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説話展開の諸契機 III : ペネロープ型を回転軸にして

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(1)Title. 説話展開の諸契機 III : ペネロープ型を回転軸にして. Author(s). 中塩, 清臣. Citation. 北海道教育大学紀要. 第一部. A, 人文科学編, 18(2): 70-87. Issue Date. 1968-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/3932. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 第18巻 第2号. 3年3月 昭和4. 北海道教育大学紀要(第一部A). 説. 話. 展. 開. 諸. の. 契. 機. m. - ペ ネ ロ ー プ型 を 回 転 軸 に して. 中. 塩. 清. 臣. 北海道教育大学岩見沢分校国文学第一研究室. Kiyo-o i NAKASHIHO : 1 α 1. The mot i ives of s 七or ol ogy. ia l l ‐Espec y the Case of <:Penelope Type/-. 男が女をぬすみだすというモチ ーフは, 大国主・すせりひめの緒言 章抄は じめ系譜を綾なす. 術語 と して<嫁盗み>とも<掠奪婚> Marrige Capture とも, いいなれている民俗通念・生活慣行に 根 ざ して いる.. 」巻十-の) - 長谷の斎槻がした 帥 が隠せる妻茜さし照れ 明 浄 今 期琶鞠 密 か(里 謎 ゆ つき - ますらをのおもひみだれて隠せるその妻あめつちに徹り照るともあらむ まれめやも (… 詣 ) -. むか し男ありけり. 人のむすめをぬすみて, 武蔵野へゐてゆくほどに, ぬすびとなりけれ ば, … 女 を ば 草 む ら の な か に お き て に げに けり. … 女 わ び て,. 武蔵野はけふはな 焼きそわかくきのつまもこもれり われもこもれり. (檀 賜 轍 鞭 蟻 叢霧脈諭響 街の十七.). 妻ま ぎの方式の一種に属するのであるが, 家格の差異なり身分の関係なり, ことに環境 に もとづく 諸条件の規制から, どうも婚姻の 可能があやぶまれるのを見こ して, ふたり で しめ しあわせてする. 逃走婚 -. Marr ige of E1opement の場合もある.. むか し男あり けり. 女のえ得ま じかり けるを, 年を経てよばひわたり けるを, からうじて ぬ. すみいでて, いと暗きに来けり. 芥川といふ河をゐていきければ, 草のうへにおきたりける露 を, 「かれは何ぞ」, となむ男に間ひける. ゆくさき多く夜もふけにければ, 鬼あるところと も知らで, 神さへいといみ じう鳴り, 雨もいたうふりければ, あばらなる蔵に, 女をば奥にお しいれて, をとこ弓やな ぐひを負ひて, 戸 ぐちにをり. …やうやう夜も明けゆくに, 見ればゐ てこ し女もな し. 足ずりを して泣けどもかひな し. 白玉かなにぞと人の 間ひしとき露と答へて消えなま しものを イ, けなま しものを 「新古今集」 巻八の八五一. } (顎雷」 」木琴すすゆき物語」下… 「鱒鰯講. おくとみ し露もありけりはかなくて消え に し人をな ににたとへむ (モ 斑 今集」巻九の) もとより形成の プロセスが, 別途の歌と詞章とだったのが, こういう短篇に複融 してきたところは , 「伊勢物語」 のたもつ バラー ド意識によ っている. したがって物語本位の 「今昔物語」 では, 現に 一 70 一.

(3) . 説 話 展 開 の 諸 契 機 皿 歌 を と もな っ て いな い 道 理 で あ ろ う.. -. 今は昔÷ 右近の中将在原業平といふ人あり けり. いみじき世の好色にて , 世にある 女のかた いるこのみ ちうるは しと聞くをば, 宮仕へびとをも人のむすめをも見のこすなく, かずをつく してみむと 思 ひ ける に, あ る 人 の む す め の, か た ち あり さ ま 世 に し ら ず め で た しと 聞 け ろ を, こ こ ろ をつ. く していみじく懸想 しけれども, 「やん ごとなからむ婿 どりをせむ」, といひておや どものい み じく いっ き け れ ば, 業 平 の 中 将 ち か らな く して あ り ける ほ どに, い か に して か 構 へ け む, か の 女 を ひそ か に ぬ す み い だ して けり. そ れ に に は か に ゐ て, 隠 す べ き と こ ろ の な か り け れ ば, 思 ひわ づ ら ひ て 北 山 科 の ほ とり に,. . 片戸は倒 ふるき山荘のあばれて人も住まぬがありけるに, その家の内に大きなあ校倉ありけり ぜくら れ てな む あり ける. … こ の 倉 の 内 に 畳 一 枚 を 具 して, こ の 女 を 具 し て ゐ て ゆ き て ふ せ た り ける. ほどに, にはかに雷 電露露 してのの しりければ, 中将太刀をぬきて, 女をば しりへのかたに押 へきれき しやりて起きゐて, ひらめか しけるほどに, いかづちも漸く鳴りやみに げれば, 夜もあげぬ. しかるあひだ女こゑもせざり ければ, 中将あや しみて見かへりて みるに, 女のかしらのかぎ りと着たり ける衣どもとばかり 残りたり. 中将あさま しく怖ろ しくて, きる物をもとりあへず, 逃 げていにけり. それより後なむこの倉は, 人とりする倉とは知り ける. されば雷電露露には あらず して, 倉に住みける鬼の しけるにやあり げむ. … (「今昔物語」巻二十七の第七) し 「伊勢物語」 六段の歌は「新撰和歌集」巻四にのせている. や がて 「新古今集」 巻八には 哀傷歌と また て, それから 「宝物集」 四に 「袖中抄」 四でもあつ か ってゆく, 宴曲の 「伊勢物語」 とか謡曲 し 草子類とかに, ま して浄瑠璃 「伊勢物 語」 四段目へ。 律文学のうちでこの歌の メカニ ズムを, 模 て いる 主要 な も のな ら, (「新古今集」 巻十二の--一二). 白玉か露かと間はむ 人もかなもの思ふ袖 をさ して答へむ. (「風雅集」 巻十二の一二一三). 白玉か何ぞとた どる人もあらばなみだの露をいかに答へむ 袖にもる涙のはてよ白玉か何 ぞは露のちぎり だになき. (「新続古今集」 巻十五の一五一四). 白玉か何ぞと間はむうちわたすをちかた野べの秋の夕露. (「続千載集」 巻十六の一七三七). 篠の葉に 氷り し露の白玉か何 ぞとみればあられ散るなり. (「新続古今集」 巻六の六八一). 目玉か何ぞと人の間 ひ しとき露とこたへて消えなま し…. (古謡曲 「鵜羽」 (浄瑠璃「関八州繋馬」 詠歌の前道行). 白玉か間へ ど答へず消えもせず… あれは何ぞと白玉か問ひ し昔の道芝も… 白玉か何ぞと人の間はむには露と答へて消えなま し…. -中節 「小町小将道行」) (-. 白玉か何ぞ と人のとがめなば露と答へて消えなま し…. 変の柵」) ( 巨 菌八節 「桂川豹. とにかく恋愛歌 (秤情) から自然詠 (叙景) へ, とかく位 相が史的に移行 してくる, というわけは 基底に物語内容をう しな ってきたからである. 「白 玉 か 何 ぞ と 人 の 問 ひ し…」 の プ ロ トタ イ プ が, 五 節 の あ した に, か ん ざ しの 玉 の 落 ち た り ける を み て, 誰 がな ら む と と ぶ ら ひ て よ め る.. 主や誰間へ ど白玉いはなくにさらばなべてやあはれと恩はむ イ. 知らなくに (「古今六帖」 五). 巻四一) (占綿 掛 謎 翻論詰 錆 嫌 轡 集」. - 71 -.

