神戸製鋼技報 /Vol. 70 No. 1(Jul. 2020) 3
まえがき=我が国の第 5 次エネルギー基本計画1)が 2018 年に経済産業省資源エネルギー庁によって策定さ れた。この基本計画においては水素が二次エネルギーと して位置付けられ,水素インフラは我が国にとって地球 温暖化対策のために整備すべきエネルギーインフラとな りつつある。また,2017 年 12 月には内閣官房 再⽣可能 エネルギー・水素等関係閣僚会議によって水素基本戦 略2)が制定されている。この基本戦略は,2050年を視野 に入れ,水素社会実現に向けて将来目指すべき姿や目標 として官民が共有すべき方向性・ビジョンであるととも に,その実現に向けた 2030 年までの行動計画という位 置づけで制定されている。この水素基本戦略ではさら に,水素製造時のCO2削減対策として,2040年頃に『水 素製造にCCS注 1)を組み合わせ,または再⽣可能エネル ギー由来水素を活用し,トータルでのCO2フリー水素供 給システムを確立する。』と方向づけられている。
また国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開 発機構(以下,NEDO という)では,「水素利用等先導 研究開発事業(平成 26 年度~平成 29 年度)低コスト水
素製造システムの研究開発」において,風力発電などの 再⽣可能エネルギー(以下,再エネという)電力からア ルカリ水電解方式で水素製造を行う開発が進められてい る。
いっぽう,水素を燃料とし,モビリティ領域における ゼロエミッション車(Zero Emission Vehicle)として 燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle,以下FCVという)
が注目を集めていることを背景に,FCV向け水素ステー ションの整備・ネットワーク構築が進みつつある。水素 ステーションの水素源としては,大規模天然ガス改質や 製油所副⽣水素を輸送・供給するオフサイト供給のほか,
天然ガスや LPG(Liquefied Petroleum Gas,液化石油 ガス)を原料として現地で製造するオンサイト水素供給 が採用されている。
我が国では水素供給ネットワークの構築が優先されて いるが,その水素は化石燃料由来であるため,現状では 製造過程でCO2を排出している。そのため,CO2排出量 を大幅に削減できる再エネ由来水素の利用に対する社会 的要請は今後ますます高まると考えられる。
水素ステーションに供給される水素は 4N(99.99%)
以上の高純度水素が要求される。また,廃液の排出や腐 食性などの問題が少ないことなど,市中での使用・取り
燃料電池自動車向け再エネ由来水素ステーションの実証
藤澤彰利*(博士(工学))・木下 繁・三浦真一(博士(工学))・中尾末貴・鈴木文昭・山下和宏
Demonstration of Hydrogen Refueling Station Using Renewable Energy for Fuel Cell Vehicles
Dr. Akitoshi FUJISAWA・Shigeru KINOSHITA・Dr. Shin-ichi MIURA・Sueki NAKAO・Fumiaki SUZUKI・Kazuhiro YAMASHITA
要旨
水素ステーション向けの水素製造時のCO2排出量を大幅に削減するためには再エネ電力由来の水電解水素を用い
ることが有効である。当社は,固体高分子型水電解式水素発⽣装置(20 Nm3/h)および製造した水素を高圧水素
(45 MPa)として貯蔵する設備を標準的な水素ステーション(水素供給能力300 Nm3/h)に増設する形態を考案し,
その実証設備を設計・製作した。実証運転では水電解式水素発⽣装置を変動電源で約780時間運転し,追随性や耐 久性に問題がないことを確認した。また,水素ステーションとの連携運転により,設計したシステム全体の機能
を実証した。今後,さらなるコストダウン・効率向上を検討するが,CO2排出量の少ない水素の社会的な価値設定
も必要と考えられる。
Abstract
To significantly reduce CO2 emissions during the production of hydrogen for hydrogen refueling stations, it is effective to use water-electrolysis hydrogen generated with renewable electricity. Kobe Steel has devised a configuration to add a hydrogen generator using a solid-polymer-electrolyte water electrolyzer (20 Nm3/h) and equipment for storing generated hydrogen at a high pressure (45 MPa) to a standard hydrogen refueling station (hydrogen supply capacity 300 Nm3/h) and has designed and built a demonstration plant. The demonstration included the operation of the water-electrolysis hydrogen generator for about 780 hours with the variable power source without any problems with followability and durability. In addition, the function of the entire system designed was verified by the operation linked with the hydrogen refueling station. In the future, further cost reduction and efficiency improvement will be considered. It is necessary to set a social value for hydrogen, which emits less CO2.
