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(1)

永野 翔大1)2)  中山 雅雄3)  中西 康己3)  會田 宏3)

我が国のハンドボールにおける一貫指導システムの課題に関する研究:

JFA と JVA の事例を参考に

1)東海学園大学スポーツ健康科学部

470-0207 愛知県みよし市福谷町西ノ洞21番地233 2)筑波大学大学院人間総合科学研究科3年制博士課程

コーチング学専攻

〒305-8574 茨城県つくば市天王台1-1-1 3)筑波大学体育系

〒305-8574 茨城県つくば市天王台1-1-1 連絡先 永野翔大

1. Faculty of Sport and Health Sciences, Tokai Gakuen University

21-233, Nishinohora, Ukigaicho, Miyoshi, Aichi, 470-0207 2. Graduate School of Comprehensive Human Sciences Doctoral

Program in Coaching Science, University of Tsukuba 1-1-1 Tennodai, Tsukuba, Ibaraki, 305-8574

3. Faculty of Health and Sport Sciences, University of Tsukuba 1-1-1 Tennodai, Tsukuba, Ibaraki, 305-8574

Corresponding author nagano-s@tokaigakuen-u.ac.jp

Abstract: An integrated coaching system was adopted by the Japan Handball Association (JHA) in 2000, but in terms of international competition its results have been less than satisfactory. According to a survey by the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology, the effectiveness of the integrated coaching system is directly related to achievements at the Olympic Games. Therefore, in order to improve the competitiveness of Japanese Handball at international level, it is pivotal to seek out problems within the system so that further improvements can be made.

This study was aimed at identifying ways to improve the effectiveness of the integrated coaching system for Japanese handball by comparing the patterns of promoting factors as well as inhibiting factors in the process of implementing the said system for representative teams in the JHA, the Japan Football Association (JFA), and the Japan Volleyball Association (JVA). To this end, interviews were conducted with 6 former chairmen or deputy chairmen of committees related to the integrated coaching system in the JFA, JVA, and JHA. A qualitative analysis of these interviews was performed and the following findings were obtained.

1. There appear to be 3 main issues with the JHA integrated coaching system: 1) The athlete development program has not been revised; 2) The athlete development program has not been properly implemented throughout the nation; 3) The program lacks visibility.

2. Three countermeasures have been suggested to tackle the above issues: 1) Reorganize the programs based on objective data; 2) Allow leaders to communicate new development principles to teams across the country; 3) Create a new excavation/nurturing location where many people gather.

Key words : organizational reformation, promoting factor, inhibiting factor, qualitative research, interview investigation

キーワード:組織変革,推進要因,阻害要因,質的研究,インタビュー調査

Shota Nagano1,2, Masao Nakayama3, Yasumi Nakanishi3 and Hiroshi Aida3: Study of the integrated handball coaching system in Japan: with reference to the JFA and JVA. Japan J. Phys. Educ. Hlth. Sport Sci.

Ⅰ 緒 言

1. 我が国における一貫指導システムの現状 公益財団法人日本オリンピック委員会(以下

「JOC」と略す)は,複数の中央競技団体を対象

に1998年から「一貫指導システム構築のための モデル事業」を,2001年からは「競技者養成プ ログラム策定のためのモデル事業」をそれぞれ展 開し,対象となる中央競技団体に予算を充て,一 貫指導システムの充実を図ってきた(財団法人日 本オリンピック委員会,2002).一貫指導とは,

実践研究

(2)

世界クラスの競技力の開発を目指して,競技者の 成長と発達に対応しながら,その可能性を最高度 に開発するために,発掘,育成,強化の全体を通 じた共通の理念と競技者育成プログラムに基づい て,それぞれの時期に最適な指導を行うこと(久 木留,2009,p.31)である.そのため,中央競技 団体だけでなく,地域の競技団体(関東などのブ ロックレベル)や都道府県の競技団体なども含め た組織として活動することが重要だと考えられ る.

また,文部科学省(online1)も2000年に施行 したスポーツ振興基本計画の中で,我が国の国際 競技力を向上させるための必要不可欠な施策とし て,各中央競技団体に競技者育成プログラムを全 国に普及させ,このプログラムに基づき競技者に 対して指導を行う体制を整備すること,すなわち 一貫指導システムの構築を求めている.その結果,

2000年には一貫指導システムを構築している中 央競技団体はなかったが,2009年にはオリンピッ ク実施競技の97%にあたる32団体が構築した(文 部科学省,online2).しかし,一貫指導システム を構築しているすべての中央競技団体が,合理的 な一貫指導を行えているわけではない.2007年 に文部科学省が地域の指導者を対象に行った一貫 指導システムに関する状況調査では,競技者育 成プログラムを活用していると答えた指導者は 13%しかおらず,文部科学省が行ってきた一貫 指導システムの推進は,残念ながら地域の指導現 場まで普及していないことが明らかとなった(久 木留,2009,p.33).文部科学省(online3)の調 査では,一貫指導システムが機能している中央競 技団体ほどオリンピックでの成績が良いと報告さ れている.そのため,一貫指導システムを構築し ていない中央競技団体は早急に一貫指導システム を構築することが,すでに一貫指導システムを構 築しているにもかかわらず国際競技力の向上に成 功していない中央競技団体は,より合理的な一貫 指導システムを機能させることが求められると考 えられる.

2. 日本のハンドボール競技における一貫指導シ ステム

日本のハンドボール競技は,男子では1988年 のソウル大会以降,女子では1976年のモントリ オール大会以降オリンピックに出場できておら ず,特に男子は世界選手権大会に連続して出場す ることも困難な状況にある.このような競技成績 の低下傾向に危機感を抱いた公益財団法人日本ハ ンドボール協会(以下「JHA」と略す)は,ユー ス・ジュニア世代を対象とした様々な試みを実践 している.2000年には,ナショナル・トレーニ ング・システム(以下「NTS」と略す),すなわ ちハンドボール版の一貫指導システムの運用を開 始し,2002年には,日本のハンドボール競技に おける競技者育成プログラムを完成させた(財団 法人日本ハンドボール協会,2002).2003年には,

JHAの構造改革を行うプロジェクト21を始め,

2008年には,JHAジュニアアカデミーを発足し,

メダル獲得に向けた中・長期的エリート教育をス タートした.これらはいずれもスポーツ振興基本 計画(文部科学省,online1)に対応したものであ る.しかし,国際大会における日本代表チームの 成績を見る限り,その成果は十分とは言えない(ネ メシュ・會田,2012).つまり,JHAが2000年 から18年間運用してきた一貫指導システムはう まく機能していない可能性があると考えられる.

ハンドボール競技の国際競技力を向上させるため には,NTSのこれまでの運用過程で見られた問 題点と,NTSをより良い一貫指導システムに改 善する課題を明らかにする必要があると考えられ る.

