電話相談における宗教協力の意義
著者
谷山 洋三, 森田 敬史
雑誌名
論集
巻
42
発行年
2015-12-31
URL
http://hdl.handle.net/10097/00130335
電話相談における宗教協力の意義
谷 山 洋
森 田 敬 史
1. 「心の相談室」の概要 本研究の対象となった電話相談は, 東日本大震災後の「心の相談室」の活動 の一つである。 まずは, この任意団体の概要を見ておきたいし 2011年3月11日, 東日本大震災の発災後, 仙台仏教会有志は仙台市営斎場で の読経ボランティア活動について検討を始めた。 3月15日に仙台市担当者と火 葬場での読経について協議し, 17日に読経ボランティア活動が開始された。 宗 教的トラブルを避けるためのマニュアルを作成し, 宗派に応じて無償で読経し た。 その後3月末に仙台仏教会, 仙台キリスト教連合, 宮城県宗教法人連絡 協議会が協力して「心の相談室」が設立された。「心の相談室」は宮城県宗教 法人連絡協議会の事業として, 4月4日から仙台市営葛岡斎場での相談活動を開 始し, キリスト教仏教, 神社本庁の相談員が待機し, その後天理教, 立正佼 成会等の相談員も加わった。 すなわち, 斎場l階の炉前には, 前月から読経(及 び祈り)の受付ブースが置かかれていたのだが, それに加えて2階に相談ブー スが設置された。この様子については, 地元紙の河北新報が, 僧侶と牧師が並 んで座る姿を写真付きで報道している三 斎場での活動が許可されたのは4月末までだったため, その発展的展開とし て5月からは宗教者, 医療者, グリーフケアの専門家, 宗教学者が加わり, 新 生「心の相談室」が誕生した\これ以後, 事務局は東北大学大学院文学研究 科宗教学研究室に置かれた。 室長は, 医療法人社団爽秋会理事長の岡部健医師, 室長補佐は仙台キリスト教連合被災支援ネットワーク(東北ヘルプ)事務局長 の川上直哉牧師, 事務局長は東北大学宗教学研究室主任教授の鈴木岩弓教授が l 鈴木岩弓「第8章「臨済宗教師」の誕生 公共空間における宗教者のあり方」磯前順一・ 川村覚文編『他者論的転回専攻と公共空間 』ナカニシヤ出版, 2016に詳しい 2 『河北新報』2011年4月13日版 3 本研究者は両名とも「心の相談室」 の会員であり, 「心の相談室」に関する情報は 両名の活動経験によるものを含む。(42) 谷山 洋三・森田 敬史 就任した。 さらに, 「心の相談室」を支える会, という応援団的組織が生まれ, その会長には, 東北大学名誉教授で仙台ターミナル ・ケアを考える会会長の吉 永馨医師が就任し, 「心の相談室」発足に関わった団体に加えて世界宗教者平 和会議日本委員会など諸団体, さらには賛同者として日野原重明 ・聖路加国際 病院理事長など, 「宗教者による心のケア」に関心を持つ全国の医療福祉心理 の専門家と, 神道・ 仏教・ キリスト教・諸宗教の宗教者が名を連ねた。 ここで新生「心の相談室」の理念を, 会則前文から抜粋する。 これまでの日本では, 死者の弔いは宗教者の責務と位置づけられてきて いるが, 今回のように未曾有の大量死に直面したとき, その弔いは宗教者 にとって, 宗教や宗派を越えて広く取り組むべき大きな課題となっている ものと思われる。 もちろん弔いの儀礼が継続的に行われる一方で, 残された遺族に対して は悲嘆ケア, さらには生活の再編に至る包括的な支援が必要になってくる ことはいうまでもない。 その意味で, ご家族に不慮の死者が出てしまったご遺族に対しては, 宗 教者だけではなく, 悲嘆ケアの専門家, さらには医療や生活支援の専門家 が一体となって支援していかなければならない。「心の相談室」では, ス ピリチュアルケアの観点から, 宗教者による弔いを手始めに, ご遺族に対 する包括的な支援を提供する仕組みを構築していく。 このように, 「心の相談室」は, 超宗教超宗派の立場から, スピリチュアルケ アに基礎をおきつつ, 「弔いとグリーフケア」を活動の中心に据えていること が理解できる。 また, 宗教者同士の連携だけではなく, 医療福祉心理などの専 門職との連携を見据えていることも, 関係団体や賛同者の顔ぶれから推測でき る。 岡部室長が2012年9月27日に逝去した後も, 組織改編をしつつ現在(15年 11月1日時点以下同様)でも活動を継続している。 極めてユニークで, 先進 的な活動である。 具体的な活動としては, 次の5点がある。 (1) 講演会 (2) 弔い (3) 移動傾聴喫茶カフェ ・ デ・ モンク (4) 電話相談 (5) ラジオ版カフェ ・ デ・ モンク