(4) . 中. 塩. 清. 臣. 直裁こう いう発想法をうけついで , - かひもな し間へど白玉みだれつつ答へぬ袖の露のかた みは. (「続拾遺集」巻十五の一〇六二). - かざしけむ主は白玉知らねども手にとるから こぁはれとぞ む. (肥 墓 型 巻十ニ). 思ふ. -. もれぬべき袖の渦に知らせ ばや問へど白玉いはぬならひを. (「新後拾遺集」巻十二の九六九) といった 序列へ分 化 してもいる ときにそのポエジーの原形 質は, 鎮魂歌の 「吉備公詞丈」 であろ . つ.. 見人魂歌 魂はみつ主は 誰とも知らねども結びとどめつ下がひの楼 三返詞之, 男は左, 女は右棲 を結びて 三日を経て解之云々 , .. 山吹の花いる ごろも主や誰間へ ど答へずくちな しに して. 「源氏物語」 夕顔の 巻の光源氏と夕顔の君 ふたり贈答 歌の心象へも定着をとげてゆく. , -. き り か け だっ も の に い と 青 や か な る か づ ら の こ こ ち よ げに は ひか か れ る に, 白 き 花 ぞ お , ,. のれ ひとり, 笑の眉ひらけたろ 「をちかた人 に物申す」, とひとり ごちたまふを, 御随身つ . ゑみ いゐて, 「かの白く咲けるをなむ 夕顔と申 しはべる , . 花の名は 人めきて, かうあや しき垣根 になむ, 咲きはべり ける」 と申す ,童のをか しげな ド る, いできてうち招く, 白き扇のいたう こが したろを, 「これにおき て参らせよ 枝もなさけな げめなる花を 」, とてとらせたれば, . 門あげて惟光の 朝臣の, いできたろ してたてまつらす … . 惟光に紙燭召 して, ありつ る扇御覧 ずれ ば, もて馴 したるうつ り香 いと しみ深うなつか し うて, をか しうすさびかきたり. , 心 あ て に そ れ か と ぞ 見 る 白 露 の ひか り そ へ た ろ 花 の 夕 顔 イ, 夕 顔 の 花. そ こ は か とな く か き ま ぎら は した る も あ て は か に ゆ ゑ づ き た れ ば, い と 思 ひ の ほ か に を か , , しう お ぼ え たま ふ …. ・ ・ ・さ して聞えかかれる心の 憎からずす ぐしがたき ぞ 例のこ のかたには 重からぬ御心なめり , , か し. 御 畳 紙 に い た う あ ら ぬ さま に か き か へ た ま ひ て, , より てこ そ そ れか とも 見めた そ がれにほ の ぼの. 見つ る 夕 顔 の 花 イ, 花 の夕 顔. 光源 氏の 独白 「をちかた人に物 申す」 は 「古今集」 巻十九の 旋頭歌で 「題 しらず」 「詠み人 しら , ず」 のうた, -. うちわたすをちかた 人に物 申すわれ かへ し. そのそこに白く咲けるは何の花ぞも. (一00七). .. 春く れば野べにまづ咲く見れどあかぬ花 ま ひな しにただなのるべき花 の名なれや (一 〇 〇 八). これを副意識に して構図をととのえている(「源氏物語」 奥入) ひときわここ のポイントが, 六条 . の廃 院 の く だり へ 照 応 さ せ て あ る した が て 夕 顔 の 巻 の メ ジ イ ー は, す こ ぶ る 塊 麗 だ っ た の で . っ ,. - 72 「.

(5) . 説 話 展 開 の 諸 契 機 m. む しろ 「古今集」 の旋頭歌相聞への認識が, あらためられたほどである。 そこで 「新撰髄脳」 のア カデミ ズムが, この作品形態に関 して繊密に分析 し, するどい綜合批判 をほどこ してくる。 … あま た あ る 中 に, む ね と 去 る べ き こ とは, ふ た と こ ろ に 同 じ こ と の あ る な り. … ま た ふ た. 一. 句に, 末に同字あるは, 世の人みな去るものなり. … うちわたす. をちかた人に. もの申すわれ そのそこに. 白く咲けるは 何の花ぞも. さらに 「悦目抄」 に もふれてきているところだが, ひとまず作品の質料の展開 したものと して, 五月 ばかりものへまかりけるときに, いと白くくちな しの花咲けりけるを, 「これは何の花. -. イ. かれ. ぞ」, と人に問ひはべりけれど, 申さざりければ,. (塩 款 集」巻十六の). ぅちわたすをちかた人を ここと間へば答へぬからに しろき花かな 咲きにけりをちかた人にこと間ひて名を知りそめ し夕顔の花. -. (「続古今集」巻三の二七三). 「新古今集」 のこの詞書には, 表現論理の矛盾をふくむが, とにかく歌との関係の説明にはな って いる. だが 「続古今集」 の 「咲きにけり…」 にいた っては, まるで 「源氏物語」 このかた, くちが ねをはめられた典型にちがいない。 そのわたり近き何が しの院に, おは しま しつきて, あづかり召 しいづるほど, 荒れたろ門の. -. 忍草, しげりて見あげられたろ, たと しへなく 木闇 し. …いといたく荒れて人目もなく, はる ばると見わたされて, 木立いとうとま しうものふりたり.…「けうとくもなりにけるところかな. さ りとも鬼な ども, われをば 見ゆる してむ」, とのたまふ. 顔はなほ隠 したまへれど, 女のいとつら しと思へれば, 「げにかばかりにてへ だてあらむも, ことのさまにたがひたり」 とおぼ して, 夕露に紐とく花は玉ぼこのたよりに見え し縁こそありけれ えに. 「露の ひか り や いか に」, と の たま へ ば, しり め に 見 お こ せ て,. ひかりありと見 し夕顔のうは露はたそがれどきのそらめなりけり と ほ の か に い ふ,. 光源氏が 「…さりとも鬼な ども, われをば見ゆる してむ」, と強がりをい っていたが, 所詮はそこ の鬼→物の怪 (のだま・すだま・こだま) におそわれて, あえなくなる夕顔の君の花のいのちを, け 主題追求 して ゆく 「夕顔の巻」 は, やはり 「伊勢物語」 の芥川の章の 「…鬼ひとくちに食ひてけり …」 を, モ チ ー フ とす る エ ピソ ー ドの 新 趣 向 だ っ た. そ う い う と こ ろ の 実 証 は 可 能 で あ ろ う. 「そ. のわたり近き何が しの院」, とうたわれている文学地理の魔壇を, 六条の鴨川のほとり河原の院に 擬 してくるのが定説だから. まことにそこ河原の院とすると, 「主や誰間へど白玉いはなく に…」 の左大臣源融の旧邸だった. 藤原実資は 「小右記」 寛仁元年九月二十九日に 河 原 の 院にあそび, とおる 「荊練盈満. 水石荒蕪」 とかきとめている. 河原の院か。 かの院は左大臣融公の旧宅なり。 また六条の院とも号す。 六条坊門南, 万里小路東八丁, 融大臣家, 後寛平法皇御所。. (「河海抄」). -. な に が しの 院。. 一. 六 条 河 原 院。. 一. 六 条 院。. -. …ま づ 院 と い ふ 文 字 は, 四 方 築 地な ど して, 隣つ づ き の 家 はな く, 一. (「拾芥抄」). 六 条 北, 京 極 東,. (「二 中歴」). 融大臣家。. 構 な る と こ ろ を い ふ,. ひとかまへ. - 75 -.

(6) . ・中. 塩. 清. 臣. …花山院・河原院な どやうに, 一溝なるところな れば, 臣下の里第に 「院」 といへる も, 常の ことなり. かくて陽成院・朱雀院・冷泉院・享子院な どいふは, みな公家の別業にて, …さや う の と ころ は, も と よ り 一. (「年々随筆」). 区な る ゆ ゑ, 院 と い ふ 名 も あ る な り.. ひとかまへ. 集 822-8 95 嵯峨天皇の第十二の 皇子の源融 ( ) は, 宇多天皇の寛平七年八月 二十五日に亮じ(古 霜. ふ獣鑓奏で響 き胃偽装李), 翌々年の七月ニ 蹴 宇多天皇が譲位され,. つづいて七月十三日には醍. 醐天皇の践作におよぶ. 融がみまか ってのち河原の院を, 宇多天皇へささ げたてまつ った. ところ. で河原の院のうるわしさがめでられるよりも (轡 繋駕 鎌 「世継物語」) , 惨絶の魔界性格をかたり. 」巻四) 帝位をうかが 慶喜塾」 つぐ異伝承ばかりが目だっ G 麟 総 簾」 ・ 「幸新参穆 轡. てかな わ. なか った存念妄執のゆえにとか. ぞんねんもうじゆ. -. 今は昔, あづまのかたより, 栄爵たづねて買はむと思ひて, 京に上りたる者 ありけり. その な が 妻 も, 「か か る つ い で に 京 を も みむ」 , と い ひて 夫 に 具 して 上 り た り け る に, 宿 所 の た ひて. かり ければ, …川原の院の人もなかりけるを, 事のえに しありて, その預りの者にかたらひて 借りければ, 借 してければ, 隠れのかたの放出の間に, 幕などいふものをひきまは して, ある はなちで. じは をり ぬ. 従 者 ど もは, 土な る と こ ろ に ゐ て, 食 物 な ど を も せ さ せ, 馬 ど も を もつ な が せ て, 日 ご ろ. ずさ. じきもの. あり ける ほ ど に, ゆ ふ ぐ れ が た に, そ の ゐ た り ける しり へ の か た に あ り ける 妻 戸 を, に は か に. 内より押 しあけければ, 内に人のありて開くるな めり, と思ふほどに, 何ともおぼえ ぬものの, き と 手 を さ しい で て, こ のや どり た ろ 妻 を と り て, 妻 戸 の う ち に ひ き い れつ れ ば, 夫 お どろ き め. さわぎて, ひきとどめむとすれども, ほどもなく引きいれつ れば, いそぎよりて妻戸をひき開 けむとひげども, ほどなくたてつ れば, あかずなりぬ. さればかたはらなる格子・遣戸などを, とひきかく ひきすれども, みな内よりかけたれば, 開かむやは. 夫あさま しく…こなたへは しりかなたへ走り, 東西南北をひけどもあかねば, か た は らな る 人 の 家 に は しり よ り て, 「た だ いま, しか じか の 事 な む あ る, こ れ 助 けよ」, と い へ ば 人 ども あま た い で き て, め ぐる め ぐる 見 れ ど も, 開 き た る と こ ろ な し.. しかるあひだ夜に入りて暗くな りぬ. されば思ひわづらひて, 斧をもちて切りひらきて, 火 をの をとも して内に入りて求めければ, その妻いかに したろにかありけむ, 癖もなくて…神のあり ける に う ち 懸 け て な む, こ ろ して お き た り ける. 「鬼 の 吸 ひ こ ろ して け る な め り」, と ぞ 人 々. くちぐちにいひあひたりけれども, かひなくてやみにけり。 妻の死にければ, 男も怖れてにげ. 声鐸 翻そ嚢議 詔 獄七姦東の人川原の) て,ほかに行きけにり. ( 一. 今は昔, 川原の院は, 融の左大臣のつくりて, 住みたま ひける家なり. むつ のくにの塩竃の. かたちをつくりて, 潮の水をく みいれて, 池に湛へたりけり。 さま ざま にめでたくをか しきこ と の か ぎり を, つ く り て 住 み たま ひ げ る を, そ の 大 臣 う せ て の ち は, そ の 子 孫 に て あ り け る 人. の宇多の院に, たてまつりたりけるなり. されば 宇多の院, その川原の院に住ませたま ひける ときに, 醍醐の天皇は御子におは しませば, たびたび行幸ありてめでたかりけり. みゆき - 74 -.

