個別栄養指導に従事する管理栄養士を対象とした学
び直しプログラムの検討
著者名(日)
井尻 吉信, 西條 千知, 左近 茉耶, 笹井 彩香
, 少路 紗織
雑誌名
大阪樟蔭女子大学研究紀要
巻
5
ページ
219-230
発行年
2015-01-31
URL
http://id.nii.ac.jp/1072/00003917/
【序論】 わが国における平成22 年人口動態統計によると、 悪性新生物29.5%、心疾患 15.8%、脳血管疾患 10.3%、 糖尿病1.2%、高血圧性疾患 0.6%であり、これらの 生活習慣病による死亡は、全死因の57.4%を占める1)。 生活習慣病の発症や進展には、食習慣や運動習慣の 乱れが深く関わっている。それ故、食事や運動に重き を置いた対策の充実は、健康寿命の延伸や医療費の抑 制の観点からも重要視されている。また、生活習慣病 の予防や改善のための正しい知識を普及することは、 個人の生活の質(Quality of Life; QOL)の向上にも つながるといえる。 管理栄養士は、個人の身体状況や栄養状態、食事摂 取量等を的確に評価した上で、主に食習慣の改善を目 指した栄養指導を行っている。栄養指導には、集団栄 養指導と個別栄養指導がある。集団栄養指導は、栄養 や食生活に関する知識の伝達を目的としている。一定 時間で効率よく多数の学習者に教育でき、学習者同士 の考え方や体験談を知ることで仲間意識や連帯感が生 まれ、互いに高め合う効果が期待できる。一方、個々 人のニーズや理解度に合った指導は難しく、学習者全 員が高い指導効果を得られるとは限らない。個別栄養 指導は、学習者の行動変容の支援を目的としており、 個々人のニーズに合ったきめ細かな教育ができ、学習 者の理解度を把握しながら進めることができるため、 集団栄養指導より高い指導効果が期待できる。一方、 個々人に指導するため時間を要し、多人数に対応でき ないことや、管理栄養士個人のスキルによって栄養 指導の効果が大きく左右されることが問題となってい る3~5)。 大阪樟蔭女子大学研究紀要第5 巻(2015) 研究論文
個別栄養指導に従事する管理栄養士を対象とした学び直し
プログラムの検討
学芸学部 健康栄養学科 井尻 吉信
学芸学部
健康栄養学科
西條
千知
学芸学部
健康栄養学科
左近
茉耶・笹井
彩香・少路
紗織
要旨:【目的】病院管理栄養士が「不足していると感じているスキル」や「希望する学び直しプログラム」と、現在 各大学で実施されている学び直しプログラムとを比較し、より効果的に個別栄養指導の質を向上させることができる 学び直しプログラムを検討すること。 【方法】個別栄養指導業務を行っている病院勤務の直営管理栄養士74 名(回収率:82.4%、有効回答者数:61 名) を対象として、平成23 年 10 月 3 日~11 月 15 日に実施した選択および自記式のアンケート調査結果を用い、「勤続 年数」や「個別栄養指導経験年数」と、「不足していると感じているスキル」の総数や項目とを比較し、解析を行っ た。また、各大学で行われている学び直しプログラムの状況について、報告書、ホームページ等から調査した。 【結果および考察】「不足していると感じているスキル」の総数は、「勤続年数」、「個別栄養指導経験年数」をそれ ぞれ5 年未満群と 5 年以上群に群分けした場合、5 年以上群で有意に低値を示した。不足していると感じているスキ ルの中で、5 年未満群に比べ 5 年以上群の方が大きく低値を示したスキルは、主にカウンセリングや栄養教育に関す るものであった。これらは個別栄養指導を経験することで不足を補いやすいスキルであると考えられる。一方、「運 動療法の知識」、「薬の知識」、「論文読解」などの項目においては、両群間に差が認められなかった。これらは、養成 施設では学ばないまたは詳しく学ばない、学んだが忘れている、新しい情報を理解できているか不安、科学英語に自 信がない等、個別栄養指導を経験するだけでは補いにくいスキルであると考えられる。