キーワード
水素ステーション,水電解装置,高圧水素,再⽣可能エネルギー,低炭素化技術,変動電源
■特集:エネルギー・環境 FEATURE : Energy and Environment
(技術資料)
* 技術開発本部 機械研究所
脚注 1) 二酸化炭素回収・貯留(Carbon dioxide Capture Storage)
技術をいう。
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扱いが容易であることが求められる。そのため,本用途 での再エネ由来水素製造方法としては,すでに商品化済 みの,高純度水素が得られる固体高分子型の水電解式水 素発⽣装置を用いる方式が有利であると考えられる。い っぽうで,水素ステーションで採用されるためには,水 素製造コストの低減や,水素製造効率の向上などが課題 となっている。
そこで当社は,㈱神鋼環境ソリューションおよび㈱神 鋼エンジニアリング&メンテナンスとのグループ連携の もと,再エネ由来水素ステーション関連技術の開発およ び実証試験(以下,本開発という)を共同で実施した。
本稿ではその概要を報告する。
1 .再エネ由来水素ステーション実証設備の構成 本開発では,再エネ由来水電解水素を水素ステーショ ンに供給することを目的とした。そこで,標準的規模の 水素ステーション(定格300 Nm3/h)に隣接して処理能 力 20 Nm3/h の水電解式水素発⽣装置および水素貯蔵設 備(図 1)を設置する計画とした。これは,現状のコス トでは300 Nm3/hの水電解式水素発⽣装置は水素ステー ションで受け入れられる価格にはならないこと,また,
MW 級の大規模な再エネ電力を得ることも容易ではな いためである。20 Nm3/h の処理能力は 300 Nm3/h の定 格の 6%程度であり,CO2削減効果は部分的である。し かしながら,需要増に応じて大規模なものに差し替える こともできる。
本開発で使用する実証設備は水素ステーションに適用 される法規に準拠する設計とした。設備は,当社高砂製
作所内に自社装置検証用に設置した水素ステーションに 併設した。実証設備のレイアウトおよび設置状況を図 2 に示す。以下に主要構成装置の概要を述べる。
(1)水電解式水素発⽣装置
㈱神鋼環境ソリューション製20 Nm3/h の水電解式水 素製造装置3)を用いた(図 3)。本装置は電流密度を従 来機比 1.4 倍に向上させた開発品であり,イニシャルコ スト低減とダウンサイジングを目指して設計されたもの である。また,水素ステーションに設置することを前提 に屋外設置が可能なパッケージ型とした。
(2)水素貯蔵装置
変動電源である再エネ由来電力を用いて水素を製造し た場合,水素流量は電力に応じて変動する。また水素ス テーションでの水素需要は,FCVへの充填需要に応じた 非定常な状況になる。そのため,需要が少ないときに備 えて,製造した水素を一時貯蔵することが必要となる。
そこで本開発では,中間圧縮機および中間蓄圧器を備 え,水素を圧縮ガスとして貯蔵する方式を採用した。
水素貯蔵量は中間蓄圧器の圧力および容量の設定によ るため,水素製造能力および水素ステーション側の需要 に応じて設計を行う必要がある。本開発での貯蔵量は,
2 台程度の FCV へ水素供給可能で,水電解式水素発⽣
装置を 4 時間程度稼働可能な水素貯蔵量として 90 Nm3 程度と設定した。
中間蓄圧器の圧力は,オフサイト水素ステーションに おいて水素カードルからの荷卸し用として採用されてい る蓄圧器と同等の常用圧力 45 MPa に設定した。また中 間蓄圧器の本数は,弁などのトラブルに対応可能なよう
図 2 再エネ由来水素ステーション実証設備
Fig.2 Demonstration facility of hydrogen refueling station using renewable energy 図 1 再エネ由来水素ステーションの概念図
Fig.1 Conceptual diagram of hydrogen refueling station using renewable energy
