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木質系バイオマスのガス化と高純度水素製造

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(1)

木質系バイオマスのガス化と高純度水素製造

張其武

*1

,加納純也

*1

,齋藤文良

*1

Gasification of Renewable Energy Source of Biomass and

Production of High-purity Hydrogen

By Qiwu Zhang

Jun-ya Kano

Fumio Saito

This paper is provided to review current process for producing hydrogen (H2) from biomass wastes such as wood

tips and straws containing cellulose. We focused at first on the applications of H2as energy, then introduced a

new process for generating H2from the biomass wastes by grinding it with a mixture of Ca(OH)2and Ni(OH)2,

followed by heating at around 400 ℃. The gasses emitted from the mixture in a furnace are CH4, CO and CO2

besides H2. The concentration of H2is over 95%, while, that of CH4is about 5% and those other gasses (CO and

CO2) are below 0.1%. This grade of gasses is suitable for the feed gas in solid state fuel cells of phosphate type.

The role of grinding the mixture is to disperse cellulose into the additives, and Ca(OH)2plays a significant role in

heating stage to capture CO and CO2generated from mainly the biomass (cellulose and lignin), as shown ideally

in the following reaction.

C6H10O5+ 6Ca(OH)2+ 0.5Ni(OH)2= 11.5H2+ 6CaCO3+ 0.5Ni (1)

We have confirmed that this process can be applicable for generation of H2from plastic wastes containing H in

their structures. The mechanism of the generation of H2from the plastics is dependent on their composition and

structure. All the same, Ni(OH)2is also important reagent for generating H2, and its form in the product after

heating is Ni, as a reductive product.

(Received on February 15th, 2011)

1

水素

水素(原子番号1,元素記号H,原子量1.00794)は,例えば,アンモニア製造(ハーバー・ボッシュ 法)における原料である.また,水素を塩素ガスと混合し,光を照射すると塩酸が製造できるし,油 脂に加えて炭素同士の二重結合を減らし固体化し,トウモロコシ油やマーガリンができるなど,多く の製品の原料としての用途がある.水素は,還元剤としての用途もある.例えば,金属鉱石(酸化物) の還元,ニトロベンゼンの還元によるアニリンの製造,ナイロン66製造におけるベンゼンの触媒還 元,一酸化炭素を還元してメチルアルコールを合成する場合などに使われている.水素の第3の用途 は燃料である.例えば,内燃機関の燃料として水素燃料エンジンを積んだ水素自動車がある.また, ロケット燃料としても用いられるし,各種燃料電池への供給ガスとしての用途がある. 水素は燃やすと水のみが生成することから,環境にやさしいエネルギーと見なされる.ただし,水 素が化石燃料から製造される限りは,水素を化石燃料の代替として利用してもそのまま化石燃料の消 費量が削減されたりCO2の発生が抑えられたりすることにはならない.

2

水素とその製法の現状

水素は,ソーダ工業や製塩業において海水の電気分解の副生品としても発生するが,その多くは, 天然ガス(メタン(CH4))を原料として水蒸気改質法(SMR)によって製造される.この方法は,以 下の三つのステップ(プロセス)から構成され,安価で大量に水素を製造することができる[1]. 第一ステップは,(2)式で示されるように,金属触媒を用い,700∼1000℃,15∼25気圧下でメタン (CH4)と水蒸気(H2O)を反応させ一酸化炭素(CO)と水素(H2)を得る. CH4+ H2O−→ CO + 3H2 (2) *1東北大学多元物質科学研究所

(2)

第二ステップは,(3)式で示されるようにFeやクロム系とZnOやCuなどを触媒とし,(2)式で生

成したCOを200∼475℃で水蒸気と反応(水性ガスシフト反応)させ,CO2とH2を得る.ここで

生成するH2濃度は全体ガスの70∼80%であり,残りはCO2の他,CO,CH4,H2Oである.

