日本企業のコスト・ビヘイビアに関する記述的分析
北 田 智 久 ・ 安 酸 建 二
概要 本稿の目的は日本企業の財務データに関する記述的分析を行い,コスト・ビヘイビア に関する基礎的な情報を提供することである。特に売上高やコスト関連項目を中心に,平均 値や中央値といった記述統計量と変数間の相関関係や散布図といった情報を提供する。さら に,売上高とコスト関連項目の関係を探るために,CVP 関係を基礎とした回帰分析を行う。
Abstract Using publicly available financial data of Japanese firms, we investigate cost behavior for purpose of providing descriptive analysis of it. Especially focusing on sales and costs, we provide basic information of them such as descriptive statistics, correlation, and scatter plot. We also regress sales on costs to deepen our understanding of the relationship between sales and costs.
キーワード コスト・ビヘイビア,CVP 関係,記述的分析 原稿受理日 2018年11月10日
1.は じ め に
Anderson et al. (2003)以降,資源調整に関するマネジャーの裁量的な意思決定を基礎 としたコスト・ビヘイビアに関する研究知見は急速に蓄積されてきた(e.g., Banker and Byzalov 2014; Banker et al. 2017)。それに伴い,コストの下方硬直性(cost stickiness)
や,コストの反下方硬直性(cost anti-stickiness),コストの硬直性(cost rigidity)と いった現象について仮説検証が行われてきた(e.g., Anderson et al. 2003; Banker and Byzalov 2014; Banker et al. 2014; Weiss 2010)。多くの研究において,営業量を売上高 で代理することによって,またコストを主に販売費及び一般管理費(以下,販管費と呼ぶ)
で代理することによってこれらの現象は捉えられている( e.g., Anderson et al. 2003;
Banker and Byzalov 2014; Banker et al. 2017)。我が国においても,公表財務データを 用いて,そうした既存研究の追試や拡張が行われている(平井・椎葉 2006;安酸・梶原 2009;安酸 2012;北田 2016;北田ほか 2016;牧野ほか 2018)。しかし,企業を取り巻く
制度や環境が異なる日本企業のデータを用いた追試では,必ずしも国外の先行研究と同様 の結果が得られるわけではない(e.g., 北田 2016)。そうした結果を適切に解釈するために は,我が国の財務データの特徴を把握しておくことが必要不可欠だろう。もちろん,国内 の先行研究においてサンプルの記述統計量は提供されているものの,これまで日本企業の コスト・ビヘイビアに焦点を合わせた基礎的情報は十分に提供されてこなかった。
そこで本稿は,CVP 関係を基礎としたコスト・ビヘイビアに着目して,日本企業の公表 財務データについて記述的分析を行う。本稿の意義は,日本企業のコスト・ビヘイビア研 究の結果を解釈する際の基礎的資料を提供することにある。既存のそして今後の日本企業 の公表財務データを用いたコスト・ビヘイビア研究の結果を解釈する際の一つの手がかり を提供できると期待される。
本稿で用いるサンプルは,2000年度から2017年度の日本企業の連結財務諸表における データである。本稿の分析では,コスト・ビヘイビア研究の中心となる売上高とコスト関 連項目を中心に,平均値や中央値といった記述統計量と変数間の相関関係や散布図といっ た情報を提供する。分析の結果,売上高とコスト関連項目の正の相関関係を確認した。さ らに,売上高とコスト関連項目の関係を探るために,回帰分析を行なった。
2.分 析 モ デ ル
本稿ではまず,売上高とコストを中心に,平均値や中央値,標準偏差といった記述統計 量を算出する。つづいて,売上高とコスト関連項目について相関関係を確認する。さらに,
管理会計の分析ツールの一つである CVP 分析の考え方を利用し,コストと売上高の関係 を分析する。