問題点と課題の抽出法は,オリンピック,アジ ア大会などで必ず実施され,且つ球技においてよ く知られている集団対抗ゲーム(シュテーラーほ か,1993)である種目をハンドボールと比較検討 することである.具体的には,ハンドボールと同 じ団体球技の中で「一貫指導システム構築のため のモデル事業」に選出され,一貫指導システムを 構築以降,オリンピックに出場している公益財団 法人日本サッカ―協会(以下「JFA」と略す)と 公益財団法人日本バレーボール協会(以下「JVA」

(3)

と略す)における一貫指導システムの構築過程を 明らかにし,JHAのそれとを比較検討すること によって達成できると考えられる.

3. 一貫指導システムの構築過程を組織変革とし てとらえる視点の有用性

一貫指導システムには,中央競技団体,地域の 競技団体,都道府県競技団体,全国のチーム(学 校部活動,クラブチーム)などの団体,そしてそ れぞれに所属する多くの個人が関わっている.そ のため,本研究では一貫指導システムを「一貫指 導により世界レベルの競技者を育成する」という 目標に基づき,多くの団体や個人が意図的に構成 されたシステムとして捉え,その構築過程に着目 する.

これまで,組織の構築過程は組織変革論として 議論されてきた.組織変革とは,「組織内の諸問 題に対して変革を試みる実践」(渡辺,2009)で あり,それに関して様々なモデルが示されてき た.例えば,コッター(1999,p.167)は組織変 革の過程を「緊急課題であるという認識の徹底」

→「強力な推進チームの結成」→「ビジョンの策 定」→「ビジョンの伝達」→「社員のビジョン実 現へのサポート」→「短期的成果を上げるための 計画策定・実行」→「改善成果の定着とさらなる 変革の実現」→「新しいアプローチを根付かせる」

の8段階を経るモデルで説明している.このモデ ルを一貫指導システムに援用すれば,「一貫指導 が緊急課題であるという認識を現場の指導者に徹 底」→「一貫指導を推進させる委員会の立ち上げ」

→「一貫指導の理念の策定・伝達」→「現場で起 きている様々な問題解決のサポート」→「一貫指 導の成果を上げるための計画策定・実行」→「こ れまで行ってきた一貫指導の内容の改善」→「さ らなる変革を進め定着させる」と捉えることがで きよう.各中央競技団体が組織変革を進めていく 中で,どのような抵抗に遭い,それをどのように 乗り越えていったのかを明らかにすることで,他 の中央競技団体が同様の課題に直面した際に,よ り効率よく課題を乗り越えられると考え,コッ ターのモデルを援用する.

4. 一貫指導システムに関する先行研究

これまで,一貫指導システムに関する研究は,

1990年代後半以降,様々な国,競技団体を対象 に行われてきた.これらの研究は海外の中央競技 団体における事例研究,同一競技間の国際比較研 究,日本における異なる競技間の比較研究の3つ に大別できる.

海外の中央競技団体における事例研究として,

松原ほか(2006)はフランスにおけるサッカーを 対象に文献研究を行い,育成スタイル,育成年代,

育成プログラム,育成のための特別な施設,中央 競技団体と地域の競技団体との結びつき,育成シ ステム終了後のプロサッカー選手への到達率とそ の活躍について明らかにしている.

同一競技間の国際比較研究として,鄭ほか

(1997)は,韓国と日本における卓球を対象に文 献調査を行い,比較検討した結果,韓国の一貫指 導システムの特徴として,少人数を対象とした一 貫指導を行っていること,学校に育成のための特 定の1種目を設置する場合が多いこと,各チーム に強力な支援体制が整っていること,トップ選手 に対する賞金制度が充実していること,プロコー チの数が多いこと,長期的な合宿が行える専用施 設が整っていること,国民体育振興法の制定によ り体育全般に力を入れていることなどを明らかに している.

日本における異なる競技間の比較研究として,

蔵元・鈴木(2013)は,サッカーとバスケットボー ルにおける一貫指導システムを対象に文献調査を 行い,選手の発掘育成,指導者養成の面から比較 検討を行っている.その結果,バスケットボール はサッカーと比較して,一貫指導に関して詳細な ビジョンを描けていないこと,一貫指導システム を経由した日本代表選手が少ないこと,競技者育 成プログラムの内容について年齢カテゴリーごと の身体的特徴や心理的特徴に応じた指導内容と方 法に関する記述が少ないこと,指導者養成につい て全国の指導者に情報を提供する機会が少ないこ となどを明らかにしている.

この他に,強豪チームの指導者や中央競技団体 の育成の担当者を対象としたインタビュー調査も

(4)

わずかに存在するが,いずれも現在行われている,

または当時行われていた一貫指導システムの内容 と方法を対象としており,一貫指導システムがど のように構築されていったのか,その構築過程を 明らかにできてはいない.

5. 質的分析方法を用いる必要性

一貫指導システムの構築は,各中央競技団体に おいて一貫指導の推進を担当している委員会の活 動現場で行われる.このような構築現場の出来事 を,他の構築現場にも通じる知として明示的に描 き出すためには,個別事例を足場にし,一貫指導 システムを構築してきた当事者に「感じられる

(感じられた)こと」という体験の「質感」(南,

2004)に質的にアプローチすることが有効である

(鯨岡,2005,p.22).それは,当事者による「内 的視点」からの記述は,読者がそのやり方を追体 験する形で少しずつ理解を深めていける(西條,

2007,p.10)からであり,一貫指導システム構築 の渦中にいた当事者の体験を記述し,個別事例の 特殊な具体的様相を読み解くことで,他の中央競 技団体における構築の当事者への学びに生かせる ような仮説を生成(西條,2007,p.23)できる可 能性が生まれると考えられるからである.これら のことは,ハンドボールにおける一貫指導システ ムをより効率良く構築する課題を抽出するために は,JFAとJVAが展開してきた一貫指導システ ムの構築過程を質的に分析する必要があることを 示していると考えられる.

6. 研究目的

それぞれの中央競技団体は,競技特性や成り立 ち,プロリーグの有無など異なる点が多いため同 質ではない.そのため,本研究ではJFA,JVA,

JHAにおける一貫指導システムの構築方法,す なわち構築過程,構築を推進させた要因,阻害さ せた要因を比較検討するのではなく,それぞれの 中央競技団体ごとにパターン化する.次に各パ ターンを比較する.これらを通して日本のハンド ボールにおける一貫指導システムをより効率よく 展開するための課題を明らかにすることを目的と

する.

Ⅱ 方 法

1. 一貫指導システムの定義と構築過程

競技者を発掘,育成,強化する競技者育成シス テムは多くの国で存在する.しかし,我が国の一 貫指導システムのほとんどは,中央競技団体に競 技者育成プログラムを作成させ,一貫した指導理 念での競技者の育成を目指している点で独自のシ ステムとなっている.

図1に,我が国の一貫指導システムの構造につ いて示した.具体的には,各中央競技団体は,ま ず世界で勝つことができる選手を育成するため に,その内容と方法を示した競技者育成プログラ ムを作成し,それを全国のチームに普及させる.