CO + H2O−→ CO2+ H2 (3)

第三ステップは,生成したガス(CO2, H2等)を圧力スイング吸着(PSA)法で分離し,H2を選択的

に回収する.この方法を水蒸気メタン改質(steam methane reforming,SMR)といい,いくつかの

問題を抱えている.すなわち,CH4はそれ自体が化石燃料であり,エネルギーとして活用でき,その 過程で生成する副産物を考えると,本方法で製造される水素は真にクリーンなエネルギーとは言い難 い.更に,SMRは量論的にはCH4と水のモル比は1:1であるが,実際は炭素析出を抑制するために 水をCH4の1.5∼5倍多く導入しており,更には高温での反応であるためエネルギー消費量が大きく, 経済性が課題である.更に,SMRはH2をCO,CO2などと分離する必要がある.

3

化石燃料の温存と再生可能エネルギー資源の開発

現代社会の主要なエネルギー源は,石油や天然ガス,石炭等の化石燃料と原子力である.その中で, 化石燃料資源は,採掘可能年限はそれぞれ異なるが,今後も永続的に採掘でき,化石燃料が利用可能 状況にあるとは言えなく,やがては枯渇する運命にある.

Fig.1 Structure of cellulose. そこで注目されているのが太陽光,風力,波力,バイオマ ス(Biomass)などの再生可能エネルギー資源である.バ イオマスは,「再生可能で,生物由来の有機性資源で化石資 源を除いたもの」と定義され,いくつかの特徴を持つ.そ の一つが,「カーボンニュートラル」である.バイオマスと しての植物はそもそも光合成により大気中の二酸化炭素の 炭素原子を取り込み成長する.その植物を燃焼して二酸化炭素(CO2)を排出しても,大気中のCO2 の総量には影響を与えないと言う考え方である[2].バイオマスの持つもう一つの特徴は,“再生可能 資源”である.バイオマスの源は,植物によって取り込まれた太陽エネルギーであり,植物を使って得 たエネルギーは,太陽光,風力などの持つエネルギーと同じで,再生可能エネルギーとなる[3]. バイオマスの種類は多岐にわたるが,間伐材,稲わら,木屑,ダムの流木のような木質系バイオマ スはFig.1に示すセルロース((C6H10O5)n)とFig.2のヘミセルロースが全体の約70∼75%であり, その他はリグニンと水から構成されている.木質系バイオマスの特徴は,(1)賦存量は膨大であること と,(2)発生箇所は多岐にわたる,という点であるが,一回当りの発生量は小さく,大きさも不揃いで 水分が多く極めて利用しにくい.また,主成分のセルロース(Figs.1-2)は,植物細胞の細胞壁および Ferulic acid Esterase Acetyl-xylan esterase L-Arabinofuranosidase Endo-xylanase Exo-xylosidase Ferulic acid Esterase Acetyl-xylan esterase L-Arabinofuranosidase Endo-xylanase Exo-xylosidase

(3)

繊維の主成分であり,物理的にも化学的にも非常に安定であり,冷水にも熱水にも汎用有機溶媒にも 溶けず,また,酸や塩基にも強い.セルロースは木材などではヘミセルロースやリグニンと結合した 状態で存在するが,特にリグニンと結合したセルロースは単独状態よりも更に化学的に安定であるた め,分解は非常に困難である.その賦存量は膨大であり,バイオエネルギーとして期待されている. セルロース系バイオマスのエネルギー変換プロセスは,ガス化,油化,炭素化などがあり,ハンドリ ング性向上,エネルギー密度の高度化として,超高速分解法や超臨界法などを中心に様々な取り組み が世界的に行われている.

