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植物科学最前線 7:48 (2016) 孔を獲得し, 過酷な陸上環境へ適応していきました 現生の維管束植物の最も基部に位置するの はイヌカタヒバなどを含む小葉類 (lycophytes) です 維管束植物は更なる進化を遂げ, 種子や花 を獲得し, 陸上環境での繁栄を謳歌しています ( 図 1) 図

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古い酒を新しい革袋に~preexisting gene regulatory network の転用による

陸上植物のボディプラン革新

オーガナイザー

石崎公庸

神戸大学大学院理学研究科生物学専攻

〒657-8501 神戸市灘区六甲台町1−1

榊原恵子

金沢大学学際科学実験センター

〒920-0934 金沢市宝町 13-1

約 40 億年前に地球上に生命が誕生して以来,生物はずっと水の中で暮らしてきました。水中の 光合成生物の気の遠くなるほど長い年月にわたる活動の結果,大気中に酸素が増えていくと紫外 線の作用によりオゾン層が形成され,生物にとって有害な紫外線が吸収されるようになり,陸上 に生命が生き延びられる環境が整ってきた頃,最初に陸上に進出したのは植物でした。植物の陸 上進出は今から約 4 億7千万年前までに起こり(Wellman et al. 2003),それまで岩石に覆われた荒 れ地であった地上は徐々に緑の植物に覆われ,大気中の CO2濃度の更なる低下をはじめとして地

球環境に大きな影響を与えたと考えられています(Lenton 2001; Mora et al. 1996; Taylor et al. 2012)。 そして植物に遅れること数千万年,約 4 億年前までには昆虫が陸上に進出し,3 億 6 千万年前ま でには我々の祖先である両生類も陸上進出を果たしたのです。地球の歴史上,最大の転換点の1 つである植物の陸上進出,そして陸上植物の進化はどのようにして起こったのでしょうか? 約 4 億 7 千万年前に陸上進出を果たした植物の共通祖先は,現生の車軸藻植物門の中でもシャ ジクモ藻綱(Charophyceae)やコレオケーテ藻綱(Choleochaetophyceae),アオミドロやミカヅキ モを含むホシミドロ藻綱(Zygnematophyceae)に近縁の淡水性の多細胞緑色藻類だったと考えら れています(図1; Lewis and McCourt 2004)。緑色藻類の中でもこれらのグループは,ロゼッタ構 造をとるセルロース合成酵素複合体を獲得したことで効率よくセルロースを合成し,細胞質分裂 における隔膜形成体(フラグモプラスト:phragmoplasts)の形成,原形質連絡(プラズモデスマ ータ:plasmodesmata)の形成など,複数の陸上植物と共通する形質(共有派生形質:synapomorphy) をもっています(坂山 2010; Graham 1993)。 また近年の分子系統解析や化石レベルの証拠から,現生の陸上植物の中で最も基部で分岐した のがコケ植物だと考えられています。コケ植物(bryophytes)には,タイ類(liverworts),蘚類(mosses), ツノゴケ類(hornworts)の3つのグループがありますが,それらは初期に分岐したため,相互の 系統関係には諸説あり,現在でも議論の決着はついていません(Qiu et al. 2006; Wicket et al. 2014)。 そして陸上進出を果たして僅か数千万年も経たない 4 億 3 千万年前までには,植物は維管束や気

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K. Ishizaki & K. Sakakibara−2 孔を獲得し,過酷な陸上環境へ適応していきました。現生の維管束植物の最も基部に位置するの はイヌカタヒバなどを含む小葉類(lycophytes)です。維管束植物は更なる進化を遂げ,種子や花 を獲得し,陸上環境での繁栄を謳歌しています(図1)。 図 1 現生の緑色植物の進化 陸上植物の起源と進化を理解するには,緑藻とコケ植物,小葉類以降の維管束植物の形態やボ ディプランの比較研究が肝要です。まず,緑色藻類と陸上植物における生活環を比較してみます。 シャジクモ藻綱を含む緑色藻類は,生活史のほとんどを配偶体(n 世代)で過ごし,複相 (2n 世代)は単細胞の接合子 (zygote)あるいは受精卵 (fertilized egg)のみです。接合子は体細胞 分裂することなく減数分裂を行ない,n 世代へと移行します。一方,コケ植物と維管束植物を含 む陸上植物は,全て配偶体(n 世代)に加えて多細胞の胞子体(2n 世代)を形成します。雌雄の 配偶子(精子と卵)が受精して形成される受精卵が,直ちに減数分裂することなく,体細胞分裂 を繰り返すことで多細胞体を形成することが,緑色藻類とは異なる,陸上植物に共通する形質な のです。若い胞子体は胚と呼ばれ,胚発生を行なうことが陸上植物の共通の特徴であるため,陸 上植物は有胚植物(Embryophytes)とも呼ばれます。配偶体と胞子体の 2 つの多細胞体が生活環 の中に交互に現れること世代交代と呼び,これも陸上植物の特徴です。またコケ植物以降の配偶 体や胞子体が有する頂端細胞は,3 つ以上の細胞分裂面を持つ三次元的な形態形成を行う点も, 緑色藻類との大きな違いです。一方,陸上植物の中でも,コケ植物と維管束植物では,その体制

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は大きく異なります。コケ植物は,生活史の大半を配偶体(n 世代)として過ごし,胞子体(2n 世代)は配偶体に依存していますが,維管束植物は胞子体(2n)が優占であり,配偶体は相対的 に小さくなっています(図2)。 図2 緑色植物の系統と生活環の模式図 小葉類やシダ植物の配偶体は,胞子体に比べ相対的に小さいながらも独立して生活しますが, 被子植物では配偶体は数細胞にまで縮退し,胞子体に依存しています。また維管束植物の胞子体 ではコケ植物には見られない多くの新規形質(維管束,種子,花器官,リグニンを含む二次細胞 壁)が獲得されています。このためコケ植物と維管束植物の異なる世代に形成される類似した器 官を比較する研究は行われてきたものの(Graham et al. 2000; Ligrone et al. 2012),形態学的,組織 学的類似性を指摘するに留まっていました。 動物では,陸上植物に見られるような核相の交代を伴う世代交代はなく,通常,複相世代(2n) にのみ多細胞の体を形作り,単相には単細胞の精子や卵細胞を作る,複相型生活環をもちます。 古くに分岐した異なる系統の間(例えば約 5 億年前に出現した脊椎動物の中の魚類・両生類・哺 乳類の間,脊椎動物と無脊椎動物の間でも)においても生活史は基本的に共通であり,複相世代 に構築される多細胞体には,系統的な近縁性に応じて胚発生過程の類似性や器官の形態的相同性 が認められます。そして異なる系統間における器官の相同性や胚発生パターンの類似性の比較研 究から、ドイツのヘッケルが『個体発生は系統発生を繰り返す』と表現した「ある動物の個体発 生過程は、その動物が進化してきた過程の形態的変化(系統発生)を繰り返すように進行する」 という「反復説」に代表されるような発生と進化(系統発生)を結びつける考え方が古くからあ

