラシー化」の 趨勢がはらむ危険性に警鐘を鳴らす主張をしてきた(本田2005)ことから、「強み」をこれ ら2 つに分類し、それぞれの特質を RQ2~4 に即して検証することを試みるものである。 4.分析結果 4.1. RQ1「仕事に関して自認された「強み」にはどのような類型が見出されるか」 本節では、RQ1 に関する検討を行う。まず図 1 には、もっとも基礎的な情報として、「強 み」として記載された内容をアフターコーディングした結果の回答比率を示した。参考と して、20 代に対して同じ質問項目を用いて調査した「第 3 回若者のワークスタイル調査」 結果も同時に示している。 図1 「強み」として記載された内容 30 代の就労者の中では、「資格」「その他専門知識」を仕事上の「強み」と自認する者が いずれも8.7%で最も多く、次いで「コミュニケーション能力・気配り・協調性」(7.8%)、 「接客・笑顔・マナー・サービス精神」(7.3%)、「パソコン・キャド操作」(6.7%)、「機械・ 電気・自動車・技術」(6.1%)なども一定の比率を占めている。20 代と比較すると、「機械・ 電気・自動車・技術」、「器用、正確、早い、効率が良い」、「音楽・美術・ファッション・ デザイン」などに関して30 代の方が自認率が高くなっており、就労経験が長くなることに よりこれらの「強み」自認が増大することがうかがわれる。 3.4  7.3 7.8  1.0 1.9 1.0  0.5  4.0  3.2  1.0  2.4  6.7  4.2  3.6 3.8  6.1  3.0  1.2  3.0 2.6  0.8 1.7  3.9  0.1 1.0  8.7 8.7  2.9  8.9  6.6  0.4 0.9  2.5  1.5 1.3  3.0  0.7 0.9  7.2  2.9 3.4  4.2  2.6 2.2 2.6 2.6 2.5 3.1  0.9 1.7 0.4 0.5  7.5 7.3  0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 営業力・ 販売 力 接客 ・笑 顔 ・マ ナ ー ・ サ ー ビ… コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 ・ 気 … 人脈 リー ダ ー シッ プ 忍耐・ 責 任感 ・ 信頼感 うち こ む 、 一 所 懸 命 、 ま じ め 器用 、 正 確 、 早 い 、 効率が … 物覚え 、 先見性 、 判断力 、 … 前向き、 積極性 、 行 動 力 その 他 行 動 様 式 ( 適 応 力 ・ … パ ソ コ ン 、 キ ャ ド 操作 情報処理技術 、 IT 経理・ 事 務 医療・ 福 祉 機械 ・ 電 気 ・自 動 車 ・ 技 術 調理 ・栄 養 教育・ 保 育 法務 ・金 融 ・ 保険 ・ 不 動 産 語学 美理容 ・エ ス テ ・整 体 建築・ 測 量・ イ ン テ リ ア 音楽 ・美 術 ・ フ ァ ッ シ ョ ン ・ … ト リ ミ ン グ 、 動 物 関 係 車の 運 転 資格 その 他 専 門 知 識 (%) 30代 20代(「第3回若者のワークスタイル調査」より)

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6 4.2. RQ2「仕事に関して自認された「強み」はどこで身につけられているか」 先の図1 において、縦の破線の左側に位置する諸項目が「対人能力・行動様式」、右側に 位置する諸項目が「スキル・資格」に該当する。図2 は、図 1 の諸項目をこの 2 種類に集 約した結果について、それぞれの自認率と、それらをどこで身につけたかに関する回答結 果を示している。 図2 2種類の「強み」の自認率と身につけた場 まず図2 の自認率をみると、「スキル・資格」が41.7%、「対人能力・行動様式」が23.8% であり、現代日本の労働市場においても輪郭の明瞭な「近代型能力」の方が「強み」とし て認識されやすいことがわかる5 そして、それぞれの「強み」をどこで身につけたかに関しては、いずれについても「職 場」が多数を占めているが、「対人能力・行動様式」のほうがその度合いが強く、「スキル・ 資格」は「学校」で身につけているケースも21.3%を占め、「対人能力・行動様式」はその 比率が11.8%に留まることと比べてほぼ倍になっている。 