第 8 章 位相最適化問題
畔上 秀幸
名古屋大学 情報科学研究科 複雑系科学専攻
February 25, 2009
§ 1 はじめに
目標
偏微分方程式の境界値問題が定義された領域の最適な穴配置決める 問題は位相最適化問題(topology optimizaiton problem)とよばれる.
この問題の定式化と解法について理解する.
領域の点の集合に対する特性関数を許容集合にした位相最適化問題 は,許容集合が点列コンパクトではないことから不正則である.
中間値が取れる密度関数の集合は点列コンパクトである.したがっ て,最適密度変動問題の解を用いて密度変動を繰り返していけば極小 解に到達できる.
最適密度変動問題に対して勾配(密度勾配)が定義できる.
密度勾配を用いたH1勾配法が定義できる.
. . . . . .
§ 2 位相最適化問題の構成法
定義 2.1 (特性関数)
.
.
集合Vとその部分集合S に対して,次の二値関数χS : V → {0,1}をS の特性関数(characteristic function)あるいは指示関数(indicator function)という.
χS(x)=
1 (x∈S ) 0 (x<S )
.
命題 2.1 ( 特性関数の集合 )
.
.
.
Lipschitz領域D⊂Rd に対して,特性関数 χΩ (Ω ⊂ D)の集合は点列コンパクトでは ない.
D
Ω0
Ω1, Ω2, ⋅⋅⋅
. . . . . .
緩和策
二値関数の0-1条件を緩和して,中間値を許容した連続関数の集合で 最適穴配置問題の近似問題を構成することを考える.
定義 2.2 ( ミクロな基本セルをもつ連続体 )
.
.
Lipschitz領域D⊂Rdはミクロな基本セルY をもつ連続体とする.Yの
形状パラメータをa : D→Rm(m∈N) (図の場合,a=(a1,a2, θ))とす る.マクロな材料特性k : D→Rは均質化法(homogenization method) (詳細は文献に譲る)によってk=kH(a),kH: Rm→Rと決定されるとす る.aの許容集合Wを次式とする.ただし,a0>0は定数,
1=(1,1,· · ·,1)Tとする.
W=n
a∈W1,∞(Ω; Rm) a0≤a≤1o
D
a1
a2
Y θ
Wは点列コンパクトである.
. . . . . .
定義 2.3 (密度をもつ連続体)
.
.
Lipschitz領域D⊂Rdは密度φ: D→Rをもつ連続体とする.マクロ
な材料特性k : D→Rはk=kH(φ),kH: R→Rと表せるとする.φの 許容集合Wを次式とする.ただし,φ0>0は定数とする.
W=n
φ∈W1,∞(Ω; R) φ0≤φ≤1o
Á1, Á2, … D Á0
. . . . . .
定義 2.4 (SIMP モデル)
.
.
定義 2.3 において,次式を仮定するとき,
SIMP(solid isotropic material with penaliza-
tion)モデルという.ただし,p >1 は定数
とする.
k=kH(φ)=φp
1 1
0
0 Á0 Á
Áp
レベルセット法(level set method)を用いた位相最適化問題の構成法 も研究されている.ここでは省略する.
. . . . . .
§ 3 SIMP 位相最適化問題
本教材では,SIMPモデルを用いた密度最適化問題をSIMP位相最適 化問題とよび,その定式化と解法について考える.
問題 3.1 (SIMP 境界値問題 BV ( φ ))
.
.
定義2.4 (SIMPモデル)に従う. f : Ω7→Rを既知として,次式を満た
すu : Ω7→Rを求めよ.
−∇·(φp∇u)=φf inΩ
u=0 onΓ D
Á
. . . . . .
評価関数
J(0)(φ,u),J (φ,u)
=
J(0)(φ,u),
J(l)(φ,u)
l
∈Rm+1を次式 で定義する.ただし,g(l): R2→Rとする.
J(l)(φ,u)= Z
Ω
g(l)(φ,u) dx
問題 3.2 (SIMP 位相最適化問題)
.
.