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K. Ishizaki & K. Sakakibara−4 りました。このような比較発生学に基づく進化の議論は,20 世紀後半における分子遺伝学や実験 発生学の成果を取り入れながら,進化発生学(エボデボ)研究分野として発展し,形態的相同性 や胚発生パターンの類似性とそれらを生み出す進化的メカニズムは,より深いレベルで理解され つつあります。近年では,約 10 億年前に分岐した海棉動物のような単純な体制をもつ動物のゲノ ムにさえも,より複雑な動物で形態形成に関与するホメオボックス遺伝子を始めとする制御遺伝 子やその原型ともいえる遺伝子が多く存在することが明らかになっています(Carroll et al. 2003; Fortunato et al. 2014)。複雑かつ多様なボディプランの進化は,(主に)新たな機能をもつ新たな遺 伝子の獲得によるものではなく,既に獲得されていた共通の遺伝子セットのアミノ酸置換を引き 起こす変異(Ronshaugen et al. 2002)や,使い方(いつ,どこで働くか)の変化によるものだと考 えられるようになりました(Carroll 2008; De Robertis 2008; Shubin et al. 2009)。例えば多くの動物 門で共通して眼の発生に用いられている Pax6 遺伝子(Halder et al. 1995a; 1995b)に見られるよう に,発生プロセスを制御する共通の遺伝子セット(ツールキット)を中心とした遺伝子制御ネッ トワークは,節足動物や脊索動物など 5 億年以上前に分岐した高次の系統間でも,多くの場合, 共通していることが明らかとなっています。過去 20 年にわたる動物の発生進化学研究の成果によ り,多様な動物の系統における発生プロセスの変更は,ツールキット遺伝子発現の時空間的変化 や,時には,別の局面での転用・再利用(コ・オプション)によってもたらされると考えられる ようになってきたのです。 1990 年台からシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を始めとする被子植物モデル植物種にお ける形態形成の仕組みについて分子レベルの理解が飛躍的に向上しました。続いて,シロイヌナ ズナで同定された形態形成遺伝子の起源を探るために,被子植物以外の陸上植物を材料とした相 同遺伝子探索が行なわれるようになりました。例えば,被子植物の生殖器官である花の発生にお いて,花芽形成のマスター制御因子 LEAFY/FLORICAULA 遺伝子や,花器官の形成を担う MADS ボックス遺伝子について,コケやシダ植物にもその相同遺伝子が存在することが明らかとなり, その発現様式や機能の保存性についての解析が進められています(Tanahashi et al. 2005; 荒木 2012; Hasebe et al. 1998; 長谷部 2002)。さらに 2000 年台に入り,シロイヌナズナを始めとする被 子植物だけでなく,小葉類,コケ植物,緑藻など様々な植物種のゲノムが解読されると,体制や 生活様式が大きく異なる陸上植物の系統間で,発生制御関連の遺伝子の多くが保存されているこ とが明らかになってきました(Floyd and Bowman 2007; Rensing et al. 2008; Banks et al. 2011)。2000 年台中頃になり,コケ植物の中でいち早く遺伝子機能解析の実験系が確立された蘚類ヒメツリガ ネゴケ(Shaefer and Zryd 2001)を材料として,被子植物の胞子体で発生制御に関わる様々な遺伝 子の相同遺伝子について機能解析が進められ,被子植物とコケ植物での遺伝子機能の共通性や違 いが議論できるようになりました。特に,近年では,コケ植物では配偶体で機能する遺伝子が, 被子植物では胞子体での機能を獲得したコ・オプション(転用・再利用)の例が報告され始めて います。例えば,シロイヌナズナの胞子体における根の表皮細胞から分化する根毛の形成を制御 するクラス VIII basic-helix-loop-helix 転写因子のヒメツリガネゴケにおけるオーソログ遺伝子(オ ーソログとパラログについては、本総説集、榊原・古水の解説を参照)が,配偶体の表皮細胞か ら分化する仮根の形成を制御していることが報告されました(Menand et al. 2007)。そして被子植 物胞子体の根毛細胞を形成するクラス VIII basic-helix-loop-helix 転写因子を中心とした遺伝子制御

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ネットワークとコケ植物配偶体の仮根のような糸状の細胞を形成する遺伝子制御ネットワークが, ほぼ共通していることも示されています(Tam et al. 2015)。このことは,配偶体を本体とする陸 上植物の共通祖先で機能していた遺伝子制御ネットワークが,被子植物胞子体の細胞分化制御に コ・オプションされた一例と考えられます。現在のところ,緑藻やコケ植物における遺伝子セッ トの存在様式や機能についての知見はまだまだ不足しており,植物におけるボディプラン進化の 全容解明は始まったばかりです。近年,次世代シーケンサー利用の拡がりにより緑色植物の様々 な系統のゲノム解読が進んでいます。また,タイ類ゼニゴケなど新しいモデル種における研究基 盤の構築(Ishizaki et al. 2016)も見逃せません。シダや裸子植物においても形質転換系が確立さ れ(Plackett et al. 2014; Tang and Newton 2003),遺伝子機能解析の道が拓かれました。今まさに植 物の発生進化研究は新たな局面に入ったといえます。

本総説集は,日本植物学会第 78 回大会(2014 年 9 月)で開催されたシンポジウム「古い酒を 新しい革袋に~preexisting gene regulatory network の転用による陸上植物のボディプラン革新」の 内容をもとに総説として取りまとめたものです。このシンポジウムは,近年,植物の発生進化を 理解する上で重要な日本発の研究が相次いで報告された動向を踏まえ,ようやく端緒についた植 物の発生進化学,特に「遺伝子制御ネットワークの獲得とそのコ・オプションによる植物進化モ デル」を議論することを意図して企画しました。講演者には,オーガナイザー2 人に加え,植物 ゲノム研究の第一人者である西山智明博士,シャジクモ藻類のゲノム解読で世界初の成果を挙げ た堀孝一博士,ゼニゴケのモデル植物化の立役者であり陸上植物における環境応答の仕組みと進 化を研究している河内孝之教授,陸上植物で獲得された細胞分化を制御する遺伝子制御ネットワ ークについて大きな発見をされた大谷美沙都博士といった気鋭の研究者を選びました。 本総説集の内容ですが,堀孝一博士と太田啓之博士の総説では,2014 年に初めてベールを脱い だ車軸藻植物門の一種クレブソルミディウム全ゲノム解読の成果について解説されています。榊 原恵子博士の総説では,植物の進化における複相の複雑化について,河内孝之博士,大谷美沙都 博士の総説では,コケ植物の実験系を用いた研究から見えてきた陸上植物に共通する遺伝子制御 ネットワークとその世代を超えたコ・オプションによる進化を支持する具体的な研究例が解説さ れています。 今後,新たな植物種でのゲノム情報の更なる蓄積や,様々な生物種間での遺伝子機能の比較研 究が進み,植物の発生進化研究がますます加速することが期待されます。これらの総説を通じて, 植物における発生進化学の新たな潮流を感じていただければ,オーガナイザー一同,これ以上嬉 しいことはありません。

