IRUCAA@TDC : 確実な個人識別手段としてのスーパーインポーズ法に関する研究
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(2) 409. 原 著確実な個人識別手段としてのスーパーインポーズ法に関する研究* 橋 本 正 次 東京歯科大学法歯学講座 (指導:鈴木和男教授). (1991年12月4日受理). A Study of the Superimpositon Tecnique as a Positive Identification Method Masatsugu HASHIMOTO Department of Forensic Odontology Tokyo Dental College (Director : Prof. Kazuo Suzuki). 1 緒 言. ほ,歯科的証拠と指紋だけということになるであろう。. 犯罪事件や事故が発生した場合,まず問題となるのは. 歯科的証拠は,万人不同であるという証拠としての固有. 犠牲者の身元確認,すなわち個人識別である。個人識別. 且死後最も遅くまで残存するという証拠としての安定. について上野。は, 「それが何人であるか,或いは何人. 性,さらには生前の歯科記録が利用できるという特徴を. に属するもの(部分)であるか等を明らかにすることであ. もっており,死体の状態に左右されることなく利用でき. る」と定義している。. る極めて有効な手段である2)。しかし反面,もし生前に. 個人識別の方法として, (1)近親者による識別, (2)着. 歯科治座を受けたことがなければ,生前の比較資料が存. 衣,宝石,所持品による識別, (3)外見上の肉体的所見に. 在せず,確実な個人識別手段としては利用できないとい. よる識別, (4)写貢ならびにⅩ線写貢による識別, (5)内部. う欠点もある。また,歯科治療を受けていても,すでに. 所見(解剖)による識別,そして(6)特別な識別方法とし. 歯科記録が歯科医院に保管されていないような場合にお. て, ①指紋による識別および②歯科的所見による識別な. いても同様である。一方,指紋についても万人不同,終. どを挙げることができる。また,補助的な手段として人. 4不変という個人識別には非常に有利な特徴を備えてい. 種や年齢,性別,身長,血夜型など人類学的な情報も利. るものの,著しく腐乱した死体や白骨死体には利用でき. 用されている。しかしながら,確実な個人識別という観. ないという欠点を併せもっている。そして,このような. 点に立てば,身元不明死体から得られる情報,つまり死. 確実な識別手段を利用できない身元不明死体では,補助. 後の情報との比較が可能な本人を特定しうる生前情報の. 的な手段である人奨学的な情報によって,本人である可. 存在が絶対条件となる。従って,上記の識別方法の中で. 能性を高めるということになる。しかしながら,これら の人東学的な情報は該当する人を除外することはできる が,積極的にその死体の本人であるかどうかを決定する. *本論文の要旨は,第69次日本法医学会総会(昭和60年 3月22-24日,盛岡),第241回東京歯科大学学会総会(辛 成2年10月10-11日,第12回国際法科学会(平成2年10 月25-30日,アデレード)および日本鑑識学会平成3年度 春の分科会(平成3年3月9日,座間)において発表し た。. ことは非常に困難である。そこで,歯科的証拠や指紋に かわる,確実な個人識別の手段として考えられるのが生 前の資料の一つである顔写貢を利用する,スーパーイン ポーズ手套である0 1. -.
(3) 橋本:個人識別手段としてのスーパーインポーズ法. 410. ス-パーインポーズ法とは,該当者と思われる人の生. I. 前の顔写薫と,問題の白骨死体の頭蓋骨を重ね合わせ, 両者の解剖学的な特徴の合致性を検査しながら個人識別 を行うというものである。この方法がはじめて法医学分 野,特に白骨死体の個人識別に利用されたのは, 1935年 のことであり,ラクストン事件として有名である3)4) 以来,この分野に関する研究報吾がみられるが,その多 くは事例報吾であり5)-19)写貢の特性やそれから派生す. ■■■. る問題点について詳細に論じたものは僅かである20)21) 本法が確実な個人識別手段として利用されるためには, 合致蓋準となる頭蓋骨と顔面部軟組織の解剖学的な位置 関係の確立に加え,写桑に関する特性の理解,そして鼻 通なスーパーインポーズ装置の開発等をあげることがで きる。 写貢画像は,歪み(Distortion),パースペクティブ (Perspective),視差(Parallax)などの特徴を持ち,こ れらは,カメラレンズの特性や写貢撮影時の条件によっ て決定されることは理論的にはわかっている。そこで 著者は,個人識別手段としてのスーパーインポーズ法の 手Jillの中での頭蓋骨の写莫撮影において,これらのカメ ラレンズの特性や撮影条件の違いが,実際問題として画 像にどのような影響を及ぼしているのかを実験的に証明 するとともに,その影響を除くための方法や装置等につ いて検討を行った。本研究は,頭蓋骨との重ね合わせに 供せられる生前の写貢を理解する上においても,重要な 情報を提供するものである。また,本研究結果を考慮し た事件例についても報告する。 II 実験材料および実験方法 1.写貢撮影条件と写真画像の関係について 撮影条件が,写貢上の画像にどのような影響を及ぼす かを調べるために,様々な条件のもとで実際に撮影を 行った。 本実験の被写体には,格子模様の図ならびに日本人 男性頭蓋骨(図1)を用いた。頭蓋骨の主な人薬学的計. (Bl. 図1被写体として用いた格子模様の図(Ajと頭蓋 骨@). 測値は,表1に示した通りである。また,正面観のほぼ 同-平面上にあると患われる部位,すなわち眉間上部 の前頭膏上(a)と, Nasion(b),左右の眼高下縁と眼高下 孔の中間(c, d),下顎骨正中位の最後点(e)の5ヵ所に. 計測点である左右のオイリオンの位置までの深さを計測. ポイントを付着した(図1-B)o各ポイント間の距離 は,それぞれa-b27mm, a-c68mm, a-d67mm,. したところ,約96mmであった。 一方,撮影については,一眼レフカメラであるニコン. a-e128mm, b-c46mm,b-d44mm,b-elOlmm,. FE(ニコン社製)を用い,露光時間はすべて自動で行っ. c-d60mm, c-e75mm, d-e73mmである。さら. たo また,頭蓋骨撮影時の焦点は,頭蓋骨上に付着した. に,これらのポイントを付着した面から,頭骨最大幅の. 5つのポイントを含む平面に合わせた。. - 2 -.
(4) 歯科学額 Vol. 92, No. 3 (1992). 表1頭蓋骨の主な計測値 計. 測. 項. 目. 411. い距離上2mから,また200mmのレンズを用い距離. 計. 測. 2.0mからそれぞれ行った。これは,撮影後焼き付けを. 値. する際,原寸大の印画が得られることを考慮してのこと. 頭 骨 l義 大 長. 180 m m. である。尚, 105mmレンズは単体, 200mmレンズは. 頭骨最大幅. 148m m. ズームニッコール ー200である。さらに,絞りの影響. バ ジオ ン{ プ レグマ高. 147m m. を調べるために,各距離において,絞り値Fを5.6, ll. 頭 骨 底 長. 104m m. 乳. 幅. 120m m. 大に焼き付け,同フイルムを被写体である格子模様の図. 大後頭孔長. 38m m. に直接重ね合わせることにより,その画像の違いを検討. 大 後 項 孔 、幅. 36m m. した。. 頭骨水平周. 539m m. 横. 長. 328m m. 正中矢状弧長. 369m m. 横. 弧. 顔. 長. および22に変えながら撮影を行った。撮影された写裏に ついては,コニカコンタクトフイルムCSIOOEに原寸. 2)カメラレンズの蕉点距離と写貢画像との関係につ いて 使用したカメラレンズは,すべてニコン社製ニッコー ルレンズであり,それぞれの蕉点距離は35mm, 55. 90m m. mm, 80mm, 105mm, 135mmおよび200mmの6種. 両 眼 嵩 幅. 104m m. 幾である。尚, 80mm, 135mmおよび200mmレンズ. 頑 骨 弓 幅. 143m m. 顔. 高. 126m m. 高. 73m m. 離のレンズを順次交換装着しながら行った。撮影時の絞. 鼻. 幅. 26m. り値Fは11である。. 鼻. 高. 56m m. 下 顎 頭 幅. 13 7m m. 上. 前 枝. 奄. 枝. は,ズームニッコ-ル ー200を用いた. 撮影は,頭蓋骨固定装置に固定した頭蓋骨をカメラか ら1. 2mおよび2.0mの距離に置き,上記6種楽の蕉点距. 3)撮影距離と写貢画像との関係について 撮影距離の違いが画像に及ぼす影響について検討する ために,カメラから被写体までの距離を1.2m, 2.0m,. 高. 65m m. 3.0m, 4.0m, 5.0mおよび6.0mの6通りの場合にわけ. 幅. 34m m. て,写貢撮影を行った.撮影距離を変える腔に,被写体 が常にフイルム面に対し,同じ向きと角度を保つように. 撮影後のフイルム現像は,通法に従った。印画紙-の. するため,水準器および方眼マットのフォーカシングス. 焼き付けについては,まず各コマの大きさについて等倍. クリーンをカメラに装着した。尚,レンズは,焦点距離. になるように,倍率を固定して引き伸ばした。次に,各. 105mmの単体レンズおよび80mmから200mmのズーム. コマに撮影されている頭蓋骨部分について,それぞれが. から200mm(ともにニコン社製)を使用し,撮影時の絞. 同じ大きさになるように,倍率を変えながら引き伸ばし. り値Fは11である。. を行った。さらに,後者については透過性フイルムであ. 4)写真上における被写体の位置と画像との関係につ. るコニカコンタクトフイルムCSIOOEにも焼き付け,. いて. 撮影条件の巽なる画像を比較検討する際の重ね合わせに. 写桑画面上での被写体の位置の違いが,画像の特徴に. 用いた。尚,頭蓋骨の大きさを等悟に焼き付ける際に. どの程度影響を及ぼすのかについて検討を行った。方法. は,頭蓋骨上に付着した5つのポイントを利用した。. として,固定した被写体である頭蓋骨に対し,カメラの. 1)写真画像の歪みについて. 位置を左右に移動することにより,ファインダー内での. 写真画像が実際の被写体をそのまま写し出しているの. 被写体の位置,すなわち写裏上での被写体の位置を変え. か否かについて,特に写莫上における歪みの存在の有無. た。撮影に用いたレンズの蕉点距離は,撮影距離2mで. を検討した。被写体は,縦17.8cm,横29.5cmの枠に. は55mmおよび80mm, 4.0mにおいては105mmと200. 縦24列,横14行になるように線を引いた格子模様の図. mmである。また,カメラの左右への移動は,撮影時に. (図1-A)であるo撮影は,蕉点距離105mmレンズを用. 焦点を合わせた面に対してフイルム面が常に平行になる. - 3 -.
