(研究コード番号 2002BR048)
人工光合成アンテナとナノデバイス開発:
光合成アンテナ複合体の機能とナノデバイス開発のための
アンテナ複合体の組織化
研究代表者 Richard Cogdell (グラスゴー大学:イギリス) 共同研究者 Hugo Scheer (ミュンヘン大学:ドイツ) Paul A. Loach (ノースウエスタン大学:アメリカ) 南後 守 (名古屋工業大学:日本) 橋本 秀樹 (大阪市立大学:日本) 小山 泰 (関西学院大学:日本) 柳田 祥三 (大阪大学:日本) 福嶋喜章(豊田中央研究所:日本) 梶野 勉 (豊田中央研究所:日本) 研究期間:2002年4月~2005年3月 概要 光合成膜ではタンパク質複合体がクロロフィルやカロテノイドなどの生体色素を積み木のごとく組 み立てて光エネルギー変換機能をもつ自己組織化膜を作る。その膜では太陽エネルギーを化学エネルギ ーに変換して生命活動を支えている。このメカニズムを明らかにすることは、科学の問題として興味深 いばかりでなく、エネルギー、食料増産や医療・健康とも関係する重要な課題である。 最近、光合成の光エネルギー変換系の構造についてはナノレベルで明らかになってきており、社会 的要請の強い光合成での太陽エネルギーの光電変換システムを利用したナノデバイスの開発が可能とな って来ている。本研究プロジェクトでは、1)光合成膜での光エネルギー変換機能をもつアンテナタン パク質色素複合体の構造と機能の関係を明らかにする研究、2)ナノバイオテクノロジーを用いて光電 変換機能をもつ新規な自己組織化ナノデバイスを開発する研究を行った。 この研究の進展により、光合成膜を構成するアンテナ複合体の構造と機能を明らかになり、光合成 の機能をもつ材料をナノバイオテクノロジーを用いて構築できるであろう。特に、近年のバイオサイエ ンスの急展開で、さまざまな生物のゲノムが明らかにされ、すでに遺伝子操作や化学的手法でこれらの 物質の加工技術もできつつある。したがって、諸種の光合成機能をもつナノレベルの超微細材料のデバ イス開発が期待できるであろう。 キーワード: 光合成、アンテナ複合体、ナノデバイスはじめに 植物や光合成細菌の光合成膜での光エネルギー変換過程に関わる主な膜タンパク質複合体は、アンテ ナ複合体(LH2)および反応中心(RC)を内包するアンテナコア複合体(LH1-RC)である。この膜タ ンパク質はクロロフィル(BChls)やカロテノイド(Car)などの生体色素と複合体を形成し太陽エネル ギーを化学エネルギーに高効率で変換する光合成の光化学初期過程で重要な役割を担っている。このメ カニズムを明らかにすることは、科学の問題として興味深いばかりでなく、エネルギー、食料増産や医 療・健康とも関係する重要な課題である。最近、光合成膜の光エネルギー変換過程に関わる膜タンパク 質は、構造面だけでなく機能面でも明らかになってきている。特に、本研究グループの代表者Prof. Cogdellらが世界に先駆けて行っている光合成細菌の光エネルギー変換系の膜タンパク質複合体の構造 とその機能との関係についてはナノレベルで明らかになってきており、社会的要請の強い光合成での太 陽エネルギーの光電変換および水の光分解による水素発生システムを有効利用したナノバイオテクノロ ジーの開発が可能となってきている。この光合成膜タンパク質は、ナノスケールでBChlsやCar分子の組 織化を行い、超高速の単一光励起、単一電子移動を制御していることは非常に興味深い。このメカニズ ムを分子レベルで明らかにできれば、色素増感など光エネルギー変換機能をもつ色素材料の設計がタン パク質のアレーによってナノサイズで実現でき、その光励起や電子機能はナノスケールで利用できると 期待される。また、最新のナノテクノロジーをもとにした自己組織化の方法と計測技術の発展で光合成 膜タンパク質およびそれによる色素配列が観察可能になってきている。