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宇都宮大学教育学部教育実践紀要 第2号 2016年8月1日
中学校知的障害特別支援学級における作業学習内容の変化
†
―宇都宮市を中心に―
小森 純代
*
・池本喜代正
**
宇都宮市立雀宮中学校
*
宇都宮大学教育学部
**
Sumiyo Komori*, Kiyomasa Ikemoto**: A
Study on the Changing of Learning through
Working in Special Classes for Students with
Intellectual Disabilities of Junior High Schools.
Keywords : Learning through Working, Curriculum,
Intellectual Disability, Special Class, Junior High
School.
* Suzumenomiya Junior High School, Utsunomiya
** Faculty of Education, Utsunomiya University
(連絡先:[email protected])
はじめに
2007年度に特別支援教育体制が本格的にスタート
し,10年が経過した。従来は特殊教育の対象ではな
かったLDやADHD,高機能自閉症も特別支援教育
の対象となり,障害のある児童生徒一人一人のニー
ズに応じた指導や支援を行うようになり,少子化に
も関わらず特別支援教育を受ける児童生徒が年々増
加している。教育現場においても,特別支援コーディ
ネーターの指名,個別の支援計画の作成,通常の学
級の中での特別支援教育の展開など,特別支援教育
が着実に進められてきており,保護者の特別支援教
育への理解も進んできている。
こうした動向の中で,中学校知的障害特別支援学
級の生徒の実態が多様化してきている。また,「交
流及び共同学習」へ参加する生徒が増え,特別支援
学級で受ける授業時数が減少し,教育課程を組む際
に様々な問題がでてくるようになった。中でも,「領
域・教科を合わせた指導」の「作業学習」のねらい
や時数についての検討が求められている。中学校特
別支援学級担任同士での話題においても作業学習の
在り方について話し合われることが多くなってきて
いる。
1.研究の目的及び方法
中学校知的障害特別支援学級の作業学習は,授業
時数も内容も学校によって異なり,幅が広く,学校
の設備や生徒の実態でも大きく変わる。社会情勢や
生徒の実態の変化とともに,作業学習の内容や時数
の変遷を調べ,今後の作業学習の在り方について検
討する必要がある。そこで,本研究では宇都宮市立
中学校を対象として,生徒の実態の変化,作業学習
の内容や時数などの変遷を明らかにする中で,作業
学習の在り方を検討したい。主に資料として用いる
のは,宇都宮市教育委員会から毎年出されている「宇
都宮市の特別支援教育」(旧:宇都宮市の特殊教育)
である。平成元年から平成26年までの本資料をもと
に,知的障害特別支援学級における生徒数や実態の
2007年度に特別支援教育体制がスタートして10年が経とうとしている。この間,中学校でも知的障害特別
支援学級の生徒の実態が変化し,中学校特別支援学級の教育課程においても変化が生じてきている。中でも,
領域・教科を合わせた指導である作業学習の在り方が問われている。作業学習の今後の在り方を考える上で,
特殊教育の頃から現在まで,特別支援学級における作業学習が生徒の実態や社会背景などの流れに応じてど
のように変化してきたのかを明らかにする必要がある。そこで,宇都宮市立中学校の知的障害特別支援学級
の生徒の実態の変化や作業学習の内容,時数の変遷について検討した。その結果,作業学習の時数が全体的
に減少し,作業種にも大きな変化があることが明らかになった。その背景として,入級者の実態の変化や卒
業後の進路選択の広がり,また,社会的ニーズの変化や交流及び共同学習などがあることが指摘できる。今
後も生徒の実態に応じた作業学習の意義と内容の検討が不可欠である。
キーワード:作業学習,知的障害,特別支援学級,中学校,教育課程
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変化,そして卒業後の進路状況を調べるとともに,
各学校の教育課程における作業学習について検討を