(5) 橋本:個人識別手段としてのスーパーインポーズ法. 412. ように留意した。. 且撮影時の絞り値の違いによると患われる画像の変化. 2.スーパーインポーズ装置について. は認められなかった。 2)カメラレンズの蕉点距離と写真画像との関係につ. 頭蓋顔面のスーパーインポーズ法として,光学的な方. いて. 法と,ビデオスーパーインポーズ法およびコンピュー で,これらの三つの方法で一般に利用されている装置に. 図2は,距離1.2mから35mm, 55mm, 80mm, 105 mm, 135mmおよび200mmの6種類の蕉点距離の異な. つき,文献的な検索を行い,その利点および欠点を考案. るカメラレンズにより撮影された写真を, 35mmフイル. ターを利用する方法の3種幾が報吾されている。そこ. した。そして,これらの従来の装置に,本実験結果を考. ムのコマの大きさに対して等倍に引き伸ばした時の頭蓋. 慮した,確実かつ実用的な装置および方法について検討. 骨の相対的な大きさを示している。また,カメラレンズ. を行った。. の焦点距離の違いと像の関係を見るために,被写体の頭. 尚,光学的なスーパーインポーズ法については,古江 が開発した装置を,また,ビデオスーパーインポーズ法 については,東京歯科大学テレビスタジオに設置されて. 蓋骨部分が同じ大きさになるようにそれぞれ焼き付け, スーパーインポーズ法により比較した。その結果は,演. いるビデオシステム(ビデオカメラNational AK-710,. 影距離1.2mについては, 35mmと80mmおよび80mm と105mmのレンズで撮影した写貢の尋ね合わせ像を. 制衝装置National color special effects Generator. 図3に,また撮影距離2mについては, 55mmと135. AS-6000A)を利用したo. mmおよび135mmと200mmのレンズで撮影したものを 図4にそれぞれ示したとおりである。. III 実 験 鑑 果. フイルムのコマ内に占める頭蓋骨の大きさは,レンズ. 1.写真撮影条件と写真画像の関係について. の焦点距離が短いほど小さくなっている(図2)o しかし. 1)写真画像の歪みについて. ながら,頭蓋骨の大きさを等倍に焼き付けた写真の比較. 105mmのレンズで工2mから撮影した写貢は,被写体. においては,頭蓋骨上のすべて特徴点の位置的な関係が. をすべてファインダー内に収めるだけの画角がなく,列. 頭蓋冠輪郭部も含めて,矛盾なく舎致している(図3,. においては23列までであった。しかし,行についてはす. 図4)。この結果は,焦点距離の巽なるレンズのいずれ. べて撮影された。撮影された部分について,等倍焼き付. の組み合わせによるスーパーインポーズ像においても,. けにて原図と比較を行ったところ,すべての格子が合致. 同様であった。 従って,レンズの焦点距離の違いは,画角の違いであ. するという結果が得られた。一方, 200mmレンズで 2.0mから撮影した写貢では,格子図がすべて撮影され. り,フイルムのコマ内に占める被写体の相対的な大きさ. るとともに,左右両側において各9mm,上下鵜では各. に影響を与えるが,そこに撮影されている像そのものの. 15mmの余白部分が認められた。像の特徴としては,中. 特徴には,なんら影響を及ぼさないということは明らか. 央から左右ともに8列目(画面の中央ほぼ63%より外側). である。 3)撮影距離と写哀画像との関係について. において非常に僅かではあるが,縦の線が原図と比べて 外側に広がるという観察所見が待られた。その広がり. 図5は,焦点距離200mmのレンズで, 1.2m, 2.0. は,外側に行くに従い大きくなり,格子図の最外側の縦. m, 3.0m, 4.0m, 5.0mおよび6.0mの異なる距離から. 線の位置では 2mmのずれが生じていた。横線,すな. 撮影した写貢を,フイルムのコマの大きさに対して等倍. わち行においてはずれが観察されなかった。そこで,格. に焼き付けた時の,頭蓋骨部分の相対的な大きさを示し. 子図外側の縦軸にみられたずれが,撮影によるものか,. ている。また,図6は,図5の各写真を頭蓋骨の大きさ. 引き伸ばし時におこったものかを見るために,ネガフィ ルムの左右の端に写っている部分を引き伸ばし機のフイ. で等倍焼き付けを行い,撮影距離2.0mと4.0m, 4.0m と6. 0mおよび2. 0mと6. 0mのそれぞれの写真上の頭蓋. ルムホルダーの中央におき,拡大焼き付けを行った。こ. 骨を,スーパーインポーズにより比較したものである。. の写真を原図と比較した結果は,各格子の幅において合. 図7は,焦点距離105mmのレンズでの同様の比較であ. 致しない,すなわち僅かに印画の方が幅が広くなってい. る。. ることが観察された。これは,辺縁部の不一致が,引き. 撮影距離が遠くなれば,写される頭蓋骨が相対的に小. 伸ばし磯によるものではなく,撮影された写索のネガに よるものであることを示唆しているものと考えられる。. 影画像については,撮影距離に関係なく,頭蓋顔面上に. さくなることは物理学的に明白である(図5)c 方,撮. - 4 -.
(6) 歯科学報 Vol. 92, No. 3 (1992). っけたポイントがすべて重なるように焼き付けられるこ. はさらに小さくなって,図6や図7のような拡大率では. とから,撮影時の焦点平面(いわゆるピントを合わせた. その差が明確に判定できないほどであった。 また言;のような頭蓋冠部における像の違いの結果は,. 平面)にあたる特徴は,同じであるといえる(図6, 図7)。しかし,頭蓋冠輪郭部の大きさがすべての撮影. 同部位と焦点平面とをつなぐ頭蓋骨の深さに関する特徴. 距離で異なり,その距離が短いほど違いは大きくなって. にも影響を与えていることになり,従って三次元的な像. いる(図6,図7)。すなわち,撮影距離2mと4mでの 画像,特に頭蓋冠郭における違いの差は, 4mと6mの. の特徴においてもすべて異なっているということになる。 以上から,被写体に対する撮影距離が違っても,撮影. それよりははるかに大きいものであることが観察され. 時の焦点平面においては,写真焼き付け時の拡大率を変. たOもちろん,撮影距離1.2mと6mの像の違いが,義. えることにより,同じ大きさならびに特徴の写真を待る. も大きく認められた。また, 4mと6mの像の比較にお. ことができるが,三次元的な写貢上の特徴をすべて合致. いて僅かに認められた違いは, 5mと6mの像の比較で. させることはできないという結果が待られた。. - 5 -.