続いて図3 は、図 2 を性別で分けて示したものである。2 種類の「強み」の自認率には、 性別による統計的に有意な差は見られない。また、「対人能力・行動様式」については、そ れを身につけた場についても男女ともに「職場」が 70%以上を占め、性別による有意差は 生じていない。しかし、「スキル・資格」を身につけた場については、男性は「職場」が68.1% であるのに対して女性は 52.2%に留まり、女性では「学校」(26.6%)、「生活」(22.3%) でいずれも男性を約10%上回る結果になっている。先進諸国の中でも労働市場において女 性が不利である度合いが特に強い日本(山口2013 など)においては、女性が職場内で「ス キル・資格」を身につけることができる機会も、男性と比べて閉ざされていることをうか がわせる結果である。そのような女性の不利さを補う上で、「学校」や「生活」といった、 5ただしこれは、質問のワーディングが「今のあなたの仕事上の知識や技能における強みは なんですか」となっており、「知識や技能」という言葉が含まれていることに影響されてい る可能性がある。 41.7 60.6 21.3 17.7 23.8 73.5 11.8 14.3 0 10 20 30 40 50 60 70 80 職場 学校 生活 自認率 どこで身につけたか (%) スキル・資格 対人能力・行動様式

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7 職場外での能力開発機会は重要な意味をもっていると言える。 図3 2種類の「強み」の自認率と身につけた場(性別) ※ **:p<0.01 ***:p<0.001 4.3. RQ3「仕事に関する「強み」を自認しているのはどのような層か」 続いて、これら2 種類の「強み」を自認しているのは、どのような属性や経歴をもつ人々 なのかについての検討に進む。前項の末尾で、特に女性が「スキル・資格」を身につける 上で、職場外の「学校」が重要であることを指摘した。それに関連する事項として、性別 および最終学歴・専門分野別に、それぞれの「強み」の自認率を示したものが、図4・図 5 である。 まず「スキル・資格」に関する図 4 を見ると、目を引くのは「医学部・看護・獣医系」 出身の女性の全員が「スキル・資格」という「強み」を自認していることである。また、「大 学 理系(工農薬など)」、「大学 家政生活科学」についても、特に女性において「スキル・ 資格」という「強み」の自認につながっていることが読み取れる。それ以外に、男女間で 差はないが「スキル・資格」の自認をもたらしている教育経歴として、「大学 保健教育福 祉」、「大学 芸術他(体育、学際・情報等)」、「専門短大高専 資格系」が挙げられる。こ うした、理系もしくは専門職養成系の中等後教育が、特に女性が「スキル・資格」という 「強み」を身につける上で重要な役割を果たしていることが確認される。他方で、女性よ りも男性にとって「スキル・資格」の取得の場として大きな意味をもっているのは、「高校 工業・機械・電機系」すなわち工業高校の出身であることである。 42.4 22.3 68.1 16.6 13.7 75.3 10.4 15.6 40.9 25.3 52.2 26.6 22.3 71.7 13.1 13.1 0 10 20 30 40 50 60 70 80 ス キ ル ・ 資格 対人能力・ 行動 様式 職場 *** 学校 ** 生活 ** 職場 学校 生活 自認率 どこで身につけたか(ス キル・資格) どこで身につけたか(対 人能力・行動様式) (%) 男性 女性

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8 図4 「スキル・資格」自認率(性別・最終学歴別) 図5 「対人能力・行動様式」自認率(性別・最終学歴別) それに対して、「対人能力・行動様式」について示した図5 に関しては、教育経歴による 自認率の違いは明確でなく、男女間の差も図4 ほどは見出されない。このことは、「対人能 力・行動様式」の形成の場として、「学校」よりも「職場」における実際の職業経験が重要 であることを反映しているものと考えられる。 続いて、図 6・図 7 には、職業経歴を複数の類型に分類した「キャリア類型」 別に、2 つの「強み」の自認率を示した。 