これらのことから、色素増感な ど光エネルギー変換機能をもつ色素複合体を人工的に配列組織化するためにはナノレベルでの膜タンパ ク質色素複合体の構造と機能の関係を明らかにすることが望まれる。また、膜タンパク質色素複合体の 自己組織化的な配列の認識やそれに基づく構造形成について知識を深めることが一段と重要になってい る。 本研究では、はじめに、光合成膜での光エネルギー変換機能をもつアンテナタンパク質色素複合体 の構造と機能の関係を明らかにするために、アンテナコア(LH1-RC)および反応中心複合体(RC)の構 造解析を行い、アンテナタンパク質でのBChlsやCar分子の「集光作用」と「光保護作用」のメカニズム を諸種の分光学的手法を用いて検討した。また、天然ならびに合成した諸種の膜タンパク質を用いて、 LH複合体およびLH1-RCの再構成を行い、そのタンパク質複合体の構造と集光機能との関係についてナ ノレベルで明らかにした。そして、つぎに、光電変換機能をもつ新規なナノデバイスを開発するために、 LH1-RCならびにRC複合体と共役したエネルギー変換システムの作成を基板上で行い、光エネルギーの 捕集と電子伝達を行うシステムを基板上で人工的に構築した。また、色素増感型太陽電池であるGrätzel セルの色素ならびにアクセプター部位を積極的に改善し、LH1-RCのモデル複合体を光励起電荷分離コ ンポーネントとして太陽電池および水素発生デバイスへ組み込む提案を行った。 結果と考察 1. アンテナコア(LH1-RC)、反応中心(RC)およびアンテナLH2複合体の構造解析: ⅰ) LH1-RC 複合体のX線結晶三次元構造 1) 世 界 に先 駆け て 光合 成細 菌 LH1-RC複合体のX線回折による構造決定を4.8Åの分解能で行った (Scheme 1)。この構造はRCがLH1複合体によって環状に囲まれており、RCのキノン(QB)部分近傍に あるWのタンパク質で環状の部分が切断されている。また、このWタンパク質分子はキノン類の電子伝 達ゲートの役割を担っていると考えられた。
Trp M75
Phe M162
Scheme 2. Gatekeeper (Phe M162) and locking (Trp M75)
amino acid residues in the site of RC where Car is re-incorporated.
Scheme 1. Structure of purple bacterial LH1-RC of R.
palustris ii) カロテノイドアナログを再構成したRCの単結晶X線構造解析 2) 光合成細菌Rb. sphaeroidesのカロテノイド欠損突然変異株、R26.1ミュータントから調製した光反応中 心複合体(RC)にカロテノイドアナログを再構成して人工光反応中心複合体を創成した。そして、そ の単結晶成長・X線結晶構造解析を行った(Scheme 2)。その結果、カロテノイド周辺の電子密度分布か ら、カロテノイドは人工RCの場合でも天然と同様に15シス構造でRCと結合すること、カロテノイドの 有無でアミノ酸残基(フェニルアラニンM162)の位置がフリップすること、ならびにカロテノイドに 存在するメトキシ基とアミノ酸残基(トリプトファンM75)とが水素結合していることが明らかになっ た。カロテノイドは、一方向でRCに再構築されて、フェニルアラニンM162はその際のゲートとして、 トリプトファンM75は鍵として、それぞれの役割を果たしていることが明らかになった。 iii) LH2の電場変調分光解析 3) 光合成色素と周囲のアポ蛋白質との静電的相互作用を検出する有効な研究手段として、位相ロック インアンプを用いた計測方法が有効であることを提案した。実際に光合成細菌Rb. sphaeroides G1Cの LH2アンテナ色素タンパク複合体を用いた測定によってこの解析方法の有効性を検証した。