(7) 橋本:個人識別手段としてのスーパーインポーズ法. 図3 焦点距離35mmと80mmおよび80mmと105mmのレンズで撮影された頭蓋骨写桑のス-パーイン ポーズ像(撮影距離1. 2m). 図4 蕉点距離55mmと135mmおよび135mmと200mmのレンズで撮影された頭蓋骨写真のスーパーイ ンポーズ像(撮影距離2. 0m) 一 6 -.
(8) 歯科学報 Vol. 92, No. 3 (1992). 図5 撮影距離の異なる写貢上の頭蓋骨の相対的な大きさ(レンズ焦点距離200mm). 図6 異なる距離で撮影された頭蓋骨写貢のスーパーインポーズ像(レンズ焦点距離200mm) - 7 -.
(9) 橋本:個人識別手段としてのスーパーインポーズ法. 4.写裏上における被写体の位置と画像との関係につ いて 図8は,いずれも蕉点距離55mmのレンズで,距離 2. 0mから撮影した写真であるo頭蓋骨の写貢上の位置 が,左方,中央,右方と異なっているo実験結果1の 2)から,撮影距離が同じであれば,焦点距離が異なる レンズで撮影されたものでも,像の特徴は同じであると いえたことから, 80mmレンズで写貢上の右方および左 方に撮影した頭蓋骨についても, 55mmレンズで撮影し た頭蓋骨の大きさと同じに焼き付けし,これら5枚の写 臭の比較を行った(図9)。比較は,左方と右方で撮影さ れている頭蓋骨を,中央のものにスーパーインポーズし て行ったo図10は,同様の比較を,距離1.0mから撮影 した写桑についてみたものである。 いずれの写貢においても,焼き付け時の拡大率を変え ることにより,焦点平面上の5つのポイントがすべて重 なり合う像を待ることができた。これらの重ね合わせ像 をみると,三次元的には,明らかに視差(parallax)が 認められる。そして,それは頭蓋骨が中央から離れるほ ど大きくなる。従って,画角の広い55mmレンズで左方 に撮影された写貢の方が,画角の狭い80mmレンズで 撮影されたものより視差が大きく観察されている (図9)o. 図8 写真上の頭蓋骨位置を変えて撮影された写 真(レンズ焦点距離80mm,撮影距離2. 0m) 一 8 -.
(10) 歯科学報 Vol. 92, No. 3 (1992). 図9 写真上の位置の異なる頭蓋骨のスーパーインポーズ像(レンズの焦点距離は各図下に 示す。撮影距離2. 0m) - 9 -.
(11) 橋本:個人識別手段としてのス-パーインポーズ法. 図10 写貢上の位置の異なる頭蓋骨のスーパ-インポーズ像 (レンズの蕉点距離105mm,撮影距離4. 0m). 2.スーパーインポーズ装置について. 貢をみながら,頭蓋骨を微勤させることにより,比較的. 識別手段としてのスーパーインポーズ法の発達史につ. 容易に撮影位置が設定できるように製作されたものであ. いては, Brown が詳細に報害している。環在,実際. る。しかし,レンズと頭蓋骨の距離を変えることができ. に利用もしくは研究されている方法としては,光学的な. ないうえ,その距離が25cmと非常に短い。従って,画. 方法,ビデオカメラを用いる方法,そしてコンピューター. 像の辺縁部の歪みやパースペクティブの差が大きく出る. グラフィックスによる方法の大きく3つがあげられる。. ものと考えられ,撮影される頭蓋骨写貢は,産前の顔写. 1)光学的なスーパ-インポーズ法について. 貢との総合的な比較には不完全なものであると思われる。. 当初一般に利用されてきた方法は,生前の顔写貢を複. 一方,石橋ら24)25)26)が改良を加えながら作製した光学. 写してnegative原板を作成し,次にこの生前の顔写貢. 台(optical bench)は,頭骨固定装置,頭骨移動装置,. の向きや角度をおおよそ推測して頭蓋骨を撮影する。. 透視板,カメラ固定装置およびコントロールボックスか. そして,昼前の顔写貢原板と同じ大きさになるように. らなる全長3mのものである。本装置の利点は,頭蓋骨. positive原板をっくり,両者の像が重なるように照合す. とカメラの距離を比較的長くとったことと,遠隔操作で 頭蓋骨をあらゆる方向に移動できるようにしたことにあ. るというものである2)。この方法では,頭蓋骨の撮影条 件が少しでも異なれば,同一人でも確実に合致する像が. る。しかしながら,透視法により頭骨撮影位置を決定す. 待られず,従って条件を僅かずつ変えて撮りなおし,何. る点に若干の問題があると思われる27)透視板には,ほ. 度も重ね合わせなければならないことから,非常に時間. ぼ頭骨と同じ大きさに拡大した慮写貢をトレースし,そ. を浪費するという欠点があったoそこで,酒井23)は1970. れをカメラのファインダーから透視しながら頭骨を移動. 年に,生前の顔写桑の撮影条件を再場できる,頭蓋骨撮. すると述べているが,透視板が頭蓋骨の前方にある限. 影装置について報害している。この装置は,産前の顔写. り,等身大の顔写真では両者が合致することは考え莱 - 10.
(12) 歯科学報 Vol. 92, No. 3 (1992) い。すなわち,カメラの焦点面が頭蓋骨上にあるかぎ り,透視板は拡大されて見えることになる。この解決法 としては,頭蓋骨も生前写貢もカメラから同じ距離で見 られるようにするか,もしくは透視坂上の生前写貢のト レースを頭蓋骨の大きさより縮小し,カメラからの撮影 距離に応じてその位置を適切に変吏するようにしない限 り,正確な頭蓋骨の像,つまり,生前の顔写裏とすべて の特徴点を比較できる像を待ることは難しいと考えられ る。また,撮影距離を変える方法についても考慮する必 要があると思われる。 市川28)29)は,酒井23)の装置の不備な点を改良し,さら に頭蓋骨移動や照明の照度調整,撮影露光時間等すべて の操作を自動化,短時間で該当顔写貢に可及的に忠実な 頭蓋骨の写貢を待ることができる撮影装置を作製してい る。この装置では,頭蓋骨とレンズ間の距離を待るため に6個のミラーと1個のレンズを使用している。しか し,その距離に関する記載はなく,また撮影距離を変え ることもできない。 McKenna3 の報吾した装置についても,撮影距離を 変えることができないという点では同様である。すなわ ち,上記装置のほとんどが,頭蓋骨を昼前の顔写貢の向 きに合わせることを主目的としたものであるということ である。 Dorion30は,スーパーインポーズ法における問走点 について述べた中で,実際例に利用した装置は,撮影距 離を考慮できるものであり,理論的には著者が本実験で 用いた,古江の装置と同じである.すなわち,写貢の撮. 視点 図12 図11の光学的スーパーインポーズ装置の模 式図 頭蓋骨と生前の顔写貢をカメラから同じ距離でみなが. 影距離が画像の特徴に影響を及ぼすことが明らかな以. ら,頭蓋骨の向きや角度を重ね合わせることができる。. 上,撮影距離を変えることのできる装置が必要になる。. すなわち,等身大の生前の写貢像が全反射鏡から半反射. 図11には,古江が考案した装置を,また図12には,その. 鏡に至るまでの距離と,頭蓋骨から半反射産までの距離. 装置の構成を模式図で示している。本装置においては,. が同じになるように設計されていること,また,生前の 写貢および頭蓋骨には光量調節可能な光源用のライトが 用意されており,これらの光室の変化により,生前の写 翼と頭蓋骨の重なり合った像が,半反射鏡を通してカメ ラのファインダー内でみられるようになっていることに ょるものである(図13)。さらに,図12からも明らかなよ うに,視点を前後に移動させることにより,カメラレン ズから頭蓋骨までの距離を随時変えることができる。そ の際,頭蓋骨のパースペクティブは視点の位置により連 続的に変化する.そして,頭蓋骨は常に等身大の顔写貢 と同じ距離でスーパーインポーズされて観察されるた め,禾可変の顔写貢のパースペクティブと合致する位置 が必ず存在することになる。その位置が,生前の顔写貢 が撮影された距敵であり,唯一無二の頭蓋骨撮影距離で. 図11古江による光学的スーパーインポーズ装置. ^11.