4

政府の施政・取り組み

経済産業省では,平成20(2008)年3月5日,「Cool Earth−エネルギー革新技術計画」に関する報 告書を公表している[4].その検討の背景として,2007年5月,当時の総理が「美しい星50(クール アース50)」を発表し,世界全体の温室効果ガス排出量を現状に比して2050年までに半減するという 長期目標を提案した.この目標実現には,革新的技術の開発が不可欠となったが,その革新技術計画 の中で,重点的に取り組むべき21の革新技術の一つ,「水素製造・輸送・貯蔵」が挙げられ,飛躍的な 低コスト化水素製造技術として,“再生可能エネルギー”の利用がある.これによると,2015∼2020年 頃に水素のコストは40∼80円/Nm3 を目指し,CO2排出削減に貢献することが期待される,とある.

5

バイオマスからの水素製造

木質系バイオマスのガス化については,高温下での水性ガス化反応((3)式(吸熱反応))によるH2 とCOを製造する研究がある.これはバイオマス(C)を部分酸化して得られる熱量を水性ガス化反応 に利用し,残りの生成物を約800∼1000℃に加熱し,水蒸気を添加してH2とCOから成る合成ガス を製造する方法がある[5](特開平5–287282号公報).これによれば,バイオマスから他の燃料を用 いることなくH2とCO濃度の高い合成ガスを製造できる.このように,水性ガス化反応ならびに(3) 式で示されるCOシフト反応(発熱反応)により水素が製造できる. C + H2O = CO + H2 :水性ガス化反応(吸熱) (4) H2とCO2を含む合成ガスから水素を濃縮するにはCa(OH)2が用いられ,CO2を吸収してCaCO3 になり,水素が精製できる.また,例えば,ごみからチャー(C)を製造し,更に,ごみ焼却設備にお ける廃熱を利用して水蒸気(H2O)を製造し,チャーを加熱炉に戻して水性ガス化反応によりH2と COから成る燃料用改質ガスを製造する方法も提案されている[6](特開2001–192675号公報).いず れにしてもこの水性ガスシフト反応や水性ガス化反応には触媒が必要であり,触媒には,金属(鉄, 銀,白金,ルテニウム,パラジウム及びロジウムの内少なくとも一種の金属)を担持させた木質系バ イオマスの炭化物が使われ,その量は,該炭化物に対し質量比で0.1∼10%である.また,加熱温度 400∼600℃の範囲で多量の水素を含むガスを製造することができる[7](2005.11.1特許出願(東京電 力株式会社)).水性シフト反応における新しい触媒の開発については,蓮尾,内山の研究がある[8]. すなわち,バイオマス水性ガスシフト反応による高活性水蒸気ガス化触媒は,Ni-K/Al2O3担持触 媒であるとしており,この反応では,Ni-Kの順番で担持した逐次担持法で調製した触媒がNi担持量 0.5mmol/g-支持体(金属換算で3mass%以下)で水素収率が60%以上になることを明らかとしてい る.また,福岡水素エネルギー戦略会議研究開発事業報告(平成18–19年)によるとFig.3に示すよ うに木材を高温でガス化し,脱硫,脱CO2してH2とCO混合ガスを生成できる[9].この研究開発 事業では従来の900℃での改質反応プロセスを経ない新しいプロセス開発と実証試験が行われた.そ の研究では,カリウム金属塩を触媒としたベンチテストで,ガス化反応温度が600℃程度で水素収 率=20∼30%,水素発生量=15-20mmol/g-celluloseという結果を得ている.また,実証試験ではガ ス化率93%,水素発生量は2.9m3/10kg-cellulose,となっている.また,森ら[10](弘前大学理工)

(4)

