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高成長から深刻な不況に直面するラトビア経済 (特集 リーマンショック後の世界的景気後退と開発途上国の政策対応)

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Academic year: 2021

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(1)

高成長から深刻な不況に直面するラトビア経済 (特

集 リーマンショック後の世界的景気後退と開発途

上国の政策対応)

著者

井上 武

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

189

ページ

32-35

発行年

2011-06

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004224

(2)

スロバキア、 国 家 目 標 を 達 成 し た。 に 高 い 成 長 過 程 に 入 う に な っ た。 し か し、 大半がマイナス成長に転じ、特に ラトビアは深刻な経済停滞に陥っ ている。そこで、本稿ではEU新 規加盟の中・東欧諸国のなかでも 大幅な調整過程にあるラトビアに 焦点をあて、二〇〇〇年以降の高 成長から危機的な経済状況に至る プ ロ セ ス に つ い て、 マ ク ロ 経 済、 そして特に銀行部門の動向に注目 して検証する。

 二

  初めに、ラトビアのマクロ経済 動向について簡単に概観する。ラ トビアを含む中 ・ 東欧一〇カ国は、 二〇〇〇年以降、一様に高い経済 成長を実現した。二〇〇〇年から 二〇〇七年までの実質GDP成長 率は平均五・八%であり、なかで もラトビアはこの間八・八%とい う域内諸国で最も高い成長率を達 成した。しかし、二〇〇八年以降 は振り子が反対に揺れたかのよう に、ラトビア経済はより深刻なマ イナス成長に直面している。二〇 〇八年にGDP成長率がマイナス になったのはエストニアとラトビ アの二カ国だけであったが、二〇 〇九年に入ると、ポーランドを除 くすべての中・東欧諸国がマイナ ス成長に転じており、特にラトビ ア は 二 〇 〇 八 年 に マ イ ナ ス 四・ 二%、そして二〇〇九年にはマイ ナス一八・〇%という大幅なマイ ナ ス 成 長 を 記 録 す る こ と に な っ た。   ラトビアの実質GDP成長率を 四半期毎に見ると、二〇〇〇年以 降、 前年同期比で プラス成長を持 続し、二〇〇五年から二〇〇七年 にかけては一〇%台の二桁成長と なった。しかし、この時期をピー クに成長は失速し、二〇〇八年第 2四半期にマイナス二・四%とな り、二〇〇九年第 3四半期にはマ イナス一九・五%という最も深刻 な状況になった。   ラトビアの実質GDPを支出項 目ごとに分類すると、民間消費と 投資が経済成長の動向に大きな役 割 を 果 た し て い た こ と が 分 か る。 民間消費は家計部門の銀行貸付へ のアクセスが改善されたことを背 景に大幅に増加し、投資は国内貯 蓄というよりも外国からの資本流 入 に 支 え ら れ て 増 加 し た( MOF [2008: 6-7] )。 民 間 消 費 と 投 資 は いずれも二〇〇七年まではほぼ一 貫して増加傾向にあったが、民間 消 費 は 二 〇 〇 八 年 の 第 2四 半 期、 そして投資は二〇〇八年の第 1四 半期から前年同期比で減少し始め た。その背景として、民間消費の 減少は新規の銀行貸付の減少、高 いインフレ率、そして消費マイン ドの冷え込みが影響し、投資の減 少は銀行貸付のコスト上昇、楽観 的な業況判断の減退、そして特に 二〇〇八年の第 3四半期以降は国 際金融市場での資本アクセスが困 難 に な っ た こ と が 影 響 し た ( ibid.: 4 )   つぎに、ラトビア経済を対外的 な 側 面 か ら 検 証 し よ う。 初 め に、 経常収支については二〇〇〇年以 降、赤字基調が続き、特に二〇〇

 

(3)