(13) 橋本:個人識別手段としてのスーパーインポーズ法 ある。尚,この場合には生前の写貢上における顔の位置 が,頭蓋骨撮影時のファインダー内の位置と同じになっ ていることが条件となる。一方,頭蓋骨の固定および角 度や向きの調節に関しては,著者はクランプと遠隔操作 で放調整のできる写真用電動雲台MP-101を利用してい る(図14)。これらは,比較的安価で,かつその使用目的 を十分達成できるものである。本スーパーインポーズ装 置は,三次元的なパースペクティブの特徴を利用しなが ら,生前写貢の撮影距離が求められるという点で非常に 優れていると考えられる。問題点は,生前の等身大顔写 責をどのように作成するかということにあるが,この点 についてはMcKennaら32)が言うように,歯牙の大き さに準じるのが望ましいと考えている。 2) ビデオスーパーインポーズ手套について ビデオスーパーインポーズ法は,図15に示したよう に, 2台のビデオカメラにより撮影された頭蓋骨と生前 の慮写貢がテレビモニター上で,調整盤の操作により重 ね合わされ,両者の合致性が検討されるというものであ る。この方法が,はじめて報害されたのは, 1977年であ る22)33)。 ビデオスーパーインポーズ法では,生前の顔写真を等 図13 図11の装置による光学的ス-パーインポー ズ実際例. 身大に焼き付ける必要がなく,ビデオカメラに装着され ているズーム機構により,頭蓋骨の大きさと適宜合わせ. 図14 頭蓋骨固定および激動装置ならびに使用例 - 12 -.
(14) 421. 歯科学報 Vol. 92, No. 3 (1992). +. 竃 A ; :. 図15 ビデオスーパーインポーズ法の模式図 ++ ら ++. +. + i 2 ヨ # 普 I一 + I 酌一. -ノ ノ 萱 Eig j = g:: > i ∼ 戻 玩. ど. 海 響. ることが可能であるoまた,結果を写貢により重ね合わ るのではなく,ビデオテープに記録しモニター上で提示. Pt ね > l. できること,必要に応じてスーパーインポーズ画像をモ. T< 1 > Y. + + + ++ メ. ニターから直接撮影できることなどの利点もあげること. 贈 ,gg…. 壁. + 範… 恩一 +一. 緋 才 一. 潤. ができる。この結果,スーパーインポーズ法に要する時. 虜. 間を大幅に短縮することが可能である。従って,多くの 1衰 i. 研究者が個人識別法の-つとして採用し,実際の事件に. 減 蘭 +W 定 離 一 子. 図16 ビデオスーパーインポーズ法 A :ビデオカメラによる頭蓋骨撮影 B:制御盤. 利用している34主39)。 著者は,この方法の鼻も優れた点として,頭蓋骨の撮 影条件を比較的容易に再現できることをあげた40)すな わち,頭蓋骨は動かさず,三脚に固定されたビデオカメ ラを上下,左右,前後に移動することにより,頭蓋骨に. パースペクティブの合った頭蓋骨写裏を得ることが楽し. 対する撮影角度,向き,距離を自由に変えることができ. くなるものと思われる。また,二台のビデオカメラを,. るからである。そしてその結果,制御盤のwipingおよ. 頭蓋骨ならびに生前慮写貢から同じ距離に設置し,スー. びmixing操作により,生前顔写貢とモニター上で重. パーインポーズを行うという,ただズーム機構の利点だ. ね合わせながら,全ての特徴が合致する撮影条件を決定. けを取り入れた方法を用いている研究所もあるようである。. できるということになる(図16)。 wipingとは,スー. 一方,ビデオスーパーインポーズ法の問題点は,二台. パーインポーズされた生前の査写貢と頭蓋骨の画像を. のビデオカメラに撮影された頭蓋骨と生前顔写貢の大き. モニター上で左右もしくは上下に分け,一方に顔写貢,. さを,どのようにして正確に同じにするかということで. 他方に頭蓋骨の像を写しながら別々に僅かずつずらす ことにより,両者の合致性を見るものである。また,. ある。頭蓋骨は実物であるため,モニター上での拡大率. mixingとは,両者を分けないで,菱ね合わせた画像で モニター上に写し出すというものであるo この操作で. 難しく,この場合も前歯部の写った写貢が最も通してい. は,顔写真と頭蓋骨の画像を一台のモニターに出力する. 写貢上で大きさの推定できるものを利用するか,もしく. 際に,その強さを調節することができる。その結果,両. は顔面軟組織と頭蓋骨の解剖学的な位置関係を利用する. 者のコントラストの異なる様々なスーパーインポーズ像. ことになるが,その際はまず顔面部において頭蓋骨の角. を待ることも可能である。. 度や向きを決定した後,拡大率を同じにし,三次元的な. を知ることができる。しかし,顔写貢については非常に ると考えられる。歯牙が写っていない場合については,. 近年になり,従来の光学的な方法とビデオカメラを. 矛盾の有無を検討するのが適当であると思われるo従来. 用いる方法を合わせた,写貢ビデオ複合スーパーイ. のビデオスーパーインポーズ装置の改良点として考えら. ンポーズ重合装置が報吾されている41)しかし,この. れるのは,三脚に固定していたビデオカメラを,頭蓋骨. 装置では撮影距離を自由に変えることができなくなり・. の前方に敷いたレール上に固定し,頭蓋骨の角度や向き -. 13-.
(15) 122. 橋本:個人識別手段としてのスーパーインポーズ法. は頭蓋骨固定装置において行えるようにすることであ. れた生前の写貢は,電車内で撮影されていたため,撮影. る.その結果,頭蓋骨の撮影向きを容易に設定できると. 距離を容易に推測することができた。また.小臼歯部ま. 共に,レール上に固定されたビデオカメラが前後するた. でに及ぶ前方歯啓が露出していたことも,頭蓋骨と重ね. め,被写体に対するカメラの向きが常に一定に保てると. 合わせる際のビデオカメラのズーミング,すなわち同じ. いう利点がある。レ-ルの長さについては,後に考察す. 拡大率を待ることを容易にした。一方,頭蓋骨の特徴と. るように, 5mZl上あることが望ましい。且 このよう な装置については,すでに著者とオーストラリアのアデ レード大学法歯学研究室の共同研究により作製し,成果 をあげている。 3)コンピューターグラフィックスによる方法について 近年になり,スーパーインポ-ズにコンピュータ-を 利用する方法がいくつか報吾されている42)-45) しかしながら,画像のコンピューター取り込みにおけ る像の歪みや,解像度および鮮明度に改良されるべき問 題が多く残されており,寛段階では確実な個人識別方法 としての可能性を言及する段階にあるとは恩われない。 IV 事 例 東京歯科大学法歯学教室において,鑑定を依頼された 事件のうち,光学的なスーパーインポ-ズ法と,ビデオ スーパーインポーズ法により識別されたもの各1例を次 に示す。 工 光学的なスーパーインポーズ法による識別例 本事例は,東京A区で発見された頭部が白骨化した女 性の身元不明死体で,歯科的な検査から40才前後と推定 された。口腔内には,歯科治療が施されているものの, 歯科医を同定することができなかったものである。状況. 図17 光学的なスーパーインポーズ法による重ね 合わせ像(事件例). 証拠から,該当すると思われる女性が判明し,その女性 の生前の写真数枚が個人識別のために搬入された。これ らの写責の中には,前歯部が霧出して写っているものが. して,上顎左側中切歯が埋伏歯であり未萌出の状態に. あり,頭蓋骨とのスーパーインポーズ法において,等身. あったoそのため,歯列弓の同部伽こ空隙が存在してお. 大の顔写貢作成や頭蓋骨の向きを再現する上で非常に有 効な情報となった。図17は,上記装置により作成された. なった。二台のビデオカメラで撮影した顔写桑と頭蓋骨. スーパーインポーズ像であるo生前顔写貢に霧出してい. り,これもスーパーインポーズの際の主要な照合点と. る前歯部と,頭蓋骨前歯部が完全に合致するとともに,. の画像を図18に,またテレビモニター上でmixingお よびwiping操作により重ね合わせた画像を図19にそれ. 顔面各部と頭蓋骨の解剖学的な位置関係においても全く. ぞれ示してあるoさらに,図20は,日部を拡大したもの. 矛盾が認められなかったため,同一人であると判断した ものである。. すべて極めて良く合致しているのが観察される。本件に. 2・ビデオスーパーインポーズ法による識別例. であり,写真上にみられる歯冠部と,頭蓋骨の歯根部が おいては,頭蓋骨に認められた珍しい歯科的特徴が,顔 写真とのスーパーインポーズにおいて合致したというこ. 本事例は, T県で発見された女性の身元禾明死体で, すでに白骨化しており,死亡時の年齢は10才代後半と推. とと,顔面上の各軟組織と頭蓋骨の解剖学的な位置関. 定された。状況証拠から,該当者と思われる女性が判明. 係,および三次元的な特徴においても矛盾が存在しない ことにより,同一人と判定した36)。. し. ・二'Viu〕I-vl二:声寸 ̄ト、-ら.-r.--'.i言二JIO. 行ったものである。スーパーインポーズのために搬入さ. - EE.
