絵本にみる父親像の比較研究 一日本と韓国の創作絵本をとおしてー
専 攻 学 校 教 育 専 攻 コ ー ス 幼 年 発 達 支 援 コ ー ス 氏 名 林 哲 司
1 研究の目的
絵本の世界では、主人公の子どもたちと ともに多くの大人が登場する。
彼(彼女)らは 物語の中のさまざまな 場面で、主人公である子どもたちに有形無 形の影響を及ぼしている。
特に、その大人が子どもの父親や母親の 場合、与える影響は計り知れない。
ところが、日本の絵本の中の世界では、
なぜか父親の影がとても薄く、時として、
その存在すら気づかぬほどである。
存在感の希薄さを指摘されている現実世 界の父親像が絵本の世界に反映されている
と解釈すればいいのだろうか。
しかし、そのような中でも、実生活で、
子どもとの関係性を築こうと懸命に努力し ている父親たちも決して少なくないように、
絵本の中の世界でも父親たちの努力はその 跡を残しているに違いない。
本研究では、絵本の中に描かれた父親た ちの足跡をたどり 彼らがどのような形で 子どもと関わり、し、かなる父親像を残して いるのかを考察することを目的とする。
また、その際、父親像の特徴を明確に際 だたせるため、日本と韓国という違った文 化の座標軸を用い、両国の絵本に描かれて いる父親像を比較しようと考える。
導き出された分析結果は、両国の絵本に
指 導 教 官 佐 々 木 宏 子
描かれている父親像の類似点と異質点を明 らかにするのは もちろん、結果的に絵本 の世界の父親たちが、現実世界に生きるわ れわれに何を物語ろうとしているのかを明
らかにしてくれるに違いない。
2 研究の方法
まず、絵本のデータベースを基本的な検 索手段として用い、そこから主題【父】を 検索した結果、選定される日本と韓国の絵 本、それぞれ 158冊と 74冊を本研究の中 心資料とする。
次に、その資料を生活に関係する 13種 類の視点から捉えた基準に分類し、各視点
を中心に父親像の抽出を試みる。
その際、日本と韓国の父親像の特徴がよ く表現されている、【生き方を考えさせる】
【お出かけ】【父になる】の3視点に焦点を あて考察を試みることにする。
3 結果および考察
( 1 ) 主題【生き方を考えさせる】
主題【生き方を考えさせる】に分類され た父親たちは日本 11冊(7.0%)、韓国 8冊 (10.8%)で、あった。
日本の父親の多くは、父親自身の持つ理 想像や道徳的な規範を掲げ、子どもと接す
る父親が多い。
例えば、父親の考える道徳的な規範に背 いたとき、あるいは、子どもの成長を願い、
︒ ︒
円hu
していいこととそうでないことを見分けさ せようとするとき、父親たちは自身の持つ 理想像や、道徳的な規範を示すことで人が 進む道を考えさせる。
それに対し、韓国の父親たちは、泣いた り、夢を見たり、勇気づけたりとその時々 の子どもたちの感情と関わり、受けとめて 行く中で関係性を構築して行く。
(2)主題【お出かけ】
主題【お出かけ】に分類された父親たち は日本
19
冊( 1 2 . 0 % )
、韓国5
冊( 6 . 8 % )
であ った。絵本の数だけを考えれば、父と子で出か けることは、日本の方がより頻度が高いと いえるのかもしれない。
しかし、お出かけの内容を父子の関係を 中心に見た場合、両国の絵本に描かれてい る父子関係には、あえて指摘できるほどの 豊かな関係をみいだすことはできなかった。
それは、家族旅行やデパートでのショッ ピングなど楽しくすごすことでお出かけの 目的が達成されている日本や韓国の父子関 係に比べ、お出かけを通して父と子がしっ かりと向かい合い 成熟した深い関係性を 構築している欧米のすぐれた絵本に登場す る父親たちとを比較すれば一目瞭然である。
(2) 主題【父になる】
本研究の分類項として使用されている
【父になる】には2つの意味が含まれてい る。ひとつは文字通り子どもの誕生によっ て【父になる】ことであり、もう一つは子 どもとの関わりの中で精神的に【父になる】
ことである。
子どもの誕生によって【父になる】に分 類された父親たちは日本5冊
( 3 . 2 % )
、韓国4
冊(5.4%)であった。日本の絵本の父親たちは、母親のことを 思いやり、いたわることを通して出産とい う大事に臨む姿が描かれているが、それら は、お世辞にも積極的であるとは言えず、
傍らで、見守る姿で、あった。
また、韓国の絵本に描かれている父親た ちは、新しい命の誕生を、子どもが生まれ るところから捉えるのではなく、夫婦の愛 情を基礎として考え、夫婦の愛情の延長線 上に子どもの誕生を位置させようと努力し ている。
そのほか、子どもとの関係性から【父に なる】に分類された父親たちは、日本と韓 国、各2冊ずっとなっている。
これらの特徴は、やはり、子どもの問題行 動に対して、日本の父親は子どもを間接的 に見守る姿勢を持つのに対し、韓国の父親 たちは積極的にその問題に介入し子ども との関係性の中で解決していく道を探し出 していくという差異を見せているというと ころであろう。
4 まとめ
結果的に日本の父親は、子どもと直接向 かい合っていくなかで関係性を築き上げて いくのではなく、父親自身が持つ規範を示 し、時には見守り、時には間接的に子ども に働きかけることを通して父と子の関係性 を築いていく父親として描かれており。ま た、それゆえ、直接的に愛情を表現するこ
とは、あまりない。
残念ながら、そのあたりが、家庭での父 親の存在感を希薄にさせているひとつの理
由となっているのかもしれない。
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