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看護師長が体験した倫理的問題とその頻度:

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(1)

■ 短   報

看護師長が体験した倫理的問題とその頻度:

県全域の看護師長を対象とした質問紙調査より

Ethical issues and their degree, as experienced by nurse managers:

Findings from the questionnaire survey for nurse managers in a prefecture

村井 孝子

1, 2

 中尾 久子

3

Takako MURAI Hisako NAKAO

キーワード :看護師長、臨床実践、看護管理、倫理的問題、体験頻度

Key words :nurse managers, clinical practice, nursing management, ethical issues, degree in experiences

本研究の目的は、病院に勤務する看護師長が体験した倫理的問題とその頻度について明らかにすることである。臨 床実践および看護管理における倫理的問題に関して自記式質問紙を用い、A県下の全病院に勤務する看護師長1,938 を対象に質問紙調査を行った。524名(回収率27.0%)のうち、506名を分析対象とした(有効回答率26.1%)。看護師 長が体験した臨床実践上の倫理的問題は「患者に十分な看護ケアを提供できない看護師の充足状況」「患者の安全確保 のために身体抑制や薬剤による鎮静をするか、しないか」が多かった。一方、看護管理上の倫理的問題では「人的資源 が不足している」「サービス残業が行われている」が多かった。看護師長は、看護実践の基盤でもある人権や患者ケア に関する倫理的問題のみならず、良質な看護ケアを行うために必要不可欠な看護師の充足問題についても高い頻度で 体験していることが明らかとなった。

Ⅰ.はじめに

近年、医療の高度化や人々の価値観の多様化により 様々な倫理的問題が生じている。看護職が遭遇する問 題も、高齢者・認知症患者のケア、終末期医療やイン フォームドコンセント(以下、ICとする)と意思決 定、医療資源の配分に関わる問題など多様であり複雑 化している。それを受けて、2006年には日本看護協 会が「臨床倫理委員会の設置とその活用に関する指 針」1を発表し、組織で倫理的問題に取り組むことを 推奨している。1990年代以降、日本病院機能評価機 構の認定を受けた病院が増加しているが、最新の倫理 に関する評価項目2でも「患者・家族の倫理的課題等 を把握し、誠実に対応している」ことが盛り込まれ、

臨床の様々な場面で生じる個別的な倫理的問題につい ての対応状況を評価されるように変更された。今後、

さらに臨床で生じている倫理的問題の把握や組織的対 応が社会の要請となっていくことが予測される。

倫理的問題への対処は組織全体で行うことが理想的 であるが、現状は組織の倫理に関する意識や取り組み 状況で異なり、患者の医療・ケアに最も近い看護単位 を束ねる看護師長が中心となり行われていることが予 測される。看護師長は、自部署の代弁者となり他職種 と交渉するなど看護部外の医療従事者と関わる機会が 多い一方、看護ケアサービスの責任者となるなど看護 単位の要である。そのため倫理的問題に関する悩みの 頻度はスタッフより高く、抱える悩みも患者への看護 ケアの質、仕事の評価、サービス残業に関する内容

(p.202)3など多様かつ複雑である。先行研究において も看護師長自身が人的資源の不足や、仕事の評価の仕 方の不明瞭さ、サービス残業の存在など多くの倫理的 問題を抱えていることが明らかになっている(p.202)31 純真学園大学保健医療学部看護学科 Department of Nursing, Faculty of Health Sciences, Junshin Gakuen University

2  九州大学大学院医学系学府保健学専攻看護学分野博士後期課程 Nursing Course, Department of Health Sciences, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University

3  九州大学大学院医学研究院保健学部門看護学分野 Nursing Course, Department of Health Sciences, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University

(2)

また、自分自身の倫理観の至らなさや、患者や自部署 のスタッフに対して倫理的でないとの自覚もある

(p.202)3

これまでの研究では、病棟に勤務する看護師が体験 した倫理的問題、がん看護に携わる認定看護師や精神 科病棟に勤務する看護師が体験した倫理的問題が報告 されている。これらの研究から、病棟に勤務する看護 師は、患者の安全確保のための抑制や鎮静に関する問 題、看護師の人員不足に関する問題を倫理的問題とし て体験していることが明らかとなっている4‒6。また、