Removal of CO2 Removal of S

H

2

, CO

Gasification

Biomass

+Additive

CO, CO2, H2, S CO, CO2, H2 CO2

Fig.3 Gasification of biomass by heating with catalyst. はバイオマスと高温水蒸気との反応によって水素ガス 発生の研究を行っている.それによると,セルロース 原料からの700℃でのガス化率は70%,水素発生量 はCO,CO2 ガス量の約半分(水素濃度=50%)と なっている.バイオマスからの水素発生の商用化につ いては,2010年3月2日,(株)日本計画機構の「バ イオマスからの水素製造技術(ブルータワー技術)」を 使った水素製造プラントが福岡県に建設されることが 決定した[11].これは農林水産省が募集した助成金事 業(平成21年度補正予算「地域資源利用型産業創出 緊急対策事業」の高効率バイオマス変換施設の実証) の一つで,プラントの核となる先進技術は,ドイツか ら導入,独自の開発を加えて昨年初頭には「バイオマ スからの水素製造」の特許を日本で取得した.初期コ ストとなるプラント建設費用のうち(2/3)が助成され る.木質バイオマスを使った商用のガス化および水素 製造施設は世界で初めてであり,技術の特徴は,「部分酸化ではなく還元状態でのガス化であること」 「セラミックボールを熱の媒体として使用すること」などで,多くのバイオマスからのガス化プラン トのネックとなっているタールの発生が非常に少なく,水素リッチなガスが生産できることなどがあ げられる.これまでこの技術では,環境省などの実証事業として作られた実証プラント(木質バイオ マスの使用量1日1トン規模)が2基あったが,今回建設予定のものは本格的な商用としてスケール アップされた最初のプラントとなる(http://www.jpo-net.co.jp/).バイオマスのガス化研究は,海 外でも盛んで,例えば,NEDO海外レポート(NO.1004, 2007.7.25)によると,米国における多糖 類(セルロース=C6H10O5)から水素製造の新手法が掲載されている[12].それによると,2006年 の米国エネルギー省発表では,2020年までに水素で走る燃料電池車を普及させることを目指している という.それを踏まえ,バージニア工科大学,オークリッジ国立研究所,ジョージア大学他では,バイ オマスから安価に水素を直接生産する提案があるという.森林資源を育成するには間伐が必要であり, その量は毎年大量に排出される.また,稲わらやバガス(サトウキビから砂糖を絞った後の残渣)な どは有力な水素製造原料となりうるバイオマス資源である.しかしながら,いずれのプロセスも,発 生ガスには水素の他CO,CO2ガスが含まれ,高純度水素を得るにはガス分離操作が必要であり,ま た,水素ガス発生収率は高くとも60∼70%の範囲である。更なる収率向上のための研究[13–16]が重 点的に進められている.

6

メカノケミカル前処理バイオマスの熱分解による水素製造

[17–19]

Cellulose ( (( (C6H 10O5))))nnnn Inorganic Additives

Grinding (Mixture)Products

Non-oxydative condition

Heating H2

Fig.4 A process for generating hydrogen from biomass through mechanochemical treatment. 筆者らは非食用バイオマスからの高純度水素 製造を試みている.その手法は,原料のバイオマ スに無機物を添加し,まず,乾式粉砕(メカノケ ミカル処理)して適度な均一度を持った混合物を 製造する.次に,粉砕物を非酸化雰囲気下で400 ℃程度に加熱する.加熱によって混合物は熱分 解され,結果として高純度水素が発生する.筆者 らの手法をプロセスとして表示するとFig.4のようになる.すなわち,まず,原料(バイオマス)を予 備粉砕してチップ状あるいは大鋸屑程度の粒度に調整する.細かくなったバイオマスに無機物を添加

(5)

- 4 0 - 3 0 - 2 0 - 1 0 0 D T A T G W e ig h t c h a n g e ( % ) 0 2 0 0 4 0 0 6 0 0 8 0 0 1 0 0 0 H 2 C H 4 H 2O C O C O 2 T e m p e r a t u re / oC - 4 0 - 3 0 - 2 0 - 1 0 0 D T A T G W e ig h t c h a n g e ( % ) 0 2 0 0 4 0 0 6 0 0 8 0 0 1 0 0 0 H 2 C H 4 H 2O C O C O 2 T e m p e r a t u re / oC

Fig.5 TG-MS spectra of the gases emitted from a mixture after grinding for 2h.

