活 動 報 告
某特別養護老人ホームにおける訪問歯科診療の
新型コロナウイルス感染症対策
Home-visit Dental Treatment for a Long-term Care Facility under COVID-19
古屋 純一,志羽 宏基,佐藤 裕二,畑中 幸子
山根 邦仁,池村 直也,桑澤 実希
Junichi Furuya, Hiroki Shiba, Yuji Sato, Yukiko Hatanaka Kunihito Yamane, Naoya Ikemura and Miki Kuwazawa
抄録:新型コロナウイルス感染症の拡大により,医療は大きな転換を余儀なくされ,歯 科診療もこれまで以上の感染対策が必要となった。特に訪問歯科診療では,基礎疾患を 有する要介護高齢者など,重症化しやすい高齢者が対象であり,診療設備など環境面で の感染対策上の問題も存在するため,訪問歯科診療が継続されない場合も少なくなかっ たと考えられる。しかし,不十分な口腔健康管理による口腔機能や口腔衛生の低下は, 誤嚥性肺炎のリスクを高め,栄養状態や食べる楽しみの低下にも通じ,全身的な問題に も影響する。そのため,感染対策を十分に講じて,訪問歯科診療を継続することは要介 護高齢者にとって重要である。当講座では,特別養護老人ホームにおける定期的な訪問 歯科診療を 20 年間以上行っており,施設との長期間の連携関係を構築してきた。その ため,コロナウイルス感染が日本で発見されてからも,施設と当院の間で試行錯誤をし ながら,入居者の口腔健康管理を継続して行うことができた。コロナウイルスの感染が 蔓延していることを理由に一律に訪問歯科診療を中止するのではなく,高齢者の口腔健 康管理や食支援のために最適解を施設側と模索し,柔軟な対応で訪問歯科診療を可及的 に継続することは重要と考えられる。そこで本稿では,われわれのそうした一連のコロ ナウイルス禍での某特別養護老人ホームにて行った訪問歯科診療における活動内容につ いて報告する。 キーワード:高齢者,高齢者施設,訪問歯科診療,新型コロナウイルス,感染対策 緒 言 新型コロナウイルス感染症の拡大により,医療は 大きな転換を余儀なくされ,歯科診療もこれまで以 上の感染対策が必要となった1)。特に訪問歯科診療 では,基礎疾患を有する要介護高齢者など,重症化 しやすい高齢者が対象となる。また,診療の場所が 施設や居宅の一室になることが多く,吸引が十分で ないなどの診療設備の問題があるため,診療室にお ける歯科診療以上に配慮が必要となる。今回の一連 のコロナ禍における緊急事態宣言が出された時期に は,施設からの訪問歯科診療の中断申し入れや,訪 問歯科診療を中止した歯科医療機関も多くなり,適 切な口腔健康管理を受けられずに口腔の健康状態が 非常に悪化した事例も散見される2)。不十分な口腔 健康管理による口腔機能や口腔衛生の低下は,誤嚥 性肺炎のリスクを高め,栄養状態や食べる楽しみの 低下にも通じ3),全身的な問題にも影響する可能性 がある。そのため,感染対策を十分に講じて,訪問 歯科診療を継続することは要介護高齢者にとって重 要である。 新型コロナウイルス感染症に対しての「在宅医療 全般」にわたる指針は,「在宅医療における新型コ ロナウィルス感染症対応 Q&A(改定第 2 版)」1)と して 2020 年 6 月に日本在宅医療連合学会から出さ 昭和大学歯学部高齢者歯科学講座
Department of Geriatric Dentistry, Showa University School of Dentistry
れている。このなかには,「CQ14:療養者への歯科 治療・口腔ケアを行う場合,どのような対応が必要 なのか?」という記載があるが,「COVID-19 の可 能性が極めて低い場合」と「COVID-19 と診断さ れている場合あるいは感染の可能性が否定できない 場合」に分けて,1 ページ半程度にとどまってい る。 一方,歯科診療に関しての指針は,「新たな感染 症を踏まえた歯科診療ガイドライン」4)が 2020 年 5 月に日本歯科医師会より出されている。しかし,こ のなかには訪問歯科診療に関する記述はほとんどな い。また施設介護者用のマニュアルとして,「高齢 者施設における新型コロナウイルス感染予防」5)が 東京都福祉保健局から 2020 年 6 月に出されたが, 「食事介助」に関しての記述はあるものの,口腔ケ アの注意点などの記載はない。