定義2.4 (SIMPモデル)に従う.上記J(φ,u)とする.あるφ∈ Wのと きの問題BV(φ)の解をuとするとき,次のようなφ∈ Wを求めよ.
φ∈Wmin
nJ(0)(φ,u) J(φ,u)≤0o
. . . . . .
定義 3.1 (密度変動の集合)
.
.
上記Wとする.あるφk∈ W(k=0,1,2,·)において密度変動
ρ: D→Rの集合Uを次式で定義する.新密度φ=φρはρ∈ Uと小
さな >0を用いて次式で構成する.ただし,PWは凸有界閉集合W
への直交射影作用素である.
U=W1,∞(D; R)=C0,1 Ωk; R φ=φ+ρ inD, ρ∈ U φk+1=PW(φ)
. . . . . .
φk+1∈ Wである.したがって,あるφ0 ∈ Wから次の最適密度変動 問題DV(φ)の解ρ?∈ Uを求め,それにより密度列n
φko
kを構成してい けば,SIMP位相最適化問題3.2の極小解に到達できる.
問題 3.3 (最適密度変動問題 DV( φ ))
.
.
上記W,U,J(φ,u)とする.あるφ∈ Wと小さな >0に対して BV(φ)の解をu とする.次のようなρ?∈ Uを求めよ.
J(0)
φρ?,uρ?
= min
ρ∈U,kρk=1
nJ(0)(φ,u) J(φ,u)≤0o
. . . . . .
密度微分
定義 3.2 (u の密度微分 u
0)
.
.
uとuはBV (φ)とBV (φ)の解とする.ρ∈ Uに対するuのG ˆateaux 微分u0を次式で定義する.
u0=lim
→0
u−u
.
補題 3.1 (u
0に対する境界値問題)
.
.
.
あるφ∈ Wのとき,密度変動ρ∈ Uに対するuのG ¨ateaux微分u0は 次の問題の一意解である.
−∇·
pφp−1ρ∇u
−∇· φp∇u0
=ρf inΩ u0=0 inΓ u0はρに対する連続線形汎関数である.
. . . . . .
問題 3.4 (随伴問題 AD
(l)( φ ))
.
.
∂g(l)/∂u=g(l),u を既知として,次式を満たすv(l): Ω7→Rを求めよ.
−∇· φp∇v(l)
=g(l),u inΩ v(l)=0 onΓ
. . . . . .
補題3.1と随伴問題3.4より,次の補題を得る.
補題 3.2 (J
(l)( φ, u) の密度微分)
.
.
あるφ∈ Wのときの問題BV (φ)とAD(l)(φ)の解をu,v(l)とする.
J(l)(φ,u)のFr ´echet微分は次式となる.
J(l)(φ,u)=J(l)(φ,u)+ Z
ΩG(l)ρdx+o() G(l)=g(l),φ −pφp−1∇v(l)·∇u+f v(l)
G(l)を密度勾配(density gradient)とよぶ.
(証明)
J(l)0(φ,u)= Z
Ω
g(l),φ(φ,u)ρ+g(l),u(φ,u)u0 dx
=D
g(l),φ(φ,u), ρE
Ω+D
g(l),u(φ,u),u0E
Ω
補題3.1と随伴問題3.4の弱形式 a
pφp−1ρ,u,v
+a φp,u0,v=hρf,viΩ u0∈V ∀v∈V a
φp,u0,v(l)
=D
g(l),u(φ,u),u0E
Ω v(l)∈V ∀u0∈V where a (φ,u,v)=
Z
Ωφ∇u·∇v dx V=H10(Ω; R)
第1式においてv=v(l)のとき,次式が成り立つ.
J(l)0(φ,u)=D
g(l),φ(φ,u), ρE
Ω−a
pφp−1ρ,u,v(l) +D
ρf,v(l)E
Ω
. . . . . .
命題 3.1 (J
(l)( φ, u) の密度微分 )
.
.
問題DV(φ)において, f ∈L2(Ω),g(l)∈W1,∞
R2; R
.のとき,補題3.2 を満たすG(l)は次の関係を満たす.