謝辞

本稿の作成にあたっては,緑色藻類の分類体系の扱い方について,坂山英俊博士(神戸大学大学 院理学研究科)から多くのコメントをいただきました。また図の作成にご協力いただいた大学院 生の高見英幸さん(神戸大学大学院理学研究科)と本稿に有益なコメントをいただいた古水千尋 博士(Max Planck Institute for Plant Breeding Research)に感謝いたします。

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K. Ishizaki & K. Sakakibara−6

引用文献

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車軸藻クレブソルミディウムのゲノムから見た植物の陸上化

堀孝一

1

, 太田啓之

1,2 1

東京工業大学・大学院生命理工学研究科

現在の所属:東京工業大学・生命理工学院

〒226-8501 横浜市緑区長津田町 4259 B-65

2

東京工業大学・地球生命研究所

〒152-8550 東京都目黒区大岡山 2-12-1-IE-1

Koichi Hori

1

& Hiroyuki Ohta

1,2

Klebsormidium flaccidum genome reveals genome evolution for plant terrestrial adaptation

Key words: charophyte, klebsormidium, genome analysis, land colonization

1Tokyo Institute of Technology, Department of Biological Sciences.

Present address : Tokyo Institute of Technology, School of Life Science and Technology 2 Tokyo Institute of Technology, Earth-Life Science Institute.

地球における生命の歴史において,生命の陸上進出は多様な種を生み出し,現在の生物多 様性の礎となっている。最初の生命の陸上進出の過程はいまだ不明な点が多く,植物よりは るか先にバクテリアの陸上進出があったと考えられている(Battistuzzi & Hedges 2009)。しかし ながら,動物をはじめとした複雑な陸上生物を発達させ,今日の地球環境を形成するに至っ た直接の原動力として,光合成によって二酸化炭素を固定し有機物を合成できる植物の陸上 進出は大きな役割を果たした事は確かである。本総説では植物の陸上化を解明するにあたっ て 重 要 な 位 置 づ け に あ る 車 軸 藻 植 物 門 の う ち , ク レ ブ ソ ル ミ デ ィ ウ ム(Klebsormidium flaccidum)のゲノム解読と他生物との比較の結果を紹介する。

1.植物の陸上化について

植物の陸上進出がいつ起きたのかは定かではなく,分子系統解析から有胚植物(陸上植物) の出現の推定年代も諸説あるのが現状である。しかしながら,分子系統解析と胞子の化石よ り約4 億 7 千万年前にはすでに現生の陸上植物の共通祖先は誕生していたと考えられている (Rubinstein et al. 2010, Clarke et al. 2011, Magallón et al. 2013, Edwards & Kenrick 2015)。

陸上は,乾燥はもちろん強い紫外線,大きな温度変化,重力,栄養の欠乏など様々なスト レスが存在する過酷な環境であり,植物が陸上進出するにあたって,これらのストレスに適 応する必要があったと思われる。植物の陸上化はこのような当時の陸上環境に大きく影響を 受ける一方,酸素濃度の増大(Parnell & Foster 2012),二酸化炭素固定,風化作用や堆積(Scott & Glasspool 2006)など地球環境の形成に大きく寄与し,相互に深く影響を及ぼしあったと考え られる。

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K. Hori & H. Ohta-2

2.陸上植物の起源

陸上植物は緑色藻類の一群から分岐し,現在の多様な陸上植物へと発展してきたが,どの ような植物が陸上に進出し,どうやって陸上環境に適応し発展を遂げていったのだろうか。 その解明には陸上植物に近い藻類の特性を明らかにし,他の藻類や陸上植物と比較すること が重要なアプローチの一つとして期待される。 多様な藻類が存在する中で細胞分裂の特徴や系統解析から車軸藻植物門(Charophyta)に属 する藻類が陸上植物に最も近いと考えられている(Lewis & McCourt 2004, Leliaert et al., 2012) 。(車軸藻植物は多系統群であり,分類上の表記はまだ統一されてはないが,本稿では Lewis & McCourt 2004 の分類に基づき車軸藻植物の分類を表記した。)車軸藻植物門はクロロ

キブス藻綱,クレブソルミディウム藻綱,コレオケーテ藻綱,接合藻綱,シャジク藻綱の 5

つの綱が含まれる(図1)。このなかで後者の3 つは特に陸上植物に近いとされ,そのうちど の綱が陸上植物の姉妹群であるかは長らく議論が続いてきた。近年,転写産物情報の蓄積と ともに,より精度の高い解析が行われ,現在は接合藻綱が陸上植物の姉妹群とする説が有力 となっている (Timme et al. 2012, Wickett et al. 2014) 。実際,31 種類の保存された配列に基づ いた図1の解析結果もそれを支持している。 我々は陸上化にいたる過程のより初期に,どのような遺伝子を獲得したのかという観点で 植物の陸上進出について研究を進める事を考え,これらの車軸藻植物のうち比較的初期に分 岐し,多細胞性であるがシンプルな体制を持つクレブソルミディウムのゲノム解読を進めた。

3.クレブソルミディウムとは

クレブソルミディウムは糸状性の多細胞の藻類であり,遊走子による無性生殖は報告され ているが,細胞分化や有性生殖は報告されていない(図2a)。生息環境は淡水および陸上の 湿潤な環境であり,世界中に分布する。藻類ではあるが,ある程度陸上環境に適応した気生 藻類であり,乾燥(Morison & Sheath 1985, Elster et al. 2008, Karsten & Holzinger 2012)や凍結

図1 31 種類の保存されたタンパク質による系統樹

21 生物種に共通して保存された核コードのタンパク質配列(一部 EST 配列から推定)を基に作 成した最尤系統樹 (Hori et al. 2014. Fig. 2 を改変)

タテブエ (EST) アオミドロ (EST) フラスコモ (EST) ケートスフェリディウム (EST) コレオケーテ (EST) クレブソルミディウム クロロキブス (EST) ミクロモナス オストレオコッカス ヒメツリガネゴケ クロレラ クラミドモナス イヌカタヒバ フェオダクチラム シアニディオシゾン シロイヌナズナ ポプラ イネ ボルボックス シオミドロ コンドラス 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 88 100 97 93 93 100 55 0.2 クレブソルミディウム (EST) 紅藻 緑藻 有胚植物 (陸上植物) ⾞軸藻 植物⾨ 2次共⽣藻 シャジク藻綱 接合藻綱 コレオケーテ藻綱 クレブソルミディウム藻綱 クロロキブス藻綱