日本嚥下医学会から は,新型コロナウイルス感染症流行期における嚥下 障害診療指針の一部として,口腔ケアに関する記載 があり,口腔ケアはエアロゾル発生手技であり,適 切な PPE を装着のうえ,感染確定・疑いの患者, 感染蔓延地域での未確認患者には,不急の口腔ケア を避けるよう記載されている6)。しかし,口腔ケア はきわめて日常的なセルフケアの一つであり,専門 的な口腔衛生管理の意義を含め,その是非について は議論の余地が残る。 新型コロナウイルス感染症の到来から約 1 年が経 過したが,その後も感染の状況などの社会的状況も 変化が多いこともあり,訪問歯科診療を行う際の明 確な指針は存在していない。そのため,十分に注意 はしつつも,新型コロナウイルス感染症に関して訪 問歯科診療を行う際の明確な指針がないまま,それ ぞれの歯科医師や施設の判断を尊重する形で訪問歯 科診療が行われているのが実態であり,日本老年歯 科医学会としても早急な指針の策定が望まれてい る。 当講座では,特別養護老人ホームにおける定期的 な訪問歯科診療を 20 年間以上行っており,施設と の長期間の連携関係を構築してきた。そのなかで, 新型コロナウイルス感染症を踏まえた訪問歯科診療 の在り方を,施設と協議しながら継続的に模索し, 訪問歯科診療を行ってきた。そうした経験は,今後 の学会におけるウィズコロナ時代の訪問歯科診療の 指針策定を検討する際の一助になると考えられ,ま た,歯科医師だけでなく,施設や患者の双方がより 良い対応を考える際の一助になりうると考えられ る。そこで本稿では,今回のコロナ禍においてわれ われが行ってきた施設への訪問歯科診療に関する試 行錯誤を報告する。 経 過 ⚑.施設の概要と新型コロナウイルス感染症発生前 の訪問歯科診療 われわれが訪問歯科診療を行っている特別養護老 人ホームは,従来型(4 人部屋での介護を実施,定 員:88 名,ショートステイ 9 名)とユニット型 (全室個室で 10 人を一つのグループとした介護を実 施,定員:50 名,ショートステイ 10 名)の 2 種類 の居室が存在しており,すべての居室が利用者で常 に満室である。2000 年より約 20 年間,訪問歯科診 療を週 1 回継続している。訪問歯科診療チームは, 歯科医師が 2~4 名,臨床研修歯科医が 1~2 名,歯 科衛生士が 1~2 名,歯学部学生 1~2 名で構成され ており,自動車にて施設を訪問している。訪問歯科 診療は,利用者の各居室から 1~3 人程度を看護師, ケアワーカーに医務室に連れてきてもらい,1 日に 10 人程度の歯科診療を行っている。診療内容は, 補綴歯科処置,外科処置,保存処置,口腔衛生管 理,口腔機能管理,摂食嚥下リハビリテーションを 標準予防策に則り行っていた。特に,口腔衛生管理 は,生活期だけでなく,終末期の看取りに合わせた 口腔ケアも実施してきた。また,施設のケアワー カーによる口腔清掃は 1 日 3 回毎食後に,自立度に 合わせた支援(声かけや介助など)を行っており, ケアワーカーの口腔ケア支援も実施していた。個人 用防護具(Personal protective equipment,PPE) は,マスクとグローブ,訪問歯科診療専用のスクラ ブを用いており,必要に応じて,ゴーグルやフェイ スシールドを用いていた。 ⚒.日本における感染発症後の対応:2020 年 1 月 から 日本における経過は,2020 年 1 月 6 日に中国武 漢で原因不明の肺炎について厚生労働省が注意喚起 し,1 月 15 日に初めて国内での感染が認められた。
1 月末には WHO から緊急事態宣言がされたが,ま だ国内にはそれほど危機感はなかった。ダイヤモン ド・プリンセス号が 2 月 3 日に横浜港に移動し,検 疫体制を敷いたが,船内で感染が広がり,各メディ アが大きく報じることとなった。当時,われわれ訪 問チームと施設側では,感染が現状のように大きく 広がるとは予想しておらず,標準予防策以外の特筆 すべき感染対策は行っておらず,診療は通常どおり 継続した。しかしながら,月に一度の施設の全館清 掃が週 1 回の訪問診療日と重なったため,偶然にも 訪問日程の調整が必要となり,結果として隔週の間 引き診療になることもあった。3 月になると,学校 が臨時休校になる,3 密の回避などのニュースがマ スコミでみられるようになり,東京オリンピック・ パラリンピックの延期も発表され,有名なコメディ アンが新型コロナウイルスによる肺炎で逝去し,国 内の危機感は一気に上昇したように感じられた。 ⚓.