(7) . 説 話 展 開 の 諸 契 機 m. さて院の住ませたま ひけるときに, 夜なかばかり に西の台の塗龍をひらきて, 人のそよめき て参るけ しきのありければ, 院見やらせたま ひけるに, 日の装束うるは しく したろ人の, 太刀 はきて筋とりか しこま りて, 二間ばかりのきてありけるを, 院, 「あれは何びとぞ」, と間は しやく せたま ひければ, 「この家のある じにさむらふ翁なり」, と申 しければ院, 「融の大臣か」, と間ひたま ひければ, rさにさむらふ」 , と申すに院, 「それは何ぞ」 , と間はせたまへば, 「家 にさむらへば 住 み さ むらふに, かくおは しませば, かたじけなくところ狭く思ひたまふるな せ. り. いか がつ かま つ る べ き」, と 申 せ ば 院, 「そ れ は い と 異 様 の こ とな り, わ れ は 人 の 家 を や ことやう. は押 しとり てゐたろ. 大臣の子孫の得させた ればこそ住め。 ものの霊なりといへども, 事の理 りやう. ことわり. をも知らず。 いかでかくはいふぞ」, と高やかに仰せたま ひげれば, 霊かき消つやうにうせに. けり・そののちまた珊おることなかりけり E ・ (F鯨 鰯毒薬汁 禦審議声苧鰹 に) 今は昔, 河原の院に宇多の院住ませたま ひけるに, うせさせたま ひれば 住む人もなくて , , 院のうち荒れたりけるを, 紀貫之, 土佐の国より上りてゆきて見けるに, あはれなりければよ み ける.. 君まさで煙たえにし塩竃のうらさびしくも見えわたるかな イ, 君なくて 「和漢朗詠集」 下 「古今六帖」 四. イ, なりまさるかな 「尤の草紙」 下の三十一. この院はむつのく にの塩竃のさまをつくりて, 潮の水を湛へ 汲み入れたりければ, かくよむな る べ し. …. -. 目 雫之集」) 含草無 鯖千頻 鰯梁丁辛謎寝袋養由犠箭髭会平話一 (F. … さ て の ち こ の 院 を 寺 に 成 して けり. さ て 安 法 君 と い ふ 僧 ぞ 住 み ける. … 西 の 台 の 西 面 に,. 昔の松の大きなるあり けり, そのあひだに歌よみども, 安法君の房にきたり て歌 をよみけり. …源の道済, みちなり ゆくすゑのしる しばかりに残るべき松さへいたくおいにけるかな そ の の ち こ の 院, い よ い よ 荒 れま さ り て, そ の 松 の 木 も ひ と と せ, 風 に 倒 れ しか ば 人 々 あ は ,. れになむいひける. その院いまは, ちひさき宅どもにて堂ばかりとなむ, 語り伝へたるとや. いヘ. と って 「拾遺集」 巻八の詞書によるとき,「河原の院の古松をよ みはべりける」 である. 宇多法皇は 寛平法皇とも亭子院ともいい, 崩御は朱雀天皇の 承平元年七月 のことである. 土佐守を解任されて 紀貫之が着京したときが, 承平五年二月十六日にあたる. すると融の死よりか ぞえて四十年を閲 し けみ. ている. 「融の左大臣の霊を宇多院あらは したま ふ語」 のくだりでは, 「またあらは るることなか りけり」, と 「古事談」 巻-それに 「宇治拾遺物語」 巻十二でもともにいうけれども, 史籍に徴し て みる と 変 化 の 件 は, 一 回 き り で 決 し て な か っ た, . へんげ. ー. 亭子の院に御息所たちあまた, 御曹司 してすみたま ふに, 年ごろありて, 河原の院のいとお み ざう し も しろくつくられた りけるに, 京極の御息所ひとところの御曹司をのみ して わたらせたま ひ ,. .. にけり, - 75 -. (秩 素養講 談 堅 段).

(8) . 中. 塩 ・清. 臣. 河原の院へ字多法皇と京極の御息所とが, そろ ってわたられた際に, 融の霊が現じて 御息所の腰を. ま気絶し いだく(歳談撫子「弘). おどろいて楓息斬る , 浄蔵の加持で蘇生する (落書髭 着). 京極の御息所 とは京極の更衣のことで藤原 時平のむすめ, 醍醐 天皇の后がね (候補者) だったのを, きさき. 宇多法皇が 到れ・と たとつたえている (F翻 髭 面) ・ 浄蔵の出生にまつわる奇蹟謹がある. 母は天人が懐中に入ると夢みてみもごったと聞く. 宇多法皇は融の幽冥の抜苦のた めに詞経供養さ. れている (F率高 評 髭 四)・ すでに河原の院はひとり融の亡魂だけでなくて, もう欝然として 霊族 どものすみかと転 じていたようである. ついに河原の院を寺に して, 広幡寺と称するはこびに. もののけ. な って, 祇陀林 寺の 仁康 (唐) は大安寺の 釈迦仏になぞらい, 木仏師康尚 (成) がつくりあげた丈 ぎ だ りんじ. こうじやう. にんこう. 紀略 」 」 六釈迦像をすえ, 華厳経を納めて結縁したとつたえている(F議謬¥ 謹撰受講 )・ 河原の院 が祇陀林寺の 広幡院にうつるとき, この地を トして行基が三宝 不 動 の と こ ろ と たたえたという. (F隊 霧手」巻四), ときる靴 陀林寺の仁康は源融の次男で, 横 川の 慈 恵大 僧 正の 弟 子 で あ る (嬉 魂 醇)。 天明六年版の黄表紙 「前々大平記」 巻十七には, 「融大臣莞去#摂津大融寺の事」 をしるす. 一 ニ宏 三番問云 , 右. に 兼行朝臣. な に が しの ゐ ん と い へ る, い づ れの 所 に な ず ら へ た ろ に や.. 答云, 左. 範藤朝臣. なにがしのゐん, もし六条坊門万里小路の河原院 をいへるにや. 右申, 源氏物語は業平をおもひて かげりとい ,説あり. それにつきてこれを案ずるに, 月やあら ぬとよみける五条わたりにや. 荒れたろ さまもおもひよそへられたり. 左申, 五条わたりのこと, 荒れたるばかりにて, 準じがたかる べし. 夕顔のや どりよりほどちか き こ と, 五 条 わ た り 河 原 の 院 い く ほ どの 事 な し. 「な に が しの 院」 と い へ る に て, 河 原 の 院 と は 聞 え た り。 こ だ ま に と らる る こ と も, お も ひよ らる る こ と は べ り.. 寛平法皇, 京極の御息所を具したてまつりて, くるまの 畳をしきて密通したまひげるに, おくのくるる戸より人の音す. 「誰そ」 と間はせたまふに, 「融にはべり. 御息所たま は らむ」 と申す. 法皇おほせられてのたまふ. 「な んぢ, 存命のむかしは, 臣下としてつか へ き, 生 を へ だっ と い ふ と も, い か で か む か しの 礼 を 失 ふ べ き」, との た ま は す る に, 御. 息所の御腰をいだく. その後なかば絶えいりたまふ. 浄 蔵 法 師 を 召 して, 加 持 せ さ せ た ま ふ と い へ り. 霊 に お か さ る る こ と も, 思 ひ よ そ へ ら れて は べ る もの を や。. 此番, 右はひとおもてのおもむきを沙汰して, さらに勝負を執せず. 左はひろくかんがへふかくあんじて, 勝負を心にかけたり. かれこれ心のすぢかはれり. - 76 -.