(16) 歯科学報 Vol. 92, No. 3 (1992). 図20 図19-Bの口部を拡大した重ね合わせ像(事 件例) V スーパーインポーズ法の応昂 頭蓋骨と生前の顔写貢を重ね合わせ,両者の特徴の合 致を見るというスーパーインポーズ法は,また対象を変 えることにより異なる方面にも利用することが可能であ る。 著者らは,防犯ビデオカメラに撮影された犯人の身体 的な特徴,特に身長やプロポーションの推定において, 二次元画像同士をビデオスーパーインポーズし,優れた 結果を待ている46)47)特に,防犯ビデオカメラの場合, 常に備え付けられた状態になっているため,犯行時と同 図19 ビデオスーパーインポーズ法による重ね合 わせ像(事件例)A : wiping il : mixing. じ条件を再現することが比較的容易であるという利点が あり,容疑者が判明したときの異同識別には極めて有効 であると考えている。 また, Ⅹ線規格写貢を比較の対象とし,もし生前に撮 - I'd -.
(17) 橋本:個人識別手段としてのスーパーインポーズ法 の特徴は,それが撮影されたときの条件によって固定さ れており,いかなる操作を加えても変えることができな い。従って,撮影条件と被写体の特徴との関係を知るこ とは,スーパ-インポーズ法による個人識別において, 産前の写貢を理解し,問題の頭蓋骨を撮影するうえで極 めて重要なことである。 写貢画像と撮影条件の関係については,写真専門 誌49)50)に概説されているが,このような関係が実際の スーパーインポーズ法による個人識別にどのような影響 を与えることになるのかについて詳細に検討した報吾は ほとんど認められない。高山20'は,頭蓋骨において写桑 計測した場合の誤差は,対象の深さとレンズの画角によ るパースペクティブの歪みが主であると述べている。そ して,深さを持った対象物を写真計測する場合,直接計 測と同等の精度を待るためには, 35mmカメラでは焦点 距離800mmのレンズが必要であるという。これは, パースペクティブの歪みをなくすためには, 800mmレ ンズが必要であるというのではなく,撮影距離を遠くと らなければならないと理解すべきであろう。この研究 は,また800mmレンズを用いて頭蓋骨が35mmフイル 影されたものが入手できれば,顔写貢に加え,そのⅩ線. ムの中におさまる距離以下では,三次元的な被写体の特. 写真も頭蓋骨とのスーパーインポーズに用いることがで. 徴は実物とは異なることを示唆するものである。市川ら. きる.さらに, Ⅹ線写責をもとに頭蓋骨の向きや角度が. 21)は,頭蓋骨上に15ヵ所の計測点を定め,撮影条件の違. 決定されれば,そこで再び頭蓋骨のⅩ線撮影を行うと,. いが画像に及ぼす影響について報吾しているが,距離1.. もし両者が同一人であれば理論的には生前のものと全く. 5m,レンズ55mmで撮影した場合が最も実測値と誤差. 同じⅩ線写桑を得ることができ,骨契模様などの骨内の. が少なかったという。この結果は,著者らの報吾40)と異. 特徴まで比較することが可能となる。. なるものである。深さを持った被写体を撮影した写薫上. 次に,比較する対象を顔写貢と頭部Ⅹ線写貢にする. での計測では,理論的にも,また高山や著者の実験から. と,写貢を通してみた両者の解剖学的な位置関係を知る. も,撮影距離が長いほど実測値と誤差が少なくなること. ことができ,スーパーインポーズ法における合致度の判. は明らかである。従って,市川らの報吾との違いの原図. 断資料を待ることができる.さらには,矯正や外科的な 治療を受けた場合の,術前術後の変化の程度を,視覚的. の-つは,計測点に鼻大頭蓋幅のような,撮影距離に鼻 も影響を受ける三次元的な計測部位が含まれていなかっ. にみることも可能であり,患者などへの説明にも利用で. たことが考えられる。. きるのではないかと考えている48)(図21)c. スーパーインポーズ法は,現在まで多くの識別事件に 用いられてきたが,研究者の多くは特に頭蓋骨の角度や 向きを生前写真に合わせる方法や,スーパーインポーズ. VI % スーパーインポーズ法が,信東される個人識別手段と. 像の解剖学的な合致蓋準について達意を払っていたよう. なり待るためには,いくつかの明確にすべき重要な課題. に思われる。従って,装置の開発においても,頭蓋骨の. があり,その一つが,生前の顔写貢や頭蓋骨の写貢撮影 に関するものである。. 撮影位置を決めることに重点がおかれていたのは事実で. 写真画像は,三次元の被写体をカメラレンズを通して. 体の位置が,画像の特徴に影響を及ぼしている限り,そ. 二次元に置き換えたものであるo言い換えれば,被写体 の深さに関する特徴が平面の上にのるということであ. 別に利用することは極めて危険であるといえる。そこで. る。そして,ひとたび二次元に置き換えられた写貢画像. 著者は,以上の諸点につき考察を加えてみた。. ある。しかし,撮影条件,特に撮影距離や写桑上の被写 の関係を認識しないで,スーパーインポーズ法を個人識. 一16 一.
(18) 歯科学報 Vol. 92, No. 3 (1992). 425. 1.写養撮影条件と写真画像の関係について. カメラにより撮影された写貢が,昼前写桑としてのスー. 1)写貢画像の歪みについて. パーインポーズに利用される場合においても,頭蓋骨を. 体を忠実に再現しているか否かは,レンズによる歪みを. 撮影するカメラに装着するレンズの種鷺は考慮する必要 がないといえる。ただ,短焦点レンズではコマ内を占め. 知る上で重要である。もし,カメラのフイルム面と二次. る像の大きさが小さくなるため,拡大焼き付けにより像. 元の被写体が平行であるならば,空論的には両者は同じ. の鮮明度が落ちることが考えられる。従って,頭蓋骨撮. になるはずであるo従って,異なればその原因は,レン. 影にはある程度焦点距離の長いレンズを用いるのが望ま. 二次元の被写体を撮影し,その写貢画像が実際の被写. しい。著者は,通常105mmの単体レンズを使用してい. ズそのものの収差などを考えなければならない。 写真上の歪み(distortion)には, barrel distortion. るo しかし,生前の顔写貢が28mm以下の蕉点距離を持. とpincushion distortionがあり,その原因はレンズ辺. つ,いわゆる広角レンズで撮影され,印画上の辺縁部に. 縁部の表面が平行でないときに起こるという50)51)O徒つ. 位置したものであれば,前述したように写桑の辺縁部に. て,補足的な要素の持った対称なレンズでは歪みはみら. おいて歪みが生じていることが考えられるため,頭蓋骨. れない。非対称なレンズの代表として,遷広角のいわゆ. 撮影のレンズも同じにすることが必要であろう。 3)撮影距離と写貢画像との関係について. る魚眼レンズがあるが,このレンズによって生じる歪み. 三次元の被写体を写貢撮影する際,撮影距離がその特. はbarrel distortionである。 本実験では,このような種楽の歪みは認められなかっ. 徴に影響を及ぼすということは,物理学的に説明可能で. たものの,撮影距離2m,蕉点距離200mmのレンズに. ある。すなわち,撮影時に蕉点を合わせた面と,その前. おいて,写裏の左右側の像が外側に平行に広がるという. 後の面においてはレンズからの距離によって拡大率(m). 特徴が観察された。しかし,同じ実験で撮影距離上2. が異なることになるからである。この関係については,. m,焦点距離105mmレンズでは,このような像の広が. カメラの前主点から一定の距離(D+ d)における拡大率. りは認められなかった。さらに,実験1の4)の結果,す. (m)は,同前主点から焦点面までの距離(D)をその距離. なわち撮影距離2 mや4 mにおいて画面辺縁部に撮影し た像と中央に撮影した像が,焦点平面にある顔面上の 5カ所のポイントで矛盾なく重なる像が待られたことか ら,上記の辺縁部における広がりは,ス-パーインポー ズの結果にはほとんど影響を与えるものではないと患わ れる。ただ,このような像の広がりが認められる原因の 一つとして, 200mmレンズがズームレンズであったこ とが考えられる。すなわち,ズームレンズは,単体のレ ンズに比べ,その組み合わせが動くために生じたのでは ないかと推案される。 2)カメラレンズの焦点距離と写貢画像との関係につ いて 成書の中には,スーパーインポーズ法によって個人識 別を行う際,生前の写桑を撮影したカメラの種楽やレン ズなどを可及的に同じものを使用することが望ましいと 記述されているものがある34)51)これは,カメラレンズ の種幾が,写貢画像に影響を与えるという認識のもとに 述べられたものと思われる。しかしながら,本実験霧吾栗 において明らかなように,蕉点距離が35mm]以上のレン ズでは,コマ内を占める被写体の大きさが異なるもの の,撮影される被写体自体の特徴を変えることはない。. D. m=云寺寺i) Dl-D2-200cm, d-10cm m-0.952. ii) D3-100cm, d-10cm m-0.909. 従って, -般に使用されている焦点距離35mmのコンパ クトカメラや,標準レンズといわれるものが装着された - ih-. 図22 スーパーインポーズ法における写真撮影距 離と像との関係.
