2 社会
言語活動を通して育む,地理的分野における社会的思考力・判断力・表現力
―社会的事象を多面的・多角的に思考し,公正に判断し行動につなげていく生徒の育成のために―
上田 真也
1.研究テーマによせて
(1)はじめに
平成24年度より新学習指導要領が完全実施となっ た。社会科においてとりわけ,大きな変化がみられた のが地理的分野である。
新学習指導要領における目標については,(2)の「地 域的特色をとらえるための視点や方法を身に付けさせ る」から「地域的特色や地域の課題をとらえさせる」
となり,各地域における地域的特色について学ぶ,「地 誌的な学習」を充実させる形となった。
内容構成においては,旧学習指導要領の3つの大項 目「(1)世界と日本の地域構成」・「(2)地域の規模 に応じた調査」・「(3)世界と比べて見た日本」から新 学習指導要領は2つの大項目「(1)世界の様々な地 域」・「(2)日本の様々な地域」となった。
具体的内容においては,世界の場合,これまでは世 界の国々の中から幾つかの国(本校は,アメリカ合衆 国,中国,ドイツ)を取り上げていたものが,世界の 6地域区分(アジア州,ヨーロッパ州,アフリカ州,
北アメリカ州,南アメリカ州,オセアニア州)を扱う こととなり,日本の場合,これまでは47都道府県の 中から幾つかの都道府県(本校は,滋賀県,東京都と 残り45道府県より1つ選択)を取り上げていたもの
が,日本の7地方区分(九州地方,中国・四国地方,
近畿地方,中部地方,関東地方,東北地方,北海道地 方)を扱うこととなった。
これが前述した「地誌的な学習」にあたる,大項目
(1)の中項目「ウ 世界の諸地域」と(2)の中項 目「ウ 日本の諸地域」である。
これら諸地域について「世界の諸地域」では主題を,
「日本の諸地域」では地域の特色ある事象や事柄を,
中核(自然環境,他地域との結びつき,環境保全,産 業,人口や都市,生活・文化,歴史的背景)として設 定し,地域的特色を追究・考察する形となった。
特に,「日本の諸地域」については,かつて「窓方式」
と呼ばれた「静態地誌的学習」(取り上げた地域の多様 な事象を,「自然」・「農業」・「工業」などの項目ごとに 整理する形で追究する地誌)から「動態地誌的学習」
(取り上げた地域における特色ある事象や事柄を中核 として,それを他の事象と有機的に関連付けて,地域 的特色を追究する地誌)となった。
また,本校がこれまで大切にしてきた社会科学習と して,社会に対する関心を深め,他者との関わりを通 し,共に生きる姿勢や態度を育成する学びを深め るという視点から,課題解決に向けた生徒同士,生徒 本論の要旨
本校社会科では,様々な視点から社会的事象をとらえさせ,生徒自らが思考し,正しい価値 観を形成した上で,公正な判断のもとに,よりよい社会の創造に向けた行動につなげていくこ とを目標とし,「社会的事象を多面的・多角的に思考し,公正に判断し行動につなげていく生 徒の育成」を研究主題に掲げている。これまでの研究・実践においても様々な学習場面を設定 し,多面的・多角的に思考する力や公正に判断する力を養い,実社会において生徒自身が何ら かの形で行動がとれることを意図して研究に取り組んできた。
本年度は新学習指導要領が完全実施となり,地理的分野において,大きな変化がもたらされ た。特に,かつて扱われていた「世界の諸地域」と「日本の諸地域」の復活のみならず,静態 地誌的学習から動態地誌的学習への転換が求められることとなった。さらに,そうした状況に 加え,新学習指導要領改訂の主な要点のひとつでもある「言語活動の充実」を図ることも求め られている。以上のことを踏まえ,地理的分野に主眼を置き,言語活動の充実を図ることを通 して,社会科(地理的分野)が求める力(社会的思考力・判断力・表現力)を育みたいと考え る。
キーワード 動態地誌的学習 言語活動の充実 社会的思考力・判断力・表現力
と教師または学校外の人材や家庭,地域社会の関わり の中で学習することを重視すると同時に,さらに,言 語活動の充実を図る活動(具体的には4人グループに よる班活動や思考を可視化するシンキングツールの使 用など)を通して,
生徒たちが様々な立 場や思いの人々との 関わりをもち,共通 点や相違点を認める ことで,相互理解や 協調を重視した社会