行う。その分析視点としては,教育課程における作
業時数の割合,作業内容,交流及び共同学習の実態
である。
2.結果及び考察
(1)宇都宮市の特別支援学級生徒数の推移
まず,宇都宮市立中学校の特別支援学級在籍者の
状況を見ておこう。平成元年から平成26年の特別支
援学級の在籍者数を図1に示す。
図に見るように、中学生全体の人数は年々減少し
てきたが,平成19年度以降はほぼ横ばい状態である。
一方,特別支援学級在籍生徒は増加を示している。
この傾向は全国的な動向と一致するが,知的障害学
級入級者が増えているのは,保護者の特別支援教育
に対する意識の変化が考えられる。特別支援教育体
制となり,特別支援学級で手厚い支援が受けられる
とともに,交流及び共同学習によって通常の学級の
中で学ぶことができ,通常の学級においても一員と
して認められている実態を知ることにより,特別支援
学級のメリットが浸透してきていることが大きな要因
であると推察できる。これによって,従来は通常の
学級を希望していた軽度知的障害の生徒の入級が増
加してきたと言える。就学基準では特別支援学校に
該当する障害の重い生徒に関しては,以前からある
程度の人数は小学校では特別支援学級に在籍してい
たが,中学校段階から特別支援学校中学部に進学す
ることが多く,中学校では必ずしも多くないのが現
状である。したがって,全般的には障害の程度が軽
度の生徒の割合が増加していることが指摘できる。
(2)中学校卒業後の進路状況
次に,中学卒業後の知的障害学級生徒の進路状況
の変遷について見ておこう。図2に進路状況の変遷
を示す。
平成元年から平成7年頃までは,企業への就職が
大きな割合を占めていたが,就職する人数は年々減
少を示している。一方,特別支援学校高等部への進
学は平成9年ごろから増加し始め,それ以降は進路
先の中では最も多い。平成17年頃からの特徴として
は,一般の高校といわゆるサポート校への進学が増
えてきていることである。宇都宮市の生徒が受検す
る主なサポート校は,A校(平成元年設立),B校(平
成12年),C校(平成14年),D校(平成18年),E校(平
成19年)が挙げられる。設立年度に見るように,比
較的近年開校されたものが多く,コースも増えてい
る。高校進学率が96%を超える今日,本人・保護者
の後期中等教育へのニーズが高まり,高校や特別支
援学校高等部へ進学できない生徒の受け皿としての
機能をサポート校が果たしていると言える。
(3)作業時数の推移
中学校特別支援学級の教育課程における作業学習
の時数の推移を図3に示す。これは,各学校の作業
学習の時数から,学校の割合を示したものである。
図に見るように,平成9年頃までは年間315 ∼ 350
時間(週9 ∼ 10時間),240 ∼ 280時間(週6 ∼ 8時
間)の学校が大半を占めていた。しかし,平成15年
以降は年間150時間∼ 210時間(週4 ∼ 6時間),105
∼ 140時間(週3 ∼ 4時間)が増えてくる。そして
平成21年に入ると,年間30 ∼ 70時間(週1 ∼ 2時間)
の学校も多くなり,平成23年以降は作業を実施して
いない学校もある。これは,生徒の実態の変化に伴
い,特別支援学級の教育課程を変えなければならな
図1 宇都宮市の特別支援学級生徒数の推移
図2 中学校知的障害学級卒業後の進路状況
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くなったと考えられる。この背景として,障害が軽
度の生徒は,交流及び共同学習へ参加する時間が多
くなっていることが考えられる。また,障害が比較
的重い生徒であっても,中学卒業後に施設や作業所
へ入所するのではなく,特別支援学校高等部への進
学ができるため,中学校での作業学習に重点が置か
れなくなったといえよう。それらが,作業学習の時
間が削減していった要因であると考えられる。また,
時間割に作業学習があっても,その時間に交流学習
に参加している生徒もいるので,実際には作業学習
を受けていない生徒もいるであろう。
(4)作業内容
作業学習の時数は減少しているが,作業学習の職
種についての変化はいかがであろうか。作業種の変
化について図4に示す。
宇都宮市の特別支援学級では,昭和の頃から「箱
折り」が多くの学校で作業種に取り入れられていた
が,近年減少傾向にあることが指摘できる。一方,
平成20年以降は「手芸・縫製」を取り入れる学校が
増加している。また,ここ最近増えてきているのが
「調理」と「園芸」である。この他,ここには記載