(1)講演会は, 13年2月22日までに4回開催されており, それ以後は共催はある が主催していない。(2)弔いは, 11年6月18日に仙台市営墓苑管理事務所前の身 元不明遺骨安置所(当時は仮設のプレハブ, その後管理事務所内に移設)で百 日合同慰霊祭を実施したのを皮切りに, 毎月11日に各教団持ち回りで月例合同 慰霊祭を実施している。(3)移動傾聴喫茶カフェ・ デ・モンクは, 避難所, 仮設 住宅集会所, 災害復興住宅集会所などで実施されてきた, 傾聴カフェである。 11年5月15日の南三陸町の避難所を始め, 主に石巻市内を中心にして, 現在ま で152回開催されている。(5)ラジオ版カフェ・デ・モンクは地元のFMラジ オ局の番組枠を買い取り, 地元で最も有名なパーソナリティである板橋恵子氏 が司会を務め, 毎回各界の著名人や, 被災地での活動者をゲストに招いた30分 番組である。 第1期(11年10"-'12月)14回,第2期(12年1"-'3月)14回,第3期(12 年4,.,__,5月)12回, 第4期(12年5,.,__,9月)14回, 第5期(13年4,-,._,14年3月)52回と, 合計106回放送され, その内容は「心の相談室」 のホームページで視聴でき る40 2. 電話相談の概要 電話相談は2011年5月から開始され, 同年9月までは牧師l名の携帯電話で対 応していた。 担当者(応答者)の負担が大きく, 相談する側にも携帯電話料金 を負担してもらわなければならなかった。 また, 電波状況や電話のバッテリー 不足によって通話が中断することがあった。 そこで, このようなデメリットを解消するべく, フリーダイヤルの固定電話 を準備し, 同時に他の牧師, 僧侶, 神職などが協力する体制を整備した。 事前 に研修会を開催し, 同年10月からは固定電話2回線で毎週水曜日と日曜日のタ 刻に受電することになった。 固定電話は仙台市内のマンションの一室に設置さ れた。 なお, この活動は14年9月末をもって一旦終了しているが, 現在は再開 の準備をしているところである。 相談姿勢としては, まず相談者の話を傾聴し, 現在の状況を受容・ 肯定し, 支えることを基本としていた(以下, 混同を避けるために, 電話をかけてくる 人を「相談者」, その電話を受ける相談員を「応答者」と呼ぶ)。 固定電話体制 になってからは, 相談者も応答者も, 互いに匿名とし, 一回きりの対応を原則 4 http://www.sal.tohoku.ac.jp/kokoro/blog/
(44) 谷山 洋三・森田 敬史 としていた。 性別による対応, 宗教的な対応が必要な 時には, 相談者の希望に 沿って応答者が交替することも, 約束事としていた。 例えば男性から女性に交 替神職から牧師に交替ということである。 また, 必要に応じて法律や福祉 などの専門相談窓口を紹介することもあるため, 後述する相談機関の連絡先を まとめたファイルが準備されていた。 固定電話を設置した11年10月以降は, 3時間半(のちに3時間) で応答者が交 替することになり, さらに応答者とは別に「スーパーバイザー」が常駐し, 鍵 の管理のほか, 調べ物・クレーム対応といったトラブルシューティング, 自殺 企図の場合に警察に連絡する役割, その他必要に応じて応答者と一時的に交替 するなど, サポート役を担った。 例えば, 応答者が電話対応している間に, 特殊な情報を必要とした場合には, スーパーバイザーがインターネット検索などで情報をする, といった形である。 次のような専門相談窓口に関する情報として, その窓口の電話 番号や受付日時 もファイルにまとめてあった。 自殺防止(いのちの電話など),精神保健(宮 城県精神保健 福祉センター, 日本臨床心理 士会による相談電話など), 労働問 題(派遣労働110番など), 貧困問題(反貧困みやぎネットワークなど), 児童 福祉(チャイルドライン, 児童相談 所など), DV ・ 虐待(パープルホットラ イン, ハーティ仙台など), 障害者福祉(障害者権利擁護センターなど), 法律・ 債務(法テラス, 弁護士会など), 宗教 (主要教団の教区事務所など)。 他にも, サポート体制としては, 以下のように, 研修会が実施された。 11年9月13日(事前研修):チャプレン行動規範, スピリチュアルケア, グリーフケア, これまでの相談事例, 自殺防 止 の電話相談いのちの電話など(参加者20名) 11年11 月27日(継続研修):相談方法の確認・共有(参加者10名) 13年5月22 日(継続研修):精神疾患, ケース検討など (参加者10名) 14年4 月10日(継続研修):グリーフケア,被災地の心のケアの現状など(参 加者15名) 多くの宗教者にとっては, 上記のうち, 特にカタカナ語にはほとんど馴染みが ないものだが, 実際には宗教者の多くが実践している内容でもある。 さて, その応答者の内訳については, 応答者の匿名性を遵守しなければなら ないため, 詳しく述べることができないが, 25名の登録者のうち, 仏教15, キ