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に 2 本に設定した。以上の要件を満たす蓄圧器容量を検 討し,150 Lの蓄圧器容量を採用した。
また,水素ステーションへの水素供給の圧力変動を抑 えるため,低圧水素バッファタンクを設けた。これに中 間圧縮機吸込配管をはじめ,中間蓄圧器出口配管や水電 解式水素発⽣装置出口配管,および水素ステーションへ の水素供給配管を接続した。これは,水素製造・貯蔵・
供給それぞれの運転パターンに最小の機器構成で対応す ることを目指した構成である。
2 .実証運転
2. 1 水電解式水素発生装置の検証
これまでの水電解式水素発⽣装置の用途は産業用水素 供給が主であり,安定電源を用いた水素製造が中心であ った。いっぽう再エネ由来水素ステーションは,一般的 に不安定電源とされる再エネ電力を利用して水素を製造 する。そこで本開発では,発電電力が再エネ由来電源の なかでもとくに急峻(きゅうしゅん)に変動する太陽光 発電電源に対して水電解式水素発⽣装置の追随性および 耐久性を検証するため,太陽光模擬電源を用いた水素製 造試験を行った。
太陽光発電は季節や天候によって発電量が異なる。そ こで本開発では,季節としては「夏季」,「中間期」,「冬 季」を,また天候は「晴天」,「曇天」,「雨天」を設定し,
各季節・天候での日射データに基づく発電電力量を前提 とした水電解水素発⽣装置の運転を実施した(積算運転 時間:780時間)。また日射データとしては,NEDOが公 開している日射量データベース閲覧システム4)を参考 に,つくば市の 2011 年 6 月~2012 年 12 月のなかの標準 的と考えられる日射データを設定した。
代表的な例として,夏季の曇天時を想定した日射パタ ーンでの発電電力量および水素製造量の経時変化を図 4 に示す。負荷変動が大きく,水電解式水素発⽣装置とし ては厳しい条件であるが,電力変動に追随した水素製造 が可能であることを確認した。また,実証期間中も特段 の不具合が⽣じることなく運転を完了した。効率に影響 を及ぼす電解セル電圧の変化率は,実証期間の前後で 1%以下であり,耐久性の観点からは十分に許容できる 値である。また水素純度についても ISO で規定される FCV 用水素燃料中の許容不純物濃度を下回っており,
FCVに供給可能であることを確認した。
以上より,開発した水電解式水素発⽣装置は変動電源 に対して問題ないことを確認できた。
2. 2 水素製造・FCV 水素充填実証運転
本実証設備は実運用を想定して以下の 3 工程を設定し た。
(1)水素製造工程:水電解式水素発⽣装置で水素を 製造する工程
(2)水素貯蔵工程:製造した水素を中間圧縮機によ って中間蓄圧器に貯蔵する工程
(3)水素供給工程:FCV への水素充填と連動して,
中間蓄圧器から水素を払い出し,水素ステーシ ョン側へ供給する工程
水素供給工程では,水電解水素と中間蓄圧器からの供給 水素が低圧水素バッファタンクを経由し,圧力を安定さ せて水素ステーションへ供給されるように制御設計した。
水素ステーションと連携した再エネ由来水素ステーシ ョンとしての動作を確認するため,水素製造・FCV 水 素充填実証運転を実施した。図 5に試験結果を示す。な お,図 5 ではFCVへの水素充填開始時刻を 0 としている。
充填開始前は水電解水素を中間蓄圧器へ導入している ため,中間蓄圧器の圧力が上昇している(図 5 の(1)部)。
充填開始後,FCVへはまず高圧蓄圧器から水素が供給さ れるため,高圧蓄圧器の圧力が低下している(図 5 の(2)
部)。つぎに水素ステーション側の圧縮機へ起動指令が 出力され,高圧蓄圧器へ水素が導入される。同時に水素 供給工程が開始され,その結果中間蓄圧器の圧力が低下 している(図 5 の(3)部)。219 秒で水素充填は完了し ているが,高圧蓄圧器が初期の圧力に復圧するまで圧縮 機は稼働を続ける。このため,連動して水素供給工程が 継続される(図 5 の(4)部)。復圧完了と同時に水素 供給工程は終了し,水素蓄圧工程が再開される(図 5 の