(9) . 説 話 展 開 の 諸 契 機 m 思 ひの 道 へ だ た り て, き き ど こ ろ あ り. た だ し左, 霊 物. ま こ と に よ そ ふ る と こ ろ 故 あ り とて, 勝 と さ だ め らる.. (「弘安源氏論議義」). 三年のあいだ頭の中将を待ちつづけて光源氏に逢い, にわかにむな しくな って しま った夕顔の君で ある. 「源氏物語」 は全帖通じてことごとく, こういう男女関係の明暗をえがく短篇小説の花環で ある. 夕 顔の 巻の その サ イ ク ルの と こ ろ, -. 宵 す ぐる ほ どブ す こ し 寝 入 り た ま へ る に, 御 枕. 上 に い と を か しき 女 ゐ て, 「お の が い と め. まくらがみ. で た しと 見た て ま つ る を ば, た づ ね お も ほ さ で, か く こ とな る こ とな き 人 を ゐ て お は して, 時 め か した ま ふ こ そ, い と め ざま しくつ ら け れ」, と て 御 か た は らの 人 を, か き お こ さ む と 見た ま ふ. もの に お そ は る るノもち して, お どろ き た ま へ れ ば, 火 も 消 え に け り。 う た て お ば さる れ ば, 太 刀 を 引 き ぬ き て, う ち お き た ま ひて, 右 近 を 起 した ま ふ, こ れ も お そろ しと 思 ひた る さま に て, 参 り 寄 れ り. … 手 を た た き た ま へ ば, や ま び この こ た ふ る こ ゑ, い と う とま し。 人 は え 聞 きつ け で 参 ら ぬ に, こ の 女 君 い み じ う わ な な き 惑 ひて, い か さ ま に せ む と 思 へ り. 汗 も し と ど に な り て, わ れ か の け しき な り. …. 紙燭もて参れり. 右近も動く べきさま にもあらねば, 近き御凡帳をひきよせて, 「なほもて み きちやう 参 れ」, との たま ふ. ・・め し 寄 せ て 見 た ま へ ば, た だ こ の 枕 上 に, 夢 に 見 えつ る か た ち した ろ 女, お もか げに 見えて, ふ と 消 え うせ ぬ. 昔 物 語 な ど に こ そ か か る こ と は 聞 け, と い と め づ ら か に む くつ け け れ ば, ま づ この 人 いか に な り ぬる ぞ, と 思 ほ す 心 さ わ ぎに, 身 の 上 も 知 ら れ た ま は ず, 添 ひ 臥 して, 「や 〉」 とおどろか したまへど, たた冷えに冷え入りて, 息は疾くたえ 果て に けり. い は む か た な し. …. 「昔物語な どにこそかかることは聞け…」 とうた ってゆくが, これは河原の院を背景にしているた めか, そうではなくて普通に一般命題とみるか. もしかすると京極の御息所との 観念聯合からかど うか. してみると六条の御息所の 生霊という, 千年にわたる読書史上の解釈法は, や はり適当のも の で はな い.. 一. 十番 左. 中納言娘君. 右. 夕顔上. 右…. 勝. 八月 十 五 夜の こ と な る べ し, と な り の 家 に か ら う すな ど い へ る もの の 声, み た けさ う じの 音 して, … 御 身 い と か し がま し, 「こ こ は もの む づ か しき」 , と て ひ と つ 車 にて, な に が しの 院 へ い ざな ひ た ま ふに, わ がま だ知 ら ぬな ど の た ま ひ し御 返 事 に,. 山の端の心も知 らでゆく月 はうはの空にてかげや消えなむ イ. た えな む. 源氏物語夕顔の巻. この と こ ろ は 荒 れ は て て, げ に 松 桂 に ふ く ろ な き, ら ん ぎく に 狐 す む さ ま な り. 夜 ふ け はて て, こ だま と か い ふ もの の 来 り て, 女 君 を と り た て ま つ る. 源 氏 は あ き れ ま ど ひて, … い と せ ん か た もな さ.. - 77 -.

(10) . 中. 塩. 清. 臣. ひける ここはむかし宇多の みかど, 御息所などひきゐたま ひて, あそびたま ひけるにも , さるもののありけるなど, 後にぞ悔ひ悲 しみたまふ. …(「伊勢源氏十二番女合」) 八月 十五夜典夕顔上交接事 不行陰陽 八月十五夜・九月十 三夜, 婁宿也. 仙術法云, 朔望晦夜等, 不行陰陽云々 . 唐書云, 王安 好色, 八月十五夜典女会合云々. 此例歎. あはれはいづれも切なれど, とり おくれさきだっ夕畑, 雲とやなり雨とや涙の しぐれけん, あはれはいづ あへざり し夕顔の, 寝くたれ髪のそのままに, みじかき契りのはて しなく, 散りに し花の玉か し昔の も, 憂かり し昔のかたみとや みたてん情までも つ ら, かけてもさやは頼みしに, は ぐくみたてん情まで . (宴 曲 「無 ( 宴曲「 無常」) 「うは に ざ 生魁魅 (いきすだま) 転じて死霊であ っても, 占有権の 侵害に根ざす 六条河原の院の家霊→生魁魅 いきりよう. な り ね た み」 (嫉妬→怨霊 扶 → 怨 霊) の形象化にはちがいない, ライバ ルと血をもってあがなう決闘のすが そねみ. たたり. たをとる. 御霊の思惟以後の秩序に属する. だから立田山型の女のうわなりねたみとは, 蔽然とエ 、、 、、、 、、 ポ ッ ク を 画 して い る わ け で あ る. こ れ か ら 武 断 社 会の プ ラ グ マ チ ズム へ う けつ が れ, 集 団 行 動 化 し. てうはなりうち」 (後妻打→騒動打) へ尖鋭化してゆく. うわなりうちを芸能化 した系譜をた ぐる 、、、、、、 とき, 能楽 「葵の 上」 が六条の御息所の生霊とみとめて舞台にのせてから, 人形浄瑠璃芝居へうつ した バ ァリエイショ ンの古典は, 延宝元年井上播磨緑所演の 「花 山 院 后 評」 である. 上方版が かさんのいんきさきあらそい 五段で江戸版は六段の 編成, それだけ江戸版の劇内容がこんでいる. 同 じ作品を宇治加賀塚がとり あげ改題 して 「弘徽殿嫉妬打」 と調う. これの修訂脚本が近松門左衛門の 「弘徽殿鵜羽産家」 で, うわなりうち うのはのうぶや は じめて正徳二年七月の竹本座にかかる. 土佐少稼の「源氏花島大全」とか紀海音の 「花山院都. 巽」. みやこのたつみ. とか, どの みちこの同心円上にある. 歌舞伎で延宝五年に京都都万太夫座の 「藤壷の怨霊」 もそれ. みやこ つ ぎに元禄十二年七月の芝居で,中村座の 「一心五 界玉」 の角書は 「甲賀三郎鬼神退治」 だが,と っ ている趣向の鋤 打が, 結局のところ歌舞伎十八番物の 「鋤」 の基軸にあたる, といっても定本と うわなりうち. しての 「織」 があるわ けではない. それで天保八年三月 市村座上演の 「裏表桜彩幕」 二番目大切が 常磐津浄瑠璃の 「花雲鐘入月」, その番付には 「歌舞伎十八番のうちその 古事を今ここに 犠打や. 角 びた ひ」 と よ ぶ が, 実 際 に は 清 玄 物 双. 蝿牛の. 面 物 の ス トリ オ ロ ジー を な ぞ っ て い る. 昭 和 十. ふたおもて. 一年四月の歌舞伎座での 「燐」 は, 山崎紫紅がつづる大薩摩の所作事, とくに 配役には照日の 座子 実は葉束の 前の 霊がでる. 長唄のは 1 燥. 染 分 紅葉」(明和六年七月 市村座封切)とか,」松吹風波. うわなり そめわけ もみじ. 鋤」 (享和二年十 一月 市村座初演) とかである. あれこれつきつめると 「源 氏物語」 の葵の巻へ, みなさかの ぼることができる. 明治四十年十月の歌舞伎座はぢかに原典から, 脚色した榎本虎彦の 「葵の 上」 二幕を上演した. 葵の上は四世沢村源之助で六条御息所が五世中村歌右衛門, これに光 源氏は十五世市村羽左衛門の配役だった. 昭和五年にな って三月の歌舞伎座初演で, 岡 鬼 太 郎 の 「源氏物語・葵の上」 がある. 六世尾上梅幸の六条御息所に七世沢村宗十郎の 葵の 上といったキ ャ ステングである. 「花柳巷談・葵の 上」 は 瀬戸英一が, 新派の世界におきかえたもの. 三島由紀夫 の 「近代能楽集」 のく葵の上〉は, 昭和三十年七月の文学座で初演をみる. 謡曲の 「葵の上」 につ きすぎるくらいついて いるの が, 河東節の 「葵の 上」 であろう. 安政五年の封切で作詞は梅の居日 - 78 -.