次に,将来的に世界で活躍できそうな選手を,各 中央競技団体が独自に定めている年齢カテゴリー ごとに発掘・育成し,選抜を繰り返しながら最終 的には日本代表選手に育て上げていく.そして,

日本代表が強豪国と戦うことで得られた日本の課 題を抽出し,新たな競技者育成プログラムへ反映 させるという循環システムとなっている.つまり,

一貫指導システムの構築は,競技者育成プログラ ムの作成,普及,競技者の発掘,育成,競技者育 成プログラムの再構築を経ると考えられる.しか し,我が国における各中央競技団体は,競技者数 や発掘・育成・強化の歴史などがそれぞれ異なる ため,個別化された独自の方法で一貫指導システ ムを構築してきたと考えられる.

全国のチーム 普

発掘 育成 日本代表選手

(世界大会)

一貫指導 プログラム

(日本協会)

課題の抽出と プログラムへの反映

図 1 一貫指導システムの構造

(5)

2. 対象者

JFA,JVA,JHAにおける一貫指導システムの

構築過程に関する語り手は,いずれも一貫指導に 関連している委員会(強化委員会,指導委員会,

指導普及委員会,発掘育成委員会など)の委員長,

または副委員長を務めたことのある6名である.

この6名は,いずれも一貫指導システムの構築に 10年以上携わっており,構築の過程で生じた様々 な問題や,その解決方法について組織化された経 験を持ち,その意味を語りによって十分に提示で きる人物と考えられた.なお,それぞれのプロ フィールは,以下の通りである.

A氏: 1994年 よ り, 指 導 委 員 会 委 員 と し て JFAの活動に携わり,JFA技術委員会委 員長,指導者養成ダイレクターを歴任し ている.

B氏: 1997年より,JFAナショナルトレセン

コーチとしてJFAの活動に携わり,JFA インストラクター,指導者養成サブダイ レクターを歴任している.

C氏: 1993年 よ り, 強 化 委 員 会 委 員 と し て JVAの活動に携わり,インタビュー当時

(2016年),発掘育成委員会委員長を務 めていた.

D氏: 2003年 よ り, 強 化 委 員 会 委 員 と し て JVAの活動に携わり,女子強化委員会委 員長,強化事業本部長を歴任している.

E氏: 1988年 よ り, 強 化 委 員 会 委 員 と し て JHAの活動に携わり,インタビュー当 時(2017年),強化・育成戦略委員会委 員長を務めていた.

F氏: 2002年より,指導委員会中央委員とし

てJHAの活動に携わり,インタビュー 当時(2017年),指導普及本部長を務め ていた.

6名の語り手には,調査に先立ち,電話または 文書にて研究の趣旨を説明し,調査協力を依頼し,

承諾を得た.また,インタビュー調査に先立ち,

質問内容を提示するとともに,インタビュー内容 の録音,記録,研究成果の匿名での公開に関する 了解を得た.

3. インタビュー調査の内容と方法

調査内容は,一貫指導の狙い,一貫指導システ ムの構築過程,一貫指導システムの問題点,一貫 指導システムのあるべき姿についてであった.具 体的な質問内容は,「いつ頃から誰がどのように 一貫した競技者の育成を始めましたか」「一貫し た指導を始めた時から現在までの競技者の発掘,

育成,強化の変遷について教えて下さい」「一貫 指導システムの中での地域の協会や都道府県協会 の役割を教えて下さい」「どのように競技者の発 掘を行っていますか」「一貫指導を展開していく 上で地域の協会や都道府県協会との関係はどのよ うに変わっていきましたか」「一貫指導を展開し ていく上でどのような課題がありましたか」「一 貫指導の狙いの変遷について教えて下さい」「将 来的にどのような一貫指導システムを目指してい ますか」「競技者育成プログラムはいつ誰が作成 しましたか」「競技者育成プログラムの内容を随 時変更させていますか」「競技者育成プログラム をどのように全国のチームに浸透させています か」などであった.

調査方法は1対1の半構造化インタビューを用 いた.

質的インタビューでは,聞き手の現場感覚及び,

生成的視点が重要である(無藤,2004).それは,

インタビュー後に読み手があたかも自分の目で研 究対象を見ているかのように感じられるような記 述(能智,2005)が必要だからである.本研究に おける聞き手は,球技における一貫指導に関す る研究に従事し,JHAにおけるNTS(一貫指導)

委員会委員の経験を持つ筆頭研究者が務めた.こ のことから,インタビューをする側と受ける側の 関係性は,単なる質問者と回答者という関係では なく,「一貫指導システムの構築過程」という側 面に関して,常に対等な関係であり,聞き手と語 り手が同様な経験を積んでいることから,インタ ビューではより具体的で妥当性の高い聞き取りが 可能になったと判断できる.

インタビュー調査は,2016年5月―2017年5 月に行った.また,インタビューはそれぞれの対 象者から指定された場所で行った.インタビュー

(6)

の時間はいずれの対象者も1時間半―2時間半程 度であった.インタビューの場では,聞き手は語 り手に敬意と好奇心をもって臨むこと,語りに対 して先入観を持たずに共感する態度を持ち合わせ ることを心がけた.インタビューの内容はすべて ボイスレコーダーを用いて録音した.

4. 語りの内容の作成

まず,すべての発言内容を逐語録として文章に 起こした.次に,語りの意味内容を全体として十 分理解できるまで逐語録を熟読した.続いて語り の意味内容を崩さないように,文脈を尊重しなが ら一貫指導システムの構築過程に関する内容をま とめた.そして,語りの内容の妥当性及び信頼性 を担保するために,聞き手が確認する妥当化(フ

リック,2011)を行った.すなわち語り手に対し,

それぞれの調査内容のまとめを示し,それが発言 の趣旨と異なっていないか,加筆及び訂正箇所は ないかを確認させた.これらの作業を終えたもの を語りの内容とした.

5. テクストの作成

得られた語りの内容を精読し,一貫指導の構築 過程に関係すると思われる記述を抜き出し,テク ストとして再構成した.語りには,それが指し示 す社会的文脈にかかっているだけでなく,語りの 場で感じ取られる印象や情感など感覚的な質を含 んでいる(南,2006,p.243).そのためテクスト を構成する際,実践現場のリアリティ,すなわち

「いまここ」において語られた「語りの臨場性」(南,

2006,p.244)が損なわれないように注意した.

語りの内容がテクストとして再構成された時に,

意味内容が恣意的に変換されていないことを筆頭 研究者と共同研究者とで確認しながら進めた.

