信認義務の経済的基礎──プリンシパル=エージェ
ント関係と受託者の忠実義務
著者
西山 茂
雑誌名
社会文化研究所紀要
号
82
ページ
1-29
発行年
2021-03-31
URL
http://id.nii.ac.jp/1265/00000756/
信認義務の経済的基礎
――プリンシパル=エージェント関係と受託者の忠実義務
*)
西 山 茂
要 旨 本稿は受託者の信認義務について信託に内在するプリンシパル=エージェ ント関係に即して考察する。なかんずく信託に本質的である忠実義務の検討 に主眼を置く。忠実義務とは受益者の利益のために信託財産を管理すること を受託者に課す。より具体的には受益者と自己の利益が相反する行為をせず、 またそうした立場に自らを置いてはならないという内容である。本稿では忠 実義務に関する信託法の規定をまず示し、この義務が信託にどのように妥当 するかを捉えたうえで、信認関係における忠実義務の位置づけと機能を明ら かにする。さらにプリンシパル=エージェント関係の概念を信託に適用する ことにより、忠実義務とそれが抑止するエージェンシー問題の性質が信託に おける意思決定の帰属に規定されることを立ち入って解明する。 キーワード 信託、忠実義務、信認義務、プリンシパル=エージェント関係、エージェ ンシー問題、能動信託、受動信託、信認関係。 *) 本稿は筆者を研究代表者とする以下の科学研究費補助金による成果の一部である。 研究課題「プリンシパル=エージェント関係としての信託:信託概念の経済学的構成」、 研究種目:基盤研究(C)、課題番号:19K01771。序論
信託は「財産(property)に関する信認関係(fiduciary relationship)」と定義 される(Restatement Third, Trusts §2)。信託は「この関係を設定(create)する 意思表示(manifestation of intention)から生じ」、さらに「財産の権原(title) を有する者を公益(benefit of charity)または少なくともそのうちの一名が単 独受託者でない一名以上の者のためにこの財産を取り扱う義務(duties)に従 わせる」とされる(Restatement Third, Trusts §2)。ここで「信託を設定する者」 が設定者(settlor)、「信託において財産を保有する者」が受託者(trustee)で あり、「その者の利益(benefit)のために財産が保有される」対象となるのが 受益者(beneficiary)である(Restatement Third, Trusts §3)。
すでに明らかにされているように、信認関係の実体はプリンシパル=エー ジェント関係にほかならず、前者は後者の法的形態である。ここで「プリン シパル」は信認関係における受益者(beneficiary)、「エージェント」は同じく 受認者(fiduciary)にそれぞれ相当する。「財産に関する信認関係」である信 託では前者が受益者、後者が受託者であり、ここでのプリンシパル=エージェ ント関係は受益者と受託者の間に形成される(Cooter and Freedman 1991, 1047 n5)。さらに上の定義において「財産の権原を有する者」に適用される「この 財産を取り扱う義務」はプリンシパル=エージェント関係に発生する「エー ジェンシーコスト」を伴う「プリンシパル=エージェント問題」または「エー ジェンシー問題」に対しての「抑止(deterrence)」である「信認義務(fiduciary obligation)」(Sitkoff 2014, 198)として定式化され、受益者の利益のために設定 される信認関係またはプリンシパル=エージェント関係である信託においては そのなかでも忠実義務(duty of loyalty)が本質的である1)。 本稿は信託における信認義務に関する考察であり、具体的にはこの忠実義務 について信託に内在するプリンシパル=エージェント関係に即して理論的に検 討することを意図する。ここでの忠実義務とは何よりもプリンシパルである受
益者に対するエージェントたる受託者のそれであって、その主たる内容は受益 者の利益のために信託財産を管理することであり、より具体的には受託者に対 して受益者と自己の利益が相反する行為をせず、またそうした立場に自らを置 いてはならないとすることにほかならない。追って明らかにされるように、こ うした忠実義務の内容は信託法における利益専一の規定(sole interest rule)に よって与えられている(例えばRestatement, Second, Trusts §170(1); Restatement Third, Trusts §78(1)など)。また信認義務としてみれば受託者による利益相反 (conflict of interest)行為が抑止の直接の対象となることも明らかであろう。「信 託管理におけるいかなる利益相反であっても、すなわち受託者が当該の信託か ら個人的に利益を得るいかなる機会であっても、受益者に潜在的に損害を与え る」(Langbein 2005, 934)からである。だが他方で潜在的にであれ対立的な性 質を持つ規定が信託法には存在する。利益専一の規定を内容とする忠実義務 が定められていると同時に、Restatement, Second, Trusts §164, §164 Comment a; Restatement Third, Trusts, §§70(a), 85(1)(b)に明らかなように「受託者の義務と 権限の性質と範囲」は「信託条項」に定められ、設定者の意思(intention)が 受託者の義務と権限を決定する。このような信託法のもとで忠実義務とその意 義を捉えるには、信託法またはそれによって形成されるフォーマルな制度的枠 組みの考察だけでは明らかに不十分であり、信託に内在するプリンシパル= エージェント関係に即した考察が不可欠である。 さらに現代の信託法に関連する重要な論点として、英米特にアメリカのそれ において受託者の忠実義務が緩和される傾向を観察できる。具体的には誠実性 の有無を問わず利益相反から生じる利得に対して受託者の責任負担を定める厳 格かつ伝統的な忠実義務の再検討である。こうした再検討が生じたのは、信託 財産の大規模化、信託財産における金融資産の拡大、専門職としての機関受託 者の一般化、信託業務の多様化と複雑化といった推移を基礎としており、こう したなかで旧来の厳格な忠実義務を機械的に適用することは受託者の機能を強 く制約し、受益者の利益をかえって損なう結果をもたらすためである。こうし
た点は夙に多くの論者によって指摘されており、Langbein(2005, 939)によれ ば受託者の受け取る信託報酬にすでにその端緒が窺える。本稿ではこうしたア メリカ信託法における忠実義務の考察に相応の重点を置きたい。
本稿の問題意識と課題はおよそ以上のようである。この課題の検討を本稿 は次の構成で進める。まず第Ⅰ節では以下の考察に先立ち、Restatement of the Law, TrustsとUniform Trust Codeを主に用いて信託法における忠実義務とその
内容をなす利益専一の規定を捉える。第Ⅱ節では信託法に定められた忠実義務 がどのように妥当するかについて、その内容たる利益専一の規定に即して検討 する。ここで現代の英米信託法、特にアメリカの信託法において観察される忠 実義務の緩和の傾向について、それが厳格かつ伝統的な忠実義務の再検討であ ることが具体的に明らかにされるであろう2)。これを受けて第Ⅲ節では方法的 にプリンシパル=エージェント関係または信認関係として信託を捉える考察を 進めるため、まず信認関係における忠実義務について立ち入って明らかにす る。信認関係における忠実義務の位置づけと機能が主たる論点となる。さらに 第Ⅳ節では信託に形成されるプリンシパル=エージェント関係の把握を信認関 係における忠実義務の解明にその独自性とともに重ねることにより、プリンシ パル=エージェント関係としての信託に内在したその考察が進められるであろ う。最後に本稿の考察に総括を与え、本稿の成果を踏まえたプリンシパル= エージェント関係としての信託に関する今後の研究の展望を簡潔に示す。
Ⅰ
信託法における忠実義務の規定
以下の考察に先立ってこの節では信託法における忠実義務とその内容をなす 利益専一の規定について整理しておこう。本稿の問題意識に基づき、アメリ カの信託法における規定、具体的にはRestatement of the Law, TrustsとUniformTrust Codeによる規定を取り上げる。参考のために日本の信託法にも簡単なが ら言及しておこう。