これらのことから、複数年の 個別栄養指導経験を、短期間プログラムで代替でき、かつ、日頃補いきれない知識を充実させることができるような 学び直しプログラムの構築が必要であると考えられた。 キーワード:個別栄養指導、管理栄養士、学び直しプログラム、経験年数管理栄養士個人のスキルを高め、個別栄養指導の効 果を向上させていくためには、自身の問題点を知り、 それを補うための方策を講ずることが必要と考えられ る。しかしながら、個別栄養指導の進め方は各人に委 ねられており、他者と比較して評価する機会はほとん どないため、自身の問題点に気付けず、十分に補えて いないことが考えられる。 そこで我々は、個別栄養指導業務を日常的に行って いる病院管理栄養士にアンケート調査を実施し、個別 栄養指導における問題点の把握と、管理栄養士個人の スキルを高め個別栄養指導の効果を向上させていくた めの方法について検討した6)。その結果、多くの人が、 個別栄養指導をする上で必要であるが自分には不足し ていると感じているスキル(以下、不足していると感 じているスキル)を持っていることがわかった。なか でも、「薬の知識」、「必要な資料(論文等)を読みこ なす(読解力・英語力等)能力」、「社会福祉制度(介 護保険制度等)の知識」等、主に知識が不足している と感じていることがわかった。今後あればよいと思う 学び直しプログラムでは、「カウンセリング講座」と 「検査値に関する講座」の希望者が多いことがわかっ た。また、これらの結果を組み合わせ、病院管理栄養 士の希望を重視した、大学で実施するための学び直し プログラムの提案を行った。そのうえで、病院管理 栄養士の希望を重視した学び直しプログラムだけで本 当に個別栄養指導の効果向上につながるのか、属性や 特徴に合った学び直しプログラムがあるのではないか ということについて新たに検討する必要があると考え た。 本研究では、以前実施したアンケート調査の結果を 再解析して、不足していると感じているスキルが多い 人の属性や特徴を見出すとともに、不足していると感 じているスキルおよび今後あればよいと思う学び直し プログラムだけでなく各大学で実施されている学び直 しプログラムも参考にした上で、より効果的に個別栄 養指導の質を向上させることができる、大学で実施す るための学び直しプログラムを検討した。 【方法】 1. 個別栄養指導に必要なスキルと学び直しに関する アンケート調査について 1)対象 個別栄養指導業務を行っている病院勤務の直営管理 栄養士に、研究の主旨、方法、個人情報の保護等に関 する説明を文書にて行い、同意を得られた者を対象と した。なお、本研究は、大阪樟蔭女子大学研究倫理委 員会の承認を受けて遂行された。 2)調査期間 2011 年 10 月 3 日~11 月 15 日 3)調査方法 選択および自記式のアンケートを用いて調査を行っ た。 4)調査内容 調査項目は、①調査対象者の属性と特徴(性別、病 床数、管理栄養士の人数および個別栄養指導担当者数、 勤続年数、個別栄養指導経験年数、個別栄養指導の頻 度、個別栄養指導を行っている件数が多い疾患、個別 栄養指導の満足度、学んだ養成課程、実務経験の有無、 最終学歴、学んだ養成施設の入学年度、管理栄養士国 家試験について、免除科目)、②個別栄養指導に関す るスキルについて(不足していると感じているスキル、 不足を補うために行っていること、不足を補うための 学び直しプログラムの参加について)、③個別栄養指 導の学び直しについて(今後あればよいと思う学び直 しプログラムについて、人数、形式、時間および回数、 金額、大学等の教育機関における学び直しプログラム の参加について、養成施設で学んでおきたかったこと、 利用してみたい学び直しツール)の計25 項目とした。 5)統計処理 調査データは、データ解析ソフトPASW Statistics 18(IBM Japan, Co. Ltd., Tokyo, Japan)を用いて 集計した。二群間の平均値の比較にはt 検定を使用し、 p<0.05 を有意差ありとした。 2. 各大学で実施されている学び直しプログラムにつ いて 1)調査期間 2012 年 11 月 1 日~11 月 8 日 2)調査方法 各大学がまとめたホームページや報告書から調査を 行った。 3)調査内容 調査項目は主催機関、講座名、対象、日程、形式、 時間、人数、金額、内容の9 項目とし、過去 5 年間に