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(Elster e ると再び ト壁や路 の多い所 2b, c)。 適応して 境への適 興味深い 陸上植物 ウムも独 ミディウ 真に共通 がある。

4.車軸

我々は flaccidum 表記した anium と Mb の転 olds, ピ ゲノム ソルミデ ミドライ 配列決定 写産物情 117 遺伝 などから genesis.b

5.ク

ゲノム 種の藻類 において った結果 事が明ら ると,陸 が増加し et al. 2008, N び増殖する事 路面などで水 所にしばしば 。どのような ているのか明 適応を明らか い。ただし, 物が分岐して 独自の進化を ウムと陸上植 通派生形質で

軸藻植物門

は国立環境研 m NIES-228 た。)を用い と Illumina G 転写産物配列 ピークカバー (約106 kbp ディウムの核 イブラリーの 定が困難な反 情報や配列解 伝子,ミトコ ら,これら1 bio.titech.ac.

レブソルミ

ム解析の次の 類と比較した て,藻類のみ 果,クレブソ らかとなった 陸上植物は藻 しているこ Nagao et al. 2 事ができる。 水抜きパイ ば群集を形成 な機構によ 明らかでは かにしてい ,クレブソル てから,ク を遂げてお 植物に共通 であるのか注

門 Klebsorm

研究所微生物 85 株(以下 いてドラフト GAIIx の超 列を取得した ー率:40 倍)の p),転写産 核ゲノムサイ の端読みの 反復配列領域 解析などか コンドリアの 16,215 遺伝 .jp/~algae_ge

ミディウム

の段階とし た。これら みに存在す ソルミディ た(図3)。 藻類より多 とが,総遺伝 2008)などス 。非常に身 プの脇など 成している り,陸上環 ないが,陸 くうえで非 ルミディウ レブソルミ り,クレブ している形 注意を払う

midium flacc

物系統保存 本稿では K トゲノム配列 並列シーケ た。これらの の核ゲノム配 物(17,422 イズは核の 結果 20%強 域などを除 らタンパク の35 遺伝子 子の機能予 enome_proje

と他生物種

て,クレブ の生物の全 るタンパク ウムの 1,23 また各生物 くの遺伝子 伝子数と遺 図 a. K b. c. トレスの強 身近な藻類で ど湿気 (図 環境へ 陸上環 非常に ムと ディ ブソル 形質が, 必要

cidum(クレ

存施設より分 K. flaccidum 列の解読を行 ンサーを用 の配列をアセ 配列と葉緑 座位, 約 2 蛍光染色像 強程度の反復 除いてゲノム 質をコード 子を予測し, 予測を行った ect/klebsorm

種の遺伝子

ソルミディ 全タンパク質 質か陸上植 38 タンパク 物種内の類似 子を保持して 遺伝子ファミ 図2クレブソ K. flaccidum N クレブソルミ ていたコンク (b)から採取し 強い環境でも でもあり,直

レブソルミ

分譲を受ける NIES-2285 行った。ゲノ 用いて約 6.1 センブルした 緑体ゲノム( 1 Mb)を再 像から約117 復配列領域が ムのほぼ全域 ドする核ゲノ 既知の機能 た(Hori et al midium/)。

比較解析

ウムの遺伝 質配列をクラ 植物のみに存 質(約 8 % 似遺伝子を遺 ているが,主 リー数をプ ルミディウム NIES-2285 株 ミディウムと思 クリート路面 した藻類の顕微 もある程度耐 直遮光の当た

ディウム)

ることができ 株をクレブ ノム解読には Gb のゲノ た結果約10 約181 kbp) 再構築する事 Mbp 程度と があると推定 域の解読が完 ムの16,063 能が明らかな . 2014, http 伝子を 5 種の ラスタリング 存在するタン %)は陸上植 遺伝子ファミ 主に遺伝子重 プロットする ムの顕微鏡写 (固体培地にて 思われる藻類 微鏡写真 耐え,環境が たらないコン

)のゲノム

きる Klebsor ブソルミディ は454 GS ム配列と, 04 Mbp(18 ),ミトコン 事ができた。 と推定され, 定されたこ 完了した。つ 3 遺伝子,葉 な遺伝子との p://www.plan の陸上植物お グし,比較生 ンパク質か分 植物に特異的 ミリーとして 重複により遺 る事ではっき 写真 て生育) 類が生育し が良くな ンクリー

ム解読

rmidium ィウムと FLX Tit 約 578 812 scaff ンドリア クレブ ,フォス とから, ついで転 葉緑体の の類似性 ntmorpho および 9 生物種内 分類を行 的である てまとめ 遺伝子数 きりと見

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て取れる はあまり 境に応答 物である の推移と の比較解 また我 質ドメイ 合わせパ 打ちにな かとなっ ターンを に共通す の藻類よ が陸上植 図3 15 生 藻類 る(図4)。ク り変わらなか 答していく過 るゼニゴケは と植物の陸上 解析がキーポ 我々は遺伝子 インの構成に パターンと総 なっているが った(図5) を藻類がどれ する 90.7%の より2〜3 割 植物に共通の 3 15 生物種 生物種の全タン 類と陸上植物の クレブソル かったこと 過程で有効 は遺伝子の重 上化の関与 ポイントと 子ファミリー についても比 総遺伝子数 が,その組み 。また解析 れだけ獲得 のドメイン 割程度高いこ のタンパク質 種間での遺伝 ンパク質配列を のどちらに特有 K. H ミディウム から,遺伝 に働いたの 重複が少な を明らかに なっていく ーのほか, 比較解析を をプロット み合わせパ 析した5 種の しているか と 84.3%の ことが分かっ 質の機能を 子比較 をクラスタリン 有であるかを基 Hori & H. Oh は他の藻類 伝子重複は植 ではないか いとの報告 するために であろう。 タンパク質 行った。各 した結果, ターンは被 の陸上植物に かを調べた結 ドメインの った(図6) 作るうえで ングし,クラス 基にして分類を hta-4 類と遺伝子数 植物が組織分 かと考えられ 告もあり(大 にはより多く 質を構成する 各生物種のド ドメインの 被子植物でさ に共通するド 結果,クレブ の組み合わせ 。これらの で多くの基本 スター内の他生 を行った。 (Ho 図4 15 遺伝子 各生物 ファミ と遺伝 した。藻 ている。 似曲線で 数あたりの遺 分化を獲得し れる。しかし 大和・河内, 2 の車軸藻植 るパーツと考 ドメインの種 の種類数は陸 さらに増加し ドメインや, ブソルミディ せパターンを のことはクレ 本的なパーツ 生物種のタンパ ori et al. 2014. F 生物種の総 ファミリー数 種内の類似遺 リーとしてま 子ファミリー 藻類は図3と同 。点線は藻類の である。 遺伝子ファミ し,陸上の複 しながら基部 2012),遺伝 植物と基部陸 考えられるタ 種類数や,そ 陸上植物です していること その組み合 ィウムでは陸 を獲得してお レブソルミデ ツをすでに獲 パク質が, Fig. 3a を改変 総遺伝子数と 数のプロッ 遺伝子を遺伝子 とめ,総遺伝子 ー数でプロッ 同じ種を使用 のプロットの近 ミリー数 複雑な環 部陸上植 伝子重複 陸上植物 タンパク その組み すでに頭 とが明ら 合わせパ 陸上植物 おり,他 ディウム 獲得して ) ト 子 子 ト し 近