緊急事態宣言後の対応:2020 年 4 月から 2020 年 4 月 7 日に東京,神奈川,埼玉,千葉, 大阪,兵庫,福岡の 7 都府県に緊急事態宣言が安倍 総理大臣によって発出され,4 月 16 日に対象が全 国に拡大された。未曽有の感染症に危機感が強く なっていく最中,当院では毎日の体温測定が義務化 され,また,体調不良時や感染時のフローチャート が作成されるなど,新型コロナウイルスに対する感 染対策が進められていった。われわれ訪問診療に携 わる歯科医師としては,高齢者を診療するため,特 に体調管理に努めた。当院の外来診療の方針として は,エアロゾル発生手技は緊急事態宣言中ではすべ て延期とし,診療は急患対応のみとなっており,訪 問歯科診療も同様とした。診療内容は,自発痛など の急性症状を訴えるものや,義歯不適合で食事の摂 取が困難であるなど,緊急性の高い診療に限定し, 新義歯製作などの診療は延期したうえで,食形態の 調整などで対応することとした。急患がいない場合 には訪問歯科診療は中止になる予定であったが,実 際には毎週急患が発生したため,結果として訪問歯 科診療は緊急事態宣言中もずっと継続した。代わり に危機管理の観点からも,訪問診療に参加する歯科 医師の人数を制限して 2~3 名とし,1 日の患者数 は最大 5 人前後とした。学生の診療見学,臨床研修 歯科医の診療参加も中止し,医務室における患者間 も距離を取るなど,いわゆる 3 密を避ける対応を行 った。PPE は,マスク,グローブ,ゴーグル,キ ャップ,ガウンとし,義歯調整などの粉塵が発生す る処置は従来どおりポリ袋の中で行うなどの対応を 行った。また,入居者の居室を術者が移動して行う 生活期および終末期の口腔衛生管理については,感 染を拡大しうる懸念があり,かつ PPE も十分に確 保できていない状況であったため,いったん中止と した。なお,この頃,アメリカ疾病予防管理セン ター(CDC)から必須でない歯科処置や外科処置, 緊急性を要しない歯科受診などは延期が推奨されて いた。緊急事態宣言が解除されたのは 5 月 25 日で ある。 ⚔.第 1 波縮小後の対応:2020 年 6 月から 当院では緊急事態宣言解除後に診療を再開し,す べての診療において,キャップ,フェイスシール ド,マスク,グローブ,ガウンによる標準予防策を 行っていたが,PPE が枯渇し始めており,特にガ ウンが入手困難なため,当院の歯科医師が大きなポ リ袋をガウン状に加工し,各科でガウンを自己生産 しながら,緊急対応として一部の診療に用いていた (図 1)。エアロゾル発生手技を行う際には,キャッ プ,フェイスシールド,グローブ,N95 マスク, 自作長袖ガウンを装着したいわゆるフル PPE にて 行った。通常時は自作した半袖ガウンも用いた。訪 問歯科診療においては,可及的にエアロゾル発生手 技を避けながら,入居者の口腔機能を維持する治療 方針を選択し,新義歯製作などの対応も再開した。 診療中のドアについては常時換気のために開放し た。また,居室を移動する口腔衛生管理,内視鏡下 嚥下機能検査や嚥下訓練も十分な注意と感染対策の 下,施設との協議のうえ,段階的に再開した。ま た,PPE については,保健所の指導も受けながら, 2 週間以内の発熱や風邪用症状の有無などのコロナ ウイルス感染のスクリーニングを診察前に適切に行 うことで,N95 マスクからサージカルマスクの使 用に変更した。この後,8 月に第 2 波といわれる状 態に突入するが,施設への訪問歯科診療は変わらず 継続し,1 日当たり 10~15 人前後に診療を行った。 なお,発熱などのある患者の診療は行っていない
が,この間,新型コロナウイルス感染は施設でも歯 科病院でも確認されていない。なお,学生の診療見 学は再開せず,臨床研修歯科医の診療参加は一時的 に再開したが,3 密回避の観点から 9 月には中止し た。この頃になると,大学歯科病院ということもあ り,ガウンなどの PPE が歯科にも入るようになっ てきたことから,自作のガウンは中止となった。 ⚕.第 3 波拡大中の対応:2020 年 11 月から 11 月 18 日に 1 日当たりの新規感染者が東京都で 493 人と過去最多となり,感染状況が最高レベルに 引き上げられた。なお,11 月 21 日に当院の職員で 新型コロナウイルス感染が確認され,いよいよ感染 蔓延が近づいてきたことを強く感じていた。訪問歯 科診療はこれまでと同様の通常診療を継続していた が,より一層の注意喚起を行い,手指消毒のこれま で以上の徹底,また,患者数を可及的に少なくする などの対応を行った。