G(l)∈W1,1(Ω)1W1,∞(Ω; R).
.
注意 3.1 (J
(l)( φ, u) の形状微分)
.
.
.
G(l)<W1,∞(Ω; R)より,G(l)をρとすることはできない.
. . . . . .
G(l)∈
W1,∞(Ω; R)∗
よりWは弱点列コンパクトである.7章の定理
2.1 (最小解の存在)により,次の結果を得る.
定理 3.1 (DV( φ ) の最小解の存在 )
.
問題DV(φ)において, f ∈L2(D; R),g(l)∈W1,∞
R2; R
のとき,問題 DV(φ)の最適解ρ?は存在する.
. . . . . .
H
1勾配法
抽象的勾配法において,V=U,X=H1(Ω)を仮定する.
問題 3.5 (H
1勾配法)
.
.
G(l)(l=0,1,2,· · ·,m)は補題3.2を満たすとする.次式を満たす ρ(l)G ∈X=H1(Ω; R)を求めよ.
a ρ(l)G,v
=− G(l),v
L2(Ω) ∀v∈X
ただし,a(·,·)はX上の強圧的な双1次形式で,例えば,c1は正定数 として,次式で定義する.
a (y,z)=(y,z)X= Z
Ω(∇y·∇z+c1yz) dΩ
. . . . . .
定理 3.2 (DV に対する H
1勾配法)
.
.
上記W,U,X=H1(Ω),p>1, f ∈L2(Ω),g(l)∈W2,∞
R2
とする.ある φ∈ Wに対して補題3.2を満たすG(l)はX∗に属するとき,H1勾配法 3.2の解ρG(l)∈Xが存在し,次のことが成り立つ.
.
.
.
1 ρ(l)G ∈ Uのとき,ρ(l)G はJ(l)(φ,u)が減少する最適密度変動である.
.
.
.
2 ρ(l)G <Uのとき,ρ(l)n →ρ(l)G ∈X(n→ ∞)となる関数列n ρ(l)n
o
n∈ Uが 存在する.
.
注意 3.2 (H
1勾配法)
.
.
.
問題3.2を区分的に連続な近似関数を用いたGalerkin法で解く場合は ρ(l)Gh∈ Uh⊂ Uとなる.
. . . . . .
§ 4 線形弾性体の SIMP 位相最適化問題
問題 4.1 (線形弾性問題 BV ( φ ))
.
.
Lipschitz領域Ω∈Rd(d=2,3)で定義されたd次元線形弾性体を考え る.Ωの境界をΓ,その部分境界をΓ0とする.5章定義4.3 (構成則)で 示した強楕円性を備えた剛性E=
Ei jkl
i jkl∈Rd×d×d×d に対して定義2.4
(SIMPモデル)を用いる.Γ0上の変位を0として,体積力(単位体積当
りの力) f : Ω→Rdと境界力(単位境界当りの力)p : Γ\Γ0→Rd が作 用したときの変位をu : Ω→Rdとする.f,pを既知として,次式を満 たすuを求めよ.
−∇(φpEε(u))=φf inΩ φpEε(u)ν=p onΓ\Γ0
u=0 onΓ0
ただし,∇ξ =
∂ξi j/∂xj
i(ξ∈Rdsym×d)と定義 する.
Ω
Γ0
p
f
. . . . . .
質量制約付平均コンプライアンスあるいは外力仕事最小化問題を考え る.評価関数
J(0)(φ,u),J(1)(φ)
∈R2を次式で定義する.
J(0)(φ,u)= Z
Ωφf·u dx+ Z
Γ\Γ0
p·u dΓ J(1)(φ)= Z
Ωφdx 線形弾性体のSIMP位相最適化問題は問題3.2を
J(φ,u)=
J(0)(φ,u),J(1)(φ)
に書き換えた表現となる.また,定義3.1
(密度変動の集合)の密度変動に対して,次の最適密度変動問題DV(φ)の
解ρ?∈ Uを求める問題に帰着する.