最初にRestatement of the Law, Third, Trustsを参照することとしよう。ここで
忠実義務に関する明文の規定はRestatement Third, Trusts §78である。この§78で はまず第1項として「(1)信託条項に別段の定めがない限り、受託者は専一に (solely)受益者の利益のためにのみ、または専一にその公益目的の推進のため にのみ信託を管理すべき義務を負う」と定める。受益者の利益専一がまずここ に明示的に規定されており、忠実義務の内容が受益者の利益専一の規定によっ て与えられていることを見て取れよう。また第2項は利益相反に関する規定 で、「(2)裁量的な状況にある場合を除き、受託者は自己取引(self-dealing)を 伴う取引および受託者の信認義務と個人的な利益との間で利益相反(conflict) を伴いまたはこれを引き起こすその他の取引に従事することを厳格に禁止され る」と規定する。さらに第3項は「(3)受認者的または個人的な資格(capacity) のいずれにおいて行為するかにかかわらず、受益者と取引する場合に、受託者 は取引を公正に行う義務および当該の取引に関連して受託者が知りまたは知り 得べかりしすべての重要な事実(material fact)を受益者に通告する義務を負う」 としている。
次にRestatement of the Law, Second, Trustsでこれに対応する規定はRestatement,
Second, Trusts §170である。ここではより簡潔な条文になっており、第1項は 「(1)受託者は専一に受益者の利益のためにのみ信託を管理すべき義務を受益者 に対して負う」と規定する。しかし信託条項と公益に対する言及を除けば利益 専一の規定としては同じ内容であり、受託者の忠実義務の内容がこれによって 与えられていることも同様であるといえる。また第2項は「(2)自己の計算に おいて受益者と取引を行う受託者は、取引を公正に行う義務および当該の取引 に関連して受託者が知りまたは知り得べかりしすべての重要な事実を受益者に 通告する義務を受益者に対して負う」と定める。
続いてUniform Trust Codeを参照しよう。ここで忠実義務はU. T. C. §802(a) に定められている。具体的に「受託者は専一に受益者の利益のためにのみ信 託を管理しなければならない」とされる。明らかなように直上で参照した
Restatement Third, Trusts §78(1)およびRestatement, Second, Trusts §170(1)と同 じ受益者の利益専一の規定である。Uniform Trust Codeは引き続き受託者によ る利益相反に関して具体的で詳細な規定を与えている。ここでそのすべてを列 挙するのは少々煩に過ぎるので、一例として利益相反行為の一般的な制限に関 する規定を示せば、§802(b)で「信託財産の投資と管理に関連した売却、権利 設定(encumbrance)またはその他の取引」について「受託者によって受託者 個人自身のために実行される」場合とそうでない場合でも「受託者の受認者と しての利益と個人としてのそれとの相反によって影響を受ける」場合には「当 該の取引が信託条項によって認められている」などの具体的な要件を充足して いない限り「当該の取引によって影響を受ける受益者によって取り消し得べき である(voidable)」と定められている。他の規定については以下で必要に応じ て言及することとしよう。 関連して日本の信託法における忠実義務の規定を参照しておこう。忠実義務 は信託法第30条で定められ、「受託者は」「受益者のため忠実に信託事務の処理 その他の行為をしなければならない」とされる。明らかなようにRestatement of the Law, TrustsとUniform Trust Codeにおける規定と異なり、受益者の利益に関
する具体的な言及はない。ただし同第31条で利益相反行為の制限について具体 的に定めており、第31条第1項で「受託者は、次に掲げる行為をしてはならな い」として、「信託財産に属する財産」と「固有財産」とを相互に「帰属させ ること」、「信託財産に属する財産」を「他の信託の信託財産に帰属させること」、 「自己が当該第三者の代理人となって行う」「第三者との間において信託財産の ためにする行為」、「固有財産に属する財産のみ」で負担する「債務に係る債権 を被担保債権とする担保権」を「信託財産に属する財産」に「設定すること」、 「受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなる」「第三者 との間において信託財産のためにする」「その他」の「行為」を挙げる。また 第31条第2項では「次のいずれかに該当するときは」これらの行為をすること ができるとして「信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあると
き」を示している。日本の信託法では第30条による忠実義務の規定そのものは やや具体的でないが、第31条による利益相反行為の制限の規定と併せて捉える ことによりRestatement of the Law, TrustsとUniform Trust Codeと実質的に同じ内
容を規定しているといってよい。 信託法とともに信託業法でも信託会社の忠実義務等について第28条で規定し ている。まず一般的な忠実義務を第28条第1項で定め、「信託会社は、信託の 本旨に従い、受益者のため忠実に信託業務その他の業務を行わなければならな い」としている。「信託会社」とは当然ながら信託の受託者である。なお第28 条第2項では「信託会社は」「信託の本旨に従い」「善良な管理者の注意をもっ て」「信託業務を行わなければならない」、第28条第3項では「信託会社は」「信 託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを分別 して管理するための体制」を初めとする「信託財産に損害を生じさせ、又は信 託業の信用を失墜させることのない体制を整備しなければならない」と定め る。さらに信託業法第29条には忠実義務に関連する個別の禁止規定が置かれて いる。他方、旧信託法では第22条で「受託者ハ何人ノ名義ヲ以テスルヲ問ハス 信託財産ヲ固有財産ト為シ又ハ之ニ付権利ヲ取得スルコトヲ得ス」と利益相反 行為の制限を定めていた。しかし忠実義務については明文の規定がなく、第9 条「受託者ハ共同受益者ノ一人タル場合ヲ除クノ外何人ノ名義ヲ以テスルヲ問 ハス信託ノ利益ヲ享受スルコトヲ得ス」の解釈によって受託者がこの義務を負 うとされていた。 以上、この節では信託法における忠実義務とその内容たる利益専一の規定を 主にアメリカのそれにより整理した。具体的にRestatement of the Law, Trustsと
Uniform Trust Codeの忠実義務の規定において、いずれも受益者の利益専一が まず明示的に定められており、この規定によって義務の内容が与えられている ということができる。
Ⅱ
忠実義務と利益相反
前節では実際の信託法に即して忠実義務とその内容をなす受益者の利益専一 の規定について整理した。主にアメリカ信託法における忠実義務を具体的に参 照するとともに、この義務に関する明文の規定としてまず利益専一の規定が設 けられていることを確認できている。この節では信託法に定められたこうした 忠実義務が信託にどのように妥当するかについて、その内容をなす利益専一の 規定に即して検討する。現代の英米信託法、特にアメリカの信託法において受 託者の忠実義務は緩和される傾向があり、これが厳格かつ伝統的な忠実義務の 再検討であることをすでに指摘しているが、利益専一の規定に即して忠実義務 がどのように再検討され、どのような意味で緩和されているかが本節で具体的 に明らかにされるであろう。 前節でみたように、信託法では利益専一の規定が忠実義務として明文で規定 されている。しかしその一方で現実の信託においては往々にして利益相反が発 生する。忠実義務に関する最近の基本文献をなすLangbein(2005, 938-941)は この点にまず着目し、利益専一の規定にもかかわらず「慣例的な信託管理に利 益相反が多い理由の一つ」は「利益専一の規定が任意規定であること」である と指摘する(Langbein 2005, 938)。