特に、 LH2複合体に結合したB850バクテリオクロロフィル二量体の吸収バンドに注目し、位相遅れ成分(π/2 成分)の温度依存性、および周波数依存性を測定することにより、色素とアポタンパク質との動的な静 電相互作用の検出に成功した。 ⅳ) カロテノイドのサブ20フェムト秒時間分解分光解析 4) カロテノイドのアンテナ色素としての発現機構について、ミラノ工科大学の研究グループと共同 で、10フェムト秒を切る超高速レーザー分光を適用することにより検討を行った。その結果、従来か ら知られている一光子許容な1B B u+状態(S2状態)と禁制な2 A1 g−状態(S1状態)の2つの一重項励起状 態の間に別の一重項励起状態(SX状態)が存在することをはじめて示し、そして、これは励起状態の 緩和に関与することを実時間で明らかにした。 ⅴ) 共役鎖長をもつβ-カロテンホモログの鎖長依存性 5) 上述の研究の発展として、一連の共役鎖長をもつβ-カロテンホモログおよび光合成細菌より単離精 製したカロテノイド分子についてのサブ20フェムト秒時間分解分光測定を行った。最短の共役二重結 合数(N=5)をもつ場合を除き、全てのカロテノイド分子で、S2励起状態からS1励起状態への緩和過程 でSx中間励起状態が存在することを実時間で観測した。 2. BChlsおよびCar修飾とアンテナ複合体の集光作用と光保護作用の関係: カロテノイドの光励起状態準位エネルギーは共役二重結合の数により変化するので、エネルギー
伝達機構を解明するためにはカロテノイドの共役二重結合数とエネルギー伝達との関係について系 統的に検討することが必要である。この実現のために、①天然カロテノイドと同一の炭化水素骨格 を有するが、共役二重結合数が異なる一連のアナログ体を合成し、②生化学的手法を用いることに よりアポ蛋白質に再構築(カロテノイドアナログの再構成)を行い、③エネルギー伝達の差異について 系統的に検討した。 i) カロテノイドアナログの全合成 天然カロテノイド、スフェロイデンを含む7つのアナログ体の全合成を行った。これらの合成法は すでに報告されているが、合成収率は極めて低い。ここでは、新たな合成法を検討し、再構成実験に 必要な数100 mg ~ g オーダーの合成を行った。特に、C5-NitrileのHorner-Emmons試薬を用いた合成 法を開発し、最終段階でのカップリング反応条件の改良を行った。低原子価Tiを用いたカップリング 反応を適用することにより、スフェロイデンアナログと同時に天然カロテノイドであるリコペンおよ びスピリロキサンチンのアナログ体の全合成を達成した。 ii) アンテナ複合体内の全トランス・カロテノイドの補助集光作用 6-8) 紅色光合成細菌においては、全トランス・カロテノイドおよび15シス・カロテノイドが、それぞれア ンテナ複合体と光反応中心に選択的に結合している。この結合形態を明らかにするために、一重項・三 重項励起状態の特性と、これらのタンパク質複合体でのカロテノイドの「補助集光作用」と「光保護作用」 との関連について検討した。また、興味深いことに、アンテナ複合体では共役鎖の短いカロテノイド が、一方、光反応中心では共役鎖の長いカロテノイドが選択されていることを見出した。これら2種類 の構造選択、すなわち、カロテノイド共役鎖のコンフィギュレーションと長さの選択の理由を明らかに することができた。 iii) クロロフィル誘導体の化学修飾 9) クロロフィル誘導体は不安定であり、この安定性向上のためにクロロフィル誘導体の化学修飾を行っ た。そして、金属置換やその構造安定化の改良法について検討を行った。
Scheme 3. Procedure for the preparation of the LH1 complexes from the
photosynthetic membrane of R. rubrum and the production of a monolayer of the LH 1 complexes on the mica substrate.