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いることを意味する。クレブソルミディウムは車軸藻植物の中で早いうちに分岐し,非常に シンプルな体制であるにもかかわらず,陸上植物特有の様々なシステムを,原始的な形であ ったとしても予想以上に獲得しているかもしれない。 以上の結果をまとめると,植物が陸上に適応していく過程で遺伝子の多様性の獲得は,次 の3 段階のステップに分けられると考えられる(図7)。 i) 陸上植物の共通祖先である緑藻からクレブソルミディウムが分岐するまでの間は遺伝子 数の増加が遺伝子の種類の増加をもたらしたと考えられる。 ii) コケ,シダ植物のように陸上環境により適応し,組織分化が形成されるには,同遺伝子族 の中でバリエーションを増加させ,細かな機能調節や発現調節を可能にしたと考えられる。 iii) 種子植物のような高度な陸上環境への適応と組織分化を可能にするには既存のパーツの 新しい組み合わせを生み出し,新しい機能の遺伝子を生み出したことが重要だったと考えら れる。 このような過程の中でクレブソルミディウムの祖先は,陸上植物が多細胞体の構築や陸上環 境に適応するために発達させていった遺伝子,あるいはそのパーツの多くをすでに獲得して いた事が推定された。 図5 15 生物種の総遺伝子数と ドメインの種類数およびドメイ ンの組み合わせ数のプロット 各生物種内の全タンパク質の pfamA および pfamB を検索し,ドメインの 種類数および組み合わせパターンを カウントした。藻類は図3と同じ種を 使用している。多くの藻類において, ドメインの種類数よりもドメインの 組み合わせパターンが少なくなって いるのは,ドメインの組み合わせパタ ーンが少なく決まった組合せが多い ためである。 0 2000 4000 6000 8000 10000 0 10000 20000 30000 40000 50000 イネ シロイヌナズナ ポプラ ヒメツリガネゴケ クレブソルミディウム 藻類 ⼩葉類 コケ植物 被⼦植物 ド メイン 数 およ び ド メイン の組 み合 わせ数 総遺伝⼦数 イヌカタヒバ 藻類 陸上植物 ドメイン数 ドメインの組み合わせ数 図6 陸上植物に共通する ドメインおよびドメインの 組み合わせの獲得率 ヒメツリガネゴケ,イヌカタヒ バ,イネ,ポプラ,シロイヌナ ズナに共通する pfam ドメイン (4,894 ドメイン)および,ドメイ ンの組み合わせパターン(2,801 パターン)のうちそれぞれの藻類 で獲得している割合。 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 : 4,894 domains (%) 陸上植物に共通するドメイン数陸上植物に共通するドメイン組み合わせ: 2,801 combinations ドメ イ ン 獲 得 の 割 合

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6.ク

クレブ 境応答, ているも 中でも こでクレ 物ホルモ モンの測 リチル酸 さらに植 の受容体 植物ホル その一 存 性タ PYR/PY ルモン情 ストーク 経路は陸 な経路と クレブソ る過程で る。 陸上 共通 (緑

クレブソル

ブソルミディ 細胞壁合成 ものや,陸上 も植物ホルモ レブソルミデ モン合成系が 測定を行った 酸と多数の植 植物ホルモン 体,輸送系や ルモン応答が 一方でTIR1 ン パク 質分 YL/RCAR も 情報伝達にお クを生み出す 陸上植物の主 とは異なった ソルミディウ で,植物ホル 緑藻 上植物の 通祖先 緑藻)

多細

A

ミディウム

ィウムの遺伝 成,植物ホル 上植物特異的 モン情報伝達 ディウムにお が存在してい た結果,オー 植物ホルモ ンのシグナル や情報伝達系 が存在してい 1(オーキシ 分解 を介 し 存在してい おいて主要 す経路とし 主要な情報伝 た原始的な植 ウムの植物 ルモンの起源 図7 植物 クレブソ 陸上化に関 遺伝⼦の種 A B C i)

細胞化?

K. H

ムにおける

伝子と藻類 ルモン関連 的なものが 達は陸上植 おいて植物 いることが ーキシン, ンがクレブ ル情報伝達 系が存在し いることが シン受容体), た情 報伝 達 いないことが な経路を担 ても知られ 伝達経路を 植物ホルモ ホルモンの 源や役割を 物の陸上化の ソルミディウ 関わる 種類の増加 ii)遺伝

陸上化?

Hori & H. Oh

植物ホルモ

類,陸上植物 連因子などに 多い傾向が 植物の環境応 物ホルモンの 推定された アブシジン ブソルミディ 達系の関連因 ており,ク 示唆された ,COI1(ジ 達経路 の多 が明らかとな 担っていると れている。ク 獲得する前 ン伝達経路 作用や伝達 どのように 過程と遺伝子 ウム コケ植 伝⼦種内の リエーション A B C A B

?

hta-6

モン関連因

物の遺伝子を に関わる因子 が明らかとな 応答において の合成系遺伝 た。またクレ ン酸,サイト ウムに存在 因子の詳細な レブソルミ た(図8)。 ジャスモン酸 多 くが存 在し なった。これ 考えられて レブソルミ 前段階にある 路である可能 達経路を明ら に発達させて 子多様性の獲 植物、⼩葉類 iii) ンの増加 A Bʼ C Aʼ B 新し 組み

を比較した結 子に,陸上植 なった(Hori e て重要な役割 伝子を探索し レブソルミデ トカイニン, 在することが な解析を行っ ディウムに 酸受容体)な し ておら ず れらの受容体 ており,植物 ディウムの ると考えられ 能性が考えら らかにし,植 てきたか解明 獲得 類 被 しいドメイン み合わせの獲 A Bʼ C Aʼ B D E 結果,情報伝 植物で大幅に et al. 2014)。 割を担ってい した結果,主 ディウムの植 ジャスモン が明らかとな った結果,い においても何 などのユビキ ず,ABA 受 体は,現在の 物ホルモン間 の植物ホルモ れ,陸上植物 られる。次の 植物が陸上に 明していくこ 被⼦植物 ンの 獲得 ʼ ʼ 伝達,環 に増加し いる。そ 主要な植 植物ホル ン酸,サ なった。 いくつか 何らかの キチン依 受容 体の の植物ホ 間のクロ モン伝達 物の主要 課題は, に進出す ことであ