(11) . 説 話 展 開 の 諸 契 機 m. 観に作曲が山彦河良という. 一中節の 「葵の上」 なら初世宇治紫文斎の作曲. かなり謡 曲より 離れ て 箸 曲 化 を と げ, 山 田 流 ・ 生 田 流 ふ た つ と も につ た え て い る. べ つ に 生 田 流 では 「梓」 が あ る 近 .. 代長唄の 「葵の上」 になると, 研精会派と鶴命会派とではすっ かりちがっている‘ 能楽 「葵の上」 の詞章から, ワキッレ 「… さ て も 左 大 臣の 御 息 女 葵 の 上の 御 物の 怪 , も っ て の ほ か に 御 座 候 ほ どに, 貴 ,. 僧高僧を請じ申され, 大法秘法医療さま ざまの御事にて候へども, さらにその 験な し. ここに しるし. 照日の神子とて隠れなき梓の上手の候を召して, 生霊死霊のあひだを, 梓にかけさせ申せとの みこ 御事にて候ほどに, この由申しつ けばやと存じ候。 いかに誰かある, 照日の神子を召して来り 候へ. やがて梓に御かけ候へ. ツレ講 「天清浄地清浄, 内外清浄六根清浄. 寄人はいま ぞよりくる長嶺の 芦毛の駒に手綱ゆ , より〆と で. り か け. シテー声謡 「三つ の 車 に 法 の 道, 火 宅の 門 を や い で ぬ ら ん. 夕 顔の 宿 の 破 れ 車 , やる のり. かたなきこそ悲しけれ. 次第地謡 「浮世は牛の小車の, 浮世は牛の ・車の, 廻る や む く い な る めぐ. らん。 サシ 「おほよそ輪廻は車の輪の ごとく, 六趣四生をいでやらず, 人間不定芭蕉泡沫の世 りんね ぢやう. の な ら ひ, きの ふ の 花 は け ふ の 夢 と, お どろ か ぬ こ そ 愚 か な れ, 身 の 憂 き に 人 の 恨 み の な ほ 添 ひて, 忘 れ も や ら ぬ わ が 思 ひ, せ め て や し ば し慰 む と, 梓 の 弓 に 怨 霊 の, こ れ ま で 現は れ い で た る な り.. 下歌 「あら, はづかしやいまとても, 忍び車のわ が姿, 上歌 「月をばながめあかすとも, …月 には見えじかげろふの, 梓の弓のうら碑に, たち寄り憂きを語らん. …梓の弓の音はいづく はず 大系本) (鰯 穣 警. ぞ‐ ・. 地 唄 舞 の 「梓」 は こ こ の モ チ ー フ を う けつ ぎ, 三 下り で 箸 を と も な っ て い る. 梓 は 弓 や 秤 をつ く る まこ i. 資材だが, 植物分類のどの木を名ざすかあきらかではない。 きささげ・あかめがしわ・おのおれ・ よ ぐそみね ばり (みずめ) ・ひさぎもひひらぎともい っている. 枕詞として 「梓弓」 「梓の真弓」 は 「引く」 「射る」 「張る」 「寄る」 「反る」 「よらに」 「本」 「末」 「弦」 「矢」 「音」 とかに 法のはじめは霊媒質の降神術の究具だった. 「梓の真弓」 といえば弓のうちで最高 かかる. その用 法のはじめは霊媒質の降神術の巽具だ かみおろし ものざね よりまし 級 の も の,. 日本歌学全書本 要害鉾 本) とうたう・ 「春立てば梓の真弓ひきつれて…」(早業. 寄神はいま ぞ寄せくる長嶺に芦毛の駒に手綱ゆりかけ. (F雛髪繋鞭墨を神託の歌). 験者 寄りま しなどすゑて祈るに…. (「古今著聞集」). 今, 死口に寄人が語りたいぞや間はれたやなう…. (E卯月 の潤色」). すず しめの鈴を鳴らして, 梓の座女来れり。. いるあげ. (好色一代女). 仙 台 に て, 武 士 の 妻 を, の の さま と い ひ, 松 前 に て は, な な さま と い ふ. 南 部 に て, 侍 の 娘 もののふ. を お ごれ ん さま と い へ り, ま た 仙 台 の 侍 の 家 来 奴 のな ど の 女 房 を, か み ん と い ひ, 座 頭 の 坊 の やっこ. 女 房は, 眼 見 え ざる 女 に て, お よ そ 梓 班 子 な り. か か る わ ざ の 女 も, か み ん と い ふ. ま た わ か とも, く ち よ せ と も い へ り。 南 部 に て, こ の 女 房 を も は ら, い た こ と い へ り. 西 宮 の え び す に つ か うま つ る 神 司 のな か れ に て 国 々 に あり く を, いた か と い ふ に 似 た り. か か る も の の 女 房 の. - 79 -.

(12) . 中. 塩. 清. 臣. 祈り などするを, ゑびすかきといふことは, ゑびす博士ならんか. いと青き蓮の実の念珠 もて, そ がく れ に は, 猪 の し し の 牙 ・ 狼 の 牙 ・ か も し し の角 な ど, 糸 に つ な ぎつ け て, 「春 は 花 さ き 秋 は みな り …」 と うた ひ, 人 の 門 に た ち て, ま た も の の けつ く な ど も せ り ける.. J斎蟻集) (幸 擬 議了. 江戸浅草寺所管の神 事舞大夫の田村八太夫は, 田原町一丁目に居住して関東 ばかりか, 諸国の梓墾 女を支配する. 八大夫の家は 成島道筑流の神 道を称する (「甲子夜話」巻七七). 高崎あたりで神事 合太夫ともよぶが, くずれた渡世からの名づけかたであろ う. 太神楽 とい って獅子頭をい 舞大夫を会 ただき舞いあるく. この妻が梓盛子であ って, 方言で<あがた >とい っている. 無論< あがたみ みこ こ>の意味である(「好色一代男」). 職法書は田村八太夫よりうけて, 三社権現をいっきまつる. 観音祭とい て馬頭観音をあがめる(奉書 醗 梓), 生霊死霊から怨霊悪霊までつかさどる霊媒質 (なかがたり→な かだち→なかのり) が 「口寄せ墾女」 である. おもに関東で 「梓神子」 といって いるが, 東北各 県はいた こ・いちこ・おかみんである. 長野原南北安曇郡から新潟駅西頭城郡にか . 群馬 豚赤 けて, 竃被ひをあがたみこ・もり・もりこ・もりこさ ん, それに万日 ・万日祝人という 、と ほし 城山麓から福 島豚の海岸部にかけてあ がたみことよびなれ, 口寄の しわ ざを動詞化して< あがた よ せる〉といってきた. 島根豚にゆく とお しえ (御師→教へ) だし, 九州諸 懸ならいちじよ う・みこ じよう と称する が, 一上薦,桃女上薦の下略であろ う. 湯だて (湯だち) や笹叩き (ゆたぶさ) の ばこ, 口寄せ (神子寄せ) を 光術軌跡は大同 小 異である. 新潟 懸のあがたみこのもつ 雀がさんまり はこ o ・ . ・ o . ,.・.. . 木山奇暢窓の福 おこなう際には崖 から生葉なり枯葉なり だす. 実質概念は依代・ 招代・形代にある ろ かたしろ よりしろ おぎし. 井懸郷 土叢書本 「拾. 椎雑話」 巻四による と, 福井懸遠敷郡 の舞々の旧部落は, かつて諸公事御赦 くじ. しゆうつい ざつわ. 免でも って, 陰陽師・謡被 い・梓神子を業としたおもむきをとどめる. 長野懸上伊那郡美和村とか 山 口 豚 豊 浦郡 で は, 降 神 術 ・ 招 魂 法 を も よ ほ す と き に, 霊 が と り つ く 神 人 (gad‐man, man‐god) かみおろし. じにん. たまむかい. を< よ り(より う ど)> と よ ぶ. そ れ を 豊 浦郡 で く より に た つ >, 上 伊 那 郡 で < よ り に す る 〉 と い い な ら わ す. く よ り に た つ > と か く より た つ > と か い っ て 熊 本 懸 北 部 で もつ か っ て い る. < よ り に た つ 〉に ち かい こ と ば に < よ り が ら を た て る > が あ る, こ の が らは 人 柄 ・ 国 柄 の が らで, 身 分・能 力・. をつかう女行者 機能・性質・ 状 態とかをしめす. <より がら>は大分懸大野郡三重の周 辺で,い犬神 がみ ぬ. 座, つまり神がか (いぬがみづかい・つる めそ) のたぐいである. <よりこ>は千葉豚印熔郡で中 なかざ りの少年なり婦人なりのことである, 化 高知豚安芸郡西分村で女祈祷師・加持つ けを, <よりまわ し〉とい っている が<よりま し>の音言 事象. 七人みさきのま じもの (蓋物) にとりつかれるとき処理 してくれる. 祈祷があがると幣に霊 をうつ して供物 ともども, 藁舟にのせて海へ放つ。 東北地区のいたこはく おしらさま >をあそばせ て口寄せ (生口 o 死口) をはかる. 修行をつんでからくかみつけ> (神付) ←<かみつ き>(神悪) と た つ と ぶ。 青 森 豚 あ た り 日 ど り を き め て い た こ が あ つ ま り, 依 頼 に した が っ て 口 寄 を い と な む,. ことに津軽の久遠寺にいたこがつどい, 南部の恐山円通寺の 地蔵盆にもつれだっ. 岩手豚下閉伊郡 ずすま 重茂村の祭礼に 「いだこ舞」 と称して笹を採物に して舞う. その旋回のようすから鞘麹目み う しよ し. - 80 -.

