Ⅰ.はじめに 「主体的な学び」の重要性が,今日の大学教育に おいてクローズアップされている。学生は自ら課題 を見つけ,広く深く調べ考える過程において,多く の貴重な学びを経験し,独自の解決策を導き出す。 このような主体的な学びによる教育効果への期待は 大きいが,大学の大衆化が問題視されるようになっ て以来,その展開は極めて難しくなっている。その ため,今日のグローバル社会における国際競争力の 低下が近い将来わが国に暗い影を落とすことが懸念 され,国は人材育成のあり方,とりわけ大学におけ る教育改革に強いメッセージを発してきている。 変化の激しい経済・社会の情勢下では,国力を高 める生産性の高い業務を継続的に遂行し得る力が求 められる。経済産業省は,職場や地域社会において 多様な人々と上手く交わりながら仕事をこなしてい く力が必要と考え, 年に「社会人基礎力」と称 してその育成を大学に求めた。そして,さらに 年には中央教育審議会が大学教育の質的転換を答申 し,協調性や創造性をも大学教育に含める必要性を 示した。そして,大学に対し,そのアセスメントポ リシーを明示した上で,学修成果を評価検証する内 部質保証システムを構築・運用することを求める教 育改革を促している。 私たちは社会の中で生きて行く中で,すでに長い 間多様な人々と交わりながら仕事をしている。その 交わり方次第では仕事の効率はもとより,生産性が 倍にもゼロにもなってしまうことを経験の中から認 知している。このいわゆる社会人基礎力と呼ばれる 素養は,どのような社会においても,いつの時代に あっても,変わらずに求められる力である。そのた め,学生が社会に出る一歩手前の大学教育において 位置付けることは,至極合理的で極めて意義深いも のと言える。しかし一方で,大学教員は自身の専門 分野をベースに科学的なものの見方や考え方を学生 に教育し,研究指導することを本分としており,社 会人基礎力は日常の社会生活の中で自然と培われて いくものと考えて,これまであまり関心を抱かなか った。しかし,社会との関わりの少ない学生が増え, 新たな人間関係を構築し協働する経験の不足した学 生に対し,社会に出る前に身につけるべき力として 位置づけ,大学教育の一環として位置付けることは 自然なことかも知れない。
地域の民力に学生の創造力を組み合わせるプロセスで生まれる教育効果
鈴 木 直 美,池 本 有 里,児 島 知 樹,
三 木
歩,小 林 未 佳,山 本 耕 司
The Educational Effect in the Combination Process of Community Power and Creativity of Students
Naomi S
UZUKI, Yuri I
KEMOTO, Tomoki K
OJIMA,
Ayumu M
IKI, Mika K
OBAYASHIand Kohji Y
AMAMOTO ABSTRACTPBL(project based learning)is an efficient way to realize “self-motivated learning”. PR lessons with help offered to organizers, the citizens, and video images taken for the event were conducted in PBL for the success in the mountain marathon, which symbolizes hard slope. Nevertheless, since the lessons cannot cope with the big scale event, one more PBL was parallelly implemented. Even-tually, project success and personal growth of the students were achieved through the bonding with citizens and release of information in such a self-motivated learning of students. This article aims to summarize the methodology and the result.
KEYWORDS: PBL, mountain marathon, hard slope, video image, self-motivated learning
Bull. Shikoku Univ. : − ,