の創造につなげたい。
【授業づくりで意識する三要素】
(2)個人研究について
本年度は,担当学年が第1学年社会科及び第2学年 の地理的分野担当となり,両学年で地理的分野を取り 扱う機会に恵まれた。このことにより,(1)で触れ たように,新学習指導要領の完全実施により,社会科 関係者の中でも,取り分け関心が集まる地理的分野を 個人研究とした。
さらに,本年度は5月に愛知県豊川市教科指導員研 修視察(第2学年授業公開),6月に校内研究会(第 1学年授業公開)で,1・2年それぞれで,同じ単元 内容の授業を公開する機会に恵まれ,個人研究を意識 した授業づくりとして,次の2点を主眼として実施し た。
①言語活動の充実について
目的ではなく手段としてどうあるべきか。
②発問について
思考力・判断力・表現力を伸ばす発問はどうあるべ きか。
さらに,実践授業では「世界の諸地域」においても 動態地誌的学習の要素を意識した単元設定づくりに努 めた。
2.研究仮説
言語活動の充実を図る場面を設定したり,思考力・
判断力・表現力を伸ばすことを意識した発問のあり方 を考える視点を盛り込んだりしながら,従来の静態地 誌的学習ではなく,動態地誌的学習を想定した授業づ くりをすれば,社会科(地理的分野)が求める力(社 会的思考力・判断力・表現力)を育むことができるで あろう。
3.研究方法
社会科が求める力を育むために,言語活動やグルー プ活動,生徒の多面的・多角的な思考を促す活動など のあり方を模索しながら,授業づくりを行う。
4.授業実践(平成24年6月6日・第1学年)
①主題(単元,題材)
世界の諸地域~アジア州~
②主題によせて(単元設定の理由,題材観)
新学習指導要領における世界の諸地域については,
「アジア・ヨーロッパ・アフリカ・北アメリカ・南ア メリカ・オセアニアの各州に暮らす人々の生活の様子 を的確に把握できる地理的事象を取り上げ,それを基 に主題を設けて,それぞれの州の地域的特色を理解さ せる。」とある。また,「州ごとに様々な面から地域的 特色を大観させ,その上で主題を設けて地域的特色が 明確となり,かつ我が国の国土の認識を深める上で効 果的であるという観点から設定すること。また,州ご とに異なるものとなるようにすること。」としている。
本単元で取り上げるアジア州は,先述した「世界の諸 地域」で扱う最初の州であり,新学習指導要領が求め る動態地誌的な学習を初めて扱う学習となる。(今回の 改訂で,地域に関する知識を羅列し,積み上げていく 従来型の静態地誌的学習ではなく,地域的特色を最も よく表している事象を中心とし,その他の事象との関 係性を明らかにしようとする動態地誌的学習を通じて,
世界の地理的認識を深めていくことが重要視された。) 第1学年の生徒は,これまでの地理的分野の学習に おいて,「世界の姿」や「世界各地の人々の生活と環境」
といった単元で,地理的分野に必要な基礎・基本とし ての知識や技能を身に付けてきた。また,自分が調べ たことや自分が考えたことをプリントやノートにまと めたり,記述したり,発表したり,グループ(4人)
内で交流したりしてきた。しかし,1つの地理的事象 をより多面的・多角的に思考したり,自分の思考を裏 付ける根拠となる資料を活用したり,グループによる 話し合いを通してより高い価値判断を迫ったりするこ とはなかった。
そこで,本単元では,「すごいアジア」を主題とし,
アジア州の自然,生活・文化,人口,産業などの地域 的特色を「すごい」という観点で大観させ,「なぜ,ア ジアに人口が集中するのか?」という問いに対して追 究させたい。その際,自分の考えを仮説という形で表 出させ,その仮説の根拠となる事柄を意識させること で地理的分野における思考力を深めたい。また,自分 の立てた仮説をグループ内で交流し,より説得力のあ る仮説を選択させることによって,判断力を養いたい。
③学習目標
アジア州における地理的事象を多面的・多角的に捉 え,その地域的特色について理解し,課題に対して根 拠を基に考え,追究しようとする態度を養う。
社 会
④単元の評価規準
社会的事象への 関心・意欲・態度
①アジア州の地域的特色 に関心を持ち,世界の人口 がアジア州に集中してい る理由を追究しようとし ている。