リスト教6, 神道系2, 無宗教2。 性別は男性20, 女性5。 居住地は宮城県内23, 県外2であった。 電話相談開始時から終了までの3年間に応答者として活動した 者のリストに基づいており, 活動期間については数ヶ月から3年間まで様々で ある。 なお, 応答者は無報酬だが, 必要経費として交通費・駐車場代が実費で 支給された。 有償ボランティアということになる。 携帯電話での対応をしていた時は,牧師l名で随時対応だったが, ホームペー ジと移動傾聴喫茶カフェ ・ デ・モンクでのチラシ配布ぐらいしか方法がなかっ た。 電話番号の周知に限界があったために, 5ヶ月間で14件の相談を受けるに 留まった。 その後固定電話の開始と同じ時期にラジオ版カフェ ・ デ・モンク が始まり, 番組内での周知も行ったが, その効果は大きくはなかった。 2012年 9月中旬から, 地元紙・ 河北新報の掲示板に掲載したことの効果は大きく, 応 答者が休憩時間を確保できないほど相談件数が急増した。 相談件数の推移につ いては, 告知方法の変化に合わせて, 表1に示した。 表1 電話相談の体制, 告知方法, 相談件数の変化 (Hpはホームページ, CDMはカフェ ・デ・モンクの略) 曜日 期間内 活 動 活動回数 期 間 体 制 時間 告知方法 総件数 回 数 毎の平均 相談件数 11年5月~ 携帯l台 毎日 HP, 14 9月 24時間 喫茶CDM 11年10月~ 水曜と日曜 69 26 2. 7 12月 15時,..._,22時 (上記に加えて) 12年1月~ 固定2台 ラジオCDM 380 77 4. 9 9月 週2回 水曜と日曜 12年10月~ 15時,..._,21時 1024 86 11. 9 13年7月 (上記に加えて) 13年8月~ 固定2台 水曜 河北新報 14年9月 週1回 15時,...._,21時 744 60 12.4 活動回数毎の平均相談件数は増えていった。 中には, 毎回のように電話をか けてくる, 所謂「リピーター」と言うべき相談者も複数いたが, その一方で新 しい相談者もいた。 確実に需要があったものの, 応答者の人数を確保できなく なり, 週2回から1回に減らし, それでも体制を維持することが難しくなったた め, やむなく14年9月末をもって一旦活動を休止することになった。 相談内容は多岐にわたり, 被災者の声としては(死別による)淋しさ, 仮設
(46) 谷山 洋三•森田 敬史 住宅でのトラブル, 原発事故に伴う避難生活の課題, 過度の飲酒, DVなど。 被災者以外では, (家族又は本人の)精神疾患 ・精神障害に関する問題, 離婚 を想定した夫婦の問題雇用問題家族や近隣などの人間関係のトラブル, 恋 愛相談や性に関わる問題も聞かれた。 件数は少ないが, 葬式・ 法事など宗教に 関する質問や, 電話上での読経 ・ 祈りを求められることもあった。 相談に関する記録用紙も準備されていた。 内容を共有することよりも , 相談 件数を把握することと , 記録することで , 応答者 が心理的にリセットする時間 にな ることを狙った , セルフケアの意義を優先していた。 記録内容は次の通り だが, 相談者の依頼によって相談内容を最小限にとどめることもあった。 日付, 時間 , 性別・年代, 精神疾患の有無, 学歴・職業, 居住地域, 希死 念慮の有無, 他相談先の紹介 , 主訴(以上は選択式), 所感(簡潔に自由記述)。 これらのうち , 日付, 時間性別・年代(想像)は必須とした が, それ以外は 聞き出したりせずに , 分かる範囲で記載することになっていた。 3. チャプレン行動規範 「チャプレン行動規範」は, カフェ ・ デ・ モンクを含む「心の相談室」の活 動全般に及ぶもので , 〈第一部 倫理綱領 〉と , 〈第二部 良質なケアを提供す る ための 心得〉の二部構成となっている。 このうち第一部は, 現在の「臨床宗 教師倫理綱領」のベースとなっている。 9ページに及ぶ内容なのでここでは詳 しく紹介できないが, 倫理綱領の見出しだけを列挙する。 