多くの大学は,社会人基礎力が授業を通じて培わ れる有効な手段として,学生自らが考えて行動し, 課題解決していくことができるプロジェクト型教育 プログラム PBL を取り入れてきた。山口は,この ような大学・短期大学における PBL 研究の動向を 整理し,その特徴や課題をまとめている)。その中 では,人文・社会科学での必修科目における PBL の有用性について論じ,小山らの 年から 年 に刊行した一連の研究)∼ )をもとに創造性の獲得が 認められたと述べている。また,さらに PBL を大 学教育の中で用いた実践事例は, 年以降に様々 な範囲に応用されて多数報告されている)∼ )。筆者 らもまた 年に余る期間,ゼミを通じて実践してき た PBL を昇華させ, 年からメディアプロジェ クト演習という名称の PBL 授業をコース必修科目 としてスタートさせた。この科目は学生がコースの 学習を通じて積み重ねてきた専門の知識や技術を駆 使し,創造性と協調性を養いながら,学修の集大成 となるように 年生後期に設置した。この科目の特 徴は,地域社会に目を向け,ICT を活用して実行可 能な地域課題の解決策を提案し,具体的に実施して 成果を報告するものである。 PBL の意義のひとつは,チームで取組み,チー ムメンバーとの協調性を育みながら,一人ではでき ない課題をチームワークで克服する達成感を得られ ることである。そこには班長としてのリーダーシッ プや妥当な役割分担とその責務を果たすことの重要 さを学ぶ機会があり,このことは社会人基礎力で重 要視されるコンピテンシーの育成を図ることができ る。 筆者らは,班ごとに異なるテーマを主体的に決め させ,PBL の実施前に受講学生全員に対し,どの ようなコンピテンシーを身につけるかといった授業 目標を明示した。そして,その時点での自己評価ア ンケートを行った上で PBL を遂行し,実施後にも 同様の自己評価アンケートを行うことで,自己の成 長度合いと目的達成度を確認した )。そこでは班と しての成果が最大限に発揮されるよう,個々の学生 が自分の役割を考えて行動し,それぞれが課題解決 に大いに貢献したことから,コンピテンシーを修得 する生きた学びとなったことを述べた。 PBL を取り入れたコース必修科目を開始して 年が経過した 年には,取り組むテーマに地域住 民から課題解決の依頼を受ける形とし,各班でその 課題に対してしっかりと考え,独自のアプローチを 行った。そして,得られた成果による達成度評価を 他の班と比較することで,より自分たちの成長を正 しく認識できることを確認した。これにより授業と して安定した取り組み成果が得られたため,コース 必修科目としての設定が成功したと報告した )。山 口は前述の論文)の中で,筆者らのこの取組みを紹 介し,トライアンドエラーを繰り返した結果,コース 必修科目への PBL 導入に成功したと紹介している。 このような学生の主体的な学びは,近年アクティ ブラーニングという言葉で表されるようになった。 聴き慣れないカタカナ文字が新しさをイメージさせ るが,実際は,社会と連携する中で様々な取組みを 教育に取り入れることで,学生が主体的に取り組ん できた従来の PBL の試行錯誤的取組みと何ら変わ るものではない。 さらにその後 年を経て,筆者らの PBL の対象 はより拡大し,地域社会から一定の評価が得られ, プロジェクトによる成果も期待されるようになっ た。学生は,自身の達成度以上に依頼者の満足度を どう高めるかを最重要項目として捉えるようにな り,コストを抑えながらクライアントに対して最大 限の利益を提供することを考える PBL となってき ている。 そのような流れの中,今回は高齢化の進む地区 で,地域住民で構成する高齢の主催者がマラソン大 会を成功させよ う と す る 取 組 み を 助 け る こ と を PBL のテーマとした。具体的には大会開催を広報 し,実施運営をサポートし,本番の状況を発信し, 開催後の成果報告のフォローまでを行うものであ る。もちろん,このような大規模な事業を,PBL 型であるとはいえ半期 単位のコース必修科目だけ で実施するには無理があり,主催の住民団体との人 間関係構築にも時間がとれない中,成功する見込み は極めて少ない。そこで,同時に第 の PBL を縦 横に展開し,主催団体や住民と第 の PBL をつな ― 2 ―