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 中卒 高校 普通・総合 高校 商業・ビジネス系 高校 工業・機械・電気系 高校 その他 専門短大高専 人文・ビジネス系 専門短大高専 資格系 専門短大高専 理・工業系 専門短大高専 芸術他 大学 文系 大学 理系(工農薬など) 大学 芸術他(体育、学際・情報等) 大学 保健教育福祉 大学 家政生活科学 '医学部・看護・獣医系' 女性 男性 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 中卒 高校 普通・総合 高校 商業・ビジネス系 高校 工業・機械・電気系 高校 その他 専門短大高専 人文・ビジネス系 専門短大高専 資格系 専門短大高専 理・工業系 専門短大高専 芸術他 大学 文系 大学 理系(工農薬など) 大学 芸術他(体育、学際・情報等) 大学 保健教育福祉 大学 家政生活科学 '医学部・看護・獣医系' 女性 男性

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9 図6 「スキル・資格」自認率(性別・キャリア類型別) 「スキル・資格」に関する図 6 をみると、いくつかのキャリア類型に関して、男女間の 差異が見出される。女性の方が男性より「スキル・資格」の自認率が高くなっているキャ リア類型は、「正社員転職」、「他形態から正社員」、「正社員一時他形態」であり、これらは いずれも、正社員を含む形で企業や雇用形態間の移動を経験しているタイプの職業経歴で ある。これはすなわち、女性にとっては、「スキル・資格」を活かす形で外部労働市場にお ける流動性やキャリアアップを実現するという形の職業経歴が、男性と比べてより太いル ートとして存在していることを意味していると考えられる。逆に男性のほうが女性よりも 「スキル・資格」の自認率が高くなっているのは、「非典型一貫」である。ただし、「非典 型一貫」の男性の「スキル・資格」自認率が男性の他のキャリア類型と比べて大きく異な るわけではないことから、むしろ「非典型一貫」の女性において「スキル・資格」の自認 率が低くなっていることの表れであるといえる。 他方で、「対人能力・行動様式」の自認率についての図 7 においては、「正社員定着」を 除く多くのキャリア類型で、女性の方が男性よりも自認率が高くなっている。特に、「非典 型一貫」、「自営・家業」、「現在無業」6といった、相対的に就業の密度が低く不安定性が高 いキャリア類型において、男性よりも女性で「対人能力・行動様式」の自認率が高くなる ということが見出される。 6 この調査は有職者を対象としているが、調査時点で一時的に無業・失業状態である者が少 数であるが含まれている。 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 正社員定着 正社員転職 正社員から非典型 正社員一時他形態 非典型一貫 非典型一時正社員 他形態から正社員 自営・家業 現在無業 その他・不明 男性 女性

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10 図7 「対人能力・行動様式」自認率(性別・キャリア類型別) 以上で教育経歴および職業経歴と 2 種類の「強み」との関連を概観したが、それ以外の 要素も含めて検討するために、それぞれの「強み」の自認を従属変数として性別に多項ロ ジスティック回帰分析を行った。独立変数の記述統計量を表1、分析結果を表 2 に示す。 表1 独立変数の記述統計量(平均) 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 正社員定着 正社員転職 正社員から非典型 正社員一時他形態 非典型一貫 非典型一時正社員 他形態から正社員 自営・家業 現在無業 その他・不明 男性 女性 男性 女性 年齢 34.575 34.625 既婚 0.661 0.667 学歴 中卒・高校中退 0.055 0.040 (RG:高卒) 専各・短大・高専卒 0.212 0.415 大学・大学院卒 0.432 0.258 高等教育中退 0.051 0.028 雇用形態 パート・アルバイト 0.042 0.441 (RG:正社員) 契約・派遣 0.044 0.095 自営・家業 0.154 0.147 年収 100万以下 0.023 0.313 (RG:301-500万) 101万-300万 