がん看護に携わる看護師は、適切な情報提供の不足に よる患者の選択権の侵害や不十分な疼痛管理に関する 問題7、精神科病棟に勤務する看護師は、家族の事情 による退院の問題や患者の暴言等による看護師の感情 に関する問題8といった専門領域に特化した倫理的問 題を体験していることが明らかになっている。

海外の研究では臨床看護師のみにとどまらず、看護 師長を含む看護管理者が体験する倫理的問題として、

スタッフのマネジメントや資源配分の問題9, 10、管理 上の職務と患者ケアのバランスがうまくとれないこと や満床時の入院患者に対する対応についての苦悩が倫 理的葛藤やジレンマとなっているとの報告がされてい る11

しかしながら、国内の看護師長に焦点を当てた研究 は、大学病院に勤務する看護師長を対象とした看護実 践に焦点を当てた報告のみである12。看護師長は10 数年前より看護管理学の中で倫理を学ぶようになった が、医療の高度化や病院の機能・役割分化に伴い、生 じている倫理的問題が変化していると考えられる。そ のような背景の中で、病院に勤務する看護師長が倫理 的問題をどの程度体験しているのかを調査することは 有意義だと考える。

以上より、病院に勤務する看護師長はどのような倫 理的問題をどの程度体験しているのかを明らかにする ことを目的とし本研究を行った。

Ⅱ.用語の操作的定義

看護師長: 看護師長の職位にある看護師、また看護師 長不在の看護単位では、看護師長と同様の 職務を担っている副看護師長・主任等の職 位がある看護師。

臨床実践: 病床において看護職者が対象に働きかける 行為。

看護管理: 対象に働きかける行為を組織の視点からマ ネジメントする行為。

倫理的問題: 倫理的思考や倫理的意思決定を必要とす る 状 況、 あ る い は 道 徳 的 価 値 の 対 立

(p.272)13

Ⅲ.研究方法

1.研究デザイン

研究デザインは、無記名の自記式質問紙による実態 調査研究である。

2.調査対象

対象者は、A県県庁保健医療介護部によって公表さ れている平成26年4月現在の病院名簿をもとに、A県 下の精神科単科もしくは保有する病床の半数以上が精 神科である病院以外のすべての病院376施設に勤務す る看護師長1,938名とした。本調査では、各看護単位 の看護師長を対象としており、対象数の把握のため、

すべての病院ホームページで公表されている病院概要 や看護部部署紹介などを通して看護師長数を確認もし くは推計した。なお精神科が主の病院は、倫理的問題 の内容が特殊である可能性を考慮し、本研究では除外 した。

3.調査期間

2014年12月〜2015年2月。

4.調査方法

1)質問紙の配布と回収

対象者の所属する病院の看護部長宛に、研究の趣 旨、目的、方法等を記載した説明文書を送付し、所属 する対象者への自記式質問紙の配布を依頼した。自記 式質問紙は、看護部長宛の説明文書とともに郵送にて 送付した。調査票は返信用封筒を同封し、対象者個人 で郵送することで回収を行った。

2)調査内容

無記名自記式質問紙では、以下の項目について調査 した。

(1)基本属性

年齢・性別・職位・最終専門学歴・看護師としての 臨床経験年数・看護管理経験年数・所属施設の病床数 や経営母体などについて調査した。

(2)看護実践における倫理的問題の体験内容とその頻度

「ETHICS and HUMAN RIGHTS in NURSING PRACTICE」Part1の日本語版質問紙12を翻訳者に承 諾を得て使用した。質問は臨床実践における倫理的問 題の体験頻度を問うものであり、32項目の質問から 構成される。32項目の質問は、因子分析により「終末 期医療に関する問題」13項目、「患者ケアに関する問

題」14項目、「人権に関する問題」5項目に分類されて

おり、信頼性や妥当性はすでに検証された尺度であ る。

体験頻度は、過去1年間の臨床経験の中で限定し、

「頻繁にあった」「時々あった」「ほとんどなかった」「全 くなかった」の4段階とした。「全くなかった」を0点、

(3)