して乾式粉砕し,均一混合とメカノケミカル効 果の発揮によってセルロース結合を破壊ないし は結晶構造を変化させる.この状態の混合物を 非酸化状態(酸素濃度がゼロ)で加熱すると,セ ルロースやヘミセルロース中の炭素(C)と酸 素(O)は無機添加物と反応し,無機炭酸塩とな り,セルロースやほかの添加物からも水素(H) が発生する.Fig.5にはセルロース−Ca(OH)2 -Ni(OH)2系混合物の粉砕産物を加熱した場合に おける発生ガスのTG-MS分析結果を示す.粉 砕物を加熱し,水素発生後の固体残渣の組成を 調べた結果,CaCO3とNiが残渣となる.つま り,Ca(OH)2はセルロースの熱分解過程で発生 するCO2 を固定し,CaCO3 となり,同時に, Ni(OH)2 は還元されてNi(金属)が生成する. このときの反応は,以下のようになる.

(C6H10O5) + 6Ca(OH)2+ 0.5N i(OH)2= 11.5H2+ 6CaCO3+ 0.5N i (5)

200 4 00 60 0 80 0 Ni NiO Ni(OH) 2 Temperature oC

2

(2h)

MS

Fig.6 MS spectra of the gas emitted by heating a mixture of cellulose with different Ni-compounds, after milling for 2h.

Fig.7 Photos of products before and after heating. 原料に添加するCa(OH)2とNi(OH)2において,前 者は加熱過程で発生するCO,CO2を固定する役割 があり,結果としてCaCO3が生成する.また,後者 はセルロースから水素を積極的に追い出す役割を果た し,自身は還元されてNiになる.ここで,セルロー ス(1モル分子量=162g)1kg当たりのH2量(理論 量)は理論的には61.7gであるが,実際にはセルロー ス1kg当たり発生水素は59.9g(発生率=97.1%)とな る.再現実験の結果,水素発生率が95%を下回ること はなく,したがって,セルロース単独試料からの水素 発生率は95%以上である.無機物質としてCa(OH)2 とCaOの2種類を使い,水素発生量に及ぼす添加物 の影響を調べると,Ca(OH)2 からの方がCaOに比 較して多い.また,Ni(OH)2とNiOやNiとを用い て水素発生量を比較すると,Fig.6のように水酸基を 持つNi(OH)2を用いた場合が水素発生量は多い.こ のことから,水素は,セルロースのみからだけでは なく,無機添加物からも発生する可能性があると云 える.なお,セルロース(バイオマス)原料に対して Ca(OH)2 を6モル添加で水素は11.5モル精製する が,Ca(OH)2を6モル以下に低減すると,Fig.7に 示すように粉砕物の色は原料混合物と同じ白色である が,加熱後の固体残渣の色は黒色になり,このことは 炭素(C)が生成していることを示す.ここで生成した Cを熱源にすると残渣のCaCO3がCaOになり,水 和させてCa(OH)2にリサイクルできる.C量は,原

(6)

料へのCa(OH)2添加率を調節することで制御できる.ところで,H2発生の阻害因子としては硫黄 (S)などが原料に混入すると無機添加物(Ca(OH)2やNi(OH)2)と相互作用するので注意が必要で ある. セルロース試薬の他に4種類のバイオマス(稲わら,印刷用紙,コーヒー滓,杉材)(各1kg)に対す る発生H2量(g)を測定した.セルロース1kg当たり水素の理想量は61.1gであるが,本法で水素発 生量を実測すると59.6gであり,発生率は96.8%である.稲わらではセルロースより多く水素が発生 しており,おそらくリグニンからも水素が発生している可能性が大である.杉材については48.4gと なり,セルロースの場合より少ないが,その理由は明確ではないが,原料の前処理による粒度が影響し ているのではと想像している.いずれにしても,本手法では,木質系バイオマス中のセルロースをリ グニンと分離することなくバイオマスそのものを原料にして粉砕と加熱法を併用して高純度水素を発 生することができると云える.なお,バイオマスに添加するCa(OH)2以外の無機物としてFe系,Al

系化合物も試みたが,いずれ効果がなかった.Ni系化合物が効果的で,3種類(Ni, NiO, Ni(OH)2)

の中ではNi(OH)2が最適であった.