社会的な思考・判断・表現
②世界の人口がアジア州 に集中している理由を,ア ジア州の地域的特色をふ まえた根拠を基に考えて いる。
資料活用の技能
③アジア州の地域的特色 を捉えるために必要な資 料を,適切に読み取ってい る。
社会的事象についての 知識・理解
④アジア州における地理 的事象を多面的・多角的に 捉え,地域的特色について 理解している。
⑤単元の学習計画(全6時間)
第1次 広いアジア~自然~ /1時間 第2次 多いアジア① /1時間
~生活・文化・人口~
第3次 多いアジア② /1時間 本時
~人口集中の理由~
第4次 作るアジア①~農業~ /1時間 第5次 作るアジア②~工業~ /1時間 第6次 まとめ /1時間
⑥本時の目標
世界の人口がアジア州に集中している理由を,アジ ア州の地域的特色をふまえた根拠を基に考えることが できる。 (評価規準②)
⑦本時の学習過程
学習内容と学習活動 指導上の留意点,★思・判・表を伸ばす方策,◆評価 導
入
1.アジア州の人口が世界の約6割であるこ とを確認する。
・前時の学習内容を確認させ,世界の人口がアジア州に集中していること を再度意識させる。
展 開
2.アジア州の人口が多いことによるプラス面とマイ ナス面についてグループ交流する。
3.グループごとにプラス面とマイナス面を 板書する。
4.板書した意見を交流する。
5.問いに対する仮説を立てる。
6.グループ内で仮説を交流する。
・前時の課題を交流し,グループ内で意見をまとめさせる。その際,グループご とに板書する生徒を決めておく。
・板書する生徒は,グループごとに見やすく板書 するよう促す。
・その他の生徒は,メモの準備をするよう促す。
・グループごとに板書されたプラス面とマイナス面をある程度項目ごとに分けな がら,学級全体で交流する
★仮説を立てる際,根拠となる資料や既習内容等 をふまえるよう促す。
・仮説は「○○説」とするよう指示する。
◆[思考・判断・表現]規準②:ノート
★グループ内で交流させて,最も説得力のある仮説を1つ選ばせ,画用紙 に「○○説」と記入させる。
・グループ内でしっかり話し合わせた上で,選ばせる。
・グループの代表者に記入させ,提出させる。
ま と め
7.各グループの仮説を確認する。 ・時間があるようなら,仮説の根拠について触れておく。
・各グループで提示された仮説は,後に再び扱い,追究することを伝えて おく。
なぜ,アジアに人口が集中するのか?
⑧資料・教具・準備
地理的分野の教科書(帝国書院)
中学校社会科地図(帝国書院)
アドバンス中学地理資料(帝国書院)
中学校社会科地図<デジタル版>(帝国書院)
画用紙 実物投影機 ノートパソコン プロジェクター
⑨成果と課題
本単元の目標「アジア州における地理的事象を多面 的・多角的に捉え,その地域的特色について理解し,課 題に対して根拠を基に考え,追究しようとする態度を養 う。」および,本時の目標「世界の人口がアジア州に集 中している理由を,アジア州の地域的特色をふまえた根 拠を基に考えることができる。」に関して,人口が多い ことによるプラス面とマイナス面に分類させることで,
その地域的特色をつかませることができた。さらに,グ ループで交流し,板書させたものを学級全体でキーワー ドとして分類・整理することで,アジア州における「人 口が多い」という地理的事象を多面的・多角的に捉えさ せることができた。
授業で,生徒から板書に示された主なプラス面とマイ ナス面は次の通りである。
【プラス面】
・技術,産業,文化,医療の発達
・人件費が安く工業が発達する
・様々な文化が起こる
・豊かな労働力
【マイナス面】
・狭い
・水不足になり,食料争いが起きる
・都市に人口が集中する
・一人ひとりの収入が少なくなる
また,「なぜ,アジアに人口が集中するのか?」とい う問いに対して,根拠を基に仮説をたてさせ,「○○説」
という形で,仮説に対してある程度端的な命名をさせる ことで言語活動として,思考した内容に関する表現力を 高めることにもつながったと考える。
授業で,グループごとに話合い,代表仮説として提示 されたものは次の通りである。
・文明説
・気候説
・河川説
・貧困説
・豊か説
・自然説
授業のまとめでは,限られた時間ではあったが,提示