CVP 分析は一般に,短期利益計画の策定に有用であるとされ,コスト(costs)と売上 高(sales),利益(profits)の関係を明らかにする分析手法である。CVP 関係を特定す るには, コストを固定費と変動費に分解(いわゆる「固変分解」)する必要がある。 企業 が公表する財務データがいわゆる直接原価計算に基づいて作成されていれば,財務諸表か ら固定費と変動費に関する情報を取り出すことは容易にできるだろう。しかし,実際には 企業が公表する財務データは,全部原価計算に基づいて作成されている。全部原価計算に 基づくコスト情報は固定費と変動費を区別していないので,そこから固定費と変動費に関 する情報を取り出す必要がある。いくつか存在する固変分解の方法の中でも本稿は最小二 乗法を利用して,コストを固定費と変動費に分解する。具体的には次の式を推定する。
COSTSi,t= 0+ 1SALESi,t+ i,t 式
ここで,COSTSi,t は企業 i の t 期におけるコストを,SALESi,t は企業 i の t 期における売 上高を表している。また,0 は推定される回帰直線の切片を表している。これは企業が全 く活動しなくても発生するコストを表しており,理論上は固定費であると考えられる。他 方,1 は変動費率を意味し,売上高が1円変化した際のコストの変化額を表す。したがっ て,1SALESi,t は変動費となる。
なお,最小二乗法を利用して,CVP 分析を行う際にしばしば指摘される問題として,
変動費率が1を超えてしまうことや,固定費が負の値として推定されてしまうことが挙げ られる(乙政 2014;新井・福嶋 2013;高田 2004)。この理由としては,固定費が長期的に は変動費化すること(Kaplan and Cooper 1987),製品単位あたりの販売価格や変動費が 一定であることや在庫の存在が無視されるといった CVP 分析の教科書的仮定からの逸脱,
厳密には,売上高は営業量(volume)の代理変数である。
利益と関連する自由裁量費の存在(福嶋・新井・松尾 2014)などが考えられる。ただし,
これらの原因を特定し,それらを克服する方法は一般的に管理会計のテキストでは示され ていない。このことは,最小二乗法による固変分解の技術的な問題である。
つぎに,CVP 関係を表す基本式である式を拡張して,コストと売上高の関係性につ いて迫る。具体的にはコストと売上高それぞれの対数をとった式を推定する。式では売 上高の増減額に比例してコストの金額も増減すると想定している。式の変数を対数変換 することによって,売上高が1%変化した際のコストの変化率を推定することができる。
具体的には次の式を推定する。
lnCOSTSi,t= 0+ 1lnSALESi,t+ i,t 式
ここで,lnCOSTSi,t と lnSALESi,t はそれぞれ企業 i の t 期におけるコストと売上高の対数 をとった値を表している。したがって,式の 1 は売上高が1%変化する際のコストの変 化率を表す。
さらに,本稿では式の変数に対して t - 1 期から t 期にかけての差分をとった式を推定 する。特に対数差分をとった回帰モデルは,近年のコスト・ビヘイビア研究でしばしば用 いられる(e.g., Anderson et al. 2003; Banker and Byzalov 2014; Banker et al. 2017)。 対数差分を取ることによって, t - 1 期から t 期にかけて観察される売上高の1%の変化に 対するコストの変化率を推定することが可能となる。本稿では次の式を推定する。
ΔlnCOSTSi,t= 0+ 1ΔlnSALESi,t+ i,t 式
ここで,ΔlnCOSTSi,t は企業 i の t - 1 期から t 期にかけてのコストの対数差分を,ΔlnSALESi,t
は企業 i の t - 1 期から t 期にかけての売上高の対数差分を表している。したがって,式 の 1 は t - 1 期から t 期にかけての売上高の1%の変化に対する t - 1 期から t 期にかけて のコストの変化率を表す。
3.データおよびサンプル選択
本稿では,日本企業による公表財務データを用いる。データは,日経 NEEDS-Financial QUEST 2.0から取得した。利用したデータベースは,財務(短信・有報)および会社属性
データベースである。