RC RC LH 1 マイカ基板 MQ UQ (BChl a)2 Bpheo BChl a LH 1 複合体 LH1-RC 複合体 ? 脂質 二分子膜 LH 1サブユニット LH-α LH-β a) OGで溶解 Fe c) 自己組織化 b) 再構成 LH 1 複合体
LH-α MWRIWQLFDPRQ ALVGLATFLFVLALLIHFILLST ERFNWLEGASTKPVQTS LH-β
AEVKQESLSGITEGEAKEFHK IFTSSILVFFGVAAFAHLLVWIW RPWVPGPNGYS Hydrophobic core N-terminal C-terminal + + +
-
+ -+-
+-
--
+ + R. rubrumLH-α MWRIWQLFDPRQ ALVGLATFLFVLALLIHFILLST ERFNWLEGASTKPVQTS LH-β
AEVKQESLSGITEGEAKEFHK IFTSSILVFFGVAAFAHLLVWIW RPWVPGPNGYS Hydrophobic core N-terminal C-terminal + + +
-
+ -+-
+-
--
+ + R. rubrum (B820) (B870) RC RC LH 1 マイカ基板 MQ UQ (BChl a)2 Bpheo BChl a LH 1 複合体 LH1-RC 複合体 ? 脂質 二分子膜 LH 1サブユニット LH-α LH-β a) OGで溶解 Fe c) 自己組織化 b) 再構成 LH 1 複合体LH-α MWRIWQLFDPRQ ALVGLATFLFVLALLIHFILLST ERFNWLEGASTKPVQTS LH-β
AEVKQESLSGITEGEAKEFHK IFTSSILVFFGVAAFAHLLVWIW RPWVPGPNGYS Hydrophobic core N-terminal C-terminal + + +
-
+ -+-
+-
--
+ + R. rubrumLH-α MWRIWQLFDPRQ ALVGLATFLFVLALLIHFILLST ERFNWLEGASTKPVQTS LH-β
AEVKQESLSGITEGEAKEFHK IFTSSILVFFGVAAFAHLLVWIW RPWVPGPNGYS Hydrophobic core N-terminal C-terminal + + +
-
+ -+-
+-
--
+ + R. rubrum (B820) (B870) 3. アンテナコア(LH1-RC)複合 体とLH複合体の再構成: i) LH1複合体とそのサブユニ ット構造の安定化10) 天然ならびに合成した諸種 のタンパク質を用いて、アン テナならびにコア複合体の再 構成を界面活性剤中ならびに 脂質膜中で行い、そのタンパ ク質の構造と集光機能との関 係についてナノレベルで検討 を行った。LH1複合体を構成 するタンパク質部分(アポタ ンパク質)(LHαおよびLHβ) と色素部分(バクテリオクロロフィル、BChl a)を単離精製ならびに分子生物学的手法を用いてそれぞれ調製し、界面活性剤(オク チルグルコシド:OG)中でLH1タイプの複合体の自己組織化を行った(Scheme 3)。興味あることに、 OG中でLHαおよびLHβ)とBChl aを混合するだけで、LH1ポリペプチドがBChl aと二量体程度のサブユ ニット型複合体の形成を経て、LH1類似の複合体形成が認められた。このサブユニット型構造はLHαお よびβのヘテロペアからなり、BChl aのQy帯はモノマ ーの777 nmから820 nmへの長波長シフト(B820) を示した。LH1複合体では、サブユニット型複合体がさらに集まり、870 nmまで長波長シフトしてた (B870)。ここで、BChl aの中心金属MgへのLH1タンパク質のヒスチジン(H)の軸配位とBChl a骨格中の C3アセチルカルボニルおよびC131ケトカルボニルがトリプトファン(W)などのC末の極性アミノ酸と水 素結合できることがその複合体形成の必須条件であった。また、このLH1複合体形成は脂質二分子膜中 でも同様に認められた。このような再構成法を用いると色素の入れ替えやタンパクの入れ替えが可能に なり、LH1複合体の構造と機能との関係と同時にその自己組織化能について分子レベルで検討できるこ とがわかった。 また、アンテナコア複合体でLH1とRC複合体の形成に重要な役割を担っていると考えられているRC-Hタンパク質に着目し、その構造と機能との関係について検討を行った。その結果、RC-Hの正電荷の 側鎖アミノ酸(Arg、Lys、His) は、RC-M、RC-L、およびLH1βポリペプチドと面していることがわか ii) LH1アンテナ複 った(Scheme 4)。 合体の再構成と電場変調分光解析 再構成するために、R. rubrumから単離精製した 共
Scheme 4. (a) RC-H structure from Rb. sphaeroides. The bottom of the structure is toward cytoplasm. Blue,
purple and cyan colors represent Lys, Arg and His residues, respectively. The membrane-spanning segment is indicated in pink (b) side view of RC-H with the L (yellow) and M (orange) polypeptides of the RC. (c) RC-H as viewed from the cytoplasmic side of the membrane.