「任意規定」であることによって特定の信託 では正反対の信託条項を入れることが可能となるからである。これは「信託に おいて設定者が授権した利益相反」(Langbein 2005, 938)といわれる。 例えばU. T. C. §802(b)によれば「受託者によって受託者個人自身のために 実行される、または受託者によって実行されなくとも受託者の受認者としての 利益と個人としてのそれとの相反によって影響を受ける信託財産の投資と管理 に関連した売却、権利設定またはその他の取引は、当該の取引によって影響を 受ける受益者によって取り消し得べきである」とされるが、U. T. C. §802(b)(1) で「当該の取引が信託条項によって認められているならば」この限りでな い と 規 定 し て い る3 )。 同 じ 趣 旨 はRestatement, Second, Trusts §170 Commenton Subsection (1) t お よ び Restatement Third, Trusts §78 General Comment a に も 示されており、文言こそ多少異なるが同一の内容であることが確認できる。 Langbein(2005, 938-939)は家族間での相続に際し、相続者である一名または それ以上の子を受託者として設定される遺言信託または生前信託を事例として 挙げ、ここでの受託者は典型的な利益相反の立場に置かれるとしつつ、「利益 相反にある受託者」を指名したとき、信託設定者は明示的であれ黙示的であれ 「利益専一の規定」(Langbein 2005, 938)を常習的に制限している(abridge)と 論じる。
さらに「信託に関する信認法(trust fiduciary law)」は「利益相反に対処する ために」「禁止(prohibition)と規制(regulation)」という「二つの方策(regimes) を有する」とし、「利益専一の規定」は前者として「利益相反を抑止する役割 を担い」、「忠実義務から派生する」「公平規範(fairness norm)」である「公 平義務(duty of impartiality)」は後者として「利益専一の規定を制限する利 益相反を信託条項が作り出すとき」受託者と受益者の利益相反を規制する4)。
Uniform Trust CodeではU. T. C. §803がこれに相当し、「信託が二名またはそれ 以上の受益者を有する場合、受託者は受益者それぞれの利益に適切な考慮(due regard)を与えつつ信託財産の投資・管理・分配において公平に行動しなけれ ばならない」と定める。Restatement Third, Trusts §79も同じ趣旨である。
利益専一の規定が定められていながら生じるもう一つの利益相反として Langbein(2005, 939)は「受託者報酬(trustee compensation)」を挙げる。イギ リスにおいてはユース(use)以来の伝統として受託者は無報酬とされるのが 通常であり、近代的信託の成立とともに有償化が導入されていったが、アメリ カにおける信託は強い商事的性質を有し、受託者が「合理的な報酬」(Langbein 2005, 939)を取得することも信託法によって認められている。具体的に「信 託条項に別段の定めがない限り」または「報酬を放棄(forgo)することに同 意しない限り」、「受託者は受託者としての業務(services)に対して信託財産 から合理的な報酬を得る資格がある」と定められている(Restatement Third,
Trusts §38(1); Restatement, Second, Trusts §242にも同じ趣旨の規定がある)。ま たRestatement Third, Trusts §78 Comment on Subsections (1) and (2) c(4)ではこ うした受託者報酬が忠実義務の適用除外(exception)である旨が明示されてい る5)。 このように受託者報酬を認めるアメリカ法は「必然的に信託を利益相反に晒 す」こととなる。「受託者が報酬として懐中にするいずれの1ドルも受益者に 対する1ドルの削減である」(Langbein 2005, 940)からである。忠実義務の例 外としながらアメリカ信託法が受託者報酬を認めるのは「利益相反」を許容す ることが「信託受益者に対する受益的利益」に帰結するという費用便益間の比 較による判断(judgment)を反映する。受託者の業務を有償化することにより、 今日では多くが信託専門職である熟練した個人の「技能と資源」を信託に導入 することが可能となるためである。「利益相反に固有な危険に対処する方法は、 利益専一規定がそうであろうように利益相反行為を禁止することでなく、この 事例の場合では受託者報酬を合理的にするよう強く要請することによって利益 相反行為を規制(regulate)することである」(Langbein 2005, 940)。 ところでこうした「受託者の無償から有償への動き」は「19世紀後期から20 世紀を通じて生じた富の性質の根本的な変化」すなわち「信託の機能と受託者 の地位の性質を様変わりさせた変化」と密接に結びついている。「英米信託法 は大部分の富が土地の形態を取っていた時代に発展した」ため、「信託は家族 内における不動産の保有と移転のための仕組み(device)として作り出された」。 このため「受託者は設定者の家族成員または近友(confidants)であるのが普 通であった」(Langbein 2005, 940)。こうした受託者は「財産権移転の仕組みの ために名義貸しをしたステークホルダーとほとんど変わることがないのが普通 で」「僅かの義務および権利と技能を有する」ことが期待された程度であり、 受託者の無償もこれを反映していたといえる(Langbein 2005, 940-941)。しか し信託の性質が変わり、「金融資産ポートフォリオの能動的な管理のための仕 組み」となったとき、「熟練した専門職を用いる利益(advantages)は彼らに報
酬を支払わなければならない不利益(disadvantage)を上回るに至ったのである」 (Langbein 2005, 941)。 みられるようにLangbein(2005)は商事信託(commercial trust)が有力な 地位を占め、商業銀行を典型とする金融仲介機関が機関受託者(institutional trustee)として妥当し、また信託そのものが金融的な資産の蓄積にとって不可 欠というべき制度的枠組みとなっている近現代アメリカの信託法を想定して いる。こうした問題意識はLangbein(1995; 1997)などでも明らかに観察でき るところであるが、アメリカ信託法にみられる「受託者報酬を禁止する規定 の放棄(abandonment)は利益専一の規定に対する適用除外(exceptions)の着 実な拡大というより大きな潮流の一部をなす」こととなった「現在の段階」で は「利益相反は蔓延しているけれども首尾よく管理され得る」一方で「禁止 (prohibition)は必ずしも最適な解決ではない」(Langbein 2005, 941)という認 識の基礎ともなっている。 こうした理解を前提にLangbein(2005, 968-980)はアメリカの信託における 利益専一規定の適用除外について具体的に論じている。Langbein(2005, 968-980)では、機関受託者としての金融仲介機関を想定した金融サービス(financial services)、とりわけ金融統合の進展をも前提としつつ自行預金(self-deposit) と集団投資ビークル(pooled investment vehicles)が取り上げられ、次いで「専 門職による業務」として専門職による受託者とその受託者報酬について論じら れている。さらに「利害関係者(affiliated persons)」との取引および「家族内 取引(intrafamilial transactions)」における利益相反の推定について問題が指摘 される。いずれも興味深い論点を含むが、本稿で過度に言及する必要はないの で、ここでは利益相反として以前から問題化することが多かった「自行預金」 の問題についてやや立ち入って取り上げるにとどめておこう。これはLangbein (2005)自身の問題意識にも適切に即した事例といえる。自行預金は「法人 受託者(corporate trustee)によるその銀行部(banking department)への預金」 (Restatement, Second, Trusts §170 Comment on Subsection (1) m)にほかならな