管理栄養士対象の学び直しプログラムを実施している 女子栄養大学、京都女子大学、武庫川女子大学、東京 海洋大学、山口県立大学、天使大学について調査を行っ た。 【結果】 事前承諾を得た21 施設 74 名のうち 61 名分を回収 し、以下の集計に用いた(回収率82.4%)。 1. 対象者の属性と特徴 先行論文に示した通りである6)。 2. 勤続年数、個別栄養指導経験年数でみた不足して いると感じているスキル ≪不足していると感じているスキルの総数比較≫ 結果を図1、図 2 に示す。勤続年数、個別栄養指導 経験年数をそれぞれ5 年未満群と 5 年以上群に群分け し、不足していると感じているスキルの総数を比較し た。その結果、不足していると感じているスキルと勤 続年数において、1 %水準で有意差がみられた。また、 不足していると感じているスキルと個別栄養指導経験 年数においても、5 %水準で有意差がみられた。 ≪不足していると感じているスキルと勤続年数≫ 結果を図3 に示す。不足していると感じているスキ ルを選択した人の割合が5 年未満群より 5 年以上群で 大きく低値を示したものは、「患者に見合った改善計 画を立てること」が5 年未満群と 5 年以上群でそれぞ れ34.4%(11 名)、3.4%(1 名)、「適切な励ましをす ること」が31.3%(10 名)、3.4%(1 名)、「傾聴(患 者の話に誠心誠意、耳を傾ける)すること」が15.6% (5 名)、3.4%(1 名)、「身振り手振りを入れながら話 すこと」が12.5%(4 名)、3.4%(1 名)、「調理法の 知識」が50.0%(16 名)、13.8%(4 名)、「要約(患 者の話の要点を伝え返すこと)をすること」が43.8% (14 名)、13.8%(4 名)、「指導全体の流れを立てるこ と」が34.4%(11 名)、13.8%(4 名)、「聞き取りや すい声の大きさで話すこと」が21.9%(7 名)、10.3% (3 名)、「栄養指導に必要な資料(論文・雑誌等)を 収集する能力」が65.6%(21 名)、31.0%(9 名)、 「患者の意欲の程度に合った指導を行うこと」が34.4% (11 名)、17.2%(5 名)であった。 また、不足していると感じているスキルを選択した 人の割合の差が5 年未満群と 5 年以上群で小さいもの は、「病態に対応する運動療法の知識」が5 年未満群と 5 年以上群でそれぞれ 62.5%(20 名)、58.6%(17 名)、 「必要な資料(論文等)を読みこなす(読解力・英語 力等)能力」が75.0%(24 名)、69.0%(20 名)、「薬 の知識」が90.6%(29 名)、82.8%(24 名)、「表情豊 かに話すこと」が6.3%(2 名)、6.9%(2 名)、「共感 的理解(相手が思っている通りに理解する)をするこ と」が15.6%(5 名)、17.2%(5 名)であった。 ≪不足していると感じているスキルと個別栄養指導経 験年数≫ 結果を図4 に示す。不足していると感じているスキ ルを選択した人の割合が5 年未満群より 5 年以上群で 大きく低値を示したものは、「患者に見合った改善計 画を立てること」が5 年未満群と 5 年以上群でそれぞ れ33.3%(11 名)、3.6%(1 名)、「適切な励ましをす ること」が30.3%(10 名)、3.6%(1 名)、「傾聴(患 者の話に誠心誠意、耳を傾ける)すること」が15.2% (5 名)、3.6%(1 名)、「患者の問題点を共に理解する 図1. 勤続年数でみた不足していると感じている スキル総数 **p<0.01 図2. 個別栄養指導経験年数でみた不足していると 感じているスキル総数 *p<0.05