PPE についてはこれまでと 同様の対応としていたが,さらに訪問診療を行った ときに着用していたスクラブを医局に帰室後,即座 に脱衣し洗濯するよう徹底した。 ⚖.濃厚接触の利用者発生時の対応:2020 年 12 月 12 月に入り,訪問歯科診療を予定していた当日 に施設の入居者が濃厚接触者になった旨,施設より 連絡があった。当該入居者は ADL が全介助であ り,居室から出ていなかったが,PCR 検査は当日 夕刻になり,訪問歯科診療の時間帯には結果を知る ことは困難であった。そのため訪問歯科診療につい ては,濃厚接触者の居室と同じフロアに入居する患 者の診療は避け,患者数も制限して急性症状がある 者のみに限定した。PPE はエアロゾル発生手技以 外でもすべてフル PPE で対応し(図 2),靴にもメ ディカルキャップを装着した。このときより,義歯 切削研磨時などの粉塵飛散をより防止するために, より閉鎖性の高いディスポーザブルのプラスチック 袋を使用し診療を行った。また,診療中の医務室は 窓を開けて換気を行うことを継続している。 なお,後日,当該入居者にコロナウイルス感染は 認めなかったことが明らかとなっている。その後 は,第 3 波拡大中の対応を通常対応として訪問歯科 診療を週 1 回継続し,1 日 10~15 人前後の診療を 行っていた。 図⚑ ポリ袋で自作した長袖ガウン 90 L のポリ袋から製作した。エアロゾル発生手技以 外に用いる半袖ガウンも製作した。 図⚒ フル PPE サージカルマスクの下に N95 マスクも装着する。
⚗.緊急事態宣言再発出時の対応:2021 年 1 月から 2020 年 12 月末に 7 都道府県でステージ 4 の指標 を超えて,病床ひっ迫のニュースが多く認められ, 1 日当たりの感染者が東京で 1337 人となり,Go To トラベルも全国一時停止され,ついに 2021 年 1 月 7 日に緊急事態宣言が再発出された。これを受け て,施設と協議のうえ,前回の緊急事態宣言時と同 様に,居室を移動する口腔衛生管理は中止とした が,訪問歯科診療は継続している。エアロゾル発生 手技は可及的に代替法を取る治療方針としている が,緊急性に応じた対応を行い,適切な PPE の選 択など徹底した感染対策の下,患者の口腔健康管理 を継続している。 考 察 ⚑.新型コロナウイルス感染症発生~緊急事態宣言 までの対応 従来の感染予防策は,当時では十分であったかも しれないが,コロナウイルス感染症のように感染力 の非常に強いウイルスの存在を考慮した場合,歯科 治療時に常時ガウンを着用はしておらず,飛沫感染 予防策としては不十分な点もあったように考えられ る。当時の対応と現在の対応とを比較すると,エア ロゾル発生手技の際もフル PPE ではないうえに, 換気がされにくい空間で診療していたため,感染対 策が万全ではなかったと考えられる。コロナウイル スの感染報告は訪問チーム,施設ともになかった が,多くが無症候性であることを考慮すると,クラ スター感染を引き起こす可能性も否定はできない。 また,訪問歯科診療専用のスクラブは診療終了後に 洗濯としていたが,帰院するまでに移動を必ず伴う ため,感染対策としては難しい部分もある。その一 方で,手指消毒と飛沫感染予防の徹底はきわめて有 効であり,実際に当院も含め,歯科医療の場でのク ラスター感染の報告はほとんどないことが,一連の コロナウイルス感染症への対応の難しさを表現して いるように考えられた。 ⚒.緊急事態宣言後~現在までの対応 コロナウイルスの特性が十分には明らかになって いない状況であったため,CDC の勧告にあったよ うに,緊急性を要しない歯科受診などは延期し,診 察する患者数を絞ったことで,感染を引き起こす機 会を減じたことは当時の対応として適切だったと推 察される。ウイルスの特性が明らかになると同時 に,歯科医療側の対応も改善し,義歯調整などの粉 塵が発生する処置もポリ袋の中で行う対応から,費 用は高くなるがより密閉性に優れたディスポーザブ ルバッグの中で調整することとし(図 3),可及的 に感染予防に努めた。 歯科医療において PPE のレベルを上げることは, 緊急事態における医療物資の不足を招く可能性もあ る。緊急性の高い歯科治療を延期することは,間接 的により緊急性の高い医療への物資供給を意味する ため,感染蔓延時には歯科医療においても緊急性の 判断が非常に重要である。ただし高齢者は老年症候 群と呼ばれるように,もともと予備力が低く脆弱で あるため,そうした個別の高齢者の状態や生活環境 などを考慮した緊急性の判断が重要である。セルフ ケアが困難な高齢者で肺炎のリスクが高ければ,エ アロゾル発生手技であろうと歯科医療従事者による 専門的な口腔衛生管理は重要である。また,義歯調 整などの対応においても,環境面から調整が困難で あれば,オンライン診療の技術を用いて食形態調整 で対応するなど,柔軟な考え方が必要である。訪問 図⚓ ディスポーザブルバッグ内での義歯調整 密閉性に優れており,義歯調整の際の粉塵飛散を防 止しやすい。