(13) . 説 話 展 開 の 諸 契 機 配 し 科 の 小 昆 虫 類の, 渦 虫 ・ 舞 々 虫 ・ 水. 澄 か ら あ め ん ぼま で, い だ こ ・ い だ こ ま よ と よ ん で い る.. みずすまし. .・・.. ・・‐. .・ 0. ・. ま よ は 舞 の よ こな ま り で あ る. < い た > と 沖 縄 の く ゆ た > と か 奄 美 群 島 喜 界 島 の < よ た > と か, ま. るで概念規制はひとつことである. 語原はくいっ>で忌み浄める事 態をさす. 四段活用からの名詞 化であろう. <ゆた 〉となる直前の錯乱 状況を 「ゆたふれ」 「ゆためく」 ともよぶ. 「古今集」 の 「…大船のゆたのたゆたにもの思 .…」(五〇八)はこれ.「万葉集」では「ゆた にたゆたに」である. -. わたのはら八十島遠くゆく舟のゆたのたゆたに都恋ひしも. -. わ た の は ら 霞 も い く へ たつ 波 の ゆ た の た ゆ た に 浦 か ぜ ぞ 吹 く. (「続後拾遺集」巻九の五七四) (「新千載集」 巻一の一四). こういう発想法は八十島被いに根底をもつ. 「いっ」 の再活用形が 「いっく」 (四段活) である. や そ しまばら やがてシクラ 舌形容詞化して, 「いつか し」 「いっく し」 などへ. すると 「ゆだぬ」 (下二段活) さ え, 語原は 「ゆた」 であろう. シテ謡 「沙 姿 電 光 の さ か ひに は, 恨 む べ き 人 も な く , 悲 しむ べ き 身 も あ ら ざる に, い っ さ て. -. 浮か れ そ めつ ら ん. た だ いま 梓 の 弓 の 音 に, ひか れて 現 は れ い で た ろ を ば, い か な る も の か と. おぼしめす. これは六条の御息所の怨霊なり. われ世にありしいに しへは, 雲上の花の宴 春 , のあしたの御遊に馴れ, 仙洞の紅葉の秋の夜は, 月に戯れ色香に染 み, はなやかなり し身なれ ぎよいう. そ. ども, 衰 へ ぬ れ ば あ き がほ の, 日 か げ待 つ 間 の あ り さ ま な り. た だ いっ とな き わ が こ こ ろ も , の 憂 き 野 べ の 早 蕨 の, も え い で そ め し思 ひの 露, か か る 恨 み を は ら さ ん とて こ れま で 現 は れ , い で た る な り。 …. シテ詞 「あら恨め しや, 詞 「いまは打たでは叶ひ候ま じ, ツレ謡 「あらあさま しや六条の 御 , 息所ほどの御身にて, うはなり打ちの御 )る ま ひ, い か で さ る こ と の 候 べ き, た だ 思 召 しと ど ま り たま へ. シテ詞 「い や い か に い ふ と も, いま は う た で は 叶 ふま じと 枕 に 立 ち 寄り , , ちや う と 打て ば, ツレ謡 「こ の 上 は とて 立 ち 寄り て,. わ ら は は あ と に て 苦 を 見 す る, シテ謡 「いま. の 恨 みは 有 り しむ く い, ツレ謡 「虞 憲 に ほ む ら は, シテ謡 「身 を こ が ず. ツレ謡 「思 ひ知 ら ず や , しんい. シテ謡 「思 ひ知 れ. 地謡 「恨 め しの こ ころ や ,. あ ら 恨 め しの こ こ ろ や. 人 の 恨 み の 深 く して ,. 憂き夏に泣かせたま )と も’ 生 き て こ の 世 に ま しま さ ば, 水 暗 き, 沢 辺 の 蜜 の か げ よ り も ひ , かる君 とぞ契らん. シテ謡 「わらはは蓬生の, 地謡 「もとあらざり し身となりて 葉ずゑの露 , と消えもせば, それさへことに恨めしや, 夢にだにかへらぬものをわが契り ・ , 昔語り にな りぬ れば, なほも思ひは増鏡, そのおもかげも恥か しや. 枕に立てる 破れ車, うち乗せかくれ行か う よ, …. (校註日本文学大系本謡曲 「葵上」). -. しの の め に お きつ つ ぞ 見む 朝 顔 は 日 か げま つ 間 の ほ ど しな け れ ば. -. 嘆か じな 思 へ ば 人 に つ ら か り しこ の 世 な が ら の む く い な り けり. -. 蓬 生の 葉 末 の 露 の 消 え か へ り な ほ こ の 世 に と待 た む も の か は. 愛欲無限の阿修羅図にちがいない. 憎. 悪から怨. にくしみ. 恨をへて呪. うらみつらみ. (「堀川院太郎百首」). 「新古今集」巻十五の一四00) ( (「秋篠月 清集」). 唄に, 転じてとどのつまりは自己. のろいたたり. 唱吐へ. 四分五裂にひきさかれゆく相刺憂悶の姿致 の ほ か のもの ではない。 それを写す 「源 氏物 語」 葵の巻からの抄, --. 大 殿 に は, 御 も の の け い た く おこ り て, い み じ う わ づ ら ひ た ま ふ。 こ の 御 生 霊, 故 父 大 臣 の おほいどの. いきすだま. - 81 -. おとど.

(14) . 中. 塩. 清. 臣. 御 霊 な ど い ,も の あ り と 聞 き たま ふ に つ けて, お ぼ しい づ れ ば, 身 ひ とつ の 憂 き な げき よ り ほ ごらう. か に, 人 を あ しか れな ど と 思 ふ こ こ ろ も な け れ ど, も の 思 ふ に あ く が る な る た ま し ひは, さ も. やあらむとおぼし知らるることもあり. と し ご ろ よ ろ づ に, 思 ひ の こ す こ と な く す ぐ しつ れ ど, か う しも 砕 け ぬ を, は か な き こ と の. をりに, 人の思ひ消ち, なきものにもてなすさまなり し御護の後, ひとふしにおぼしうかれに しこ こ ろ, しづ ま り 難 う お ぼ さ る る け に や, す こ しま どろ みたま ふ 夢 に は, か の 姫 君 と お ぼ し さ 人 の, い と 清 ら に て あ る と こ ろ に 往 き て, と か く 引 き ま さ ぐり, うつ つ に も 似 ず, た け く い か き ひ た ぶる 心 い で き て, う ち か な ぐる な ど 見 え たま ふ こ と, た び か さ な り に けり. … ま だ さ る べ き ほ ど に も あ ら ず, みな 人 も た ゆ み た ま へ る に, に は か に 御 気 色 あ り て, な や み け しき. みたま へ ば, い と ど しき 御 祈 り の 数 を, つ く して せ さ せ た ま へ れ ど, 例 の 執 念 き 御 物 怪 ひ とつ しうね. もののけ. さらにうごかず. やむ ごとなき験者ども, めづらかなりともてなやむ. さすがにいみじう調ぜ げんざ ら れて, もぐる しげに泣きわびて, 「すこしゆるべたまへや. 大将に聞ゆべきことあり」 との たま ふ. … 加 持 の 憎 ど も こ ゑ しづ め て, 法 華 経 を 読 み た る, い み じ う 尊 し. … 「い で, あ ら ず や. 身 の 上 の い と 苦 しき を. し ば し休 め た ま へ, と 問 え む と て な ん. か く 参 り. 来むともさらに思はぬを. もの思ふ人のたま しひは, げにあくがるるものになむありけり」, とな つ か しげ に い ひて, 歎 き わ び 空 に み だ ろ る わ が 魂 を む す び と ど め よ した が ひ のっ ま と 官 ふ こ ゑ けは ひ, そ の 人 に も あ ら ず, か は り た ま へ り. 「い と あ や し」 と 思 しめ ぐら す に,. ただかの御息所なりけり. 物語進行をたどるとき 「露. 標」 の巻にいた って, この六条の御息所のいのちの さだめは, 光源氏. みをつくし. の愛にみまもられながら, おもい安らかにみまか ってゆく. だがさすがに 「藤の裏葉」 「若菜」下 「柏木」 「鈴虫」 の巻々にまでも, つきまつわりつ いて離れず, 死霊と化 してから魔道より悪作用 をくりかえす. 一. 物 思 ふ 人 の 魂 は う か れい づ る な ら ひな る も の を, 下 が ひ のっ ま 結 ば る べ き よ す が も な け れ ば, (「年 々 随筆」). な ど 思 ひ な る.. こつ れて, 逃走婚の椅調抄がふえることは, すでに父権の主導確立を意味する. 後期王朝におよぶを と同時に婚姻について若者組の制度のちからのありかた をしめす. どのような条件のもとであ って も, 恋愛の純粋性に徹 してゆくためには, 何かにより恋愛の絶対・至上・ 自由をつらぬこうとする. 窮極のところ 生死を賭 してまでもとめてゆく. 恋愛は拒否精神をともなうほど狂う. しだいにとり アソタゴニズム. と. わけ町人文学が展開 軸をひろげて, 西鶴の 「好色五人女」 とか巣林子の心中物が, 振幅はげしくこ ういう社会軌跡をえがきだす. 「伊勢物語」 は全章あげて 恋愛入門書である. 評価は時を追ってそ ういう聖典化をいざなう。 い ってみると形式は歌物語で, 内容が諺物語の範例にととのえてある. だが 「源氏物語」 へ拡大されていちじる しく, こうい った概念指導をのりこえてくる. こまかい陰 珊 がにおいやかに, それにふかぶかと情感をたたえながら, のびやかな芸術巨像をかたちづく って き た. そ の な か で も 「無 名 草 子」 で, 「ひ と す ぢ に あ は れ に, こ こ ろ 苦 しき 巻 に て は べ る め り」,. - 82 -.