ぐ役割を行った。この第 の PBL が第 の PBL の 不慣れな部分を陰でカバーし,イベント参加者に高 い満足度を与えるとともに,主催団体,ひいては地 域住民の満足度も高めることができた。本論文は, この取組みをまとめ,学生の学修目標達成度を評 価・検証するとともに,主催者や地域の声から社会 的効果を確認したことについて報告している。規模 の大きい地域イベントの運営を題材に役割の異なる つの PBL を展開する方法を実施し,高い教育的 効果と大会運営のサポート力に高い評価を得ること ができた。本論文は,それらの PBL の実施方法に ついても述べている。 Ⅱ.プロジェクト概要と学生の役割 .プロジェクトの対象と内容 徳島県の中山間地域にある勝浦町は,県内有数の みかん産地である。徳島市中心部から 時間以内で 移動できるため,徳島市や小松島市へ転居する住民 が多く,町内人口は減少の一途を っている。主要 産業のみかんを栽培する農家は高齢化が著しく,少 子化と相まって後継者不足が大きい課題となってい る。坂本地区は,勝浦町の最も奥に位置した小さな 集落であるが,全国から多くのファンが押し寄せる 取り組みを次々に行い,活性化に奏功している。 この坂本地区には傾斜地が多く,生活する上では 不便な坂を逆転の発想で活性化に活かし,「さかもと 坂道マラソン」と称するマラソン大会を開催してい る。 月後半,坂本地区は山の斜面が特産の温州み かんで彩られる。住民がその収穫で忙しい時期に標 高差 m もある山の坂道を駆け巡るマラソン大会 は,全国的にも珍しいため, 年の第 回大会は 人のランナーが集まった。主宰は「さかもと元 気ネットワーク」という住民の有志によるグループ である。 筆者らは,この大会の 年目を実践的 PBL 型授 業の特長を活かして盛り上げるという取り組みを行 った。 年目である今大会は,ランナーの募集定員 を 名に拡大した。そのため,駐車場の確保や送 迎バスの手配,交通整理や救護,給水,トイレ,大 会運営スタッフなどの規模も拡大することになる。 また,参加者にとって,記録が一通り残り,良い思 い出を作ることのできる仕掛けづくりが必要とな る。大会当日は,コース途中の複数ポイントで,学 生たち 名が 班に分かれて走るランナーの姿を撮 影する。さらに住民が撮る別の場所の映像もあわせ て編集し,各班独自の紹介ビデオを作成する。 一方,大会当日までの準備期間には住民たちが 数々の課題を解決しながら前進していく姿がある。 その取り組みに密着し,記録し,ドキュメンタリー 映像を制作する。他方,当日のライブ中継を行い, 遠くから来る参加者の勇姿について中継を見て応援 できるようにする。このような数多くの取り組み を,クオリティーを高くして実施し,大会全体を成 功裏に終えるとともに,さらに来年の 回目には, より多くのファンを呼ぶ素地を作ることがミッショ ンとされた PBL である。 .「さかもと坂道マラソン」とは 本研究プロジェクトで取り組む「さかもと坂道マ ラソン」は,坂本地区にて 月後半に開催されるマ ラソン大会である )。距離別に コースから成り, 参加するランナー自身が走るコースを選択できる。 最短のコースは全長 km で,標高差 m の『しよ いで「すだち」コース』(図 )である。このコー スは小学生が対象となる。次に全長 .km,標高差 m の『いっきょい「ゆこう」コース』(図 )で ある。このコースは小・中学生が対象となる。次に 全長 km 標高差 m の『えらいじょ「ゆず」コー ス』(図 )である。このコースは高校生以上が対 象とされている。そして,最後に全長 .km 標高 差 m の『がいな「貯蔵みかん」コース』(図 ) であり,このコースも高校生以上が対象となる。 月後半はみかんの収穫時期と重なり,農家は 年の 内で最も多忙な時期となる。しかし,住民の大半が みかん農家にも関わらず坂本地区の住民はマラソン 大会の運営に対して大変協力的である。それは住民 一人一人が地域衰退脱却という強い意識を持ってい るからである。また,地区の住民以外にも町の内外 からもボランティアスタッフが集まり,マラソン大 ― 3 ―
会を盛り上げている。 .プロジェクト全体の流れとチームの役割 本プロジェクトの目的は,大会の前・中・後にお いて,それぞれ PR に最適な映像を制作し,発信す ることで,本大会と坂本地区を広く知ってもらいフ ァンを増やすことである。そこで,授業を通じて何 を為すべきか,実施内容を以下のように整理して, 学生の役割を明確にした。