歯科診療の目的は,口腔清掃や咬合の回復ではな く,誤嚥性肺炎などの感染予防,食形態・栄養の維 持向上,食べる楽しみなど QOL の維持向上であ る。すなわち高齢者の生命や生活にかかわる医療で あることから,そうしたアウトカムに対する影響と 歯科医療側と施設側で実施可能な感染対策を考慮し たうえで,緊急性を判断していくべきである。な お,自作したポリ袋のガウンは,通気性がきわめて 悪く体温を逃がしにくいため,空調が効いた室内で あっても不快感がきわめて強かった。そのため診療 の質が著しく低下し,術者,患者ともに不利益を被 る可能性があることから,非常時以外に使用はでき るだけ避けることを推奨する。 当院は施設との 20 年にわたる訪問歯科診療を 行ってきた関係があり,密接かつ柔軟な関係を築い てきた。そのため,新型コロナウイルス感染が日本 で発見されてからも,施設と当院の間で十分な会話 を保ちつつ,入居者の口腔健康管理を継続して行う ことができたと考えられる。このように,コロナウ イルスの感染が蔓延していることを理由に一律に訪 問歯科診療を中止するのではなく,高齢者の口腔健 康管理や食支援のために最適解を施設側と模索し, 常に代替案を用意しながら,柔軟な対応で訪問歯科 診療を可及的に継続することも重要と考えられた。 また,学生の訪問歯科診療の見学,および歯科臨 床研修医の診療参加を中止したことで,学ぶ機会の 損失が生じたことは教育上大きな問題であった。こ れに関しては,オンライン診療に用いられる技術を 利用し,タブレットなどの携帯端末を用いた訪問歯 科診療のオンライン見学を行うことで代替できる部 分も大きい。同様に,施設でのミールラウンドや, 歯科治療の緊急性の判断にもこうしたオンライン診 療関連技術は有用と考えられる。当院では,2021 年度より教育・診療の場での積極的な応用を検討し ており,準備を進めている。 結 論 某特別養護老人ホームにおいて,新型コロナウイ ルス感染症の状況を考慮し,感染対策をアップデー トしながら訪問歯科診療を継続することで,高齢者 の口腔健康管理を行うことができた。 利 益 相 反 開示すべき利益相反はない。 文 献 ⚑)日本在宅医療連合学会:在宅医療における新型コ ロナウィルス感染症対応 Q&A(改定第 2 版).https: //www.jahcm.org/assets/images/pdf/20200629_covi d19_01_v2.1.pdf.(2021 年 2 月 4 日最終アクセス) ⚒)Brandolin, B.A., Watson, C.A., Resnick, S.J., Allen, K.
L. and Ritter, A. V.:The inconspicuous nature of COVID-19 and its impact to dentistry, Semin. Orthod., 26:176~182, 2020. ⚓)米山武義:誤嚥性肺炎予防における口腔ケアの効 果,日老医誌,38:476~477,2001. ⚔)日本歯科医師会:新たな感染症を踏まえた歯科診 療ガイドライン,https://www.jda.or.jp/dentist/ans hin-mark/pdf/guideline.pdf(2021 年 2 月 4 日最終ア クセス) ⚕)東京都福祉保健局:高齢者施設における新型コロ ナ ウ イ ル ス 感 染 予 防,https: //www. fukushihoken. metro.tokyo.lg.jp/kourei/shisetu/covid19douga.files/ 200729.pdf(2021 年 2 月 4 日最終アクセス) ⚖)日本嚥下医学会:新型コロナウイルス感染症流行 期における嚥下障害診療指針,口腔ケア,https:// www.ssdj.jp/uploads/ck/admin/files/topics/202004/ 004_koukukea20200421.pdf(2021 年 2 月 4 日最終ア クセス)