された仮説にした理由を,根拠を示しながら発表させた。
以上のことから,本時における学習活動において,思 考力・判断力・表現力を伸ばす手立てとして,自分で考 えたものをノートに記述させたり,自分の考えをグルー プ内で交流させたり,根拠を基に仮説をたてさせたり,
いくつかの仮説から最も説得力のある仮説を選択させ たりする活動が挙げられる。また,「なぜ?」という問 いに対して根拠とともに仮説をたてさせるという,思考 レベルの高い発問も有効な手立てであると考える。日頃 からこうした活動が,単元の中で意図されて位置づけら れているとさらに効果的であろう。
課題としては,本時の授業構成が挙げられる。以下に 示すものは,5月に実施された「愛知県豊川市教科指導 員研修視察時の授業内容に対する考察」(庄子 晋・山 内 敏男)である。本時の課題点が指摘された内容であ るため,一部抜粋して掲載する。
『断片的で個別の用語をいくつ並べたとしても,「問題 を解決する」ことは困難である。学習活動においてプラ ス面とマイナス面に分類させたことは,授業者が位置づ けた「アジアの特色」を多面的にとらえさせるための手 がかりとして機能していた。また,授業者が本時の中核 の問いとして「人口が多いこと」を取り上げ,「なぜ」
とその原因を発問していることから,事象間の関係をつ なぎ,社会の仕組みが理解し易くなっていると考えられ る。しかし,授業者自身が「そもそも」と前置きしてい るように,中盤までの活動と後半の活動とで思考のつな がりが十分ではなかった。後半の活動をより有意味な活 動とするためには,他地域との比較をさせ,その共通点 を挙げてから「なぜ」と問い,その上でプラス面,マイ ナス面を挙げてアジアの特色を探求させるなどの展開が 考えられる。後半の活動は仮説設定の場面として限定し た活動であるなら許容できるであろう。その後の展開に おいて,資料から読み取れることを基本とした「根拠」
を組み込んだ発言,話し合いが求められる。裏を返せば,
授業者が意図していた「根拠をもとにした追究」が本時 においては十分ではなかったと言える。授業者が提示し た資料に注目させる指示を出し,読み取りの時間を確保 することで,対象とする地域が絞り込まれ,加えて人口 の増加の程度(あるいは増加率)を時系列で示したグラ フを提示することにより,人口増加の原因とその根拠を 生徒自身で発見できる糸口となったであろう。』
このことから,本単元のアジア州における中核となる 問いをどの段階で示し,探求させるかがポイントとなる。
また,静態地誌的学習ではない,動態地誌的学習として どう展開するかが「世界の諸地域」でも求められている のである。
以上のことを踏まえて,本単元の学習計画・授業構成 を再考してみると,例えば,第3次で扱った本時の内容
社 会
を単元そのものの中核とし,毎時,中核である問いを意 識させて展開し,最終的にアジア州にとって「人口が多 い」という地理的事象がプラスなのか,マイナスなのか を吟味し,アジア州のもつ地理的特色を理解していく展 開などが考えられるであろう。ただ,その場合であって も,前段でアジア州の地理的概要を大観させておく必要 があるため,ある程度,教師主導の静態地誌的学習の要 素も必要である。そうした場面で有効と考えるのが,地 図である。地理的分野である以上,地図を用いることは 当然のことではあるが,ここではどのような地図をどの 場面で用いるかがポイントとされる。
現在,本校で使用している教科書では,州ごとにまと まった形で構成されており,各州,最初のページに自然 を示す地図が提示されている。州の概略を知る上で,ど のような自然が見られ,どのような環境にあるかを把握 することは重要である。従って,地図を利用し,州の自 然を捉えさせ,場合によっては,自然環境を表す写真資 料や気候を捉える雨温図を用いた読み取りが必須であ る。そうした活動を,生徒と共に行い,言葉や文章で表 現させたり,ノートに記述させたりして掴ませている。