具体的には,プロジェク トに参加する学生を グループの構成とし,これら チーム区別 役割 チーム A ① さかもと元気ネットワークの準備や全体集会を取材 ② チーム B の PBL の様子を取材 ③ 大会前のロケハンと本番機材・ライブ機材等準備 ④ 大会案内を兼ねて学会で取組みを全国に紹介し参加を呼びかける ⑤ 大会本番の本部付近撮影・ランナーとなり撮影しながら走る ⑥ スタート&ゴール地点と途中経過地点で常時同時ライブ中継 ⑦ 本番で活躍するスタッフ映像・入賞者のインタビュー撮影 ⑧ 大会の取組み成果についてポイントをまとめ,学会を通じて全国に報告 ⑨ 後始末とチーム B の書き出した作品をまとめ,納品 ⑩ チーム B の内容紹介や取組み全体をまとめたパネルの作成 ⑪ 贈呈式で贈呈 チーム B ① さかもと元気ネットワークの意向を聴き,作品の企画案を作る ② 企画案をプレゼンし,修正して計画書(絵コンテ含む)を作成 ③ ロケハンで撮影場所を確認・絵コンテ修正 ④ 本番各班持ち場で計画した映像の撮影 ⑤ 編集し,出来上がりをプレゼン ⑥ 修正し書き出す ⑦ チーム A がまとめやすい資料提供 ⑧ 贈呈式で贈呈 図 しよいで「すだち」コース紹介図 図 いっきょい「ゆこう」コース紹介図 図 えらいじょ「ゆず」コース紹介図 図 がいな「貯蔵みかん」コース紹介図 表 プロジェクトにおける各チームの役割 ― 4 ―
をチーム A 及びチーム B と称して各役割を表 に 示した。 また,チーム A は 班,チーム B は 班で構成 し,それぞれの班の役割は表 の通りである。表 に示すアルファベットで表記したコース内の地点 は,図 に記載した地点を指す。 Ⅲ.授業の構成と流れ .授業の構成と流れ メディアデザインコースの必修科目であるメディ アプロジェクト演習では,表 に示した一連の作業 をチーム B が遂行した。受講学生数 名を 班に 分け,各班はリーダー 名と班員で構成した。班の メンバー数は, 班 名, 班 名, 班 名, 班 名, 班 名, 班 名である。授業は 月末 から 月末までの約 ヶ月間,金曜日の午前中に コマ連続で開設している後期科目である。マラソン 大会本番は 月 日と決まっており,授業開始時か ら約 ヶ月を要して準備した上で本番の撮影を行 い,その後約 ヶ月かけて作品を仕上げる。その流 れは,次の通りである。 ①学生たちは事前準備として班を構成し,班ごと にさかもと坂道マラソンの第 回大会と,勝浦町坂 本地区の地理や特徴をネット検索により知識を得て おく。次に,②主催者であるさかもと元気ネットワー チーム区別 大会当日の役割 チーム A 班 スタート・ゴール地点のダイジェスト,ふれあいの里でのインタビュー撮影 班 ゴール近くでユニークな映像を撮影 班 スタート・ゴール地点のライブ中継 班 途中経過地点でのライブ中継 チーム B 班 分岐地点(E)での撮影 班 スタート・ゴール付近(F)での撮影 班 最高地点での撮影(B) 班 中盤地点での撮影(D) 班 子供コースでの撮影(A)とその後はインタビュー撮影 班 景色の良い場所での撮影(C) 表 チーム毎の大会当日の班の役割 図 チーム B の各班が配置された撮影ポイント(図の A から E までのカメラ位置) ― 5 ―
クの代表者から,大会の意図や主催者の熱い想いを 直接聴き,抱いた疑問や感想をもとに質疑応答時間 を設ける。③各班は,どのような点を PR したいか を整理して主催者にプレゼンし,主催者からの要望 や意見を聞く。④指摘された点を修正し,計画書を 作成する。計画書にはスムーズな撮影ができるよう 絵コンテを描いて入れ,各班員の役割も明示する。 また班によって撮影場所が異なるため,他の班に撮 影してもらいたい構図などを伝える。⑤現地へロケ ハンに訪れ,コースを一巡してマラソン当日に三脚 を立てる位置や画角などを確認する。⑥マラソン大 会の本番撮影を行う。⑦撮影した映像を編集する。 ⑧編集の完成した作品を主催者の前で上映し,修正 箇所を指摘してもらう。⑨指摘された箇所の修正を 行う。⑩完成作品をチーム A に渡す。 これら一連の授業の中で,②③⑧は坂本地区から 主催者数名が授業に参加し,⑤⑥は逆に学生全員が 坂本地区へ出向くこととした。 一方,チーム A は,チーム B と主催者のやりと りを映像で記録するとともに,主催者が現地で準備 のための打ち合わせを行う機会にも同席し,その様 子を取材した。第 回の全体集会は,ふれあいの里 さかもとで 月 日の夜 時より行われたが,チー ム A はそこにも出席し,住民に挨拶を行うととも に会議の一部始終を映像で記録した。大会を開催す るには幹線道路を通行止めにしたり,オリジナル T シャツをデザインしたり,様々な準備活動を住民た ちがグループを作って進めていく。全体集会に参加 した坂本地区の住民たちは,実に高齢者の割合が極 めて高かったが,そこには大会の成功に向けて積極 的に協力し合う姿があった。これは,他の地域活性 化の取り組みにも大いに参考となる生きた資料であ った。 チーム A は,この地区の取り組みを地域活性化 に関する学会などで報告 ) )した。また,マラソン 大会本番をインターネットでライブ中継することを 提案し,大会の前後や当日に全国に向けてオンタイ ムで情報発信を行った。