知的作業を支援する環境を考える
A Research on A Set That Supports The Creative Group Work
池田
晃一
1本江
正茂
2Koichi Ikeda
1and Masashige Motoe
2 1株式会社
岡村製作所 オフィス研究所
1Office Research Center, Okamura Corporation
2東北大学大学院
工学研究科 都市・建築学専攻
2
Department of Architecture and Building Science, Graduate School of Engineering,
Tohoku University
Abstract: It is increasing that the social needs to improve the relation between the creativity and work
environment. However, we don't have much useful evaluation approaches from its complexity for creative work today. Our research methods are combined with four: 1) analyzing worker’s actual activity , 2) catching worker’s demands on creative work environment, 3) grabbing upcoming creative workspace (Fab.Lab, Co-working Space), 4) developing measurement method for creative group work. In this paper, we introduce our previous research and discuss the creative activities and the environment for that.
1.話題提起
ピーター・ドラッカーが知識社会の到来を宣言し [1]、野中郁次郎のSECI モデルに代表される知識創造 理論が展開される[2]など、社会において私たちがい かにクリエイティブな仕事をしていくかについての 議論が活発におこなわれている。 ホワイトカラーが多数を占める現代において、知 的活動、知識創造の現場はオフィスであり、労働に 限らなければ学校であるといえる。私たちは建築の フィールドからオフィスや学校の在り方に関心を寄 せている。 ただし、建築からのアプローチとはいっても、温 熱環境、空調、照明といった設備、空間のボリュー ムや形態、オフィスのレイアウト、家具の性能とい った様々な切り口が考えられる。私たちが関心を寄 せ、分析の対象としているのは少人数のグループワ ークであり、そこにおいての作業者行為、特に作業 環境の利活用や作業プロセスの変化である。 建築の研究領域として「人間-環境系」という分 野がある[3]。当たり前のことであるが、なにか行為を するとき、人間と環境は相互に影響を与えあってい る。人間は環境の中にある可能性を見つけ出すこと ができるし、それに応じて行動を変化させることが できる。一方、環境も人間に可能性を与えるだけで なく、人間の行為によって変化を生じるのだ。 知的な作業を考えるときには作業者の行為を捉え るとともに、環境が発している可能性に目を配り、 環境に起こる変化を捉える必要がある。私たちが研 究のスタート位置に掲げているのは「誰もが創造的 にはたらくことができるとしたら、そのために環境 ができることはなにか」という疑問である。2.作業行為を捉える
2.1 作業者の「行動」を捉える
研究を開始した 2007 年に製作したのが作業空間 の平面図画像生成システムである。これは天井に取 り付けたカメラアレイの画像を統合し、作業環境を 平面図として記録(図 1)する機能を持つ[4]。そのよう に生成された画像を用い、知的作業をおこなうユー ザが使っているツール、身体の移動、家具の移動な どを捉えることが可能になる。 知的な作業をおこなっている人、グループはどの ような行動をとっているのだろうか。さらに、優秀 なアウトプットを出す人、グループの行動に特徴は あるのだろうか。また、そうした人たちは環境に対 してどのような働きかけをしているのだろうか。そ ういったことを調べるスタートとして行動をごっそ り取り出そうというのがこのシステムの狙いである。 画像から身体移動量、家具移動量、作業中の会話記録から発話量、発話機会を抽出し、作業から得ら れたアウトプット評価との照合をおこなった。 4 名一組、38 グループを対象に分析をおこなった 結果として、より活発に身体を移動させ、会話し、 環境を大胆に切り替えているグループのアウトプッ トが高い評価を得ることがわかった[5][6]。 具体的にいうと、家具を移動させて自分たちが移 動しやすいような空間をつくったり、家具を片付け てしまって床で作業をしたりと、セットされた環境 をそのまま使うのではなく、自分たちのやりたい行 為にあわせて、障害にならないように工夫している グループが成績上位に多くみられた。 図1:生成された平面図と計測画面 このほかにも「多様な職業において行動の共通性 を見出す研究」[7]、「ブレインストーミング時のアイ デアの質と量に関する研究」[8]など作業者の行動を 計測し、その中に知的作業を円滑におこなうための ヒントを見つけ出そうという研究を続けている。
2.2 作業者の「要望」を捉える