〈ケア対象者の人間として , 個人としての尊厳を尊重する 〉, 〈人種性 , 年 齢信仰 , 国籍等によって差別しない〉, 〈ケア対象者の信念信仰価値観の 尊重 〉, 〈チャプレン自身の信仰を押しつけない(ケア対象者の信念・信仰 , 価 値観の尊重)〉, 〈ケア対象者に関する情報の守秘義務〉, 〈アドボカシー (ケア 対象者のエンパワーメント)〉, 〈情報の適切な扱い〉, 〈チャプレンとしての適 切な振舞〉, 〈所属組織の規律遵守〉, 〈同僚との良好な関係の維持〉, 〈他の組織 との良好な関係の維持〉, 〈宗教間の良好な関係の促進〉, 〈自立的かつ持続可能 な体制の構築〉, 〈自己向上義務〉 これらは, 対人援助におけ る基本的内容であ る が, 宗教者ならではの内容と しては, 〈チャプレン自身の信仰を押しつけない〉と , 〈同僚との良好な関係の 維持〉及び〈宗教間の良好な関係の促進〉の2点(3項目)に注目したい。 前者
1項目は, 布教伝道を目的としないこと, その疑念をもたれないように言動に 注意することなどが述べられている。 その内の一節を紹介しよう。 〈チャプレン自身の信仰を押しつけない〉の一部 ケア対象者に対する宗教的な祈りや唱えごとの提供は, ケア対象者から 希望があった場合, あるいはケア対象者から同意を得た場合に限る。 それ を提供する際には, ケア対象者のみならず周囲に対する配慮も必要とされ る。 ケア対象者が, そのチャプレンと別の宗教・宗派のチャプレン, あるい は同じ宗教・宗派でも別のチャプレンによるケアを希望した場合には, ケ ア対象者の希望に沿うチャプレンの紹介を, 可能な範囲で行うべきである。 実際, 電話相談においても, 相談者の希望に応じて読経や祈りをしていたのだ が, 応答者はこのような倫理的プロセスを事前に学習し, 実践においても意識 付けされていた。 また, 相談者の希望に応じて, 適切なチャプレン(他の宗教 者)を紹介する, という連携についても, 電話相談の対応としても確認されて おり, 実践においても意識付けされていた。 これらのことは, 本研究の課題に 直接関わることなので, 確認しておきたい。 また, 後者2項目について, 超宗教超宗派の宗教者が協働することによるト ラブルを防ぐことも, 次のように行動規範にうたわれている。 〈同僚との良好な関係の維持〉 チャプレンは, 「心の相談室」の他のメンバーと, その信念・信仰や価 値観の違いを超えて, 良好な関係の構築・維持に努めなければならない。 〈宗教間の良好な関係の促進〉 「心の相談室」は, 様々な宗教・宗派の立場のメンバーから構成される。 メンバーは, その立場の違いを超えて, 具体的な社会的ニーズの充足や問 題解決, 更には社会構築という目標に向かって互いに協力し合える関係性 を見出していく責任を有する。 この点も, 本研究の課題に関わることである。 宗教者にとって, 他の宗教者と 対話することだけでも稀有な経験である。それに加えて,「弔いとグリーフケア」 という具体的, かつ宗教的行為が伴い易い活動を, 協働して実践するというこ とは, 一般の人たち以上に宗教者にとってはハードルを感じさせるものであろ う。
(48) 谷山 洋三•森田 敬史 4. 質問紙調査 (1) 目的と方法 ようやく本研究の本題に入ることになる。 ここでは, 超宗教超宗派による電 話相談活動を経験した宗教者たちが , この活動を通して宗教協力をどのように 評価したのかを明らかにするべく , 2015年2月に , 「心の相談室」の電話相談の 応答者25名を対象に質問紙調査を実施した。 調査に先立ち,「心の相談室」及び, 「東北大学大学院文学研究科実験/調査倫理委員会」の許可を得た。 質問紙の内容は, 大きく分けて次の2部に分 かれている:「第1部 (電話相 談での)これまでの経験を精査」, 「第2部 今後の可能性を考えること 」。 本研 究の対象は第1部のみである。 第2部は電話相談の再開の可能性を検討するため の情報収集を兼ねた内容であり , 「心の相談室」関係者以外はデータも含めて 非公開とすることを , 調査対象者に了解を得た上で協力を得た。 調査項目は, 回答者の属性として, 所属教団, 所属する寺社教会での立場 性別 ,年齢活動期間さらに,「活動継続の課題になったこと(8項目)」と 「経 験を通して得られたこと(8項目)」 について, 「当てはまる(5)」から 「当て はまらない(1)」の5件法で回答を求めた。 また , 電話相談の中で応答者とし て実施したことについての項目 (複数回答), 印象に残った 「被災者」「被災者 以外」との対応事例, 傾聴以外に 「他の相談機関を紹介する」「(宗教に関わら ない)アドバイスをする」「宗教に関する会話」「宗教的行為(祈り•読経)を 行う」という4つのパターンを設定し実際の応答における優先順位付け, をそ れぞれ回答してもらった。 (2) 結果と考察 郵送もしくはEメールにより質問紙を送付・回収し, 回答率は56.0% (14名) だった。 回答者の属性 (人数)は次の通りである。 所属教団:仏教9, キリス ト教2, 神道系2,無宗教1(本研究の対象から除外)。 寺社教会での立場:代表 (住職•宮司・主任牧師など)4, 副代表(副住職・禰宜・宣教使など)3, 無 役(役職を持たない者)6。 性別:男性10, 女性3。 年齢:20歳代1,30歳代2,40 歳代7,50歳代0,60歳代2,70歳以上l。 仏教系 , 男性, 40歳代がそれぞれもっと も多い。 対象者となる応答者としての活動期間は無回答を除くと , 1ヶ月か ら36ヶ月と幅広い回答になった。平均の活動期間は19.3ヶ月(SD=4.3)であっ
た。 (結果A)「活動を継続するために課題になったこと」について, それぞれの 項目とそれに対する回答の平均値は表2のとおりである。 この項目で注目すべ きは, 「5-3. 他教団の宗教者との協カ・連携が困難に思えたこと」である。 他の項目に比べて明らかに数値が低いことが分かる。 つまり, 回答者の多くは, 他教団の宗教者との協カ・連携が困難に思わなかったということである。 なお, その他(自由記述)において, 宗教協力に関する記述はなかった。 年齢と各項目の関連について, Pearson積率相関分析を行なった。 その結果, 年齢との間に, 「応答者としての経験がなかったこと(r=-.69, p<.05)」, 「近 隣の自教団の宗教者の理解・協力(r=-.61, p<.05)」において負の相関が認め られた。 同様に, 「信者・檀家・信徒の理解・協力(r=-.52, p<.10)」, 「交通 の便, 移動距離・移動時間(r=-.48, p<.10)」においては, 有意傾向ながら負 の相関が認められた。 すなわち, 年齢があがるにつれて, 経験がなかったこと や, 宗教者や信者・檀家・信徒の理解や協力, 移動時間などを課題にすること が減少するという結果が示された。 それ以外の項目については, 有意な相関関 係が見られなかった(表2)。 表2 「活動継続の課題になったこと」の各項目平均値・年齢との相関分析結果 項 目 平均値 年齢との相関 5-1. 応答者としての経験がなかったこと 3. 00 -. 69 * 5-2. 応答者としての必要な知識がなかったこと 3. 08 -. 31 n. s. 5-3. 他教団の宗教者との協カ・連携が困難に思えたこと 1. 54 . 17 n. s. 5-4. 時間のやりくり 3. 58 -. 48 n. s. 5-5. 家族の理解・協力 1. 83 -. 34 n. s. 5-6. 信者・檀家・信徒の理解・協力 1. 38 -. 52↑ 5-7. 近隣の自教団の宗教者の理解・協力 1. 46 -. 61 * 5-8. 交通の便, 移動距離・移動時間 2. 85 -. 48 t *p<.05 tp<.10 n. s. : not significant (結果B)「応答者としての経験を通して得られたこと」について, それぞれ の項目とそれに対する回答の平均値は表4のとおりである。 この項目で注目す べきは, 「6-4. 他教団の宗教者との交流」と「6-8. 宗教協力の意義を確認
(50) 谷山 洋三・森田 敬史 した」である。 他の項目に比べて数値が高いことが分かる。 回答者は宗教協力 の意義を実感したようだが, 果たしてその意義とはどのようなものなのか, 各 項目同士の相関分析の結果を見てみたい(表3)。 「6-2. これまで目を向けていなかった社会問題を知った」と「6-8. 宗教 協力の意義を確認した」との相関関係が, 有意傾向であるが統計的に認められ た点に注目したい(r=. 52, p<. 10)。 回答者たちは, 困難な社会問題に対応す るためには, 宗教協力をする意義がある, と実感したのではないかと推測でき る。 また, 「6-5. 自分自身の内面を振り返るきっかけになった」と「6-7. 自分自身の信仰が深まった」との相関が有意である(r=. 56, p<. 05), という 点についても確認しておきたいが, そう思った理由が宗教協力によるものかど うかは, 本研究からは明確にすることが難しく, 今後の追跡調査が待たれる。 表3 「応答者としての経験を通して得られたこと」の各項目同士の相関分析結果 「6-2 これまで目を向けていなかった社会問題を知った」 R値 との相関が有意な項目 6-3 宗教・宗教者の社会的意義を確認した . 