(a) (b)
(c)
光合成細菌Rs. rubrum と類似のLH1複合体を人工的に
去したLH1複合体のサブユニットと再会合させた。そして、この再構成体と天然由来のLH1複合体の電 場変調吸収スペクトルの比較検討を行った。LH1複合体中のカロテノイドおよびBChla分子の非線形光 学パラメータ(光誘起分極率変化Δα・光誘起双極子モーメント変化Δμ)を決定したところ、再構成 LH1複合体中のカロテノイド分子周辺の静電的環境は、天然 LH1の場合とは明らかに異なることがわ かった。同時に、このことから電場変調吸収分光法は、再構成体の構造について有益な情報を得る手法 であることがわかった。 iii) LH1ポリペプチドのミューテーション:SH基を末端にもつLH1ポリペプチドの発現と色素との複合体形成11) リ ペ ) 剤で抽出 し . 光合成タンパク質色素複合体の基板上での自己組織化とデバイスの開発: ることが必要なプロセス で ク質色素複合体の電極基板上への自己集積化 13) riethoxysilane)で表面修飾したITO電 極 自己組織化に成功した。また、LH1およびRCはシリン 光合成細菌Rb. sphaeroides のLHβ のアミノ酸配列に基づき、システインを末端領域に導入したポ プチドを設計し、ジスルフィド架橋によるLH複合体形成を検討した。このポリペプチドは、大腸菌 によりマルトース結合タンパク質(MBP)との融合タンパク質として発現させたのち、トリプシンによる 加水分解によって調製した。このポリペプチドは、還元条件下ミセル中25 ˚Cで色素(BChl aおよびZn-BChl a)とLHサブユニット型複合体を形成した。さらに、4 ℃に冷却することにより色素のQy帯の長波 長シフトが観測され、LH1類似の複合体形成 することがわかった。また、分子間ジスルフィ ド架橋により多量化したポリペプチドはその後 還元型になると、ポリペプチドの再配列が起こ り、ポリペプチドの方向がそろったLH1類似の 複合体を形成することがわかった。 ⅳ) マイカ基板上でのLH1のAFM観察12 50.0 nm 1 1 1 2 2 A A’ B B’
Scheme 5. AFM images of the LH 1
complexes in the absence of both the RC and carotenoids reasssociated from the subunit LH complexes from R. rubrum on the mica. 光合成細菌 R. rubrumから界面活性 たLH1複合体をスピンコートによって基板上 に固定化した。マイカ基板上でのLH1複合体の 吸収および蛍光スペクトルから、LH1複合体は 安定に基板上で固定化されていることがわかっ た。空気中でAFM観察を行ったところ、天然と 類似のリング状の形状が確認できた( Scheme 5)。そのLH1複合体は外径30nm、内径8nmであ った。 4 光合成タンパク質色素複合体の材料化には基板上に自己組織的に薄膜化す ある。基板上に光合成タンパク質を自己集積化することで光合成色素の機能である光増感作用や電子 移動機能を従来の半導体プロセスと組み合わせて利用できることが期待できる。