6. テクストの分析及び解釈

テクストの分析及び解釈は,「テキストに対し て開かれた態度でいるという意志」と「テキスト によって自分自身の盲点や謎や他者性を明らかに しようという意志」を持ち(松葉,2011,p.23),

既存の理論をできるだけ保留するという態度(會

田,2008)でまず筆頭研究者が行った.その後,

分析と解釈の客観性を高めるためにトライアン ギュレーションを行った.デンジン・リンカン

(2006)はトライアンギュレーションを「データ」

「研究者」「理論」「方法論」の4つのタイプに大 きく分類している.また,西條(2009)は,研究 目的に応じた同一の認識論に基づいたトライアン ギュレーションを選択しなければ,認識論間の新 たな問題が生じると指摘している.そのため,本 研究では,他の研究者が同一の方法を用いて同じ ような結果が得られるかを確認する研究者のトラ イアンギュレーションを行った.具体的には,筆 頭研究者が行った解釈の妥当性を共同研究者が確 認し,研究の視野,深さ,及び整合性を増すこと を目指した.共同研究者はコーチング学を専門と する研究者で,いずれも各専門競技(サッカー,

バレーボール,ハンドボール)において大学レベ ルでの全国大会優勝または準優勝の成績を収めて いる指導者であった.なお,語り手の感じてきた

「あるがまま」を把握するためには,事象の客観 的側面を押さえた(鯨岡,2005,p.20)「客観的 意味がわかる文章」を作成することが求められる

(佐久川・植田,2009).そうすることで,事象の 共通項や差異,論点を浮き彫りにすることができ る(松葉,2011,p.24)からである.本研究では,

JFA,JVA,JHAにおける一貫指導に関する歴史

について記述されている資料(忠鉢,2001;JFA,

online;JFA,2015;JFA技術委員会,2013;日本 バレーボール学会,2014;財団法人日本ハンドボー ル協会,2002,2009)を参考に,これまで,各中 央競技団体が行ってきた一貫指導に関する取り組 みを客観的事実としてまとめ(表1),これを発 言内容と対比させることで,事例を解釈しやすく した.

Ⅲ 結果と考察

1. JFA における一貫指導システムの構築 1.1 客観的事実

表1に,JFAにおける一貫指導についての取り 組みに関する年表を示した.

(7)

表 1 JFA,JVA,JHAにおける一貫指導に関する取り組み 時期 JFAにおける一貫指導に関する

取り組み JVAにおける一貫指導に関する

取り組み JHAにおける一貫指導に関する 取り組み

1977 セントラルトレーニングセンター

(CTC:トレセンの前身)を創設 1980 CTCをナショナルトレーニングセンタ

ー(NTC)に改名

1987   全国都道府県対抗中学大会を開始

1992 公認S級コーチのライセンス制度を創 設,U-12トレセンを開始

1993 全国9地域にナショナルトレセンコー チを配置

1996 強化指導指針1996年版を発行

1998 ワールドカップに初出場 ジュニア強化委員会内に小委員会を設

2000   ナショナルトレーニングシステム

(NTS)を創設

2001  

一貫指導委員会(発掘育成委員会の前 身)発足

各都道府県に発掘育成委員会を設置 各ブロックで中学校・高校の長身者発 掘育成合宿を開始

2002   育成の指針を示した「バレーボール一

貫指導システム:基本構想編」を発行

「強化指導教本NTS2002」の中で,強 化指導指針を提示

2003 U-6,U-8,U-10の指導ガイドライン を発行(以降,2年ごとに改定)

一貫指導委員会を一貫指導教育委員会 に名称を変更

選手の目標像を「ファンタジスタ」に 決定

2004 U-12,U-14,U-16の指導指針を発行(以 降,2年ごとに改定)

指導書である「JVA一貫指導カリキュ ラム:技術編」を発行

ドリームマッチを開始 競技者育成技術委員会を設置

2006   全国中学生大会地方大会を開始

2007

ナショナルトレセン U-14を東中西 3 地域、年 2 回開催へ変更

ナショナルトレセン U-16を東西 2 地 域、年 2 回開催へ変更

2009 エリートアカデミーオーディションを

開始 「強化指導教本NTS2009」の中で,一 貫指導のフィロソフィーを提示

2010 全国中学生長身選手発掘合宿を開始 NTS運営委員会,NTS技術指導委員

会を設置

2011 一貫指導教育委員会を一貫指導委員会

に名称を変更 2013

A.C.E.ジャパンプロジェクト発足

一貫指導委員会を発掘育成委員会に名 称を変更

2015 中学1年生をエリートアカデミーオー

ディションの対象化

JFAは1977年に選手の発掘育成を行うセント ラルトレーニングセンターを創設した.その後,

1980年にナショナルトレーニングセンター(以 下「トレセン」と略す)に改名した.トレセンとは,

地区トレセン,47都道府県トレセン,9地域トレ セン,ナショナルトレセンの順に選手を選抜し育

成していく制度である.1992年には指導者養成 制度の中に,プロ選手の指導ができるS級ライ センスを設け,1993年には9地域トレセンに地 域のナショナルトレセンコーチを配属した.1998 年には,世界大会を分析(日本代表が出場しない 国際試合も分析対象としている)し,日本の課題

(8)

を競技者育成プログラムへフィードバックするテ クニカルスタディグループを設置し,客観的な データに基づく,世界に対する日本の課題の抽出 を開始した.そして,2003年にU-6,U-8,U-10 の指導指針および,2004年にU-12,U-14,U-16 の指導指針,すなわち競技者育成プログラムをそ れぞれ発行した.競技者育成プログラムは一般販 売(2017年7月時点)されており,年齢カテゴリー ごとに,2年ごとの改定がなされている.

1.2 当事者から見た一貫指導システムの構築過程 文中の〈 〉は文言の補足を,[ ]は文言の 説明をそれぞれ示している.

1.2.1 A 氏

私はJFAのターニングポイントの1つは,こ れまで少なかった〈JFAの〉専任者を増やしたこ とだと思っています.Gさん〈当時,JFA副会長〉

が今の〈JFAの〉会長であるH氏を専任者[ある 専門分野に特化した活動を行う,JFAとの個人雇 用契約を行った者]として若いうち[42歳]に 指導者養成の責任者にしたり,日本代表のスタッ フをやらせたりしていました.他の競技団体では あまりないことだったと思います.

私たちはGさんから「自分たちの考えでどん どんやれ」と言われていました.1992年に, H氏 はトレセン改革[対戦形式から研修会形式への変 更,年代分けの変更,U-12の開催数の増加(JFA 技術委員会,2004)]や指導者養成改革を始めま した.JFAが大きく変わっていったのもこの辺り からだと思います.JFAはH氏を専任者にした後,

徐々に専任者を増やしていきました.

1.2.2 B 氏

昔〈1991年以前〉は,強化,指導者養成,ト レセンには,部局間の交流が全くありませんでし た.Hさんは指導者養成に関して,「本当にこの ままでいいのか」といった中身に対する問題意識 が相当あったと思います.

S級には,当時トレセンの活動に積極的に関わ らない〈高校での指導実績が高い〉有名指導者も 来てくれました.有名な方がどんどんS級を取っ ていったことで,全国の指導者は「じゃあ俺も取

ろうかな」となっていきました.このようになっ てくると,指導者養成の位置付けはぐっと高まり ますよね.そのため,指導者養成の指導内容を考 え直すだけでなく,トレセンの内容も再度考え直 そうとなりました.S級制度ができたことにより,

様々な部局[強化,トレセンなど]と連携せざる をえなくなったことも大きな引き金の1つだと思 います.