五年頃から二〇〇七年にかけては 赤字額が急速に増加した。経常収 支赤字の主な要因は貿易赤字の拡 大にあった。輸出を上回る輸入の 増加が続いたため、貿易収支は常 に赤字となり、特に二〇〇〇年以 降、 赤 字 額 は 拡 大 傾 向 に あ っ た。 し か し、 二 〇 〇 八 年 下 半 期 以 降、 輸入が輸出以上に大きく減少した ことから、貿易収支の赤字額は大 幅な縮小を示しており、これによ り二〇〇九年の経常収支は黒字化 している。二〇〇七年までの経常 収支赤字は資本収支のなかでも投 資収支の「その他投資」によって 主にファイナンスされ、特に銀行 部門の受取超が最も大きくなって い た。 し か し、 二 〇 〇 八 年 以 降、 資本収支は赤字になり、投資収支 におけるその他投資、とりわけ銀 行部門の支払超が大きくなってい る。   以上のように、ラトビア経済は 二〇〇七年を境に高成長から大幅 なマイナス成長に転じた。高い経 済成長を支えた民間消費と投資は 幾つかの要因から減退したが、共 通の要因として銀行貸付の減少が 挙げられる。 また、 対外面からラト ビア経済を見ると、高成長期の経 常収支赤字は主に銀行部門への貸 付を通じてファイナンスされてい たが、ラトビアが不況に入るのと 時期を同じくして外国資本の流れ は反転し、そこでも銀行部門を経 由していたことが分かる。 そこで、 以下ではラトビアにおける銀行部 門の特徴について検証する。

●銀行部門の構造

  初めに、銀行部門の構造につい て見てみよう。 ラトビアの商業銀 行は一九九〇年代前半に大幅に増 加し一九九〇年の六行からピーク 時の一九九三年には六一行まで増 加した。その後、一九九五年の銀 行危機を経て銀行数は減少し、一 九九〇年代末から二〇〇五年にか けては二二、二三行で安定的に推 移していたが、ここ数年は外国銀 行が支店形態での進出を拡大する 傾向にあり、二〇一〇年時点で三 〇行となっている。   国内上位五行の銀行総資産に占 める割合を計算すると、二〇〇五 年から二〇〇九年までの平均値は 六 八・ 六 % に な る。 こ の 数 値 は、 エストニア(九五・八%)やリト アニア(八一・二%)よりは低い ものの、中・東欧の平均水準(六 四・七%)を上回っており、ラト ビアでは大規模銀行への集中化が 相対的に進んでいるものと考えら れる。   また、外国銀行の国内銀行総資 産に占める割合を計算すると、ラ トビアでは二〇〇五年から二〇〇 九年にかけて六七・九%となって おり、中 ・ 東欧の平均水準(七五 ・ 三 %) を 下 回 っ て い る こ と が 分 か る。中・東欧諸国の多くは市場経 済への移行を開始した一九九〇年 代初頭以降、国営だった銀行部門 を民営化する際、様々な形で銀行 部門を外国資本に売却し、その結 果、この地域では全体的に外国銀 行の市場占有率が高くなった。ラ トビアでは外国銀行が国内銀行総 資 産 の 七 割 近 く を 占 め て い る が、 他の中・東欧諸国と比べると、地 場 銀 行 が 比 較 的 高 い シ ェ ア を 保 有 し て い る こ と に な る 。   最後に、表 1では 二〇一〇年時 点の国内銀行総資産に占める割合 に基づき、ラトビアの国内上位五 行を挙げている。 この表から、主 要 五 行 の う ち、 四 行 ま で は ス ウェーデン、ノルウェー、フィン ランドなどの北欧諸国に拠点を置 く銀行グループによって保有され ていることが分かる。

●銀行部門の貸付・預金動向

  つぎに、銀行部門の貸付・預金 動 向 の 特 徴 に つ い て 検 証 し よ う。 ラトビアの銀行部門の貸付・預金 残高は、それぞれ図 1と図 2のと おりであり、いずれも二〇〇〇年 代中葉に顕著に増加した後、貸付 残高は二〇〇八年一一月、そして 預金残高は同年九月から減少する 表1 ラトビアの主要銀行(2010年6月末時点) 主要銀行 市場シェア(%) 戦略的投資家(本国) Swedbank 21.1 Swedbank(スウェーデン)