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7.クレブソルミディウムにおける転写因子

植物ホルモンの他に,転写因子も環境応答に関わる非常に重要な因子である。Plant Transcription Factor Database v3.0 (Jin et al. 2013)の分類法に基づいて 58 種類の転写因子の同定 を行った結果,クレブソルミディウムから266 遺伝子の転写因子が同定された(図9)。他の 藻類と比べると若干多いものの,陸上植物と比較すると圧倒的に少ない。全遺伝子に占める 割合も約1.5%と他の藻類と同程度であり,陸上植物の全遺伝子に占める転写因子の割合より 少ないものであった。しかしながらその種類を比較すると,他の藻類より格段にバリエーシ ョンが増えていることがわかる(図10a)。またクレブソルミディウムと陸上植物の共通祖 図9 15 生物種において検出された転写因子数 図内の数値は全遺伝子に占める転写因子の割合を示す。 図8 クレブソルミディウムに検出された植物ホルモンと類似遺伝子が見出された 情報伝達因子 植物ホルモンのうち検出されたものは水色のボックスで示した。エチレンは未測定である。陸上植 物で明らかとなっている情報伝達因子のうち,クレブソルミディウムで類似遺伝子が存在していた ものを緑で示した。点線は類似遺伝子が見つかっていない。 PYR/PYL/RCAR オーキシン ARF IAAs 植物ホルモン応答遺伝⼦の発現 PIN AUX1 COI1 MYC JAZ GID DELLA エチレン ETR1 CTR1 EIN2 EBF1 TIR1 ABP1 PIF ROP EIN3 growth regulation ジャスモン酸 ジベレリン SCF complex CUL1 ASK1 RBX AREB/ABF アブシシン酸 サリチル酸 サイトカイニン NPR3/4 NPR1 AHP TypeA ARR TypeB ARR CRFs PP2C SnRK2 GTG CUL3 ? phytochrome CRE1,AHK ? ?

陸上

植物

藻類

シアニディオシゾン コンドラス シオミドロ フェオダクチラム オストレオコッカス ミクロモナス クロレラ クラミドモナス ボルボックス クレブソルミディウム ヒメツリガネゴケ イヌカタヒバ イネ ポプラ シロイヌナズナ 1.5% 0.8% 0.8% 1.2% 1.2% 1.4% 1.6% 1.1% 0.8% 1.5% 4.3% 5.8% 6.1% 転写因⼦数 3.3% 2.9% 0 500 1000 1500 2000 2500 3000

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K. Hori & H. Ohta-8 先が分岐した後にも転写因子の種類の増加がみられ,植物の陸上化の前後で転写因子の種類, 数が増加し,多様な遺伝子制御を身に着けたことが伺える。さらに転写因子に限ったドメイ ンの組み合わせ数をプロットした結果,被子植物ではドメインの組み合わせパターンを増加 させており,転写因子の多様化は項目5で述べた遺伝子の多様性の獲得過程の典型的な例と 考えられた(図10b)。このような転写因子の種類増加や,組み合わせパターンの増加は, 急激に遺伝子ネットワークを指数的に複雑化させた事は間違いないであろう。このことは, 陸上に進出した植物が,様々なストレス環境に柔軟に適応し,様々な組織を分化させ,多様 な細胞の状態を実現できるようになった大きな要因と考えられる。以上の結果から,陸上植 物との車軸藻植物の共通祖先のなかで,比較的早くに分岐したクレブソルミディウムがシン プルな体制を持つにもかかわらず,陸上植物の礎となる基本的な遺伝子制御ネットワークを 獲得しており,陸上環境に適応していく過程で遺伝子重複とドメインの組み合わせ方を利用 して,既存の遺伝子制御ネットワークを転用して発達させていったという陸上進出のための 戦略が見えてくる。今後植物ホルモンの発達と同様,クレブソルミディウムの転写因子が何 に応答し,何を制御しているのか明らかにすることが重要となってくると思われる。

8.今後の展望

クレブソルミディウムのゲノム解読により,植物の陸上進出前の段階ですでに陸上化を可 能とするような因子が出現していることが分かってきた。クレブソルミディウム以外にも車 軸藻植物のゲノム解読が進んでおり,今後陸上進出の過程で起きたゲノムの変化をより詳細 に調べることができるようになっていくだろう。今後さらに植物の陸上化を明らかにしてい くためには,これらの因子が陸上化前の車軸藻植物にどのような影響を与えたのか解明する ことが次の段階であると思われる。車軸藻植物は淡水と陸上との際に生息しているものが多 く,部分的ながらこれらの因子が半陸上状態の生育に有利であり,徐々により厳しい陸上環 図10 15 生物種の転写因子の種類数,ドメインの組み合わせ数と総遺伝子数の関係 a. 各生物種内の転写因子の種類数と総遺伝子数のプロット b. 各生物種内の転写因子におけるドメインの組み合わせ数と総遺伝子数のプロット 58

a

b

クレブソルミディウム 藻類 ヒメツリガネゴケ イヌカタヒバ シロイヌナズナ ポプラ イネ ポプラ イネ イヌカタヒバ ヒメツリガネゴケ クレブソルミディウム 藻類 シロイヌナズナ 0 100 200 300 400 0 20000 40000 60000 0 10 20 30 40 50 0 20000 40000 60000 転写 因 ⼦ の 種 類 数 転写 因⼦の ド メイ ンの 組み合わせ数 総遺伝⼦数 総遺伝⼦数

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境に生育を広げていくにあたって,機能の多様化や強化を成し遂げた事が考えられる。また 他の可能性として,前適応として共通祖先では異なる機能を担っており,陸上化にあたって 予想外に有利に働いた因子がある可能性も考えられる。個々の具体的な因子の進化過程を明 らかにするためには,実験的にその機能を実証することが必要であり,遺伝子操作系を確立 し,培養法,実験系もより扱いやすくしていくことが必須である。このことは植物の陸上化 の解明のみならず藻類研究の発展にも大きく貢献するであろう。車軸藻植物門では接合藻綱 のヒメミカヅキモ,タテブエが,それぞれパーティクルボンバードメント法,アグロバクテ リウム法によって形質転換に成功しており(Abe et al. 2011, Sørensen et al. 2014),我々もクレブ ソルミディウムで急ぎ形質転換系の確立を進めている。今後クレブソルミディウムを初めと して様々な車軸藻植物がモデル藻類として確立し,植物の陸上化を含め,生物進化のありか たが垣間見えることを期待している。