サンプル選択の基準は,2000年度から2017年度のデータであること,会計基準として日 本基準を採用していること, 決算期間が12ヶ月であること,連結財務諸表のデータであ る。また,売上高や販管費,売上原価,従業員数が0より小さい場合,または,これら の情報がデータベースから欠落している場合,こうしたデータをサンプルからリストワイ ズに除外している。販管費や売上原価が売上高を超える場合についても,同様にサンプル から除外している。さらに,銀行・証券・保険・その他金融業でないこともサンプル選択 の基準としている。 外れ値に関しては, 上下1%をサンプルから除外している。 財務数 値については,GDP によってデフレートしている。最終的なサンプル・サイズは,37,966 企業-年度となった。なお,その内,製造業に分類される観測値は18,695企業-年度であ り,非製造業に分類される観測値は19,271企業-年度である。
本稿では営業量を売上高によって,コストを販管費・売上原価・従業員数によって代 理する。それらの変数は表1の通りである。SALESi,t は企業 i の t 期における売上高を,
SGAi,t は企業 i の t 期における販管費を,COGSi,t は企業 i の t 期における売上原価を,EMPi,t
は企業 i の t 期における従業員数を表す。lnSALESi,t のように,変数の前の ln はその変数が 対数変換されていることを表す。 また,ΔlnSALESi,t のように, 変数の前の Δ は t - 1 期か ら t 期にかけての差分を表す。
本稿のサンプルには,条件を満たす限り,分析期間の途中において上場廃止や再上場した企業 も含まれる。
本稿の分析では,業種を識別するために日経業種分類を利用している。
もちろん厳密には従業員数はコストではない。ここでは,人件費を代理する情報として,従業 員数を利用している。
図表1 変数の定義 定義
変数
企業 i の t 期における売上高 SALESi,t
企業 i の t 期における販管費 SGAi,t
企業 i の t 期における売上原価 COGSi,t
企業 i の t 期における従業員数 EMPi,t
企業 i の t 期における売上高の自然対数 lnSALESi,t
企業 i の t 期における販管費の自然対数 lnSGAi,t
企業 i の t 期における売上原価の自然対数 lnCOGSi,t
企業 i の t 期における従業員数の自然対数 lnEMPi,t
企業 i の t - 1 期から t 期にかけての売上高の自然対数の差分 lnSALESi,t
企業 i の t - 1 期から t 期にかけての販管費の自然対数の差分 lnSGAi,t
企業 i の t - 1 期から t 期にかけての売上原価の自然対数の差分 ΔlnCOGSi,t
企業 i の t - 1 期から t 期にかけての従業員数の自然対数の差分 ΔlnEMPi,t
4.結果および考察
4.1 記述統計量と散布図
まず,図表2の記述統計量について確認する。売上高の平均値(中央値)は150,420(47,427)
百万円,販管費の平均値(中央値)は24,761(7,687)百万円,売上原価の平均値(中央値)
は113,763(34,466)百万円, 従業員数の平均値(中央値)は3,057(1,054)人である。 い ずれの項目においても,平均値は中央値や第三四分位点よりも大きい。また,売上高や販 管費,売上原価の標準偏差は,平均値の2倍以上の大きな値となっている。このことから,
いくつかの大企業が売上高の平均値をかなり押し上げていることが推察される。なお,売 上高に対する販管費および売上原価の割合の平均値はそれぞれ,0.21と0.73である。
つぎに,散布図を用いて視覚的に売上高とコスト関連項目の関係性について確認する。
散布図には,各データの点だけでなく,最小二乗法によって推定される回帰直線も参考情 報として記載している。図表3のパネルA,B,Cをそれぞれ目視すると,売上高とコス ト関連項目には正の相関がありそうなことが読み取れる。パネルDから相関係数を確認す ると, 売上高と販管費,売上原価,従業員数の相関係数はそれぞれ,0.80,0.99,0.76と なっており,非常に強い正の相関関係にある。同様に,コスト関連項目同士も0.7程度の強 い相関関係にある。
図表2 記述統計量
Upper Max Quartile Median
Lower Quartile Standard Min
Deviation Mean
2,561,400 134,889
47,427 19,133
1,175 292,239
150,420 売上高(百万円)
427,831 22,951
7,687 3,240
387 46,775
24,762 販管費(百万円)
2,098,923 102,127
34,466 13,323
503 228,579