また,学習を進める上で重要な「関心・意欲・態度」に ついて,課題追究したくなるような動機づけが大切とな るであろう。そのためにも,地図や資料を用いて,州ご との地理的事象を把握させた後,課題追究にふさわしい 発問を提示する必要がある。その発問も,事象の確認だ けで解答が得られるようなものではなく,「なぜ」や「ど うして」といった高次の発問を準備する必要がある。も ちろん,生徒の発達段階や中学生の学習内容に沿うもの でなくてはならない。そのためにも,各州の概要はもち ろん,どのような課題追究が適当かも考える必要がある。
今回の場合,発問を「なぜ,アジアに人口が集中する のか?」としたが,アジアに人口が集中している理由を 追究する過程で,より多面的・多角的に捉えるために 様々な資料を用いることが求められたであろう。手元の 教科書や資料集ではある程度,視野が狭まり,根拠を提 示するにしても,表面的な理由しか得られない。仮説を より説得力ある仮説とし,その仮説が,ある一定の現実 味を帯びた中で,それ相応の説となっていることも重要 となる。そういった点からも,今回2学年にわたって授 業を実施してみて感じたことは,第1学年よりも第2学 年の方が,より多面的・多角的に課題に迫れると感じた。
とはいえ、本来、本単元は第1学年で習得すべき内容で ある。「世界の諸地域」を学んだ後で、「世界と比べた 日本の地域的特色」を扱うのである。この単元において、
「自然環境の特色」、「人口の特色」、「資源や産業の 特色」、「地域間の結び付きの特色」に触れ、世界と日 本のそれぞれの特色を捉える。その点で、第1学年にお いて、本単元を追究できる内容には限界があると考える。
5.「世界の諸地域」における各州単元テーマ(主題)
本年度から本格実施となった新学習指導要領が求め る「世界の諸地域」の内容の取扱いには次のようにある。
「州ごとに様々な面から地域的特色を大観させ,その上 で主題を設けて地域的特色を理解させるようにするこ と。その際,主題については,州の地域的特色が明確と なり,かつ我が国の国土の認識を深める上で効果的であ るという観点から設定すること。また,州ごとに異なる ものとなるようにすること。」
本年度実践したの各州の主題(単元テーマ)を以下に 示しておく。
○アジア州:「すごいアジア」
アジア州の自然,生活・文化,人口,産業などの地域 的特色を「すごいアジア」という観点で大観させ,「な ぜ,アジアに人口が集中するのか?」という問いに対し て追究させた。
○ヨーロッパ州:「つながるヨーロッパ」
ヨーロッパ州の自然,地形,気候などの地域的特色を
「つながるヨーロッパ」という観点で大観させ,ヨーロ ッパ州のなかでも,「EU」に注目し,その利点や課題 点を追究させた。
○アフリカ州:「より良いアフリカ」
アフリカ州の自然,気候,農作物などの地域的特色を
「より良いアフリカ」という観点で大観させ,モノカル チャー経済の現状と課題と脱モノカルチャー経済の在 り様を追究させた。
○北アメリカ州:「多様で世界規模の北アメリカ」
北アメリカ州の自然,地形,気候などの地域的特色を
「多様で世界規模」という観点で大観させ,世界で最も 影響力のあるアメリカ合衆国の産業(農業・工業)につ いて追究させた。
○南アメリカ州:「開発と環境保全」
南アメリカ州の自然,地形,歴史・文化などの地域的 特色を「開発」という観点で大観させ,脱モノカルチャ ー経済による開発による発展と環境保全について追究 させた。
○オセアニア州:「アジア諸国との結び付き」
オセアニア州の自然,気候,産業などの地域的特色を
「アジア諸国との結び付き」という観点で大観させ,ヨ ーロッパ依存から多文化社会へと自立・発展する過程と アジア諸国との結び付きについて追究させた。
これらの単元は,第1学年で習得する内容であるため,
上のような主題を設定し,特定の国を取り上げる形で,
地域的特色を追究する展開となった。また,地理的分野 を学習する上で大切な地図・雨温図・グラフの読み取り といった地理的スキルを身に付けさせることにも重き を置いた。ある程度静態地誌的学習の面があるものの,
主題に沿った課題を設け,課題を追究する形で動態地誌
的学習を意識した。ここでも有効な発問は,「なぜ」と いう問いであった。また,思考力・判断力・表現力を育 む手立てとして,各州の最終授業時にその州を客観的に 評価する活動(州の実力をレーダーチャート図で示す)
を取り入れた。 【アジア州のレーダーチャート図】