(5)部)。
本実証によって以下のことが確認できた。
・FCV に 2.9 kg の水素を充填し,その間ほぼ同量の 水電解水素を本実証設備から供給できている。
・運転中,低圧水素バッファタンク圧力は設定した圧 力範囲内で制御できている。
・一連の工程の間も水電解式水素発⽣装置は安定して 水素製造を行っている。
以上より,水素ステーションとの連携運転を実証した。
図 3 水電解式水素製造装置 Fig.3 Water-electrolysis hydrogen generator
図 4 夏季の曇天時パターンでの電力量と水素製造量の経時変化 Fig.4 Changes in electric energy and amount of hydrogen production
over time (by pattern of cloudy weather in summer)
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むすび= 再エネ由来水素ステーションの一形態として,
20 Nm3/h の能力を有する水電解式水素発⽣装置から製 造した水素を水素ステーションに供給する実証設備を設 計・製作した。この実証設備を用い,変動電源からの水 素製造・貯蔵,水素ステーションへの供給,および FCVへの充填を実証した。
本実証では,既設の水素ステーションへの再エネ由来 水素製造・貯留設備の併設,すなわちオンサイト水素製 造を前提とした。しかしながらこれに限らず,再エネ電 力や余剰電力の活用によって水素を製造し,その水素の 供給先を輸送網のトレーラや水素カードルなどにするこ とによってオフサイト水素ステーションの供給網へ再エ ネ由来水素を導入する形態も可能と考えられる。
いっぽうで再エネ由来水素を普及させるためには,水 電解式水素発⽣装置を中心とした諸設備のコストダウン や効率向上が必要である。また,CO2排出量の少ない水 素の定義および認証制度が必要と考える。
今後も最適化・コストダウン検討を継続し,水素エネ ルギー社会の未来に貢献していく所存である。
なおこの実証は,環境省の平成 28~29 年度 CO2排出 削減対策強化誘導型技術開発・実証事業である「中規模
(1.5 kg 程度)の高圧水素を製造する再エネ由来水素ス テーション関連技術の開発・実証」の委託および補助を 受けて実施した。ここに感謝の意を表す。
参 考 文 献
1) 経済産業省資源エネルギー庁. エネルギー基本計画. 2018, https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_
plan/pdf/180703.pdf, (参照 2019-12-05).
2) 内閣官房 再⽣可能エネルギー・水素等関係閣僚会議. 水素基
本戦略. 2017, https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saisei_energy/
pdf/hydrogen_basic_strategy.pdf, (参照 2019-12-05).
3) 石井 豊ほか. 神鋼環境ソリューション技報. 2018, Vol.15, No.1, p.2-9.
4) NEDO. 日射量データベース閲覧システム. http://app0.infoc.
nedo.go.jp/, (参照 2019-12-05).
藤澤彰利
技術開発本部 機械研究所
木下 繁
技術開発本部 機械研究所
三浦真一
機械事業部門 圧縮機事業部 回転機本部 回転機技術部
鈴木文昭
㈱神鋼エンジニアリング&メンテナンス プラント事業部 エンジニアリング部
中尾末貴
㈱神鋼環境ソリューション 新規事業推進部
山下和宏
㈱神鋼エンジニアリング&メンテナンス プラント事業部 エンジニアリング部 図 5 水素製造・FCV水素充填実証運転
Fig.5 Demonstrated operation of hydrogen production / hydrogen refueling to FCV