こと」が15.2%(5 名)、3.6%(1 名)、「身振り手振 りを入れながら話すこと」 が12.1% (4 名)、 3.6% (1 名)、「調理法の知識」が48.5%(16 名)、14.3%(4 名)、 「要約(患者の話の要点を伝え返すこと)をすること」 が39.4%(13 名)、17.9%(5 名)、「患者の自らの課 題に気づけるように言葉がけを行うこと」が60.6% (20 名)、28.6%(8 名)、「適切な教育媒体(フードモ デル等)を使用すること」が45.5%(15 名)、21.4% (6 名)、「食品成分の知識」が 51.5%(17 名)、25.0% (7 名)であった。 また、不足していると感じているスキルを選択した 人の割合の差が5 年未満群と 5 年以上群で小さいもの は、「薬の知識」が5 年未満群と 5 年以上群でそれぞ れ87.9%(29 名)、85.7%(24 名)、「必要な資料(論 文等)を読みこなす(読解力・英語力等)能力」が 72.7%(24 名)、71.4%(20 名)、「患者の意欲の程度 を見極めること」が24.2%(8 名)、25.0%(7 名)、 「人体の構造と機能の知識」が39.4%(13 名)、42.9% 図3. 不足していると感じているスキルと勤続年数
(12 名)、「病態に対応する運動療法の知識」が 63.6% (21 名)、57.1%(16 名)であった。 3. 各大学で実施されている学び直しプログラム 2012 年 10 月末日までの過去 5 年間で、各大学で実 施されている管理栄養士対象の学び直しプログラムを 表1 1、表 1 2 に示す7~14)。 女子栄養大学栄養クリニックでは、「外来栄養相談 実践講座」や「ゼロから学ぶ食育・栄養教育」が行われ ている。「外来栄養相談実践講座」では、栄養士・管理 栄養士、看護師を対象に、検査値の読み方・考え方、 治療薬、カウンセリング、各種病態とその指導方法等 についての講座を行っている。「ゼロから学ぶ食育・ 栄養教育」では、食育・栄養教育に従事する専門職者、 食・健康関連企業勤務者を対象に、食育・栄養教育に 必要な基礎知識等についての講座を行っている。それ ぞれ1 回あたり講義、実習およびディスカッションが 各1 時間であり、 12 回構成で行われている。 1 回 図4. 不足していると感じているスキルと個別栄養指導経験年数
10,000 円で、テキスト代・資料代は別途必要である。 京都女子大学栄養クリニックでは、「研究会」 や 「卒業生のための生涯学習」、「栄養相談実践講座」が 行われている。「研究会」では、管理栄養士、調理師 等の専門職者が対象で、講義や調理実習等で業務に役 立つ最新の情報や技術を紹介している。講義は100 円、 実習を含むと1,000 円である。「卒業生のための生涯 学習」では、京都女子大学卒業生を対象とした学習会 で、講義だけでなく、日頃の疑問や悩み等を相談し合 える場を設けており、1 回 2~3 時間で年に 2~3 回、 定員30 名で行われている。講義のみ 100 円である。 「栄養相談実践講座」では、栄養相談業務担当者を対 象に、研究会や講座等を行い、栄養相談や食生活指導 の業務を支援する。参加費は、京都女子大学卒業生は 5,000 円、その他の社会人は 10,000 円である。 武庫川女子大学では、「Dr. 雨海の臨床栄養ブラッ シュアップセミナー」、「臨床栄養論文のための基礎栄 養学」が現場で活躍している管理栄養士を対象に行わ れている。「Dr. 雨海の臨床栄養ブラッシュアップセ ミナー」では、受講生からの要望に合わせた内容を自 由討議形式で行われている。1 回 2.5 時間の全 4 回を 1 クールとし、前期と後期の年 2 クール行われている。 定員は20 名、参加費は 1 クールで 20,000 円である。 「臨床栄養論文のための基礎栄養学」では、解剖生理 学、栄養生化学、感染免疫学、食品栄養学専門の教授 が講義を行う。1 回 2 時間の全 4 回を 1 クールとし、 定員は20 名、参加費は 1 クールで 15,000 円である。 