していないが,過去に行っていた作業種としては,
「紙すき」「機織り」「マット織り」「カレンダー作り」
などがある。
昭和から平成5年頃までは,中学卒業後に就職す
る生徒が多くを占め,そのために作業学習のねらい
としては働くために必要な技能を取り入れながら,
態度面での養成に重きが置かれていた。しかし,現
在は,食事や洗濯,裁縫などのように,従来ならば
家庭生活の中で自然と身に付けていくような内容を
学校の作業学習に取り上げるようになってきてい
る。この背景としては,家庭の養育能力の低下に伴
い,学校教育において学習内容に大きく組み込む必
要性が出てきたことが考えられる。通常の教育にお
いても,宇都宮市内の小中学校では平成20年から「お
弁当の日」が始まり,9年間のねらいの中に,小学
校高学年では一品,中学校では一食分を調理するの
が目標になっている。また,平成25年の「第52回全
日本特別支援教育研究連盟全国大会栃木大会」で,
宇都宮市の中学校は「健康で安全に生きる力を育む
指導の在り方」のテーマで食育を中心とした研究授
業や分科会を行った。それに向けて各学校で農園を
作り,収穫した作物で調理や弁当を作った取り組み
が行われたことも,作業種として調理や園芸が増え
た要因であるかもしれない。
(5) 知的障害学級の交流及び共同学習
知的障害特別支援学級の生徒が行っている交流及
び共同学習の内容と人数の推移を,図5に示す。
図に見るように交流及び共同学習への参加人数
は,近年増加傾向にある。特に平成24年からの増加
は顕著である。インクルーシブ教育という動向の中
図3 教育課程における作業時数の推移
図4 作業種の推移
図5 交流及び共同学習の人数の推移
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で,平成20年に中学校学習指導要領が出され,この
中に交流及び共同学習の推進が謳われたことが背景
にある。5教科における交流及び共同学習の人数が
増えているのは,前述のように,知的障害が軽度で
あり,一般の高校やサポート校へ進学を希望する生
徒も増え,受験に合わせた教科学習が必要になった
ためと推測される。
3.全体考察
障害者の社会参加は,障害者総合支援法や改正障
害者雇用促進法,障害者差別解消法など法律の整備
とともに,障害者を取り巻く社会自体の変化もあり,
近年大きく環境が整備されてきている。そして,知
的障害者の一般企業の就労先としては,サービス業
などの第3次産業への就労が増えている。特別支援
学校高等部の教育課程の中に「福祉」「流通・サー
ビス」も入り,今後もさらに伸びていくと考えられ
る。このような社会情勢や生徒の実態から,今後の
中学校特別支援学級の作業学習の在り方について考
察したい。
生徒に関しては,今後も一定程度の軽度の知的障
害者の入級が考えられる。それに応じて作業学習も
変容が考えられる。作業学習の時数は減少し,内容
に関してはキャリア教育の視点である社会における
自らの役割や将来の生き方・働き方を身に付けられ
るような内容や,第3次産業的な内容,あるいは家
庭環境の変化によって生活に即した内容のものが取
り上げられていくことが多くなると推察される。ま
た,交流及び共同学習に関しても,インクルーシブ
教育の流れの中で,軽視され減少することはまった
く考えられない。
そうした状況を踏まえ,作業学習のねらいについ
て再検討する必要があろう。従来の作業学習は,中
学卒業後の職に就くために必要な「働く力」をねら
いとしてきたが,今後は,キャリア教育の視点であ
る働くことに対しての態度や関心を培いながら,将
来の自立に向けた「生活する力」に力点が置かれる
可能性が高いと考える。
4.おわりに
本研究において,中学校知的障害特別支援学級の
作業学習が時代とともに変化してきたことを明らか
にすることができた。これは社会背景や生徒の実態,
教育体制の変化によるものである。作業のねらいに
ついては今後も変化することが考えられるが,知的
障害教育での領域・教科を合わせた指導形態の重要
性を否定するものではない。
今回の研究は,宇都宮市の特別支援学級全体での
調査となったが,各学校により特別支援学級の教育
課程や指導形態は様々であるため,今後はより具体
的に各学校の実態に応じた実践について考えていき
たい。
※図1∼5は,宇都宮市教育委員会発行の「宇都宮
市の特殊教育」「宇都宮市の特別支援教育」(平成元
年から平成26年)をもとに筆者が作成。
平成28年 3月24日 受理