「ほとんどなかった」を1点、「時々あった」を2点、

「頻繁にあった」を3点と点数化し、点数が高いほど 倫理的問題の体験頻度が高いとした。

(3)看護管理における倫理的問題の体験内容とその頻度 看護管理における倫理的問題の内容や体験頻度を問 う既存の尺度は存在しなかったため、勝原らの研究14 結果を基に、承諾を得て10項目の質問を作成した。

この研究では、看護管理における倫理的問題として、

「人的資源が不足している」「仕事がどのように評価さ れているか不透明である」「職員の健康が守られるよ うな労働環境でない」などの項目が挙げられている。

尺度は4段階評価とし、点数化は看護実践における倫 理的問題と体験頻度と同様に行い、点数が高いほど倫 理的問題の体験頻度が高いとした。

(4)病院の倫理的問題に対する取り組みの状況 日本医療機能評価機構の受審、病院内の倫理委員会 の有無、臨床で起こった倫理的問題への対処、倫理的 問題への対処に関する倫理教育について調査した。

3)分析方法

分析には、JMP Pro 11.0.0を用いた。すべての調 査項目の基本統計量を算出した。看護実践・看護管理 における倫理的問題の体験頻度については、回答を点 数化し、項目ごとに平均値と標準偏差(M±SD)を算 出した。

Ⅳ.倫理的配慮

対象者が所属する病院の看護部責任者に対し、研究 の依頼文書を送付し、研究の目的・内容について説明

し同意を得た。対象者個人に対して研究の目的・内 容・研究方法・研究参加は任意であることや研究によ り得たデータは本研究のみに使用し、公表の際には個 人や病院が特定されないようにすることを文書により 説明した。自記式質問紙は無記名とし、個別郵送にて 回収した。また、調査用紙の回収をもって、本研究に 同意したとみなした。なお本研究は、研究者の所属す る大学の倫理委員会の承認を得て調査を実施してい る。

Ⅴ.結果

1.対象者の概要

A県内376施設の対象者1,938名に質問紙の配布を 行い、524名から回答を得た(回収率27.0%)。その うち回答に欠損等がなかった506名を本研究の分析対 象とした(有効回答率26.1%)。対象者は95.5%が女 性であり、看護師長の職位をもつ者が91%であった。

看護師長の平均年齢は49.0±6.3歳、平均看護管理 年数は6.5±5.4年であった。最終専門学歴は、専門学 校が85.7%を占めていた。

看護師長の所属病院の経営母体は、医療法人等の私 立病院が74.5%を占めており、65.0%の看護師長が病

床数300床未満の病院に勤務していた。そのうち

35.1%が病床数100〜199床の病院に勤務していた

(表1)。

表1 基本属性

n=506

属性 カテゴリー 人数(%) 属性 カテゴリー 人数(%)

性別 女性 483 (95.5) 経営母体 公立 45 (9.2)

男性 23 (0.5) n=492 公的機関 80 (16.3)

年齢(歳) 平均±SD 49.0±6.3 私立 367 (74.5)

平均臨床経験年数(年) 平均±SD 26.2±6.3

平均看護管理経験年数(年) 平均±SD 6.5±5.4 病床数 20~99 51 (10.1)

職位 看護師長 461 (91.0) n=504 100~199床 177 (35.1)

副師長・主任 41 (8.0) 200~299床 100 (19.8)

その他(師長代行等) 4 (1.0) 300~399床 60 (11.9)

最終学歴(年) 専門学校 401 (79.7) 400~499床 33 (6.6)

n=503 短期大学 50 (9.9) 500床以上 83 (16.5)

大学 41 (8.2)

大学院 5 (1.0) 医療機能評価機構 あり 336 (66.7)

その他 6 (1.2) 受審の有無 n=504 なし 168 (33.3)

最終専門学歴(年) 専門学校 431 (85.7)

n=503 短期大学 63 (12.5) 倫理委員会の有無 あり 277 (55.0)

大学 7 (1.4) n=504 なし 227 (45.0)

大学院 2 (0.4)    

(4)

表2 看護師長が体験した臨床実践における倫理的問題とその頻度

n=506

項目 平均値 SD

体験頻度(%)