東京海洋大学では、「食・健康関連職従事者向けス キルアップセミナー スポーツ栄養学の基礎知識と指 導時における実践的な運動法」が2010 年に行われて いた。食・健康関連職従事者(栄養士・管理栄養士等) が対象で、講義や体験学習により生活習慣病やスポー ツ栄養学、指導現場で使える実践的運動法について学 ぶ。1 回 6 時間、定員は 100 名、参加費は 1,000 円で ある。 山口県立大学では、「生活習慣の改善を促す効果的 支援方法」が2010~2011 年に行われていた。現在、 特定保健指導・その他の栄養指導に携わっている、も しくは、今後携わる予定のある栄養士・管理栄養士が 対象で、1 クールが講義とグループディスカッション (1 日間、1 日あたり 4.5 時間)、実習(5 日間、1 日あ たり4 時間)、演習(2 日間、1 日あたり 2 時間)の 8 日間で望ましい生活習慣を定着させるための効果的な 支援方法を学ぶ。これは年1 クール行われており、定 員は10 名、参加費は 1 クールで 10,000 円である。 天使大学では、「メタボリックシンドローム予防の ための健康栄養指導スキルアップ実習プログラム」が 2008~2010 年に行われていた。栄養士会による講習 会を受講済みの現職の栄養士・管理栄養士が対象で、 講義、実習、演習、グループワーク、ロールプレイ、 総合討議を約5 日間(1 日あたり 8 時間)、1 クールと して行うことで、体系的・効果的な健康栄養指導に必 要な実践的能力を修得することを目的としている。こ れは年1 クール行われており、定員は 10 名、参加費 は1 クールで 15,000 円である。 【考察】 1. 勤続年数、個別栄養指導経験年数でみた不足して いると感じているスキルについて 不足していると感じているスキルの総数は、勤続年 数、個別栄養指導経験年数をそれぞれ5 年未満群と 5 年以上群に群分けした場合、5 年以上群で有意に低値 を示した。つまり、勤続年数、個別栄養指導経験年数 が5 年を過ぎると、自身の個別栄養指導における不安 要素が減少することが考えられる。 不足していると感じているスキルの中で、5 年未満 群に比べ5 年以上群の方が大きく低値を示したスキル は、主にカウンセリングや栄養教育に関するものであっ た。つまり、これらは個別栄養指導を経験することで 不足を補いやすいスキルであると考えられる。一方、 いくつかの知識に関する項目において、両群間に差が 認められないものがあった。これらは、養成施設では 学ばないまたは詳しく学ばない、学んだが忘れている、 新しい情報を理解できているか不安、科学英語に自信 がない等、個別栄養指導を経験するだけでは補いにく いスキルであると考えられる。このことから、複数年 の個別栄養指導経験を短期間プログラムで代替でき、 かつ、日頃補いきれない知識を充実させることができ るような学び直しプログラムの構築が必要であると考 えられる。 また、不足していると感じているスキルは主観的判 断であるので、自分自身で不足していることに気付い ていない場合もあることが考えられる。このことから、 他者からの評価を得ることができるような内容を組み 込むことが必要であり、そうすることで、自分自身で は不足に気付いていないスキルも補うことができると 考えられる。 2. 各大学で実施されている学び直しプログラムにつ いて
表 1 1. 各 大 学 で 実 施 さ れ て い る 学 び 直 し プ ロ グ ラ ム
表 1 2. 各 大 学 で 実 施 さ れ て い る 学 び 直 し プ ロ グ ラ ム