い。かつて利益専一の規定が厳格に適用されていたもとでは自行預金は典型 的な利益相反とされた。Restatement, Second, Trusts §170 Comment on Subsection (1) mによれば、「信託会社または銀行」が受託者として保有する資金をそれ
自身の銀行部に一般的な預金として保有する場合、こうした機関は「受託者と しての自分自身と個人として取引することとなるので」「これによって信託違 反(breach of trust)を犯す」とされる。実際、Restatement, Second, Trusts §170 Comment on Subsection (1) lでは、「受託者自身の目的のための信託財産の使用」 として、「信託財産を自分自身に対して個人的に(individually)売却する場合 だけでなく、自分自身の目的のために信託財産を用いる場合にも受託者は受益 者に対する義務に違反する」とする。したがって「当然ながら受託者は信託資 金を自分の事業に用いること、信託資金を自分自身に貸し付けること、信託に おいて保有する土地を自分自身にリースすることはできない」と具体的に示し ている。自行預金は受託者自身に対する信託財産の貸付になるわけである。 しかし金融統合が進展するなかで「適用される利益専一の規定が厳格なまま であるとすると」受託者たる金融仲介機関が「その信託勘定に対してフルレ ンジの金融サービスを展開することをこの規定が妨げるであろう」(Langbein 2005, 969)。実際、自行預金が制限されるとすれば、信託財産に関連して支払 決済機能を用いる場合や投資と分配の待機資金を初めとして流動的な形態で 信託財産を保有する場合に取引費用が発生せざるを得ず、これは「信託管理費 用に反映されるであろう」(Langbein 2005, 969)。このため利益専一規定の適用 除外が設定され、また拡張されることとなる。こうした「適用除外」は「他の 商業的な関係を適用する方法によって受託者と受益者の相互の利益を信託法が 促進するとすれば」「受益者だけが受益的利益を享受できることを要求する場 合と比べて」「受益者の利益がより改善されるであろうという考え(notion)」 (Langbein 2005, 969)に立って主張されている。
このような推移のもとでUniform Trust Codeと Restatement of the Law, Third,
2005, 970)。例えば忠実義務を定めたU. T. C. §802(h)(4)では「この条は受益者 に対して公正である限り以下に示す取引を妨げない」として「受託者によっ て営業される規制型金融サービス機関(regulated financial-service institution)へ の信託資金の預金」を明示している。また同様にRestatement Third, Trusts §78 Comment on Subsections (1) and (2) c(6)でも「自己取引(self-dealing)に対す る厳格な禁止によって信託財産として保有される資金を受託者が借り入れるこ とは通常できないが、この禁止は受託者によって営業もしくは支配される、ま たは受託者に関係する規制型金融サービス機関への信託資金の預金を妨げな い」とする6)。「このような立法の効果は利益専一の規定より受益者の最善の 利益を選好することである」(Langbein 2005, 970)。 以上、Langbein(2005)を導きの意図として、信託法に定められた忠実義務 が信託にどのように妥当するかについて、その実質的な内容をなす利益専一の 規定に即して検討した。Langbein(2005)によれば、現代の信託法において受 託者に対する利益専一の規定は従来のような厳格な規定とされておらず、適用 除外が拡大されている。ここには「受益者の利益専一」から受益者の「最善の 利益」の追求への転換がみられる。さらに家族的な土地資産の継承から蓄積さ れた金融資産の管理への信託財産の性質の変化、これに伴う受託者の役割の変 化と業務の有償化、専門職としての機関受託者の台頭、金融仲介機関を担い手 とした新たな商事的関係(commercial relationship)による受託者の包摂と金融 機能の統合の進展がこうした推移を規定しているといえる。 だが同時に本稿の関心に即していうならこうした検討のなかで一つの方法上 の示唆が得られることも事実である。具体的には信託において形成される信認 関係がLangbein(2005)のなかで与件的に扱われている点である。ここでは信 託における信認関係そのものを捉え直すこともなく、この信認関係の独自性に 踏み込んだ考察も全く示されていない。忠実義務についてプリンシパル=エー ジェント関係に即して考察することを主眼とする本稿にとっては、こうした Langbein(2005)の成果を前提としつつも、プリンシパル=エージェント関係
または信認関係としての信託に立ち入った考察が必要となる。この点を念頭に 置いてさらに考察を進めることとしよう。
Ⅲ
信認関係における忠実義務
第Ⅱ節では忠実義務が信託にどのように妥当するかについて利益専一の規定 に即して具体的に検討することができた。しかし前節の最後で指摘したよう に、方法的にプリンシパル=エージェント関係または信認関係として信託を 捉える考察にはまだ端緒が開けていない。こうした考察を進めて本稿の課題 に接近するために、第Ⅲ節では「忠実義務」と「注意義務(duty of care)」を 「第一次的(primary)な信認義務」であると捉えるSitkoff(2014)を取り上げ、 まず信認関係における忠実義務について立ち入って明らかにすることとしよ う7)。 まずSitkoff(2014, 198)によれば、「信認関係」は適用される対象とは無関係 に「プリンシパル=エージェント問題」または「エージェンシー問題」をそ の「核」に有しており、まさにこの「共通的な経済的構造(common economic structure)」 の「 結 果 」 と し て「 共 通 的 な 法 理 の 構 造(common doctrinal structure)」を備えている。こうした「プリンシパル=エージェント問題」は 「エージェンシーコスト」(Sitkoff 2014, 199)を伴う。「プリンシパルたる一者」が「エージェントたる他者」を用いて「プリンシパルの厚生に影響を及ぼす」「観 察可能性が不完全な裁量的行為(imperfectly observable discretionary actions)」 の「引受」に従事させるいかなる場合においても「エージェンシー問題は発生 する」(Sitkoff 2014, 199)。エージェンシー問題を呈する状況において「自らの 利益がプリンシパルのそれから乖離するとき、エージェントは自己の利益を優 先する誘引を受けるであろう」。「利益のこの不整合から帰結する損失およびそ の他の非効率はエージェンシーコストと呼ばれる」(Sitkoff 2014, 199)。 またSitkoff(2014, 198, 201)によれば、「エージェンシーコスト」を伴う「プ
リンシパル=エージェント問題」に対して信認法は「抑止」を「機能的核心 (functional core)」とする「信認義務を課す傾向がある」とされる8)。これは
Restatement of the Law, Trustsにより「信託管理の基本原理」(Restatement Third,