光合成膜のLHタンパ ク質に含まれているBChl a色素分子は膜方向に平行な双極子モーメントをもって励起子を生成するため に非線形光学効果が期待できる。また, RC自身は優れた電荷分離および電子伝達機能をもつ量子素 子と見なせる。 i) 光合成膜タンパ はじめに、再構成したLH1/ZnBChl a複合体をAPS(3-aminopropyl t 基板(APS-ITO)上に自己組織化(SAM)した。その結果、ITO基板上に膜タンパク質を変性なしで 安定に吸着させることができた。 同様な方法でRC-LH1のAPS-ITO上への吸着・
Scheme 6. The side view of (a) the LH1-RC complex and (b) the subunit LH 1 complex model. RC Fe BChl a LH 1サブユニット LH-α LH-β BChl aダイマー C末端 N末端 1.8 nm 4.5 nm 0.8 nm E E D E Qy band 双極子モーメント 疎水性コア 脂質二分子膜 光合成膜 a) b) LH 1サブユニット ダ た 観測されなかった。このことから、照射光はLH1のアンテナ部位で大きく増感 ー型の膜タンパク質な ので脂質二分子膜中で互 いにパッキングすること で安定化すると考えられ ている(Scheme 6)。そこ で、光合成細菌から単離 精製ならびに分子生物学 的手法を用いて改変して 調 製 し た LH1 お よ び LH1-RC 複 合 体 を 脂 質 二 分子膜中に導入してITO 電極上にキャスト法によ り 組 織 化 し た 。 そ の 結 果、ITO基板上に膜タン パク質を安定に吸着さ せることができた。同 様 な 方 法 で LH1-RC の ITO上への組織化も可 能であった。 Scheme 7に脂質二分 子膜中に導入したLH1-RC の 電 極 基 板 上 へ の 固定化の概略図を示し 。光誘起電流測定を 行った結果、光誘起電 流 は ビ オ ロ ゲ ン ( MV++) 共 存 下 で 光 照射波長に大きく依存 し、そのアクションス ペ ク ト ル で は 、 RC の スペシアルペア (SP: BChlaの二量体)のQy帯 で最大の光誘起電流が 認められた。ここで、 LH1単独ならびRC単独 で基板に吸着させたも のでは880 nm の光照 射で大きな光誘起電流が されていることがわかった。同様な結果はAPS-ITO上でSAM化した場合でも認められた。このように、
Scheme 7. (a) Schematic drawing of LH1-RC core complexes (R. rubrum) on an
electrode. (b) NIR absorption spectrum (solid line) in lipid bilayers and photocurrent density (dots). (c) Energy diagram for cathodic photocurrent generation by the LH1-RC core complex.