SEB Banka 14.2 SEB(スウェーデン)

Nordea Bank Finland’s Latvian Branch 10.0 Nordea Bank Finland(フィンランド)

DnB Nord Banka 8.9 DnB Nord Banka(ノルウェー)

Aizkraukles Banka 5.7 ―

(出所)Association Latvian Commercial Banksのウェブサイト(http://www.bankasoc.lv/)及び各行のウェブサイトに基づき作成。 (注)表中の‘―’は該当する内容がないことを示している。

(4)

通貨別に分類すると、 欧 諸 国 の な か で は、 なかでも、 た め の 借 り 入 れ が 約 八 割 を 占 め、 最も大きな借り入れ項目になって いる。   一方、図 4は、預金残高を預金 者ごとに分類しており、非居住者 の割合が最も高くなっていること が分かる。非居住者をさらに金融 機関と非金融機関に分けると、金 融機関からの預金が二〇〇六年初 頭に非金融機関からの預金を初め て上回り、それ以降、金融機関か らの預金は二〇〇八年一〇月まで 急速に増加した後、減少に転じて いる。   以上の銀行部門の貸付・預金動 向は、実体経済の変化を如実に反 映 し て い る。 銀 行 貸 付 は 民 間 の 非 金 融 会 社 と と も に、 家 計 部 門 に 対 し て 増 加 し た。 家 計 部 門 に 対 し て は 特 に 住 宅 購 入 向 け 貸 付 が 顕 著 に 増 加 し、 不 動 産 価 格 を 始 め と す る 資 産 価 格 の 上 昇 を 招 い た。 二 〇 〇 〇 年 代 中 葉 ま で は、 銀 行 貸 付 は 民 間 消 費 や 投 資 の 拡 大 を 後 押 し し、 ラ ト ビ ア の 高 成 長 を 促 進 す る う え で 重 要 な 役 割 を 果 た し た。 し か し、 そ の 後、 景 気 過 熱 や 高 イ ン フ レ な ど を 背 景 に、 経 済 の 先 行 き が 不 透 明 に な る と、 商 業 銀 行 に よ る 家 計 部 門 や 民 間 非 金 融 会 社 に 対 す る 新 規 貸 付 は 減 少 し、 二 〇 〇 八 年 一 一 月 以 降 は 残 高 ベ ー ス で も 銀 行 貸 付 は 減 少 に 転 じ る こ と に な っ た。 ま た、 この時期、 ラ ト ビ ア の 銀 行 部 門 は 貸 付 の ソ ー ス で あ る 預 金 の 減 少 に も 直 面 し て い た が、 こ れ 2010年7月 2009年7月 2008年7月 2007年7月 2006年7月 2005年7月 2004年7月 2003年7月 外貨建て 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0

(出所)The Bank of Latviaのウェブサイト(http://www.bank.lv/)のデー タに基づき作成。 2010年7月 2009年7月 2008年7月 2007年7月 2006年7月 2005年7月 2004年7月 2003年7月 国内通貨建て 外貨建て (100万ラッツ) 20000 18000 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 図2 銀行預金残高の推移 (出所)図1と同じ。 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 2003年7月2004年7月 2005年7月 2006年7月 2007年7月 2008年7月 2009年7月 2010年7月 その他金融機関 公的非金融会社 民間非金融会社 家計 非居住者 (100万ラッツ) 図3 銀行貸付残高の内訳 (出所)図1と同じ。 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 2003年7月2004年7月 2005年7月 2006年7月 2007年7月 2008年7月 2009年7月 2010年7月 民間非金融会社 家計 政府 非居住者 (100万ラッツ) (出所)図1と同じ。 図4 銀行預金残高の内訳

(5)

は主に外国の金融機関からの預金 の減少によるものであった。こう した一連の過程で、高成長を支え た民間消費と投資は減退し、さら に「リーマン・ショック」による 国際的な経済環境の悪化が重なっ て、ラトビア経済は深刻な調整過 程に直面することになったと考え られる。