Trusts §70 General Comment a)とされ、「信託条項と信託目的を実行するため に受託者は信託財産その他を管理する包括的な権限を推定的に有するが、受託 者の資格において保有されるあらゆる権限は受託者の信認義務に従って行使さ るべきまたは行使されざるべきである」と定められていることに基づいていよ う。Sitkoff(2014, 201)は信認関係の適用に関係なく「信認義務の賦課には基礎 にあるエージェンシー問題を改善することが意図されている。信認関係のガバ ナンス戦略のもとで、幅広い裁量権を有するエージェントはその時々で行為す るであろうが、プリンシパルはエージェントの行為が真に自分の最善の利益に 副っていたかどうかを精査する誘引を事後的に受ける。法的な形式主義と道徳 化の修辞を剥ぎ取るなら、信認義務の機能的核心は抑止である。なさざる場合 の事後的な責任という脅威によってプリンシパルの最善の利益に副って行為す るようエージェントは誘導される。この意味における抑止はエージェントの事 前的な(ex ante)信認義務への違反(breach)に対するプリンシパルとの間の 事後的な(ex post)解決を意味する」と論じている。 こうした信認義務の理解に基づいて、Sitkoff(2014, 198)は典型的に「利益 相反を禁止し客観的な注意基準を規定する諸基準」に位置づけられる一般的な 「忠実義務」と「注意義務」があらゆる信認関係に見出せる一方、「信認関係の 特定の形態に共通的に再現する状況に対する忠実義務と注意義務の適用につい て詳細を定める規定」とされる「特定的な補則的信認義務」が存するとし、こ の両者が合して「規則と基準の混合によるガバナンス」が整備されるとする。 このように「忠実義務」は「注意義務」とともに「第一次的な信認義務」とし て妥当する(Sitkoff 2014, 201)。「忠実義務はプリンシパルの『最善の』または それにもまして『専一の』利益に立って行為することを受認者に求めることに より、背任を禁止し、利益相反を規制する」。また「注意義務」は「『合理性』
または『慎重』の基準を確立することにより受認者の注意基準を規定する」。 その際「受認者の注意基準は客観的であり、類似した状況における合理者ま たは慎重者への付託(reference)によって評定される」。「プリンシパルが当該 の受認者を用いるに相応の専門的な技能を受認者が有する場合」「適用される 注意基準はこうした技能を備えた合理者または慎重者のそれとなる」(Sitkoff 2014, 201-202)。さらに「エージェンシー問題は不完備契約から生じるため」 「忠実義務および注意義務の核心は一般的な文言によって表現される」(Sitkoff 2014, 202)。司法的な判断に即してこれらの義務を捉え、当事者が置かれた状 況を考慮しつつ、「同じ状況を予見し得たとすれば合意したであろう内容に 従って受認者が行為したか否か」についての司法的な判断の「基準」がこうし た「忠実義務」と「注意義務」によって提供される。実際これらの「基準」は「当 事者の契約を事後的に補完(complete)する権限を裁判所に与える」。「かくし て信認法は取引費用を極小化する」。「将来のあらゆる偶然事に対して事前に 規定を定めるまでに至る努力を下す代わりに、明示的な規定の取引費用を正当 化する頻度をもって起こり得るこうした重要な偶然事を当事者は特定するだけ でよい」のである。「その他の一切の偶然事に対しては信認義務が間隙を埋め る」からである(Sitkoff 2014, 202)。また「関連するすべての状況への考慮を 見込んだ基準として」「忠実義務」と「注意義務」は誤判によって発生する社 会的費用である「誤判費用(error costs)」を極小化する。しかし「誤判費用の この削減」は「不確実性」と「意思決定費用(decision costs)」の増大を対価 として生じる。こうした「基準」が有する「高い状況依存性(highly contextual nature)」は「予測を一層困難にし、より集約的な司法の役割を要求する」の である。しかしこの問題は「信認案件に関する豊富な解釈判例(interpretive authority)」の蓄積によって「忠実義務」と「注意義務」がさまざまな状況に いかに適用され得るかについて「指導的なガイドライン」が提供され、「予測 可能性」が改善されている(Sitkoff 2014, 202)。なおこれらの「義務」は司法 的な判断に際しての「基準」としても機能するとともに、このような「基準と
しての忠実と注意の義務」の本質から生じる「不確実性」は特定的な「補則的 規定」または同様の「施行規定」の「発展」によってさらに軽減される(Sitkoff 2014, 202)。こうした「補則的な規定」は再現する状況に対する忠実義務と注 意義務の適用について詳細を定める効果を持ち、「意思決定費用を削減しなが ら」「条項に該当する事案への信認義務の適用を簡素化する」。とりわけ「意思 決定費用」の削減は「戦略的回避行動の道筋(roadmap)を提供することによっ て」「誤判費用を増加させることなく進められる」。他方「プリンシパルの利益 には不利となるが、いかなる補則的な規定にも該当しない方法で受認者が行為 するとすれば、プリンシパルは忠実基準と注意基準に訴える」ことができる。 このように「一般的で第一次的な」「忠実義務」と「注意義務」は「特定的な 補則的規定」と重層的に機能することにより「規定が有する意思決定費用上の 優位性」と「基準が有する誤判費用上の優位性」を提供することとなる(Sitkoff 2014, 202-203)。 Sitkoff(2014)に従って「忠実義務」を信認関係における「第一次的な信認 義務」としておよそ以上のように捉えることができた。みられるようにSitkoff (2014, 198-199)によれば信認関係がエージェンシー問題という「共通的な経 済的構造」に基づく「共通的な法理の構造」を有し、「信認義務の賦課」は信 認法による「エージェンシー問題」の改善と理解されている。ゆえに「信認義 務の機能的核心」は「抑止」であった(Sitkoff 2014, 201)。こうした信認義務 の理解を踏まえてSitkoff(2014, 201-202)は「第一次的な信認義務」に「忠実義 務」と「注意義務」を挙げ、「忠実義務はプリンシパルの『最善の』またはそ れにもまして『専一の』利益に立って行為することを受認者に求めることによ り、背任を禁止し、利益相反を規制する」。また「注意義務」は「『合理性』ま たは『慎重』の基準を確立することにより受認者の注意基準を規定する」こと を明らかにした。 Sitkoff(2014)に従って信認関係として信託を捉えることにより、忠実義務 とその内容たる利益専一の規定は第一次的な信認義務であること、エージェ
ンシーコストを伴うエージェンシー問題という信認関係に共通する「経済的構 造」を反映した「法理」であること、かかるエージェンシー問題に対する「抑止」 をその機能的核心とすること、が一般的に明らかにされた。みられるようにこ れはプリンシパル=エージェント関係としての信託の理解にも深く関連してい る。では以上の一般的な解明を前提として、信託に形成されるプリンシパル= エージェント関係のさらなる把握をその独自性とともにここに重ねるとき、受 託者の忠実義務とその内容をなす利益専一の規定についてどのように捉えるこ とができるか。節を改めてこの論点に進むこととしよう。
Ⅳ
プリンシパル=エージェント関係としての信託と忠実義務
受託者の忠実義務とその内容をなす利益専一の規定について信認関係に即し た一般的な解明を果たすことができた。この第Ⅳ節では信託に形成されるプリ ンシパル=エージェント関係のさらなる把握をこの解明に重ねる。独自なプリ ンシパル=エージェント関係としての信託に内在した受託者の忠実義務に関す る考察が進められるであろう。 まずプリンシパル=エージェント関係としての信託について理論的に捉え直 しておこう。この点では信託に関する最近の「法と経済学」研究に共通の理論 的基盤をなすといえるSitkoff(2004)の考察を端緒とすることができる。Sitkoff (2004, 623)の理論的な意図は「信託法のエージェンシーコスト理論を発展さ せる」ことにあり、より直接には「贈与的私益信託(donative private trusts)」 に「エージェンシー理論を体系的に適用すること」(Sitkoff 2004, 623-624)を その課題としている。明示的にこそ贈与的信託に絞られているが、考察の対象 はあくまでも私益信託である。同時にSitkoff(2004, 623-624)自身が述べるよう に、その「分析」は「商事信託と公益信託」にも適用可能であり、信託に関す るプリンシパル=エージェント理論として相応の一般化が可能であることを前 提としてよいであろう。Sitkoff(2004, 627)によれば、「信託法が財産法と契約法の双方に親和性のあ る諸特性を混成している」ことから、「信託法は組織法(organizational law)と して分類されるのが適切であり、また最もよく理解される」。具体的にSitkoff (2004, 638-639)は「契約の束(contractarian nexus)」の観点から信託が「私 的な当事者間における単純な契約を超える」としたうえで、「対人的(in personam)な次元とともに対物的(in rem)な次元を有する組織形態」である と信託を捉える。