0.198 0.384 501万以上 0.296 0.045 労働時間 31-40時間 0.152 0.298 (RG:30時間未満) 41-50時間 0.370 0.166 51-60時間 0.186 0.041 61時間以上 0.181 0.030 企業規模 29人以下 0.247 0.245 (RG:300-999人) 30-299人 0.244 0.224 1000人以上・公務 0.343 0.358 職種 専門・技術 0.319 0.233 (RG:生産・保安等) 管理・事務 0.138 0.261 販売 0.175 0.160 サービス 0.111 0.188

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11 表2 2種類の「強み」の自認の規定要因7 (性別、多項ロジスティック回帰、基準:「強み」なし、数値は Exp(B)) ※ +:p<0.1 *:p<0.05 **:p<0.01 ***:p<0.001 まず男性については、むしろ年齢が若いほうが双方の「強み」を自認する傾向が見られ る。また大学・大学院卒の学歴の者において「スキル・資格」を自認する傾向があるが、 後述するように学歴の効果は女性の方が顕著である。そして総じて労働時間については、 「対人能力・行動様式」は週61 時間以上の長時間労働者においてもっとも自認傾向が強い が、「スキル・資格」については週 50 時間前後の労働時間で自認傾向が強い。職種に関し ては、「専門・技術職」で「スキル・資格」を、それ以外の「管理・事務」、「販売」、「サー ビス」では「対人能力・行動様式」を自認する傾向がある。 女性については、「大学・大学院卒」の教育経歴が双方の「強み」の自認率を高める傾向 7 従属変数である「強み」自認がこれまでのライフコースのどの時点から継続しているかが 不明であるため、独立変数と従属変数との間には因果関係を想定することができない。本 分析はあくまで、独立変数と従属変数の間の関連性を確認するものである。 対人能力・ 行動様式 スキル・資 格 対人能力・ 行動様式 スキル・資 格 年齢 0.913** 0.940* 1.017 1.029 既婚 0.913 0.942 0.717 0.844 学歴 中卒・高校中退 0.535 1.190 1.697 0.419 (RG:高卒) 専各・短大・高専卒 1.102 1.450+ 1.513+ 2.036** 大学・大学院卒 1.144 1.606* 2.409** 2.709*** 高等教育中退 1.411 1.424 3.362* 2.418 雇用形態 パート・アルバイト 0.957 0.840 0.358** 0.678 (RG:正社員) 契約・派遣 0.718 1.354 1.094 1.003 自営・家業 0.619 1.084 0.765 1.073 年収 100万以下 1.697 1.105 1.960* 1.450 (RG:301-500万) 101万-300万 0.588+ 0.793 2.133** 1.856** 501万以上 1.273 1.342 1.715 2.793* 労働時間 31-40時間 0.959 2.075* 0.874 1.091 (RG:30時間未満) 41-50時間 2.123* 2.413** 0.914 0.820 51-60時間 1.204 2.252** 0.727 1.117 61時間以上 2.245* 2.099* 0.767 1.025 企業規模 29人以下 0.790 0.847 1.061 1.067 (RG:300-999人) 30-299人 0.807 0.980 1.437 1.156 1000人以上・公務 0.758 0.759 1.059 0.943 職種 専門・技術 1.127 1.687** 0.794 2.853*** (RG:生産・保安等) 管理・事務 2.509** 1.213 0.540* 1.067 販売 3.149*** 1.021 1.335 0.737 サービス 2.122* 1.279 1.705+ 0.980

Cox & Snell R2乗 Nagerkerke R2乗 有意確率 N 男性 女性 0.120 0.172 0.000 1025 0.195 0.000 947 0.137