(19) 橋本:個人識別手段としてのスーパーインポーズ法. 426. (D+d)で割った値となる。一例として,産前の写貢が. 倍焼き付けしたときの,頭蓋冠輪郭部,すなわち最大頭. 2mの距離から撮影されていたとし,頭蓋冠輪郭がその. 蓋幅を求めると, 1mで135.0mm> 2mで14工2mmサ. 焦点面より10cm後方にあったとすると,頭蓋冠輪郭部. 3mで143.4mm, 4mで144.6mm, 5mで145.2mm,. の拡大率は, 0.952となる。この時,スーパーインポー. 6mで145.6mmとなる。このことは,例えば2mの距. ズのための画像を待るために,この頭蓋骨を1 mの距離. 離から撮影されている産前顔写貢に, 3mから撮影した. から撮影したとすれば,頭蓋冠輪郭部における拡大率. 同一人の頭蓋骨の写貢を重ね合わせた場合,頭蓋輪郭部. は D.909となる(図22)c この差は,極めて大きいとみ. で2.2mm衰貢蓋骨の方が大きくなるということになる.. るべきである。そこで,カメラの前主点と蕉点面の距. 反対に, 5mの距離から撮影された顔写貢に, 2mから. 離,すなわち撮影距離と,蕉点面前後における拡大率と. 撮影した頭蓋骨写真を重ね合わせれば,両者の頭蓋輪郭. の関係について示したのが,表2である。本実験におけ. 部の差が1.0mmもできてしまう。. る頭蓋骨の撮影では,焦点面をほぼ眼を含む平面に合わ. さらに,撮影距離は,パースペクティブと呼ばれる,. せており,その際の頭蓋冠輪郭部の位置は後方96mmで. 三次元的な像の特徴にも影響を及ぼしている。すなわ. あった。従って,頭蓋冠輪郭部における拡大率は,撮影. ち,撮影距離の違いが焦点面前後の拡大率に影響を与. 距離1mで0.912, 2mで0.954, 3mで0.969, 4mで. え,その結果,蕉点面上の像との三次元的な連なりにお. 0.977, 5mで0.981, 6mで0.984となりこれらの拡大. いて被写体の特徴が異なって見えるというものであり,. 率の差が実際の写真上では,図9に示したとおりで. 図23によって理解される。従って,拡大率とパースペク. あった。実験において使用した被写体の最大衰貢蓋幅は,. ティブに影響を与え,写貢画像の特徴を固定してしまう. 148mm(日本人平均値,男性142. 5mm,女性135.9mm. 撮影距離は,頭蓋骨撮影において最も重要な条件である. 52))である。そこで,各距離における画像の顔面部を等. といえる。. 表2 写莫撮影距離と拡大率との関係 前方 焦 点 面 か らの 深 さ 3 00 c m. 撮影距離. 0 0C. 1 00c m. 5 0c m. 50cm 100cm. 2. 焦 点 平 面. 3c m. 6 cm. 9c m. 12c m. 15 cm. 2 0c m. 5 0c m. 1.ll. 1. 0.94. 0 89. 0 85. 0 81. 0. 77. 0.71. 0.5. 0 33. 0.2. 1 .4 3. 1.ll 11 05. 1. 0.97. 0 94. 0 92. 0 89. 0 87. 0 83. 0 67. 0.5. 0.33. 30 cm. 1 0c m. 5 cm. 2 .5. 1 25. 1 00 cm 2 0 0c m. 150cm. 3. 1.5. 1 25. 1.07. 1.03. 1. 0.98. 0.96. 0 94. 0.93. 0.9 1. 0.88. 0.75. 0.6. 0 43. 200cm. 2. 上 33. 1 . 18. 1 05. 1 03. 1. 0.99. 0 97. 0.96. 0 94. 0.93. 0.91. 0.8. 0.67. 0.5. 250cm. 5. 1 67. 1.25. 1 14. 1 04. 1 02. 1. 0.99. 0 98. 0 97. 0 95. 0 94. 0 93. 0 83. 0 71. 0 56. 300cm. 3. 1. 5. 1 2. 1 11. 1.03. 1 02. 1. 0.99. 0 98. 0 97. 0 96. 0.95. 0 94. 0 86. 0 75. 0.6. 350cm. 7. 2 33. 1.4. 1.17. 1 .0 9. 1 03. 1.01. 1. 0.99. 0 98. 0.97. 0.97. 0.96. 0.95. 0 88. 0 . 78. 0 64. 400cm. 4. 2. 1. 33. 1 14. 1 08. 1 03. 1 01. 1. 0 99. 0 99. 0.98. 0 97. 0 96. 0 95. 0.89. 0 .8. 0.67. 450cm. 3. 1. 8. 1 29. 1 13. 1 .0 7. 1 02. 1 01. 1. 0 99. 0 99. 0 98. 0 97. 0 97. 0 96. 0.9. 0 82. 0 69. 500cm. 2.5. 1 67. 1 25. 上 11. 1 .0 6. 1 02. 1 01. 1. 0.99. 0 99. 0.98. 0.98. 0.9 7. 0.96. 0 91. 0 .8 3. 0 71. 550cm. 2.2. 1 57. 1 22. 上 l. 1 06. 1 02. 1 01. 1. 0.99. 0 99. 0 98. 0.98. 0 97. 0 96. 0 92. 0 .8 5. 0 73. 1 .0 0 (0 .99 5 1 .0 0 0 .99 5 1 .0 0 (0 .99 6 1 .0 0 (0 .99 6 1 .0 0 0 .99 6 、. 0.99. 0.99. 0.98. 0.98. 0 97. 0.92. 0 86. 0 75. 0 99. 0 99. 0 98. 0 98. 0 97. 0.93. 0 87. 0 76. 0.99. 0 99. 0 98. 0 98. 0 97. 0.93. 0 88. 0 78. 0 99. 0 99. 0.98. 0.98. 0 97. 0 94. 0 .8 8. 0 79. 0 99. 0.99. 0.99. 0.98. 0 98. 0 94. 0 89. 0.8. 600cm. 2. 1. 5. 1. 2. 上 09. 1 .0 5. 1 02. 1.01. 1. 650cm. 1 86. 1 44. 1 18. 1 08. 1 05. 1 02. 1 01. 1. 700cm. 1.75. 1. 4. 1. 1 7. 1 08. 1 04. 1 01. 1 01. 1. 750cm. 1 67. 1 36. 1 15. 1 07. 1 04. 1 01. 1 01. 1. 800cm. 1.6. 1.33. 1. 14. 1 07. 1 04. 1 01. 1 01. 1. -. 18-.