とすれば信託は「法人およびその他の組織形態と同様に」「外 部での対物的な資産分割(asset partitioning)を内部での対人的な契約上の柔軟 性と混成する」。他方で「信託の内部関係は契約主義的である」。「信託法が任 意規定(default terms)を提供し」「当事者がそれを巡って契約可能である」だ けでなく、「当事者における情報の非対称性から生じる基礎的なガバナンス問 題にプリンシパル=エージェントモデルを適用しやすい」ためでもある(Sitkoff 2004, 638-639)。以上の考察に基づいて「信託法の本質と機能のさらなる洞察」 は「契約主義的な諸関係の集まり」にとって「組織的な構成体として働く事 実上の法主体(de facto entity)たる信託の概念」に由来すると論じる(Sitkoff 2004, 639)。Sitkoff(2004, 639)自身が言及しているように、こうした見方は企 業の「契約の束」モデルと類似性を有し、Jensen and Meckling(1976)による 分析と同様に「信託のこの概念は信託法のエージェンシーコスト分析の実行可 能性を含意する」のである(Sitkoff 2004, 639)。 ではこうした「信託法のエージェンシーコスト分析」を可能にする「組織的 な構成体として働く事実上の法主体」である「信託」において忠実義務はどの ように捉えることができるか。Sitkoff(2004, 640)によれば、信託のプリンシパ ル=エージェント関係は受託者が関与する「設定者と受託者との関係」と「受 益者と受託者との関係」という重層的な二つの関係とされる。受託者の忠実義 務もこれに即して把握されなければならない。具体的に前者の関係は信託法の 経済分析を特徴づける「時間的な(temporal)エージェンシー問題」を惹起し、 後者の関係は「リスク負担が管理(management)から分離されている」もと
での「伝統的なエージェンシー問題」を引き起こす(Sitkoff 2004, 640)。ここ で「時間的なエージェンシー問題」は「設定者の本来の要望(wishes)に対し て受託者が忠実であり続けるか否か」を、「伝統的なエージェンシー問題」は 「受託者=管理権者が受益者=残余財産請求権者の最善の利益において行動す るか否か」をそれぞれ内容とする(Sitkoff 2004, 683)。だがこうした二つの「関 係」は「設定者に対する受託者の忠実と受益者に対する受託者の忠実との間 に重大な緊張が存在する可能性」(Sitkoff 2004, 640)を生み出さざるを得ない。 Sitkoff(2004, 640)は信託法が「設定者によって課された事前的な制約(ex ante constraints)のなかで受益者の厚生を最大化することを受託者に要求」し、こ れによって「この緊張を解決する」としている9)。この「解決」は「受益者が 事前的な同意(ex ante consent)を与えるとは通常考えられず」「典型的には交 渉する立場にない」(Sitkoff 2004, 639)ためであり、同時に贈与的信託におい て「贈与者の意思が支配する」(Sitkoff 2004, 640)ことを示している。「贈与者 の意思」(Sitkoff 2004, 640)の「贈与者」が贈与的信託の設定者であることは いうまでもない。ここで両者は同義と理解してよい。 プリンシパル=エージェント関係としての信託をSitkoff(2004)に従って捉 え直すことにより、受託者の忠実義務について自らが関与する重層的な二つの 関係のなかに位置づけて理解することができた。両者の間に生じる緊張を解決 する統合的な役割が信託法にあることも一般的に解明された。こうしたSitkoff (2004)の解明に西山(2018; 2019)によるプリンシパル=エージェント関係の 把握を重ねることにより忠実義務のさらなる分析が可能になる。これによって 忠実義務とそれが抑止するエージェンシー問題の性質が明らかにされるであろ う。 プリンシパル=エージェント関係としての信託に関する西山(2018; 2019) の把握はそのなかでの意思決定の帰属に関連しており、これこそプリンシパル =エージェント関係としての信託の独自性を本質的に規定している。具体的 にプリンシパル=エージェント関係においてエージェントは裁量的な意思決定
が独自に可能であるのが通常である。それゆえにエージェンシー問題が発生す ることとなる。信託におけるエージェントは受認者たる受託者であった。だが 信託の場合、エージェントである受託者に裁量的な意思決定が必ずしも帰属し ない。意思決定の帰属を規定する能動信託(active trust)と受動信託(passive trust)の概念を把握する必要がある(西山 2018, 20-21; 2019, 24-25)。Restatement
of the Law, TrustsとUniform Trust Codeに基づき、能動信託と受動信託の概念を
明らかにしよう。まずRestatement Third, Trusts §6(1)によれば「履行すべき積 極的義務を信託条項によって受託者が有するならば信託は能動的(active)で あり、受託者の唯一の義務が受益者による信託財産の享受を妨げないことであ るならば信託は受動的(passive)である」とされる。また「受動信託の受益者 は当該の受益者のために受動的に保有される財産の移転を請求次第受ける権利 を付与される」(Restatement Third, Trusts §6(2))と定められる。さらに「能動 信託」と「受動信託」とのやや詳細な区別について、Restatement Third, Trusts §6 Comment on Subsection (1) cでは「信託条項が受託者に積極的義務を課すな らば」信託は能動信託であるとし、具体的な「積極的義務」として「地代と 利潤の収受、信託投資の責任遂行、信託財産の全般的な管理」を挙げる。他 方「受託者の義務」が「信託財産を使用し享受する受益者の権利を妨げない義 務」のように「完全に消極的(negative)であるならば」信託は受動信託であ るとしている。同様の規定はUniform Trust Codeにも見出すことができ、U. T. C. §402「設定の要件(Requirements for Creation)」には信託を設定する要件の一 つとして「受託者が履行すべき義務を負う」ことが定められている(U. T. C. §402(a)(4))。これについてU. T. C. §402 Commentでは「信託は受託者が履行 すべき義務を負う場合に限り設定されるという標準的な法理を詳述している」 とされる。受動信託については、「受託者の義務は能動的であるのが通常」で あるとしつつ、「有効とされる義務が受動的であることもある」とし、ここで は「受益者による信託財産の享受を妨げない義務を受託者が有する場合」のみ が含意されるとしている。
以上の能動信託と受動信託の概念を前提とすると、信託においてエージェン トたる受託者への意思決定の帰属は能動信託または受動信託のいずれである かによって異なる。一般的なプリンシパル=エージェント関係のように信託 においてエージェントたる受託者に固有な意思決定が可能であるのはこれが 能動信託として設定される場合に限られる。受動信託として設定された信託 で、エージェントである受託者は積極的に行為すべき権利および義務を有し ておらず、裁量的な意思決定も認められない。信託はエージェントが裁量的 な意思決定を行わないプリンシパル=エージェント関係ともなり得るのであ る。では受動信託において意思決定は受託者以外のどの者に帰属するか。これ はRest. 3rd, Trusts (Prudent Investor Rule) §228で規定されている。ここで信託の 基金を投資するに際して、受託者は信託条項によって明示的または黙示的に付 与された権限を有するとともに、「受託者による投資を指図または制限する信 託条項に従う義務を受益者に対して負う」と定められている。すなわち「一般 に受託者は信託条項によって明示的または黙示的に授権された財産に対し、信 託条項によって明示的または黙示的に授権された方法により適切に投資をなし 得る」(Rest. 3rd, Trusts (Prudent Investor Rule) §228 Comment on Clause (b) d)。 Restatement Third, Trusts §75; Restatement, Second, Trusts §185も「受託者の一定の 行為を指図または他の方法で支配する権限」を定めており、同様の規定である といえよう。いま意思決定がSitkoff(2004)による重層的なプリンシパル=エー ジェント関係の内部で進められるとすれば、受動信託においてこうした「指図」 または「制限」を行う主体は必然的に受託者以外の信託当事者となる。すなわ ち受動信託における意思決定は設定者または受益者に帰属するのである。 受託者が関与する「設定者と受託者との関係」と「受益者と受託者との関係」 という重層的な二つの関係からなる信託のプリンシパル=エージェント関係に 関するSitkoff(2004, 640)の把握に、信託におけるこうした意思決定の帰属を 重ねることにより、忠実義務とそれが抑止するエージェンシー問題の性質が明 らかにされる。