そのための下見や準備のた め,何度も坂本地区を訪れ,地域の人たちや主催者 とコミュニケーションをとるなどして,チーム A はチーム B が活躍しやすい雰囲気作りに一役を担 った。なお,チーム A のメンバーは主に地域活性 化を研究テーマとする 年生で構成された 名の学 生たちで,その工夫や成果は卒業研究としてまとめ ることを念頭に置いている。 .プロジェクト成果の報告と公表 勝浦町では「阿波勝浦 ビッグひな祭り」と称す るイベントが毎年実施されている )。第 回目を迎 える 年は, 月 日から 月 日までの約 日 間,町内の人形文化交流会館で行われ,会場中央に 設置したピラミッド型 段のひな壇や 万体のひ な飾りを楽しみに大勢の観光客が訪れた。坂本地区 ではこの関連行事として,街道沿いの民家一軒一軒 の軒下に,様々なおひな様が飾られる「坂本おひな 街道」を開催している。ふれあいの里さかもとで行 われたこの開会式には,町長や町議をはじめ,県や 隣町からも代表が集まり,祝賀ムードを作り出し た。この式典に,チーム A から 名,チーム B か ら 名の学生が参加して,関係者や住民の前で制作 した映像の上映と贈呈式が行われた。そして,その 日から 月 日までの約一ヶ月間,さかもと元気ネ ットワークブースにて活動内容を公表する機会を持 つことができた。そこでは本プロジェクトを始めた きっかけや,どのようにプロジェクトを構成し,授 業を通じて展開したか,そして一連の成果をどのよ うに上げていったかという全体像を,A サイズの パネル 枚にまとめて展示・報告した。同時に,ブー スでは制作した K 動画を大型 K テレビ画面に終 日エンドレスで上映し,一般来場者にもたくさん観 てもらう機会とした。パネルの内容は図 から図 までに示す。式典に参加した学生は,本プロジェク トを締めくくる成果品を「贈呈」するという重要な 役割を担っただけでなく,訪れた人たちからの質問 に答えたり,新聞記者の取材に応じたりと,さらに 達成感を感じ得る貴重な体験となり,改めて高いコ ンピテンシーの育成につながった。 ― 6 ―
図
プロジェクトの年間経緯
図
プロジェクト実施メンバー
図 プロジェクトのロケハンと本番の様子 図 チーム A の実践研究報告 ― 8 ―
図 チーム B の各班の成果作品 図 本番時のライブ中継実績 ― 9 ―
Ⅳ.達成度の評価 「学生にとって魅力ある大学とは何か」をテーマ に,四国大学では社会人マナーと基礎学習力,及び 情報活用力を有する「社会人基礎力」と,意欲を持 って取り組むことのできる「自己教育力」,及び対 人コミュニケーションがとれる「人間・社会関係 力」という つの力を確実に身につけた学生の育成 を目的として, 年度から カ年計画で教育改革 に取り組んだ。これらの力を培うには実践的学修が 不可欠である。そこで,筆者らは,生きた学びを通 じてコンピテンシーを修得することができるよう に,平成 年度に科目「メディアプロジェクト演習」 を開設した。当初は, 年生後期に 単位を取得す る選択科目としてスタートしたが,取り組む内容の 重要性と学修によって得られる成果の意義深さを強 く認識し, 年度からはコース必修科目として「メ ディアデザインプロジェクト演習」という名称に変 化し,現在に至っている。この取り組み成果を評価 するにあたり,□授業を通じて学んだこと,及び■ 不足していると感じたスキルについて,授業実施後 にアンケート調査を実施した。ただし,このアンケー トは,メディアデザインプロジェクト演習を授業と して受講し た チ ー ム B の学生たちに対してであ り,その結果は図 のような回答となった。 本授業を受講したチーム B の学生が学んだこと は,「自主性」「企画力」「編集スキル」が最も高く, 次いで「撮影スキル」「考える力」「計画力」と続く。 これは,自分たちで企画し,考えて計画を練り,撮 影・編集を行ったことの反映と言える。一方,あま り学ぶことができなかったことは,「ストレスコン トロール力」「校正力」「文章力」が最も低く,次い で「説得力」「リーダーシップ」「忍耐力」と続く。 これは,報告をプレゼンスライドで行うように指示 したため,文章を書く機会がなかったことを示唆し ており反省点として捉えるべきではあるが,地域に 出て伸び伸びと学ぶことでストレスが少なく,我慢 することもあまり経験しなかったと言える。 不足を感じたこととしては,「自主性」「考える力」 「課題解決力」「コミュニケーション力」が多かっ た。不足を感じながらもしっかりと学ぶ機会が持て たという解釈をすることが可能であり,実効性の高 い学修につながったと考えられる。一方で,「企画 力」「構成力」「デザイン力」などは,自身の能力に 不足を感じることなく学びが多かったという回答 で,自由に発想し,企画・構成・デザインを行って, 図 チーム B に対して実施した授業後のアンケート調査結果 ― 10 ―