次に,セルロースから水素を発生させる反応において熱力学的に考察した結果を下記する.セ

ルロース中の水素のモル数は5molで,水素発生率を95%と仮定すると,生成するH2モル数は

5mol× 0.95 = 4.75molとなり,その生成熱は∆H =−1357kJである.更に,チャー(炭素:C)が

3.2mol生成することになり,その燃焼熱は∆H =−1263kJである.また,セルロースから水素を得 て,かつCaCO3からCa(OH)2へとリサイクルするまでの全熱量 Hf(kJ/mol)を計算すると約-876kJ

となり,加熱過程では上記のリサイクルを考慮しても熱量としては余力があると判定できる.

Fig.8 TG-MS patterns of a mixture of cellulose-LiOH-Ni(OH)2milled for 2h.

なお,バイオマスに添加するCa(OH)2 の量 を調整すると炭素(C) が生成するが,その炭 素,例えば,上記の炭素(C)3.2molの燃焼熱は ∆H =−1263kJであり,CaCO3からCa(OH)2 へのリサイクルに使える.したがって,この炭素 の生成はバイオマス原料(無機添加物を含む)全 体のエネルギー回収率にとって無視できない. 一方,原料(セルロース+無機添加物)と生成 物に対する物質収支を計算し,完全に物質収支が 取れることが確認できた. CO,CO2 固定化のための無機添加物として Ca(OH)2の他に,アルカリ(Li,Na,K)水酸化物, CaOなどが効果的である.Fig.8には,バイオマ スへ添加する無機物としてCa(OH)2の代わりに LiOHを用いた結果を示す.図より,この場合の 水素発生温度はCa(OH)2を用いた時より150℃ 低い250℃で始まり,熱分解後はLi2CO3が生成する.条件にもよるが95%以上の高純度水素である ことが確認できた.Ca(OH)2の代わりにLiOHを用いた場合の反応式は下記のようになる.

C6H10O5+ 12LiOH + 0.5N i(OH)2= 11.5H2+ 0.5N i + 6Li2CO3 (6)

なお,NaOHやKOHはセルロースと反応し,より低温で炭酸塩に生成するが,同じモル単位のセ

ルロースを処理するためには分子量が小さいNaOHの方が必要量は少ない.ただし,ハンドリング性

を考えるとこれら添加物よりはやはりCa(OH)2の方が良い.

ところで,セルロース−Ca(OH)2−Ni(OH)2混合物に対しての熱分解機構を解説すると以下のよ

(7)

となる.つまり,Ca(OH)2はセルロースの熱分解過程で発生するCO2を固定し,CaCO3となり,同 時に,Ni(OH)2は還元されてNi(メタル)が生成する. NiOやNiよりもNi(OH)2の方が水素発生促進効果は大きいが,その主要な理由として,加熱過程 で生成するNi(金属)が超微粒子になるためであり,その触媒効果が発揮されていると考察している. Ni(OH)2は粉砕により微粒化でき,セルロース粒子表面に良く分散され,かつ,無定形化し易い.分 散状態の水酸化ニッケルは加熱過程でニッケル超微粒子になり触媒効果が発揮される.Ni(OH)2は Ni(金属)よりも安価であり,水素発生量が多いことは大きなメリットである. 以上示した粉砕と加熱という簡便な方法で発生する水素の濃度は,いずれも95%以上で,CO,CO2 濃度は0.1%以下に抑制できる.本法は非食用バイオマスからの水素回収法として有力であり,実証 試験を経て実用化に期待が寄せられている.