113,763 売上原価(百万円)
46,633 2,956
1,054 458
37 5,596
3,057 従業員数(人)
0.98 0.27
0.18 0.11
0.01 0.14
0.21 販管費/売上高
1.00 0.84
0.77 0.66
0.03 0.16
0.73 売上原価/売上高
図表3 売上高とコスト関連項目の散布図および相関関係
パネルB 売上高と売上原価の散布図(単位:百万円)
パネルA 売上高と販管費の散布図(単位:百万円)
図表4は売上高およびコスト関連項目について対数変換をした変数に関する散布図およ び相関関係を示している。図表4のパネルA,B,Cの散布図を視認すると,対数変換を する前の図表3のパネルA,B,Cよりもデータのばらつきが抑えられていることが読み 取れる。また,パネルDに示されているように,対数変換後の売上高と対数変換後の販管 費,売上原価,従業員数の相関係数はいずれも0.8以上あり,非常に強い正の相関関係を示 している。
図表3 売上高とコスト関連項目の散布図および相関関係(その2)
パネルC 売上高と従業員数の散布図(単位:百万円)
パネルD 相関係数
EMP COGS
SGA SALES
1.00 SALES
1.00 0.80
SGA
1.00 0.71
0.99 COGS
1.00 0.72
0.70 0.76
EMP
図表4 対数変換後の売上高とコスト関連項目の散布図
パネルB 対数変換後の売上高と売上原価の散布図 パネルA 対数変換後の売上高と販管費の散布図
つづいて,t-1期から t 期にかけての対数差分をとった売上高とコスト関連項目の関係 を散布図により目視する。対数差分をとった売上高とコストの散布図を確認することによ り,t-1期から t 期にかけての売上高の変化率に対してt-1期から t 期にかけてのコス トの変化率がどの程度かを探ることができる。図表3,4
と同様に,図表5には各観測値 の点がプロットされているだけではなく,最小二乗法によって推定された回帰直線が記載 されている。ただし,推定は ΔlnSALES の符号に応じて行われている。ΔlnSALES が正値 または負値であることは,その定義から,t-1期から t 期にかけて売上高が増加または減 少したことを意味する。別々に回帰直線を推定することによって Anderson et al.(2003)
図表4 対数変換後の売上高とコスト関連項目の散布図(その2)
パネルC 対数変換後の売上高と従業員数の散布図
パネルD 相関係数
lnEMP lnCOGS
lnSGA lnSALES
1.00 lnSALES
1.00 0.88
lnSGA
1.00 0.80
0.98 lnCOGS
1.00 0.81
0.80 0.83
lnEMP
図表5 t - 1 期から t 期にかけての対数差分の売上高とコスト関連項目
パネルB 対数差分の売上高と売上原価の散布図 パネルA 対数差分の売上高と販管費の散布図
で主張されているコストの下方硬直性を視覚的に確認できる。
まず,対数差分をとった売上高とコストの関係について目視すると,全体の傾向として は,正の相関関係があることがうかがえる。つまり,t - 1 期から t 期にかけての売上高の 変化率が増加(減少)すると,t - 1 期から t 期にかけてのコストの変化率も増加(減少)
することが示唆される。パネル D から対数差分をとった売上高と販管費,売上原価,従 業員数の相関係数はそれぞれ,0.70,0.94,0.43となっている。対数差分をとった販管費や 従業員数は,これまでと比べて,相関係数がやや低い値を示している。
回帰直線に着目すると,特に販管費と従業員数については,ΔlnSALES が正または負,
図表5 t - 1 期から t 期にかけての対数差分の売上高とコスト関連項目(その2)
パネルC 対数差分の売上高と従業員数の散布図
パネルD 対数差分の相関係数
ΔlnEMP ΔlnCOGS
ΔlnSGA ΔlnSALES
1.00 ΔlnSALES
1.00 0.70
ΔlnSGA
1.00 0.63
0.94 ΔlnCOGS
1.00 0.41
0.52 0.43
ΔlnEMP