@ ta( ÀØÇ §k«Q ¶¶«K0¸ Sq 'Ri©Ìß Õr&¶¥´7 d«µU([ ¶¥µ k«Q«K0¸ Sq 'Ri©Ìß Õr&¶¥´7 d«µU([ ¶¥µ 'Ri©ÌßÕr& ¶¥´7d«µ U([¶¥ µ ÌßÕ¬£´7 d«µU([ ¶¥© k«7p¸yQ §©³Q«±µ §¸¢¹§{m µ§¦¥µ k«7p¬®´y ³¶©Q§ ¥Q«±µ§¸ {mµ§¦¥ µ k«7p¸y¥°Q §µ§*© Q«±µ§« ~{m¦¥© k«7p¸yµ§ ¦Q§ µ§°¦© ¯± µ§¸{m¦¥ © k«Q«f¸K L´²nRµÇ¿ Ú¸?¢ÀؼºÝÎà °§«Nná ª·´±µ§ ¦¥µ k«Q«f¸K L´²nRµ ¸ÀؼºÝÎà° §«Nn᪷ ´±µ²+" ¥µ k«Q«f¸DS ¥ÀؼºÝÎà°§ «Nn᪷ ´±²§¥ µ k«Q«f¸K nRµ§¦À ؼºÝÎà°§ «Nn᪢¹§ ·£¥© Q> ³3o§ ¶ G§k«Q 3o§ G«¶ ¶¸=AɼÖÝÁ² #mµJ¦ <ªC/¦¥µ k«Q>£¥µ §¥3o©G ¸=A¥´É¼ ÖÝÁ²#mµJ ¦C/¦¥µ k«Q3o§µG ¸=A¥ ´É¼ÖÝÁ¸f# mµJ¸7w¥ C/¦¥µ k«Q>£¥µ §¥3o©G§ k«Q3o§µG ¸=A¥³ ɼÖÝÁ²#m µJ¦C/¦¥ © Eµ±lÑØÝÇ©¨ ¸ ¸z¥p± vD^âgª°´ FGªcµ§ ¦¥µ ¾ËΧª}8«© EµªvD¥p± ^âgª°´F Gªcµ§¦ ¥µ µ]-¾ËΧªEµ ±l¸vD^âgª °´FGªc ²§¥µ Eµ±lÑØÝÇ©¨ vD¦¥³^â gª°´FGª cµ§¦¥ © :IXn«ÓÛÈݦ ¬ !¥h´ ±Zb±9-°² ·´±ÇØ¼Ï ¦xW4_°£´¦ ¥µ :IXn«ÓÛÈݦ ¬ !Zb±9 -ª°O¸´ÇØ¼Ï ª+"©¶xW4 _°¦¥µ :IXn«ÓÛÈݦ ¬h´± ¸ 2ÇØ¼Ïªu$j $©xW4_° § ¦¥µ :IXn«ÓÛÈݦ ¬ )¥h´ Zb±9-°²© ¥ÇؼϬ´ xW4_°¦¥© «@ª¤¥(s.µ`;«Ê½ËÀÔËÀǪʽËÀ¸¥¡ C / Ç ¿ Ú n R Þ f µ k 5 Þ v 5 ×Í»ºÍļÝÓÜÆ½ÀÎPeÚßÒÙËÀà×Í»º6%\â,T1HÃßÇ3\Zá %TVM Z Y r & i Þ U :IXnªµÓÛ Èݬh´± Zb±9-°²¥ ÇØ¼Ï°´F xW4_°£´¦ µ Eµ±lÑØÝÇ© ¨¸vD¥p± ^âgª°´F Gªcµ§ ¦µ 3o©G ¸ =A¥´É¼ÖÝ Á²#mµJ ¦<ªC/µ §¦µ k«f¸Kn RµÇ¿Ú¸?¢ ÀؼºÝÎà°§ «Nn᪷ ´±µ§ ¦µ k5§v5¸XB Q«§¥k «0¸¢¹§{ mµ§¦µ ÀØÇ ±k«Q «0¸SqK ÌßÕr&§7d« µU¸m§ ¦µ |:-@ Ó Û È Ý Þ Ã Ö Ð Â Å Ý c Ç ¿ Ú 思い通りのものを制作したという満足感の表れでも あると言える。この結果は,学生たちが本授業を通 じて達成感や満足度を大きく高める要素になってい ると言える。このことは,学生にとって次のステッ プへ進む自信となるため,実に大切なことである。 他方,このメディアデザインプロジェクト演習と いう授業科目の受講を通じて,どのような項目に重 点を置いて学ぶのかを明確にし,それぞれに目標を 設定したルーブリック(図 )をもとに,個々の学 生が自身の達成度を評価した。これを班ごとで平均 し,グラフにしたものが図 である。 班と 班は 満遍ない学修成果が得られたようであるが, 班に は社会性が培われず撮影編集などの専門技能が高ま ったとする偏りがあり,さらに 班はどの項目にも 成果が得られなかったとする自己評価を行ってい る。自己評価は個人の価値尺度にバラツキが大きい 場合,比較することにあまり意味を為さない場合が あるが,本授業の場合,班による評価基準は比較的 揃っており,各班の評価結果は概ね妥当であると言 える。特に 班は前年度単位取得できなかった再履 修生で構成する班であり,取り組み姿勢や学習に対 する素地が他の班と異なることが要因と考えられ る。 これら各班の達成度を一つの図にまとめ,全体平 図 メディアデザインプロジェクト演習学修達成度評価ルーブリック ― 11 ―