6.「日本の諸地域」における各地方単元テーマ(中核 考察)
新学習指導要領が求める「日本の諸地域」の内容の取 扱いには次のようにある。
「地域区分については,指導の観点や学校所在地の事情 などを考慮して適切に決めること。指導に当たっては,
地域の特色ある事象や事柄を中核として,それを他の事 象と有機的に関連付けて,地域的特色を追究するように すること。考察の仕方については,学習する地域ごとに 一つ選択すること。」
本年度実践したの各地域の単元テーマ(中核考察)を 以下に示しておく。
○九州地方:「自然環境を中核とした考察」
九州地方の特色ある自然環境を中核とし,地形や雨温 図・写真資料などの読み取りや自然環境を生かした産 業・くらしを考察し,九州地方の特色について考えさせ た。また,使用語句の指定(「自然環境」という語句を 必ず用いること)や記述内容の指定(自然環境によるマ イナス面をプラス面に生かしたこと)をした上で,九州 地方の特色について論述させる活動に取り組ませた。
○中国・四国地方:「他地域との結び付きを中核とした 考察」
中国・四国地方の他地域との結び付きを中核とし,地 形や雨温図などの読み取りや本州四国連絡橋の完成に よる生活の変化や地域の特色を生かした産業の姿を考 察し,中国・四国地方の特色について考えさせた。また,
高齢化率が高い日本の過疎問題から,近年注目される
「限界集落」について,新聞記事等を活用し取り上げた。
○近畿地方:「環境保全を中核とした考察」
近畿地方の環境保全を中核とし,近畿地方の歴史や雨 温図の読み取りから近畿地方を大観させ,産業(農業・
林業・漁業・工業)における環境保全について追究させ た。各産業の環境をめぐる現状と課題から,保全への取
り組みを調査し,保全を進める上で必要なものについて 考察させた。また,環境保全における滋賀県(本県)の 役割や自分たちができることを考えさせた。
○中部地方:「産業を中核とした考察」
中部地方の産業を中核とし,地形や気候,産業に関す るグラフの読み取りを通して,地域による産業の違いや 産業発展の背景について追究させた。また,各地域の産 業の変化に注目し,その要因や影響について考えさせた。
○関東地方:「人口や都市を中核とした考察」
関東地方の人口や都市を中核とし,地形や歴史を踏ま えて,7地方区分中,最多の人口数と高い人口密度を持 つ東京大都市圏の現状と課題,都市が抱える問題点につ いて追究させた。また,人口・都市問題に関連して,そ の影響を最も強く受ける産業や生活のあり方について 考えさせた。
○東北地方:「生活・文化を中核とした考察」
東北地方の生活・文化を中核とし,歴史や地形,気候 について地図や写真資料等をもとに,生活・文化にどの ように関わり,どのような影響を与えてきたのかを追究 させた。また,伝統を開発と保全という両面から捉え,
過去にとらわれない今とこれからについて考えさせた。
○北海道地方:「歴史的背景を中核とした考察」
北海道地方の歴史的背景を中核とし,地形や気候,産 業の様子などを通して,歴史的背景が過去・現在・未来 にどのように関係し,どのような影響をもたらすのかを 追究させた。また,北海道特有の自然や産業,アイヌの 伝統文化や観光立県としてアジア諸国や北方領土問題 に関わるロシアといった外国とのつながりについても 考えさせた。
7.まとめ
今回の地理的分野における研究では,手段としての 言語活動の充実や思考力・判断力・表現力を育むため の発問のあり方を模索する上で,動態地誌的学習の要 素がきわめて効果的であるということがわかった。そ れは,各州・各地方の地域的特色を,単に地理的事象 の知識として理解するだけでなく,主題や中核を設定 することにより,それらに関連させて地域的特色を追 究しようとする学習過程が生まれることにある。つま り,主題や中核を追究しようとすることが,様々な資 料を読み取ったり,読み取った内容から自分なりに解 釈したり,グループ内で討議したり,特色として捉え た内容を文章やキーワードでまとめたりする活動につ ながっていくのである。そうした活動と「なぜ」,「ど うして」,「どのように」といった発問を繰り返すこと で,言語活動を手段としながら,社会科が求める社会 的思考力・判断力・表現力を育むことにつながると考 える。