病院管理栄養士が不足していると感じているスキル または今後あればよいと思う学び直しプログラム6) と、過去5 年間に各大学で実施されている学び直しプ ログラムとを比較検討した。過去5 年間に各大学で実 施されている学び直しプログラムとしては、臨床栄養 学系の内容が中心であり、今後あればよいと思う学び 直しプログラムの内容6)と一致していた。しかし、 実際不足しているのは薬や社会福祉制度の知識、必要 な資料を読みこなす能力等であり、必ずしも不足を補 える内容にはなっていない。これは、主催機関が事前 調査を行わずに学び直しプログラムを作成しているこ とや、希望する内容のみの調査に基づいたプログラム 作成を行っている可能性が考えられる。不足している と感じているスキルを補わなければ、十分な個別栄養 指導の効果が得られないと予想されるため、不足して いると感じているスキルを補うことができる学び直し プログラムを実施することも重要であると考えられる。 次に、過去5 年間に実施されている大学での学び直 しプログラムの日程、形式等の各項目を挙げ、比較検 討した7~14)。 開催日については、基本的に土曜日や祝日の昼が中 心であったが、平日の夜に行っている講座もあった。 講義やグループディスカッション等、短時間であれば 平日の夜に行うことが可能である。夜に講座を実施す ることにより、勤務後に参加でき、学び直しの機会が 増えることが考えられる。 学び直しの内容や形式としては、生活習慣病につい ての講座(講義形式)が多かった。生活習慣病が増加 してきていることや個別栄養指導で取り扱うことが多 い等の理由から需要が高く、それを受けて講座数も多 くなっていると考えられる。また、講義形式は主催者 側の負担が少ないので最も実施しやすいと考えられる。 他方、 今後あればよいと思う学び直しプログラム6) の上位であったカウンセリングや検査値に関する講座 (演習形式)は少なかった。カウンセリングや検査値 に関する講座は単発で解説するのは難しく、病態に関 連付けて複数回に渡って行う方が理解しやすいため、 講座数が少なくなっていると考えられる。また、演習 形式は手間がかかるため、主催者側の負担が大きいこ とも一因であると考えられる。したがって、学習内容 に応じて講義形式と演習形式を組み合わせることによ り、効率よく技術や知識を習得できると考えられる。 人数については、講義中心の講座は多人数での実施 であるのに対し、演習中心の講座は少人数での実施で あった。講義中心の講座は主に知識伝達を目的とした 一斉学習であるため、多人数での学習が可能であると 考えられる。演習中心の講座は手間がかかり、多人数 で行うと講師の指導が十分に行き届かず、指導効果が 得にくいため、少人数での学習となっていると考えら れる。 講座の金額については、 講義のみの講座は100~ 15,000 円であった。武庫川女子大学の「臨床栄養論 文のための基礎栄養学」は全4 回の講義で 15,000 円 であり、1 回あたりの金額を考えると約 3,700 円であ る。これを考慮すると講義1 回あたりの金額は 5,000 円 を超えないことがわかる。また、講義と実習やグルー プワークを行っている講座は1,000~20,000 円であり、 多くは10,000 円を超える。金額の設定は一見高いよ うに思えるが、社会人を対象としているため、あまり 安価な設定にすると内容も薄いと思われてしまい集客 できない可能性がある。また、都市部で実施した場合 の場所代や講師料等の関係もあると考えられる。 3. 学び直しプログラムの提案 以前実施したアンケート調査から得られた結果6) と、過去5 年間に各大学で実施されている学び直しプ ログラムを参考に、個別栄養指導の効果を向上させる ことができる学び直しプログラムを提案する(表2、 表3)。 1)学び直しプログラム A(実践コース) 本プログラムは、勤続年数あるいは個別栄養指導経 験年数が5 年に満たない比較的経験の浅い病院管理栄 養士を対象とし、他の病院管理栄養士や患者側からの 意見を取り入れることで、短期間で効率的に技術や知 識が充実できるように考慮して作成した。内容の構成 は、今後あればよいと思う学び直しプログラムや各大 学で実施されている学び直しプログラムを参考にし、 講義・症例検討3 時間(1 日間)、体験型実習 4 時間 (3 日間)行うこととした。1 日目は病態の概要、食事 療法、薬等その病態の患者の個別栄養指導を行うため に必要な知識についての講義後、グループ討議によっ て症例検討を行う。2~4 日目は、1 日目に講義・症例 検討を行った病態の患者に来てもらい、合計3 回の模 擬栄養指導を実践する。参加者はペアになり、1 人が 模擬栄養指導を行っているところをもう1 人が見学し、 指導後30 分ほど模擬栄養指導についての評価を行う。 その後指導者と見学者が入れ替わり、同様のことを行 う。患者には終了後、アンケートによる評価を行って もらう。これまでを1 クールとし、他の病態について