全く なかった

ほとんど なかった

時々 あった

頻繁に あった

Q7. 患者に十分な看護ケアを提供できない看護師の充足状況 2.0 0.75 3.4 16.6 53.7 26.3

Q20. 患者の安全確保のために身体抑制や薬剤による鎮静をする か、しないか

1.9 0.82 8.6 16.7 55.8 18.9

Q25. 患者の権利と尊厳を尊重すること 1.7 0.84 9.5 30.2 46.0 14.3

Q28. 看護師・医師関係における対立 1.7 0.73 5.1 28.7 54.7 11.5

Q15. 医療従事者として非倫理的、能力が低い、不適切な行動をと る等の同僚と働くこと

1.5 0.74 9.0 33.3 52.1 5.6

Q24. 過剰であったり不十分であったりする処置や検査の指示 1.5 0.75 11.4 31.9 52.4 4.4

Q26. 治療に関するインフォームドコンセントが行われているか、

いないかについて悩むこと

1.5 0.70 7.3 35.8 52.5 4.4

Q6. 患者のQOLが考慮されていないこと 1.5 0.72 9.2 33.1 53.7 4.0

Q29. あなたの健康に危険を及ぼす可能性のある患者にケアを提供 すること

1.4 0.73 11.7 36.6 49.0 2.8

Q3. 延命処置を継続するか、中止するか 1.3 0.88 22.1 27.3 45.4 5.1

Q4. 患者の意思を知らずに患者を蘇生するか、しないか 1.3 0.89 24.1 28.9 41.9 5.1

Q1. 単に苦痛を増強させるような不適切な方法で死にゆく過程を

引き延ばすこと

1.3 0.84 21.0 30.4 44.9 3.6

Q23. 過剰であったり不十分であったりする疼痛管理 1.3 0.80 18.9 37.5 40.6 3.0

Q27. 危険な設備や環境のもとで働くこと 1.2 0.70 19.0 45.9 31.7 3.4

Q8. あなたの個人的価値や宗教的な価値に反して行動すること 1.2 0.78 21.8 41.3 35.1 1.8

Q14. 患者の秘密やプライバシーが尊重されていないこと 1.2 0.72 15.1 48.2 34.9 1.8

Q2. 患者や家族の意向に反して患者の治療をするか、しないか 1.2 0.77 21.5 43.4 33.5 1.6

Q16. 患者や家族の自律性が無視されていること 1.2 0.72 14.5 49.6 34.7 1.2

Q17. 患者や家族が、治療・予後・代替的治療について知らされて いないか、または誤った情報を与えられている状況でケアを すること

1.1 0.74 23.3 49.8 25.3 1.6

Q21. 患者が終末期のあり方について事前に示していた意思を尊重 するかしないか

1.1 0.79 26.2 42.8 29.4 1.6

Q9. 患者の個人的価値や宗教的価値に反して行動すること 1.1 1.12 21.7 49.5 27.6 1.0

Q13. ケアの質を脅かすような医療制度に従ってケアを実践すること 0.9 0.80 35.1 45.0 16.7 3.2

Q30. 患者の死を早める可能性のある処置に関わるか、関わらないか 0.8 0.74 39.8 43.0 16.4 7.9

Q11. 費用のかかるまたは不足している医療資源をどの患者に配分 するかということ

0.8 0.79 41.4 38.2 18.8 1.6

Q32. 患者が必要なケアを受けられなくなるような医療制度のもと で看護すること

0.7 0.75 46.8 38.3 13.6 1.2

Q31. 医療従事者や医療施設の非倫理的または違法な行為を責任者 に知らせること

0.7 0.72 43.3 41.5 14.9 0.3

Q19. 患者を差別して扱うこと 0.6 0.70 48.5 39.8 11.1 0.6

Q5. 重度障害を持つ乳児、小児または成人に対して治療をする

か、しないか

0.5 0.74 68.1 18.3 12.7 0.8

Q10. 小児・配偶者・高齢者・患者に対する虐待や無視が行われて いることを、何らかの方法で明らかにするか、しないか

0.5 0.68 57.0 32.6 10.4 0.0

Q12. どの時点から死であると決定するか 0.4 0.63 65.1 28.1 6.4 0.4

Q18. 患者が未成年の場合に、治療に関する本人の意思と親の意思 が対立し、どちらをとるか決めること

0.3 0.59 72.2 22.6 4.8 0.4

Q22. 臓器や組織の移植が公平に行われているか 0.1 0.36 91.7 6.7 1.4 0.2

(5)