まず信託が能動信託として設定され、意思決定がエージェントたる受託者に 帰属する場合、受託者の忠実義務はどのように捉えられるか。能動信託におい てはエージェントたる受託者による裁量的な意思決定が可能であるから、設定 者との関係においては受託者による信託財産の管理上の決定が設定者の意思と 整合するか否かが忠実義務の内容となる。ここで不実(disloyalty)による信認 義務違反が発生すれば、それは「設定者と受託者との関係」において惹起され 得る「時間的なエージェンシー問題」である。他方、受益者との関係において 受託者の忠実義務を規定するのはその裁量的な意思決定が受益者の利益から乖 離していないということである。ここでの義務違反は直接に受益者の利益を侵 害するので、「リスク負担が管理から分離されている」もとでの「伝統的なエー ジェンシー問題」(Sitkoff 2004, 640)にほかならない。このように能動信託に おける受託者の忠実義務は、その管理上の裁量的な意思決定と設定者の意思と の整合性、また受益者の利益からの意思決定の乖離の有無によって「設定者と 受託者との関係」と「受益者と受託者との関係」の両者において同時的にエー ジェンシー問題をもたらす可能性があると考えられる。Sitkoff(2004, 640)の理 解に従えば、能動信託において忠実義務に関連するエージェンシー問題は「時 間的なエージェンシー問題」と「伝統的なエージェンシー問題」の双方として 現れるのである。 しかし信託が受動信託である場合はどうか。いま信託当事者すなわちSitkoff (2004)のプリンシパル=エージェント関係の内部における意思決定を対象と し、関係の外部におけるそれは捨象しているので、ここで意思決定が帰属する のは設定者または受益者である。ここで受託者は裁量的な意思決定を行わず、 設定者または受益者の意思に従って信託財産を管理することとなる。 まず設定者に意思決定が帰属する受動信託を考える。受託者は設定者の意思 に従って信託財産を管理するので、ここで忠実義務として直接に問題となるの は受託者が設定者の意思に従っているか否かであり、受託者の不実によるエー ジェンシー問題は「設定者と受託者との関係」において生じ得る「時間的なエー
ジェンシー問題」である。だがその際に設定者は受益者の利益を目的に信託を 設定(Restatement Third, Trusts §2)し、また受益者の権利の範囲は設定者の意 思に規定される(Restatement Third, Trusts §49)のであるから、設定者に対し て忠実義務違反があれば、その帰結において受託者は受益者に対して不実と なる。ゆえに設定者に意思決定が帰属する受動信託では、プリンシパル=エー ジェント関係のうちまず前者の「設定者と受託者との関係」において忠実義務 が妥当し、「時間的なエージェンシー問題」を直接に発生させる一方、これは 「受益者と受託者との関係」において「伝統的なエージェンシー問題」に帰結 する可能性を持つ。 次に受益者に意思決定が帰属する受動信託ではどうか。この受動信託で受託 者は受益者の意思決定に従って信託財産を管理することとなるので、その意思 に従って行為することが忠実義務の直接の内容となる。またこの義務違反はそ のまま受益者の利益を損なうので、エージェンシー問題としては「受益者と 受託者との関係」において生じ得る「伝統的なエージェンシー問題」となる。 だが同時に設定者は受益者の利益を目的として信託を設定するため、受益者 による受託者の恣意的な解任といった「設定者と受益者の間の緊張」( settlor-beneficiary tension)が顕在化しない限り(Sitkoff 2004, 657-658, 663-666)、設定 者の意思は受益者の権利の範囲を通じて後者の「受益者と受託者との関係」を 規定している。とすると受益者との関係における受託者の不実は「受益者と受 託者との関係」において直接に「伝統的なエージェンシー問題」となるととも に「設定者と受託者との関係」において「時間的なエージェンシー問題」に帰 結する可能性があるといえる。 以上のようにプリンシパル=エージェント関係としての信託における受託者 の忠実義務は、受託者が関与する重層的な関係のなかで、意思決定の帰属に よって、直接には信託が能動信託と受動信託のいずれに設定されるかに基づい て異なる性質を有していた。具体的にエージェントたる受託者に意思決定が帰 属する能動信託において、受託者の忠実義務は「設定者と受託者との関係」と
「受益者と受託者との関係」の両者で同時的にエージェンシー問題をもたらし、 「時間的なエージェンシー問題」と「伝統的なエージェンシー問題」の双方と して発生し得る。また受動信託においては受託者に意思決定が帰属せず、設定 者または受益者の意思に従って信託財産を管理する。この受動信託において受 託者は意思決定が帰属する設定者または受益者に対して直接に忠実義務を有 し、前者との関係での「時間的なエージェンシー問題」または後者との関係で の「伝統的なエージェンシー問題」を惹起する可能性がある。しかしいずれも 意思決定が帰属する一方の信託当事者との関係における直接のエージェンシー 問題だけでなく、その帰結として他方の信託当事者との関係においてそれぞれ のエージェンシー問題が生じる可能性を受託者は併せ持つのである。受動信託 のエージェンシー問題が設定者と受益者に対する受託者の関係の双方において 発生することは能動信託と変わらないが、能動信託では両者が同時的である のに対して、受動信託では一者が直接的に発生し他者がその帰結として発生す る。さらにそうしたエージェンシー問題の発生は設定者と受益者のどちらに意 思決定が帰属するかによって規定される。このように信託に内在するプリンシ パル=エージェント関係の独自性が忠実義務とそれに関するエージェンシー問 題の性質を規定するのである。
結語にかえて
プリンシパル=エージェント関係を適用した忠実義務の考察は以上のようで あった。信託法では利益専一の規定が実質的に忠実義務の内容をなしている一 方、現代の信託法において受託者に対する利益専一の規定は従来のように厳格 な規定とされておらず、適用除外が拡大されている。Langbein(2005)によれ ばここには端的に「受益者の利益専一」から受益者の「最善の利益」の追求へ の転換がみられる。さらに信認関係として信託を捉えるならば、忠実義務とそ の内容たる利益専一の規定は第一次的な信認義務であること、エージェンシーコストを伴うエージェンシー問題という信認関係に共通する「経済的構造」を 反映した「法理」であること、かかるエージェンシー問題に対する「抑止」を その機能的核心とすること、をSitkoff(2014)に従って一般的に捉えることが できた。信託に形成されるプリンシパル=エージェント関係のさらなる理論的 な把握をこの解明に重ねることにより、最後に受託者の忠実義務について独自 なプリンシパル=エージェント関係としての信託に内在した考察を示し、忠実 義務とこれが抑止するエージェンシー問題の性質が信託における意思決定の帰 属によって規定されることを明らかにした。 西山(2020)は設定者の意思がプリンシパル=エージェント関係としての信 託にどのように妥当するかを検討し、設定者の意思に関連する信託法の規定が 同時にこの意思に伴うエージェンシー問題を抑止する手段として、または他の 信託当事者による裁量的な意思決定との関係のなかで設定者の意思を妥当させ る手段として機能すると考えられることを示唆した。本稿はこの論点に関する 一つの考察ともなっている。信認義務とその意義については今後のさらなる研 究によって解明が進められなければならないであろうが、その際には本稿にお いても言及したSitkoff(2004, 640)による「時間的なエージェンシー問題」と 「伝統的なエージェンシー問題」がどのような内容を有し、どのようなエージェ ンシーコストを発生させるかについて一層立ち入った解明が求められるであろ う。しかし同時にプリンシパル=エージェント関係としての信託における意思 決定の帰属とその効果を捉えた考察が必要とされることは本稿と同様であろ う。 (注) 1) プリンシパル=エージェント関係の概念を適用した信託法に関する研究史の概 観は西山(2018, 2-5)に与えられている。本稿で言及する研究にも精粗の差こそあ れすべて言及されている。 2) 日本の信託法にも言及する機会がある。その際、現行の信託法は平成18年(2006 年)法律第108号、旧信託法は平成18年(2006年)法律第109号による改正前の信託