様々な部局と連携をとるためには,JFAの組織 全体で人の配置を考える必要があります.そこで,

1993年にJFAは全国9地域にナショナルトレセ ンコーチを配置しました.地域のトレセンコーチ の役割の1つは,トレセンの新たなビジョンを現 場の指導者に伝達することでした.しかし,初 めのうちはHさんがまず1人で全国をまわって,

小さな講習会を何度も繰り返しながらトレセンの 輪を徐々に広げていきました.最初は「なにそれ」

という反発もありました.私がいた九州ブロック

[B氏は1997年から9年間,九州ブロックのナショ ナルトレセンコーチを務めていた]でも,トレセ ンコーチの私に陰で「何あれ」「こんなのやれる わけない」「俺らは俺らでやるわ」と反発してい ました.しかし,私が夏と冬のイベントに顔を出 していくうちに,九州トレセンのインストラク ターも「やっぱり新しい考え方を入れたほうがい いよ」となっていき,私もだんだん仲間に入れて もらえるようになりました.

最初,トレセンは少ない予算の中でやりくりし ていました.(トレセンの活動に)お金を出せる ようになったのは,JFAがお金を生み出したから なんです.やはり一番大きいのは1998年のワー ルドカップフランス大会に出たことです.

1.3 JFA における一貫指導システムの構築過程 1.3.1 現状に危機感を抱く段階

B氏は,1991年以前の状況を「強化,指導者養成,

トレセンには,部局間の交流が全くありませんで した」と語っている.日本代表が世界で勝つため に,それぞれの部局内にて様々な活動を行ってい たが,競技成績に結びつくことはなかったことに 関して,当時,強化や指導者養成の中心だったG

(9)

氏やH氏は危機感を抱き,「『本当にこのままで いいのか』といった中身に対する問題意識」(B氏)

を持ったと考えられる.

1.3.2 変革のための行動を起こす段階

危機感を抱いている人は,満足のいく状況へ変 革するために,現状を変革するための行動を起こ す/起こさないという選択を迫られる.

JFAの現状に危機感を抱いていたH氏はJFA 副会長から「自分たちの考えでどんどんやれ」(A 氏)という支持を得て,変革のための行動を起こ すことを選択し,現状を打破するために「S級制 度」「トレセン改革」を実現するための強いリー ダーシップを発揮したと考えられる.このような 組織変革に影響を及ぼすリーダーシップは,変革 のリーダーシップ(西,2008)と言われ,多くの 組織がダイナミックに変革しなければならない環 境に直面し,適応を迫られている現代社会(ロビ ンス,2009,p.431)において,重要なリーダーシッ

プである.

1.3.3 部局間のコミュニケーションを取らざるを 得ない出来事が表れる段階

自分たちの目標達成に向けて全力で取り組んで いる現場では,それぞれの部局が自発的に他の 部局と連携を図ることは難しい(新井,2005).

しかし,「S級制度ができたことにより…連携せ ざるをえなくなった」(B氏)と語られたように,

部局間のコミュニケーションは促進していったと 推察される.また,強化,指導者養成,トレセン といった並列関係にある部局間のコミュニケー ション,すなわち横方向のコミュニケーションを とることは,それぞれの部局がこれまで培ってき た実践知の共有,人の相互交流の促進,革新の創 造の促進につながる(山田,2007)ため,組織の 目的達成に有効である(ロビンス,2009,p.230).

さらに,横方向のコミュニケーションは,媒介 性の拡大,すなわち徐々にコミュニケーション の領域が拡大していくという特性がある(若林,

1991)ため,JFAは組織全体として,少しずつ連

携が取れるようになっていったと推察される.

1.3.4 全国の指導者へ変革のビジョンを伝達する 段階

部局間のコミュニケーションの促進により生ま れた変革のビジョンを,全国の指導者に効率的に 伝達するために,JFAは全国9地域に地域のトレ センコーチを配置した.しかし,「Hさんがまず 1人で全国をまわって,…トレセンの輪を徐々に 広げていきました」(B氏)という語りからもわ かるように,当初,変革のビジョンを伝達する役 割は地域のトレセンコーチではなく,変革のリー ダーであるH氏が自ら行っていた.通常,組織 のメンバーは変革に対して何らかの抵抗を示す

(ボイエット・ボイエット,2014,p.116).「抵抗」

とは,組織変革の過程で生じる組織現象であり,

施策や活動の推進が,組織のメンバーの反対,拒 否,無関心などの発言及び行動によって阻害され る現象あるいは力(松田,2014)である.これ は,組織としてより安全で保守的な方向に向かう ために生じるものであり,組織としての不健全性 を示すものではない(Markham, 1999).変革のビ 強化,指導者養成,トレセンの部局間の連携不足

H氏の問題意識,危機感の発生

トレセン改革,指導者養成改革

JFA専任者の増加

9地域ナショナルトレセンコーチの配置

H氏によるトレセンに関する伝達行動

地域のインストラクターによる抵抗

地域のインストラクターとの信頼関係の構築

ワールドカップ初出場

変革の資金調達

図 2 語り手から見たJFAの一貫指導システムの構築 過程

(10)

ジョンを伝達する際に生じる抵抗を抑制するため には,変革のリーダーによる組織のメンバーに対 する明確なビジョンの提示行動が有効である(東,

2005,p.126).そうすることで,組織のメンバーは,

努力の方向性が明確になり,変革への行動に駆り 立てる動機付けが促される(ボイエット・ボイエッ ト,2014,p.133;東,2005,p.134)からである.

これらのことからH氏,すなわち変革のリーダー 自身による変革のビジョンの提示行動は,全国の 指導者に情報を伝達するだけでなく,変革への抵 抗の回避,組織のメンバーへの動機付けという効 果ももたらしたと考えられる.

1.3.5 変革への抵抗を乗り越える段階

H氏による変革のビジョンの提示行動だけで は,すべての抵抗を回避することは難しかった.

これは,「当時トレセンの活動に積極的に関わら ない有名指導者」(B氏)という語りからわかる.

しかし,「有名な方がどんどんS級を取っていっ たことで,全国の指導者は『じゃあ俺も取ろうか な』となっていきました」(B氏)という語りか ら,有名な指導者がS級を取得し,その良さを 全国の指導者に伝達したこと,つまり影響力の大 きな人物が発信する「口コミ」で多くの指導者に S級の良さが広まり,結果として変革のビジョン に対する全国の指導者の抵抗は小さくなっていっ たと推察される.

人がある事物を採用したりしなかったりする行 動が社会に広がっていく現象を社会的拡散現象と いう(山本・村田,2005,p.179).S級を取得し たいという社会的拡散現象が起きた要因として

「口コミ」の力が大きく影響していると考えられ る.「口コミ」には,情報提供者の信頼度と情報 自体のインパクトが大きいほど広い範囲に広がっ ていくという特徴(吉田ほか,2001)がある.本 事例では,サッカー界で大きな影響力を持ってい る指導者がS級に関する口コミを発信した時が,

S級取得に関する社会的拡散現象を大きく広げる 瞬間,すなわちティッピング・ポイント(山本・

村田,2005,p.179)の時期になったと考えられる.

一般に,地域のトレセンコーチのようなミドル マネージャーと地域のインストラクターのような

フォロワーは,それぞれ特有の論理を持っている ため,見解を違え,対立しがちである(田尾・吉 田,2009,p.198).特に,変革を任されたミドル マネージャーは組織に入ったばかりの時,組織の 中で新人として扱われるため,リーダーシップを 発揮できないのが普通である(金井,2005,p.67).