も同様のことを行う。病態は個別栄養指導を行ってい る件数が多い疾患の上位3 つである「糖尿病」、「高血 圧症」、「腎臓病」について行う。このプログラムは半 日かけて行う内容であるので、長時間を確保しやすい 土曜日あるいは日曜日に設定した。人数、参加費につ いては、各大学で実施されている学び直しプログラム や昨年度実施したアンケート調査の結果を参考にし、 それぞれ10 名程度、1 クール(4 日間)で 10,000 円 に設定した。 2)学び直しプログラム B(講義コース) 本プログラムは、全年代の病院管理栄養士を対象と し、多くの人が不足していると感じているスキルのう ち、経験では補いにくい知識の不足を解消できるよう な内容とした。また、勤務後に気軽に参加してもらえ るよう平日の夜に設定し、基本的に講義を2 時間で、 場合によりディスカッションや体験型実習等を行うこ ととする。人数、参加費については、各大学で実施さ れている学び直しプログラムや以前実施したアンケー ト調査の結果を参考にし、それぞれ30 名程度、2,000 円 に設定した。 これまで我々は、アンケートの結果を組み合わせ、 病院管理栄養士の希望を重視した学び直しプログラム を提案してきた6)。しかし、希望重視の学び直しプロ グラムだけで本当に個別栄養指導の効果向上につなが るのか、属性や特徴に合った学び直しプログラムがあ るのではないかと考え、本研究では病院管理栄養士の 希望だけでなく不足していると感じているスキルや対 象者を考慮し、より効果的に個別栄養指導の質を向上 させることができる、大学で実施するための学び直し プログラムを新たに提案した。 学び直しプログラムA(実践コース)を実施する ことで、複数年の個別栄養指導経験を代替できるだけ でなく、他の病院管理栄養士や患者側の意見も取り入 れるので、自分自身では不足に気付いていないスキル を知ることができ、短期間で効率的に技術や知識の充 実が期待できる。また、学び直しプログラムB(講義 コース)を実施することで、日頃補いきれない知識の 充実が期待できる。 今後はまず、比較的実施しやすいと考えられる学び 直しプログラムB(講義コース)の開催に向けて動き 出したいと考えている。これらのプログラムから一定 の成果を得るためには、継続的な実施が必要である。 そのためには場所や時間の確保、広報活動等の事務的 な業務も行わなければならないが、プログラムを継続 的に実施する場合、大学教職員の負担が大きくなるこ とが予想される。これを解消する方法の1 つに、大学 内にプログラム運営を一括して担当する栄養クリニッ ク等の機関を設ける方法がある。栄養クリニックは、 女子栄養大学、京都女子大学等には既に開設されてお り7~9)、主として地域の方を対象とした栄養教育を行 う機関として位置づけられている。栄養クリニックで 学び直しプログラムを実施すると、大学教職員の負担 が軽減できるため、継続的に学び直しプログラムを実 施することができ、これにより学び直しの機会も増え、 病院管理栄養士のスキルアップにつながると考えられ る。さらに、栄養クリニックと地域の無床診療所とが 連携し、個別栄養指導を引き受けるようになれば、地 域の健康増進はもとより、学生が実際の個別栄養指導 表2. 学び直しプログラム A(実践コース) 表3. 学び直しプログラム B(講義コース)