均を記載したのが図 である。 班と 班を除く他 の班は似た傾向があり,この 班を加えた全体の値 については比較的正六角形に近い均衡のとれた形と なっている。この受講学生の自己評価から,本授業 の目標は項目に偏りなく達成できたと言うことがで きる。 このことは,授業としては,この評価で一定の成 果があったと考えられる。しかしながら,最も求め られることは,プロジェクトの依頼主であり,マラ ソン大会の主催者であるさかもと元気ネットワーク の人たちが,満足する成果を出せたかどうかであ る。そのことは,今回チーム A によって遂行する ことを目指し,実際このチーム A の活躍により, 本来の目的をも十分に達成することができたものと 考える。 チーム A は前述の通り,マラソン大会本番まで の準備や,本番時のチーム B が対応できない箇所 での撮影,イベントの全国への情報発信,チーム B 図 チーム B の学習達成度ルーブリックの各班の結果 図 チーム B の全体的な学習達成度 ― 12 ―
の 作品を整えて一つの動画に纏めたり,式典上映 用のダイジェスト版動画を作成したりと,細心の気 配りをしながら多くの裏方的役割を果たした。また 展示ブースで期間中に掲示したパネルの作成も行 い,依頼主にも成功したという実感を味わってもら えたと考えられる。 Ⅴ.まとめ 学生が地域の人々を理解することから始め,一緒 に考え,一緒に汗をかき,自分たちのアイデアやス キルを地域の課題解決のために役立てることができ たとき,学びの大切さを実感し,学ぶことの喜びを 憶えるものである。今回のメディアデザインプロジ ェクト演習は,地域の観光映像を撮って提供すると いった従来の演習と大きく異なり,さかもと坂道マ ラソンという,全国から 人のランナーを迎えて 開催する一年に本番一日だけしかない大会を対象と した。住民が主催する貴重な大会であり,高齢化し た住民がその成功を願って一生懸命準備し本番を迎 える。その大会を各所でしっかり記録し,PR する 映像制作を行うことを使命とするプロジェクトであ る。失敗が許されないにもかかわらず,授業を履修 する学生は,ほとんどの住民と大会当日しか会わな いため,信頼関係の構築が難しい。そこで,本プロ ジェクトでは,授業(チーム B)とは別の組織(チー ム A)を同時に立ち上げ,チーム A によって大会 準備から住民と関わりを作り,授業のための準備を 担当し, 名の履修学生が大会本番に十分撮影でき なくても困らない素材を並行して撮ったり,チーム B の作品に細かな修正を施して纏めたりして,上映 用や納品用の完成品を作成した。すなわち,授業の 進行を陰で支えるもうひとつの上級生の授業を展開 することで,地域や住民,そして大学内でも授業で の取り組みが十分な成果をあげたとする評価を得 た。担当教員は,むしろチーム A の指導に知恵を 絞り,時間をかけたことで,チーム B の活動であ る週 回の コマの授業も大会本番の動きもスムー ズに行うことができた。チーム B のメンバーは自 分たちの作品が喜ばれたとの思いから授業で多くを 学んだと高く評価し,マスコミにも複数回掲載され て大きい自信につながっている。一方でチーム A の学生たちは,住民の喜ぶ生の声を聞き,自分たち の働きの成果としてプロジェクトが成功したという ことを事実として感じとった。さらに主催者である 住民の会「さかもと元気ネットワーク」の会長はじ め代表者によって,学生たちに暖かい言葉と感謝の 気持ちが何度も伝えられた。筆者らは,その内容を 言葉と文字にしてチーム A のメンバーに伝えたた め,さらに大きい達成感と自負心を得るに至ってい る。図 に成果品を贈呈したときの様子を示す。こ れと同様のシーンが翌日の新聞記事に掲載され, チーム A とチーム B はその双方が自分たちの実績 であると感じ,評価されたことを素直に喜んだ。 地域の民力に学生の創造力を組み合わせるという ことはどういうことか。それは,地域のために大学 図 成果品レプリカを主催団体会長に贈呈した学生たち ― 13 ―
ができることが何かを考えることと,大学で学ぶ学 生の潜在力を地域がどう引き出すかを考えることの 両者がうまく呼応することが大切である。そのため には,地域と大学が,お互いの特徴や課題を理解す る必要があり,その上で協力したいという気持ちを 創出させることが原点である。確かに,相互理解に 至るには十分な関わりを持つことが必至で,時間を かけないと信頼感はなかなか得られない。正規授業 の制限時間に縛られたフットワークのあまり軽くな い必修科目の履修生全員がこのような潜在力を発揮 するのは困難である。そこで,フットワークが軽く モチベーションとスキルの高い上級生( 年生)が その役割を担うことで,時間をかけて地域住民を知 る機会が得られる。そして,意思が伝わるようにな ると何とかしたいという気持ちが湧き,どうしたら いいかと考えて,真剣な努力を生むことに繋がる。 