本事例では,地域のトレセンコーチと共に変革の ビジョンを実現させる担い手である地域のインス トラクターは「最初は『なにそれ』という反発」

「『何あれ』『こんなのやれるわけない』『俺らは俺 らでやるわ』と反発」(B氏)していた.つまり 当初,地域のトレセンコーチは,地域のインスト ラクターから他所者として扱われ,JFAの一貫指 導の方針が反発されたため,十分なリーダーシッ プを発揮できなかったと推察される.

このような反発を抑制するためには,ミドルマ ネージャーは組織のこれまでのやり方に従って集 団の業績達成への貢献を重ねていくこと,すな わち信頼を蓄積していくことが大切である(金 井,2005,p.67).信頼を蓄積することで,ミドル マネージャーは,フォロワーから組織における創 造的で革新的な行動,すなわち特異行動を求めら れるようになる(金井,2005,p.68).本事例で は,地域のトレセンコーチは,「夏と冬のイベン トに顔を出していくうちに」「インストラクター も『やっぱり新しい考え方を入れたほうがいい』」

「だんだん仲間に入れてもらえるようになりまし た」(B氏)と語られるような信頼を得て,地域 のインストラクターから特異行動の発揮を期待さ れるようになっていったと推察される.

このようにして,JFAは,変革のビジョンに対 する抵抗を,「有力者が発信する『口コミ』の力」

と「地域のトレセンコーチとインストラクターと の信頼関係の構築」の2つの要因により,乗り越 えることができたと推察される.

1.3.6 変革の成果が出る段階

コッター(2002)は,組織変革に大きな影響を 及ぼす成果の特徴として,①大部分の人がその成 果をごまかしではなく,実際の達成であることを 認識できる,②成果が具体的である,③全体的な 変革の方向に明確に関連付けられているという3

(11)

点を挙げている.「やはり一番大きいのは1998年 のワールドカップフランス大会に出たこと」(B 氏)と語られたように,JFAが部局ごとにバラバ ラだった組織を部局間の交流がある組織にすると いう組織変革に向けて動き出した6年後,組織変 革の最中である1997年11月,日本代表がアジア 最終予選を戦い,ワールドカップ初出場を決めた ことは,組織変革を推進する出来事として大きな 意味を持ったと推察される.

企業と同様に,営利を主目的としない非営利組 織においても,ヒト,モノ,カネ,情報といった 経営資源は自力で調達しなければならないため,

その活動を継続させることは難しい(田尾・吉田,

2009,pp.67-168).非営利組織の財源は,国や自 治体,財団,企業などからの助成・寄付費,会員 からの会費,サービスの受け手からの代価に分け られる(田尾・吉田,2009,p.169).「お金を出 せるようになったのは,JFAがお金を生み出した から」(B氏)と語られたように,JFAはワール ドカップ初出場という出来事をきっかけに,日本 代表戦に関わるスポンサー収入(テレビ放映,ス ポーツ用品メーカー,グッズ販売など),すなわ ちサービスの受け手からの代価を増加させていっ たと推察される.経営資源であるカネは様々な事 業の基盤となるため,一貫指導においても,変革 の大きな推進要因の1つであると考えられる.

2. JVA における一貫指導システムの構築 2.1 客観的事実

JVAは2001年に,一貫指導委員会(発掘育成 委員会の前身)を創設し,本格的な選手の発掘育 成を開始した(表1).同年,各都道府県にも発 掘育成委員を設置した.2002年には,育成の指 針を示した「バレーボール一貫指導システム:基 本構想編」を発行した.しかし,この指導指針は 現在(2017年)配布,販売がされておらず,一 般に入手できない.その後,2004年には高校生 の発掘の場であるドリームマッチを,2009年に は小学生の発掘の場であるエリートアカデミー オーディションを,2010年には中学生の発掘の 場である全国中学生長身選手発掘合宿を新たに開

始した.

2.2 当事者から見た一貫指導システムの構築過程 2.2.1 C 氏

〈2001年,一貫指導委員会ができる〉前までの 一貫指導は,小学校は小学校,中学校は中学校,

高校は高校となっていて,それぞれのところで強 化すればいいという感じでした.それぞれのカテ ゴリー内では連携しているから一貫してやってい るだろうという意識でした.しかし,これでは よくないということで,2001年にIさん[元男 子日本代表監督]の主導で強化本部の中に発掘育 成委員会〈当時,一貫指導委員会〉を設けまし た.そして,JVAはより詳細な発掘を行うために,

〈2001年に〉全国の都道府県に発掘委員を多く配 置しました.しかし,発掘の「見える化」が進ま ず,うまく機能しませんでした.つまり,都道府 県協会が「誰が誰を推薦したのか」「推薦した選 手はどうなったのか」とJVAに聞いても,中央

組織のJVAが情報を発信しない限りは見えなかっ

たんです.それらを細かく発信する場面もなかっ たため,なかなか末端[都道府県協会]まで〈推 薦した選手に関する〉情報が伝わりませんでした.

JVAは2004年に高校生の発掘の場であるド リームマッチを,2009年に小学生の発掘の場で あるエリートアカデミーオーディションを,2010 年に中学生の発掘の場である全国中学生長身選手 発掘合宿を開始しました.これらの発掘の場には,

様々な関係者[小・中・高の体育連盟の担当者,

強化委員会委員,発掘育成委員会委員,都道府県 協会の担当者など]が集まるため,情報交換の場 面があります.その結果,発掘育成委員会は全国

の98%以上の選手の情報管理ができています.

ようやく育成,強化,普及の交流が盛んになって きて,一緒になって動き始めてきました.今度は それを形[一貫指導の成果]にしていく段階なの かなと思っています.

2.2.2 D 氏

JOCの組織内に一貫指導委員会が設置されたこ とに伴い,〈2001年に〉JVAは一貫指導委員会を 設置し,主に小中学生の発掘育成を充実させまし

(12)

た.

私がJVAの強化に携わり始めた14年前〈2003 年〉には,「ジュニアはジュニア,ユースはユース」

で交流も何もなく,カテゴリー間の連携が取れて いませんでした.〈2013年〉JVAはカテゴリー間 の組織的な連携を取るために,強化委員会の中に

A.C.E.ジャパンプロジェクト[ジュニア代表から

ユース代表,ユニバーシアード代表,日本代表ま で一貫指導を多角的にサポートするプロジェクト を担う委員会.強化スタッフの配置,テクニカル な指導,メンタル面の指導なども行う意思決定機 関]を立ち上げました.この委員会を作ったこと で,組織の縦断的な連携が取れるようになってい きました.

2.3 JVA における一貫指導システムの構築過程 2.3.1 新たな組織を編成する段階

「従来の一貫指導は,小学校は小学校,中学校 は中学校,高校は高校となっていて,それぞれの ところで強化すればいい」という思考でしたが,

「これではよくないということで…Iさんの主導 で強化本部の中に発掘育成委員会を設けました」

(C氏),「JOCの組織内に一貫指導委員会が設置 されたことに伴い,JVAは一貫指導委員会を設置」

(D氏)という語りから,JVAはI氏による変革 のリーダーシップの発揮と,JOCが一貫指導委員 会を設置したという組織外からの刺激という2つ の要因により,一貫指導委員会,全国の発掘委員

会という2つの新たな組織の設置に踏み切ったと 考えられる.

