1.はじめに
建設業における労働災害は、昭和 37 年の
137,282 人をピークに減少し続け、平成 18 年
には 26,872 人となっている
1)。死亡者数に限
っても、昭和 36 年の 2,652 人をピークに減少 し続け、 昭和 50 年代後半以降死亡者数は 1,000 人前後で推移し、平成 18 年には 508 人まで減 少している。
しかし、解体工事における労働災害について は、近年減少がみられない。解体工事業が、建 設業法における建設業の許可業種の中にない こと、あるいは解体工事業の市場規模が建設業 界全体のそれの 1~2%に過ぎないことなどを 考慮するならば、建設工事全体の死亡者数に対 する解体工事のその割合が平均しても 5%超 であり、さらに近年において上昇傾向にあるこ となどを考慮すると無視できない現象である。
本報告は、平成 20 年 3 月社団法人全国解体 工事業団体連合会発行「解体工事における労働 災害事例集」に基づき労働災害と年齢・経験の 関係について考察したものである。
2.解体工事における労働事故の現状
2.1 労働事故における年齢・経験年数の分布 図 1 は解体工事における労働事故発生件数 を年齢別で割合表記したものである。50~59
歳が 31%と突出して多くなっている。
図 2 は事故発生件数を経験年数別で割合表 記したものである。経験年数 10 年未満が全体 の半数以上を占めており、10 年を超えると労 働災害が減少する傾向が見て取れる。
図 3 は 50 歳以上の労働災害者の経験年数の 分布を示したものであり、 50~59 歳では 30%
以上、60 歳以上でも約 20%が経験年数 10 年 未満である。
Influence of Age and Experience on Industrial Injury in Demolition Work
Shinya MIKOSHIBA, Noboru YUASA, Yoshio KASAI, Takashi SASAKI and Isamu MATSUI
11%
31%
18%
21%
18%
1%
40~49
歳50~59
歳60~69
歳~19
歳30~39
歳20~29
歳解体工事における労働災害と年齢・経験の関係
日大生産工(院) ○御子柴 信也 日大生産工 湯浅 昇 元日大生産工 笠井 芳夫 日大生産工 佐々木 隆 日大生産工 松井 勇
27%
24%
8%
5%
14%
18%
3%
1% 1
年~5
年未満5
年~10
年未満10
年~20
年未満20
年~30
年未満
30
年~40
年未満
1
年未満40
年以上 不明図 1 年齢別事故発生割合
図 2 経験年数別事故発生割合
図 3 年齢と経験年数の関係(50 歳以上の場合)
0 5 10 15 20 25
50~59歳 60歳以上
1年未満 1~5年未満 5~10年未満 10~20年未満 20~30年未満 30~40年未満 40年以上
事故件数(件)
2.2 職種別事故発生数と年齢・経験の関係 図 4、図 5 は、労働事故の発生件数を職種別 にまとめ、その年齢・経験年数の分布を示した ものである。
図 4 より年齢の分布を確認すると、鳶工を除 けばいずれの職種においても労働災害者の 4 割以上が 50 歳以上であり、鳶工でさえ約 20%
が 50 歳以上となっている。
また、図 5 より経験年数の分布を確認すると、
作業工を除いた職種の労働災害者の 6 割強が 経験年数 10 年未満で事故を起こしており、作 業工でさえ約 40%が経験年数 10 年未満の労働 災害者で占めている。
さらに、年齢が 50 歳以上でも経験年数が 10 年未満であることもあり、年齢と経験年数は必 ずしも比例関係になく、こうした背景が解体工 事従事者の事故の原因の一部と考えられる。
2.3 事故発生場所と年齢・経験の関係
図 6、 図 7 は、 労働事故の発生場所をまとめ、
その年齢・経験年数の分布を示したものである。
図 6 より梁柱上、重機周辺、屋根上、では 50 歳以上による事故が 50%~60%を占めてい る。また、全体を通しても 50 歳以上の労働災 害が 30%超えていることは軽視できない。
また、図 7 の経験年数と労働事故の関係を図 5 より高齢作業者の多かった梁柱上、重機周辺、
屋根上を中心に見ると、それぞれにおける経験 年数 10 年未満の作業員の占める割合は梁柱上 で 50%、重機周辺で 40%、屋根上で 40%とな っている。
このことから、作業場所が高所にある場合、
また、高所作業を伴う場合は、経験年数よりも 年齢の方が大きな労働災害の要因となってい ると考えられる。
0 10 20 30 40 50 60
不明 その他 解体工 鳶工 土木工 作業工 オペレーター
~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳
0 10 20 30 40 50 60
不明 その他 解体工 鳶工 土木工 作業工
オペレーター 1年未満
1~5年未満 5~10年未満 10~20年未満 20~30年未満 30~40年未満 40年以上 不明
0 5 10 15 20 25 30
不明 その他 解体建物周辺 屋根上 運搬車両周辺 床上 重機周辺 足場上 梁・柱上 窓際 道路上 階段上
~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳
0 5 10 15 20 25 30
不明 その他 解体建物周辺 屋根上 運搬車両周辺 床上 重機周辺 足場上 梁・柱上 窓際 道路上 階段上
1年未満 1~5年未満 5~10年未満 10~20年未満 20~30年未満 30~40年未満 40年以上 不明
図 4 職種と年齢の関係
図 6 事故発生場所と年齢の関係 図 7 事故発生場所と経験年数の関係 図 5 職種と経験年数の関係
事故件数(件) 事故件数(件)
事故件数(件) 事故件数(件)
2.4 事故発生時の作業内容と年齢・経験の関係 図 8、 図 9 は、 労働事故発生時の作業内容と、