つまり,t - 1 期から t 期にかけての売上高が増加または減少したかによって,その傾きが 異なるようである。ΔlnSALES が0の地点(t - 1 期から t 期にかけて売上高が変化してい ない点)を境に回帰直線の傾きが異なるようである。具体的には,t - 1 期から t 期にかけ て売上高が増加する場合よりも t - 1 期から t 期にかけて売上高が減少する場合の傾きの方 が小さいように見える。このことは,Anderson et al.(2003)が実証したコストの下方硬 直性の存在を示唆している。すなわち,t - 1 期から t 期にかけての売上高の増加率に伴う t - 1 期から t 期にかけてのコストの増加率よりも,t - 1 期から t 期にかけての同程度の売 上高の減少率に伴う t - 1 期から t 期にかけてのコストの減少率の方が小さいということで ある。直感的には,売上高が減少する直面であっても,経営者はそれほどコストを減らさ ないということである。以上のことから,これまでのわが国企業を対象とした実証研究の 結果とも整合して(安酸・梶原 2009;平井・椎葉 2006;北田 2016),目視レベルでも販管 費や従業員数にはコストの下方硬直性が働くことが確認される。ただし,売上原価につい ては,目視レベルでは下方硬直性の存在が確認できない,または下方硬直的であったとし てもその程度が非常に小さいと推察される。
ここで一旦,これまでの結果を総括する。日本企業の公表財務データの売上高やコスト 関連項目の平均値が中央値や第3四分位点よりも大きな値をとっていることから,いくつ かの大企業の影響が非常に強いことが示唆される。さらに,売上高とコスト関連項目は強 い正の相関関係にあることがわかる。特に売上原価については,ほとんど相関係数が1に 近い値を示している。このことは,損益計算書を作成するための現行の原価計算制度が密 接に関連していると考えられる。公表されている損益計算書は全部原価計算制度のもとに 作成されている。全部原価計算では,典型的には材料費,労務費,経費といった原価要素 が仕掛品勘定を経て,製品勘定へと振替られる。製品勘定へと振替られたもののうち,販 売された製品が売上原価勘定へと振替られ,残りは在庫となる。したがって,原価計算制 度上,公表されている売上高と売上原価は個別対応関係を示すはずである。実際,本稿で 用いたサンプルにおいて,売上高と売上原価の相関係数はほとんど1に近い値を示してい る。
4.2 CVP 関係を基礎とした回帰分析
つづいて,CVP 関係を基礎とした回帰分析の結果について述べる。前述のように,式 における係数 0 は固定費,係数 1 は変動費率を表す。まず,係数 1 について確認すると,
販管費,売上原価,従業員数はそれぞれ,0.135,0.781,0.015であった。したがって,こ
の分析においては,0
以上1以下の変動費率が観察されている。係数 0 は販管費,売上原 価,従業員数についてそれぞれ,5,278,-2,827,849という結果になった。売上原価につ いては,固定費が負の値として推定されてしまっている。なお,売上原価の固定費に関す る95%信頼区間も-4,584から-1,070であり,負の値を示している。
さらに,式に対数変換を施した式の結果について確認する。前述したように,いま 係数 1 は売上高が1%変化すると,コストが何%変化するかを意味する。販管費,売上原 価,従業員数について係数 1 はそれぞれ0.870,1.032,0.802で有意な結果であった。つま り,売上高が1%増加すると,販管費,売上原価,従業員数はそれぞれ0.870%,1.032%,
0.802%増加することを示している。
図表6 CVP 分析に関する結果
式:COSTSi,t= 0+ 1SALESi,t+ i,t
Dependent Variables
EMP COGS
SGA
849***
-2,827***
5,278***
0
[725,972]
[-4,584,-1,070]
[4,264,6,292]
0.015***
0.781***
0.135***
1 SALES
[0.014,0.017]
[0.762,0.801]
[0.124,0.146]
36,843 37,066
36,883 Observations
0.573 0.963
0.636 Adjusted R2
*,**,*** は,それぞれ10%,5
%,1
%レベルでの両側検定での有意水準を示している。t 値の計 算は,企業と年度によってクラスター化された標準誤差に基づいて行われている(Petersen 2009)。
[ ]内は95%信頼区間の下限と上限を表している。
図表7 対数変換の単回帰分析
式:lnCOSTSi,t= 0+ 1lnSALESi,t+ i,t
Dependent Variables
lnEMP lnCOGS
lnSGA
-1.633***
-0.694***
-0.351***
0
[-1.812,-1.455]
[-0.781,-0.607]
[-0.546,-0.155]
0.802***
1.032***