2.3.2 組織間のコミュニケーションが不足してい る段階

JVAは全国に発掘委員を設置したにも関わら ず,それが機能しなかった.原因として,C氏は

「都道府県協会が…『推薦した選手はどうなった のか』とJVAに聞いても,JVAが情報を発信し ない限りは見えなかった」「それらを細かく発信 する場面もなかった」と語っていた.つまり,都 道府県協会からJVAに対して行われる情報伝達,

すなわち上方向のコミュニケーションしかなかっ たことが原因だと考えられる.上方向のコミュニ ケーションは,上の組織が下の組織の現状を把握 するためには有効である(ロビンス,2009,p.213)

が,下方向へのフィードバックがなければ,下 の組織の動機付けは低下してしまう(谷口ほか,

2003).選手発掘のような活動が成果を収めるた めには,目的を達成させるために努力する「達成 欲求」,動かない人々を動かしたい「権力欲求」,

友好的な対人関係を結びたい「親和欲求」の3つ の動機が発生する必要がある(ロビンス,2009,

p.86).しかし,JVAによる選手発掘は,それに

関するフィードバックがなかったため,都道府県 協会の達成欲求が低下していき,発掘活動自体が うまく機能しなかったと推察される.

2.3.3 「見える化」により組織間のコミュニケー ション不足が解消された段階

JVAは発掘に関する新たな策として,小学生,

中学生,高校生を対象に新たな発掘の場を設け た.このことに関して,C氏は「これらの発掘の 場には,様々な人が集まるため,情報交換の場面 があります」と語っている.この語りから,JVA が新たに設けた発掘の場は「人々の交流」や「情 報交換」の機能も持ち,一貫指導に関わる人々の コミュニケーションは活性化したと考えられる.

具体的には,新たな発掘の場では様々な立場の 人々が集まるため,これまでの発掘の場で行われ ていたような上方向のコミュニケーションだけで なく,上の組織から下の組織に対して行われる 下方向のコミュニケーションや,都道府県協会 小・中・高それぞれの中での分断された強化

発掘育成委員会の設置,全国に発掘委員の配置

組織の「見える化」不足

様々な人々が集まる場での発掘活動の開始

様々な情報交換の活発化

図 3 語り手から見たJVAの一貫指導システムの構築 過程

(13)

間,強化委員会委員と発掘育成委員会委員との間 といった同じ階層の部局間で行われる横方向のコ ミュニケーションも行われたと推察される.この ような組織の中で行われるコミュニケーションが 果たす役割は,統制機能,動機付け機能,社会的 欲求を満たす機能,意思決定のための情報提供機 能の4つある(ロビンス,2009,pp.227-228).

新たな発掘の場において行われたコミュニケー ションは,発掘活動における動機付け機能や,そ れぞれの組織が有する情報を提供し合う情報提供 機能としての役割を果たしたと考えられる.

また,新たな発掘の場は,そこに参加している 人々にとって,JVAがどのようなビジョンで,ど のような発掘を行っているのかについて,「目に 飛び込んでくる」状態にあったと考えられる.こ のように,「見よう」と意識せずとも,そこで起こっ ていることが理解できる状態にある組織を「見え る化」された組織という(遠藤,2008,p.26).

JVAにおける事例では,発掘の具体的な活動の見 える化,すなわち状況の見える化(遠藤,2008,

pp.61-67)がなされ,コミュケーション不足が解 消されるようになったと考えられる.

2.3.4 一貫指導の成果を上げるために動き出した 段階

JVAの発掘は,新たな発掘の場の設置以降,う まく機能するようになった.このことは,「発掘 育成委員会は全国の選手の98%以上の情報管理 ができています」(C氏)という語りから理解で きる.濱野ほか(2008)は,バレーボールはその 競技特性から高身長の選手,または高い長跳躍力 を持った選手ほど高い競技力を身につける潜在性 を有していると報告している.また,岡野・谷 川(2015)は,日本代表における国際成績の低下 の原因を,強豪国との身長差であると報告してい る.これらの指摘とここまでの解釈を考慮すると,

JVAは国際競技力を向上させるためには,選手の 育成や強化よりも発掘が重要だと捉え,発掘を中 心に一貫指導システムを変革してきたと推察され る.

その後,「育成,強化,普及の交流が盛んになっ てきて,一緒になって動き始めてきました」「今

度はそれを形にしていく段階」(C氏)と語られ たように,JVAは一貫指導の成果を求めるように なった.C氏の語った「形」とは,選手を育成・

強化し,国際大会で良い成績を収めることだと推 察される.

JOCは一貫指導システムにおける選手の育成段 階として,各地域で子ども達が多様なスポーツに 親しむプレ期,可能性のある選手を発掘,選抜す る第1段階,可能性のある選手を育成する第2段 階,可能性のある選手を強化する第3段階,トッ プの選手をサポートしていくポスト期の5つの段 階(原・榎本,2005)を用意することを各中央競 技団体に求めている.このJOCの提示を踏まえ,

JVAにおける一貫指導システムの構築過程をまと めると,JVAは,選手の発掘,すなわち選手の育 成段階の第1段階から,育成・強化といった第2 段階以降の充実を目指すようになったと推察され る.

3. JHA における一貫指導システムの構築 3.1 客観的事実

JHAは2000年にハンドボールの一貫指導シス テムであるNTSを開始し,2002年には,「強化

指導教本NTS2002」の中で競技者育成プログラ

ムを紹介している(表1).しかし,「強化指導教

本NTS2002」は現在(2017年),配布,販売がさ

れておらず,一般に入手することができない.

3.2 当事者から見た一貫指導システムの構築過程 3.2.1 E 氏

JOCはJリーグやサッカー日本代表の活躍,隆 盛の要因の1つを,JFAが行っているトレセン制 度だと考えていたのだと思われます.1999年に,

他の競技団体にも補助金を出す形で一貫指導の構 築を求めました.予算が少ないJHAは,J氏[当時,

JOC役員,JHA副会長]がK氏[当時,JOC一 貫指導委員会委員,JHA強化本部長,JHAにお ける一貫指導システムの構築に関するリーダー]

に働きかけ,2000年にNTSの運用を開始しまし た.

NTSには,強化委員会,指導委員会,NTS委

(14)

員会が関わりますが,当初これらを統括する機関 がありませんでした.私にはNTSのスタートは 見切り発車のように見えていました.要は,そ れぞれの部局が連携を取れていない縦割りの組 織だったのです.K氏が強化本部長だったため,

強化委員会とNTS委員会との繋がりはありまし た.実際に,NTS委員会のメンバーには,強化 委員会と重なっている人たちが多かったです.そ のため,子ども達には,基本的な技術と日本代表 が目指している[高度な]プレーを身につけさせ ようとしていました.日本代表の監督が変われば,

それに合わせてNTSの伝達内容[指導内容だけ でなく,指導方法(メニュー)も伝達していた]

も変わっていきました.この頃,現場の指導者か らは,「メニューの一部は,日本代表の選手には できるんだろうけど,うちの選手にはできないよ」

という声も聞かれました.