(15) . 説 話 展 開 の 諸 契 機 m. と調いあげている夕顔の巻の主旋律は, 能楽の 「夕顔」 を触 媒基に して種々 に, はるかのちには昭 和の現代へ, 中河奥一の 「天の夕顔」 ま でうけつがれている. -. ワキ詞 「いか に こ れな る 女 性 に, た づ ね 申 す べ き こ と の 候, シテ詞 「こ な た の こ と に て 候 か , な に ご とに て候 ぞ. ワキ詞 「さ て こ こ を ば い づ く と 申 し候 ぞ, シテ詞 「こ れ こ そ な に が しの 院 に て 候 へ. ワキ詞 「不 思 議や な, な に が しの 山 な に が しの 寺 は , 名 の 上 の た だか り そ め の 言 の 葉 や ら ん, ま た そ れ を そ の 名 に 定 め しや ら ん, う け たま は り た く こ そ 候 へ, シテ詞 「さ れ ば こ そ. は じめより, むつか しげなる旅人と見えたれ. 紫式部が筆の跡に, ただなにがしの院とかきて, その名をきだかにあらはき ず, しかれどもここは, ふりに し融の大臣, 住みたま ひにしところ なるを, その世をへだてて光君, 謡 「また夕顔の露の世に, 上なき思ひを見たま ひし 名も恐 , ろ しき鬼のかたち, それもさながら苔むせる, 河原の院と御覧ぜよ. … シテクリ謡 「そもそも光源氏の物語, 言葉幽艶をもととして 理浅 き に 似 た り といへども , , 地謡 「こ こ ろ 菩 提 心 を す す め て, 義 こ と に 深 し. 誰 か は 仮 り に も 語 り つ た へ ん シテサシ謡 「な ,. かにもこの夕顔の巻は, ことにすぐれてあはれなる. 地謡 「情の道も浅からず, 契りたま ひ , し六 条 の 御 息 所 に か よ ひた ま ふ, よ す が に よ り し中 宿 に, シテ謡 「た だ 休 ら ひ の 玉 鉾 の, ,. 地謡 「たより に立て し御車なり. クセ謡 「物のあやめも見ぬあたりの 小家がちなる軒のっま , に, 咲きかかりたる花の名も, えならず見えし夕顔の, をりすごさじとあだ人の, こころの色 は白露の, 情おきける言の葉の, すゑをあはれとたづね見し, 閣の扇のいろ異に, たがひに秋 こと. の 契 り とは, な さ ざり し しの の め の, 道 の ま よ ひの 言 の 葉 も, こ の 世は か く ば か り, は か な か. り ける峰蝦の, いのちかけたるほどもなく, 秋の日やすくくれはてて, 宵の間すぐるふるさと ひをむし の, 松 の ひ び き も 恐ろ しく, シテ謡 「風 に ま た た く と も し び の, 地謡 「消 ゆ る と お も ふ こ こ ち して, あ た り を 見 れ ば む ば だ ま の, 闇 の う つ つ の 人 も な く, い か に せ ん と か 思 ひ川 う た か た ,. 人は息消えて, …散りはてし夕顔の, 花はふたたび咲かめやと, 夢にきたりて申すとて, あり つる女も, かき消すやうにうせにけり. … (中入) …さなきだに, 女は五障の罪ふかきに, 聞くもけうときものの けの, 人うしなひしありさま を, 現 は す い ま の 夢 び と の, 跡 よ く と む ら ひ た ま へ とよ. ワキ謡 「不 思 議 や, さ て は 宵 の 間 の ,. 山の端いで し月かげの, ほの見えそめし夕顔の, 末葉の露の消えやすき, 本のしづくの世語り. (繋 酢 弼 チ系). を, かけて 離 したまへるか 一・. 籾障種彦の合巻本 「値 紫 田 舎 源氏」 (星 鞭 著)を脚色した’ 通し狂言が 「源氏模様娘 雛 形」 にせむらささいなかげんじ ふりそでひながた (嘉永四年九月市村座上演) である. 四幕目に舞踊曲 「名 夕 顔 雨 の旧寺」 がでて, 初演のときは な ゆふがまあ に. 0. め のふるでら. 富本の節づけだったが, 元治元年に中村座で清元に替えて, 「面白妙の旧寺」 とうた って俗に 「古 寺」 とか 「田舎源氏」 で通っている. 足利光氏と烏 瓜咲く 宿のむすめ黄昏とが, にわか雨にあっ め ・らすうり て野中の ふる寺にやすむひと夜の怪異, 黄 昏の母の東雲が鬼女に身をやつ して, 作品全曲は本調子 しののめ. な の に, こ こ 光 氏 に せ ま る と こ ろ だ け 二 上 り の モ チ ー フ か ら, 明 治 こ の か た 別 標 題 を 「田 舎 源 氏. 露 東 雲」 ともよびなれている. 「修紫田舎源氏」 の感化から天保ごろに, 「源氏物語」 夕顔の巻. つゆのしののめ. を筆曲化させて, その名も 「夕顔」 の菊岡検校の作曲がはやる. 拳は平調子で三味線が二上り, き - 83 -.

(16) . 中. 塩. 清. 臣. わめて 質感は さわやかといっていい. 八重崎検校の手事は艶めき, 唄のおもむきは優雅なものであ てどと. る. 「億紫田舎源氏」 は未完結の部分を残して政治意図か ら絶版, それで門流たちの共同制作に進 み, とくに笠亭仙果 (二世柳亭種彦→柳亭種秀) が回 転儀とな って, 続編 「其由縁郡廼 悌」 「足 そのゆかり ひなの おもかげ. 利絹手染紫」 「根元実紫」 「室町源氏胡蝶巻」 がかきつがれてゆく. -. 夕顔の花咲く宿の主や誰. -. 花はむつか しき色もなくて, ・ ・源氏の巻の名となり, 歌人の腸にまとひたる夕顔ぞかし. そ ・. 黄 昏どきのそら目はげにおぼつかなく ぞ覚ゆる. (宴曲「夕」). もそも夕顔の玉棲金殿にさがりたる由緒をしらず, ただ食物とぼしき五条あたりに俳個して , 貧 乏神 の 神 木 は こ れ な る べ し.. (「風俗文選」 瓢の辞). 「源氏物語」 のうち ペネロープ型の絶唱に蓬生の巻がある. 光源氏からいって夕顔の巻をうらがえ よもぎふ. しにしたスタイルでもあろう. 須磨に流離の光源 氏を待ちわびながら, ふたたびめ ぐりあ った末摘 花 の よ ろ こ び. こ こ で は ほ の か に ユ ト モ ア さ え た だ よ っ て い る. 夕 顔 の 巻 も 蓬 生 の 巻 も 廃 屋 の リ ア リ ズム に は, 「白 氏 文 集」 巻 一 の 凶 宅 に ま な ぶ と い う が, -. 日 ご ろ ふり つ る 名 残 り の 雨, す こ しそ そ ぎ て, を か しき ほ ど に月 さ しい で た り. む か しの 御 あり き お ぼ しい で ら れて, え ん な る ほ ど の 夕月 夜 に, 道 の ほ どよ ろ づ の こ と お ぼ しい で て お は. ▲. するに, 形もなく荒れたろ家の, 木立しげく森のやうなるをすぎたまふ. おほきなる松に藤の かた 咲 き か か り て, 月 か げ に な び き た る, 風 に つ き て さ と に ほ ふ が な つ か しく そ こ は か とな き か , を,り な り。 橘 に は か は り て を か し げ れ ば, き しい で た ま へ る に 柳 も い た う しだり て 築 地 も , ,. さはらねば, みだれ伏 したり. 見しここちする木立かな, とおぼすは, 早うこの宮なり けり. …惟光入りて, め ぐるめ ぐる人の音するかた や, と見るにいささか人けもせず. さればこそ, …人住みげもなきものを, と思ひて, 帰り参るほどに, 月あかくさ しいでたろに見れば, 格子 ふた間ばかりあげて, 簾うごくけしきなり. わづかに見つけたろここち, 恐ろ しくさへおばゆ れ ど, 寄り て こ わ づ く る へ ば, い と も の ふり た る 声に て, ま づ し は ぶ き を 先 に た て て , 「か れ. は誰ぞ, 何びとぞ」 と問ふ. 名のり して, 「侍従の君と闘えし人に, 対面たまはらむ」 といふ. 「そ れ は ほ か に な む もの したま ). さ れ ど お ぼ しわ く べ き 女 な む は べ る」 , といふ 声いたうね. びすぎたれど, 聞き し老びとと聞き知りたり. … 「な どかいと久しかりつる. いかにぞ. 昔の あ と も 見 え ぬ, 蓬 の し げさ か な」, と の た ま へ ば, 「しか じ か な む た どり 寄り て は べ り つ る , 侍 従 が 叔 母の 少 将 と い ひは べ り し老 び とな む, か は ら ぬ 声 に て は べ り つ る」, と あり さ ま き こ ゆ. 「い み じ う あ は れ に, か か る し げ き 中 に, 何 ご こ ち して す ぐ した ま ふ ら む いま ま で と は ,. ざり けるよ」, とわが心のなさ けなさもおぼし知らる. … た づ ね て も わ れ こ そ 間 は め 道 も な く 深 き よ も ぎの も との こ こ ろ を と ひ と り ごち て, な ほ お り た.ま へ ば, 御 さ き の 露 を 馬 の 鞭 して 払 ひつ つ 入 れ た て ま つ る 雨 , .. そそ ぎも, なほ 秋の しぐれめきて, うちそそ げば, 「御傘さぶらふ, げに木の下露は 雨にま , さりて」 ときこゆ. 御指貫のすそ は, いたうそばちぬめり. 昔だにあるかなきかなり し中 門な ど, ま し て か た も な く な り て, 入 り た ま ふ に つ け て も い と む と く な る を 立 ちま じり 見 る 人 , , な き ぞ, こ こ ろ 安 か り け る.. - 84 -.