7

プラスチックス(樹脂)廃棄物からの水素製造

[20–22]

100 200 300 400 500 600 700 0.0 -10 -9 -9 -9 -9 0.0 -10 -9 -9 -9 -9 0.0 -10 -9 -9 -9 -9 0.0 -10 -9 -9 -9 -9 H2O 1 min Temperature, T / o C 10 min CO CO2 30 min CH4 H2O H2 60 min Temperature, T / C

Fig.9 MS patterns of mixtures of

[CH2]/Ca(OH)2/Ni(OH)2 (molar

ra-tio=6:6:1) milled for different periods of time. 前項で示した高純度水素発生法は,原料としてバイ オマス以外にも,例えば,廃プラスチックスなどの樹 脂(廃棄物)にも応用できる.ここで,筆者らの提案 手法を以下に示す.樹脂廃棄物モデル試料として,ポ リエチレン(PE, (CH2)n)など数種類を準備し,これ に無機添加物とNi(OH)2 を添加して乾式粉砕(メカ ノケミカル処理)し,その産物を非酸素状態で加熱し, 水素発生を試みた.その結果,いずれの樹脂(廃棄物) からも高純度水素の発生が確認できる.1例として, PEに対しての結果を述べる. Fig.9には,PE–水酸化カルシウム–水酸化ニッケル 混合粉砕物のTG-MSパターンを示す.温度約450℃ から水素が発生していることが分かる.また,その発 生量は粉砕時間の延長とともに増大している.これよ り,粉砕処理により水素発生は促進されることが分か る.ここでは示さないが,水素発生後の残渣には炭酸 カルシウムとニッケル(金属)が存在し,セルロース を原料とした場合と同様の反応機構で水素が発生して いるといえる.水素発生量は,粉砕時間の延長,水酸 化カルシウムの添加割合と供に増大し,その水素純度 も高く,かつ,メタンガスなどの不純物ガス濃度は低 下する.PE以外でも,ポリビニルアルコール(PVA)やポリスチレン(PS)なども出発原料として用 いることが可能であることが確認されている.

8

むすび

水素は様々な用途があるが,中でも近い将来は燃料電池用の供給ガスとしての期待が大きい.水素 は,工業的には化石燃料から製造されているが,資源の温存,温暖化防止等の視点では再生可能エネル ギー資源,特にバイオマスからの製造法開発が急務である.その一つとして,本稿ではバイオマスの ガス化について現状を解説し,新しいガス化法としての筆者らの手法を紹介した.その方法はバイオ マス原料にCa(OH)2等の無機物を添加して乾式粉砕し,その粉砕産物を非酸素雰囲気下で加熱する

(8)

のみである.加熱時の温度は400℃程度,水素発生率は95%以上,水素濃度も95%以上の品位を持 ち,リン酸系固体電解質燃料電池への供給品位にある.最終生成物(残渣)はカーボン(C),CaCO3, Ni(金属)となり,それぞれ回収あるいはリサイクルできる.本法は,森林資源の点在する内陸でも 適用可能であり,将来の水素ステーションを想定し,製造した水素は燃料電池車等へ供給できる.な お,樹脂を原料とする場合,樹脂構造中に酸素が存在する場合(PVAなど)は,酸素が無い樹脂に比 較して,水素濃度は高く,逆に,ハイドロカーボンだけの成分を持つ樹脂では,メタン(CH4)などが 生成しやすい傾向にある.化石燃料である石油やメタン(CH4)などから水蒸気改質法で水素を発生さ せる場合の温度は700℃以上であること,また,生成ガスから水素を高純度する分離操作等を考慮す ると,本法での粉砕と加熱による熱分解反応は400℃程度で進行するし,ガス分離の必要が無いなど メリットは多く,今後の利用に期待が寄せられている.

文 献

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参照

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