法で、大正11年(1922年)法律第62号である。また信託業法は平成16年(2004年) 法律第154号である。 3) 第Ⅰ節で指摘したように、これは日本の信託法においても第31条第2項に同じ内 容の規定がある。「信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき」 には第31項第1項に定める利益相反行為の制限が適用されない。 4) 公平義務は受益者の種類に関係なく妥当する信認義務であり、Restatement Third, Trusts §79もこれを定めている。ただし家族間での相続に関連したLangbein(2005, 938-939)の事例に即していえば連続受益者(successive beneficiaries)に関する公 平義務が直接の問題となる。なおRestatement of the Law, Second, Trustsでは一般的 な公平義務を規定するとともに、特に連続受益者に関するそれを別に定めている。 前者の規定がRestatement, Second, Trusts §183、後者が§232である。Langbein(2005, 939)の事例では、§232により受託者が規制され、「連続受益者に対してそれぞれの 利益に適切な考慮を持って行為すべき義務を負う」こととなる。 5) 日本の信託法では受託者の信託報酬について第54条第1項により定めている。こ れによると、商法(明治32年(1899年)法律第48号)第512条による報酬請求権の 規定が「信託の引受け」に対して適用される場合と「信託行為」によって「受託 者が信託財産から」「信託報酬」を受ける旨が定められている場合に限り、受託者 は信託財産から信託報酬を受けることができる。また旧信託法では第35条により原 則として「受託者ハ」「報酬ヲ受クルコトヲ得ス」とされるが、「営業トシテ信託ノ 引受ヲ為ス場合」と信託に「特約アル」場合を例外とする点は現行の信託法と同 様であるといえる。
6) ただし同じRestatement Third, Trusts §78 Comment on Subsections (1) and (2) c(6) で、信託における待機資金の預金に一般的に適用される受託者の慎重義務(trustee's duty of prudence)に当該の預金の約定が完全に合致することを受託者は説明可能で なければならないとしている。これと利益専一規定の適用除外とを一体に理解し なければ十分といえないであろう。 7) 以下でも言及するが、こうした信認義務の理解はSitkoff(2014, 201-202)に示され ている。またこの節の考察の一部は西山(2018)の解明を基礎としている。 8) 信認義務に対する法と経済学からの最も早い研究の一つであるCooter and Freedman(1991)においてこの「抑止」はすでに詳しく考察されており、主要なモ デルが提示されている。Sitkoff(2004, 636-637)にも言及がある。 9) この論点のさらなる解明には設定者と受託者との契約の問題について考察する 必要がある。差し当たり基本文献であるLangbein(1995)を参照せよ。またこれに 対するプリンシパル=エージェント理論からの批判としてSitkoff(2004, 629-631)を 併せて参照。
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ABSTRACT
The Economic Foundation of the Fiduciary Duty: Focusing on the Trustee’s Duty of Loyalty*)
Shigeru Nishiyama
(Department of Regional Economics, Kyushu International University) This paper provides an economic analysis in the fiduciary duty in trust, focusing chiefly on the duty of loyalty, which is grounded in the rules governing the trustee, from the perspective of the principal-agent approach. The analysis applying the principal–agent relationship associated with agency costs offers new insights into the general nature and effect of the trustee’s duty of loyalty, clarifying the economic structure and efficiency of trust as a fiduciary relationship. Among the major results of the paper are that the duty of loyalty, with the intention of proscribing misappropriation and deterring the conflicts of interest between trust parties, is specified as the sole interest rule in today’s trust law, requiring the trustee to act in the interest of the beneficiary; that the substitution of a best interest rule for the traditional sole interest rule has been recently observed particularly in the application of American trust law; that the duty of loyalty is one of the primary fiduciary duties in the proper management or disposal of trust properties, by means of having the trustee conduct acts in accordance with the main purpose of trust; and that the distribution of discretionary power between trust parties determines the characteristics of agency problems embedded in trust, regulating agency behaviors through the duty of loyalty.
Keywords: Trust; Duty of loyalty; Fiduciary duty; Principal-agent relationship; Agency
problem; Active trust; Passive trust; Fiduciary relationship.
* ) This work has been financially supported by JSPS Grant-in-Aid for Scientific Research (C), No.19K01771.