66 * 6-5 自分自身の内面を振り返るきっかけになった . 49 ↑ 6-8 宗教協力の意義を確認した . 52 t 「6-5 自分自身の内面を振り返るきっかけになった」との 相関が有意な項目 6-7 自分の信仰が深まった . 56 * *p<. 05 t p<.10 さらに年齢と各項目の関連について,Pearson積率相関分析を行なった。その 結果, 年齢との間に,「宗教・宗教者の社会的意義を確認した(r=. 58, p<. 05)」 において正の相関が認められた。 同様に, 「自分自身の内面を振り返るきっか けになった(r=. 54, p<. 10)」においては, 有意傾向ながら正の相関が認めら れた。 すなわち, 年齢が上がるにつれて, 社会的意義を確認したり, 内面を振 り返るきっかけになったりすることを得られたと感じる度合いが増加するとい う結果が示された。それ以外の項目については, 有意な相関関係が見られなかっ た(表4)。
表4 「応答者の経験を通して得られたこと」の各項目平均値・年齢との相関分析結果 項 目 平均値 年齢との相関 6-1. 苦悩する人の役に立つことができた 3. 62 -. 08 n. s. 6-2. これまで目を向けていなかった社会問題を知った 4. 31 . 32 n. s. 6-3. 宗教・宗教者の社会的意義を確認した 4. 31 . 58* 6-4. 他教団の宗教者との交流 4. 54 -. 19 n. s. 6-5. 自分自身の内面を振り返るきっかけになった 4. 31 . 54 t 6-6. 普段の寺社教会での活動に還元できた 3. 46 -. 13 n. s. 6-7. 自分の信仰が深まった 3. 31 . 44 n. s. 6-8. 宗教協力の意義を確認した 4. 62 . 44 n. s. *p<. 05 ↑ p<. 10 n. s. : not significant (結果C)「宗教的行為や宗教に関する情報提供」の項目については, 複数回 答を求めたため, それぞれの項目とそれに対する回答数を以下に示す(表5)。 少数であるが, 「7-2. 他教団の祈り・読経」「7-4. 他教団の教義や慣行に関 する情報提供」を実施した回答者がいることには注目したい。「7-6. 相談者 の信仰に応じて, 他の宗教者(応答者)に交替した」の回答数が多いのは, 先 に確認したように, 「チャプレン行動規範」にもうたわれているし, 電話相談 での約束事でも確認されているので, これが忠実に実行されたことが伺われる。 印象に残った「被災者」「被災者以外」との対応事例については, 詳しいこ 表5 宗教的行為や宗教に関する情報提供 項 目 回答数 7-1. 自教団の祈り・読経 8 7-2. 他教団の祈り• 読経 2 7-3. 自教団の教義や慣行に関する情報提供 10 7-4. 他教団の教義や慣行に関する情報提供 4 7-5. 一般に行われている宗教的慣行に関する情報提供
,
7-6. 相談者の信仰に応じて, 他の宗教者(応答者)に交替した 10 7-7. 特定の宗教施設または宗教者の紹介 5 7-8. 相談者と直接面談 1 7-9. なし 1(52) 谷山 洋三・森田 敬史 とは記述できないが,葬儀に関する情報提供,電話での読経実際に対面して の法事の実施死者の存在を前提とした助言が見られる。 宗教者ならではの対 応であるが,宗教協力としての視点からは, 参考になる記述は見られなかった。 (結果D)「対応における優先順位」について, 「傾聴」に加えて, 「(宗教に関 わらない) アドバイスをする」「宗教に関する会話」「他の相談機関を紹介する」 「宗教的行為(祈り・読経)を行う」という計5つのパターンを設定した。 優 先順位については,次のような結果が明らかになった (数字は平均値)。 ひた すら傾聴する(1.31), (宗教に関わらない)アドバイス(2. 08), 宗教に関す る会話(3. 15), 他の相談機関を紹介する(3. 69), 宗教的行為(祈り・読経) (4. 77)。 回答者たちは,電話相談の約束事に従って,まずは傾聴し, 宗教的 な会話や読経・祈りば慎重に対応していたことが伺える。 (考察)「心の相談室」成立の背景に, 超宗教超宗派の協力という前提がある ため, 宗教協力にあまり抵抗を感じない宗教者が参加したようだ。 実際の電話 相談の場面で,他教団の内容(教義,祈りなど )に踏み込んだ宗教者は少ないが, その多くは 「他教団の宗教者に応答を替わる」ことは実施した。 ただし, 傾聴 が基本であり, アドバイスをすることもあるが,宗教的な会話や祈りなどが優 先的に実施されたわけではなく,むしろ慎重に対応していたことが伺える。 