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12 が男性よりも明瞭であり、特に「スキル・資格」に関しては、「専各・短大・高専卒」とい う短期の高等教育も自認率を有意に高めている。そして女性では、男性では見られなかっ た雇用形態および年収と「強み」自認との関連もみいだされる。雇用形態が「パート・ア ルバイト」であることは「対人能力・行動様式」の自認を有意に低下させる影響をもち、 逆に年収が100 万円以下もしくは 101 万円~300 万円という相対的に低収入である場合に 「対人能力・行動様式」の自認率が高まるという結果がみられる。「スキル・資格」は雇用 形態とは関連がみられないが、年収については基準とした301~500 万円と比べてその前後 の収入層において自認率が高まる傾向がある。他方で職種に関しては、「専門・技術」と「ス キル・資格」との関連がみられることは男性と同様であるが、「管理・事務」と「対人能力・ 専門様式」の間にむしろ負の関連があり、「販売」「サービス」と「対人能力・行動様式」 との関連がないことは男性と異なる。 このように、「強み」の自認と他の属性や経歴等の要因は複雑であり、女性にとっての教 育経歴や雇用形態、男性にとっての職種のように、「強み」自認との間に一定の解釈しやす い関連が見出される項目もあれば、男性にとっての年齢、女性にとっての収入のように、 単純な解釈が難しい項目もみられる。その中で確認されるのは、女性において「スキル・ 資格」の自認が、中等後教育―専門技術職―一定水準の収入という、比較的明確な連関構 造の中に位置づけられているということである。 4.4. RQ4「仕事に関する「強み」を自認することは、他のどのような仕事意識と関連して いるか」 本稿の第2 節で述べたように、「強み」という主観的変数は、自分自身についての「能力 アイデンティティ」として、仕事面での過去・現在・将来にわたる自己の位置づけや行為 の仕方と密接に関わっていると考えられる。 そこで、2 種類の「強み」を自認することと、他の仕事意識との関連を検討する作業を進 めるために、まずは今回の調査データにおける仕事意識の集約を行う8。調査票に含まれる 25 個の仕事意識項目を投入して主成分分析を行ったところ、6 つの主成分が抽出された(表 3)。その 6 つとは、総じて仕事に対する肯定的意識である「順調」、非典型的な働き方や現 在志向の意識である「フリーター」志向、専門性を高め人に貢献したいという「専門・貢 献」志向、収入や名声を重視する「栄達」志向、総じて仕事に対するネガティブな意識で ある「消極」、正社員であることや長期勤続に価値を置く「安定」志向である。 これら6 つの主成分の中で、「フリーター」は刹那性、「栄達」は利己的な地位達成動機、 「消極」は仕事からの逃避、「安定」は組織への固着や保守性を、それぞれ内包しているた め、労働市場の現状のもとでは当人や社会にとって否定的な帰結をもたらすリスクを含む 意識であると解釈される。それに対し、「順調」および「専門・貢献」は、労働者としての 8 この調査データにおける仕事意識および生活意識に関する既存の検討結果としては、労働 政策研究・研修機構(2013b)の第 3 章を参照。

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13 エンパワーという観点に照らして望ましい意識とみなすことができる。 表3 仕事意識の主成分分析結果 (因子抽出法: 主成分分析 回転法: カイザーの正規化を伴うプロマックス法) では、2 種類の「強み」の自認とこれらの意識の間にはいかなる関連が見出されるか。図 8 は、性別および「強み」の有無・タイプ別に、上記 6 つの主成分のスコアの平均値を示し たものである。 まず「順調」については、「対人能力・行動様式」を自認する男性および「スキル・資格」 を自認する男女が相対的にスコアが高く、それ以外のカテゴリーはスコアが低い。同じ「対 人能力・行動様式」という「強み」を自認していても、男女でその意味合いは異なってい ることがわかる。 続いて「フリーター」志向については、「対人能力・行動様式」を自認する女性のみでス コアが高くなっている。これはおそらく、「対人能力・行動様式」に含まれる、接客・笑顔・ 気配りといった要素が、非正規労働者を多く含む対人サービス業との親和性が高いことに よるものと解釈される。