2.看護師長が体験した臨床実践における倫理的問 題とその頻度

看護師長が過去1年間で体験した臨床実践における 倫理的問題を表2に示す。最も体験頻度が高かった倫 理的問題は、「患者に十分なケアを提供できない看護 師の充足状況」(2.0±0.75)で、「患者の安全確保の ために身体抑制や薬剤による鎮静をするか、しない か」(1.9±0.82)「患者の権利と尊厳を尊重すること」

(1.7±0.84)「看護師・医師関係における対立」(1.7

±0.73)の順であった。最も体験頻度の低かった倫理 的問題は、「臓器や組織の移植が公平に行われている か」(0.1±0.36)であった。

3.看護師長が体験した看護管理における倫理的問 題とその頻度

看護師長が過去1年間で体験した看護管理における 倫理的問題を表3に示す。最も体験頻度が高かったの は、「人的資源が不足している」(2.3±0.70)であり、

「サービス残業が行われている」(2.2±0.80)「仕事が どのように評価されているのか不透明である」(2.2±

0.69)の順であった。最も体験頻度が低かったのは、

「職員の健康が守られるような労働環境ではない」(1.5

±2.01)であった。

4.病院内の倫理に関する活動

看護師長の所属する病院では、66.7%が日本病院医 療機能評価を受審し、55%が院内倫理委員会を設置 していた(表1)。また、62.5%の病院で倫理教育を実 施していた。一方42.7%が、倫理委員会や臨床の場 で倫理的問題について話す機会をもっていないと回答 していた。

Ⅵ.考察

1.看護師長が体験した臨床実践における倫理的問 題とその頻度

本研究対象の看護師長が体験した臨床実践における 倫理的問題は、全項目の体験頻度の平均値が2点以 下、体験頻度も「時々あった」より少ない頻度が多く を占めていた。また看護師長は、「患者に十分な看護 ケアを提供できない看護師の充足状況」「患者の安全 確保のために身体抑制や薬剤による鎮静をするか、し ないか」「患者の権利と尊厳を尊重すること」を他の 項目より多く体験していた。最も頻度が高かった項目 は看護師の充足に関する問題であり、患者に十分な看 護ケアを提供できないというケアの質を理由とした問 題であった。臨床看護師を対象とした先行研究でも、

体験した倫理的問題の上位3項目は同様に看護実践の ケアの質、身体拘束、鎮静、患者の人権や尊厳などを 重視する倫理的問題であった。これらの問題は、医療 や看護を提供する上で不可欠な要素であり、直接的ケ アを提供する機会が少ない看護師長であっても、重要 な倫理的問題として捉えていると推察する。

看護者は、人間の生命、人間としての尊厳および権 利を尊重し、質の高い看護を行うために、看護実践の 望ましい基準を設定し、実施することが求められてい る(pp.44‒45)15。特に看護師長は、望ましい基準を 意識して業務を遂行していることが予測されるため、

人権や尊厳に関する倫理的問題を示す項目が上位にあ がったと思われる。

近年臨床では高齢患者の増加に伴い高齢者の周手術 期のケア、認知症患者のケアや終末期医療・ケアに携 わる看護者が増えている。高齢者ケアにおける身体拘 束は「身体拘束ゼロへの手引き」16で示されているよ 表3 看護師長が体験した看護管理における倫理的問題とその頻度

n=506

項目 平均値 SD

体験頻度(%)