●おわりに

  ラトビアの政策当局は、二〇〇 八年以降、高成長から大幅なマイ ナス成長という急激な経済変動に 直面し、厳しい政策対応を迫られ てきた。ラトビアは、固定為替制 度、正確には、ユーロに対して固 定水準から上下一・〇%の変動幅 を持つ固定為替制度を採用してい る。また、資本移動の自由化も進 められており、 その結果 、独自に裁 量的な金融政策を行う余地は大き く制限されている。このような場 合、一般的にはマクロ経済のコン トロールは主に財政政策に委ねら れることになるが、ラトビアは二 〇〇八年以降、財政面でも収入の 大幅な減少という制約を受けるこ とになった。一九九五年から二〇 〇七年までの間、ラトビアの財政 赤 字 は 対 G D P 比 で、 平 均 一 ・ 二 % 程度で推移していた。しかし、二 〇〇七年以降、財政赤字は対GD P比で大幅に拡大しており、二〇 〇 八 年 に は マ イ ナ ス 四 ・ 一 %、 そ し て 二 〇 〇 九 年 に は マ イ ナ ス 一 〇・五%となっている。こうした 財政赤字の拡大は、支出を上回る 収 入 の 大 幅 な 減 少 に よ り 発 生 し た 。   このように、国家財政がひっ迫 するなか、ラトビア政府は二〇〇 八年の年末にEUと国際通貨基金 ( I M F ) に 対 し て 金 融 支 援 を 要 請し、両機関からの支援は二〇〇 九年から実施されている。 しかし、 程度の差はあるものの、EUとI MFは金融支援の前提として、財 政赤字を大幅に削減し、財政再建 を図ることを求めている。このた め、ラトビアは公務員給与や年金 の削減を行い、不況のなかで財政 再建に取り組んでいる。   ラトビア経済は、直近の二〇一 〇年第 3・ 4四半期の実質成長率 が 前 年 同 期 比 で プ ラ ス に な る な ど、一時期の深刻な状況には歯止 めがかかりつつある。引き続き国 際的な金融支援を受けつつ、財政 再建を始めとする経済の構造改革 を進め、国際競争力を回復するこ と、そして再び有望な成長市場と して外国から資本や投資を引き付 けることがラトビアにとって現状 を克服し、成長過程に回帰するう えで重要な課題になるものと考え られる。 ( い の う え   た け し / ア ジ ア 経 済 研 究所   地域研究センター) 《参考文献》 ① 石 原 尚 子[ 二 〇 〇 九 ]「 景 気 悪 化に伴い通貨切り下げ圧力が強 まるラトビアの現状と近隣中東 欧諸国への波及の可能性」三菱 東京UFJ銀行 『経済レビュー』 No.2009-15 、七月。 ② 竹中正治 ・ 西村陽造[二〇〇八] 「 中 東 欧 に 忍 び 寄 る 金 融・ 通 貨 危機のリスク〜膨張した経常収 支赤字の調整が不可避となる時 〜」 ( 財 ) 国 際 通 貨 研 究 所『 国 際経済金融論考』 、四月。 ③ 西 村 陽 造[ 二 〇 〇 八 ]「 グ ロ ー バルな金融危機は中東欧に本格 波及するか?〜鍵を握る中東欧 に累増されたリスクと西欧の金 融 危 機 の 深 刻 度 〜」 ( 財 ) 国 際 通 貨 研 究 所『 国 際 経 済 金 融 論 考』 、一一月。 ④ Alvarez-Plata, P. and H. Engerer [2 00 9]

Th e B alt ic Sta te s: N o End to the Crisis in Sight

DIW B er lin W ee kl y R ep or t, vo l. 5(20), Nov ember . ⑤ Eu ro pe an C en tra l B an k (E CB ) [2 00 8] EU B an kin g S tru ctu re s, O cto be r, Fr an kf ur t a m M ain : ECB. ⑥ Eu ro pe an C en tra l B an k [ 20 10 ] EU Ba nk in g S tru ctu res , S ep tem be r,

Frankfurt am Main: ECB.

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高成長から深刻な不況に直面するラトビア経済

参照

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