こ れらのことは,事前に応答者に確認された電話相談における約束事や,「チャ プレン行動規範」が遵守された結果だと思われる。 また,「応答者としての経 験から得られたこと」として,「他教団の宗教者との交流」 「宗教協力の意義を 確認した」とする回答が,他の項目より多い。 困難な社会問題に対応するため には,宗教協力をする意義がある,と実感したものと思われる。 「継続への課題」や「経験を通して得られたこと」に関して,回答者の属性 である年齢との関係性をみるために相関分析を行なった。 その結果, 複数の項 目において,年齢との相関関係が認められた。 すなわち,年齢が上がるにつれ て,「応答者としての経験がなかったこと」や,「信者・檀家・信徒の理解・協 カ」,「近隣の自教団の宗教者の理解や協力」,「交通の便移動距離・移動時間」 などを応答者として活動を継続するために課題にすることが減少するという結 果が示された。 年齢を重ねるにつれて,必然的に宗教者としての経験値が高め
られることは容易に想像するところである。 その一端として, 様々な相談事に 関わる機会が多くなるため, 応えるという経験に関しては課題にされない傾向 なのだろう。 周囲の理解や協力, 物理的な条件などもあまり課題に感じられな いのは, むしろ自分自身に対する課題の方が増加していくのではないかと考え られる。 それを一部支持するように, 「応答者としての経験から得られたこと」 と年齢の相関分析の中で, 有意な正の相関が認められたのが, 「宗教・宗教者 の社会的意義を確認した」と「自分自身の内面を振り返るきっかけになった」 という自分の意識付けや自己の内面についての項目であった。 もともと自教団 内に向かいやすい宗教者の特性に, 宗教者としての経験が積み重ねられていく と, さらにその特性が強固なものになっていく。 今回の電話相談のような超宗 教超宗派の活動に参画しようとする宗教者は, 自教団外の視野をもっているか らこそであろうが, 自教団外にその活動場所を移して実践を経験していくと, 社会の中での宗教者の位置づけや意味付けを意識するようになったと考えられ る。 また, 相談内容が多岐にわたり, 特にいのちに関わる内容に触れる中で, 一筋縄ではいかない状況に直面する機会が増大すると, それまでの自教団内で 培われた資質が, その培われた時間が長ければ長いほど, それまでのスキルを 見直す機会を強く持とうとするのかもしれない。 内面を振り返るということは, それまでの自身の立ち位置を省みることが求められ, ときには辛くて避けたい 行動である。 そのきっかけが電話相談の経験から得られたことは他の宗教者 を通して客観的に自己の振り返りに繋げる場合を想定すると, 宗教協力の産物 の一つとして考えられるだろう。 最後に, 本研究の限界として, 統計的処理をするための対象者数の確保が挙 げられる。 ある項目間では, 統計的有意な結果が示された部分もあるが, 検討 の余地があるため, あくまでも参考程度に留めておく方が望ましいと考えてい る。 しかし, 電話相談における宗教協力の傾向をつかむためには, 有意義な知 見が明らかになったのではないか。 今後の課題として, 対象者数の確保と共に, 質問紙のさらなる吟味を踏まえて, 宗教協力についての検討をより一層重ねて いきたい。
(54) 谷山 洋三•森田 敬史 5. 結語 電話相談における宗教協力の第一の意義は, 調査をするまでもなく, 多様な 宗教的ニーズヘの対応が容易になることである。 また, 宗教協力を体現し, ア ピールすることにより,「布教伝道ではない」ことを明示することができる。 さて, 回答者数が少ないことに限界があるものの, 本研究から示唆されるこ とは,宗教協力に基づく電話相談に参画した宗教者自身が,(相談内容に限らず) 他宗教者と言葉を交わし, 話し合うという体験を積極的に評価し, 困難な社会 問題に対応するためには, 宗教協力をする意義がある, と実感したことにある, と言えよう。 また, 年齢が上がるにつれて, 宗教・ 宗教者の社会的意義を確認 し, 自分自身を振り返る機会になりやすいことも明らかになった。 ここにも宗 教協力による刺激が関与しているものと思われる。 本研究で対象にしたような, 宗教協力を前提とした宗教者による心のケアの 活動は, 電話相談に限定しなければ, すでに臨床宗教師が全国各地で実施して いる。 熊本では一般市民を対象にした傾聴喫茶カフェ・ デ・モンクが, 僧侶と 牧師の協力で開催されている。 大垣では, 臨床宗教師を雇用する沼口医院がメ ディカルシェアハウス・アミターバを開設し, この施設で定期的にカフェ・デ・ モンクが開催されている。 