を見学することによる職業観の醸成や将来の目標の明 確化につながる。また、大学院生が患者のデータを使 用した研究を実施することが可能となる。さらに、学 び直しプログラムA(実践コース)に協力してもら える患者を募ることが容易になる。つまり、栄養クリ ニックを設立し、継続的に学び直しプログラムを実施 することで、管理栄養士のスキルアップだけでなく学 生のモチベーションをも上げることができ、地域の健 康増進にもつながり、研究によりさらに個別栄養指導 の質が向上するため、栄養クリニック専任職員の雇用 コストを差し引いても、十分に有益であることが考え られる。今後は、栄養クリニックの設立も視野に入れ、 学び直しプログラムの実施に向けて検討していく必要 がある。 【謝辞】 本研究を行うにあたり、ご指導・ご教授いただいた 京都橘大学健康科学部 永野光朗教授、大阪樟蔭女子 大学栄養教育研究室 鈴木朋子准教授、応用栄養学研 究室 桒原晶子講師に深謝いたします。また、貴重な 時間を割いてアンケート調査にご協力いただいた病院 管理栄養士の先生方に深謝いたします。 【参考文献】 1 . 厚生労働省 HP:平成 22 年人口動態統計 第 6 表 性別にみた死因順位(第10 位まで)別死因数、 死亡率(人口10 万対)・構成割合, http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ jinkou/kakutei10/dl/10_h6.pdf,(2013 年 1 月 9 日). 2 . 厚生労働省 HP:平成 22 年人口動態 第 7 表 死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率(人口 10 万対), http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ jinkou/kakutei10/dl/11_h7.pdf,(2013 年1月9日). 3 . 春木敏:エッセンシャル栄養教育論 第 2 版(2011), 医歯薬出版株式会社. 4 . 池田小夜子,斎藤トシ子,川野因:栄養教育論 (2011),第一出版. 5 . 川田智恵子,村上淳:栄養教育論 第 2 版(2011), 化学同人. 6 . 井尻吉信, 西條千知, 岸田尚子,土井正子,豊田 智子,山岡美和:個別栄養指導に必要なスキルと 学び直しに関する調査研究,大阪樟蔭女子大学研 究紀要, 4:195 206(2014). 7 . 女子栄養大学栄養クリニック HP:栄養士・管理 栄養士向け講座, http://www.eiyo.ac.jp/fuzoku/clinic/index.html, (2013 年 1 月 9 日). 8 . 京都女子大学 HP:栄養クリニック, http://www.kyoto-wu.ac.jp/daigaku/kyoiku/ eiyouclinic/index.html,(2013 年 1 月 9 日). 9 . 田中清:京都女子大学栄養クリニック活動報告書 (2012),京都女子大学栄養クリニック. 10. 武庫川女子大学 HP:イベント・公開講座, http://www.dignet.jp/~koho_r11/topics_events_ 10.htm,(2013 年 1 月 9 日). 11. RD SUPPORT HP:1 回 食・健康関連職従事 者向けスキルアップセミナー「特定健診・保健指 導に求められる特定保健用食品の知識」, http://www.rdsupport.co.jp/skillup/knowledge/, (2013 年 1 月 9 日). 12. 山口県立大学 HP:過去のキャリアアップ研修, http://www.yamaguchi-pu.ac.jp/region/kougi /careerup_2011.html,(2013 年 1 月 9 日). 13. 天使大学 HP:メタボリックシンドローム予防の ための健康栄養指導スキルアップ実習プログラム, http://www.tenshi.ac.jp/relearn/metabolic/ index_m.html,(2013 年 1 月 9 日). 14. 天使大学:2010 年度社会人学び直しニーズ対応 教育推進事業報告書 メタボリックシンドローム 予防のための健康栄養指導スキルアップ実習プロ グラム(2011),天使大学.