1.0 2.0 Absorbance 5 10 15 20 photocurrent densi ty / nA cm -2 880nm (a) 0.0 600 700 800 900 Wavelength / nm 0 (b) (c) SP: 反応中心のスペシャルペア 0.0 600 700 800 900 Wavelength / nm 0 1.0 2.0 Absorbance 5 10 15 20 photocurrent densi ty / nA cm -2 880nm 1.0 2.0 Absorbance 5 10 15 20 photocurrent densi ty / nA cm -2 880nm (a) 0.0 600 700 800 900 Wavelength / nm 0 (b) (c) SP: 反応中心のスペシャルペア
近赤外領域(880nm)での光誘起電流が観測されたことは非常に興味深く、電極基板ならびにセルの最 適化が進めば近赤外光照射で大きな電流をとりだすことが期待された。
ii) クロロフィル/FSM複合体を用いた水素生成とNADの光還元 14)
細孔径が制御可能で、均一な細孔を有する多孔体(FSM; Folded Sheet Mesoporous material)の合成法 クロロフィル等の色素分子や酵素など の バクテリア光合成系の原理と材料を利用した色素増感太陽電池の構築 陽電池 n = 5, 6, 7, 8, 9, 11, 13をもつレチノイン酸(RA)とカロテノイン酸(CA)を用いて色素増感太陽電池を組 み立てた。その際、「カロテノイド ルギー・ダイヤグラム」から、RAとCAからTiO2への「電子注入 効 ピロフェオフォルバイドa (PPB a)誘導体を用いた色素増感太陽電 池 を確立し、この材料の用途展開を図った。すなわち、FSM中に タンパク質分子を固定化することにより、これらの機能分子の安定性を著しく向上させることを見出 た。また、クロロフィル−FSMをヒドロゲナーゼやNAD還元酵素(Lipoxyamide dehydrogenase)と共存 させることにより可視光による水素の生成とNAD還元を試みた。その結果、電子供与体、電子伝達体 を用いることにより6 X 10-5 mol/hm2の効率で水素を光還元できることを確認した。また、同様に、 NADHは0.015 M/hm2の効率で生成した。この際、電子伝達体を除くと光還元されないことから、クロ ロフィル−FSMと酵素との間の電子移動が律速になっていることが予想された。 5. 太陽電池の組み立て: i) カロテノイド誘導体を用いた太 のエネ 率」がnに依存して変化することを予測した。その結果、太陽光の変換効率は、CA7 (n = 7をもつカロ テノイン酸)において最も高くなることを見出した。それぞれのCAをTiO2粒子に結合して、溶液中に分 散した「モデル系」でも、CA7が最高の電子注入効率(98%)を示した。しかしながら、TiO2−からCA•+への 逆電子移動が、太陽電池を作成した場合に、著しい変換効率の低下を引き起こすことが明らかになっ た。 クロロフィル誘導体とカロテノイドを用いた太陽電池 15-17) を構築して、n = 9 − 13をもつカ ロテノイドを「共役系スペーサー」 として添加した際の影響を調べ た。カロテノイドの一電子酸化電 位は、nが増加するとマイナス側 (高エネルギー側)にシフトするた めに、最も長い共役鎖をもつカロ テノイドで最も著しい変換効率の 増加(40%)が見られた。この結果 は、カロテノイドから色素ラジカ ルカチオン(PPB a•+)への電子移動 が、TiO2−からの逆電子移動を阻止 し、TiO2−とカロテノイド・ラジカ Dye N N R ; Li+, e– e– e– e–
Mesoporous TiO2-Electrolytes
I I I I– e– e– e– I I I I– I– e– C.B. Trap Sites Diffusion Thermal Excitation Waiting Time
ルカチオンの間に、「再結合不可能な電荷分離状態」を生成したためと考えられた。このことから、光合 成色素であるカロテノイドとクロロフィルの誘導体を併用した「新しい色素増感太陽電池」を構築する道 が拓かれた。 ii) 色素増感酸化チタン太陽電池での光誘起電子輸送とその制御 18-24) 色素増感酸化チタン太陽電池(DSC)は、ポーラスな酸化チタン電極がシリコン太陽電池系のn-型電子 伝導帯層と類似の優れた電子伝導帯層を形成し、一方、電解質はシリコン太陽電池系のp-型電子伝導帯 層としてのホール輸送層を構成すると見なすことができる。ここでは、ナノ構造酸化チタン層と電解質 層の電子輸送を明らかにした。また、DSCで用いる電解質として低分子ゲル化剤を用いて固体化するこ とに成功した。固体化DSCは溶液系DSCと遜色ないエネルギー変換効率を示し、低分子ゲル化剤分子が 構成する分子集合系は電解質の電気伝導性を低下させないことがわかった。また、ヨウ素の添加量の増 大によって、電解質の伝導性の顕著な向上が認められ、ゲル化電解質のヨウ化物イオンの拡散係数は、 溶液系の4分の1程度であることも判明した。ここで、電解質溶液系でのヨウ化物イオン、ポリヨウ化物 イオン種間の平均距離は、0.8 nm以下であると推定されるので、ヨウ化物イオン種は近接して電解質に 分散していることになる。これらの事実から、ヨウ化物—ポリヨウ化物イオン種間の結合交換、ある いは電子ホッピング機構で電子が輸送される機構(Grotthuss-type electron exchange mechanism)が支配的と 考えられた(Scheme 8を参照)。
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17) X. Wang, J. Xiang, P. Wang, Y. Koyama, S. Yanagida, Y. Wada, K. Hamada, S. Sasaki, and H. Tamiaki, Chem. Phys. Lett., in review.