京都では, 京都府 ・ 龍谷大学大学院実践真宗学研究 科·NPO法人京都自死・ 自殺防止センターの協力で, 自死遺族支援を目的と した「きょうのモンク」が開かれている。「心の相談室」の活動から派生した 臨床宗教師の活動は, カフェ・ デ・モンクや医療福祉の現場を起点にして, 今 後さらに拡大するものと思われる。 本研究は, そのような現場の宗教者たちの 思いを理解し, また活動が円滑に実施されるための一つの資料として役立つこ とを期待している。 謝辞 本研究は, 科研費 基盤(B)一般 「喪失と悲嘆に対する宗教的ケアの有 用性とその専門職の育成についての研究」(研究代表者:谷山洋三, 課題番号: 25284015)による成果である。 また, 質問紙調査について, 「心の相談室」の 協力をいただいた。 ここに感謝を申し上げる。
Significance of Interfaith Cooperation on Telephone Counseling
Yozo TANIY AMA, Takafumi MORITA
Soon after the Great East Japan Earthquake, Buddhist, Shinto, Christian and other religious leaders around Sendai started aid for the victims and survivors. They shared the code of conducts on interfaith chaplaincy. One of their activities is telephone counseling, from May 2011 to September 2014. The purpose of this study is to show how the religious leaders evaluated this interfaith cooperation through telephone counseling.
We administered a questionnaire to 25 chaplains to collect data on'the tasks to continue the activity','the attainment through the experience','the priority of care approaches' and so on. Valid responses were received from 13 chaplains from Buddhism, Shinto and Christianity. Results showed that the chaplains positively evaluated their own experiences to talk with other religious leaders; they recognized the significance of interfaith cooperation in order to respond to difficult social problems; and it became easy for them to recognize social significance of religion as age rose. They have followed the code in good manner. They listened to a client at first, then if needed, they suggested advices, talked about religious topics, introduced other services, or prayed / chanted sutra. It is very unique that a few of them prayed by the other religious ways, and provided the information about teachings and rituals of other religions.
This study can help to understand the attitude of interfaith chaplain, or Rinsho-shukyo-shi, that is increasing professional derived from this disaster aid.