(17) . . 説 話,展 開 の 諸 契 機 皿. 姫君は, さりとも, と待ちすぐしたまへるこころ もしろく, うれしけれ どデ いとはづかしき 御あ り さま に て 対 面 せ む も, い と つ つま しく お ぼ した り. …. ひき植ゑしならねど, 松の木だかくなりにける年月のほ どもあはれに, 夢のやうな る御身の ありさまもおぼしつづけらる. 「藤なみのうちすぎがたく見えつるは松こそ宿の しるしなりけれ 数ふれば, こよな う積りぬらむか し. 都に はかはりにける ことの多かりけるも, さま ざまあは れ にな む. いま の ど か に ぞ, 都 の わ か れ に お と ろ へ し世 の 物 語 も, 聞 えつ く す べ き. 年 へ た ま. ひつらむ, 春秋のくら しがたさなども, 誰にかはうれへたまはむ, とうらもなくおぼゆる も, か つ は あ や しうな む」, な ど 聞 え たま へ ば,. 年をへて待つ しる しなきわが宿を花のたよりにす ぎぬばかりか としのびやかに, うちみじろ ぎたまへる, けはひも袖の香も, 「昔よりはね びまさりたまへる. ” にや」’と細さる・.. は瀞 鞭 詳 密. 朝 露二鰯粘 ] ,. 蓬は 「万葉集」 でも 「あやめ ぐさよもぎかつらぎ酒みづき…」 (巻十八の四一一六) といっている. 葉がのびたっとくもぐさ〉になる. ちか ごろ 「繕草」 (つくろいぐさ) 「餅草」 (もちぐさ) とい い, まとめて漢語でなら 「蓬鳶」 である. 「拾遺集」 の 「いかでかはたづね来つらむ蓬生の人も通 ほうこう はぬわが宿の みち」 (巻十八の一二○三) とか, 「頼政集」 の 「もとの蓬の宿な忘れそ」 とかがしめ すように, この概念規制には理解がとどく. 「かげるふ日記」 に 「宿みれば蓬の門もさしながら」 とも, 「源氏物語」 東屋の巻で 「蓬の 丸寝にならひたま はぬここち」 としたためる. ま して 「源氏 物語」 の桐壷の巻に,「かかる 御使の,蓬生の露わけいりたま ふにつけても…」 とあるように, 蓬生 の 巻 は 貴 人 漂 泊 調 の モ チ ← フ で, 貧 窮の あ ば ら や を お とな う パ タ ー ンか らの 演 経 法 と い っ て い い.. …光源氏の物語をつぶつぶと読みて… 藤 浪の か け て 松 と は と ひ て 知 る 露 )る宮の門の しる しに かど. (「蔓籍璽昇」巻ニ下). 父権が強化してくるにともない, 政治組織は氏族社会より官僚国家へま とまってきたが, ま だ婚姻 の民俗だけは, 母権制の遺風をうけついでいた。 妻ま ぎ→妻よばい→妻どいの生活慣行, つまり神 と神を迎える 座女 との蓮環をたもつ招婿婚によって, 女人の 館の本質はささえられている。 けれど やかた. もこれさえ経済条件に徴 してみる と, やはり父兄の擁護でたすけられていなければならなかった. 母権制が古神道に則ってみちびかれ,つらぬかれてきた機運は退転 して,女人の 館の史的位相が単に 閏房感覚で しか,待遇されなくな っ ていた趨勢だり た,これは依代一招代一形代一神妻 ( 郭 量 -) よりしろ おぎしろ かたしろ. が, あそびめ (墾女) からうかれめ (遊娼) へ, うつりかわりてゆく経緯と並行している. まつり とまつり ごととが分 割背離 して以後に, ことさら官制としてなら, 神祇官は太政官より上位にはあ りながら, むしろかえってそれだけに時代現実から, 浮きあがって断層の形成を余儀なくさせられ て い た.. 種しあれば岩にも松は生ひにけり恋を し恋ひばあはざらめやは イ, おひぬるを古今六帖. . - 85 -.

(18) . 中. 塩. 清. 臣. 叉 つ か は し ける 女 の は はの, 恋 を し恋 ひ ば と い へ り ける が, 年 ごろ へ に け れ ば, つ か は し ける.. 種はあれどぁふこと難き岩の上の松にて年をふる はかひな し. ( 嫌 獣 」巻十二). 「竹取物語」 のかくや姫に 「宇津保物語」 のあて宮は, 神妻 (たまよりひめ) の聖職史をたかくか か げて み せ て いる. だ か ら な る ほ ど 貞 操の 理 念の 跨 みさお. 持 が 際 だっ. ま こ と に ロ マ ネ ス ク な ア イ デア. きよう じ. リ ズム に ち が いな い. と き に こ れ は 「か げる ふ 日 記」 で 妻 の 座 の は か な く 虚 し い うつ ろ さ い っ , ,. てみる とかげろうをもって象徴できる いのちの真実を, スリリ ングな眼識で照射しリアリ ズムの筆 致で表現 してある. 後期王朝のいつわりない得がたい人間分析である. ヒロイ ンの位置をめ ぐって 物語進行を説くな ら, 「竹取物語」 も 「宇津保物語」 も<をか し>の 展開だが, 「かげるふ日記」 はくあはれ>の鍍刻であろう。 つまる ところどの女房文学の 主題でも構造に しても, 「かげる ,日 るこく. 記」 の序列にそい沿革 にしたがうばかりである. 「源 氏物語」 が成立をみるにいたってはじめて, 光源氏は六条院に女人の館を しつ らえるありさまをえがきわけ 愛と信とに徹底 した非凡の男性像 , を か た ち づ く り て くる. この プ ロ セ ス は 女 人 が お こ な う男 性 批 判 を 超 える と 同 時 に 男 性 に と っ て ,. の 自己希求ま でも交響させてある. する と 「竹取物語」 も 「宇津保物語」 も発想法が, 男性のそれ であるゆかりと没交渉・無関係ではない. 末摘花に対するかたりくちの軌跡は ひと通り蓬生の巻で しあわせな結び目をみせる. 末摘花は , 愛 人 で ある こ との 花 め く ポ エ ジー よ り も ど ち ら か と い う と 母 性 形 象 の コ ロ ナを き ら め か せ つ つ い ,. る. 「伊勢源氏十二番女合」 をくりのべ 「無名草子」 を ひもといても まさ しくともに絶讃を惜ま , ぬわけであろう. 一. 十一番 左. 染殿内侍. 右. 蓬生君. 特. 右 は, …ま た の と し, 源 氏 もの の よ す が に お ぼ しい で て お は し け れ ば 蓬 が 柚の , , い ぶ せ き に, 道 さ へ た ど ら れ は べ り け れ ば 源 氏 , , た づ ね て も わ れ こ そ と は め 道 も な く ふ か き 蓬 の も との こ こ ろ を か く て す み たま ふ 御 さ ま 見 た てま つ り た ま ひ て こ の ほ どの と だ へ さへ う ら め , , , しう お ぼ して, み さ う よ り 人 め し て ある べ き か ぎり とり つ く ろ ひ て めの ま へ の む , , か しと な した ま ふ. あま た の 人 な ど よ び とり て か み・な か,しも さ ぶ ら はせ た ま ふ , . の ち に は 六 条 院 へ うつ した て ま つ り て と り わ き て あ つ か ひ き こ え た ま ふ と ぞ , . (「伊勢源氏十二番女合」) 末 摘 花 好 も しと い ふ と て, に く み あ は せ た ま へ ど 大 弐の 誘 ふ に も こ こ ろ づ よ く な び か で , , し に か へ り, 昔 な が らの 住 居 あ ら た め ず つ ひに 待 ち つ け て , , 「ふ か き 蓬の も との こ こ ろ を」,. とてわけいりたま ふをみる ほどは, 誰よりもめでたくぞおばゆる …何 ごともなのめな らむ人 . の た め に は, さ ば か り の こ との い み じかる べ き に も は べ ら ず そ の 人 が ら に は 仏 にな ら む よ . , り も あ り が た き 宿 世 に は は べ ら ず や.. (「無名草子」). すくせ. 一 86 一.

(19) . 説 話 展 開 の 諸 契 機 皿. 恋愛美学に即して末摘花も光源氏に しても, その至上の カテ ゴリ ー<色好 み>の原 型 を し めす, く色好み>の根本命題について 「徒然草」 に解明するところ, 花はきかりに, 月はくまなきをの み, 見るもの かは. 雨にむかひて月 を恋ひ, たれこめて春 の ゆ く へ知 ら ぬ も, な ほ あ は れ にな さ け ふ か し, … 男 を みな の 情 も, ひ と へ に 逢 ひ みる を ば い. ふものかは. 逢はでやみに し憂さをおもひ, あだなるち ぎりをかこち, 良き夜をひとり明かし, 遠き雲居を思ひやり, 浅茅が宿に昔を しのぶこそ, 「色好む」 とはいはめ F・ (百三十七段) まさに上田秋成勢枝崎人の読本 「雨月物語」, それから 「春雨物語」 の題号の原拠を みめることが せんしきじん. できる. ひときわいちじる しく 「雨月物語」 巻二のく浅茅が宿>のもとづくよすがにちがいない.. - 87 -.

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参照

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