言い換えれば、女性にとって、こうした不定形の「能力アイデン ティティ」は、不安定就労に結びつきやすく、また不安定就労によって培われる傾向があ るといえるだろう。 そして「専門・貢献」については、「スキル・資格」を自認する女性でスコアが最も高く、 次に 2 種の「強み」を自認する男性が続いている。女性にとって「スキル・資格」を自認 順調 フリーター 専門・貢献 栄達 消極 安定 これまでの進路選択は順調であった 0.676 -0.024 0.028 0.024 -0.211 0.209 自分の生活は、周囲の人からうまくいっていると思われている 0.756 -0.042 0.052 0.151 -0.127 0.155 将来の見通しは明るい 0.769 0.022 0.101 0.150 -0.311 0.110 経済的に自立している 0.641 -0.144 0.131 0.244 -0.018 -0.094 努力次第で将来は切り開けると思う 0.554 0.089 0.346 0.352 -0.358 -0.021 仕事以外に生きがいがある 0.450 0.195 0.122 0.078 -0.303 0.223 現在の生活に満足している 0.713 0.091 -0.008 -0.114 -0.297 0.287 今の世の中、定職に就かなくても暮らしてゆける -0.004 0.626 -0.144 0.013 -0.032 -0.158 将来のことを考えるよりも今を楽しく生きたい 0.010 0.636 -0.267 0.047 0.126 0.171 若いうちは仕事よりも自分のやりたいことを優先させたい -0.042 0.631 -0.065 0.124 0.156 0.004 いろいろな職業を経験したい -0.036 0.528 0.236 0.069 -0.077 -0.117 やりたい仕事なら正社員でもフリーターでもこだわらない -0.107 0.696 -0.013 -0.079 -0.143 -0.193 将来は独立して自分の店や会社を持ちたい 0.038 0.240 0.242 0.618 -0.251 -0.301 一つの企業に長く勤めるほうがよい 0.029 -0.222 0.077 -0.051 0.164 0.672 フリーターより正社員で働いたほうがトクだ 0.133 -0.368 0.276 0.169 0.267 0.497 専門的な知識や技術を磨きたい 0.115 -0.043 0.821 0.241 -0.091 0.017 職業生活に役立つ資格を取りたい 0.004 -0.111 0.767 0.101 0.013 0.159 ひとの役に立つ仕事をしたい 0.178 0.047 0.673 0.238 -0.290 0.172 誰とでもすぐに仲良くなれる 0.268 0.145 0.156 0.369 -0.503 0.454 有名になりたい 0.161 0.121 0.164 0.780 -0.154 0.094 ひとよりも高い収入を得たい 0.090 -0.169 0.190 0.771 0.137 0.009 自分に向いている仕事がわからない -0.376 0.074 -0.110 -0.103 0.622 0.005 仕事したくない -0.120 0.158 -0.228 0.146 0.594 -0.053 ほとんどの人は信頼できる 0.288 0.178 0.104 -0.075 -0.330 0.417 自分には政府のすることに対して、それを左右する力はない -0.098 -0.041 0.028 -0.118 0.470 0.084 固有値 3.887 2.515 2.258 1.521 1.518 1.062 分散の% 15.5 10.1 9.0 6.1 6.1 4.2 因子抽出法: 主成分分析 回転法: Kaiser の正規化を伴うプロマックス法