全く なかった

ほとんど なかった

時々 あった

頻繁に あった

Q1. 人的資源が不足している 2.3 0.70 1.2 9.5 44.1 45.2

Q3. サービス残業が行われている 2.2 0.80 2.8 15.6 40.4 41.2

Q2. 仕事がどのように評価されているのか不透明である 2.0 0.69 1.6 18.8 57.6 22.0

Q6. 医療者に専門職としての向上心がない 1.9 0.60 2.2 17.1 69.8 10.9

Q4. 建物や設備の不都合によって、患者のプライバシーが守られ

ていない

1.8 0.80 5.0 26.1 48.7 20.2

Q5. 医師が看護師を見下すような態度をとる 1.8 0.71 3.8 24.6 57.7 13.9

Q7. 職員がきめられた病院内のルールを守らない 1.8 0.61 2.0 21.4 66.9 9.7

Q8. 医療者間での指導内容や指導方法が不適切である 1.7 0.63 2.0 30.6 59.5 7.9

Q10. 医療者間で、本来議論すべきようなことを議論しない 1.7 0.68 3.7 34.7 53.7 7.9

Q9. 職員の健康が守られるような労働環境でない 1.5 2.01 9.3 48.2 35.1 7.4

(6)

うに、予防の取り組みとともに、やむを得ない身体抑 制の実施時には、切迫性、非代替性、一時性の3要件 を確認すること、本人や家族に十分な説明を行って理 解を得る必要があること、実施後も解除について検討 することなどの対応が求められている。病院では急性 期の患者の安全確保のためやむを得ないとして身体拘 束が行われてきた面があるが、身体拘束を行う際の対 応について話し合う機会が増えていると推測され、看 護師長の体験頻度に影響を与えていることが考えられ る。また平成27年には、医療や看護を受ける高齢者 の尊厳や身体抑制予防に関するガイドラインが発表さ

れている17, 18。看護師長は、このようなガイドライン

等を参考にし、自施設の看護単位で起こる臨床実践上 の倫理的問題を同僚と話し合いながらよい看護ケアの 提供に努める必要があると考える。

看護師長が体験した倫理的問題は、上位3項目以外 に医師との対立関係が4番目、ICの問題が7番目と高 い頻度で体験し、体験の割合も「時々ある」「頻繁に

ある」が50%以上を占めていた。看護師長を対象とし

た先行研究12でも、看護師の充足に関する問題以外に ICの問題や看護師・医師関係の対立が上位の倫理的 問題として挙がっていた。近年の医療法改正に伴う患 者への治療等の説明の義務化や医学教育の変化によ り、これらの問題は減少傾向にあると考えられるが、

現在も医師と患者、医師と看護師の関係は医療の場の 倫理に関する問題として存在していることが明らかと なった。

看護管理者は、倫理的な側面を含め、組織に大きな 影響力をもてる立場であり(p.128)19、立場の弱い患 者・家族や看護師の思いを代弁し、権利を護ることも できる。安全で質の高い医療や看護を提供することを めざして看護師と医師との調整を行い、倫理的な対立 を最小限にするなど、倫理的な看護実践を看護スタッ フとともに考え、努力することが必要であると考えら れる。

一方、体験頻度の少なかった倫理的問題は、臓器移 植と関連する死の決定の問題であった。死の判定や臓 器移植は法律に則り然るべき手順で行われ、看護師が その判断の主たる意思決定者ではないこと、移植の発 生件数の少なさから体験頻度が低かったと考えられ る。

2.看護師長が体験した看護管理における倫理的問 題とその頻度

看護管理における倫理的問題は、臨床実践における 倫理的問題と異なり、1項目を除くすべての項目で

「頻繁にあった」「時々あった」と回答した看護師長が 半数以上であった。また先行研究14と比較すると、体 験頻度の高かった倫理的問題の上位3項目は同じで あった。そして、対象者の看護管理における倫理的問

題の体験頻度では、「人的資源が不足している」が最 も多く「サービス残業が行われている」が続いていた。

わが国の看護行政は、過去のどの時代においても看 護職員の確保が最重要課題であった20とされる。第7 次看護職員需給見通しに関する検討会報告書21でも需 給ギャップは縮小が見込まれているものの、少子高齢 化が今後も進むと予測されている。そのため、看護師 等の人材確保の促進に関する法律にも掲げられている ように、国の責務として看護職員確保対策の推進が行 われている。看護師の人的資源不足の問題は社会の変 化に伴う国の医療行政に関わる問題であると同時に、