0.870***
1 lnSALES
[0.785,0.818]
[1.025,1.040]
[0.852,0.888]
36,843 37,066
36,883 Observations
0.707 0.966
0.787 Adjusted R2
*,**,*** は,それぞれ10%,5
%,1
%レベルでの両側検定での有意水準を示している。t 値の計 算は,企業と年度によってクラスター化された標準誤差に基づいて行われている(Petersen 2009)。
[ ]内は95%信頼区間の下限と上限を表している。
さいごに,式の対数差分の回帰分析の結果について述べる。ここで係数 1 は t - 1 期 から t 期にかけての売上高の変化1%に対するコストの変化率を表す。販管費,売上原価,
従業員数についてそれぞれ係数 1 を確認すると,0.581,1.006,0.391である。つまり,売 上高が前年度比で1%変化した場合,販管費,売上原価,従業員数はそれぞれ0.581%,1.006%,
0.391%変化することとなる。t - 1 期から t 期にかけての売上高の変化に対して, 売上原 価,販管費,従業員数の順で反応しやすいことがわかる。
ここで,回帰分析によって得られた結果を総括する。最小二乗法による CVP 分析では,
固定費が負の値として推定される問題がしばしば生じる(乙政 2014;福嶋ほか 2014)。本 稿においても,図表6が示すように,売上原価の固定費のみが負の値として推定された。
変動費率に関しては,売上原価がおよそ0.8程度であり,販管費や従業員数のそれよりも大 きな値を示している。同様に,対数変換をした式や対数差分をとった式においても,
売上高の変動に対して売上原価は他の項目よりも敏感に反応している。その理由は,売上 原価が全部原価計算制度の下で収益と費用の個別対応を確保するよう作成された数値であ るからであると推察される。
5.お わ り に
本稿では,2000年度から2017年度の日本企業の連結財務諸表におけるデータを用いて,
コスト・ビヘイビア分析にかかる基礎的なデータを提供した。具体的には,売上高とコス ト関連項目(販管費,売上原価,従業員数)を中心に,平均値や中央値といった記述統計
図表8 対数差分をとった単回帰分析
式:ΔlnCOSTSi,t= 0+ 1ΔlnSALESi,t+ i,t
Dependent Variables
ΔlnEMP ΔlnCOGS
ΔlnSGA
0.018***
-0.0002 0.009**
0
[0.011,0.025]
[-0.004,0.004]
[0.001,0.018]
0.391***
1.006***
0.581***
1 ΔlnSALES
[0.324,0.457]
[0.980,1.033]
[0.532,0.630]
36,761 37,010
36,814 Observations
0.189 0.893
0.492 Adjusted R2
*,**,*** は,それぞれ10%,5
%,1
%レベルでの両側検定での有意水準を示している。t 値の計 算は,企業と年度によってクラスター化された標準誤差に基づいて行われている(Petersen 2009)。
[ ]内は95%信頼区間の下限と上限を表している。
量と変数間の相関関係や散布図といった情報を提供した。その結果,本稿で分析対象とし た日本企業の財務データにおいて売上高とコストの正の相関関係を確認した。さらに,売 上高とコストの関係を探るために,CVP 関係に着目し,回帰分析を行なった。
本稿の目的は,基礎的な情報を提供することであり,コスト・ビヘイビアに関して何ら かの仮説を検証することではない。したがって,本稿には新規性に富むような発見事項は 観察されなかった。しかし,将来のコスト・ビヘイビアならびに公表財務データを利用し た管理会計研究に対して,基礎的な情報を提供するという点において,本稿には学術的な 貢献がある。
最後に,本稿の限界はサンプル選択の基準に関連する。本稿のサンプルは日本基準の会 計基準を採用している企業に分析対象を限定している。同時に,本稿の分析は連結財務諸 表において公表された財務データである。したがって,本稿で得られた結果は国際会計基 準を採用している企業や,単独決算において公表される財務データによる分析には必ずし も当てはまらない点に注意が必要である。
謝 辞
本研究は JSPS 科研費 17H02583,16H03680,26380637の助成を受けたものである。
参 考 文 献
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