その努力のプロセスで学修する力の獲得こそが,本 授業の目指す教育効果であると考える。 謝辞 本論文に記載した PBL は,徳島県勝浦町坂本で 年 月に開催された「さかもと坂道マラソン」 を主催する住民団体「さかもと元気ネットワーク」 による協力依頼に端を発している。当該団体の内谷 信喜会長をはじめ,広報記録担当の+Life Studio 秋山諒太代表他複数の実行委員に,授業に参加して の助言指導や実施環境作り等に大変尽力いただい た。また,四国大学社会連携推進課には事業のコー ディネートをいただいた。ここに厚く御礼申し上げ る。 参考文献 )山口泰史, .わが国における PBL 研究の動向− 大学教育での実践を中心に−,日本地域政策学会 : − . )小山理子, .短期大学におけるブライダル教育 手 法 の 一 考 察−PBL を 適 用 し た 実 践 型 教 育 の 提 案 −,京都光華女子大学短期大学部研究紀要 : − . )小山理子, .短期大学におけるブライダル教育 手法の一考察−PBL を適用した実践型教育の実践報 告−,京都光華女子大学短期大学部研究紀要 : − . )小山理子, .短期大学におけるブライダル教育 の学びの考察−PBL を適用した実践型教育の報告 −,京都光華女子大学短期大学部研究紀要 : − . )小山理子,松村佳世, .産学連携型 PBL におけ る情報収集力育成のための画像検索ツールの有効性の 考察,京都光華女子大学京都光華女子大学短期大学部 研究紀要 : − . )坂井敬子, .自 治 体・地 域 事 業 所 と 連 携 し た PBL 授業の実践報告−学生の振り返りにみるチーム 活動と学習プロセス−,静岡大学教育研究 : − . )酒井俊行,初めての PBL 型インターンシップ実施 の報告,聖学院大学論叢 ( ),pp. − , . )鈴木拓弥, .PBL を通じた聴覚障害学生の課題 探究と解決力,対話力を向上させる試み,筑波技術大 学テクノレポート ( ): − . )高松直紀, .PBL を活用したキャリア教育の取 り組みについて−大阪樟蔭女子大学の事例から−,大 阪樟蔭女子大学研究紀要 : − . )坪井明彦, .ゼミ活動を通じた PBL 実践の効果 と課題−学生の能力の伸長という点からの考察−,地 域政策研究 ( ): − . )手嶋慎介, .地域連携 PBL の試行的実施の成果 と課題−名古屋市名東区を舞台としたゼミ活動におけ る就業力育成−( ),東邦学誌 ( ): − . )中尾憲司,足立晋平,松尾智晶,木原麻子, . 人事実務家教員による京都産業大学 PBL の実 践 報 告,高等教育フォーラム : − . )池本有里,鈴木直美,近藤明子,山本耕司, .: 学生のコンピテンシー育成を目指す PBL 型教育プロ グラムの実施と考察,四国大学紀要(A) : − . )池本有里,鈴木直美,山本耕司, .交通安全 CM の制作による PBL 型教育プログラムの実施と考察, 四国大学紀要(A) : − . )さかもと坂道マラソン 公式サイト,<https : // saka-mara.run/course>, accessed October . )小林未佳,三木歩,和田晃平,池本有里,山本耕 司, .:みかんの里を駆ける元気の繋がり,地域 活性学会第 回研究大会論文集: − . )三木歩,小林未佳,和田晃平,鈴木直美,池本有里, 山本耕司, .山の住民が全国からファンを呼ぶ坂 道マラソン本番裏,産学連携学会 関西・中四国支部 第 回研究・事例発表会&地域活性学会中国四国支部 第 回支部 会 合 M - ,<http : //www.sgrk.shimane-u. ac.jp/ j-sip-B /meeting/ th- /program.htm>, ac-cessed December .
)阿波勝浦元祖ビッグひな祭り公式サイト,<http : // bighinamaturi.jp/>, accessed February .
抄 録 「主体的な学び」を実現する手段として PBL(プロジェクトベースドラーニング)が有効であ る。坂道を特徴とする山あいのマラソン大会を成功に導くため,主催する住民を助け,大会を映像 で様々に PR する授業を PBL で行った。しかし,この授業だけでは大会規模に対応できないこと から,もう一つの PBL を横展開した。学生はこのような主体的な学びの中で住民との繋がりや情 報発信で成果を上げ,プロジェクトの成功と学生自身の成長を獲得した。本論文はその方法と成果 をまとめたものである。 キーワード:PBL, 坂道マラソン, 激坂, 映像, 主体的な学び ― 15 ―