看護師長が所属する組織全体の採用人事に関わる問題 でもあり、看護師長のみでは解決が困難な問題であ る。そのため人的資源を充足させるというなすべきこ とがわかっていても、それを遂行する権限がないため にできないという道徳的苦悩(p.204)3を生み出して いる可能性がある。

サービス残業や労働環境の問題については、適切な 労働環境が医療安全に役立ち、看護職員のモチベー ションの向上や離職防止につながることを理解しても らえるように、日頃から事務部門とコミュニケーショ ンを図り、よりよい職場環境になるよう協働すること がさらに必要であろう。また看護師長はサービス残業 を当然のこととせず、看護スタッフが仕事と生活の調 和を実現できるよう働きかけること、看護師自身も、

サービス残業を減少させるよう時間管理を行うことが 重要であると考える。

3.看護師長の倫理に関する活動

今回、県全域の病院の看護師長を対象としたため、

様々な経営母体や病床数の病院に勤務する看護師長が 対象者に含まれている。しかし、看護師長の所属する 病院の半数以上が日本医療機能評価の受審や倫理委員 会の設置を行っていたことから、組織的に安全で質の 高い医療をめざし、倫理委員会等の仕組みを作る努力 をしている病院が多いといえる。また、院内における 倫理教育も半数以上が実施しており、看護部の方針と しても倫理教育や啓発に取り組んでいることが推測さ れる。

一方で、看護師長の半数近くが倫理的問題について 話す機会がないと回答しており、医療現場の倫理的問 題に組織で対応する仕組みができ、取り組むことが推 奨されていても、現実に起こっている倫理的問題につ いてタイムリーに話すことは困難な状況が考えられ る。困難な状況の背景には、医療従事者間の関係性や 組織構成、看護職の専門性と権限など様々な要因があ ると思われるが、1つずつ整理して解決する必要があ る。特に看護師長ならではの倫理的問題については、

同じ職位の者同士で相談する場や機会を作ることによ り、解決への糸口をつかむことができる可能性も期待

(7)

できると考えられる。

Ⅶ.本研究の限界と課題

今回様々な社会の変化のもとで生じている倫理的問 題について、看護師長が体験した倫理的問題と頻度に ついて調査を行った。広く国民がサービスを受ける日 本の医療の場での検討を試みたため、1つの県のすべ ての病院の看護師長を対象とした。結果的には回収率

が27%と低く、一般化には限界がある。しかし、本

研究は近年の医療の場において看護師長が体験した倫 理的問題の実態の一部である体験頻度を明らかにした 価値あるものだといえよう。今後はより回収率があが る調査を工夫する必要がある。

また、看護師長が体験している倫理的問題には、組 織やシステム上の問題が影響している可能性が示唆さ れた。今後は、経営母体や病床数等の属性との関連性 について検討する必要がある。

Ⅷ.結論

1.看護師長は、臨床実践における倫理的問題とし て、「患者に十分なケアを提供できない看護師の 充足状況」「患者の安全確保のために身体抑制や 薬剤による鎮静をするか、しないか」「患者の権利 と尊厳を尊重すること」等の人権や看護ケアに関 する項目を、他の項目より多く体験していた。

2.看護師長は、看護管理における倫理的問題とし て、「人的資源が不足している」「サービス残業が 行われている」「仕事がどのように評価されてい るのか不透明である」等の質の高い看護提供に必 要な看護師の充足に関する項目を、他の項目より 多く体験していた。

3.看護師長が所属する病院では、半数以上が日本医 療機能評価受審や倫理委員会設置を行っている一 方、実践の場で倫理的問題について話す機会を もっていないと回答した看護師長が40%以上い た。

謝 辞

本研究の実施にあたり、貴重な時間を割いてご協力 下さいました看護師長の皆様、所属施設の看護部長の 皆様、本研究に使用した尺度の利用に快諾下さいまし た岩本幹子先生、勝原裕美子先生に深く感謝申し上げ ます。

助 成

本研究はどの機関からも研究助成を受けていない。

利益相反

本研究における利益相反は存在しない。

文 献

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参照

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