問題 4.2 ( 線形弾性体の最適密度変動問題 DV( φ ))
.
.
上記W,U,J(φ,u)とする.あるφ∈ Wと小さな >0に対して BV(φ)の解をu とする.次のようなρ?∈ Uを求めよ.
J(0)
φρ?,uρ?
= min
ρ∈U,kρk=1
nJ(0)(φ,u) J(1)(φ)≤0o
. . . . . .
密度微分
uのG ˆateaux微分をu0=lim→0(u−u)/とする.
補題 4.1 (u
0に対する境界値問題)
.
.
あるφ∈ Wのとき,密度変動ρ∈ Uに対するuのG ¨ateaux微分u0は 次の問題の一意解である.
−∇
pφp−1ρEε(u)
−∇ φpEε(u0)
=ρf inΩ pφp−1ρEε(u)+φpEε(u0)
ν=0 onΓ\Γ0
u=0 onΓ0
. . . . . .
問題 4.3 ( 随伴問題 AD
(0)( φ ))
.
.
f, pを既知として,次式を満たすv(0): Ω7→Rdを求めよ.
−∇
φpEε(v(0))
=φf inΩ φpEε(v(0))ν=p onΓ\Γ0
v(0)=0 onΓ0 自己随伴関係u=v(0)が成り立つ.
. . . . . .
補題4.1と問題AD(l)(φ)より,次の補題を得る.
補題 4.2 (J
(l)( φ, u) の密度微分)
.
.
あるφ∈ Wのときの問題BV(φ)の解をuとする.J(0)(φ,u)のFr ´echet 微分は次式となる.
J(0)(φ,u)=J(0)(φ,u+ Z
ΩG(0)ρdx+o() G(0)=−pφp−1(Eε(u))·ε(u)+2 f·u
G(0)は平均コンプライアンスの密度勾配(density gradient)である.
(証明)
J(0)0(φ,u)= Z
Ω ρf·u+φf·u0 dx+
Z
Γ\Γ0
p·u0dΓ
=hρf,uiΩ+φf,u0
Ω+ p,u0
Γ\Γ0
補題4.1と問題AD(l)(φ)の弱形式 a
pφp−1ρ,u,v
+a φp,u0,v=hρf,viΩ u0∈V ∀v∈V a
φp,u0,v(0)
=φf,u0
Ω+ p,u0
Γ\Γ0 v(0)∈V ∀u0∈V where a (φ,u,v)=
Z
Ωφ(Eε(u))·ε(v) dx V=
v∈H1
Ω; Rd v=0onΓ0
第1式においてv=v(0)のとき,次式が成り立つ.
J(0)0(φ,u)=−a
pφp−1ρ,u,v(0) +D
ρf,u+v(0)E
Ω
§ 5 まとめ
偏微分方程式の境界値問題が定義された領域の最適な穴配置決める 問題について,問題の定式化と解法について説明した.
領域の点の集合に対する特性関数を許容集合にした位相最適化問題 は,許容集合が点列コンパクトではないことから不正則であった.
中間値が取れる密度関数の集合は点列コンパクトである.したがっ て,最適密度変動問題の解を用いて密度変動を繰り返していけば極小 解に到達できることになった.
最適密度変動問題に対して勾配(密度勾配)が定義できた.
密度勾配を用いたH1勾配法が定義できた.
参考文献
[1] M. P. Bendsøe and O. Sigmund.
Topology optimization : theory, methods and applications.
Springer, Berlin ; Tokyo, 2003.
[2] J. Haslinger and R. A. E. M ¨akinen.
Introduction to Shape Optimization: Theory, Approximation, and Computation.
SIAM, 2003.
[3] H. Azegami and S. Kaizu.
Smoothing gradient method for non-parametric shape and topology optimization problems.
In Proceedings of the 7th World Congress on Structural and Multidisciplinary Optimization (WCSMO-7)(CD-ROM), pp. 1–10, 2007.
[4] 畔上秀幸,海津聰.
連続体の位相最適化問題について.
日本応用数理学会2007年度年会講演予稿集, pp. 210–211, 2007.