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14 することは、上記の「対人能力・行動様式」の自認とは対照的に、専門性の向上や他者へ の貢献といった、積極的で着実な仕事意識と結びついていることがわかる。 図8 性別・「強み」別 仕事意識の主成分スコア ※すべて 0.1%水準で有意差あり。 次の「栄達」志向は、男女間で大きな差があり、男性の中でも「対人能力・行動様式」 を自認する者において突出している。先に見たように女性にとっての「対人能力・行動様 式」自認が「フリーター」志向と親和的であったこととやはり対照的に、男性における「対 人能力・行動様式」の自認とは、収入や名声など、職業上の地位達成を追求する意識と親 和的であると言える。 また「消極」は、いずれの「強み」も自認しない男性でもっともスコアが高く、その次 に同様の女性が続いている。「強み」すなわち仕事上の「能力アイデンティティ」を持つこ とができない場合、働くことからの逃避や無力感を伴いがちであることが確認される。 最後の「安定」志向は、総じて女性で強く、男性の中では「対人能力・行動様式」を自 認する者で相対的に高い。後者の点は、こうした不定形の「能力」が、企業の内部労働市 場において強く求められ、また効力を発揮しがちであることを意味していると考えられる。 以上に見たように、いかなる「強み」を自認するかは、個々人の属性や労働市場内での 位置づけをも反映しながら、様々な仕事意識と複雑な関連をもっている。これは言い換え れば、人々が特定の仕事上の「強み」を自認できる方向へと人材形成に関わる諸制度を変 革することにより、人々の働き方にも影響を与えてゆける可能性があることを示唆してい る。 ‐0.6 ‐0.4 ‐0.2 0 0.2 0.4 0.6 順調 フリーター 専門・貢献 栄達 消極 安定 男性・「対人能力・行動様式」 男性・「スキル・資格」 男性・「強み」なし 女性・「対人能力・行動様式」 女性・「スキル・資格」 女性・「強み」なし

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15 5.知見のまとめと考察 以上、本稿では、人々が仕事に関してどのような「強み」を自認しているかということ に焦点を当て、4 つの RQ を検討してきた。 2 種類の「強み」のうち、「スキル・資格」は、他方の「対人能力・行動様式」と比べて、 ①保持率が高く、②(特に女性の場合に)職場外(特に高等教育機関)で相対的に形成さ れやすく、③(特に女性の場合に)正社員としての企業間移動や非正社員から正社員への 登用との関連が見られ、④専門・技術職としての就業や(特に女性の場合に)一定水準の 収入の確保とも関連が見られ、⑤職業能力の向上や他者への貢献などの着実な仕事意識を もたらしやすい傾向が見られる。 それとは対照的に、「対人能力・行動様式」は、教育機関では形成されにくく、男性では 職業上の地位達成を志向する意識に結びついているのに対して、女性では収入水準の低さ や「フリーター」と親和的な意識と結びつく傾向が見られる。 これらの結果が総体として示唆しているのは、「スキル・資格」という、輪郭が明瞭で形 成と評価がしやすく、かつ外部労働市場におけるシグナルとしての機能も備えた「強み」 =「能力アイデンティティ」がもつ可能性である。それは特に女性において顕著である。 1990 年代半ば以降の日本社会では、「コミュニケーション能力」や「問題解決能力」などの 不定形で汎用的な能力の重要性がますます強調されるようになっているが、それらは形成 と評価が困難であるだけでなく、今回の「対人能力・行動様式」に関する分析結果が示す ように、必ずしも望ましくない仕事意識を伴いがちである。そうした「非標準化能力」に 社会的関心があまりに偏向していることは、問題であるといえるだろう。折しも現在、「ジ ョブ型正社員」という新たな働き方の類型による雇用改革が政策的に提唱され、女性の活 躍も政策的に推進されている状況にある。それゆえ、輪郭の明瞭な「スキル・資格」の習 得・向上を通じた人材育成や就労促進は、日本の社会経済の今後を左右する重要なテーマ であり、そのための制度の拡充とルールの整備が喫緊の課題となっている(本田2013)。今 回の分析は、その課題の重要性を、実証的に裏付ける知見につながったという点で、意義 をもつものと考える。 今後の課題としては、今回の分析に使用したデータが30 代を対象とする調査結果であっ たため、年齢幅をさらに広げた調査と分析を実施することと、「スキル・資格」の内実をよ り詳細かつ具体的に把握した分析を実施することがあげられる。 そうしたエビデンスに基づいて、労働者の実質的なエンパワーのための施策が進展して ゆくことを期待する。 〈引用文献〉 青幹大・村田治、2007、「大学教育と所得格差」『生活経済学研究』25, 47-63.

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