行動計測研究に続き、2010 年より開始したのがデ ザイン行為へのユーザ関与についての研究である。 建築に限らず、ものづくりにおいてはユーザが自 ら考案し、実現できる領域と専門家(デザイナー、設 計者、職人など)の参加なしには実現できない領域が 存在する。例えば「グループ作業に最適だと思われ るテーブル」が必要だとなったとき、実際に作業を おこなうユーザはどこまで欲しいテーブルを実現す ることができるだろうか。ユーザ自らが設計したテ ーブルを即時に製作し、実際にそれを使って作業し てもらうことで、自らが実現できた機能と、実現で きなかった機能を明らかにすることができる[9]。 図 2:ユーザ設計のテーブルでの作業 いままで同様の研究として、知的作業をおこなう 際の「パーティション」、「ホワイトボード前の空間」 についても分析をおこなった。 それらに共通する特徴として、ユーザはある特定 の行動(書く、眺めるなど)に絞って形を考え、設 計をおこなう点が挙げられる。 しかし、実際の知的作業は複数の行動(書いた後に 眺めるなど)が絡みあって構成されており、ひとつの 行動に特化した環境ではすべての作業を受け止めら れない。作業をトータルで捉え、いくつものモード に対応可能な環境をつくるという点は、ユーザの意 図を汲み上げつつ専門家が助言ながら設計していく 必要がある領域であるといえる[10]。3.知的作業を評価する
3.1 TOMCUBE 法の開発
知的作業行動の分析にあたり、発話や身体移動な どを計測するとともに重要になるのが、グループに 対し適切な課題を与え、作業内容を記録し、アウト プットを評価することである。 「創造的」や「創造性」といった場合、ゴールが なく、まったく新しいものをつくり出すという意味 がそこに含まれるが、そういったゴールが明確でな い課題を設定すると、作業プロセスの記述が困難に なり、成果物の評価も一定の基準でおこなえない。 そこで、複数人数での知的作業分析にあたり、作 業のプロセス記述が可能であり、アウトプットの客 観的な評価が可能な、(ある程度)創造性が求められ る課題が必要になる。それらを備えた評価手法とし て私たちが開発したのが「TOMCUBE 法」である。 「TOMCUBE 法」では造形作家、戸村浩氏が考案した 立体可動造形物「TOMCUBE」をグループに提示し、ヒ ントが無い状態で複製させる課題を与える。TOMCUBEの製作プロセスは事前実験により 40 に分割されて おり、90 分の制限時間内のどの時点でどのプロセス を経由していたか記録が可能である。 また製作された TOMCUBE に対しては、製作に要し た時間から生産性評価、耐久性、美的整合性から機 能性評価をおこない、アウトプットに対して一定の 基準に基づいた点数をつけることができる。 こうして得られたプロセスデータとアウトプット 評価の関係を分析することで、成績が良いグループ はどのようなプロセスを経てゴールに至るのか、良 い成績に至らなかったグループにはどんなコンフリ クトが起きていたのかといった特徴を明らかにする ことができる。 また、複数回同課題を与えることにより、あらわ れるプロセスの変化からグループの学習効果を明ら かにすることもできる。本指標にて作業の客観的評 価が可能になれば、知的作業環境を評価するための 手法として活用ことができると考えている。 図 3,4:TOMCUBE を用いたグループ力評価の様子
3.1 絶滅危惧種ゲームの開発
現在、開発をすすめているのが NASA が制作した 「月に迷ったゲーム」を下敷きにした「絶滅危惧種 ゲーム」である。国際自然保護連合(IUCN)が発表し ているレッドリストに基づき、15 種類の野生動物の 絶滅危険度のランキングをつけるゲームであり、グ ループがどの時点でどのような判断を下したのかと いうプロセスを記述することからグループ内での意 思決定とアウトプットの関係を明らかにすることを 目的としている。また、グループダイナミックス研 究で長年取り組まれている個人の能力とグループに なることでの相乗効果(シナジーまたはアナジー)に ついて比較、分析、評価することも想定している。 今後は先の TOMCUBE 法と併せて、アプリケーショ ン化を進め、プロセスの自動計測、成果とプロセス の関係に基づいたグループの特性フィードバックを 即時おこなえるようにしたいと考えている。 図 5 :絶滅危惧種ゲームを用いたグループ力評価4.共創の現場を調べる
4.1 コワーキングスペース調査
知的作業をおこなう人たちを分析するとともに、 私たちが関心を寄せているのが共創が起こっている 場に足を運び、その特徴を調べることである。 2010 年には当時、開設が進んでいた東京都内のコ ワーキングスペース 30 か所を対象に、実際にその場 に行って、はたらき、運営者にヒアリングする調査 をおこなった。現在は大企業がコワーキングスペー ス経営をおこなう事例も少なくないが、2010 年当時 は個人、または数人で自発的に開設したスペースが 多く、経営基盤の脆弱性が顕著である一方、SNS の普 及時期と重なったこともあり、多額の広告費をかけ ずに草の根コミュニティを形成していっている実態 などが明らかになった。4.2 ファブリケーション空間調査
2010 年から 13 年にかけて国内外のパーソナルフ ァブリケーション関連施設の調査をおこなった。日 本国内の施設は 3D プリンターの普及、Arduino によ る電子工作といった個人の趣味の延長でとらえられ がちな空間であるが、海外施設では工学教育、職業訓練の場として公的なプログラムの支援を受けてい たり、社会問題解決のための場として市民が協働す る取り組みがおこなわれているなど、勃興期(日本) と成熟期(海外)というそれぞれの時期を顕著に表す 状況が明らかになった[11][12][13]。