謝辞

本研究は日本学術振興会,平成21年度~平成25年度グローバルCOE プログラム「地球 から地球たちへ」の一環として推進され,平成23年度から現在まで科学技術振興機構,戦 略的創造研究推進事業(CREST) 「植物栄養細胞をモデルとした藻類脂質生産系の戦略的構築」 の一環として加速的に推進されている。また一部は平成24年度からの文部科学省WPIプ ログラム,地球生命研究所に引き継がれている。なお Klebsormidium flaccidum NIES-2285 は国立環境研究所,微生物系統保存施設より分譲頂いた。また本研究はクレブソルミディウ ム解析チーム(http://www.plantmorphogenesis.bio.titech.ac.jp/~algae_genome_project/klebsormidiu m/kf_team.htm)による共同研究であり,全員の多大な貢献があっての研究となった。ここに記 して深く感謝の意を表したい。

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Acad. Sci. USA 111, E4859-E4868.

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K. Sakakibara and C. Furumizu- 1

TALE 型ホメオボックス遺伝子族の進化による陸上植物複相の複雑化

榊原恵子

1*

・古水千尋

2

1

金沢大学学際科学実験センター 〒920-0934 金沢市宝町 13-1

*

現所属:立教大学理学部 〒171-8501 東京都豊島区西池袋 3-34-1)

2

Max Planck Institute for Plant Breeding Research

Carl-von-Linné-Weg 10, 50829 Cologne Germany

The evolution of TALE homeobox transcription factors contributes to the increase in the complexity of

the diploid body plan in land plants

Key words: Alternation of generations; Evolution of sporophytes; Gene duplication; KNOX; BELL

Keiko Sakakibara

1*

, Chihiro Furumizu

2

,

1

Advanced Science Research Center, Kanazawa University, Kanazawa 920-0934, Japan

(

*

Current address: Rikkyo University,

3-34-1 Nishi-Ikebukuro,Toshima-ku, 171-8501

,

Tokyo Japan)

2

Max Planck Institute for Plant Breeding Research

Carl-von-Linné-Weg 10, 50829 Cologne, Germany

1.遺伝子重複は進化の原動力

遺伝子重複は新規遺伝子獲得の原動力であると考えられてきた (Ohno 1970)。重複によって増えた 遺伝子の多くは偽遺伝子化 (Pseudogenization)によって消失するが,重複に由来する2つの遺伝子がオ リジナルの遺伝子が担っていた機能を役割分担するようになる機能分化 (Subfunctionalization)や,重複 により増えた遺伝子の片方がもともと担っていた機能を維持する一方で,もう片方の遺伝子が新しい 機能を獲得する新規機能獲得 (Neofunctionalization)が起こることが知られている(図1)。遺伝子重複 に伴う機能分化や新規機能獲得が転写因子に起こると,下流の遺伝子発現が大きく変化する結果,そ の生物に新しい形質の獲得 をもたらす原動力となりう る。陸上植物においても, 遺伝子重複後の機能分化や 新規機能獲得が既存の遺伝 子制御ネットワークをより 複雑にし,その進化に貢献 し た と 考 え ら れ て い る (Rensing 2014)。また,同じ 種内で重複により生じた相 同遺伝子はパラログと呼ば れ,種分化によって生じた オーソログとは区別される。 図1 遺伝子重複によって増えた遺伝子のたどる運命。 重複によって増加した遺伝子の多くは片方が消失するが,機能分 化,あるいは新規機能獲得につながる場合もある。

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陸上植物は淡水性緑色藻類のシャジクモ藻類の仲間から約4億8000万年以上前に分岐したと考えら れている(Lewis and McCourt 2004; Wellman et al. 2003; Wickett et al. 2014)。シャジクモ藻類シャジクモと 陸上植物の生活環を比較してみると,シャジクモは核相が単相の世代に多細胞の配偶体を作るが,複 相の世代は単細胞の接合子のみである。一方で,陸上植物は複相の世代も多細胞の胞子体を形成する。 陸上植物の進化の初期に他の系統から分岐したと考えられるコケ植物では生活環の大半は単相の配偶 体で,胞子体は小さく,配偶体上に依存的に形成される。これに対し、被子植物では複相の胞子体が 生活の主となり,配偶体は数細胞にまで退化している(Graham et al. 2000)(本総説集中の石崎と榊原の 図2を参照)。このことから,陸上植物の進化の過程で複相の植物体の多細胞化と巨大化が起きたと考 えられる。本総説では陸上植物の複相世代の進化に貢献したと考えられる2つのホメオボックス型転 写因子,KNOX遺伝子族とBELL遺伝子族の遺伝子重複とその後の遺伝子進化について紹介する。

2.緑色植物のTALE型ホメオボックス遺伝子にみられる遺伝子重複:KNOX遺伝子とBELL遺伝子

ホメオボックス型転写因子は真核生物が共通に持つ起源の古い転写因子の一つであり,真核生物の 共通祖先において,DNA結合能を示すホメオドメインの第1へリッックスと第2ヘリックスの間に3 アミノ酸残基の挿入を含むTALE型ホメオボックス遺伝子と3アミノ酸残基の挿入がない非TALE型 ホメオボックス型遺伝子に分かれていたと考えられている(Derelle et al. 2007)。植物ではTALE型転写因 子はKNOX遺伝子族とBELL遺伝子族に分かれており,いずれも緑色植物と単細胞紅藻シアニディオシ ゾンCyanidioschyzon merolaeで広く保存されている(図2; Mukherjee et al. 2009; Sakakibara 2016)。緑藻類 と異なり、陸上植物の系統ではKNOX遺伝子族は遺伝子重複によりKNOXクラス1遺伝子亜族 (KNOX1)とKNOXクラス2遺伝子亜族(KNOX2)に分岐している(図2; Mukherjee et al. 2009)。コケ 植物と維管束植物の共通祖先ではKNOX1遺伝子亜族とKNOX2遺伝子亜族の遺伝子数はそれぞれ1個 ずつであったと推定されるが, その後に起こった遺伝子重複の結果, 種子植物ではさらに遺伝子数が

の分子系統解析の結果 (Mukherjee et al. 2009; Sakakibara 2016)に基づく。シダ類の全ゲノム解読は現 在進行中であり,今後,BELL/KNOX 遺伝子数が明確になると期待される。 図2 紅藻及び緑色植物 における BELL/KNOX 遺伝子族の遺伝子数の 変遷。 紅藻と現生緑色植物の 代表的な分類群の系統 関係と分岐時点で存在 し た と 推 定 さ れ る BELL/KNOX 遺伝子の 数を示す。推定遺伝子数 は紅藻と現生緑色植物 から単離された BELL 遺伝子と KNOX 遺伝子