(20) 歯科学報 Vol. 92, No. 3 (1992). 427. ならないということである。 また,本実験では,撮影距離が異なっても,焦点を合 わせた平面上の被写体については,等倍焼き付けを行う と,その特徴がすべて合致した画像を侍ることができる ということを写養上で明らかにした。このことは,スー パーインポーズの結果を判断する上で留意しておく必要 があると恩われる。従来のスーパーインポーズ法による 個人識別事例では,そのほとんどにおいて,同一人であ るか否かの判定は顔面部の特徴の合致度に頼っていたよ うである.これは,写真の撮影距離が生前顔写真と頭蓋 骨で異なっていても,拡大率を同じにすれば被写体の焦. A:撮影距紅が長い場合 B:撮影距紅が短い場合 図23 撮影距離とパースペクティブの関係. 点面上では,画像の特徴を全く同じにすることができる ために,撮影距離を合わせるということの重要性を強く 認識しなかったのではないかと思われる。しかし,たと え生前の写貢と問題の頭蓋骨が桑に同一人であっても,. そこで,次に拡大率やパースペクティブがスーパーイ. スーパーインポーズに利用される産前の写貢が撮影され. ンポーズの結果にほとんど影響を与えないであろうと思. た距離がわからなければ,三次元的な特徴を含めた全て. われる撮影距離について,表2および本研究結果から推. の特徴が合致した頭蓋骨との委ね合わせ像を待ることが. 測してみる。 頭蓋骨の撮影距離について石橋27)は,作製した頭骨撮. できないことは明らかであるo言い換えれば,もし頭蓋 骨と生前の写貢の人物が同一人であるならば,全ての特. 影装置の撮影距離を3mとしている。その板拠として,. 徴が合致する位置がただ一つあるということである。し. 資料となる顔写真が集団写真の外側に位置している場. かしながら,この1点を見つけることは極めて困難であ. 合,その人と患われる頭骨を正面から近距離で撮影する. り,この解決策としては装置に頑らざるを待ないと考え. と歪みが生じるが,その距離を1.5-3mにすればこの. るo従って,装置が常に一定の距離からしか撮影できな. 歪みが解消されると報害したGriinerらの論文53)を引. いようなものであるならば,利用できないということに. 用している。しかし,この歪みは,パースペクティブと. なるo装置の問題については,本章2で考察する。 4)写貢上における被写体の位置と画像との関係につ. は異なるものであると考えられる。そして,本実験か. いて. ら, 1.5mから3mの撮影距離では写嘉画像に及ぼす影. 写真上における被写体の位置と画像の特徴について. 響が,非常に大きいという結果が待られたことは,撮影 距離を3 mに固定することの危険性を示唆するものであ. は,視差(parallax error)の影響を観察した。視差と. る。. いう用語は,写裏学ではいわゆるコンパクトカメラと呼. 著者は,頭蓋骨撮影にあたり,距離を無視しうる場合. ばれる二眼レフカメラを用いた撮影に使われている。す. として,焦点平面後方約10cmの位置での縮小率が,撮. なわち,ファインダーからみた被写体とレンズを通して. 影距離が違ってもほとんど変化しないということが条件. 撮影される被写体では,ファインダーとレンズの位置が. であると考えている。この意味において,スーパーイン. 僅かに上下にずれているために,特徴が異なるという現. ポーズの結果の判定に影響を与えない距離は,本実験結. 象である。本実験では,カメラの位置を左右にずらせる. 果および一般に写貢が撮影される距離から考えて,およ. ことによってみられる視差の影響を検討した。その結. そ5mJ以上であるということになる。すなわち,生前の. 果,頭蓋骨のカメラに対する向きや角度が,カメラの位. 写真が5 m以上の距離から撮影されているものであるな. 置によりすべて異なり,画像の三次元的な特徴や位置関. らば,頭蓋骨の撮影は5mから撮影しても差し支えな. 係も変わるということが観察された。本結果は,視差が. い,つまり両者のスーパーインポーズの結果の判定には. スーパーインポーズ法による個人識別結果の判断におい. 影響を与えないものと患われる。言い換えれば,生前写. て,非常に重要であることを示唆している。すなわち,. 真が5 m以内で撮影されていれば,頭蓋骨の撮影におい. 視点が変われば,軟組織と頭蓋骨の解剖学的な位置関係. ても生前の写真撮影距離と出来る限り同じにしなければ. も変わってくるということである。従って,スーパーイ 19-.
(21) 橋本:個人識別手段としてのス-パーインポーズ法. 428. ンポーズの判定基準は,常に一定ではなく,写真に応じ. る場合の,それぞれのカメラ正面での頭蓋骨の相対的な. て変わるものであるということを認識しておくべきであ. 向きを示した。尚,生前顔写真と頭蓋骨の撮影距離は,. SB. 同じと仮定しているo いずれの図からも明らかなよう. また,スーパ-インポーズ法に供される生前の写真に. に,顔面と頭蓋骨では焦点平面上にある部位が異なって. おいて,顔面部が常に中央に写っているとは限らず,写. いる.すなわち,顔写貢において焦点平面上にあった部. 貢の右端や左端,上端,下席などの辺縁部に写っている. 位が,頭蓋骨上では同平面に角度をなすということにな. 場合もあるO しかし,このような場合でも,通常は頭蓋. る.そしてその結果,顔写桑では蕉点平面上にあった部. 骨をカメラの正面に置き,これらの写真と比較しながら. 位が三次元的な位置関係を持っようになり,パースペク. 角度や向きなどを検討し,スーパーインポーズを行って. ティブの影響を受ける。従って,たとえ顔写貢と頭蓋骨. いる。すなわち,被写体のレンズに対する向きや角度が. が同一人であっても,すべてが合致するというスーパー. 相対的に同じであれば,写真上における像の位置はその. インポーズ像を待ることは不可能である。そこで,この. 特徴に影響を与えないという仮定のもとに行っているわ. 問題についても,撮影距離の場合と同様,ス-パーイン. けである。しかしながら,三次元的には,視点が変われ. ポーズの結果に影響を与えないであろうと思われる条件. ば,必ずレンズに対する頭蓋骨の向きや角度が変わって. について推測してみる。最も考慮しなければならない点. くる。例えば,写貢の左端中段に撮影された生前の顔と. は,頭蓋骨をカメラのif面に置いた場合,生前の顔写真. スーパーインポーズするために,カメラの正面で頭蓋骨. に比べ焦点平面に対してどの程度角度をっけることにな. の向きや角度を合わせようとすると,図24のようにな. るかということである。この角度は,レンズの前主点と. る(A)は,左端に影響された顔面部がカメラの焦点平. 頭蓋骨を結ぶ線が,同じく前主点と生前の写莫上の顔の. 面上にある場合, (B)は,顔面部がカメラに正対してい. 位置を結ぶ線と成す角度に等しくなる。そこで,今回使 用したレンズで,画角の最も広い35mmレンズについ て,検討を加えてみる。 35mmレンズでは,およその画角は63度,水平画角 は, 54.5度,垂直画角は38度である。カメラに向かって 左端中段で撮影されたものを,正面に持ってくるという 場合は,水平画角が問題となり,この場合では,最大で 水平画角の1/2 ,すなわち約27度頭蓋骨の向きを変え るということになる。この結果,本実験に用いた頭蓋骨 では,図24のAの場合,生前の顔写貢の位置ではぼ蕉点 平面上にあったと考えられる両眼官幅104mmが,頭蓋骨 撮影時の焦点平面上で想定した場合, 92. 7mm(104mm xcos27 )となる。また,頑骨弓幅については,同様に 143mmであったものが, 127.4mm(143mmxcos270) となるo また,三次元的な深さは,両眼嵩幅および頑骨. l Ll I L. 弓幅の計刺点であるエクトコンキオンとチギオンにおい. イ 圭. 、、、、、、 、. て,右側ではそれぞれ蕉点平面の後方23. 6mm(52mm xsin27 )と32.5mm(71.5mmxsin27-),左側では前 E 撮 影 距 紅 ). 、. 方23.6mmと32.5mmになる。なお,この場合は各幅径. 、、. の中点を正中とし蕉点平面上にあるものと仮定してい. 、 、、、、 、、 、. る。このような条件下の頭蓋骨撮影においては,焦点平 面の前方にある部位と後方にある部位では拡大率が異な り,左右差が生じることになる。著者は,この左右差が. tl .也 レ / ス の 別 (B ). め. 、. フ イル ム 面. スーパーインポーズにおいて重要であると考え,各撮影. メ ラ. 距離における,上記の両眼雷幅および頑骨弓幅での左右. 図24 生前の顔写貢が画角の右端にある場合のカ メラ正面における頭蓋骨の相対的な向き. の径を求めた(表3)。結果は,仮想正中からチギオンま -20.