18) W. Kubo, K. Murakoshi, T. Kitamura, S. Yoshida, M. Haruki, K. Hanabusa, H. Shirai, Y. Wada, and S. Yanagida, J. Phys. Chem. B, 105, 12809 (2001).
19) S. Kambe, S. Nakade, Y. Wada, T. Kitamura, and S. Yanagida, J. Mater. Chem., 12, 7233 (2002).
20) S. Nakade S. Kambe, S. Nakade, Y. Wada, T. Kitamura, and S. Yanagida, J. Phys. Chem. B, 105, 9150 (2001). 21) S. Kambe, S. Nakade, T. Kitamura, Y. Wada, and S. Yanagida, J. Phys. Chem. B, 106, 2967 (2002).
22) G. K. R. Senadeera, K. Nakamura, T. Kitamura, Y. Wada, and S. Yanagida, Appl. Phys. Lett., 5470-5472, 83, (2003).
23) S.Nakade, S. Kambe, M. Matsuda, Y. Saito, T. Kitamura, Y. Wada, and S. Yanagida, Physica E: Low-dimensional Systems and Nanostructures, 210-214, 14, (2002).
24) Y. Saito, T. Azechi, T. Kitamura, Y. Hasegawa, Y. Wada, and S. Yanagida, Coordination Chemistry Reviews, 1469-1478, 248, (2004).
本研究テーマによる代表的な発表論文、特許 等のリスト 論文 (全 105 件)
[1] A. Roszak, T. Howard, J. Southall, A. Gardiner, C. Law, N.Isaacs and R.Cogdell, “Crystal Structure of the RC-LH1 Core Complex from Rhodopseudomonas palustris”, Science, 1969-1972, 302, 2003.
[2] T. Dewa, T. Yamada, M. Ogawa, M. Sugimoto, T. Mizuno, K. Yoshida, Y. Nakao, M. Kondo, K. Iida, K. Yamashita, T. Tanaka, and M. Nango, “Design and Expression of Cysteine-Bearing Hydrophobic Polypeptides and Their Self-Assembling Properties with Bacteriochlorophyll α Derivatives as a Mimic of Bacterial Photosynthetic Antenna Complexes. Effect of Steric Confinement and Orientation of the Polypeptides on the Pigment/Polypeptide Assembly Process”, Biochemistry, 5129-5139, 44(13), 2005.
[3] K. Yanagi, M. Shimizu, H. Hashimoto, A.T. Gardiner, A.W. Roszak, and R.J. Cogdell,”Local Electrostatic Field Induced by the Carotenoid Bound to the Reaction Center of the Purple Photosynthetic Bacterium Rhodobacter sphaeroides”, J. Phys. Chem. B, 992-998, 109, 2005.
口頭発表 (全 207 件)
[1] Conference on NEDO International Scientific Research Program, Nagoya, Japan, 1st September 2003.
特許 (全 3 件)
[1] T. Kajino, T. Ito, H. Yano, Y. Fukushima, “Mesoporous silica-chlorophyll conjugate and a production method of it”,Japan, 27 Mar 2003.