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K. Sakakibara and C. Furumizu- 3

増加している。KNOX遺伝子と同様に, 陸上植物のBELL遺伝子についても遺伝子重複により遺伝子数 が増加する傾向が認められる。一方,藻類のBELL遺伝子では,紅藻シアニディオシゾン,及び緑藻類 は遺伝子重複によって生じた2個のBELL遺伝子を持つが,シャジクモ藻類クレブソルミディウム Klebsormidium flaccidumでは1個存在する。分岐年代の古さから,藻類のBELL遺伝子と陸上植物の BELL遺伝子の系統関係は未だ明らかではなく, さらなる解析が待たれる。 BELL遺伝子とKNOX遺伝子の祖先的な機能を考察する上で重要な,緑藻類のTALE型ホメオボック ス遺伝子に関する研究を次の項で紹介する。

3.緑色植物の複相発生を制御する TALE 型ホメオボックス遺伝子

単細胞緑藻類クラミドモナス Chlamydomonas reinhardtii はプラスとマイナスの2つの交配型を持ち, 栄養欠乏条件下では単相の栄養細胞が配偶子へと分化する。その際に,プラス型配偶子は BELL 様タ ンパク質をコードする GSP1 (Gamete-specific plus1)遺伝子を,マイナス型配偶子は KNOX タンパク質 をコードする GSM1 (Gamete-specific minus1)遺伝子を発現する。これらのタンパク質はそれぞれの配偶 子においては細胞質に局在する。KNOX タンパク質は転写因子として働くが,自身は核移行シグナル を持たず,接合後,BELL タンパク質とヘテロダイマーを形成することで核へと移行し,接合子(複 相)特異的な遺伝子発現を調節することで複相世代の分化を制御していることが示された(Lee et al. 2008; Zhao et al. 2001)。これらの実験や緑色植物における TALE 遺伝子の配列解析の結果に基づいて, Lee ら(2008)は KNOX 遺伝子と BELL 遺伝子の進化が陸上植物の複相世代の多細胞化に重要であった という仮説を提唱している。次の項では陸上植物の生活環の進化における TALE 型ホメオボックス遺 伝子の役割を考察する上で重要な知見をもたらした,ヒメツリガネゴケの KNOX 遺伝子族と BELL 遺 伝子族に関する研究を紹介する(Horst et al. 2016; Sakakibara et al. 2013)。

図3 単細胞緑藻クラミドモナスの生活環とKNOX 遺伝子と BELL 遺伝子の役割。 Lee et al. 2008 より改変。

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4.KNOX2 遺伝子と BELL 遺伝子は陸上植物の世代交代を制御する

基部陸上植物における KNOX2 遺伝子亜族と BELL 遺伝子族の機能についてはコケ植物セン類のヒ メツリガネゴケPhyscomitrella patens を用いた解析が進んでいる。ヒメツリガネゴケゲノム中には 2 個 の KNOX2 遺伝子がコードされており(図2),いずれも複相の胞子体で発現し,その二重機能欠損変 異体は胞子体の胚発生が初期の段階で停止する。この胚を単離培養すると,核相は複相のまま胞子体 から配偶体様組織を分化したことから,KNOX2 遺伝子が複相において配偶体の発生プログラムを抑 制することで世代交代を制御していることが示された(Sakakibara et al. 2013)。 一方,ヒメツリガネゴケは4個のBELL遺伝子を持つが,そのうちの一つであるPpBELL1遺伝子を配 偶体において過剰発現させると,核相は単相のまま胞子体様組織が誘導された(Horst et al. 2016)。この 結果から,ヒメツリガネゴケのBELL遺伝子が胞子体の発生プログラムを制御することにより,世代の 切換えに関与することが示された。また,BiFC解析と呼ばれる手法でタバコの表皮細胞を用いてタン パク質間の相互作用を解析した結果,PpBELL1タンパク質と蛍光タンパク質断片との融合タンパク質 がヒメツリガネゴケのKNOX1またはKNOX2タンパク質と蛍光タンパク質断片との融合タンパク質の いずれとも相互作用可能であることが示されている。以上の結果は,ヒメツリガネゴケでもPpBELL1 タンパク質がヒメツリガネゴケKNOXタンパク質のいずれかと物理的に相互作用して世代交代を制御 している可能性を示唆する(Horst et al. 2016)。これらの研究によって,KNOX遺伝子とBELL遺伝子に よる単相と複相の切換えの分子機構が緑藻クラミドモナスと陸上植物ヒメツリガネゴケ間である程度 保存されていることが示された。

5.KNOX1 遺伝子は胞子体の分裂組織形成維持遺伝子

植物で最初に単離されたホメオボックス遺伝子はトウモロコシZea Mays から単離されたKNOX1 遺 伝子亜族に属する遺伝子である Knotted-1 であり(Vollbrecht et al. 1991),KNOX1 遺伝子亜族については 被子植物を用いた研究が多数,報告されている(Hay and Tsiantis 2010)。トウモロコシの Knotted-1 遺伝 子の報告に続いてシロイヌナズナ Arabidopsis thaliana の茎頂分裂組織が欠失する変異体 shoot meristemless (stm)の原因遺伝子として STM 遺伝子が単離され, KNOX1 タンパク質をコードしているこ

とが明らかになった(Barton and Poethig 1993; Long et al. 1996)。また,シロイヌナズナの他の KNOX1 パ ラログの機能欠損変異体であるknat1/brevipedicellus (bp)は花茎の伸長が妨げられる表現型を示し,細胞

壁合成遺伝子,特にリグニン合成経路の遺伝子発現が上昇していることから,KNAT1/BP 遺伝子は細

胞の未分化状態を適切に維持し, 花茎の細胞分化と伸長がおこる前にリグニンの沈着してしまうのを 抑制していると考えられている(Mele et al. 2003)。一方,KNAT1/BP 遺伝子をシロイヌナズナで過剰発 現させると葉に異所的に分裂組織が形成される(Chuck et al. 1996)。これらの事実から,被子植物 KNOX1 遺伝子は胞子体の茎頂分裂組織の形成維持と細胞分化の抑制に機能していると考えられてい る(Hay and Tsiantis 2010)。

基部陸上植物であるコケ植物ヒメツリガネゴケの持つ3個の KNOX1 遺伝子は胞子体の頂端細胞と 分裂組織で機能する。ヒメツリガネゴケの胞子体の分裂組織は胚発生の初期に形成されるが,後に分 裂組織が消失し,1個の胞子のうを分化して胞子体の発生を終了する。ヒメツリガネゴケの KNOX1 遺伝子はいずれもこの胞子体に一時的に作られる分裂組織で発現する。ヒメツリガネゴケ KNOX1 遺

参照

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