(22) 歯科学報 Vol. 92, No. 3 (1992). して,このような写真の中で該当者と思われる人がどこ. 表3 カメラ正面においた資料頭蓋骨の仮想正中から 左右のエクトコンキオンおよびチギオンまでの各 撮影距離における径 (水平画角54度の場合) 部. 429. に写っているかを確認し,さらに全体的な構図からある 程度の撮影距離やレンズの画私 さらにはレンズ中央と 顔写桑の成す角度等を推測することが,スーパーイン. 位 エ ク トコ ン キ オ ン. チ. ギ. オ. ン. ポーズを行う際に考慮されるべきであろう0. 撮 影 屋巨離 左. 2.スーパーインポーズ装置について. 左. 右. 右. 1 m. 4 7. 4 2. 45.23. 65.. 61.69. 供された生前写貢の撮影距離の推測が,極めて重要であ. 2 m. 46.85. 45.76. 64.75. 62.68. ることは,すでに述べた通りである。従って,頭蓋骨撮. 3 m. 46.6 7. 45.94. 64.40. 63`02. 影装置はその撮影距離を変えられるものでなければなら. 4 m. 46. 57. 46.03. 64.22. 63.19. 5 m. 4 6. 52. 46.08. 64.12. 63.29. スーパーインポーズ法による個人識別においては,撹. ない。この意味においては,実験結果で述べた光学的な スーパーインポーズ装置も,ビデオスーパーインポーズ 装置もともに満足できるものである。. (単位: mm). 光学的なスーパーインポーズ装置では,生前の顔写真 を等身大に引き伸ばさなければならない。その方法とし て,前歯部の重要性を述べた。歯は生きているときも,. での径の左右差が1 mmJii下になる撮影距離は, 4mか ら5mの間であった。この距離においては,ナジオンか. また白骨になっても常に外から観察される唯一の組織で. らエクトコンキオンまでの左右差はすでに1mm以下で. あり,また写貢撮影時においては慮面上に蕉点を合わせ. あった。従って,撮影距離を4mJ以上とると,写真が画. る場合が多いからである。従って,生前の顔写蓋に歯が. 角54度より狭いレンズ っまりレンズの蕉点距離にし. 写っている場合は,その大きさに基づいて等身大写裏を. て, 45mm以上のもので撮影されたものであれば,顔が. 作製することが最も信東のおける方法である。これは,. 写莫上のどの位置にあっても,頭蓋骨をカメラの正面に. ビデオスーパーインポーズでの拡大率の調節において. おいて撮影して問題はないと患われる。このことは,も. も,言えることである。しかし,常に歯が利用できると. し生前の写真が, 35mmレンズのカメラを用いて4mJ以. は限らない。そのようなときには,眼嵩と眼の位置関係. 内で撮影され,かつ顔の部分が写真の右あるいは左端に. や頑骨弓の幅などを指標として,概ね等倍と思われる写. 写っている場合には,出きる限り頭蓋骨を同じ位置にお. 真を作成しているo このような写真を光学的なスーパー. き,向きや角度を合わせることが必要であるということ. インポーズ装置に利用する際には,全反射の鏡と生前写. を示すものである。しかし,この距離は絶対的なもので. 貢の距離を変えることにより,拡大率の補正を行うこと. はなく,生前の写貢上での顔の位 と写貢中央の位置関. になる。これは,二次元画像は撮影距離を変えても,像自. 係で変わるものである。ちなみに,水平画角が約36度の. 体の特徴は変わらないということを利用したものである。. 焦点距離55mmレンズで,左端に撮影された顔写貢と重. そして,実際の身元確認作業において,本人を同定す. ね合わせるための頭蓋骨撮影では,カメラ正面において. る上で信頑のおける結果を待ることができたということ. 2m離れれば,仮想正中からチギオンまでの左右差が. は,これらの装置を利用する方法が写貢上における問題. 1.5mmとなり,スーパーインポーズへの影響は無視で. 点を解決しているものと考えられるo 以上述べたように,写真撮影条件と像の関係が明らか. きるものとなる。 以上の結果から,生前写真に撮影されている画像の全. になり,その結果を考慮した装置および方法が確立され. 体的な特徴をよく理解することが,極めて重要であると. たことから,次にスーパーインポーズの結果の判断基準. いえるo しかしながら,昼前写真として法務当局から提. についても若干の考察を加えたいと思う。頭蓋骨と軟組. 供されるものには,すでに該当する本人の部分が拡大さ れているものがある.このような写貢から,これがフイ. 織の位置的な関係にらいては,すでに多くの報吾がみら れる5)24'54)-62)。しかしながら,これらはⅩ線写貢を用. ルムのコマ内に写ったすべてであるか否かを判定するこ. いた研究が多く,頭蓋骨と同-人の生前写裏との比較に. とは困難であるo従って,提供される生前の写真は,例. より得たものではない。従って,このような基準が適用. え該当者と思われる人が小さく写っているとしても,コ. できるのは,頭蓋骨に直接肉付けをするという,いわゆ. マ全体を焼き付けたオリジナルのものが必要である。そ. る複顔法においてであると考えられるo スーパーイン 21.
(23) 橋本:個人識別手段としてのスーパーインポーズ法. 430. ポーズ法の場合,頭蓋骨と生前の写桑を重ね合わせた結. 1.被写体が二次元,すなわち平面であれば,撮影距. 果について,解剖学的な位置関係が合致するか否かを見. 離やカメラレンズの蕉点距離,撮影時の露出を変えて. るためには,その合致基準についても頭蓋骨の角度や向. も,写裏画像にはスーパーインポーズに影響を及ぼすよ. き,撮影距離によってどのように変化するかを考慮する. うな大きな変化は認められない。. 必要がある。ただ,通常のスーパーインポーズ結果の解. 2.焦点距離の異なるカメラレンズを用いて三次元の. 釈において,上記Ⅹ線写貢により得られた結果を適用し. 頭蓋骨を撮影した場合,撮影距離が同じであるならば,. ても大きな差がないと言うことは,生前の写真に正貌が. 短焦点のレンズにより撮影された頭蓋骨のはうがフイル. 多く,また比較される特徴が,顔面のほぼ平面上にある. ムのコマ内に小さく写る。しかし,頭蓋骨について,同. ためであろうと推測される。顔が,写真上で左右もしく. じ大きさに拡大すれば,その像の特徴は全く同じであ. は上下に移動すると,頭蓋骨と軟組織の位置的な蘭係. る。すなわち,撮影距離が同じであれば,レンズの焦点. は,視差の影響を受けたということは前述したとおりで. 距離は像の特徴に影響を与えない。. ある。従って,視差による位置関係の変化についても,. 3.カメラレンズを変えずに,距離のみを変えて頭蓋. 今後検討されるべきであろう。. 骨を撮影し,その大きさが等倍になるように焼き付ける. スーパーインポーズ法の信東性について,市川ら63)は. と,画像はすべて異なる。すなわち,深さのある被写体. 男性頭蓋骨と無作為に選んだ20名の正貌写貢を比較した ところ, 1例においては解剖学的位置関係を満たしてい. では,撮影距離により,蕉点平面の前後で拡大率が異な. たと報吾している。また,石橋55)は楽似の特徴を持っ頭. ある。従ってスーパーインポーズによる個人識別では,. 蓋骨を用いた場合,略々合致したと述べている。これら. 頭蓋骨の撮影距離は,昼前顔写真が撮影された距離と同. り,その結果パースペクティブにも影響を及ぼすからで. の結果は,他人でも同-人と判断される可能性を示唆す. じにする必要がある。ただ,生前写真が5mH上で撮影. るものである。しかし,これらの報吾が撮影距離や三次. されたものであれば,頭蓋骨の撮影は5 m離れれば十分. 元的な合致基準点をすべて考慮した結果であるのかどう. であると思われる。また,撮影距離が異なっても,撮影. か疑問である。. 時に焦点を合わせた平面上の特徴は合致させることがで きる。. 著者は,唯一ある生前写真の撮影時の各条件を再現で きれば,頭蓋骨が万人禾同である限り,同一人であれば. 4.カメラの視点を変えることにより,被写体が写真. 必ずすべての解剖学的位置関係は矛盾なく合致し,他人. 上に占める位置が異なるとともに,視差の影響を受け,. であれば矛盾が存在すると考えている。また,歯につい. カメラに対する相対的な角度や向きが変わる。その結. ては,極めて重要な判定素準となり待るものであり9)13). 果,三次元的な像の特徴が変化し,頭蓋骨では,深さの. 16)17)32)64)65)その特徴が合致すれば同一人と判定して差. 異なる部位間での相対的な位置関係に差が生じるo ま. し支えないものと思われる。従って,その撮影条件を再 場し待る装置を検討し,その方法を確立しえたことは,. た,視点が変われば,必ずレンズに対する頭蓋骨の向き. スーパーインポーズ法が確実な識別手段となりうるもの. を資料としてスーパーインポーズする場合,頭蓋骨をカ. であることを十分示しているといえよう。. メラ正面で撮影したのでは同じ画像を待ることはできな. や角度が変わる。従って,写桑の辺縁部に写った顔写貢. い。このカメラに対する向きの差は,レンズの前主点と Ⅴ 結 論. 生前の顔写真の位置を結ぶ線と,同じく前主点と写貢中. 個人識別手段の一つとしてのスーパーインポーズ法と. 央におかれた頭蓋骨を結ぶ線が成す角度によって決定さ. は,頭蓋骨と該当者と思われる人の生前の慮写表を重ね. れる.生前の顔写真が,焦点距離35mmのレンズで左鴎. 合わせ,両者の解剖学的な位置関係の矛盾の有事酎こよっ. 中段もしくは右端中段で撮影されていた場合に,頭蓋骨. て同一人であるか否かを判断するというものである。こ. をカメラ正面で撮影してもスーパ-インポーズに影響を. の方法の利用にあたっては,写裏に関する問題,解剖学. 及ぼさない距離は,約4m以上であると考えられる。. 的な問題,装置に関する問題などを十分に認識し,考慮. 尚,この距離は写真上での顔の位置と写真中央の位置関 係で変わる。. しなければならない。著者は,写真と装置に関する問題 について,被写体に二次元の図および日本人男性頭蓋骨. 5.スーパーインポーズにおける写桑上の大きな問題. を用い空論的に解析,実験的に証明し,本法が確実な識. 点は,撮影距離である。従って,頭蓋骨撮影装置は撮影 距離を自由に変えられるものでなければならない。そし. 別手段となり待るか否かについて検討を試みた。 22.
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