この頃[2010年]の指導方針は,これまでの 考え方を一部継承しながら「やはり基本を徹底さ せることが一番」ということで,基本的な内容を 3年計画で策定しました.〈NTS指導内容策定委 員会委員ではない〉強化委員会委員の方から,「こ のような内容では,日本代表に繋がらない」との 声もありましたが,〈NTS指導内容策定委員会委 員の中には〉強化委員会委員もメンバーに入って いたことから,方針通りに進めました.つまり,〈競 技者育成技術委員会副委員長の存在により〉指導 委員会とはうまく連携が取れ始めたのですが,今 度は強化とずれが出てきてしまいました.

3.2.2 F 氏

K氏がJHAの全国指導者研修会[年に一度の 最も多くの指導者が集まる研修会]の中で,「日 本の指導内容を統一するNTSを始めます」と発 表した時が,NTSの始まりです.この時,フロ アの指導者から「こんなことできるわけがない」

「なぜ,統一しなければならないのか」「個性をつ ぶせってことなのか」と一斉に反発を受けました.

最初の頃[2002年]のセンタートレーニング は,NTS委員会の独断でトップレベルの指導者 を集め,〈全国から選抜された〉選手への指導を 行っていました.集められた指導者のコーチング

をNTS委員会委員がチェックする形でした.こ の頃は,NTS委員会として指導内容が定まって いなかったため,トップの指導者を呼んで,それ ぞれのやり方で選手を指導してもらっていたので す.

その後[2003年],K氏がL氏[当時,強化委 員会委員]とM氏[当時,スポーツマネジメン トディレクター]をNTS委員会に入れ,3人で 指導内容の整理をしました.その中で,海外に留 学経験があるL氏とM氏を中心に,世界で勝つ ための目指すべき選手像を「ファンタジスタ注1)」 に決めました.

その後[2012年],M氏は日本代表の強化に関 わるようになったため,NTSの仕事ができなく なりました.そこで,L氏はM氏の代わりに他 の指導者を誘うようになり,徐々にNTS技術指 導委員会のメンバーが増えていきました.この頃 のNTS技術指導委員会には,様々な学校段階の 指導者がいたため,多くの知恵が集まりました.

このようにして,NTSが徐々に実績を積んで いった結果,現場の指導者のNTSに関する評価 は,良い評価へと変わっていきました.

3.3 JHA における一貫指導システムの構築過程 3.3.1 新たなシステムを創設する段階

「JOCは…他の競技団体にも補助金を出す形で 一貫指導の構築を求めました」「J氏がK氏に働 きかけ…NTSの運用を開始しました」(E氏)と 語られたように,JHAは,JOCによる一貫指導 システムの構築に関する提案,すなわち組織外か らの刺激と,K氏による変革のリーダーシップの 発揮という2つの要因により,NTSの運用を開 始したと考えられる.

3.3.2 変革の準備不足により,現場の指導者から 抵抗を受ける段階

JHAはJOCから一貫指導構築の提案を受けた 1年後にNTSを創設したが,現場の指導者から

「『こんなことできるわけがない』『なぜ,統一し なければならないのか』『個性をつぶせってこと なのか』と一斉に反発」(F氏)を受けた.また,

当初の指導内容に関しては「メニューの一部は…

(15)

うちの選手にはできないよ」(E氏)と語られた ように,当初の指導内容は現場に適応していな かったと推察される.組織の変革期には,変革の ビジョンを描くための情報不足により,変革のビ ジョンを考える時間を持てない状況に陥る場合が ある(ロバート,1997).JHAにおいても,「統 括する機関がありませんでした」「それぞれの部 局が連携を取れていない縦割りの組織」「日本代 表の監督が変われば,それに合わせてNTSの伝 達内容も変わって」(E氏),「NTS委員会として 指導内容が定まっていなかった」(F氏)という 語りから,NTSは当初,変革に対する準備不足 の状態で運営されていたため,現場の指導者によ る抵抗を受けたと推察される.

3.3.3 現場の指導者による抵抗を乗り越える段階

「K氏がL氏とM氏をNTS委員会に入れ,3 人で指導内容の整理をしました」(F氏)という 語りから,N氏はNTSの運用を開始した3年後,

本格的に指導内容の再検討に乗り出した.海外に 留学経験があり,海外と日本のハンドボール事情 に詳しい専門家を委員会に入れ,海外と比較した 日本の課題を吟味できたため,「世界で勝つため の目指すべき選手像」(F氏)を新たに設定でき たと考えられる.それにより,現場の指導者も納

得のいく指導内容が作成され,「NTSが徐々に実 績を積んで…NTSに関する評価は,良い評価」(F 氏)に変わり,徐々に現場の指導者による抵抗は 少なくなっていったと推察される.

3.3.4 育成の場での指導内容と現行のハンドボー ルとの間にずれが生じる段階

NTS委員会は明確な指導内容を策定してから7 年後の2010年に,強化委員から,「このような内 容では,日本代表に繋がらない」(E氏)と抵抗 を受ける.その理由はNTSの指導内容が,7年 の間メニューを変えつつも,「基本的な内容」を 教えていたためだと考えられる.球技の戦術は,

ルール改正,対戦相手との相対的・対立的な関 係,攻撃と防御という目的が相反する2つのゲー ム局面の対峙などの要因により(會田,1994),

世界選手権やオリンピックごとに発展していく

(Döbler et al., 1989).そのため,策定された指導 内容は,日本代表が世界で勝つためのハンドボー ルに適応できなくなっていたと考えられる.

3.3.5 強化委員会委員による抵抗を乗り越える段 階

強化委員から抵抗を受けた2年後に,L氏は,

NTS技術指導委員会に様々な学校の指導者を巻 き込んだ.このことにより,「多くの知恵が集ま りました」(F氏)と語られたように,これまで,

K氏,L氏,M氏という少数で策定していた指導 内容は,単に学校段階ごとの指導者の意見を反映 させただけでなく,多くのNTS技術指導委員会 委員の意見を踏まえた上でのより重厚な指導内容 になったと推察される.その結果,NTSに対す る現場の評価は,さらに良くなっていったと推察 される.

4. JHA における一貫指導システム構築に付随す る組織変革の課題

組織変革は,変革の推進要因によって,または 変革の阻害要因を除去することによって推進して いく(松田,2012).表2にこれまでの考察をま とめ,それぞれの中央競技団体における一貫指導 システムの構築過程と推進要因,阻害要因を示し た.ここでは,公益財団法人日本ハンドボール協 NTSの運用を開始,

基本と高度が混在した指導内容 NTSの運用と,指導内容に関する抵抗

K氏,L氏,M氏による内容の再検討

指導内容を基本的な内容に変更

強化委員会委員による指導内容に関する抵抗

NTS技術指導委員会に 様々な学校段階の指導者を招集

NTSの評価向上

図 4 語り手から見たJHAの一貫指導システムの構築 過程

参照

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