その年齢・経験年数の分布を示したものである。
図 8、図 9 より撤去、搬出の作業や作業位置 が高い作業の事故件数が多い事がわかる。
図 8 より設備の撤去、躯体の解体、屋根材の 撤去の作業においては 50 歳以上の労働災害が 50%を超え、内外装の解体では 30~50 歳未満 が占める割合が高い傾向にあることがわかる。
図 9 をみると経験年数が 10 年未満であるも のが非常に多く、内外装の解体においては約 70%、最も割合の低い屋根材の撤去でさえ 40%を超えている。
これらより、解体作業は経験を積む事、また 経験が浅くても安全に作業できる環境作りに より事故を防止することが重要と考えられる。
2.5 事故種別と年齢・経験の関係
図 10、図 11 は、労働事故の種別と、その年 齢・経験年数の分布を示したものである。
事故の内容としては、墜落・転落が大半を占 めている。次いで飛来・落下などの事故が多く なっている。
図 10 より、転倒、墜落・転落、飛来・落下 などの事故はいずれも 50 歳以上の事故が 40%
を超えており、壁等の倒壊や踏み抜きなどの事 故種別については、年齢の老若による差はない。
図 11 より、踏み抜き事故では経験未熟が多 く、どの事故においても経験年数 10 年未満が 約 50%となっている。
これらのことより、年齢が高齢であることだ けではなく経験不足が原因となり事故が起こ っているものもあると考えられる。
0 5 10 15 20
不明 その他 内装の解体 屋根材の撤去 廃棄物の搬出 躯体の解体 外壁材の解体 設備の撤去 重機 足場の解体 基礎の解体
現場移動 1年未満
1~5年未満 5~10年未満 10~20年未満 20~30年未満 30~40年未満 40年以上 不明
0 5 10 15 20
不明 その他 内装の解体 屋根材の撤去 廃棄物の搬出 躯体の解体 外壁材の解体 設備の撤去 重機 足場の解体 基礎の解体 現場移動
~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳
図 8 作業内容と年齢の関係 図 9 作業内容と経験年数の関係
事故件数(件) 事故件数(件)
0 5 10 15 20 25 30 35 40 その他
墜落・転落 飛来・落下 転倒 壁等の倒壊 重機に激突され 釘の踏み抜き 熱中症 床の崩壊・踏抜き 交通事故 ガス爆発
~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳
図 10 事故種別と年齢の関係 図 11 事故種別と経験年数の関係
事故件数(件) 事故件数(件)
0 5 10 15 20 25 30 35 40 その他
墜落・転落 飛来・落下 転倒 壁等の倒壊 重機に激突され 釘の踏み抜き 熱中症 床の崩壊・踏抜き 交通事故 ガス爆発
1年未満 1~5年未満 5~10年未満 10~20年未満 20~30年未満 30~40年未満 40年以上 不明
2.6 事故発生原因と年齢・経験の関係
図 12、図 13 は、労働事故発生の原因をまと めその年齢、経験年数の分布を示したものであ る。
労働事故発生の原因は技量未熟や経験不足、
体調不良などの改善が難しい事故に比べ、安全 設備不設置、無理な作業・運転、打ち合わせ不 足など改善が見込める事故原因が多いことが 特徴である。
図 12 より事故発生の原因を年齢別に見てい くと、不注意ならびに打合わせ不足が 50 歳以 上で突出して多い以外は平均的に分布してい る。
また、図 13 より、経験年数が 10 年以上でも 経験不足や技量未熟が原因で事故が起こって いる事もあり、解体工事従事者の教育が不十分 であることが考えられる。
3.今後の展望 3.1 調査内容の強化
本報告をまとめるにあたり、データの全体数 が少ないこと、解体工事業従事者の母数が不明 確である等の問題点が明らかになった。これら の項目を発展させて行く事により、さらに有用 性の高い研究とすることができると考える。
3.2 事故防止対策の提案
本報告により得られた知見を基に、作業員の 安全意識を向上させ、経験および年齢により適
正
正な作業そして教育を行うことにより事故防 止に繋がると思える。
4. むすび
現在労働災害を防止するための方法は数多 く研究されている。過去の労働災害事例を検証 することにより将来の危険を予測し、回避する 能力を養うことは、労働災害防止において極め て効果的な方法である。また、今後は中高年齢 の作業員が増え、災害の増加が懸念される。
そのため、中高年労働者を考慮した働きやす い建設現場環境が必要となる。
また、効果のある対策を打ち出すために、人 間の特性や本質を十分に理解し、事故の背後に 隠れた潜在的な原因を追究する事により人間 の特性や本質が事故にどのように関わり、どの ような問題を引き起こしているかを把握する 必要がある。
謝辞
本報告をまとめるにあたり懇切なるご助言を頂 きました新井一彦先生にここに記して心より感謝 の意を表します。また、データ整理に協力して頂き ました代田佑一氏に対し心より感謝いたします。
参考文献
1)建設業安全衛生年鑑
2)全国解体工事業団体連合会,解体工事における労 働災害事例集、(2008)
0 5 10 15 20 25 30
打合わせ不足 経験不足 安全設備不設置 無理な作業・運転 作業手順書等の未整備 技量未熟 事前調査不足 体調不良 機器整備不良 無理な工程 不注意
1年未満 1~5年未満 5~10年未満 10~20年未満 20~30年未満 30~40年未満 40年以上 不明
0 5 10 15 20 25 30
打合わせ不足 経験不足 安全設備不設置 無理な作業・運転 作業手順書等の未整備 技量未熟 事前調査不足 体調不良 機器整備不良 無理な工程 不注意
~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳
図 12 事故原因と年齢の関係 図 13 事故原因と経験年数の関係
事故件数(件) 事故件数(件)